世界/日本のビジネス・アーカイブズ

過去は忘却すべきか?それとも歴史は重要か? 組織の過去の戦略価値について、学術的観点を検討する

過去は忘却すべきか?それとも歴史は重要か? 組織の過去の戦略価値について、学術的観点を検討する

ポール・C・ラーサウィッツ
公益財団法人渋沢栄一記念財団 情報資源センター(訳・解題)

2017年7月25日発行
[PDF版 (683.8KB)]


Forget the Past? Or History Matters? Selected Academic Perspectives on the Strategic Value of Organizational Pasts

Paul C. Lasewicz
Translated and annotated by the Information Resources Center,
Shibusawa Eiichi Memorial Foundation


<目次>

【許諾について】
【解題】
【凡例】
【著者について】
【要約】
【キーワード】
【本文】
経営のための言葉を探し求めて
歴史は重要か?経路依存
歴史的転換:批判者たち
歴史/遺産の二項対立
遺産と組織改革
遺産とコーポレート・アイデンティティ・ミックス
企業アーカイブズのための教訓とさらにその先
[注]
【訳者注】
【原論文引用のための書誌情報】


【許諾について】

"Forget the Past? Or History Matters? Selected Academic Perspectives on the Strategic Value of Organizational Pasts" by Paul C. Lasewicz was originally published in The American Archivist Vol. 78, No. 1 (Spring/Summer 2015). Permission to translate and publish this article in Japanese was granted by the Society of American Archivists, www.archivists.org.


【解題】

 本稿はアメリカ・アーキビスト協会会誌 The American Archivist 誌第78巻第1号(2015年春夏号)に掲載されたPaul C. Lasewiczによる "Forget the Past? Or History Matters? Selected Academic Perspectives on the Strategic Value of Organizational Pasts" doi: http://dx.doi.org/10.17723/0360-9081.78.1.59 の日本語訳です。

 著者は本稿で次のような論を展開しています。利益を得ないかぎり存在を続けることができない営利企業におけるアーカイブズは、政府や自治体や大学におけるアーカイブズとは異なり、予算レベル、あるいはアーカイブズとしての存在自体が、企業業績そのものに大きく左右されます。アーカイブズが企業の競争優位性の創出に貢献し、企業業績の向上=企業価値の向上に寄与するならば、その存在は認められるわけです。競争優位性の創出に貢献するとは、本稿著者によると、「戦略的」であるということです。しかし、これを計量的に示すことは、残念ながら実現していません。
 多くの企業アーカイブズ関係者、アーキビストは、「アーカイブズは企業価値向上に貢献する」と考えていてもこれを証明することはできていない。それではどうしたらよいのか?
 著者はここで、アーカイブズ業界の文献の中にその手がかりを探しても無駄である、経営者がどういうことを考えているのか、どういう言葉で語っているのかに目を向けるように、と示唆します。そして経営者の言葉で語ることのできる二つのグループ(ビジネスマンと経営学者)のうち、経営学者の手による学術文献には、企業の歴史に関するさまざまな事実や考え方が含まれているとして、広範囲にわたる文献を検討しています。そして企業の過去と、現在の企業経営に関する研究において、二つの学派を特定します。一つは「経路依存(path dependence)派」であり、もう一つは「経路依存」派に反対する「批判者たち」です。著者は、「批判者たち」は「経路依存派」のような共通項を持ってはいないと指摘しつつも、「経路依存派」に反対する人々であるという点でひとつのまとまりとしてとらえ、考察を進めていきます。
 「経路依存」の考え方は本文にもあるように、1980年代に経済学の中から生まれ、社会学や歴史学、経営学、政治学など幅広い分野で取り入れられてきた考え方です。試みに日本における「経路依存」に関わる初期の文献を探るため、国立国会図書館OPACで「経路依存」をキーワードに検索してみると、1980年代以降広範な分野でこのテーマが扱われていることがわかります。
 「経路依存派」は歴史に目を向けたグループではあるものの、実は彼らによると、ある偶然の、一回限りの事象や意思決定などが競争優位性を創出するのであり、過去を反復することは不可能であるから、企業の過去は現在および未来の経営には役に立たない、ということになります。これは企業の歴史に関わる記録や情報を保存し、活用することは無意味である、という結論につながります。
 一方、「批判者たち」による学術文献は、過去というものが今と未来の経営における競争優位性創出につながった多くの事例を示しています。本稿著者は、これらをさらに細かく検討し、過去が競争優位性につながるさいに、歴史(history)と遺産(heritage)を区別することが有意であり、またどのような過去の利用の仕方が競争優位につながるのかを述べています。後者においては、「組織改革」と「コーポレート・アイデンティティ・ミックス」という目的(場面・状況)における利用例を学術文献の中に多数見出しています。
 結論として著者は、企業アーカイブズは企業経営の戦略的イニシアティブの基盤となるはずのものであり、企業アーカイブズ関係者はその点でいささかも自信を失う必要はないことを示唆しています。

 以上のような内容をもつ本稿は、日本の企業史料管理、ビジネス・アーカイブズにとってどのような意味をもつでしょうか。
 企業アーカイブズは業績が悪化すればたやすくリソース(人とカネ)が削減される部署です。この傾向は洋の東西を問わないものですが、とりわけステークホルダーとしての株主の力が相対的に強く、プロフェッショナルな経営者が短期的な利益志向で企業経営にたずさわる傾向が強いアメリカでは、顕著な状況であり続けています。ですから、企業経営における競争優位性への貢献を数値化、計量化するという動機自体が日本の場合ここまで強くないともいえるでしょう。しかしながら、日本ではこれまで主として社史編纂の原資料として考えられてきたアーカイブズが、実際には多様な価値をもつのであり、これについて考えるヒントを本稿は与えてくれると思います。
 また近年、日本市場における外国人投資家の比率は高まっており、これに合わせるように企業情報開示に対する要求も高まってきています。日本版スチュワードシップ・コードの導入(2014年)やコーポレート・ガバナンス・コードの導入(2015年)をみると、証券市場のグローバルな標準化がすすみつつあり、とりわけ英米型のステークホルダーとしての株主を意識することが多くなっているように思います。その点でも、本稿は米国の企業アーキビストの最新の考え方を示すものであり、グローバルに事業活動を行っている日本企業のアーカイブズ担当者には興味深く受け止められるでしょう。
 また、本稿が掲載された The American Archivist の発行元であるアメリカ・アーキビスト協会(SAA)は1936年に結成されたアーカイブズ関係者の専門団体で、現在の会員数は約6,200です(ちなみに米国図書館協会の会員数が約62,000とされます)。SAAのビジネス・アーカイブズ部会(BAS)が管理する「北米における企業団体アーカイブズ・ディレクトリ」には300を超えるアーカイブズが登録されています。編集部はこれまでフォーチュン誌が選ぶ企業ランキングの上位にリストされている企業(アップル、ディズニー、マイクロソフト、ナイキ、P&G、コカ・コーラ、IBMほか)のアーキビストたちと共にビジネス・アーカイブズに関わる国際会議に参加してきました。こういった企業アーキビストたちがビジネス・アーカイブズ界での本稿著者の同僚であり、かつ本稿の主要な読者であるといえます。
 最後に本稿では触れられていないけれど重要な点として、デジタルなアーカイブズ利用の観点から一言指摘しておきたい点があります。本稿では、「過去を忘れて未来を愛して」の標語の生みの親で「ニュートロン・ジャック」と呼ばれたGE元会長ジャック・ウェルチ(会長在任期間1981年~2001年)の話が重要なエピソードとして取り上げられています。ウェルチの考え方によれば、アーカイブズは企業のコスト部門であるコーポレート部門に置かれるものであり、彼にとって、その必要性はいささかも感じられなかったと思われます。しかし、彼の時代と現代の違いを見極めることが大切ではないでしょうか。ウェルチのGE会長在任期間前半、すなわち1980年代は紙の時代であり、ようやく後半期になってウィンドウズの発売などで時代が大きく変化し始めました。しかし当時はソーシャル・ネットワーク・サービスも生まれていませんでした。その頃は、過去とは一般には紙の記録の中にのみ存在するだけだったでしょう。日本のように社史を頻繁に作ることもない米国では、企業アーカイブズの意味は日本の資料室や社史編纂室以上に小さなもの、取るに足らないものであったのではないかと思われます。しかしながら、現在は経済自体がネットワーク化、デジタル化しており、歴史情報、遺産情報の利用も紙の時代に比べて容易に、そして多様化しています。そのような変化を考えた時、企業経営に対するアーカイブズの貢献の可能性は、紙の時代、ウェルチの時代よりずっと大きいように思われます。
 持続可能な経済社会はよりよい未来創出に不可欠です。企業アーカイブズはどのように企業の持続可能性、そしてそれを通じて社会の持続可能な発展に貢献できるのか、本稿がそれを考えるひとつの手がかりになることを期待します。

 なお本文中に登場するジョン・T・シーマンJr.とジョージ・デビッド・スミスによる記事「リーダーシップ・ツールとしての貴社の歴史」(『ハーバード・ビジネス・レビュー』2012年)は当情報資源センターが発行する「ビジネス・アーカイブズ通信」第43号(2013年1月23日)にて詳しくご紹介しております。


【凡例】

・本文中の〔 〕部分は、読みやすくするために訳者が補った語句、または文章。


【著者について】

 ポール・C・ラーサウィッツ(Paul C. Lasewicz)は、世界有数の経営コンサルティング会社の一つであるマッキンゼー・アンド・カンパニーのアーキビストである。 2014年にマッキンゼーに入社する前、彼はフォーチュン100に登場する二つの国際企業IBMとエトナ社(Aetna Life and Casualty)の企業アーキビストとして20年以上を過ごした。これら2社の企業アーカイブズを管理するだけでなく、〔IBM創業100周年記念事業を担当する〕IBM100周年コア・チーム(この仕事によってポールは2012年度ベスト・オブ・IBM賞を受賞)、デジタル保存に関する二つのIBMアカデミー・オブ・テクノロジーの研究、エトナY2K委員会、エトナ社の最初のイントラネット運営委員会の仕事に携わった。アーカイブズの専門職業界において25年にわたり、地元、地域、そして全国レベルの専門家団体で指導的役割を果たしてきた。彼は国内外の会議で、企業アーカイブズに関するテーマで多数の講演を行ってきたほか、執筆記事は地方、全国、さらに国際的なアーカイブズ関係出版物に収録されてきた。 彼はまた、誰もが優勝したいと望むSAA〔アメリカ・アーキビスト協会の〕ゴルフ・オープン、キーナ・カップを複数回制覇している。


【要約】

 企業のアーカイブズが親組織である企業によって戦略的と見なされることはめったにない。また、資金調達レベルは、優先順位の低さを反映する傾向がある。この論文は、企業アーキビストが自分たちの専門領域の外部に目をやることによって、アーカイブズが持つ戦略上の価値に関し、より説得的な意見を組み立てるための知見が得られることを示している。この学際的なアプローチが潜在的に有用であることを説明するため、組織の過去をビジネスに利用することから戦略的な価値が引き出された事例を求めて、学術誌に掲載された80以上の論文を検討した。組織の過去を戦略的にビジネス活動に適用する二つの例、つまり「組織改革」と「コーポレート・アイデンティティ・ミックス」がそれらの文献から得られた。本稿ではこれらを紹介する。


【キーワード】

アドボカシー、ビジネス・アーカイブズ、企業資料、マネジメント(経営管理)、アーカイブズについての著作物


【本文】

 企業資産は、競争優位の創出に貢献する場合、戦略的であると認識される。多くの企業は、企業アーカイブズが企業価値を高めると考えているが、その価値を測定し定量化することは経験的に困難であり続けている。なぜなら、アーカイブズ機能の会社に対する貢献の性質は、無形ともいうべきものだから。経営意思決定のための背景情報を提供すること、新製品を歴史的なブランドのコンテクストに位置づけて販売促進に寄与すること、歴史的な証拠提供によって文化的価値を強化すること、物語(ストーリー)として語られた組織の過去を記念することにより企業と従業員の結びつきを強化する、といったビジネス上の重要ないくつかの活動の中で、アーカイブズの役割に有形の金銭価値を与えることは、いままでのところほとんどあて推量でしかなかった。その結果、企業の経営幹部は企業アーカイブズの戦略上の可能性を認識していないことはもとより、それが保持する戦略上の価値を十分に把握していない可能性がある。

 現代の企業では歴史に対して無関心な傾向が強いため、このように経営陣によって非戦略的とみなされることは、企業アーカイブズにとっては重大な脅威である。ゼネラル・エレクトリック(GE)社の伝説的CEOジャック・ウェルチ(Jack Welch)による格言「過去を忘れて、未来を愛して」は、こういった傾向をうまく表わしている 1。ウェルチは、1980年代と1990年代、世界で最も影響力のあるCEOの一人であり、そのコスト削減策によって有名であった。GEの CEOとしての初期に、彼は10万人の従業員を解雇した 2。これらの解雇があまりにも思い切ったものであったため、GEの再編を中性子爆弾の結果に似ていることになぞらえて、専門家は彼を「ニュートロン・ジャック」と呼んだ。どちらも人間を消し去って建物はそのまま残るから。ウェルチの格言は、企業の過去が持つ価値を頑なに否定するものであり、企業アーカイブズを危険にさらす経営陣の態度の型を示している。ウェルチは結果に基づいて決定を下す、ボトムラインに焦点を当てた経営幹部であった。彼は、企業アーカイブズが歴史的に存在根拠としてきた、伝統的な業務事例にみられる、直観的で、数値化されていない、信念(value statement)に基づく議論に惑わされることはなかった。

 この点はウェルチに限った話ではない。ある有力なビジネス誌の1989年の記事は、企業アーカイブズが一般には組織上連携するコーポレート・センター〔企画・財務・管理部門に相当〕の削減を、価値創造の主要な源泉として選ぶことを提唱した。この記事では、「フォーチュン25」リストに含まれる企業のコーポレート部門が、企業の負債と株式の市場価値全体の約5分の1を占め、同じ資金をミューチュアル・ファンドに投資する場合に比べて6倍もコスト高であると記している。

 この記事は、厳格な財務審査を非戦略的部門に適用した場合に何が起こるかの一例として、イギリスの企業再建スペシャリストによる、米国のコングロマリット(複合企業体)のコーポレート部門再編(1986年)を引用している。この再編ではコーポレート部門の90%を削減し、大幅な最終利益を生み出した。著者は言う。「これは必ずしもコーポレート部門がただカネを浪費しているだけであることを意味するわけではない。コーポレート部門は非常に重要な、付加価値の高い活動に関わっている可能性がある。問題なのは、これだけ高いコストをかけているのだから、それ相応のことをしたほうがよい」3

 この激しい財務監視圧力の下、コーポレート部門は萎縮し、企業アーカイブズもそれに伴って消滅した。予算獲得競争が激しくなったとき、経営に苦しんでいたテキサス・インスツルメンツ、ユナイテッド・テクノロジーズ、コントロール・データ、ユニシス、スポーツニュース、J.C.ペニー、エトナ、IBM、ターゲットなどの、重要なアーカイブズは閉鎖されたり、壊滅的に予算を削減された。〔企業ではない〕政府、大学、歴史協会のアーカイブズの使命は、各々の組織が持つさらに大きな使命の本質的部分をなす。しかしこれとは異なり、企業アーカイブズへの投資は任意のものであり、アーカイブズの存在を保障する制度上の義務は存在しない。

 企業アーカイブズにとって第1の、そしてけっして終わることのない挑戦とは、アーカイブズがコスト以上の価値を生むことを証明することで、その存在を正当化することである。企業アーカイブズに必要であるにもかかわらず今まで欠けていたものとは、アーカイブズが任意の機能ではなく戦略的な機能であること、つまり「あったらいいね」ではなく「なくてはならない」ことを世界の「ニュートロン・ジャック」に説得することができる、ビジネス価値に関する説得力を持った、議論の余地のない、反復再現可能な(replicable)ステートメントなのである。

経営のための言葉を探し求めて

 会社史の実務に関わる人々は、この業務は存在すべきであるとひそかに心の中では確信しており、忘れるようにとのウェルチの明快な呼びかけとは逆に、現実の実務がその直感を支えているように見える。2009年の会社史に関する調査では、86の企業のWebページを調査したところ、歴史コンテンツを提供するセクションが存在しない会社は5社にとどまった。つまり、組織の歴史というものは、それを公開し一般の人々が参照する重要性を持っている、という幅広い企業コンセンサスが存在する。しかし、この分析で覚えておくべき主要な点は、企業による社外向けの歴史の利用はたいてい限定されたものであり、いつ創業したのか、象徴的なリーダーは誰かといった、よくある質問に答えるウェブサイトの「○○社について」を構成するお決まりの部分である、ということだ 4。これは、比較的低い価値しか持たない会社史の利用法であり、ウェブサイト訪問者に迅速な回答を提供することで付加価値を生んではいるものの、全体としては競争優位を生み出すことができていない。

 歴史の戦略上の価値に対するさらに強力な主張は、『ハーバード・ビジネス・レビュー』に2012年に掲載されたジョン・T・シーマンJr.とジョージ・デビッド・スミスによる記事に見られる 5。この記事は、企業が過去の歴史を利用して、大きな効果を上げた方法について、魅力的な最近の例をいくつか紹介している。著者らは、〔企業〕文化の移行を円滑化し、意思決定プロセスを理解し伝達するといった、戦略的に重要な取り組みで、歴史を利用することから引き出される無形の価値を示すために、事例証拠(anecdotal evidence)を利用した。しかし、1930年代から1990年代にかけての企業史の戦略上の価値に関する他の文献と同様、この記事も、企業の歴史に対する投資への見返りを定量的に示すことができていない。このように、会社の歴史は戦略上重要であるという仮説は、重要ではあるが統計的に証明されておらず、おそらくは反復再現の可能性を持たない弁明に大きく依拠している。 激烈な競争を伴う企業環境では、事例証拠に基づく、潜在的な価値という主張の上に構築された業務では、コスト削減と財務実績の向上に意識を集中させた、積極的に攻めまくるタイプの経営陣に影響を与えない。

 ニュートロン・ジャックの考えを改めさせることができる、企業アーカイブズのための説得力をもった業務上の理由は、専門的な歴史家やアーキビストからはもたらされないと結論づける時なのかもしれない 6。彼らは、組織の歴史やビジネスの歴史を知ってはいるものの、上級幹部の戦略的動機に関する理解を欠いている。資金を管理運用するマネジャーたちと同じ言葉で語れないということは、もっと広いアーカイブズ業界、つまり企業アーキビストにとっても〔企業以外の〕組織〔内資料を扱う〕アーキビストにとっても事情は同じで、今に始まったことではない。1984年のアメリカ・アーキビスト協会のための調査報告書によると、〔予算や職員といった〕リソースの配分担当者は通常、アーカイブズ部門は戦略的ではないと判断しており、アーキビストはリソース配分担当者と効果的にコミュニケーションを取ることができていないと指摘していた。それゆえ、調査報告書はアーカイブズが年間の予算〔請求〕競争で、より大きな戦略上の貢献を示すことができる部署と競い合うには、その立場が不十分であるとの結論を下している 7

 この報告書が発行されてこのかた30年の間に、会社史担当実務者はビジネスの言葉を以前より巧みに話すことができるようになった 8。しかし彼らは、この〔ビジネスの〕言葉であの定義しにくく、反駁の余地がない信念を築きあげるにはまだ十分流暢ではない。しかし、ビジネス〔言語〕を流暢に話す二つのグループの人々が存在する。それは、ビジネスマン自身と経営を専門とする学者グループだ。

 この2者のうち、企業アーキビストが〔前者の〕ビジネスマンから多くの助けを得ることはまずない。ビジネスマンが経験について書き記すことはほとんどなく、組織内で歴史を利用することについて多くの洞察を提供することはさらに少ないため、会社史担当の実務者が洞察を引き出し得る、公式的に記録された知識はほとんど存在しない 9

 しかし、〔後者の〕経営を専門とする学者は、いくつかの理由でもっと有望だ。第1に、彼らは「成果なきものは滅びよ」(publish or perish)と命じる学究生活上の戒めに駆り立てられて、研究を行い、頻繁に書き物をする。第2に、彼らは普遍的な真理を探し出そうとする。普遍的な真理とは、彼らが分析している特定のケーススタディや統計を超えて、意味を持ち得るものである。第3に、彼らは深く研究して書く。それによって会社史担当実務者の仕事に対する教訓と新しい視点を提供することができる 10。そして最も重要なのは、彼らはアーカイブズの専門家でない人々のために、ビジネスの言葉を使って書く。

 したがって、組織における古い情報の利用や業務価値に関する記録をテーマとしたビジネスに関する文献を振り返ってみることは、企業アーキビストにとっていくばくかの価値があるだろうと言ってよかろう 11。その点を念頭に置いて、本稿では、いくつか例示するならば、組織理論、組織管理、チェンジ・マネジメント、マーケティング、コミュニケーション、ビジネス倫理、組織的記憶に関する研究、制度理論、行政学、政治文化、経済学、社会学、といった広範な関連領域を検討した 12

 本稿の検討目的にとっては、これらの研究はどれも、会社史担当実務者の仕事に関して、新鮮な見方を提供してくれる。全体として、それらの研究はビジネスコンサルタントがピッチを行う〔プレゼンテーションをする〕言葉によって、組織の過去の応用とそこに含まれる価値を表現している。アーカイブズに関する確たる業務上の正当性創出を求める実務家にとって、この特徴は非常に有用なのである。

歴史は重要か?経路依存

 経営を専門にする学者の著書には多くの流派が存在する。だが、組織の過去の利用を分析するという目的で、この記事では経路依存と経路依存への批判の二つに焦点を絞る 13

 組織の過去はなんらかの戦略上の価値を持つということが、経営学に関する学術文献について認識されるようになったのは、ごく最近にすぎない。20世紀の学者たちは1980年以前、現代企業における組織の歴史の役割を大部分無視していた 14。そして、1980年頃に何人かの経済学者が企業や産業の進化に関する有望な説明として歴史性を導入した 15。何人かの他の学者たちは、〔米国史における〕進歩主義時代のエコノミストで社会評論家であったソーンシュタイン・ヴェブレンの理論である、累積的因果関係をよみがえらせた。ヴェブレンの経済概念は、外部環境と個々の行為の両方が、継続的、累積的、そして進化的な変化のプロセスの一部であると述べている 16。ヴェブレンと1980年代の経済学者の研究に基づく理論は、今日「経路依存」学派として知られている。

 経路依存の概念は、過去についての理解が現在のあらゆる理解にとって重要であるという事実を示す「歴史は重要である」という概念に基づいている。この概念によれば、歴史的要因というものは、企業、技術、市場、産業、さらには国家にまでも長期的な影響を及ぼす方向性を設定し、それらの条件を形成することができる。

 このことに関して文献中よく引用される例は、QWERTYキーボードの研究だ。QWERTYキーボードとは当初はマニュアル式のタイプライターのキーが動かなくなることを最小限に抑えるように設計されたものであり、1世紀以上にわたり標準的なキーボードの並び方であり続けている。QWERTYの標準としての地位は、オリジナルなタイプライターに由来する「存在理由」が消滅した今日のデジタル時代においてさえもずっと、潜在的はもっと優れたキーボードの並び方である代替案からの挑戦をかわすことを可能にしてきた 17。もうひとつの技術的な好事例は、1970年代と1980年代のVHSとベータマックスというビデオ・フォーマット間の闘いである。伝えられるところによると、VHSがこの闘いを制したのはそれが優れた技術であったからではなく、偶然のテープライセンス戦略が大量の、もっと安価なテープを生み出し、これがVHSデッキの購入を駆り立てて、市場の支配につながったからである 18

 経路依存の概念は他の学問分野でもすぐに受け入れられた。社会学、歴史学、経済学、経営学の学者たちは、この理論が組織的、制度的、技術的、産業的進化を観察するための有用なレンズであることを理解した。全体として、これら多数の文献は、進化の方向性を形成し設定する際に外的状況、内的能力、戦略的決定が持つ、決定的かつ永続的な役割を強調している 19

 彼らの「歴史は重要である」という志向性を考えると、経路依存の理論家が組織の歴史を否定的なものとして描写するのは皮肉なことである。経路依存の理論家は、原材料や交通機関への良好なアクセス、独自の才能を持った発明家や指導者など、企業に商業的優位性を与えた、時に偶然ともいえるユニークな歴史的な状況や意思決定のひとつのまとまりとして、競争上の優位性を説明する。この決定論的な考え方によると、組織への〔外からの〕影響や組織の構造は、組織が選択可能なオプションを徐々に縮小する効果をもたらす。ここでは「製品、市場、および操業様式に関する初期の選択が、資産構成と組織構造についての決定によって固定化されて、将来のオプションを制約する 20」のである。すなわち、DVDが登場してだいぶ時間がたったのちに、我々のうち一体どれだけの人びとが〔前時代の〕VHS技術に投資し続けるのか?

 この縮小は、企業の戦略上の選択肢を制限し、変化に敵対する、硬直的で柔軟性のない文化を創出する地点にまで到達する。ここは、非生産的で、もとに戻ることのできない行き詰まり地点である。このプロセスの鍵は、利益の増加(例えば、映画をVHSで購入することはDVDを購入するよりも安価であった)や、肯定的なフィードバック(お気に入りの映画を手に入れて、さらにお金を節約する)が存在することである。これらの要因は両方とも、短期的には、これらの戦略上の決定は正しくて、成功したとの認識を強めるが、長期的には組織を制約する(もはや価値を持たないVHSテープ・カセット)21。このような調査を要約したうちの、ある研究は次のように記している。「非常に成功した企業でさえも、過去から引き出された戦略上の教訓とは、おおかた『経路依存性』をあらわしており、ある企業が成功したのはそれがユニークかつ真似することができない強みを持っていたからである」22

 この学派の支持者にとって、ビジネスにおける成功の歴史は、企業が現在の姿にどのように進化したかを説明するには主として有効ではあるが、戦略上の価値はほとんど、またはまったくない。企業の歴史は、「模倣することは不可能ではないにせよ、非常に難しい」という理由で、扱いづらく、柔軟性に欠ける、あるいはおよそ適切なリソースではない 23。経路依存理論家にとって、過去の教訓は反復不可能であり、それゆえ現在と未来にとって役に立たない。このような観点から、歴史は、社内文化にネガティブな影響を持つ、競争上の弱みであるとみなされる。彼らは歴史を資産として見ず、企業の過去の成功に盲従することが将来の戦略オプションをますます制限して企業を縛り、新しい方向へ自由に踏み出すことを難しくする、と信じる。これにより、コア・コンピタンシー(中核能力)がコア・リジディティー(硬直性)となり、選択肢を狭め、新たなアプローチに目を閉じ、伝統、ルーチン、プロセスによってやせ衰えた企業文化しか生まない「組織沈没コスト」を生み出す 24

 企業アーカイブズにとって、この経路依存学派の考え方は厄介である 25。数十年にわたって、企業の歴史実務者は、歴史コンテンツを(そしてその延長として自分たち自身を)価値ある資産として企業戦略の中に位置付けようと格闘してきた。しかしそれと同時に、経路依存理論がビジネススクールのカリキュラムに組み込まれるほどに─そして事例証拠(anecdotal evidence)が示すには─、何世代にもわたりMBAたちは、組織の過去には戦略上の価値がほとんどないばかりでなく、実際にはそれらはネガティブであると教えられてきたのである 26。こういった卒業生たちは、今現在企業を経営しているまさにその人々なのである。

歴史的転換:批判者たち

 企業史の実務者にとって幸いなことに、経路依存理論の決定論に批判的である、一連の、それにとって代わるような文献が増えつつある。以下、集合的に批判者たちと呼ぶ 27。彼らの書物は単一の理論や話題を反映しているわけでないので、批判者たちを一枚岩の学派とするのは間違いである。しかし、「組織の過去が現在においても制度的な妥当性を持っている点を経路依存論が受け入れない」ことを批判する点で、一致している。本稿の目的にとっては、彼らの著作を単一の観点として、テーマ的にグループ化することは可能である。

 組織が歴史をどのように使っているかを精査した結果、戦略的経営と組織論の両方の面で、硬直性、そして変化への抵抗の源泉として企業の歴史を描写することは、「企業が実際に歴史を利用している方法」と際立った対照をなしている、と何人かの批判者たちは指摘する 28。これらの研究が認めたことは次のようなことである。すなわち、組織の歴史の事実は変更できない。しかし、それらは実際には解釈を通じてのみ知られるものなのである。これは「組織の歴史に関するダイナミックな光景を開き、歴史的軌道の決定論に疑問を投げかける」一つの見方である。何人かの著者たちの結論によれば、「伝統的な戦略的経営研究は、競争優位性を獲得するために歴史が利用できる仕組みをまだ完全には探求し尽くしていない」29

 確かに、批判者たちの記事は、ニュートロン・ジャックのような成果重視の経営幹部に対する完全な形の回答ではない。現実には、これらの学者は、企業のアーキビストやアーキビスト(登場)以前の経営史家のように、企業の無形資産に定量化可能な価値を与えるには至っていない。ある研究によると、例えば、企業の評判のような無形の概念の財務価値を証明するための経験上の証拠はほとんど存在せず、企業の評判に帰すことができる金銭的価値の確固とした見積もりを行うにはまだ早すぎる 30

 それでも、研究者は〔計量化できるような〕有形のバリュー・ステートメントを見出しつつある。ある研究は、「ひとつの競争優位性として、ブランドの遺産(brand heritage)は、より高い価格とより高い消費者ロイヤリティを〔買い手側が〕受け入れる意思をもたらすことができる」と結論付けた 31。2013年の調査は、企業のつぶやきによって生じた関心の高さと、小さくて目に留まりにくい企業の株式の市場流動性の間には、計量可能な関連性があることを示した 32。計量指向分野の一つであるソーシャル・メディアに関する2013年の記事では、企業の遺産(heritage)がユーザー・エンゲージメントの増加を成功裏に押し上げていることを示した 33。他の何人かの著者たちは、遺産コンテンツが社内外のステークホルダーに影響を与え、やる気を高める強力なツールでありうることを述べている 34。もう一つの研究は、良い評判と平均以上の財務実績との間には、一般的な経験上の関連性があることを示している 35。また、2012年のウェーバー・シャンドウィック(Weber Shandwick)というビジネス・コンサルティング会社による米国、英国、中国、ブラジルの575人の上級役員への調査では、企業の市場価値の平均60%が評判に起因し、調査対象者の86%が過去5年間の間、自社の評判の向上に努力したと推計している 36

 企業の歴史実務家にとって、この文献から主として引き出されるのは、組織の過去が果たしうる貢献価値を定量化する財務測定ツールはまだ存在しないが、研究者たちはその目標に近づきつつある、ということである。その時まで、実務家たちは、批判者たちの仕事が、組織の過去に戦略上の重要性があるという深い信念を映し出していることになぐさめられるだろう。彼ら〔研究者たち〕の目には、アーカイブズが組織における歴史の利用に対してなしうる貢献は、重要かつ価値あるものなのである。

 批判者たちの筆になるものから集めることができる主要なテーマの中で、ビジネスの歴史の実務家が認識しないものはほとんどない。しかし、新たな地平を開くことはここでの問題ではない。企業アーカイブズに戦略上の価値があるという議論を立てるための、新しい、説得力のある方法を見つけることこそが、ここでの問題なのである。企業アーキビストは、自分たちの役割が価値を増し加えることを常に知っている。しかし、アーカイブズに関する言葉は、アーカイブズが自社にとって戦略的であることを示すのには適していない。そうではなくて、企業アーキビストは経営幹部が関心を持つビジネスの言葉で表現する必要がある。しかし、経営幹部はどのようなことに関心を抱くのか?彼らは、組織改革やコーポレート・アイデンティティ・ミックスのような、非常に戦略的な概念に関心を抱くのである。

歴史/遺産の二項対立

 組織の過去が、組織改革とコーポレート・アイデンティティ・ミックスという戦略的経営概念にもたらす貢献に取りかかる前に、まずは歴史(history)と遺産(heritage)の重要な違いに触れておくことが極めて重要だ。これはアーカイブズに関わる文献中、周辺的ではあるが何十年もの間ずっと認識されてきたことであり、企業アーカイブズに批判的な人々にとってはさらに哲学的論争点としても機能してきたため、企業の歴史実務者にとってはよく知られた二項対立である 37。しかし、この差を明確にしておくことは重要だ。なぜなら、この歴史/遺産の二項対立は、歴史を企業で最も巧みに利用する仕方を経営学者が理解する上で、絶対不可欠であるからだ。

 この文脈における「歴史」とは、アーキビストが収集する文書中に存在する不変の、客観的な、事実の集合的なまとまりである。アーキビストたちはなるほど確かに、収集するものと手放すものを決定する際に主観を発揮する。しかし、たいていの場合、客観的なプロセスになることを願っている。主観性に関わって、これと同じことが歴史学者にも当てはまる。なぜなら、ほとんどの歴史叙述は、歴史学者の問題意識や個人的な世界観、そしておそらくはその時代のエートス(精神)に根差した、解釈上の偏りを反映しているためだ。だが、それにもかかわらず、究極的には、歴史叙述は客観性を目指す 38

 しかし、ここで引用する批判者たちの大部分にとっては、この願望は歴史に関する限定された見方である。「歴史は客観的な『大きな物語』ではなく、むしろ客観的現実と主観的現実が興味深くまじりあったものである」39。これらの学者にとって、歴史的事実とその事実の「利用」(use)との間には重要な違いがある。

 これら二つの概念を区別するために、学者の中のある人々は「遺産」(heritage)という用語を、歴史の応用的な利用を記述するために用いてきた。遺産とはテーマをもった、解釈的な物語であり、より大規模な歴史的事実の集積の中から選択された、主観的なデータのサブセット(部分集合)である。それは、適切かつ正確な歴史的文脈を提供するために、これら歴史的事実に完全に基づいたものである。テーマを明確にすることによって、歴史が身近なものとなるように、遺産は巧みにキュレーションされている。それは、組織の課題をサポートするため、目的を持ち対象がきっちり絞られたもので、主要なメンバーに対して意図的に情報を提供し影響を及ぼすよう、巧妙に作られたものである。

 必然的に、遺産は適応性に富む。もしある組織が戦略的にメッセージの発信内容を変えた場合、テーマ上の強調点をその歴史的事実に関する、あるサブセットから別のものへと移行させるだけで、その変化を反映させるように、その遺産も変更することができる 40。遺産が持つ、超歴史的なテーマ上の柔軟性は、遺産を永久的にふさわしいものとし続ける─すべての時代に意味あるものとする─ことを可能にする 41

 学者たちの中には、歴史の主観的な応用を、作りもの、あるいはねつ造とさえ見るものもいる。ある学者はそれを「パッケージ化された過去」と言及している。「歴史表現において戦略上の文脈を強調することにより、...『パッケージ化された歴史』はせいぜい真実の半分でしかない。なぜなら、その物語は選択的に構築されており、第一義的には『事実』を提示することを目的とするものではなく、観客を説得し、信じさせるために利用することを目的としているからである」42

 一部の人びとは組織による遺産の実用的利用を冷ややかにみるかもしれないが、しかし、そのような批判は、組織が文脈上正確に歴史を応用することの正当性、さらには必要性を損なうものではない。いくつかの研究が示すところによれば、ある社会の過去との関係─記憶されているもの(歴史)であろうと構築されたもの(遺産)であろうと─は静的でもなければ、不自然なものでもない。むしろそれは人間と組織の一部であり、継続的、永続的な制約と再交渉に従うものである 43。この意味で、組織や社会に対する過去の解釈と応用の変化は、両者ともに、変化し続ける社会政治的状況から生じる、自然でありまた不可避の結果である 44

遺産と組織改革

 批判者たちは、歴史と遺産とのこの区別が、組織の過去が組織改革と企業イメージの両方に貢献できることの中心にあると考える。どちらの場合も、遺産は、戦略上のオプションに対する受け身かつ不変の束縛などではなく、内外の主要なステークホルダーに影響を与えようとする巧みな管理者の手中の能動的なツールとして描かれる。ある学者は、「歴史は必ずしも組織が変わろうとしない原因ではない」と述べた。なぜならば、「組織のメンバーが理解する歴史は固定されたものではないからだ」 45

 組織改革は、従業員や投資家などのステークホルダーにとって本質的にストレスだ。しかし、遺産の巧みな利用を通じて、これらの主要なメンバーの懸念を最小限に抑えるようなやり方で、改革というものを意図的にある枠組みに中にはめ込むことができる。多くの学者は、ステークホルダーの存在を正当化し、その実務を導くために、かれら〔ステークホルダー〕の歴史の中に一連の物語を根付かせることの制度的重要性を指摘している 46。継続性と文化的許容を示す歴史上の前例を求め、組織の過去を掘り起こし、戦略的な改革を説得的にサポートしたり、新たな事業の方向性が正当なものであることを示すために、どのように遺産を利用できるか明らかにした学者もいる 47。現在の改革と過去のふるまいや行動のつながりがもっともらしいことをはっきりとほのめかすことによって、経営陣はその変化の巨大さに関する感じ方を最小限に抑え、主要なメンバーがそれを受け入れることを容易にすることができる 48。必然的にこれは、主観的である遺産物語を、「新たな主張が意味深いことを説明し、中心にある際立った特徴点について生まれかねない誤解を解決する、有力な情報源(discursive resources)として」紡いでいくことを含む 49

 多くの研究は、出来事に意味を与え、組織のプロセスと成果に価値を注ぎ込むために、構造化された集団的な解釈の中で、組織が遺産をどのように利用するのかを示している 50。キャドバリー社のキャンディに関するある研究は、三つの点で明瞭に、同社が現代のビジネス・ニーズをよりよく満たし競争優位性を創出するために、遺産物語の強調点をどう意図的に変えたのかを示している。過去数十年間キャドバリー社は、第1に、起源と文化の感覚、それから、クエーカーのルーツに基づいた道徳的正当性という感覚、そしてさらにのちには、市場において企業がよりよいポジションをとるための競争上の差別化という感覚、を作り上げるために過去を利用した 51

 もう一つの研究は、組織の文化や歴史を意図的に再解釈することによって、バング&オラフセン社(B&O社)が経済危機の時代において、従業員を再活性化させアイデンティティの再定義を可能にしたことを示している。「B&O社では、経営陣は自社の集団的自意識を定期的に更新することにより、何十年にもわたって、いくつかのビジネス上の課題に取り組んできた。これらの更新には、組織の過去に深く組み込まれた『望ましいイメージ』や『将来の自己』の投影が含まれていた。同社は過去から選りすぐったイメージを『現在の組織に新しい意味を与え、将来の希望を具体化するために』利用した」52

 三つ目の調査では、二つの長い歴史を持つ企業、トラックメーカー・スケイニア社(Scania)とハンデルスバンケン(Handelsbanken)銀行が、「戦略立案に影響を及ぼすために意図的に歴史を参照した」ことを示している。スケイニア社は、ボルボ社による買収を強力に回避するため、遺産の精選事例を利用した。同様に、ハンデルスバンケンは、過去の事例を使うことで、最先端のテクノロジー(インターネットバンキング)の導入が、いかに過去の同様の新規手法の採用に匹敵するかをうまく示した。どちらの事例も「大昔からの継続的発展として描くことによって、現在の考え方が正当化されている」53。もう一つの研究は、ユナイテッド・パーセル・サービス(UPS)が、新たな方向性大歓迎という、同社が大切にしてきた遺産の文脈の中に、企業文化の劇的な改革を実際よりも過激でないものとして位置づけるように、遺産物語を戦略的に再構築した事例を紹介している 54。同様に、IBMが2003年に3日間にわたり全社的なオンライン従業員フォーラムを開催して21世紀のための価値を更新した際には、来るべき〔創業第2〕世紀に関するディスカッションは、当時の価値体系によって表現され、それに根付いたものであった。これは約一世紀にわたり深く根付いた慣行、政策、信念を基にしたものであった 55

 逆に経営陣は、過去との決別の必要性を示すように、会社史上の例を利用することもできる。「クズな」過去のふるまい("rubbish" past behaviors)と慣行が、ステークホルダーの賛同と変化に対する支持を生んだ─という遺産物語を作り上げることによって、組織上の断絶を戦略的に生むためである。英国鉄道に関する調査は、この「過去を嫌悪する」("nostophobic")アプローチの効果を示している。これは主要なメンバーに対して組織改革の必要性を正当化するキャンペーンの一環として、経営陣が古い組織文化や慣行を現代の市場の要求にそぐわないものと故意に描写するというものであった 56。ハンデルスバンケンに関する研究では、現在の志向性や将来の期待に沿わない過去のある部分を省略した遺産物語を作り上げることによって、この銀行が当該時期を「評価基準としては不適切」にしたそのやり方に言及している 57

 いくつかの研究は、将来の期待と自社の遺産の結合に失敗することがどのような戦略的意味を持つのかを詳しく論じている。キャドバリー社とB&Oに関する研究は両方とも、戦略的なビジョンと主要なメンバーが切り離されている場合「アイデンティティ上のあいまいさ」が生まれる可能性があり、これがビジネスの成功を損なうことを示している 58。AT&Tの前役員は、〔20世紀から21世紀への〕1000年紀の変わり目のころの同社ビジネスの悪戦苦闘を回顧しながら、このリスクを明らかにした。「近年明らかに、偶然の出来事や判断ミスにより、AT&Tは遺産との意味のあるつながりを失ってしまった」。彼は記している。「自分たちの過去にふさわしく、自分たちを将来へと駆り立てるミッションを明確に表現することに失敗したのである」。この役員にとっては、組織改革に関わる決定的に重要な時に、AT&Tはその伝説的な過去に新たな将来の方向性をしっかり根付かせることができなかったのであり、この失敗によって、メンバーたちは同社の新たな戦略ビジョンに対して十分深く関与することも妨げられたのである 59

遺産とコーポレート・アイデンティティ・ミックス

 学術研究の中に見出される企業遺産に関する第2の戦略的利用は、「コーポレート・アイデンティティ・ミックス」と関連する。この用語は企業の(通常は社外に向けた)幅広い無形資産─評判、ブランド、大衆イメージ、価値観、倫理、その他同様の特質─を網羅している。全体として、これらの無形資産は「組織がチャンスを活用し脅威を和らげるのに重要な資産であり」、「持続可能な競争優位性」の源泉になる 60

 多くの研究がこれら無形資産価値の定量化を始めている。先に言及したウェーバー・シャンドウィックの調査がその一つである。この研究では、経営幹部は、自社の市場価値の大部分は評判に起因すると信じている点を取り上げている。別の研究は、評判、アイデンティティ、ブランドといった無形資産への企業の投資は、新規顧客および既存顧客ともに等しく、その企業に対する見方に肯定的な影響を与えることを示している 61。同様に、米国NCAAカレッジ・バスケットボール・トーナメントである「マーチ・マッドネス(3月の熱狂)」に関するある研究は、1980年代と1990年代の参加招待のプロセスと結果を統計的に調べることにより、次のような結論を得ている。過去の実績に基づいて高い地位という歴史的遺産(レガシー)を持つ組織は、その高い地位という特典から利益を得る─競争における実績が特典を保証しない時期にあっても─ことを実証した 62。ある著者は「評判に関わるリスクは企業の存続に対する脅威である」と述べ、無形資産の目に見える重要性と総括した 63

 これらの研究は、こういった無形資産にとっての遺産の重要性、とりわけビジネスが絶え間なく変化する時代における重要性に一様に同意している。変化への対応とは、決定的に重要であり、終わりがないプロセスである。このことを組織は認識し受け入れる一方、従業員、投資家、メディアを含むメンバーたちは継続性と安定性を重んじている。「ある組織のアイデンティティを、絶えざる変化として表現することは賢明な広報とは言えない」とある研究は述べている 64。別の研究では、「評判というものは、ステークホルダーと組織の間の長年にわたる相互作用の結果である」と述べるとき、歴史に関わる構成要素を「評判」の定義にはっきりと組み込んでいる 65。数多くの著者は、遺産がブランドにおいて重要な役割を果たし、安定感、真正性、感情的および象徴的な愛着を伝えていると結論づけている 66。ある調査は回答数458のアンケートに関する統計分析であるが、それによると、ブランド遺産はブランドの認識に関わる鍵となる牽引役であり、ブランドとして認識されている価値に「深み、真正性、信頼性」を付加する。ブランドが消費者や非消費者である幅広いステークホルダーとの間に特別な関係を築くのに役立つ場においては、ブランドは市場での差別化を促進する 67。長らく世界でもっとも価値あるものの一つと考えられてきたIBMのブランドに関するある研究では、IBMの遺産が同社の4つの重要ブランドの特性に対して、欠くことのできない貢献をなしている点を示した 68

 いくつかの研究は、遺産が戦略的アイデンティティ・ミックスの目標を遂行するのにいかに助けとなったのか詳細に書き残されている企業に焦点を当てている。遺産を利用した観光産業は、消費者との感情的なつながりを作り出すためのパッケージングの歴史に特に熟達していると言われている 69。前に引用したキャドバリー、B&O、スケイニア社、英国鉄道の研究は、これらの企業が市場においてよりよいポジションを得るために、どのように自社の遺産を利用したのかを示している。例えば、ビッグ・オイル(Big Oil)のような採掘会社が評判管理におけるリーダーになったことを、評判に関するある研究は記している。すなわち、規制当局と公衆による絶え間ない精査に直面して、これらの企業は価値観や倫理的行動の歴史を実証することによって、「社会的操業許可(営業免許)」social license to operateを生み出した 70。真正性に関する研究では、ある高級ワインのブランドとのつながりが、どのように消費者の認識に対してプラスに影響したのかを明らかにしている 71。ある著者は、オーストラリアのベンディゴ・バンク(Bendigo Bank)が、昔の銀行サービス・レベルを懐かしむ地域の感情を取り込んで、支店ビジネスのモデルを成功裏に打ち立てた方法を実証した 72。カーニバル・ライン(Carnival Lines)がカナード・ライン(Cunard Line)を買収する前と後におけるブランド遺産の分析は、「より古い会社の歴史的なステータスが、しばしば彼らのブランドのアイデンティティと消費者にとっての魅力に明示的に結びついていることが多い」と述べている。さらに、カナードの遺産は最近の同社の転換に重要な役割を果たした 73。2011年の100周年計画の一環として、IBMの遺産は、鍵となる経営戦略目標にぴったりと適合したプログラムにおいて、中核的な構成要素であった。経営戦略目標とは、従業員との絆を強化すること、主要なブランドの特徴に存在する弱みに対応すること、市場においてブランドの差別化をはかること、現在および将来の顧客への販売環境を改善することであった 74

 コーポレート・アイデンティティ・ミックスにおける遺産の利用は非常に強力なので、時には企業は自社独自の遺産を活用する代わりに、幅広い国民的遺産テーマを企業や製品のブランド・アイデンティティに組み込むことがある。ある研究は、カナダのティム・ホートンズ(Tim Hortons)のドーナツ&コーヒーショップが、自社ブランドのために真正性を生み出し、消費者にアピールするよう、自社のブランドをカナダの遺産に深く根差した二つの側面─ホッケーと軍隊─にどのように関連付けたのかを示している 75。別の研究は同様に、成長途上でチームとしての歴史が皆無のホッケーチーム、エドモントン・オイラーズ(Edmonton Oilers)がカナダの広範なホッケー遺産との結びつきを、ファンの獲得と全国的ファン組織結成のためのマーケティング活動に取り入れた方法を示している 76。第3の調査では、ジャック・ダニエルのウィスキー・ブランドが、アメリカの未開拓のフロンティアという伝説的なイメージを利用して、同社の伝統的なマーケティングによる上流階級の秘薬としてではなく、一般の人々の飲み物として、自社製品を戦略的に位置づけなおした方法を示している 77。「地域社会や国民国家のレベルで、外部のステークホルダーが共有する幅広い社会的、文化的価値観といったものに、企業の歴史を結び付けると、ある企業の歴史物語は、もっと幅広い社会文化的機関の正当性を利用できる。そして、実質的かつ持続可能な競争優位を生み出すのに、それを用いることができるかもしれない」78

 批判者たちが、組織の歴史はコーポレート・アイデンティティ・ミックスと総称される無形資産の多くに貢献できる、希少かつ模倣不可能なリソースでありうる、と信じているのは明らかだ。これらの著者たちにとっては、組織改革マネジメントのように、このアイデンティティ・ミックスへの遺産の統合は、戦略的で、意図的、主体的なものである。このプロセスは、将来を見据えて行動するマネジャーたちが、アーカイブズを用いたリサーチや消費者リサーチを通じて遺産の諸側面を「明らかにし」、製品デザインとマーケティング・コミュニケーションを通じて遺産を「活性化」し、責任ある管理と継続性に注意を払うことを通じて遺産を「保護する」、といったことを必要とする 79

企業アーカイブズのための教訓とさらにその先

 企業の歴史実務者は、組織による過去の活用に関する本稿からいくつかの重要な教訓を引き出すことができる。まず、75年以上にわたり、企業アーカイブズ関係の文献においては、組織の過去は戦略上の価値を持っており、ゆえに企業はアーカイブズに投資すべきである点が当然視されてきた。実際には、この点を経営幹部がこのように考えないのも同様に明らかである。というのは、企業アーカイブズの歴史に関する研究では、ほとんどのアーカイブズは当初、戦略上の価値が認められたからではなく、会社の記念日やイベントによって、歴史への関心が高まったために組織されたものだからである 80。記念日という牽引役がないときは、企業アーカイブズは予算削減に対して極めて脆弱で、廃止されてしまうことさえある。記念日に関わりなく、企業アーカイブズに由来する現在そして継続中の戦略上の価値について、経営陣を説得するに足るような事例を探すには、経営に関する学術文献にみられる視点と用語が役に立つ。

 経営に関する学術文献から導き出され、ここで批評された二つの学派は、組織の歴史の重要性を自明の理としている。しかし各々は、歴史の戦略上の価値について、異なる視点を提供している。その一つ、経路依存学派は歴史には戦略上の価値がほとんどなく、実際には、歴史とは硬直的な組織的思考と変わりようのない行動につながるような、恐れるべきなにものかであると信じている。

 もう一つの学派、ここではテーマ上、しかし勝手に批判者たちと分類した学派は全体として、組織の過去には現在ならびに継続的な戦略上の価値があることを断固として否定する経路依存派に反駁している。〔批判者たちは〕組織の歴史は現在ならびに未来の経営に必要とされる戦略的な資産であると強く主張している。これらの批判者たちの研究と著作は、説得力を持った議論を行うために、頼りがいのある情報源を企業の歴史実務者に対して提供する。

 第2の重要な学びは、歴史の主観的解釈と遺産としてのその適用は、組織の過去の正当性なき利用ではない、ということである。遺産の創造はねつ造とも同一視できない。「歴史は可鍛性のある(訳注:冶金用語。引き延ばしできる、展性のある)ものとして扱わねばならない。かすかにしかし有意に、現在の必要性と認識にそれを適合させる改訂に開かれているべきだ」81。企業の歴史は、複数の解釈を包含するほど十分に幅があり、組織の必要を満たすための構築と再構築が可能である。「歴史、そして伝統と儀礼を通じた歴史の象徴的な発現は、しばしば行動を表現し、動機づけるのに用いられる精巧な発明品である」82。遺産は、「過去を明らかにし、それを現代の文脈(コンテクスト)と目的にかなったものとする」という、解釈プロセスの最終産物である 83。遺産のこういった活用は、企業づくりにおいて歴史を意味深いものにするし、企業の歴史実務家が自分たちのアーカイブズの中身(そして、その延長線で、アーカイブズ機能)を最新かつふさわしいもの(relevant)とし続けることを可能とする。

 最後に。本稿は、企業にとっての過去が持つ財務価値の測定が進む一方、それはまだ進行中の作業であることを示している。企業の歴史がどれだけの貢献を生むか、その金銭価値を把握し定量化する具体的な財務的な計量が明らかになるまでは、懐疑的な経営幹部に対して企業アーカイブズが「なくてはならない」機能であることを納得させられるような、説得力のある、反論の余地のない、戦略的バリュー・ステートメントといったものは願望にとどまるだろう 84

 それにもかかわらず、本稿は、組織による歴史の利用を支持する、強力かつ明白なビジネスの事例が存在することをはっきりと示している。歴史が組織改革やコーポレート・アイデンティティ・ミックスなどの視認性の高いコンセプトに組み込まれている限り、それは戦略上の価値を生む。歴史は遺産の中に継承されて、過去との継続性を示したり、逆に過去に決別する必要性の証拠を提供することによって、組織内外の変遷(transitions)を管理するのに役立つ。それは、アイデンティティ、ブランド、評判、および社内外のコミュニケーション・イニシアティブをサポートする。困難な時期でも自らの歴史を効果的に活用できる組織は、業界、規制当局、顧客、従業員、および一般の人々といった主要なメンバーがどのように〔自分たちの企業を〕認識し、受け入れるのかを方向づける。この目的のために、企業の歴史は競争優位の源泉となり、収益創出活動に貢献することができる。そうすることで、企業アーキビストは組織内の予算獲得において有利なポジションを得るかもしない。

 企業アーキビストにとって、この経営学術文献〔である本稿〕から推論される絶対的な真実とは、まず、理論と実践の両方で、アーカイブズは高い価値を持つ戦略的イニシアティブの基盤であるべきである。そして、第2に、経営学者の知られざる助けを借りて(アーカイブズ)専門職は、かつてないほどにそれ〔アーカイブズは高い価値を持つ戦略的イニシアティブの基盤であること〕を証明できる寸前まで来ており、ニュートロン・ジャック・ウェルチでさえそのことには同意できるだろう。


[注]

1 M. Rowlinson, C. Booth, P. Clark, A. Delahaye, and S. Procter, "Social Remembering and Organizational Memory <社会的に記憶することと組織の記憶>," Organization Studies 31, no. 1 (2010): 69-87.

2 "Neutron Jack Exits <ニュートロン・ジャック退場>," The New York Times, Opinion, September 9, 2001, www.nytimes.com/2001/09/09/opinion/neutron-jack-exits.html; J. Holusha, "A Softer 'Neutron Jack' at G.E. <ゼネラル・エレクトリック社のもっとソフトな「ニュートロン・ジャック」>," The New York Times, Business Day, March 4, 1992, www.nytimes.com/1992/03/04/business/a-softer-neutron-jack-at-ge.html.

3 E. E. Bergsma, "Managing Value: The New Corporate Strategy <価値を管理する:新しい企業戦略>," The McKinsey Quarterly (Winter 1989): 64. Bergsmaがコーポレート・センターのリストラクチャリングの当時最新の事例としたのは、企業立て直しコンサルタントである英国のHanson社がアメリカの複合企業SCMを1986年に買収し、即座に資産はがしを開始した時のことである。特に、そのコーポレート・センターの人員を250人から25人に、90パーセント削減したことを含む。

4 A. Delahaye, C. Booth, P. Clark, S. Procter, and M. Rowlinson, "The Genre of Corporate History <企業史に関する>," in "Historical Approaches in Organizational Research <組織の研究における歴史的アプローチ>," special issue <特別号>, Journal of Organizational Change Management 22, no. 1 (2009): 27-48. この研究によると、〔会社史に関するウェブページの〕文章は創業者とリーダーたちに焦点を当てており、まるで聖人の伝記のようであることが多かった。それは叙述というよりはむしろ、関連性の低いいくつかの出来事を並べただけの形式であった。そしてそのような文章は国民的な年代記という枠組みと結びついて、コンテンツを国民的な文脈の中に置くことによって、読者の理解を容易にし、その企業を国民的企業と同一化させることになった。最後に、そしてこの研究の著者たちはこのことに驚いているようなのだが、企業史コンテンツというものは、一般的にはビジネスでの成功を目的とするものであった。しかし、こういった特徴の多くは、実際の「企業情報」ウェブページを見てみれば、簡単にわかることである。そういった「企業情報」ページの第1の使命は、観客に対して影響を与えるために技術を利用し、素早く断片的であるというインターネットの性質に合わせてコンテンツを提供し、コストをかけずに利益を生むことである。本研究の著者たちは、〔彼らの研究が〕コンテンツの宣伝的な面にのみ焦点を絞ることによって、聖人の伝記のような成功物語の中に、企業史の戦略上の最高価値が必ずしもあるわけではない、という事実を見過ごしているようにみえる。

5 J. T. Seaman Jr. and G. D. Smith, "Your Company's History as a Leadership Tool <リーダーシップ・ツールとしての貴社の歴史>," Harvard Business Review (December 2012): 45-52.

6 R. Hower, "The Preservation of Business Records <経営文書の保存>," Bulletin of the Business Historical Society, 11 nos. 3-4 (1937): 37-83; W. Overman, "The Pendulum Swings <振り子の揺れ>," The American Archivist 22 (1959): 4ff.; H. Davidson, "The Indispensability of Business Archives <ビジネス・アーカイブズの必要不可欠性>," The American Archivist, 30, no. 4 (1967): 593-97; G. White, "The Business Historian and His Sources <経営史学者と彼の原資料>," The American Archivist 30, no. 1 (1967): 19-32; J. Simmons, "Business Records in the Company Archives <企業アーカイブズにおける経営文書>," Special Libraries 59 (1968): 20-23; O. L. Burnette Jr., Beneath the Footnote, A Guide to the Use and Preservation of American Historical Sources <脚注の下:米国の歴史資料の利用と保存ガイド> (Madison: State Historical Society of Wisconsin, 1969); G. D. Smith and L. Steadman, "Present Value of Corporate History <企業史の現在的価値>," Harvard Business Review 59 (1982): 164-73; G. D. Smith, "Dusting Off the Cobwebs: Turning the Business Archives into a Managerial Tool <クモの巣をはらう:ビジネス・アーカイブズを経営ツールに変える>," The American Archivist 45, no. 3 (1982): 287-90. これらの論文のいくつかは、過去数十年にわたる企業アーカイブズ設立の周期的な性格、特に1950年代と1970年代の急発展、そして1960年代と1980年代の衰退に言及している。 D. Smith, "An Historical Look at Business Archives <ビジネス・アーカイブズの歴史的概観>," The American Archivist 45, no. 3 (1982): 273-78; P. Mooney, "The Practice of History in Corporate America: Business Archives in the United States <コーポレート・アメリカにおける歴史の実務:米国におけるビジネス・アーカイブズ>," in Public History: An Introduction, ed. B. Howe and E. Kemp (Malabar, Fla.: Robert E. Krieger Publishing Co., 1986); E. Adkins, "The Development of Business Archives in the United States: An Overview and a Personal Perspective <米国におけるビジネス・アーカイブズの発展:概観と個人的な視点>," The American Archivist 60 Winter (1997): 8-33. 1990年代、何人かのアーキビストは歴史の戦略上の価値に関して長年にわたって受け入れられてきたアーカイブズについての公理的な考え方と、現代の企業の現実の間に横たわる断絶という悪い予感に注意を促した。どれほど歴史の実務家たちが力強く主張しようとも、企業の資金担当マネジャーたちはそれらの〔企業アーキビストにとって〕自明の理とされる考え方を共有しなかったし、アーキビストがそれらの自明の理とされる考え方を無批判に受け入れることは、実際には企業アーカイブズ機能を危うくするものと著者たちは記している。P. Mooney, "Archival Mythology and Corporate Reality <アーカイブズの神話と企業の現実>," in The Records of American Business <アメリカ企業の記録>, ed. J. O'Toole (Chicago: Society of American Archivists, 1996): 57-64; G. Rabchuk, "Life after the 'Big Bang': Business Archives in an Era of Disorder <「ビッグバン」後の生活:無秩序の時代におけるビジネス・アーカイブズ>," The American Archivist 60 (Winter 1997): 34-43; P. Lasewicz, "Riding Out the Apocalypse: The Obsolescence of Traditional Archivy in the Face of Modern Corporate Dynamics <この世の終末を乗り切る:現代企業のダイナミクスを前にしての伝統的アーカイブズなるものの陳腐化>," Archival Issues 22, no. 1 (1997): 61-76.

7 S. Levy and A. Robles, "The Image of Archivists: Resource Allocators' Perceptions <アーキビストのイメージ:資源配分者たちの見方>," Study No. 722/01 (Social Research, Inc. 1984). 1985年に書かれたこの報告に対するアメリカ・アーキビスト協会の補遺は、もっと単刀直入なものであった。資源配分者たちはアーカイブズ機能を「ほとんどとるに足らない活動」に分類している。企業内における資金獲得競争で勝てないことはアーカイブズにかぎらず、企業図書館や視聴覚部門でも同様にみられた。以下を参照のこと。Lasewicz, "Riding Out the Apocalypse <この世の終末を乗り切る:現代企業のダイナミクスを前にしての伝統的アーカイブズなるものの陳腐化>." これに関する筆者の考えはBruce Breummer からもたらされたものであり、このことに対して筆者は慎んで感謝する。

8 Seaman Jr. and Smith, "Your Company's History as a Leadership Tool <リーダーシップ・ツールとしての貴社の歴史>"; P. Lasewicz, "Rooted in the Archives: The Contribution of Corporate Heritage to the IBM Brand <アーカイブズに根を下ろして:IBMブランド形成に寄与する、過去の経験という遺産>," in Sekai no Bijinesu Akaibuzu: Kigyo Kachi no Gensen <『世界のビジネス・アーカイブズ:企業価値の源泉』> (Leveraging Corporate Assets: New Global Directions for Business Archives <企業資産を活用する:ビジネス・アーカイブズのための新しいグローバルな方向>) (東京:日外アソシエーツ, 2012), chap. 3.

9 1990年代半ば、James O'Toole編集の The Records of American Business <『アメリカ企業の記録』>は、「企業の使命において、なくてはならない歴史の役割とは何か」について、企業幹部がどのように考えているのか把握しようとした。その努力が最も顕著だったのが、組織の過去の戦略上の価値を数値化することができなかったことに関する説明である。デュポン社の元CEOは、経営の文書記録の社会的価値に焦点を絞り、「歴史は利益には寄与しない」と敗北を認めた。あるKraft Foodsの経営幹部は、コスト回避と情報品質の向上という観点から、戦略上の価値よりもプロセスの効率性について語っている。アーキビストにとっての財政的正当化としてのコスト回避というこの概念は、長い間企業アーカイブズ関連の著作や実務におけるメインの考え方であった。以下を参照のこと。D. Gardner, "Commentary II <コメント2>," The American Archivist 45, no. 3 [1982]: 294-95. しかし、この考え方は、コスト削減よりも収益増大のための投資を優先する、現代の経営幹部にはたいして影響を与えない。また、企業アーカイブ立ち上げを主張したフィリップ・モリス社CEOは、その価値を戦略上のものではなく、大部分歴史的なものとした。O'Toole, The Records of American Business, chap. 4.

10 アーキビストが経営幹部の読んでいるものを理解することの重要性は、30年前にフォード社アーカイブズのディレクターがわずかに言及したのみで、探求されないまま残された。D. Bakken, "Corporate Archives Today <今日の企業アーカイブズ>," The American Archivist 45, no. 3 (1982): 279-86. 筆者は、アルバータ大学のWilliam M. Fosterとキングズ・ユニバーシティ・カレッジのElden Wiebeに深く感謝する。かれらは筆者に、経営学界における組織の過去の価値というテーマの探求について紹介してくれたからである。かれらの同僚に対する惜しみない協力は、筆者がこの文献を発見するのを早めてくれた。

11 次にあげるのはこれらの適切な用語のリストである(順不同)。reputation <評判>, status <ステータス>, historical legacy <歴史的遺産>, path dependence <経路依存>, positive association <プラスの関係>, negative association <マイナスの関係>, institutional theory <制度理論>, institutional story <組織の物語>, symbolic resources <象徴的資源>, social remembering <社会的想起>, organizational memory <組織の記憶>, collective memory <集合的記憶>, organizational mnemonics <組織的記憶術>, social memory studies <社会的記憶研究>, collective memory <集合的記憶>, collective identity <集団的アイデンティティ>, sense-making <意味付与>, sensegiving <意味付与>, revisionist history <修正主義の歴史>, rhetorical history <修辞学的歴史>, schematic narrative <図式的語り>, forgetting <忘却>, corporate identity <企業アイデンティティ>, corporate heritage identity <企業の遺産アイデンティティ>, corporate brand <企業ブランド>, corporate heritage brand <企業の遺産ブランド>, corporate reputation <企業の評判>, corporate expression <企業の表現>, brand promise <ブランド・プロミス=ブランドへの期待>, brand personality <ブランド・パーソナリティ>, brand image <ブランド・イメージ>, brand experience <ブランド体験>, brand relationships <ブランド・リレーションシップ>, brand communities <ブランド・コミュニティ>, corporate identity mix <コーポレート・アイデンティティ・ミックス>, corporate brand belief <企業ブランドの信念>, corporate character <企業キャラクター>, legitimacy <正当性>, facticity <事実性>, nostalgia <ノスタルジア>, synthetic authenticity <合成した真正性>, authenticity <真正性>, organizational identity <組織アイデンティティ>, packaged past<パッケージ化された過去>, decentering <脱中心化>, recentering <再中心化>, emotional crafting <感情を呼び起こすこと>, re-presenting <再提示すること>, invented tradition <創造された伝統>, brand community <ブランド・コミュニティ>, brand heritage <ブランド・ヘリテージ>, cultural heritage <文化遺産>, heritage quotient <ヘリテージ指数>, rare resources <希少資源>.

12 そのレビューから最初に得られることの一つは、このトピックについて執筆している学者たちが使用する用語の幅広さと多様性が驚異的だということである。組織の過去の利用に関して55の異なる概念が特定された。R. Abratt and N. Kleyn, "Corporate Identity, Corporate Branding and Corporate Reputations: Reconciliation and Integration <企業アイデンティティ、企業ブランディング、企業の評判:和解と統合>," European Journal of Marketing 46, nos. 7-8 (2012): 1048-63; C. Fombrun and C. Van Riel, "The Reputational Landscape <評判に関わるランドスケープ>," Corporate Reputation Review 1, nos. 1-2 (1997): 5-13. 同様に印象的なことなのだが、これらの用語に関連し、ビジネスの基本的な概念についての定義上のコンセンサスが、学者の間で欠如している。特に、これらの用語の多くは普遍的に受け入れられているというよりは、それぞれ私的に独占されているように見え、複数の著者が使用しているものでさえ、めったに同じことを意味しないことに留意されたい。例えば、本稿が検討した評判の概念を扱う43の論文のうち、19の論文しか「評判」を定義しておらず、複数回引用されるものは皆無であった。つまり、19の特定の定義のうち、どれひとつとして、他の著者が用いるのに十分実用的であるとみなされるものはない、ということである。同様に、文献では何が企業ブランドを構成するのかに関してほとんど合意がない。幸いなことに、本稿の目的のためには、用語がもつ大きな共通性─企業の歴史実務者が行う仕事に対する新しい見方─に比べれば、用語の意味や定義方法は、重要ではない。Abratt and Kleyn, "Corporate Identity, Corporate Branding and Corporate Reputations <企業アイデンティティ、企業ブランディング、企業の評判>."

13 驚くべきことではないが、何人かの著者は最近、経路依存およびそれに関連する理論における主要概念をめぐって定義の明確化を求めた。J. Sydow, G. Schreyogg, and J. Koch, "Organizational Path Dependence: Opening the Black Box <組織的経路依存:ブラックボックスを開く>," Academy of Management Review 34, no. 4 (2009): 689-709.

14 これは必然的に文献の中にみられる一般的な見解を要約した特徴であるが、何年かにわたって矛盾した例がいくつか見受けられる。たとえば、1965年にArthur Stinchcombeは、企業の創業時の状態がその後の性格、実務、価値観、伝統に与える影響について仮説を立てた。R. Suddaby, W. Foster, and C. Quinn Trank, "Rhetorical History as a Source of Competitive Advantage <競争優位の源泉としての修辞的歴史>," Advances in Strategic Management 27 (2010): 147-73.

15 P. A. David, "Clio and the Economics of QWERTY <クリオとQWERTYの経済学>," American Economic Review Proceedings 75, no. 2 (1985): 332-7; W. B. Arthur, "Competing Technologies, Increasing Returns, and Lock-In by Historical Events <歴史的イベントによる競合技術、利益拡大、ロックイン(固定化)>," The Economic Journal 99, no. 394 (1989): 116-31.

16 P. Garrouste and S. Iannids, Evolution and Path Dependence in Economic Ideas: Past and Present <経済思想における進化と経路依存:過去と現在> (Northampton, Mass.: Edward Elgar, 2001), chap. 1.

17 David, "Clio and the Economics of QWERTY <クリオとQWERTYの経済学>." 後の研究では、QWERTYキーボードが実際には市場による論理的な選択であるという点で、Davidの解釈は本質的に欠陥があるという議論がなされた。S. J. Liebowitz and S. Margolis, "The Fable of the Keys <キーの寓話>," Journal of Law and Economics 33, no. 1 (1990): 1-25.

18 Arthur, "Competing Technologies, Increasing Returns, and Lock-In by Historical Events <歴史的イベントによる競合技術、利益拡大、ロックイン>." 収益増加に関する経済理論(経路依存の原則)によれば、システムの初期の歴史で起きた小さな事故は平均化されず、その進化に劇的に影響する。経路依存システムは、4つの特記項目を示す:1)経路依存プロセスは非効率的であり得る(すなわち、実行される経路は必ずしも経路効率的ではない)。 2)予測不可能な結果が可能である。 3)経路依存プロセスは柔軟性がない(すなわち、ロックインが展開され、事象の現れが以前の出来事に依存する)。 4)〔時間平均と集合平均が一致しない〕非エルゴード性が優勢である(すなわち、不可逆経路を作り出すための小さなイベントの役割)。組織の歴史が重要であるというこの認識自体は、学問上の大きな転換であった。このような認識が現れる以前は、競争優位に関する大方の環境モデルにとって、「企業の業績は、企業の特定の歴史や他の特異な属性とは無関係に理解することができる」というものであった。W. B. Arthur, Increasing Returns and Path Dependence in the Economy <経済における利益拡大と経路依存> (Ann Arbor: University of Michigan Press, 1994), chap. 2. 注目すべきは、近年、経路依存理論の支持者は、経営活動をより包括的にすることによって、その概念の非常に機械的に決定論的な側面を緩和しようと試みたことである。B. Demil, X. Lecocq, and F. Carlo Wezel, "'The Curse of the Follower': Path Dependency and Its Consequence in the Role Playing Game Industry <フォロワーの呪い:ロールプレイングゲーム業界における経路依存とその結果>" (working paper, 2008), lem.cnrs.fr/Portals/2/actus/DP_200803.pdf; J. Barney, "Firm Resources and Sustained Competitive Advantage <会社資源と持続的な競争優位>," Journal of Management 17, no. 1 (1991): 99-120; Sydow et al., "Organizational Path Dependence: Opening the Black Box <組織的経路依存:ブラックボックスを開く>"; J-P. Vergne and R. Durand, "The Path of Most Persistence: An Evolutionary Perspective on Path Dependence and Dynamic Capabilities <最も永続的な経路:経路依存とダイナミックな能力に関する進化的な視点," Organization Studies 2011: 1-18. ある研究では、ベータ/ VHS戦争の経路依存の結論に異議を唱え、両方の形式は本質的に同等であり、市場のVHS選択はより長い時間録音できるという性能に基づいた論理的かつ効率的なものであると主張した。S. J. Liebowitz and S. Margolis, "Path Dependence, Lock-in, and History <経路依存、ロックイン、歴史>," Journal of Law, Economics, and Organization 11, no. 1 (1995): 205-26.

19 経路依存の論理は、支配的な技術の出現と持続、科学理論、空間凝集、組織集団の進化、および戦略的持続性に正当性を提供するために適用されてきた。Demil et al., "'The Curse of the Follower <フォロワーたちの呪い>.'"

20 C. A. Bartlett and Sumatra Ghoshal, "Administrative Heritage <行政上の遺産>," The McKinsey Quarterly (Winter 1990): 31. この記事は、国際組織の経営に関するもっと長文の作品の一部であるが、企業は似たような超国家的な形態に向かいつつある一方、それらの将来の形態への道筋は異なっている。これは「過去の選択の重さ」でロックイン(固定化)されてしまい、戦略上ならびに事業上の諸決定が、それぞれ異なった特別な挑戦を生み出すからである。

21 G. Schreyögg, J. Sydow, and P. Holtmann, "How History Matters in Organisations: The Case of Path Dependence <組織における歴史の重要性:経路依存の場合>," Management and Organizational History 6 (2011): 81-100; I. Greener, "Theorising Path Dependence: How Does History Come to Matter in Organizations, and What Can We Do about It? <経路依存を理論化する:組織の歴史はどのように重要になるのか、それについて何ができるか?>" (working paper, 2004), Ideas, ideas.repec.org/p/wrc/ymswp1/3.html; S. Becker and H. Hvide, "Do Entrepreneurs Matter? <起業家は重要か?>," IZA Discussion Paper, no. 7146 (2013).

22 Suddaby et al, "Rhetorical History as a Source of Competitive Advantage <競争優位の源泉としての修辞的歴史>."

23 Suddaby et al, "Rhetorical History as a Source of Competitive Advantage <競争優位の源泉としての修辞的歴史>."

24 W. Foster, R. Suddaby, A. Minkus, and E. Wiebe, "History as Social Memory Assets: The Example of Tim Hortons <社会的記憶資産としての歴史:ティム・ホートンズの例>," Management and Organizational History 6, no. 1 (2011): 101-20. 興味深いことに、1990年代には遺産に関わる産業に関し、同様の学術的な論争が展開した。この論争では、自分たちの過去についての関心を高めつつあった歴史の古い国々は、保守的あるいは未来を直視できないものとみなされるか、あるいは逆に積極的、熱心に「自分たちの起源と未来を問う」ことがうまくできるものとみなされた。T. Strangleman, "The Nostalgia of Organization and the Organization of Nostalgia: Past and Present in the Contemporary Railway Industry <組織のノスタルジアとノスタルジアの組織:現代鉄道業の過去と現在>," Sociology 33, no. 4 (1999): 725-46.

25 経路依存が歴史をどのように見ているかについてのこの解釈は、過度に脱構築的であると議論できる。というのは、経路依存の理論家は、事実上、ビジネス界に過去を知ることの重要性を復活させた。これは実は正確な主張である。しかし、経路依存の理論家たちが言うように、過去を知ることと戦略的に過去を利用すること(再度定義すると競争優位を生み出すものとして)には違いがある。経路依存の理論家たちは後者すなわち利用することは不可能と感じている。この違いは組織の優位性のために会社の歴史を活用する者たちの視点からは、なぜ経路依存が根本において歴史嫌いの概念であるのか理解するのに重要である。

26 現在のハーバード・スクール・オブ・ビジネスの学長であるNitan Nohriaは、経路依存について書いている。M. C. Moldoveanu, N. Nohria, and H. H. Stevenson, "The Path-Dependent Evolution of Organizations <組織の経路依存的進化>," Harvard Business School Working Paper, No. 96-005, August 1995. ベルリン自由大学には経路依存研究センターがある。このトピックはカーネギー・メロンのテッパー・ビジネス・スクールのコースワークでも触れられている。以下も参照のこと。Bartlett and Ghoshak, "Adminstrative Heritage <行政的遺産>." さらに、経路依存の理論家たちは、幅広い分野で活発に研究と執筆活動を続けている。そのため企業経営に対する彼らの影響は、企業の歴史実務者が取り組むべき課題として今後数十年間残されている。

27 本稿の目的からすると、エコノミストの視点からの経路依存を採用する者たちを批判者たちには含まない。この種の批判的研究の例はLiebowitz and Margolis, "Path Dependence, Lock-in, and History <経路依存、ロックイン、歴史>," and R. Garud and P. Karnoe, "Path Creation as a Process of Mindful Deviation <注意深い逸脱過程としての経路創造>," in Path Dependence and Creation <経路依存と創造>, ed. R. Garud and P. Karnoe (Mahwah, N.J.: Earlbaum, 2001). 「歴史的転換」という語句はP. ClarkとM. Rowlinson に帰すことができる。P. Clark and M. Rowlinson, "The Treatment of History in Organisation Studies: Towards an 'Historic Turn'? <組織研究における歴史の扱い:「歴史的転換」?>," Business History 46, no. 3 (2004): 331-52.

28 Suddaby et al., "Rhetorical History as a Source of Competitive Advantage <競争優位の源泉としての修辞的歴史> "; O. Brunninge, "Using History in Organizations: How Managers Make Purposeful Reference to History in Strategy Processes <組織の中で歴史を使う:経営者が戦略プロセスにおいて歴史を目的としたものにする方法>," Journal of Organizational Change 22, no. 1 (2009): 8-26;

29 Brunninge,"Using History in Organizations <組織の中で歴史を使う>"; Suddaby et al., "Rhetorical History as a Source of Competitive Advantage <競争優位の源泉としての修辞的歴史>." 他の著者たちは、ある特定の学問分野が本質的に歴史に価値を置こうとしないことを示している。 ある著者は、社会学者たちの歴史の価値についての専門的な懐疑を批判した。その結果、「ほとんどの組織研究では、アーカイブズは組織の記憶の一部とは見なされていない」。M. Rowlinson and J. Hassard, "The Invention of Corporate Culture: A History of the Histories of Cadbury <企業文化の発明:複数のキャドバリーの歴史に関するある一つの歴史>," Human Relations (HR) 46 (1993): 299-26. 別の著者は、経営学者たちを「歴史をただその不適切さを描くためだけに」利用していると非難した。R. Stager Jacques, "History, Historiography and Organization Studies: The Challenge and the Potential <歴史、歴史編纂と組織研究:挑戦と可能性>," Management and Organizational History 1 (2006): 31-48. そして3番目の著者は、経営学は数十年間「基本的に没歴史的な研究」によって支配されてきた指摘している。Brunninge, "Using History in Organizations <組織の中で歴史を使う>."

30 G. Dowling, "How Good Corporate Reputations Create Corporate Value <企業の評判の良さはどのように企業価値を創造するか>," Corporate Reputation Review 9, no. 2 (2006): 134-43.

31 K. Wiedmann, N. Hennigs, S. Schmidt, and T. Wuestefeld, "The Importance of Brand Heritage as a Key Performance Driver in Marketing Management <マーケティング・マネジメントにおける主要業績けん引役としてのブランド遺産の重要性>," Journal of Brand Management 19 (2011): 182-94.

32 E. Blankespoor, G. Miller, and H. White, "Dissemination, Direct-Access Information Technology and Information Asymmetry <普及、直接アクセス情報技術と情報の非対称性>," Working Paper Series no. 135, Rock Center for Corporate Governance, Stanford University (2013).

33 この論文はアメリカン・エクスプレスに焦点を絞っているが、ソーシャル・メディアにおいて活発な他の企業アーキビストも同様に肯定的な結果を示している。Christopher Heine, "AmEx's Social Data Shows that Nostalgia Is Just Swell: 19th-Century Pics Push Engagement through the Roof <アメックスのソーシャル・データによるとノスタルジアは増加するばかりである:19世紀の写真が価格高騰によってファンの背中を押す>," Adweek, October 11, 2013, www.adweek.com/news/technology/amexs-social-data-shows-nostalgia-just-swell-153053#!ソーシャル・メディア指標の紹介には、次を参照のこと。L. Poston, Social Media Metrics for Dummies <なんにもわからない人のためのソーシャル・メディア指標> (Hoboken, N.J.: John Wiley and Son, 2012).

34 Brunninge, "Using History in Organizations <組織の中で歴史を使う>"; C. S. Ooi, "Persuasive Histories: Decentering, Recentering and the Emotional Crafting of the Past <説得力のある歴史:脱中心化、再中心化、そして過去の感情的な形成>," Journal of Organizational Change Management 15, no. 6 (2002): 606-21.

35 Dowling, "How Good Corporate Reputations Create Corporate Value <企業の評判の良さはどのように企業価値を創造するか>."

36 Weber Shandwick, "The Company behind the Brand: In Reputation We Trust--Parts 1, 2, 3 <ブランドの後ろにある企業:我らは評判を信ず─第1、2、3部" (2012).

37 Smith and Steadman, "Present Value of Corporate History <会社史の現在的価値>." この哲学上の相違の例は、2004年〜2005年のアメリカ・アーキビスト協会の「レーズンゲート」論議に関するリチャード・コックスの意見に明白である。「アーキビストやレコード・マネジャーとして機能する個人が、プロフェッショナルな倫理や使命感を実践しながら、現実的な方法で企業環境でどのように働くことができるのか、興味をそそられている」The American Archivist 68 (Spring/Summer 2005): 10.

38 D. Lowenthal, "Fabricating Heritage <遺産をねつ造する>," History and Memory 10, no. 1 (1998): 5-24.

39 Suddaby et al., "Rhetorical History as a Source of Competitive Advantage <競争優位の源泉としての修辞的歴史>."

40 Brunninge, "Using History in Organizations <組織の中で歴史を使う>"; Strangleman, "The Nostalgia of Organization and the Organization of Nostalgia <組織のノスタルジアとノスタルジアの組織>."

41 J. M. T. Balmer, "Corporate Heritage Identities, Corporate Heritage Brands and the Multiple Heritage Identities of the British Monarchy <企業の遺産アイデンティティ、企業遺産ブランド、そして英国君主制の複数の遺産アイデンティティ>," European Journal of Marketing 45, nos. 9-10 (2011): 1380-98; Suddaby et al., "Rhetorical History as a Source Of Competitive Advantage <競争優位の源泉としての修辞的歴史>."

42 Ooi, "Persuasive Histories <説得力のある歴史>."

43 J. Olick and D. Levy, "Collective Memory and Cultural Constraint: Holocaust Myth and Rationality in German Politics <集団記憶と文化的制約:ドイツ政治におけるホロコーストの神話と理性>," American Sociological Review 62 (1997): 921-36; "Building Belief: A New Model for Activating Corporate Character and Authentic Advocacy <信念の構築:企業のキャラクターと真のアドボカシーを活性化させる新しいモデル>," Arthur W. Page Society (2012); D. Gioia, M. Schultz, and K. G. Corley, "Organizational Identity, Image, and Adaptive Instability <組織アイデンティティ、イメージ、そして適応可能な不安定さ>," Academy of Management Review 25, no. 1 (2000): 63-81.

44 D. Gioia, K. Corley, and T. Fabbri, "Revising the Past (While Thinking in the Future Perfect Tense) <過去を改訂する(未来完了形で考えながら)>," Journal of Organizational Change Management 15, no. 6 (2002): 622-34.

45 Brunninge, "Using History in Organizations <組織の中で歴史を使う>."

46 J. Olick, "Between Chaos and Diversity: Is Social Memory Studies a Field? <混沌と多様性の間で:社会的記憶研究は一つの分野ですか?>," International Journal of Politics, Culture and Society 22 (2009): 249-52; Rowlinson et al., "Social Remembering and Organizational Memory <社会的に記憶することと組織の記憶>."

47 L. Cutcher, "Creating Something: Using Nostalgia to Build a Branch Network <何かを創造する:ノスタルジアを使って支店ネットワークを構築する>," Journal of Consumer Culture 8 (2008): 369-87; M. Suchman, "Managing Legitimacy: Strategic and Institutional Approaches <正当性の管理:戦略的・制度的アプローチ>," The Academy of Management Review 20, no. 3 (1995): 571-610; J. Liedtka, "Strategy Making and the Search for Authenticity <戦略作りと真正性の探求>," Journal of Business Ethics 80 (2008): 237-48; Seaman Jr. and Smith, "Present Value of Corporate History <企業史の現在的価値>."

48 D. Gioia and K. Chittipeddi, "Sensemaking and Sensegiving in Strategic Change Initiation <戦略的な変化始動における意味の創造と意味の提供>," Strategic Management Journal 12, no. 6 (1991): 433-48.

49 D. Ravasi and M. Schultz, "Responding to Organizational Identity Threats: Exploring the Role of Organizational Culture <組織アイデンティティの脅威への対応:組織文化の役割を探る>," The Academy of Management Journal 49, no. 3 (2006): 433-58.

50 R. Suddaby, "Challenges for Institutional Theory <制度理論のための挑戦>," Journal of Management Inquiry 19, no. 1 (2010): 14-20.

51「同社が発明した文化の成功は、経営史学者も企業文化に関するライターたちも同じように、同社が構築した歴史を受け入れ続けていることに表れている。」Rowlinson and Hassard, "The Invention of Corporate Culture: A History of the Histories of Cadbury <企業文化の発明:複数のキャドバリーの歴史に関するある一つの歴史> ."

52 Ravasi and Schultz, "Responding to Organizational Identity Threats <組織アイデンティティの脅威への対応>."

53 Brunninge, "Using History in Organizations <組織の中で歴史を使う>."

54 Seaman Jr. and Smith, "Your Company's History as a Leadership Tool <リーダーシップ・ツールとしての貴社の歴史>."

55 Lasewicz, "Rooted in the Archives <アーカイブズに根を下ろして>."

56 Strangleman, "The Nostalgia of Organization and the Organization of Nostalgia <組織のノスタルジアとノスタルジアの組織>."

57 Brunninge, "Using History in Organizations <組織の中で歴史を使う>"; Rowlinson and Hassard, "The Invention of Corporate Culture <企業文化の発明>"; P. Connerton, "Seven Types of Forgetting <忘却の七つのタイプ>," Memory Studies 1, no. 1 (2008): 59-71.

58 Ravasi and Schultz, "Responding to Organizational Identity Threats <組織アイデンティティの脅威への対応>."

59 D. Martin, "Corporate Reputation: Reputational Mythraking <企業の評判:評判に関わる神話のかき集め>," Journal of Business Strategy 25, no. 6 (2004): 39-44.

60 Barney, "Firm Resources and Sustained Competitive Advantage <会社資源と持続的な競争優位>"; Abratt and Kleyn, "Corporate Identity, Corporate Branding and Corporate Reputations <企業アイデンティティ、企業ブランディング、企業の評判>"; J. Morin, "Creating Authenticity in an Increasingly Distrustful World <不信感が増大しつつある世界において真正性を創造する>," The Journal for Quality and Participation 33, no. 1 (2010): 22-24; Balmer, "Corporate Heritage Identities, Corporate Heritage Brands and the Multiple Heritage Identities of the British Monarchy <企業の遺産アイデンティティ、企業遺産ブランド、そして英国君主制の複数の遺産アイデンティティ>"; C. Fombrun and M. Shanley, "What's in a Name? Reputation Building and Corporate Strategy <名前の意味すること:評判の構築と企業戦略>," The Academy of Management Journal 33, no. 2 (1990): 233-58; M. Washington and E. Zajac, "Status Evolution and Competition: Theory and Evidence <地位の進化と競争:理論と証拠>," Academy of Management Journal 48, no. 2 (2005): 282-96; Gioia et al., "Revising the Past (While Thinking in the Future Perfect Tense) <過去を改訂する(未来完了形で考えながら)>"; Foster et al., "History as Social Memory Assets <社会的記憶資産としての歴史>"; M. Urde, "Core Value-Based Corporate Brand Building <基本的価値観を基にした企業ブランド構築>," European Journal of Marketing 37, nos. 7-8 (2003): 1017-40.

61 K. Money, S. Rose, and C. Hillenbrand, "The Impact of the Corporate Identity Mix on Corporate Reputation <コーポレート・アイデンティティ・ミックスの企業の評判に対する影響>," Brand Management 18, no. 3 (2010): 197-211.

62 Washington and Zajac, "Status Evolution and Competition <地位の進化と競争>."

63 P. Firestein, "Building and Protecting Corporate Reputation <企業の評判を構築し保護する>," Strategy and Leadership 34, no. 4 (2006): 25-31.

64 Gioia et al., "Revising the Past (While Thinking in the Future Perfect Tense) <過去を改訂する(未来完了形で考えながら)>"; Page Society, "Building Belief <信念の構築>"; Gioia et al., "Organizational Identity, Image, and Adaptive Instability <組織アイデンティティ、イメージ、そして適応可能な不安定さ>."

65 Abratt and Kleyn, "Corporate Identity, Corporate Branding and Corporate Reputations <企業アイデンティティ、企業ブランディング、企業の評判>."

66 U. Hakala, S. Latti, and B. Sandberg, "Operationalising Brand Heritage and Cultural Change <ブランド遺産と文化変容を操作する>," Journal of Product and Brand Management 20, no. 6 (2011): 447-56; M. Urde, S. A. Greyser, and J. M. T. Balmer, "Corporate Brands with a Heritage <遺産を持つ企業ブランド>," Journal of Brand Management 15, no. 1 (2007): 4-19; Rowlinson and Hassard, "The Invention of Corporate Culture: A History of the Histories of Cadbury <企業文化の発明:複数のキャドバリーの歴史に関するある一つの歴史>."

67 Wiedmann et al., "The Importance of Brand Heritage as a Key Performance Driver in Marketing Management <マーケティング・マネジメントにおける主要業績けん引役としてのブランド遺産の重要性>"; Barney, "Firm Resources and Sustained Competitive Advantage <会社資源と持続的な競争優位>"; Liedtka, "Strategy Making and the Search for Authenticity <戦略作りと真正性の探求>"; Morin, "Creating Authenticity in an Increasingly Distrustful World <不信感が増大しつつある世界において真正性を創造する>."

68 Lasewicz, "Rooted in the Archives <アーカイブズに根を下ろして>."

69 Ooi, "Persuasive Histories <説得力のある歴史>."

70 Firestein, "Building and Protecting Corporate Reputation <企業の評判を構築し保護する>."

71 M. Beverland, "The 'Real Thing': Branding Authenticity in the Luxury Wine Trade <「本当のもの」:高級ワイン商いにおけるブランディングの真正性>," Journal of Business Research 59 (2006): 251-58.

72 Cutcher, "Creating Something <何かを創造する>."

73 B. T. Hudson, "Brand Heritage and the Renaissance of Cunard <ブランド遺産とキュナード社の復興>," European Journal of Marketing 45, nos. 9-10 (2011):1538-56. もう一つの研究は、ニューメキシコ州のサンタ・フェ市が、1912年に条例によって、サンタ・フェ・スタイルとして知られるようになったものを意図的に作り出したことを指摘している。これは、すべての新築の建物は、ある部分では正確ではあるがまだ一般には普及していない、ローカルな歴史的特徴を持つように、と定めるものであった。過去のこのような再解釈は、年が経つにつれて、「新しく」、さらに均質な過去を作り出した。あるひょうきんな人物は「サンタ・フェは、そうなるべきであったものになりつつある場所だ」と述べている。「未来の地点から考えてみると、未来が到来した時、私たちは過去の解釈に影響を与えることができる。」<過去を改訂する(未来完了形で考えながら)>".

74 IBM社内文書。

75 Foster et al., "History as Social Memory Assets <社会的記憶資産としての歴史>."

76 W. Foster and C. Hyatt, "Inventing Team Tradition: A Conceptual Model for the Strategic Development of Fan Nations <チームの伝統を発明する:ファン・ネーションの戦略的開発のための概念モデル>," European Sport Management Quarterly 8, no. 3 (2008): 265-87.

77 D. Holt, "Jack Daniel's America : Iconic Brands as Ideological Parasites and Proselytizers <ジャック・ダニエルズのアメリカ:イデオロギー的寄生虫そして伝道者としての象徴的ブランド," Journal of Consumer Culture 6 (2006): 355-77.

78 Foster et al., "History as Social Memory Assets <社会的記憶資産としての歴史>"; D. D. Muehling and D. E. Sprott, "The Power of Reflection: An Empirical Examination of Nostalgia Advertising Effects <アイデアのちから:ノスタルジア広告効果の実証的検討>," Journal of Advertising 33, no. 3 (2004): 25-35; Holt, "Jack Daniel's America <ジャック・ダニエルズのアメリカ>." Holt は、ブランドがアメリカン・フロンティアのような社会文化的制度の強力な換喩語となることができた、とまで示唆しているが、その正当性は適切なレベルをはるかに超えている。ここでいう社会文化的制度とは、永遠に失われたと考えられる文化的特徴が現代的に具現化されたものである。この具現化は、そのような〔永遠に失われたと考えられる社会文化的〕特徴を過去の中に滑り込ませている社会に、ブランドをアピールする。

79 Urde et al., "Corporate Brands with a Heritage <遺産を持つ企業ブランド>"; Balmer "Corporate Heritage Identities, Corporate Heritage Brands and the Multiple Heritage Identities of the British Monarchy <企業の遺産アイデンティティ、企業遺産ブランド、そして英国君主制の複数の遺産アイデンティティ>."

80 Mooney, "The Practice of History in Corporate America <コーポレート・アメリカにおける歴史の実務>."

81 Gioia et al., "Revising the Past (While Thinking in the Future Perfect Tense) <過去を改訂する(未来完了形で考えながら)>."

82 Brunninge, "Using History in Organizations <組織の中で歴史を使う>; Rowlinson and Hassard, "The Invention of Corporate Culture <企業文化の発明>."

83 Urde et al., "Corporate Brands with a Heritage <遺産を持つ企業ブランド>."

84 IBMが100周年の年に、景気後退の局面にもかかわらず、過去最高の収入と収益を上げたという事実は、遺産コンテンツを戦略的に用いることによって得られる財政的影響を強く示唆している。 しかし、問われるべきなのは、この財務的影響が複製可能なのかどうかである。


【訳者注】

 著者は世界有数のコンサルティング会社マッキンゼーのアーキビスト、ポール・C・ラーサウィッツです(詳しくは上記「著者について」参照のこと)。本稿の元になったのは2013年4月14~16日にスイス・バーゼルのロシュ社アーカイブズで開催された国際アーカイブズ評議会(ICA)企業労働アーカイブズ部会(SBL)〔現在は組織と名称変更があり企業アーカイブズ部会(SBA)〕国際シンポジウム「危機、信頼性、会社史」Crises, credibility and corporate history におけるプレゼンテーション「象牙の塔からの眺め:企業の歴史と遺産に関する戦略上の価値についての学術的見方」 The View from the Ivory Tower: the academic perspective on the strategic value of corporate history and heritage です。このプレゼンテーションはその後同シンポジウムの会議録に収められ、リバプール大学出版からICAスタディシリーズの第1巻として2014年に出版されましたThe American Archivist誌に掲載された本稿は、リバプール大学出版より刊行された会議録収録論文の内容に、さらに多数の事例を加え議論を深めたものと言えます。

 本稿では原著のうち、abstract(要約)、key words(キーワード)、本文、notes(注)、about the author(著者について)を訳出しています。原著には4点の図版と図版に関するキャプションが含まれていますが、これらは本稿では省略しています。来年(2018)夏以降キャプション部分の日本語訳を追加掲載予定です。これは、The American Archivist誌は年に2回、紙媒体並びに同協会ウェブサイトでオンライン発行されていますが、最近3巻号分(最近6号分。3年間)のコンテンツへアクセスできるのは会員のみとなっているからです。その期間を過ぎるとオープンアクセスになりますので、本稿原著がオープンアクセスになる2018年春夏号発行時をまって、図版キャプションの日本語訳を本ページに掲載する予定です。原著のコンテンツの再利用は、クリエイティブ・コモンズ 表示--非営利--改変禁止 (CC BY-NC-ND 3.0)アメリカ合衆国版によります

 また、著者の論文のひとつ「アーカイブズに根をおろして:IBMブランド形成に寄与する、過去の経験という遺産」(訳:後藤健夫・後藤佳菜子、株式会社帝国データバンク)は当財団が2012年に発行した『世界のビジネス・アーカイブズ:企業価値の源泉』(日外アソシエーツ)に収録されています。同論文の原著 Rooted in the Archives: The Contribution of Corporate Heritage to the IBM Brand Experience も当財団ウェブページにて公開中です。


【原論文引用のための書誌情報】

Article Citation:
Paul C. Lasewicz (2015) Forget the Past? Or History Matters? Selected Academic Perspectives on the Strategic Value of Organizational Pasts. The American Archivist: Spring/Summer 2015, Vol. 78, No. 1, pp. 59-83.
doi: http://dx.doi.org/10.17723/0360-9081.78.1.59

一覧へ戻る