沿革

渋沢栄一記念財団の沿革(旧財団名 渋沢青淵記念財団竜門社)

わが国近代経済社会の基盤を築いた渋沢栄一(1840~1931、号は青淵[せいえん])の事業と名声が、世の中に広まりつつあった1886(明治19)年4月、東京深川渋沢邸の書生部屋に寄寓していた青年たちが、互いに勉学に努め、成果を発表する会を結成しました。その指導に当たった尾高惇忠(栄一の従兄、1830~1901)が、鯉が滝を登って竜になるという中国の故事に因み、この会を「竜門社」と命名したのが、当財団のはじまりです。

渋沢栄一は、日本の経済界の偉大な指導者であったばかりでなく、信奉する『論語』の思想の実践に努め、自ら力説した「道徳経済合一説」に基く栄一の活動は、個別事業経営の範囲をはるかに超え、経済界の組織化、民間外交・教育・社会福祉の推進などに広がって行きました。

これに伴い、多くの人びとの思慕と共鳴を得て竜門社の集まりも拡大して行き、1909(明治42)年、栄一の助言に従って、会員一同協議の末、主義綱領を定め、社則をつくり、新しい組織として発展の基礎を固めました。その後、1924(大正13)年、竜門社は財団法人となり、栄一の関与する事業の成長と、竜門社を支える人びとの増加と相俟って財政・事業ともに充実し、出版や講演会活動などを通じ、当時のわが国の経済・文化面に大きく貢献することができるようになりました。

1931(昭和6)年、竜門社の活動の支柱であった渋沢栄一が亡くなり、栄一が生前民間外交を通じて力を注いだ世界平和実現の希望とはうらはらに、わが国は国際社会で孤立するようになり、やがて起こった長く激しい戦争とその敗北、戦後の混乱と窮迫は、竜門社自身の活動も抑圧し、ついにはその存続を根底から揺るがすまでになりました。

しかし、孫の渋沢敬三(1896~1963)を中心に、竜門社は多くの困難を乗り越え、再建されました。1946(昭和21)年には、財団法人渋沢青淵翁記念会(栄一の生誕100周年を記念して結成され、遺徳顕彰のため銅像建立や出版を行った団体)を整理吸収し、竜門社は「渋沢青淵記念財団竜門社」と称することになりました。そして、戦争末期に国に寄附されていた東京王子飛鳥山の旧渋沢邸の返還を受け、ここを本拠としつつ、個人の伝記資料としては恐らく世界一の規模と思われる『渋沢栄一伝記資料』全68巻を編纂・発行するなど、竜門社の戦後復興と内容の充実、また事業の伸展には、まことに見るべきものがありました。

渋沢敬三の没後、ことに石油ショック後のわが国の経済的苦難の時代には、竜門社の組織の維持や事業の継続にも多くの困難が降りかかりましたが、団体及び個人の維持会員の献身的なお力添えによって切り抜けることができました。

欧米諸国は、戦後わが国の目覚しい成長発展に着目し、その成長の基礎は明治期における日本の近代国家への変貌過程にあるとして、経済・政治・文化の諸方面から、さまざまな分析を加えております。発展途上国もまた当時の日本をよきモデルとして、研究を進めております。渋沢栄一の思想と事績は、これら研究の中核テーマのひとつをなすもので、海外の著名な研究者たちも、渋沢栄一の功績とその文化史的意義を高く評価しています。一方、国内においては、高度成長期が終わりバブルの発生とその崩壊が進むにつれ、自ずから道義・道徳を尊重する風潮が回復しつつあり、併せて渋沢栄一の事績と精神が、近来、とみに見直されつつあります。

これら環境の変化に応じて、当財団も時代に即した体質を備えるよう努力を重ねております。
1982(昭和57)年には、渋沢敬三の遺志を受け継ぎ、飛鳥山に渋沢栄一の事績を中心とする登録博物館「渋沢史料館」を開設しました。1998(平成10)年3月には、拡充整備された飛鳥山公園の中心部に新しい本館を開館し、渋沢栄一の生涯と事績を知っていただくための新たな、力強い拠点となっております。

バブル崩壊後の日本が根底からの変革を模索し、世界もまた日本に新たなリーダーシップの確立を求めている現在、当財団に対する社会の期待の大きさを痛感しております。会員向け機関紙『青淵』は、会員の皆さまの心を繋ぐ雑誌として、編集に力を入れ、体裁・内容ともに充実してまいりました。1989(平成元)年数人の若い研究者により始められた「渋沢研究会」は、年々その裾野を広げ、研究紀要『渋沢研究』の内容も内外の論文を集め充実してまいりました。当財団では、研究会を積極的に支援するほか、21世紀の世界への日本の貢献を探る「渋沢国際セミナー」の試みにも着手しております。

2003(平成15)年11月、当財団の名称を「財団法人 渋沢栄一記念財団」に変更いたしました。
2010(平成22)年9月に「公益財団法人渋沢栄一記念財団」となりました。

渋沢栄一記念財団の沿革図

2011年8月23日作成

渋沢栄一記念財団の沿革図