理事長メッセージ

年頭のご挨拶

 新年おめでとうございます。今年も、渋沢栄一記念財団をよろしくお願い申しあげます。『青淵』誌も、通巻で900号を超えました。けっして分厚い月刊雑誌ではありませんが、財団と皆さまとのつなぎ役として、立派に役割をはたすよう全力を尽くすつもりです。

 さて皆さまにおかれても、心豊かに新年をお迎えのことと存じます。「年も更まり」と決まり文句で申しますが、現今の日本では、季節の区切りも怪しくなり、新年の年中行事も、あまり話題とならなくなりました。ちなみに本年の1月1日は、旧暦では12月2日。そもそも厳寒というよりは、まだ冬のとば口という印象がぬぐえません。

 けれども、伝統的な日本では、地域差があるにしても、共通の季節感を愉しんできました。新年には、梅の花がつぼみを宿し、あわせ七草の粥をすすって、今年の健康を祝うという、そんな正月の日々を過ごしていました。

 近年には天候の異変がしばしばとなり、季節感がゆらぎつつありますが、それでも伝統的な感覚は、失われてはいないようです。もっとも四季の区分があいまいとなった昨今では、夏と冬のあいだに挟まれた春と秋の輪郭が失われてしまったかも知れません。四季ならぬ二季へ移行していくとの予言も、まったく虚言ではないのでしょうか。

 俳句の季語やカレンダー上の二十四季、そしてスーパーの店先の七草粥から節分の豆撒きにいたるまで、わたしたち現代人の意識のなかに息づいている季節感を、大切にしたいものです。そんな想いを、いま暖房の効いた居間で咀嚼しているところです。

 渋沢栄一の最晩年、昭和6年1月に、渋沢同族会の新年の集いで撮影された集合写真が残っています。20人に近い同族のメンバーが集うなか、91歳の渋沢が威儀を正して座しています。全員が正装なのですが、中央の栄一は背筋を伸ばして、透る声で語っているに違いありません。私もその威儀にならって、しめやかにご挨拶を申しあげます。どうか本年もよろしくと。


2025年1月
公益財団法人 渋沢栄一記念財団
理事長 樺山紘一