ビジネス・アーカイブズ通信(BA通信)

第43号(2013年1月23日発行)

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☆      □■□ ビジネス・アーカイブズ通信 □■□

☆       No.43 (2013年1月23日発行)

☆ 発行:公益財団法人 渋沢栄一記念財団 実業史研究情報センター

☆                        〔ISSN:1884-2666〕
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この通信では海外(主として英語圏)のビジネス・アーカイブズ(BA)に関する情報をお届けします。

海外BAに関わる国内関連情報も適宜掲載しております。

今号は行事情報1件、文献情報2件です。

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◆ 目次 ◆

[掲載事項の凡例とご注意]

■行事情報:ICA/SBL主催 ビジネス・アーカイブズ国際セミナー
◎テーマ:「危機、信頼性、そして会社史:学術的歴史とマーケティングの間でのアーカイブズの葛藤
に立ち向かう」
       2013年4月14〜16日
       エフ・ホフマン・ラ・ロシュ社 バーゼル(スイス)

■文献情報:「リーダーシップ・ツールとしての貴社の歴史」
◎『ハーバード・ビジネス・レビュー』2012年12月号

■文献情報:アーカイブズのインリーチ・アウトリーチ(組織内外への情報発信) 2
◎英国アーカイブズにみる007ジェームズ・ボンド その2

☆★ 編集部より:次号予告 ★☆

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[掲載事項の凡例]

・欧文の場合、日本語で読みやすいものになるように、タイトルははじめに日本語訳を、続いて原文を記します。
・人名や固有名詞の発音が不明の場合も日本語表記を添えました。便宜的なものですので、検索等を行う場合はかならず原文を用いてください。

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[ご注意]
・受信時にリンク先を示すURLが途中で改行されてしまう場合があります。通常のURLクリックで表示されない場合にはお手数ですがコピー&ペーストで一行にしたものをブラウザのアドレス・バーに挿入し、リンク先をご覧ください。

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■ICA/SBL主催 ビジネス・アーカイブズ国際セミナー
       2013年4月14〜16日
       エフ・ホフマン・ラ・ロシュ社 バーゼル(スイス)

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◎「危機、信頼性、そして会社史:学術的歴史とマーケティングの間でのアーカイブズの葛藤に立ち向かう」
Crises, credibility and corporate history: tackling the archives' conflict between scientific history and marketing

国際アーカイブズ評議会企業労働アーカイブズ部会は、部会運営委員の所属機関が主催者となって、ビジネス・アーカイブズに関する国際会議を毎年持ち回りで主催しています。今年はスイス・バーゼルのロシュ社が会場です。

開催告知がICAのサイトに掲載されています。
http://www.ica.org/13958/news-events/international-seminar-crises-credibility-and-corporate-history-tackling-the-archives-conflict-between-scientific-history-and-marketing-basel-switzerland-1416-april-2013.html

プログラム(PDF)
http://www.ica.org/download.php?id=2660

今年の会議のテーマは「危機、信頼性、そして会社史:学術的歴史とマーケティングの間でのアーカイブズの葛藤に立ち向かう」です。「会社史の語りは、記録に基づいて会社の発展の過程を分析して叙述するという、いわゆる経営史の方法に基づくべきである」という考え方が存在します。他方、企業の業務として行うものなのだから、当該企業のマーケティング・宣伝を目的とするものである、という考え方もあります。このふたつの考え方の対立、あるいはバランスを、企業のアーカイブズに関わる専門家たちはどのように考えるのか、これが会議のメインテーマとして設定されました。

プログラムの最新版にセッションのテーマと発表者が掲載されております。今号ではこれらをご紹介します。
http://www.ica.org/download.php?id=2660

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■■国際文書館評議会企業労働アーカイブズ部会 2013年 国際シンポジウム■■

【テーマ】
危機、信頼、そして会社史:学術的歴史とマーケティングの間でのアーカイブズの葛藤に立ち向かう

【日時】
2013年4月14日(日)〜16日(火)

【会場】
F・ホフマン・ラ・ロシュ社ロッシュ歴史コレクション&アーカイブ
(バーゼル、スイス)
The Roche Historical Collection and Archive F. Hoffmann-La Roche Ltd
Basel, Switzerland

【参加費】
無料(期間中の社交行事=レセプション、昼食2、夕食会1含む)

【セミナー参加登録リンク】
http://roche.cvent.com/d/hcqs9l/4W

【問い合わせ先】
アレクサンダー・L・ビエリ Alexander L. Bieri
ロシュ社歴史コレクション&アーカイブ・キュレーター
Curator, The Roche Historical Collection and Archive
F. Hoffmann-La Roche Ltd
CH-4070 Basel
Tel. +41 61 687 02 65
Tel. +41 68 688 38 30

【プログラム】
http://www.ica.org/download.php?id=2660

§4月14日(日)夕方§

▼バーゼル歴史博物館で歓迎レセプション
Welcome reception at the Historisches Museum Basel

§4月15日(月)午前§

会場:ロシュ社カンファレンスセンター(バーゼル)

▼第1セッション:会社史における二つの極を理解する
Marking out the extremes in corporate history

発表者1:クレメンス・ビッシャーマン教授(コンスタンス大学)
発表者1原文:Prof. Clemens Wischermann, Constance University

発表者2:ジョナサン・スティーブン(ウィンザー社・会社史コンサルタント)
発表者2原文:Jonathan Steffen, corporate history consultant, Windsor

▼第2セッション:会社史における新しいアプローチ:いくつかの事例
Novel approaches in corporate history: selected examples

発表者1:ヘニング・モーゲン(A. P. モラ―・マースク社)
発表者1原文:Henning Morgen, A.P. Moller-Maersk

発表者2:アルベール・フィフナー(ネスレ社)
発表者2原文:Albert Pfiffner, Nestle

発表者3:リオネル・ロー(ロシュ社)
発表者3原文:Lionel Loew, Roche

▼昼食

§4月15日(月)午後§

▼第3セッション:歴史叙述:英雄譚と神話はいらない!
Historical writing: no more tales of heroes and myths!

発表者1:シロ・ユングキント(コンスタンス大学)
発表者1原文:Thilo Jungkind, Constance University

発表者2:ビルギッテ・ポシング教授(デンマーク国立公文書館)
発表者2原文:Prof. Birgitte Possing, Danish National Archives

発表者3:ヨアヒム・ショルティゼック教授(ボン大学)
発表者3原文:Prof. Joachim Scholtyseck, Bonn University

▼第4セッション:学術的信頼性とコーポレート・コミュニケーション(企業広報):橋渡しは可能か?
Academic credibility and corporate communications: can we bridge the gap?

発表者1:カール=ペーター・エラーブロック(ウェストファリア経済文書館)
発表者1原文:Karl-Peter Ellerbrock, Westfalisches Wirtschaftsarchiv

発表者2:トマス・イングリン(チューリヒ保険会社)
発表者2原文:Thomas Inglin, Zurich Insurance

§4月15日(月)夕方§

▼ミュルーズ(フランス)国立自動車博物館での夕食会
Dinner at the Cite d'Automobile, Mulhouse

§4月16日(火)午前§

▼第5セッション:グローバルな規模での会社史:環境変化における期待の変化
The global scale of corporate history: changing expectations in changing environments

発表者1:松崎裕子(渋沢栄一記念財団)

発表者2:ポール・ラーサウィッツ(IBM社)
発表者2原文:Paul Lasewicz, IBM

発表者3:ティナ・スティプルズ(香港上海銀行)
発表者3原文:Tina Staples, HSBC

▼第6セッション:パネルディスカッション

▼昼食

§4月16日(火)午後§

▼新しいロシュ社歴史アーカイブと歴史展示の見学ツアー

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[関連ページ]

アレクサンダー・ビエリ氏(ロシュ社キュレーター)による英国公文書館ポッドキャスト「第二次世界大戦とロシュ社の西方への拡大:英国におけるスイスの製薬会社」
The Second World War and Roche's expansion to the West: a Swiss pharmaceutical company in the United Kingdom

http://media.nationalarchives.gov.uk/index.php/the-second-world-war-and-roches-expansion-to-the-west-a-swiss-pharmaceutical-company-in-the-united-kingdom/

ビエリ氏に関する記事を含むBA通信バックナンバー38号(2012年6月21日発行)
http://www.shibusawa.or.jp/center/ba/bn/20120621.html

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■文献情報:「リーダーシップ・ツールとしての貴社の歴史」
『ハーバード・ビジネス・レビュー』2012年12月号

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◎リーダーシップ・ツールとしての貴社の歴史:過去を利用してあなたの組織を前進させる
Your company's history as a leadership tool: take your organization forward by drawing by on the past

ハーバード大学完全子会社Harvard Business Publishingが発行するHarvard Business Review(HBR)誌の2012年12月号の記事「リーダーシップ・ツールとしての貴社の歴史:過去を利用してあなたの組織を前進させる」をご紹介します。

http://hbr.org/archive-toc/BR1212

著者はウィンスロップ・グループに所属する2人、ジョン・T・シーマン・ジュニア(John T. Seaman, Jr.)氏とジョージ・デイビッド・スミス(George David Smith)氏です。シ―マン氏は同グループの共同経営者で、コロンビア大学歴史学博士。スミス氏は同グループの創業ディレクターで、現在ニューヨーク大学スターン・ビジネススクールの経済学・国際ビジネス教授。ハーバード大学歴史学博士です。

スミス氏はHBR誌の1981年11/12月号に「会社史の現在的価値」(The Present Value of Corporate History)をローレンス・ステッドマン(Lawrence Steadman)氏と共同執筆しています。この記事は1993年刊行の『企業アーカイブズと歴史:過去を活かす』(Corporate Archives and History: Making the Past Work)に収録されるなど高い評価を受け、現在でもしばしば引用されています(本通信第10号、2008年10月20日発行を参照のこと)。
http://www.shibusawa.or.jp/center/ba/bn/20081020.html

ウィンスロップ・グループは、本通信第37号(2012年4月11日発行)でご紹介したように、1982年にマサチューセッツ州ケンブリッジの5人の歴史家が設立した会社で、「応用歴史 (学)」"applied history"を事業としています。会社のミッションとして、「組織が経験を記録し、それを活用するのを助ける(To help organizations "capture experience and put it to work")」ことを掲げています。
http://www.shibusawa.or.jp/center/ba/bn/20120411.html

「リーダーシップ・ツールとしての貴社の歴史」記事の縮約版が同誌ウェブ版に掲載されています。
http://hbr.org/2012/12/your-companys-history-as-a-leadership-tool/ar/1
http://hbr.org/2012/12/your-companys-history-as-a-leadership-tool/ar/2
(IBMのコラムを含む)
http://hbr.org/2012/12/your-companys-history-as-a-leadership-tool/ar/3
(7つのステップに関するコラムを含む)
http://hbr.org/2012/12/your-companys-history-as-a-leadership-tool/ar/4

*全文は同誌サイトからダウンロード購入が可能です。
http://hbr.org/product/your-company-s-history-as-a-leadership-tool/an/R1212B-PDF-ENG

全体の構成は
  §要約
  §本文(事例集)
  §コラム「IBM社において歴史を修正する」
  §コラム「歴史を味方につけるための7つのヒント」
となっています。

本通信では本文とコラムの概要をご紹介します。

■■本文■■

◇クラフト社◇
Kraft Foods

食品大手のクラフト社ではキャドバリー社に対する敵対的買収にあたり、歴史を活用しました。イントラネットサイト「カミング・トュゲザー」を構築し、共有する価値観とテーマをコンテンツとして掲載したのが一例です。創業者の信心深さとそれが各々のビジネスにもたらした「品質主義」「労働者福利」「コミュニティへの貢献」といったテーマで、年表、有名な広告イメージ、ドキュメンタリー映像、ブランド資料を素材として用いました。

「グローイング・トュゲザー」と題したロードマップ形式のイラストでは買収によって成長してきたクラフト社の歴史を一目で直感的に理解できるようにしています。

CEOスピーチ、プレスリリース、社員教育といったさまざまな機会をとらえて、歴史に基づいたコンテンツは利用され、敵対的買収にあたっては、かつてなくスムーズに合併プロセスを終えることができました。

*この事例の詳細は当財団実業史研究情報センター編『世界のビジネス・アーカイブズ:企業価値の源泉』で日本語で読むことができます。
http://www.nichigai.co.jp/cgi-bin/nga_search.cgi?KIND=BOOK2&ID=A2353

◇ジェネラル・ミルズ社◇
General Mills

ジェネラル・ミルズ社(食品大手、創業1866年、本社:ミネソタ州ミネアポリス郊外)は1878年の製粉工場の爆発事故後、より安全な製粉機械を開発しました。この時、特許をとらずに競合他社にも提供したことは、これまで社内で繰り返し語られてきました。人々が残したいと望む価値だからです。この価値観の共有が社内で働く人々を元気づけているのです。

◇マッキンゼー◇
McKinsey&Company

マッキンゼー(コンサルタント業大手、1926年創業、本店ニューヨーク)では1990年代後半の同社の社内統治(ガバナンス)改革にあたり、代表社員によるタスクフォースが他組織のベストプラクティス調査するだけにとどまらず、自社の歴史の中に文化を探りました。そこから広く権威を分散しつつ厳格に管理するという、より秩序だったガバナンスを構築したのでした。

◇UPS社◇
UPS

UPS社(貨物運送業、創業1907年、本社:ジョージア州アトランタ)では、1990年代後半、それまでのビジネスモデルの寿命が尽き、大規模なイノベーションの必要性が認識されるようになりました。この時、「忘れられていた物語」を発見する、別の言い方をすると過去を新しいやり方で語り始めることによって、新しいイノベーションの実現に移行できる自信を従業員に与えたといいます。例えば、「自転車配達からトラック輸送への転換」「自社所有貨物航空便の導入」「ウェブ上での荷物追跡サービスの導入」といったかつての変化を取り上げたのでした。

これは社内文化を変えるために歴史を利用した事例ということができます。ただし、著者たちによれば、この「チェンジ・マネジメント」(変化を管理すること)はおそらく最も開発が難しいことです。

◇マイラン社◇
Mylan

ジェネリック医薬品メーカーであるマイラン社(創業1961年、本社ペンシルベニア州)の場合は、逆境や不運に脈絡を持たせるという意味での歴史の活用事例です。

過去2回破産に直面、2008年10月には株価が6ドルまで下落したとき、経営陣は過去の苦闘の物語を熱心に語ったということです。過去にはより厳しい時代があったが、乗り越えてきた。だから今回の苦難も克服できる、と。

◇アルコア社◇
Alcoa

アルミニウム製品・アルミナ製造世界最大手のアルコア社(創業1886年、本社ニューヨーク)は1983年に大恐慌以来の業績低迷を経験しました。国際競争がアルミニウムを日用品化し、価格決定力が低下したのでした。

著者たちのグループは、社内に「深く根付く制約」を見つけ出しました。

一つは第一次アルミニウムの支配的な生産者としての長い経験が、精錬以外の新たな事業分野への進出をさまたげてきたということでした。もうひとつはグローバル化した経済にもかかわらず、いつまでも国内仕様のモノの見方が社内に残る、ということでした。

また苦境に陥った原因を探っていくと、第二次世界大戦前は世界最先端の研究開発機関であり、基礎研究重視だったのですが、1945年以降独占が崩れ、激しい競争に対して、短期的売上げと利幅追求のため、基礎研究切り捨てによって対応したことにその要因があることを見出しました。ここから研究開発投資重視への回帰が可能になったのでした。

◇ダイメンジョナル・ファンド・アドバイザーズ社◇
Dimensional Fund Advisors

同社は本社をテキサス州オースティンに置く創業1981年の投資顧問業者です。

2011年に創業30周年を迎えるにあたり、将来に引き継ぐべき教訓を過去に探りました。激しい競争の中で事業を継続できたのは、過去におけるいくつかの意思決定の結果であると結論づけ、6つの原則として明文化したということです。その一例は「投資戦略は学術研究に基づいて立てる」というものでした。

◇匿名の事例◇

その他匿名で二つの会社が取り上げられています。一つの事例は、社内に存在する新旧世代間の対立に対して、両者が共に抱いている価値観「競合他社とは大きく異なり、この会社はゼロから何かを作り上げる企業家精神の持ち主に自立性と機会を与える」を発見し、これに光を当てて、対立を乗り越えた事例です。

もうひとつは、「エネルギー業界の巨人」とされていますが、自社ならびに資本集約型産業の過去半世紀にわたる事例研究を通して、過去最大規模の投資計画の有効性を吟味し、リスクの大きさが判明したため、投資を行わない決定に至ったのでした。

■■コラム:「IBMで歴史を修正する」■■
Revising history at IBM

1993年に空前の業績悪化に陥ったIBM社はルイス・V・ガースナー・ジュニアCEO(在任期間1993〜2002年)とサミュエル・パーミゼイノCEO(同2002〜2011年)がそれぞれの流儀で自社の歴史の中に活用可能な過去を見い出して、復活への足がかりとしました。

【1】ルイス・V・ガースナ―・ジュニア氏によるIBM史の活用

IBMの過去を探求してみると、かつての成功を支えた組織的な価値観と言えるものを見出すことができました。それは「顧客ニーズと顧客サービスに焦点を合わせる」というものです。

ガースナー氏はベテラン社員からはコストと人員削減による終身雇用の破壊者ともみられましたが、長らく弱まっていた「顧客志向」を復興することによって経営再建に向かいました。

【2】サミュエル・J・パーミゼイノ氏の場合

パーミゼイノ氏は大学で歴史学を専攻した経歴の持ち主です。CEOに就任するとすぐによく整ったアーカイブズを自ら訪問して、創業者トーマス・ワトソン・シニアのスピーチ原稿やメモを探りました。ここから同社における価値観の体系化に取り組みました。

そこで体系化された価値観は「顧客ニーズの充足」「長期的関係の確立」「画期的革新を追求する」というもので、これもまた現在のIBM社のパフォーマンスにつながるものです。

こういった方法は「古風であるけれど、やる気を起こさせるのです」
"It's old-fashoned, but it's motivational"というパーミゼイノ氏の言葉も引用されています。

■■コラム:「歴史を味方につけるための7つのヒント」■■
Seven tips for getting history on your side

(1)自分の会社のアーカイブズを訪問する、またはアーカイブズ資料を集める。会社の歴史を理解したり、利用する努力は、生の資料(文書、写真、モノ)を自分の手許にどれだけもっているかにかかっている。

(2)退任役員や長く勤務してきた従業員(特にメインストリームから外れた人、対立する人)のインタビューでアーカイブズをさらに豊かなものにする。そのようなインタビューは文書記録を補う。文書記録は意思決定の論理的根拠を省略していたり、重要な考えや出来事となったかもしれないことを記さないことがしばしばある。

(3)会社の歴史と価値と思われていることを調査する。これは事実を作り話から区別して、対処すべき必要がある不足部分を特定し、歴史が今日のその会社に関する認識をいかに形作ってきたのかを理解するのに役立つ。

(4)現代の多種多様なメディアを利用して、人、製品、ブランドに関する歴史に関する情報発信を行い、社内外の人々が人や製品、ブランドの歴史に対して容易にアクセスできるようにする。

(5)成功したもの、そうでなかったもの、両方の主要なプロジェクトや取り組みに関する事後分析を行う。成功からと同様に失敗からも学ぶことができることを認識する。

(6)新しい戦略、大きな買収や投資、あるいは新しいマーケティング・キャンペーン、あるいは広報の取り組みのいずれに関わるものであれ、すべての主要な意思決定に先立って歴史的見方を追求する。

(7)カリスマ的なリーダー、画期的革新、決定的な影響といった歴史と、その歴史が今日の会社、そしてあなたがたがこうなりたい思う会社についてどのように語っているのかを、あらゆる機会を捉えて話す。

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■文献情報:アーカイブズのインリーチ・アウトリーチ(機関内外への情報発信) 2

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◎英国アーカイブズにみる007ジェームズ・ボンド その2

前号を配信した後の12月20日、英国のアーカイブズ・記録管理関係者のためのメーリングリストARCHIVES-NRAに、英国国立公文書館のアーカイブズ部門開発チーム(Archives Sector Development)のビジネス・アーカイブズ分野担当者Alex Ritchieさんから、ふたたび007をテーマにした投稿がありました。

題して、

▼「007が戻ってくるときビジネスはボンドを支援する」
Business backs Bond as 007 returns

https://www.jiscmail.ac.uk/cgi-bin/webadmin?A2=ind1212&L=archives-nra&F=&S=&P=101147

Ritchieさんから許可を得て、投稿全体をご紹介します。文中[ ]内は編集者による注や補足です。

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https://www.jiscmail.ac.uk/cgi-bin/webadmin?A2=ind1212&L=archives-nra&F=&S=&P=101147

私たちのほとんどはすでに「スカイフォール」をみていることでしょう。見ていない方々のために、なるべく種明かしをしないようにお話したいと思いますが、新作が傑出している点のひとつは、映画の中で使われている数々の企業とブランドです。マスコミは例によって低俗にもこれをプロダクト・プレイスメント[映画などの小道具として目立つように商品を配置することで、商品の露出を高める広告手法]と呼びます。しかし、それはボンドを一度限り、残りの私たちと同じ世界に住まわせるのです。企業とブランドは私たちを取り囲み、企業とブランドの背後にはもう一つの物語があるのです。それは企業の歴史とビジネス・アーカイブズに関する物語です。さあ、続けて読んでください。

■オオサト化学
Osato Chemicals

架空の会社をとても目立つ形で取り上げるのは残念に思えます。でも、「007は二度死ぬ」でボンドはオオサト化学本社を訪問します。ボンドはその帰り、日本人の同僚が運転するトヨタ2000GTコンバーティブルに乗ります。同車はトヨタによってこの映画のために特別に作り変えられた2000GT車2台のうちの1台です(このことは Top Gear[BBC放送のクルマ専門番組]を折に触れて観る価値があることを示しています)。わたしは[この番組を観る前は]2000GT車に関して自分が何か書くとは考えてもみませんでした。オオサトとは異なり、トヨタは真に実在するグローバル・カンパニーであり、自分たちの歴史とアーカイブズに誇りを持つ会社です。75周年を記念する同社のウェブサイトを訪ねてみれば、そのことを確信するでしょう。

http://www.toyota-global.com/company/history_of_toyota/75years/

■押しつぶされたビートル車
Crushed Beetles

「スカイフォール」冒頭の追跡場面でボンドは悪役を追いかけながら、獲物に手を伸ばすためにショベルカーを使います。その途中で、ボンドはフォルクスワーゲンの車両、厳密に言うとビートル車を大破させます。フォルクスワーゲンは興味深い歴史を持つ、もう一つのグローバル企業です。とくに第二次世界大戦後の事業復興にあたってのイギリスの役割がそれです。フォルクスワーゲン社のアーキビストが英国国立公文書館にやってきてその話をしてくれるのは素晴らしい考えではありませんか? そうなのです。それが2013年の7月に行われるというよい知らせなのです。フォルクスワーゲンの歴史と企業アーカイブズを知るのをそんなに長く待てないのでしたら、下のリンクをクリックしてください。

http://www.volkswagenag.com/content/vwcorp/content/en/the_group/history.html

■あなたの一日をボンド風に始めなさい
Start Your Day the James Bond Way

もしあなたの典型的な一日が、世界を支配しようと躍起になっている悪魔の計画をくじくことに関わるなら、すばらしい朝食で一日を始めることが大切です。イアン・フレミングはこのことを理解していました。だからこそ、かれはボンドに、フォートナム&メイスンの伝説のピカディリー店から調達した、クーパーズ・ビンテージ・オックスフォード・マーマレードとノルウェジアン・ヘザーはちみつを堪能させるのです(「ロシアから愛を込めて」の中で)。2012年に英国国立公文書館を訪れた方々はそのピカディリー店に関する興味をそそる歴史に関して耳にすることができました。その場にいることができなかった方々のために、アンドレア・タナー博士の講演は今もポッドキャストとして視聴できます。

http://media.nationalarchives.gov.uk/index.php/selling-history-the-role-of-the-past-at-fortnum-and-mason/

■黄金のグラスを持つ男
The Man with the Golden Glass

どのボンド映画でも悪役は、自分の邪悪さの奥深さを表すためにある特定の行為によって、自分が真に邪悪であること示さなければいけません。「スカイフォール」では、登場人物シルバは自分の人命への無関心のみならず、50年物のマカラン・ウィスキーへの配慮への冷淡さもあらわにしています。そういう極悪非道の輩が罰せられないはずがありません。マカランは最上のモルトウィスキーのひとつという地位を得て、さらにスコットランド・ナショナル・レジスター・オブ・アーカイブズの同僚たちのおかげで、みなさんは名高い製品の後ろにあるアーカイブズを垣間見ることができるのです。

http://www.nationalarchives.gov.uk/nra/searches/subjectView.asp?ID=B25730

そこでみなさん思い出してください。ジェームズ・ボンドはクリスマスとちょうど同じように、毎年毎年それを楽しむために、私たちの傍にいるのです。よいクリスマス[素晴らしい007]を!

So remember folks, James Bond is just like Christmas, there for us to enjoy year after year.
Have a good one!

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★☆★...もうひとつのブランド・企業...★☆★

さて、この投稿「007が戻ってくるときビジネスはボンドを支援する」に対して、料理器具メーカーであるAGAレンジマスター・グループ社アーカイブズのチャーリー・ホワイトヘッドさん(女性)からも同社製品に関わる投稿がありました。

https://www.jiscmail.ac.uk/cgi-bin/webadmin?A2=ind1212&L=archives-nra&F=&S=&P=101867

それによると、同社の年代物の調理器具も「スカイフォール」に登場し、同社に対してはその場面の制作チームから、AGA社アーカイブズの助言にしたがい、この年代物の調理器具を正確に据え付けるように依頼があったということです。

この件に関してはAGAレンジマスター・グループ社のAGAブランドに関するおしゃれなブログページでも取り上げられています。

「ブログ:レディー・アーガの世界」
Blog: The world according to Lady Aga
http://agablog.agaliving.com/aga-spotting/aga-spotted-in-skyfall/#.UO-4jBs26bw.facebook

Oxford Advanced Learner's Dictionaryによると、AGAはイギリス製の頑丈な鉄製調理器具で中産階級の女性にとても好まれている、とされています。
http://oald8.oxfordlearnersdictionaries.com/dictionary/aga

[関連ページ]

AGAレンジマスター・グループ社
Aga Rangemaster Group plc
http://www.agarangemaster.com/

同社沿革ページ
http://www.agarangemaster.com/about-us/history.aspx

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[略称一覧]
ACA: Association of Canadian Archivists(カナダ・アーキビスト協会)
ARA: Archives and Records Association(アーカイブズとレコード協会)
ARC: ARC magazine: archives - records management - conservation
(SoAが発行する月刊ニュースレター)
ASA: Australian Society of Archivists(オーストラリア・アーキビスト協会)
BAC: Business Archives Council(ビジネス・アーカイブズ・カウンシル)
BACS: Business Archives Council in Scotland(スコットランド・ビジネス・アーカイブズ・カウンシル)
BAS: Business Archives Section(ビジネス・アーカイブズ部会:SAA内の部会)
CITRA: International Conference of the Round Table on Archives
(アーカイブズに関する国際円卓会議:ICAの年次会議)
CoSA:Council of State Archivists(米国・州文書館長評議会)
DCC: Digital Curation Center(英国デジタル・キュレーション・センター)
EDRMS:Electronic Document and Record Management System(電子文書記録管理システム)
ERM:Electronic Record Management(電子記録管理)
ICA: International Council on Archives(国際文書館評議会)
LSE: London School of Economics and Political Science(ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス)
MLA: Museums, Libraries and Archives Council(英国 博物館、図書館、アーカイブズ評議会)
NAGARA: National Association of Government Archives and Records Administrators
(米国・全国政府アーカイブズ記録管理者協会)
NARA: National Archives and Records Administration(米国 国立公文書館記録管理庁)
RIKAR: Research Institute of Korean Archives and Records(韓国国家記録研究院)
RMS:Record Management System(記録管理システム)
SAA: Society of American Archivists(米国アーキビスト協会)
SBL: Section for Business and Labour Archives(企業労働アーカイブズ部会、ICA内の部会)
SoA: Society of Archivists(イギリス・アーキビスト協会)
TNA: The National Archives(英国国立公文書館)

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☆★ 編集部より:あとがき、次号予告 ★☆

前号に引き続き「英国アーカイブズにみる007ジェームズ・ボンド その2」をお届けしました。ボンド映画50周年を記念した「スカイフォール」に出てくる軍艦島(端島)は明治期以降、三菱系企業によって開発がすすめられたのは前号の「編集部より」に記した通りです。

前回ご紹介したNDLサーチやCiniiは研究や調査の成果であるところの二次資料の探索に大いに力を発揮してくれます。いっぽう、一次資料である会社記録や行政文書はどうでしょう? 会社記録に関しては三菱系企業の場合、公益財団法人三菱経済研究所の三菱史料館に所蔵されている可能性が考えられます。目録はオンライン公開していませんが、レファレンスは受け付けています。
http://www.meri.or.jp/shiryo/mer300j.htm

鉱山業は政府の許認可とも密接に関わっています。行政文書について調べる場合は、国立公文書館やアジア歴史資料センターの目録を検索してみましょう。

前回と同じく「高島炭」で検索をすると、国立公文書館のデジタルアーカイブhttp://www.digital.archives.go.jp/では106件、アジア歴史資料センターhttp://www.jacar.go.jp/の検索では86件ヒットします。なかには後藤象二郎が高島炭鉱を譲渡された際の記録などもあります。

なお国立公文書館デジタルアーカイブズの検索結果の上位には、昭和50年代に作成された資源エネルギー庁関係の記録が並び、これらの簿冊標題の出だしには「特別検査」が付され、公開区分は「要審査」となっています。

国立公文書館の利用決定の手順については、下記で公開されている公文書移管パンフレット「公文書の管理と移管」(平成24年度版)の15ページ付近に掲載されています。
http://www.archives.go.jp/news/120727_01.html

それによると、「要審査」とは、「利用請求時に利用制限情報の有無を確認(審査)する必要があるもの」だそうです。

経済産業省のHPによると、鉱山の保安に関しては、現在は産業保安監督部が担当しています。災害や事故の報告を受けると、鉱山保安法に基づいて、原因調査、司法捜査、再開時における保安検査等が行われます。
http://www.meti.go.jp/policy/safety_security/industrial_safety/sangyo/mine/detail/kantoku.html

「特別検査」のファイルはそのような検査を行ったときの記録だと思われます。

さて、「スカイフォール」の話に戻ると、AGAの調理器具の記事を知ったのは、最後に観た(実は複数回鑑賞しています)後のことでした。知っていれば目を皿にして探したのに・・・。

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次号は1月下旬発行予定です。どうぞお楽しみに。

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◆◇◆〈渋沢栄一記念財団からのお知らせ〉◆◇◆

■『渋沢栄一を知る事典』(東京堂出版、2012)

2012年10月19日に公益財団法人渋沢栄一記念財団編『渋沢栄一を知る事典』が刊行されました。本書は渋沢栄一の事績を網羅的に解説した初めての事典となります。第1部では栄一の生涯と活動を100の項目に分けてわかりやすく紹介し、第2部では栄一をより深く理解するための資料と情報をまとめました。

なお、実業史研究情報センターでは、項目の執筆のほか第2部「資料からみた渋沢栄一」の編集を担当いたしました。ご高覧いただければ幸いです。
http://d.hatena.ne.jp/tobira/20121102/1351818423

□「企業史料ディレクトリ」:企業アーカイブズと企業史料の所在・概要ガイド

2008年7月22日公開いたしました。日本を代表する企業を中心とした企業アーカイブズと史料保存・学術研究機関合わせて30企業・団体・機関の概要、所蔵資料に関する情報を掲載しております。ぜひご覧ください。
http://www.shibusawa.or.jp/center/dir/index.html

□実業史研究情報センター・ブログ「情報の扉の、そのまた向こう」

渋沢栄一、社史を始めとする実業史、アーカイブズや図書館に関連する情報をご紹介しています。文化資源に関わる東日本大震災と復興についての情報は「震災関連」カテゴリーに集約しています。
http://d.hatena.ne.jp/tobira/

「アーカイブズニュース」では公文書管理法に関する動向やアーカイブズのデジタル化、資料の発見・公開に関わるニュースを随時ご紹介しております。ブログ画面右側の「カテゴリー」にある「アーカイブズニュース」をクリックしてください。「アーカイブズニュース」として掲載した記事をまとめて一覧することができます。

・主なカテゴリーの紹介
http://d.hatena.ne.jp/tobira/20080203

□「社史に見る災害と復興」

2011年3月の東日本大震災に際し実業史研究情報センターでは、センター・ブログに「社史に見る災害と復興」というカテゴリーを新設しました。そこでは現在構築中の「社史索引データベースプロジェクト」の蓄積データを検索し、「災害と復興」に関する記事を含む社史について紹介しています。
http://goo.gl/WUE3b

災害の中で特に関東大震災についての社史記述をまとめたものが2012年12月にピッツバーグ大学図書館発行の電子ジャーナル「社史」に掲載されましたのでご紹介します。

The Great Kanto Earthquake as Seen in Shashi / Yuriko Kadokura
(社史に見る関東大震災 / 門倉百合子)
〔Shashi: the Journal of Japanese Business and Company History〕
http://shashi.pitt.edu/ojs/index.php/shashi/article/view/7

実業史研究情報センター・ブログ「情報の扉の、そのまた向こう」はほぼ毎日更新しております。どうぞご利用ください。

□「渋沢栄一関連会社社名変遷図」

渋沢栄一がどのような会社に関わったか、それが今にどうつながっているのか、一目でわかるように業種別にまとめて変遷図にしました。現在122図掲載中です。社名索引もありますので、どうぞご覧ください。またセンター・ブログのカテゴリー「社名変遷図紹介」も併せてご覧ください。なお上記『渋沢栄一を知る事典』第2部には、この社名変遷図のうち100図を掲載してあります。
http://www.shibusawa.or.jp/eiichi/companyname/index.html

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ビジネス・アーカイブズ通信(BA通信) No.43
2013年1月23日発行 (不定期発行)
【創刊日】2008年2月15日
【発行者】公益財団法人渋沢栄一記念財団実業史研究情報センター
【編集者】公益財団法人渋沢栄一記念財団実業史研究情報センター
      「ビジネス・アーカイブズ通信」編集部
【発行地】日本/東京都/北区
【ISSN】1884-2666
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