世界/日本のビジネス・アーカイブズ

イギリス国立公文書館「デジタル戦略 : 2017年3月」

デジタル戦略
2017年3月

イギリス国立公文書館

公益財団法人渋沢栄一記念財団 情報資源センター(訳・注)

2018年10月24日発行 / 2018年11月27日更新
[PDF版 (513.6KB)]


Digital Strategy
March 2017

The National Archives

(c) Crown copyright
Licensed under the Open Government Licence v3.0.

Translated and annotated by the Information Resources Center,
Shibusawa Eiichi Memorial Foundation


<目次>

【凡例】
【本文】
1. 要旨
2. デジタルの挑戦
  2-1 記録は実物からバーチャルに変わる
  2-2 デジタル保存は難しい
  2-3 期待が変化した
  2-4 変化はこれから先ずっと続く
  2-5 デジタルスキルに対する高い需要
3. わたしたちが今いるところ
4. 破壊的デジタル文書館のためのビジョン
5. デジタル文書館(Digital Archive)
  5.1 デジタル文書館はどのように価値を提供するのか
  5.2 保存する(Preserve)
  5.3 コンテクスト化する(Contextualise)
  5.4 見せる(Present)
  5.5 利用できるようにする(Enable use)
6. デジタルサービス
7. 私たちの文化を進化させる
8. デジタルスキル
9. デジタルリサーチ
10. 行程表
【訳者注】


【凡例】

・本稿は The National Archives が公開する "Digital Strategy : March 2017" https://www.nationalarchives.gov.uk/documents/the-national-archives-digital-strategy-2017-19.pdf (PDF)の日本語訳です。

・The National Archivesは「イギリス国立公文書館」としました。「グレートブリテン及び北アイルランド連合王国」を意味する単語は、外務省その他の表記にならい「英国」を用いています。原文中のUKも「英国」と訳しました。

・サービスやプログラム、システム、プロジェクトなどの名称(ブランド名)は日本語にせずに原文のままとしたものがあります。例えば Digital Records Infrastructure、legislation.gov.uk などです。日本語化したものには「英国政府ウェブアーカイブ」(原文はUK Government Web Archive)があります。また全国の文書館が所蔵する記録に関する記述(record description)と文書館に関する情報、全国アーカイブズ(文書館・記録資料)登録簿(National Register of Archives)やAccess to Archives(A2A)と荘園文書登録簿(Manorial Documents Register)といった複数のデータセットを取り込んで、ウェブを通じて提供するイギリス国立公文書館のサービスは「ディスカバリー Discovery」としています。

・原文では、archives、archive、archiving、digital archive、digital archives、といった用語が使われています。このうちarchivesには、国際アーカイブズ評議会(ICA)の用語集によると3つの意味があります。http://www.ciscra.org/mat/mat/termlist/l/Japanese

(1)業務遂行の過程で個人又は組織により作成・収受されて蓄積され、並びにその持続的価値ゆえに保存された文書。
(2)アーカイブズを保存し、閲覧利用できるようにする建物又は建物の一部。アーカイブズ保存所とも呼ばれる。
(3)アーカイブズを選別、取得、保存、提供することに責任をもつ機関又はプログラム。文書館、アーカイブズ制度、アーカイブズ事業とも言われる。

本稿では原則として、(1)の意味の場合は「アーカイブ」もしくは「記録資料」、(2)と(3)の意味の場合は「文書館」と訳出しています。両方の意味を持たせていると思われる場合、「アーカイブズ(文書館と記録資料)」としています。(2)と(3)の場合、一つの館(機関、プログラムなど)の原語は単数 archive です。複数の館(機関、プログラム等)の場合、原語は archives です(詳細は解題も参照)。archival は「文書館(に関わる)」または「アーカイブズ(文書館と記録資料)に関わる」としました。International Council on Archives などの固有名詞に含まれる場合はそのままカタカナで「アーカイブズ」を用いています。

・業務遂行の過程で個人又は組織により作成・収受される文書は、recordsです。これは業務遂行の証拠=エビデンスです。原文での record(s) は「記録」と訳出しています。イギリスにおけるrecord(s)の定義については解題を参照してください。

・読みやすさのため、補助的な語句を [ ] を用いて本文中に補った部分があります。

・日本語訳をカタカナ語にしたもののうち、固有名詞(「アーカイブズ・インスパイア」、原文はArchives Inspire、といった文書名、人名など)は原文の単語の区切りに「・」を用いています。それ以外の場合は、原語が2つ以上の単語からなる場合でも、「・」なしのひとつづきのカタカナ表記にしています。

・原文において小見出し番号が紛らわしい「2. デジタルの挑戦」については「2-1」のようにナンバリングし直しました。


【本文】

1. 要旨

わたしたちは本能的直感と計画的意図によってデジタル文書館になる 1
We will become a digital archive by instinct and design
「アーカイブズ・インスパイア」2 より

文書館 3 は特別なところだ。文書館 4 はわたしたちの集合的記憶の棲家だ。過去を理解し、現在の意味を明らかにする、そして未来に向かって自分たちを導く助けとして、わたしたちはアーカイブズ(文書館と記録資料)を利用する。未来の人々が現在に関して、どんな証拠(エビデンス)を手にすることになるのかは、デジタル記録 digital records を保存し続け、利用可能な状態にしておくことができるかどうかというわたしたちの能力にかかっている。文書館は、デジタル記録を確実に保持し続けることができるような、格別な能力を開発する必要がある。

比較的最近まで、記録 records とは形あるもの、しばしば、文書、写真、地図の入った箱だった。だが、もはやそうではない。現在では、デジタル記録は、何かに書きこまれた、あるいははっきりと形あるコンテンツだけでなく、無形のビット、データ、コードも含む。デジタル技術の使用は、どのようなタイプの記録を作成し、捕捉 capture し、共有し、利用可能にするのかを深く規定する。デジタル記録に関わる挑戦は、文書館が大きく変わる必要があることを意味している。それは、破壊的デジタル文書館 5 がもたらす、アーカイブズ(文書館と記録資料)に関わる実務 6 における革命に他ならない 7

デジタル技術は、一般の人々がアーカイブズ(文書館と記録資料)にアクセスし、それを使用する手段をも変容させた。毎月、何百万もの人々がわたしたちのウェブサイトを訪れている。訪問者たちは、イギリス国立公文書館や他の文書館の目録を調査するには「ディスカバリー Discovery」8、アーカイブされた政府のウェブサイトにアクセスするには「英国政府ウェブアーカイブ」9、法律を読むためには legislation.gov.uk 10、といったデジタルサービスを利用する。期待値は高く、例えば携帯機器の使用が拡大していることもあり、わたしたちはペースを維持しなければならない。ソーシャルメディアのプラットフォームにより、わたしたちはアーカイビングに関して新しい挑戦を突きつけられるとともに、一般の人々を呼び込み、新たなオーディエンスにまでリーチを伸ばす、胸躍る新たな手段を獲得したのである。また、一般の人々がわたしたちのコレクションの目録作成の改善を手助けしてくれることによって、人々の文書館への貢献の仕方を大きく変える可能性も存在する。

このデジタル戦略では、「アーカイブズ・インスパイア」における目標を達成するため、これから3年にわたる大掛かりな計画を設定する。わたしたちは以下のことを計画している。

・破壊的デジタル文書館の創造
・ウェブ利用によるリーチの拡張と新規オーディエンスの呼び込み
・物理的なアーカイブ 11 へのアクセス・その利用方法の変革
・わたしたちのデジタル能力、デジタルスキル、デジタル文化の開発
・デジタルトランスフォーメーションを促進する、他の文書館との積極的な協力連携関係構築

わたしたちは次の3年間で、3つの段階を経てこの戦略を実行する。

この戦略は野心的である。これは、「アーカイブズ・インスパイア」が述べる高い志を実現するために、これからわたしたちが講じようとしている方策に輪郭を与えるものである。デジタル文書館の役割を遂行しながら、わたしたちは多くのことを学んだ。現在必要とする能力の多くについて、わたしたちは自信を持っている。この挑戦の規模は大きく、わたしたちの持っているリソースと、必要とするリソースのレベルの間にはかなりのギャップがある。しかし、この戦略を進めていく過程で、わたしたちはそのギャップを埋めていくだろう。わたしたちには未知なこともたくさんある。このような不確かな状況に対処するため、わたしたちはアジャイルな 12 やり方で計画を進め、新たなことを学びながら計画を調整する。わたしたちは、開発しながら優先事項を見直し、前進しながらこのデジタル戦略を反復する 13


2. デジタルの挑戦

わたしたちの事業戦略である「アーカイブズ・インスパイア」は、「デジタル」を最も大きな戦略上の課題と位置付けている。この課題について、イギリス国立公文書館は孤立してはいない。世界中の文書館がデジタルの挑戦に取り組んでいる。これには、いくつかの理由がある。

2-1 記録は実物からバーチャルに変わる

デジタル記録は0と1の組み合わせにより符号化された情報である。それは、わたしたちが利用者のため、コンピューターを使わずに保存したり、作成できるような形をしていない。アーキビストたちは、これが大きな変革であることをしばらく前から理解している。

わたしたちは長い間、実体を有する記録のアーカイブ 14 がどうあるべきか了解してきた。[イギリス国立公文書館の前身であるパブリック・レコード・オフィスの]副館長であったヒラリー・ジェンキンスン卿による『文書館経営の手引書』 Manual of Archive Administration は、1922年に出版され、ある世代のアーキビストたちにとっての基準を打ち立てた。その時期以来、多くの物事が変化したけれども、近年のイギリス国立公文書館のアーカイブズ(文書館と記録資料)に関わる実務の多くは、ヒラリー卿にとって理解可能なものであろう。

伝統的には、作成されたものを評価選別し、わずかなもののみを長期的に保存する。評価、選別、そしてセンシティブ情報の審査の大部分は専門家の判断に依拠して、手作業で行われる。文書館は、記述的なインベントリ(目録)を通じ、コレクションを知的にコントロールすることを目標としている。この目録は、研究者にとって最も重要な検索手段でもある。記録のコンテクストを[目録に]与えるため、目録は記録を生み出した組織 15 からはじまり、フォンド、サブフォンド、さらにシリーズへと[下位レベルを設けることで]階層化される。これは、機能面で比較的安定しており、幅広い階層構造を有する組織と、記録保管のための合理的に体系化されたアプローチとに依拠している。記録を構成する文書は、元々の秩序に従って保持される。記録のコンテクストを与えるために[記録]作成者 16 が提供、作成する記述は、文書館が保持し、変更されることはない。記録は、専用のリポジトリで保存し、閲覧室で公開される。この文書館実務全体は、物理的な記録の実体性と、きっちりと確立された記録保存の伝統 17 に依存する。

デジタル記録は物理的な記録とは非常に異なる。記録は単なる文書ではなく、ウェブベースのツールを使ったスレッド化された議論、ビデオ、ウェブサイト、構造化されたデータセット、コンピューターコードなど、文書以外のあらゆる形態の情報でありうる。デジタル記録はしばしば、作成者と所有者が異なる可能性のある様々な要素/コンポーネントの複合物である。わたしたちは、データを利用して重要なものを把握し、検索を利用して潜在的に意味を持つアイテムを見つけることで、大規模なデジタル記録のコレクションを比較的容易に処理できる。これはすでに、いくつかの政府部門において未分類情報の「デジタルヒープ」 18 が見られるなか、記録の整理方法に影響を及ぼしている。それは、何が価値を持つことになるのか[に関する基準・考え]を変え、また、評価と選別のためのアプローチに影響を与える。記録のコンテクストと出所についても、別の方法で記述可能になりうる。わたしたちのコンテクストデータは、より流動的で、相互にリンクするようになるだろう。

2-2 デジタル保存は難しい

デジタル保存という課題に対する長期的な解決策はない。文書館にできることは、何世代にもわたる技術変化の間、記録を継続的に利用可能にするために必要な工学的措置を、組織的に投資し続ける、という関わり方(コミットメント)があるのみである。

これにはいくつかのことが含まれる。まず、デジタル記録のための長期的なデータ保存媒体がまだ存在しないため、ビットを保持することとなる。時間とともに、デジタル記録のコピーを作成する必要があり、各コピーは同じでなければならない。

2つめは、記録の生成、またはその使用を可能にする能力を保持することである。デジタル記録はコードに依存するデータである。このデータは、それ自体がコードであるか、もしくはコードを含んでいる可能性がある。デジタル文書館は、コードについてのデータ、他のコードについてのコード、データについてのコードなど、データとコードの複雑な関係を理解し、管理する必要がある。そしてデジタル文書館はこれらの依存関係を、時とともに、何世代にもわたる技術変化の間ずっと、管理しなければならない。エミュレーションとマイグレーションの両方が、デジタル保存のリスクを管理するのに重要な役割を果たす。ある文書館が何を保存しているか知っている場合、その機関が長期的な保存リスクを管理することははるかに容易である。20年[という期間]-現在、公記録法の下でイギリス国立公文書館に記録が移管されるまでの期間-は、デジタル保存を管理するために何が必要かを見つけ出すまでの長い時間である。わたしたちのファイルフォーマットシグネチャ 19 のレジストリである PRONOM 20 や、PRONOMデータを使いどのファイルがどのタイプであるかを特定する DROID 21 のようなツールは、デジタル文書館にとっての基礎であり、非常に重要である。

2-3 期待が変化した

利用者はデジタルプロダクツに対し高い期待を抱いている。彼らは、処理が簡単で、結果がすぐに得られる、使いやすいサービスを期待している。わたしたちは、人々の期待の高まりと、彼らの情報へのアクセス、消費方法の変化に対応したサービスを提供する必要がある。モバイルとタブレットへの移行のようなトレンドが大きな影響力を持つ。

アーカイブズ(文書館と記録資料)が役に立つためには、利用される必要がある。わたしたちは、アクセスと利用に関する、期待の変化に対応しなければならない。「ディスカバリー Discovery」は、関連するサービス(ダウンロード、記録のコピー)とともに、主に物理的記録の目録記述を検索するために開発された。だがこれは、デジタル記録を説得力を持って再現する presentation システムではない。

デジタル記録はプレゼンテーションフォーマットの中にはない。デジタル記録を作成するためには、文書館が、エンドユーザーの技術的能力を考慮して、保存するデータの処理方法を決定する必要がある。デジタル記録(文書フォーマット、電子メール、マルチメディア、データセット、コード)の多様な性質と、利用者の状況の変化(デスクトップPCからタブレットやスマートフォンへ)が、これを困難にしている。例えば、電子メールのための納得のいくプレゼンテーションの解決策はまだ存在しない。

期待を抱いているのは、記録にアクセスしてそれを読みたい人々だけではない。 デジタル記録には、その記録に対しコンピューターコードを書き、実行したいと考えるデータ利用者もいる。安全性を保つこと(潜在的に有害なコードを、保存するデータから遠ざけること)と使用を可能にすること(コレクションに対するコードの実行を容易にすること)の間にも緊張がある。

2-4 変化はこれから先ずっと続く

記録の性質は変化している。コンピューターを使用することで、情報を記録して伝達する新しい方法が生まれた。コンピューターを政府で最初に使用し始めた頃には、紙を利用して確立した作業方法が、単に電子的方法に置き換わったこともしばしばであった。例えば、手紙が電子メールに取って代わったことがそうである。いくつかのデジタルトランスフォーメーションプロジェクトは、政府が従来の紙プロセスの電子的な置き換えから一歩前進することを可能にした。Googleドキュメントの文書、Slackチャンネルやツイートに相当する紙のプロセスは存在しない。わたしたちは、それ自体が情報コンテンツとコンピューターコードのかなり複雑な混合物である記録も目にしている。例えば、R Markdown を用いて作成された統計的な報告書が上げられる。

あらゆる新しい技術は、デジタル文書館に新たな課題をそれぞれもたらす。そして、この変化は継続的なものである。わたしたちは10年前、ビッグデータ分析、分散型台帳技術、あるいはIoTについて悩んでいなかった。 デジタル文書館は、技術革新における連続的な上昇と下降の波に乗り、どこに最も努力を傾けるかについて決定を下さなければならない。

2-5 デジタルスキルに対する高い需要

「アーカイブズ・インスパイア」が述べている通り、わたしたちは能力とスキル、特にデジタルスキルに投資する予定である。英国では、中級~高レベルのデジタル技術に対する大きな需要がある。2015年のデジタル技術に関する議会委員会への証言の中で、英国産業連合(CBI)は、空席のデジタル要員のうち、ほぼ20%は補充することが難しいと判明していると述べた。英国経済は、2020年までに少なくとも30万人の新たなデジタル技術者を必要とする。特に、労働市場で最も需要が高いのは「デジタルメーカーズ」22 と呼ばれる、新技術を発明し応用することのできる人々である。これらはまさに、他のすべての課題に取り組むために、デジタル文書館が最も必要とするスキルである。文書館にとって、必要なデジタルスキルを持つ人々を集めるために、労働市場で競争することはますます困難になっている。


3. わたしたちが今いるところ

イギリス国立公文書館は、多岐にわたるデジタルサービスを備えたマルチチャネル文書館である。わたしたちのウェブサイトは、所蔵するコレクションに豊富なコンテクストを与え、利用者の手助けをしている。また、これには教師向け教材などのサポートリソースも含まれている。「ディスカバリー Discovery」を利用することで、わたしたちの目録や、他の文書館が保有する記録の記述 23 も検索できる。「ディスカバリー Discovery」は、デジタル化された記録にアクセスするサービスと、デジタルコピーを取得するためのサービスを統合したものである。「英国政府ウェブアーカイブ」は、ウェブ上における政府の包括的な記録である。商業的な協力連携関係とわたしたち自身の努力を通じて、わたしたちは大部分の所蔵をデジタル化した。

わたしたちはまた、世界の中で機能している数少ないデジタル文書館の一つでもある。わたしたちの Digital Records Infrastructure は、ダークアーカイブ(数ペタバイト)内のテープに、柔軟なアプローチを用いてモデル化した関連する記述メタデータとともに、膨大な量のデータを安全、厳重かつ積極的に保存することができる。これは、非常に熟練したいくつかのチームによって運営されている。わたしたちはまた、PRONOMという、世界でも最高のファイルフォーマットシグネチャのレジストリを所有し、維持している。これはデジタル保存の解決策の基盤である。PRONOMの維持を通じて、わたしたちは数十の文書館と積極的に国際的な協力をしている。

デジタルの課題は2つの側面から成り立っている。それは、文書館としてのわたしたちの実務への挑戦という側面であり、同時に、わたしたちの能力への挑戦という側面でもある。わたしたちは、文書館実務において、比較的安定した時代から、絶え間ない変化の時代に移行しつつある。新世代のあらゆる技術は、保存とアクセスという点で、一連の新たな問題を引き起こす。デジタル文書館はそれに対応していかなければならない。これらの要求に対して、デジタル文書館としてわたしたちが持っているリソースのレベルと、必要なリソースレベルとの間には大きなギャップがある。このギャップについて、わたしたちは、この戦略を推進し、将来の労働力を育成する一環として、橋渡しをしていく。

デジタル記録の挑戦に直面しているのは、わたしたちだけではない。わたしたちは、アーカイブズセクター 24 のリーダーとして、英国および世界中の多くの文書館がこの挑戦を共有していることを認識している。英国には、わたしたちが活用することができる大きな強みがいくつかある。まず、わたしたちには世界的レベルの研究基盤がある。例えば、ヨーロッパの文書館とともに、新たなデジタル保存ツールを広範に開発している European Archival Records and Knowledge Preservation(E-ARK)プロジェクトは、ブライトン大学が進めている。また、デジタル保存連合 Digital Preservation Coalition などの組織や、DLM Forum、European Archives Group(EAG)、国際アーカイブズ評議会(ICA)などの国際的な団体を通じ、文書館と他の記憶機関が協力し合ってお互いを支援するという、長い伝統もある。


4. 破壊的デジタル文書館のためのビジョン

わたしたちは現在、デジタル文書館としての実務のなかに、物理的な記録に対するアプローチをかなり取り入れている。わたしたちは第1世代のデジタル文書館であり、紙の文書のために考案された文書館実務を電子的に置き換えている。デジタル記録も、記録のライフサイクルモデルによって策定された手引きに従って、物理的な記録と同様に評価し、選別する。デジタルの移管プロセスは、各段階でかなりのレベルの手作業を伴う紙文書移管のためのゲートウェイに従っている。記録を移管するときは、既定の目録標準を使用して記述する。検索とアクセスは、目録と「ディスカバリー Discovery」を通じて提供する。

わたしたちのビジョンは、第2世代のデジタル文書館、すなわち本能的直感と計画的意図によってデジタル[な存在]になることである。破壊的デジタル文書館とは、文書館の実務を基本原則から根本的に再検討する。

破壊的デジタル文書館は:

・時に応じてさまざまなタイプの価値を利用者に提供するという明確な価値命題を打ち立てる。
・一般的なフォーマットの記録だけでなく、政府によって作成されたすべてのタイプのデジタル記録を保存する。
・新しいシステムに関する議論に寄与し、デジタル保存の問題を可能な限り早期に考える。
・コンテクストを提供し、リスクを管理し、記録に変更が加えられていないという保証を与えるための新しい方法を開発する。
・記録を、作成の瞬間からアーカイブ的なものとみなし、またスー・マッケミッシュの言葉を引用すれば「常になりゆく状態にある」25 とみなす記録連続体モデル(レコードコンティニュアムモデル) 26 に大いに特徴付けられたアプローチを採用する。
・記録を複数の視点のための証拠として認識する記述実務を発展させる。この複数の視点は、記録の形成に寄与し、継続的な利用を通して進化し、変化し続けるものである。
・大規模なデータ分析の時代においては、デジタル記録のコレクションの集積が全体として価値を持つのであり、その価値は構成部分の価値の総和を超えることを認識する。
・ウェブを通じて新しいオーディエンスにまで届く。さらにコレクション全体の利用を可能にすることによって、より一層意義ある存在になるチャンスを掴まえることが可能となる。
・ツール、経験、仕事を他者と共有して、アーカイブズ(文書館と記録資料)に関わる新たな実務と標準を開発する。
・成長を続けるデジタル文書館のグローバルコミュニティの一員として、協力して任務に従事する。


5. デジタル文書館(Digital Archive)
5.1 デジタル文書館はどのように価値を提供するのか

デジタル文書館がその利用者に提供する価値には、次の4つのカテゴリがある。

文書館は、記録を保管し、アクセスを提供することによって社会に価値をもたらす。基本的にデジタル文書館も同じように価値を提供する。その意味で、「保存する」とは、信頼できるデジタル記録が将来も安全に保たれ、常に使用できることを意味する。「コンテクスト化する」とは、デジタル記録がその作成と継続して利用されてきた文脈の中で理解可能であることを意味する。「見せる」とは、オープンなデジタル記録 27 が利用可能であり、利用者のために作成されるということを意味する。「利用できるようにする」とは、利用者が研究目的ですべてのオープンなデジタル記録をコンピューターで処理でき、検索と発見のためのインデックス作成を可能とする機能をわたしたちが提供することを意味する。

デジタル文書館は、時に応じてさまざまなタイプの便益を提供する機会を持つ。デジタル記録の保存というわたしたちの仕事は、記録の作成以前に開始する必要がある。新しいシステムが具体化され、また開発される時点で、わたしたちはデジタル保存の問題について助言しなくてはならない。また、使用するソフトウェアを理解し、さまざまな種類の記録を保存するための適切な機能を装備すれば、はるか先を見越すことができる。ほとんどの政府のデジタル記録は公開 28 されていない。わたしたちは、記録の作成後すぐに、それらにコンテクストを付与することができる。積極的にウェブ上で政府[の活動]をアーカイブすることによって、わたしたちはコンテクストの付与を行うことができ、公開されたものを捕捉することとなる。また、legislation.gov.uk データベースで管理しているデータを使用して、法律で定められた省の機能、権限、義務を把握し、これを記録の記述に使用するだけでなく、評価と選別の補助にもできる。わたしたちには、公記録法の下で、必要な時に最も適切な方法でオープンな記録 29 を提示し 30 、利用できるようにする機能 31 が必要である。

5.2 保存する(Preserve)

わたしたちは保存できるデジタル記録のタイプを増やしていく。現在のところ、わたしたちは画像、文書フォーマット(Word や Excel など)、電子メール、ビデオ、および混合メディア(ウェブサイトやツイートを含む)に集中している。構造化されたデータセットとコンピューターコードを保存する機能を開発する必要がある。これには例えば地理空間情報を保存するための新しい機能の開発が含まれる。

わたしたちは、デジタル記録の保存リスクに、今よりもっと早期に対処する。公文書館の内外で専門知識を発展させることや、デジタル記録の早期移管を可能にしたり、あるいは新しいシステムを開発する際に政府各部門に助言したりするような実用的な策を講じることを通して、既知のデジタル保存の困難のいくつかに対処できる。DROID などのツールを開発することで、わたしたちが保持していない 32 記録のためのデジタル保存リスクを効果的に管理できるようにする必要がある。また、政府各部門が利用する中期的なアーカイビングの解決策が、デジタル保存リスクをも中期的に管理できることを確認する必要がある。

わたしたちはソフトウェア業界および開発者コミュニティと協力し、デジタル保存の問題についての理解を深める。これらのコミュニティ、特にオープンソースソフトウェアの開発者ネットワークの一部と、より緊密に連携するチャンスがある。わたしたちはオープンソースのプロジェクトやツールに積極的に貢献する 33

わたしたちは、評価、選別、およびセンシティブ情報の審査の管理を補助するための新しい方法を開発する。評価、選別、センシティブ情報の審査のためにeディスカバリーツールの使用を探る必要がある。わたしたちは、機械学習の利用を調査し、わたしたちのコレクションの増大に対し、「異常検知」34 などの技術を適用して、デジタルでのセンシティブ情報の審査をさらに促進しなければならない。

わたしたちはデジタル記録を捕捉する新しい方法を開発する。デジタル移管だけでなく、デジタル記録を収集するためのハーベスト戦略を開発する必要がある。「英国政府ウェブアーカイブ」の運用が、複雑なデジタル記録を捕捉する強力な機能を与えてくれた。わたしたちはこれをさらに発展させることを目指している。現在多くの政府情報をクラウドに移しているところである。長期保存に適したフォーマットでデジタル記録を捕捉するためには、最も広く利用されているクラウドベースのサービスのための「データ解放」35 機能を開発する必要がある。

わたしたちは、デジタル記録を移管するプロセスを標準化し簡素化する。新しい記録の追加(登録、移管、取り込み)を自動化するため、政府各部門が使うためのセルフサービスのデジタルインターフェースを開発することが必要である。また、メタデータの作成を完全に自動化できるように、デジタル記録の記述方法を変更し、デジタル[分野の]専門家の取り組みの焦点を、比較的平凡なこと(メタデータを整えること)から、より手間がかかり困難なことに移す必要がある。

わたしたちはオリジナルなフォーマットのままデジタル記録を保存する。すなわち、保存しているデジタル記録には変更を加えない。現在のソフトウェアでは読めない、または利用できないデジタル記録を取り出す 36 には、好ましい方法としてエミュレーションを利用する。保存リスクを管理する代替手段がない場合にのみ、デジタル記録を別のフォーマットにマイグレーションする。記録を保存フォーマットから変換して(ウェブアーカイブの場合と同じように)利用者に提示する 37 か、代替バージョンを作成する場合(例えば、電子メールメッセージをPDF文書に変換する場合)、わたしたちは、利用者が記録の出所を完全に理解することができるよう、わたしたちが加えた操作を説明する。

わたしたちは、PRONOM への取り組みをデジタル文書館の基盤として強化していく。 わたしたちは、他の文書館と協力して、PRONOM の適用範囲を広げる。また、ファイルフォーマットの識別、署名の作成、検証、および利用に関する新しいアプローチを探求する必要がある。

わたしたちは、保存のリスクを測定し、その結果を公表 38 する。わたしたちは、どのデジタル記録が提示並びに利用可能か 39 を測定するための保存リスクモデルを開発し、そういったリスクを特定する。例えば、記録を生成するために必要なソフトウェアを実行する機能がない場合などである。他の関係者とともに、これらのリスクに対処するため、ソフトウェアベンダーからの「アーカイブとしての利用」ライセンス[付与]の可能性を探る必要がある。

わたしたちは、最も費用対効果の高い方法でデータストレージを管理する。そして、保存可能なデータ量を把握するために、ストレージコストモデルを開発する。クラウドコンピューティングの時代には、コンピューティングやストレージサービスは日常欠くことのできないものとなったが、データ移動 40 は比較的扱いにくいままである。記録を利用可能な状態のまま安全に維持する、ストレージの最適な組み合わせ方(クラウド、テープアーカイブなど)を決定するため、わたしたちは業務計画の一環として、データ量の推定とともにストレージコストモデルを利用する必要がある。

デジタル文書館の信頼の基礎として、わたしたちの実務の透明性を保つ。「信頼できるデジタルリポジトリ」Trusted Digital Repository 41 認証による便益の評価を行う必要がある。わたしたちは、利用者自身が記録の真正性を確認できるようにするために、暗号化で保護された方法による保存記録のデータ公開について、調査しなくてはならない。わたしたちは、分散型台帳などの新技術を探り、それらが文書館実務にとって意味があるかどうかを探求すべきである。

わたしたちはデジタル文書館のためにすでに確立した成熟度モデルと評価方法に照らして、進捗状況を評価する

他の文書館と協力して、アーカイブズ(文書館と記録資料)に関わる新しい実務、ツール、標準を共同で開発する。わたしたちは他の文書館とともに、国際的なグループやフォーラムに積極的に参加する。世界的に大規模な文書館の1つとして、わたしたちは、アーカイブズ(文書館と記録資料)に関わる実務、デジタルアーカイビングツール、および標準に関する研究開発に貢献するパートナーとなる。

5.3 コンテクスト化する(Contextualise)

わたしたちは、デジタル記録をどのように記述し、コンテクスト化するかについて再考する。記録の記述には、利用者のニーズに基づいた全く新しいアプローチを採用する必要がある。わたしたちは、他の文書館やオーストラリアのシリーズシステムといったオルタナティブなものから学ぶべきである。わたしたちは、個々の記録と記述の間の密接なつながりを断ち切ることを追求し、より柔軟なアプローチを検討する必要がある 42

わたしたちは政府各部門の負担を軽減する。保存メタデータのみを、アイテムレベル(レファレンス、出所、不変性、アクセス権)で管理する必要がある。アイテムレベルのメタデータは可能な限り自動で生成されなければならない。

わたしたちはコンテクストの記述のため、新たなチャンスを模索していく。デジタル記録は互いにコンテクスト化することができる。コンテクストの理解は流動的である。わたしたちのコレクションとともに、または他のデジタル記録コレクションとの関連で、コンテクスト理解は拡大し得る。わたしたちは既に、記録のコンテクスト化を助ける2つの重要なデータセットを有している。それは、法律(政府の機能は法律で規定されている)と、政府のウェブサイトのアーカイブである。他の機関(例えば、BBC、英国図書館、インターネットアーカイブ)は、同じように利用可能な、時間を意識した 43 [コンテクスト化のために参照しうる]大きなコレクションを持っている。わたしたちは、断片化した情報をさまざまな機関で保存するサイロの時代から、単にデータが分散化しているだけの時代に移行する必要がある。そして、これをより容易にするツールやアプローチを開発し、利用し、サポートしなければならない。

記録に関するデータの不確実性およびその結果生じるリスクをどのように管理するべきか調査する。数学的確率は確実性を表すための優れた方法を提供してくれる。そして、わたしたちは Traces Through Time 研究プロジェクト 44 から貴重な教訓をいくつか学んだ。わたしたちは、意思決定のためのデータの中に存在するリスクと不確実性に対処する定量的手法の開発を、特にベイジアンネットワーク 45 を利用して開始する必要がある。

わたしたちは、時間の経過とともに変化する記録の記述をどのように管理するのが最適であるかについて調査する。デジタル記録とその記述は、移管時にその[政府]部門から提供される「凍結」情報 46 である必要はない。デジタル記録は、持続的に処理・利用されなければならない。デジタル記録に関するコンテクスト理解は、間断なく進化し変化するものである。わたしたちはこのことが何を意味するのか探求する必要がある。

5.4 見せる(Present)

わたしたちはウェブ上でデジタル記録を生成する新たなプレゼンテーション(見せる)システムを開発する。利用者のニーズを満たすように設計して、さまざまなタイプのデジタル記録を提示できなければならない。電子メールとマルチメディアコンテンツを適切に見せることができるという点が必須である。新しいプレゼンテーション(見せる)システムは、利用者、開発者、および機械のニーズを満たすため、オープンなAPIを備える。そのシステムは、さまざまなフォーマットによるプレゼンテーションの版(バージョン)と、認証済みの保存コピーを提供するはずである。

わたしたちは、プレゼンテーション(見せること)のリスクを管理するため、オープンな記録へのアクセスを段階的に変えていく。記録をオープンにすることと記録を公表する 47 ことは、非常に異なる行為である。新しいプレゼンテーション(見せる)システムは、プレゼンテーションに関わるリスクの管理(知的財産権問題など)を手助けするため、アクセスを段階的に変える必要がある。何を検索エンジンのインデックスに利用可能なものとするか、何をウェブ上のものとするか、何が修正改変されうるのか、何がウェブサイトでのみ利用可能であるか、といったことをわたしたちは柔軟に決定できる必要がある。

5.5 利用できるようにする(Enable use)

わたしたちは、自分たち自身や研究者たちが、日用的なコンピューター機能 48 を使って、コレクションを処理することを可能とするために、コレクションをクラウドにコピーする。また、データへの一括アクセスを提供することに伴うリスクを管理する方法を発見する必要がある。一部のクラウドプロバイダは、クラウド内の大規模なデータセットをホストするのに非常に熱心である(例えば、NASA の大規模なオープンデータセットは無料でホストされているが、クラウドプロバイダはストレージではなくコンピューティングサービスの販売で収益を上げている)。

わたしたちは積極的に自らコレクションを処理し、コンテクストの記述をさらに拡張する。ビッグデータや機械学習技術を利用して、適切な方法でデジタル記録を処理することによって、わたしたちのコレクションは総体として価値を持つ。これを積極的に実現する必要がある。

わたしたちは、他のデジタル文書館や、国家統計局のような多くのデータを持つ政府機関など、同様の課題に立ち向かう他者から学ぶ。大量のデータ処理から生じる法的、倫理的、公共的な許容の可能性を考慮 49 しながら、利用を可能にするための実務を発展させる必要がある。


6. デジタルサービス

ウェブサイトは一般の人々の間ではわたしたちの顔の一部 50 であり、一般の人々の関心を引き付ける重要なコミュニケーションチャネルである。あらゆるタイプの研究者が、わたしたちのウェブサイトを訪問したり、デジタル化された画像をダウンロードしたりすることで、わたしたちの記録について学び、目録を検索し、コレクションにアクセスすることができる。デジタル記録にとっては、ウェブサイトは記録が生み出される閲覧室でもある。また、わたしたちは他の重要なデジタルサービス、特に legislation.gov.uk と「英国政府ウェブアーカイブ」も提供している。

わたしたちは利用者調査(ユーザーリサーチ)を通じ利用者のニーズを把握する。利用できないデジタルサービスは機能しない。直感的なユーザーエクスペリエンスを提供するには、いくつかの大きな課題がある。わたしたちのウェブサイトを利用しているほとんどの人は、文書館がどのようにコレクションを組織化しているのか理解しておらず、目録を検索するにあたって途方に暮れてしまっている。legislation.gov.uk のほとんどの利用者は立法の仕組みを理解していない。これらのサービスを開発したり改善したりするのに最も効果的な方法を見つけるための唯一の手段が、利用者調査である。

利用者のニーズを満たすサービスを開発できるように、わたしたちは利用者調査の能力を高める。わたしたちは利用者調査からエビデンスを収集して、データ(例えば利用方法について)分析する必要がある。わたしたちはコンセプトやアイデアを試すことができるような、独自の利用者調査ラボをウェブサイト上に設置すべきである。提供しているデジタルサービスごとの満足度、訪問者数、訪問時間についての情報が比較可能な状態であるためには、すべてのデジタルサービスのデータをまとめる必要がある。わたしたちは、分析に関わる共通の方法と技術 51 を開発し、常にエビデンスに基づく意思決定ができるようにする。

ウェブサイトは、それがわたしたちの一般向けプログラミング戦略 our public programming strategy 52 に欠かせないものとなるように開発する。利用者行動に関する理解と、オーディエンスについてのより幅広い理解とを関連付ける必要がある。わたしたちは、人々の想像力を捉える高品質のコンテンツを創り出す必要がある。 また、イベントや展示会を宣伝したり、違った方法によるアーカイブズ(文書館と記録資料)との関わりをサポートしたりする、独創的な方法を見つける必要がある。

わたしたちは、記録の記述と、研究ガイドのような補助的情報をよりよく統合することによって「ディスカバリー Discovery」を改善する。検索エンジン利用による検索から記録へのアクセスまでの、一連の過程を、改善する機会を模索しなければならない。

わたしたちは、「ディスカバリー Discovery」の利用者が他の文書館のコレクションを検索することを手助けする。アーカイブズセクターへの提案の一環として、他の文書館が「ディスカバリー Discovery」を通じて目録記述を共有し、維持することをいっそう容易にする必要がある。

わたしたちは強力な捕捉(キャプチャ)技術とリプレイ技術を組み合わせ、ユーザー(利用者)インターフェイスを改善し、検索機能を強化することによって、「英国政府ウェブアーカイブ」の質を向上させる。わたしたちは引き続き、チャネルやコンテンツの種類を問わず、ウェブ上の政府記録を包括的に捕捉していく。

わたしたちは「ディスカバリー Discovery」API を改善することにより、目録記述をオープンデータとして利用可能なものにする。わたしたちは再利用を奨励すべきであるし、他の人々―彼らはしばしば特定のユーザー(利用者)コミュニティをターゲットとする―が、わたしたちの目録記述を彼らの製品やサービスに組み入れることも支援すべきである。一括ダウンロードの実現可能性を調査する必要もある。

わたしたちは HTML5 や schema.org など最新のWeb標準を使用した記録 records の記述とデジタル化された記録の新たな管理方法を調査する。Traces Through Time 研究プロジェクトは、重要なアイデアや貴重な教訓をもたらした。目録作成や注釈を施すためのウェブベースのツールを調査し、連携プロジェクトやボランティアプロジェクトのための新たなチャンスを切り拓いていく必要がある。

わたしたちは、一般向けデジタルサービス public facing digital services をクラウド(ウェブサイト、「ディスカバリー Discovery」、legislation.gov.uk および「英国政府ウェブアーカイブ」)に移行する。これによる弾力的なホスティングを通じて、サービスの利用可能性を高め、パフォーマンスを向上させる。わたしたちはクラウドの検索技術と、日用的なクラウドベースのサービスの利用で得られる他の便益について研究する必要もある。


7. わたしたちの文化を進化させる

わたしたちの文化は長い年月を重ね、幾多の経験を共有する中で発展してきた。「アーカイブズ・インスパイア」は、「わたしたちはこれまでとはちがったやり方で考え、自らを組織する」と述べている。組織文化は長期にわたって進化するものであり、変化はゆっくりとしたものである。わたしたちのデジタルへの挑戦は、ある部分では技術的で、またある部分では文書館としての実務に関わるが、同時に文化的な挑戦でもある。イギリス国立公文書館全体が、本能的直感と計画的意図によってデジタルである 53 必要がある。デジタルアーキビストのエリート集団がはるか先を行き、その他大勢が取り残される、というように分裂するには、わたしたちは小さすぎる。デジタルについてのわたしたちの挑戦は、業務全体に関わる挑戦であり、わたしたちの文化はなおいっそう長期的に発展する必要がある。これらのコミットメントは、ほんの始まりにすぎない。

わたしたちは現代のIT技術によってデジタル文化を発展させる。人々が仕事以外で培ったデジタルスキルをもっと使う方法を見つけなければならない。わたしたちの「IT戦略」が定めているように、現代的で柔軟なIT機器を持つことは、わたしたちの働き方を大きく革新する、とても重要なことである。

わたしたちは組織の全ての人がデジタルに関する取り組みでイニシアティブをとるチャンスを作る。一般の人々に向けたわたしたちのサービス 54 はいっそうデジタルになり、わたしたちの文化は進化する。組織内には、デジタル文化を具現化し、皆を助け励ますことのできる進取的な人物たちがいる。わたしたちは、デジタルサービスとデジタル文書館のために極めて重要な役割を果たす新たなリーダーを集める。また、わたしたちは組織内のあらゆるところにおいて、人々がデジタルに関する取り組みでイニシアティブを取ったり、リーダーになったりするチャンスを作り出す。わたしたちは、デジタル文化の更なる発展を支えるインセンティブについて考える必要がある。人々に対して新たな試みを行う許可を与え、彼らがリスクを負うことをサポートするということである。例えば、ソーシャルメディアを利用し、仕事関連の話題について語るといったことがこれに当たる。わたしたちは、「公務員服務規定」に従いながら、こういったことに関して一貫したメッセージを展開していく必要がある。

わたしたちは、デジタルチームで働く人々が、わたしたちの文書館としての仕事のあらゆる側面を学ぶ時間を確実に持てるようにする。人々の振る舞い方は波紋のように組織に広がる。デジタルは、違ってはいるものの、切り離すことはできない。デジタル部門の職員は、組織全体のデジタル文化を少しずつ動かすのを助けることができる。そのためには、デジタルチームが文書館の仕事のすべての側面にたずさわり、すべてのオーディエンスの真の価値を認めることが重要である。そして、実際には多くの接続点がある。例えば、コレクション保護部門とデジタル保存チームは、保存リスクを定量化する手法を共有することができる。パブリックエンゲージメントプログラムは、デジタルチームを文書館の別の仕事の側面に関わらせたり、デジタル文書館としてわたしたちが何をしているのかについて、一般の人々とシェアする数多くの機会を潜在的に持っている。連携と理解を通じて、わたしたちはともに成長するのである。

わたしたちはすべての人のデジタル文書館に関する理解を進化させる。わたしたちは人事、マーケティング、コミュニケーション[部門]に専門知識を仰ぐ。デジタルアーカイビングに対する人々の関心を捉え、デジタル文化を発展させるチャンスを模索する。研究におけるイノベーションと創造性を扱った一連の講演、Big Ides 55 は良い働きをしている。わたしたちは刺激的なスピーカーを招き、彼らの仕事について話を聞く。また、デジタルアーカイビングと Digital Records Infrastructure についてわかりやすく解説する。更に、デジタルアーカイビングのスタッフのためのトレーニングを提供する。すべてのスタッフが参加可能な発表会形式のイベントや、定期的な「壁ツアー」56 を実施することで、アジャイルなプロジェクトで何が進行しているのかを人々が知ることができる環境を整える。

わたしたちは、アジャイルの利用をさらに進める。アジャイルは状況が変化する中でソリューションを開発するのに適している。それはまた、利用者のニーズ、創造性と変化を取り入れることによって、わたしたちの文化を変えるのに役立つので、重要でもある。新たな行動をとるための方法を考えるより、行動することで新しい考えを導き出すことの方が簡単である。わたしたちは、アジャイルな作業をサポートする物理的な環境を整えるため、適切な壁スペースと座席レイアウトを準備する。アジャイルな状況で提供する必要があるスキルを確保できるように、プロダクトオーナーとサービスマネジャーをサポートする。わたしたちは、アジャイル戦略の実行、事業計画、財務管理、および利益実現の要求を調和させるために努力する。


8. デジタルスキル

わたしたちはイギリス国立公文書館で働くことを奨励する。イギリス国立公文書館は、人々がデジタル分野でのキャリアをスタートし、経験を積む素晴らしい場所であり、このことを現在の職員、さらに潜在的に職員となる可能性のある人々に伝えていかなければならない。ウェブサイト、ブログ、ソーシャルメディアを通じ、デジタル分野での雇用者としてのわたしたちの評判を高め、イギリス国立公文書館で働くことによって得られるユニークな経験について紹介する必要がある。カンファレンスやイベントへの参加を奨励して知識やスキルを共有し、組織全体に刺激を与え、話題を生み出すべきである。

わたしたちはキャリアについての提案を強化する。デジタルスキルを持つ人々が組織の中で、ただ追加的な管理責任を果たすのではなく、専門家としての役割を担いながら成長できるよう、彼らのために新しい道筋をつくる必要がある。

わたしたちは独自のデジタルスキルを開発する。個人が組織内でデジタルスキルを発展させ、職務間を移動するチャンスを彼らに与え、デジタルリサーチを行うことを、もっと容易にする必要がある。アーカイブズセクターにおけるスキルニーズを満たすため、既存の職員と新規の職員に専門的なデジタル文書館スキルを教えるトレーニングプログラムを開発しなければならない。また、デジタルスキルを持っており才能はあるが経験不足のスタッフの育成も求められる。

わたしたちは研究とイノベーションのチャンスを提供する。実験のための空間を作り出す必要がある。優先順位の高いデジタルプロジェクトには研究開発活動の時間が必要である。デジタルチームのメンバーが、[彼らの]研究結果が活用されるような状況や文化の下で、自由な形でのプロジェクトを進められる時間を毎月割り当てる。チームの垣根を越える主要デジタル分野(アジャイル、利用者調査、データ分析)において、組織内に実務のためのコミュニティを構築する必要がある。

わたしたちは Adaとして知られる「デジタルスキルのための全国カレッジ」The National College for Digital Skills 57 のようなトレーニングパートナーと協力して、デジタルスキルを持つ人々を雇い、訓練する。 わたしたちは、2017年にソフトウェア開発分野において5名の実習生を任命する予定である。また、パートタイムで働くことを希望する人や、仕事に復帰しようとしている人にアピールするなど、スタッフ―特に地域の人々―を引き付けるための取り組みを発展させる必要がある。わたしたちは、他の文書館、政府デジタルサービス(GDS)および政府の他の部署との間で、訓練と連携による発展のチャンスを探りながら、相互の関係を発展させる。わたしたちは、学術的な協力連携関係を公式のものとし、カリキュラムに影響を与え、文書館で一時的に働く修士および博士課程の学生の誘致に取り組み、卒業との職業訓練プログラムを開発する。


9. デジタルリサーチ

デジタル分野における課題に対処するためには、研究開発が不可欠である。わたしたちのデジタルリサーチ計画は、Digital Research Roadmap 58 に詳細に記載されている。これは、本戦略に沿ったデジタルリサーチのテーマをグループ化している。すなわち、保存すること、コンテクスト化すること、見せること、そして利用を可能にすることである。主な行動を要約すると以下の通りである:

わたしたちはデジタルリサーチスキルを開発する。これは、人々に研究を行うチャンスを与えること、そしてデジタルスキルを持つ人々に対しては、キャリア形成に関わってこの提案を行うことを意味する。Traces Through Time と Big Data for Law 59 の経験を基に、デジタルリサーチプロジェクトを主任研究者として率いるチャンスや、共同研究者として協力するチャンスを探し求める。わたしたちはデジタルリサーチと実験のための環境を提供する。これは、スタッフに研究を行うための時間を割り当てることを意味する。わたしたちはまた、デジタルの仕事に研究の方法を取り入れ、研究課題や成果物の観点から、プロジェクトを考えなければならない。

わたしたちはデジタルリサーチと実験のための環境を提供する。これは、スタッフに研究を行うための時間を割り当てることを意味する。わたしたちはまた、デジタルの仕事に研究方法論を取り入れ、研究課題や成果物の観点から、プロジェクトを考えなければならない。

わたしたちは研究ネットワークやコミュニティに積極的に参加する。これは、アーカイブズ(文書館と記録資料)に関わる新しい実務を開発する際、共通の研究課題に取り組むため、英国や世界の文書館と協力することを意味する。


10. 行程表

この戦略の実施は、将来の職員の育成と密接に関連している。わたしたちは、学びを深めるごとにこの戦略を見直し、事業計画の進捗状況を定期的に確認する必要がある。これらのフェーズにより、エグゼクティブチームと理事会による討議、レビュー、優先順見直しのためのポイントが自然と提供される。

 フェーズ1 - 再形成(Reshape, 2017年1月~2017年6月)

わたしたちはこの戦略を実現するための最良の形にデジタルチームを作り変える。

わたしたちはデジタル分野でリーダーシップをとるため、4つの新しいポストの他、特にデジタルサービスのヘッド、デジタルアーカイビングのヘッド、ウェブアーカイビングのヘッド、デジタル保存における技術設計者など、重要な任命を行う。

わたしたちはこの戦略の中の以下の目標を特に優先する:

・デジタル記録の移管プロセスを標準化し簡素化する
・PRONOM へのコミットメントを強化する
・最も費用対効果の高い方法でデータストレージを管理する
・他の文書館と連携して、新しいアーカイブの実務、ツール、標準を協働開発する
・アジャイル戦略をさらに進める
・イギリス国立公文書館で働くことを奨励する
・キャリアに関する提案を強化する

 フェーズ2 - 成長(Grow, 2017年7月~2018年9月)

わたしたちは将来の職員の養成と合わせてデジタルチームを育成する

わたしたちは、戦略の中の以下の目標に優先的に取り組むことによって、デジタル文書館としての能力を開発する。

・保存可能なデジタル記録の種類を増やす
・デジタル記録の保存リスクを現在よりずっと早い時期から管理する

わたしたちは、戦略の中の以下の目標に優先的に取り組むことによって、政府への提案の質を向上させる:

・評価、選別、センシティブ情報審査の管理を支援するために新しい方法を開発する
・デジタル記録の移管プロセスを標準化し簡素化する
・政府各部門の負担を軽減する

わたしたちは、戦略の中の以下の目標に優先的に取り組むことによって、一般の人々 60、研究者、アーカイブズセクターへのサービスを向上させる。

・わたしたちの一般向けプログラミング戦略 61 になくてはならぬものとなるように、ウェブサイトを開発する
・「ディスカバリー Discovery」の質を向上させる
・「ディスカバリー Discovery」の利用者が他の文書館のコレクションを検索できるようサポートする
・「英国政府ウェブアーカイブ」を改善する
・一般向けのデジタルサービス 62 をクラウドに移行する

 フェーズ3 - 加速(Accelerate, 2018年10月~2019年12月)

わたしたちはペースを速め、拡大したデジタルチームとともに、より迅速にわたしたちの能力を開発していく。

わたしたちは将来の職員の育成と合わせてデジタルチームを更に成長させる。

わたしたちは、この戦略の中の以下の目標に優先的に取り組むことによって、デジタル文書館としての実務を発展させる。

・デジタル記録を捕捉するための新しい方法を開発する
・オリジナルなフォーマットでデジタル記録を保存し、エミュレーションの利用を模索する
・保存リスクを測定し、結果を公表する
・デジタル文書館への信頼の基礎として、わたしたちの実務について透明性を保つ
・他の文書館と連携して、アーカイブズ(文書館と記録資料)に関わる新しい実務、ツール、基準を協働開発する
・デジタル記録をどのように記述しコンテクスト化すべきか再考する
・記録に関するデータの不確実性に最適な対処の仕方を調査する
・ウェブ上にデジタル記録を生み出すための新しいプレゼンテーション(見せる)システムを開発する
・プレゼンテーション(見せること)のリスク管理のため、オープンな記録へのアクセスを段階的に変える
・積極的にわたしたち自身でコレクションを処理する

わたしたちは、この戦略の中の以下の目標に優先的に取り組むことによって、デジタルサービスを改良する。

・わたしたちの一般向けプログラミング戦略に欠かすことのできないものとなるように、ウェブサイトを開発する
・目録記述をオープンデータとして利用可能にする
・記録の記述とデジタル化された記録の新しい管理方法について調査する

わたしたちは、この戦略の中の以下の目標に優先的に取り組むことによって、自分たちのデジタル文化を発展させる。

・アジャイルの利用をさらに進める
・デジタルアーカイビングについての各々の理解を進化させる

わたしたちは、戦略の中の以下の目標に優先的に取り組むことによって、デジタルスキルを開発する

・イギリス国立公文書館で働くことを奨励する
・キャリア形成のための提案を強化する



【訳者注】

1 「わたしたち」とはイギリス国立公文書館、a digital archive は「一つのデジタル文書館」の意味であるから、「イギリス国立公文書館は本能的直感と計画的意図によってデジタル文書館になる」とした。'by instinct and design' については解題参照。

2 Archives Inspire。2015年から2019年までを対象にしたイギリス国立公文書館の中期戦略。解題参照。

3 解題で触れているように、英国の「アーカイブズセクター」には2,500を超える文書館が存在し、イギリス国立公文書館はこのセクターのリーダーである。アメリカを除く英語圏では、「個々の」文書館やプログラムを archive と単数形で表すことがある。英語圏内での名詞としての archive(s) の用法の違いに関しては解題参照。

4 同上。

5 「破壊的デジタル文書館」原文は disruptive digital archive。解題参照。

6 原文は archival practice。

7 この「革命」の現在進行形の具体的な内容は同時期に発表された「イギリス国立公文書館 デジタル目録作成実務 2017年3月」に詳しい。解題参照。

8 Discovery。イギリス国立公文書館で2012年10月に運用を開始したウェブサービスの名称。複数のアーカイブズ記述目録データベースを単一の集合体に統合したもの。英国各地の2,500の文書館から、1,000万件に及ぶ記録資料に関わる目録記述を、各機関と機関所蔵資料の詳細情報とともに集約している。単一の検索ボックスや絞り込み検索用フィルターなど、一般の利用者が利用しやすいインターフェイスを備えている。利用者によるタグ付けも可能である。またオンライン目録とダウンロードシステムを結びつけるなどの改善が行われた。詳しくはメアリー・グレッドヒル(イギリス国立公文書館商務・デジタル関係担当ディレクター)「イギリス国立公文書館におけるボーンデジタル記録管理の課題」(2015年10月に福岡で開催された EASTICA 第12回総会およびセミナーでの講演)国立公文書館サイトにて公開。http://www.archives.go.jp/news/pdf/151106gledhill_ja.pdf (PDF)
http://www.archives.go.jp/news/20151106.html

9 UK Government Web Archive。1996年以来の英国政府のウェブサイトを捕捉(キャプチャ)して保存・蓄積し、現在も利用可能としているウェブサービス。イギリス国立公文書館が提供している。政府機関の公式ツイッターアカウントのつぶやきや動画もアーカイブされて利用に供されている。http://www.nationalarchives.gov.uk/webarchive/

10 イギリス国立公文書館がウェブサービスとして提供する英国の法律データベース。http://www.legislation.gov.uk/

11 原文は physical archive。

12 agile は「機動的で柔軟な」といった意味。もともとはソフトウェア開発のための業務の手法であったが、さまざまな領域での業務にも活用されるようになってきている。独立行政法人情報処理推進機構「アジャイル領域へのスキル変革の指針:アジャイル開発の進め方」(2018年4月)が参考になる。https://www.ipa.go.jp/files/000065606.pdf (PDF)

13 iterating。「反復」もアジャイルな方法の一つの特徴である。

14 原文は originating organisation。

15 原文は originator。

16 原文は originator。

17 原文は record keeping tradition。

18 原文は'Digital Heap'。「デジタルヒープ」とは構造化されておらず、組織化されていないデジタルな情報を指す。きちんと索引化もされていない。典型的には電子メールや電子的に作成された文書のことである。英語圏では records と documents は明確に別の概念であり、英国の公記録法が対象とするのは記録 records である。「デジタルヒープ」と呼ばれるこのような情報は政府各部門において共用ドライブや個人ドライブ、電子メール受信箱に溜まっている。そのうちのある部分は政府各部門の公式記録 official records として、より制御された環境、例えば EDRMS(電子文書記録管理システム)で管理される必要がある。一言でいうと「デジタルヒープ」とは、知的なコントロールが及んでいない情報であり、エフェメラと呼ばれるような一過性の情報と長期的に保存すべき記録が混じり合っており、たくさんのコピーが含まれるといった特徴がある。以上は、イギリス国立公文書館デジタル部門ディレクターのジョン・シェリダン氏の説明による。イギリス国立公文書館ポジションペーパー「イギリス国立公文書館におけるデジタル目録作成実務」では「デジタルヒープ」と同様の言葉として「デジタルワイルドウェスト」'Digital Wild West' も使用されている。同ペーパー、6ページ。

19 シグネチャとは「デジタルオブジェクトのフォーマットを示すために用いることができる特性情報を集めたものであり、 デジタルオブジェクトのビットストリームの内部又は外部に存在する」。中島康比古「イギリス国立公文書館の近年の取組:電子情報・記録の管理を中心に」国立公文書館『北の丸』第43号、2011年2月、172ページ。以下、本論文を「中島論文」と呼ぶ。

20 ファイルフォーマットに関する情報提供サービス。中島論文173ページ参照。PRONOM sレジストリに関するイギリス国立公文書館のページは https://www.nationalarchives.gov.uk/PRONOM/Default.aspx

21 Digital Record Object Identification. ファイルフォーマットを自動的に特定するツール。同上。DROID ダウンロード用ページは https://www.nationalarchives.gov.uk/information-management/manage-information/preserving-digital-records/droid/

22 原文は 'digital makers'。

23 原文は descriptions of records held by other archives。

24 注3参照。

25 原文は adopts approaches that are significantly informed by the records continuum model which views records as archival from the moment of their creation and 'always in a state of becoming', to quote Sue McKemmish。「デジタル戦略」と同時期に発表された「イギリス国立公文書館におけるデジタル目録作成実務」8ページでも「時間を意識した記述 Temporally aware description」の項目でS. マッケミッシュのレコードコンティニュアムモデルについての言及があり、'records are in a state of becoming' と引用されている。同ページの注 5として次の引用元が記載されている。McKemmish, S. Archival Science (2001) 1: 333. doi:10.1007/BF02438901 マッケミッシュのこの論文では3カ所で類似の表現が出現する。こちらによると 'always in a process of becoming'(334、335、359ページ)で「デジタル戦略」とは若干の表現の違いがある。

26 原文は records continuum model。

27 原文は open digital records。

28 原文は publish。

29 原文は open records。

30 原文は present。

31 原文は capabilities。

32 英国政府各部門で作成され、イギリス国立公文書館にデジタル移管される前の段階の記録のこと。物理的な記録を扱う文書館の実務の場合、文書館が、政府各部門から文書館へ移管される前の段階の記録の管理に関わることは少ないが、デジタル記録の場合、デジタルであることによるリスクが増大することから、文書館は記録を作成する政府各部門に様々な助言を提供することが格段に必要となる。

33 イギリス国立公文書館では GitHub アカウントも利用している。https://github.com/nationalarchives 米国国立公文書館 https://github.com/usnationalarchives などオープンソースソフトウェア開発者コミュニティとの協力が進みつつある。

34 原文は 'anomaly detection'。

35 原文は 'data liberation'。

36 原文は produce。

37 原文は present。

38 原文は publish。

39 原文は can be presented and used。

40 原文は moving data remains relatively difficult。

41 デジタルデータの長期保存を可能とするデジタルリポジトリの認証制度が米国の研究図書館グループや欧州の関係機関を中心に発展しつつある。関連文献として以下を参照。南山泰之「信頼できるデータリポジトリの中核的な統一要件」『カレントアウェアネス-E』No.320 2017.02.23 http://current.ndl.go.jp/e1888 この文献で触れられていないnestorについては、大場利康、出雲孝「保存計画のためのガイドライン 手続モデルとその実装 バージョン2.0」http://id.nii.ac.jp/1128/00005314/ が詳しい。次の文献も「信頼できるデータリポジトリ」認証制度に関して参考になる。http://www.icsti.org/IMG/pdf/doorn_dillo.pdf(PDF)

42 原文は We need to explore breaking the tight association between individual records and the description and look at more flexible approaches。紙媒体記録の整理(編成・記述)、目録作成にとって国際標準としての普及した ISAD(G) から離れるつつある現状に基づいた表現である。詳しくは解題参照。

43 原文は temporally-aware。詳しくは解題参照。

44 イギリス国立公文書館の研究プロジェクト。アルゴリズムなど最新技術を用いて、大量に分散したデータから関連するものを取り出し結びつけて新しいストーリーを提供する、といった試み。ディスカバリーや目録作成の機能向上の観点で進められている。詳しくは同公文書館のページを参照。http://www.nationalarchives.gov.uk/about/our-role/plans-policies-performance-and-projects/our-projects/traces-through-time/

45 原文は Bayesian Networks。統計的因果推論に関わるモデル。

46 原文は 'frozen' information。

47 原文は publish。

48 原文は commodity computing power。

49 原文は public acceptability consideration。

50 原文は part of our public face。

51 原文は capabilities。

52 Public programming とは、博物館その他文化機関などが実施する、一般の人々向け、あるいは一般の人々を巻き込んだプログラム、企画。

53 原文は The whole of The National Archives needs to be digital by instinct and design。

54 原文は our public facing services。

55 イギリス国立公文書館の研究機関・文化機関関係者向けのシリーズ化されたセミナー。http://www.nationalarchives.gov.uk/about/our-research-and-academic-collaboration/events-and-training/big-ideas-seminar-series/ 同館のウェブ上でポッドキャストを利用して音声配信もされている。https://media.nationalarchives.gov.uk/index.php/category/big-ideas/ これまでジャン・リュック・コシャール(スイス連邦公文書館)「アーカイブズとリンクトデータ」https://media.nationalarchives.gov.uk/index.php/big-ideas-linked-data/ ビクトリア・ルミュー(ブリティッシュ・コロンビア大学)「ホモ・デウス時代のデータ化、分散とアーカイブズ学の未来」https://media.nationalarchives.gov.uk/index.php/big-ideas-datafication/ アン・ギリランド(UCLA)、ジェームズ・ローリー(リバプール大学)「難民問題への取り組みにおけるアーカイブズの役割」 https://media.nationalarchives.gov.uk/index.php/big-ideas-archives-refugees/ などが開催され、ウェブ上で講演を聞くことができる。

56 原文は 'tour of the walls'。ここでいう「壁ツアー」'tour of the walls' とは、タスクの進捗状況が書き込まれた付箋が貼り付けられたホワイトボードの壁の前を行ったり来たりして、タスクの状況を共に考えたり、ボードの前で立ったままミーティングを行うということを意味している。こういったことを定期的に行える環境を整えることによって、「アジャイルなプロジェクトで何が進行しているのかを人々が知ることができる」。アジャイル手法における壁、付箋、といった物理的環境の大切さについては、リンク先の動画の 28:32-30:15 が参考になる。これはイギリス政府デジタルサービス部門のアジャイル手法導入に関するプレゼンテーションである。 What I learned doing agile delivery in the UK Government Digital Service - Roo Reynolds, GOV.UK / GDS https://vimeo.com/168622294

57 Ada は Mark Smith とTom Fogden の二人の元失業者が2013年に立ち上げたデジタルスキルを持つ人材養成のための機関。のちに産業界、政府からも支援を受け、現在は National College for Digital Skills という名称。働く人にとってはデジタルスキルを通した夢の実現、社会的には英国におけるデジタルスキル要員不足の解消への貢献が期待されている。https://ada.ac.uk/

58 イギリス国立公文書館は2017年6月にこれをウェブ公開している。本文へのリンク http://www.nationalarchives.gov.uk/documents/digital-research-roadmap.pdf (PDF)

59 英国の芸術・人文科学研究会議(AHRC)の助成を受けてイギリス国立公文書館が取り組んだ研究プロジェクト。法律条文をはじめとする立法に関わるビッグデータの活用がテーマ。https://www.legislation.gov.uk/projects/big-data-for-law このプロジェクトを率いたのが、本戦略策定の責任者・本文書執筆者でもある同館デジタル部門ディレクターのジョン・シェリダン氏。このプロジェクトについてのBig Ideas講演会の音声がポッドキャストで配信されている。https://media.nationalarchives.gov.uk/index.php/big-ideas-big-data-for-law/

60 原文は the public。

61 原文は our public programming strategy。

62 原文は our public facing digital services。


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