ビジネス・アーカイブズ通信(BA通信)

第69号(2017年2月14日発行)

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☆      □■□ ビジネス・アーカイブズ通信 □■□

☆       No.69 (2017年2月14日発行)

☆    発行:公益財団法人 渋沢栄一記念財団 情報資源センター

☆                        〔ISSN:1884-2666〕
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この通信では海外(主として英語圏)のビジネス・アーカイブズ(BA)に関する情報をお届けします。

海外BAに関わる国内関連情報も適宜掲載しております。

今号は企業団体情報1件、文献情報1件です。

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◆ 目次 ◆

[掲載事項の凡例とご注意]

企業団体情報:デジタル保存連合(DPC)/ HSBCがDPCアワード受賞

文献情報:「ジャーナル・オブ・デジタル・メディア・マネジメント」第5巻第1号目次
     「ウェルカム図書館精神衛生デジタル化協働プロジェクト」ほか

☆★ 編集部より:次号予告 ★☆

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[掲載事項の凡例]

・欧文の場合、日本語で読みやすいものになるように、タイトルははじめに日本語訳を、続いて原文を記します。
・人名や固有名詞の発音が不明の場合も日本語表記を添えました。便宜的なものですので、検索等を行う場合はかならず原文を用いてください。
・普通名詞として資料室や文書室、物理的な記録資料を表現する際は「アーカイブズ」を用います。固有名詞の場合はこの限りではありません。また物理的およびデジタル記録資料の蓄積や組織化に関しては「アーカイブ」「アーカイブ化」「アーカイビング」などの表現を用いることもあります。

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[ご注意]
・受信時にリンク先を示すURLが途中で改行されてしまう場合があります。通常のURLクリックで表示されない場合にはお手数ですがコピー&ペーストで一行にしたものをブラウザのアドレス・バーに挿入し、リンク先をご覧ください。


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■企業団体情報:デジタル保存連合(DPC)/HSBCがDPCアワード受賞

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◎HSBCグローバル・アーカイブズがデジタル保存連合(DPC)アワードを受賞
http://www.dpconline.org/events/digital-preservation-awards/hsbc-global-digital-archive-system-gda

グローバルな企業アーカイブズとして最も先進的かつユニークな発展を続けてきたHSBC(香港上海バンキング・コーポレーション)グローバル・アーカイブズ(本拠地はロンドン)が、デジタル記録の保存に関わる非営利団体「デジタル保存連合」(Digital Preservation Coalition: DPC)から昨年12月に"DPCアワード"の表彰を受けました。

経済社会のデジタル化が超急速に進展するなか、デジタル記録の保存は喫緊の課題です。日本の組織はいまだに決裁や文書管理の仕組みは紙文書を基点に運用されているように見受けられます。諸外国では業務プロセスの改善と結びついたITの導入、それによる生産性向上を伴いながら、基本システムはデジタルに移行しています。

このような状況の中で、デジタル記録の保存は紙文書の保存のような確固とした方法論はいまだ確立しているとは言い難いと言えます。1990年代後半から2010年頃までの21世紀に入って最初の10年間は、この問題に最初に気づいた欧米の文書管理やアーカイブズ管理の専門家がさまざまな新しい取り組みに着手した時期でした。本通信第52号(2014年7月15日発行)、第53号(2014年8月2日発行)でご紹介した米国の企業アーキビストたちの非公式な集まり「コーポレート・アーカイブズ・フォーラム」(CAF)の取り組みもまさにこの点に関わるものでした。

第52号(2014年7月15日発行)
https://www.shibusawa.or.jp/center/ba/bn/20140715.html

第53号(2014年8月2日発行)
https://www.shibusawa.or.jp/center/ba/bn/20140802.html

ふたつの号をあらためて読み返してみました。第52号の次の部分は重要です。

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【歴史上最も記録が残っていない時代...?】

今から5年前である2009年の第11回目の会合で、あるアーキビストが次のように語っています。

「すでに作成されてしまった電子記録を回収するのに十分な時間はない。1995年から2010年はわれわれの歴史の中で最も記録が残っていない時代になるかもしれない。われわれが必要とするのは、文書(ドキュメント)作成のその時点でメタデータとコンテクストを付与するのみならず、それをマニュアルでではなく自動的に行うようなシステムである。短期的なアプローチは(プレスリリースをマニュアルで集めるような)戦略的な保存とオーラル・ヒストリーである」

There isn't enough time to recover e-records already produced. From 1995 to 2010 may turn out to be the most undocumented period in our history. We need a system that not only assigns metadata and context at the creation of a document, but does so automatically rather than manually. The short-term approach is strategic preservation (like getting press releases manually) and oral history.

CAF第11回目の会合へのリンク
http://www.hunterinformation.com/CAF%202008.pdf (PDF)
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本通信を創刊した2008年以降の流れを見ると、日本におけるデジタル化対応は欧米(や中国韓国)に比べ1世代(約10年)程度後ろを走っているような感じを受けます。米国の企業アーキビストたちは「1995年から2010年はわれわれの歴史の中で最も記録が残っていない時代になるかもしれない」と指摘していました。これは日本で言うと、「2005年ぐらいから2020年ぐらいまで」に相当するのではないでしょうか。(企業史料関係者などからは、1990年代の記録もかなり危ういようなお話をうかがうこともあります。現用文書管理がきちんと経営の中に位置づけられていないことに起因する問題です。)

今号でご紹介するデジタル保存連合(DPC)はイギリス国内で生まれた取り組みで、英国以外にも欧州を中心に参加する機関が増えています。HSBCのデジタル記録保存を表彰したこのDPCに関して、まずは簡単な説明を試みたいと思います。

■□■DPCについて■□■

【誕生】
DPCの現在のウェブサイトには英国会社法に基づいた、2002年2月28日付の定款(MEMORANDUM OF ASSOCIATION)が掲載されています(会社番号4492292)。
http://www.dpconline.org/about/governance/articles-of-association-2/file (PDF)

この文書に署名しているのは、英国図書館館長、JISC(英国情報システム合同委員会)事務総長、ロンドン大学事務総長、研究図書館連合理事、英国国立公文書館(当時はまだパブリック・レコード・オフィス)館長、スコットランド国立公文書館保存部長、OCLCデジタル保存リソース担当統括責任者といった人々です。この原始定款によると、DPCは英国におけるデジタル資源、グローバルなデジタル記憶を保存するために国内外の関係者と協力することが目的のトップに掲げられています。

最初の年次報告(2002年7月23日~2003年7月31日が対象)では、DPCの初代の理事となる人々が2002年6月に会合を持ち、2003年から3年間の事業計画を検討した後、2002年7月に23日法人登記を行ったことなどが記されています。
http://www.dpconline.org/about/governance/annual-report/352-dpc-annual-report-23-july-2002-31-july-2003/file

一方内部の規約を定めたARTICLES OF ASSOCIATIONは2008年11月7日付で作成されています。
http://www.dpconline.org/about/governance/articles-of-association/file

【現在のガバナンス】
現在の総裁(President)はオックスフォード大学ボードレアン図書館のリチャード・オーヴンデン(Richard Ovenden)氏です。理事会のメンバーは、議長がスコットランド公文書館、副議長がデジタル・キュレーション・センター、財務担当理事がトリニティ・カレッジ・ダブリンの方々で、一般の理事は、英国研究会議(RCUK)、JISC(英国情報システム合同委員会)、UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)、スコットランド公文書館、NATO(北大西洋条約機構)、スコットランド国立図書館、ウェールズ国立図書館、ケンブリッジ大学、英国図書館、オックスフォード大学、国連、ロイズ銀行グループ、PRONI(英国北アイルランド国立公文書館)、原子力廃止措置機関(Nuclear Decommissioning Authority)、ユニリーバ社、イングランド銀行、ロンドン大学、欧州中央銀行、グラスゴー大学の方々です。

イギリスのみならず、アイルランドや欧州の国際機関、また公的部門だけでなく、民間の会社の資料保存の専門家が参加しています。例えばユニリーバ社所属の理事Claire Tunstallは、2013年のICASBAロンドン会議でホスト側(ユニリーバ社アーカイブズ)のスタッフとして参加しており、当編集部もご挨拶したことがあります。
http://www.dpconline.org/about/governance


【現在のメンバー】
現在のメンバーはhttp://www.dpconline.org/about/membersに掲載されています。理事を送っている機関のほかに、大英博物館やBBC、アーキビストの団体ARA、HSBC、国会アーカイブズ、ウェルカム図書館、英国の主要な大学図書館がメンバーに加わっているのがわかります。

【DPCアワード】
DPCアワードはデジタル記録の保存に対する優れた取り組みにたいして送られる賞で、2004年に始まったものです。

2016年は初めて産業界を対象にしたカテゴリーが設けられました。最終選考に残ったのは、HSBCのグローバル・デジタル・アーカイブ・システム(GDA)とOECDのOECDデータセット・デジタル保存の取り組みのふたつでした。
http://www.dpconline.org/events/digital-preservation-awards/the-finalists
http://www.dpconline.org/events/digital-preservation-awards

最終的に受賞したのがHSBCの取り組みです。
http://www.dpconline.org/events/digital-preservation-awards/hsbc-global-digital-archive-system-gda
(※1)

★GDA開発の背景
前身となる香港上海銀行の開業は1865年、アーカイブズには書架延長5km以上の紙媒体記録を所蔵するとともに、デジタル化した記録、またボーンデジタル記録を、ロンドン、パリ、香港、ニューヨークの4つのアーカイブズで共同して管理・活用するシステムを必要としていました。

★GDAの目的
これまで十分でなかった目録作成システムとデジタル保存能力を備えたシステムを、銀行本体の厳格な情報セキュリティ規定に沿ったものとして開発することでした。また、地理的に離れた4地点をまたいだ検索機能、記述メタデータを持つ仕組みを立ち上げることも目的とされました。

★計画
現在のワークフローをよく観察し、包括的な要件リストを作成することから着手し、標準に適いつつ適度なフレキシビリティをもったポリシーとプロセス作成を目指しました。この過程では、社内のIT部門と業務分析部門のサポートが決定的に重要であったと(※1)は記載しています。

★ソリューション
提案依頼書(RFP)作成の取り組みなかで、標準的なシステムで対応することは困難であることが判明し、ふたつのベンダーすなわちプリザービカとアクシエル社のCALMが提供するソフトウェアを統合する方式に取り組みました。プリザービカ側ではインジェスト(データの取り込み)ごとに自動的に基本的な記述メタデータを作成し、これはCALMと同期するよう設計されています。詳細な目録はCALM側でアーキビストが作成する、という仕組みになっています。また地理的に隔たった収蔵場所にある資料を串刺し検索するための単一のアクセスポイントを提供するために、プリザービカに所蔵記録全ての構造・記述メタデータのコピーを持たせています。

★成果
CALMの持つメタデータをプリザービカに同期させるという取り組みはこれまでにないものであったことが評価されました。もう一つの成果は、潜在的にセンシティブな記録を大量に含み、当局からの規制も厳しい金融機関という性格に由来するものですが、国によって異なる法規制に対応させるために、複数階層を持つセキュリティタグによって全ての記録を分類したこと、またGDAを行内の情報セキュリティシステムに適合させた点も高く評価されたようです。

さらに長期保存の観点からは、自動的なマイグレーションをシステム化し、マイグレーションとともにオリジナルも保存する仕様になっています。このシステムでは現在のところ300程度のマイグレーションのパス(経路)が利用できますが、これは800種類以上のファイルフォーマットに対応可能です。保存ワークフローにはデータの監査証跡とファイルの不変性チェック(fixity checking)を含んでいます。これは企業においては記録の全体性(integrity)と法的有効性(legal admissibility)が決定的に重要であることから当然期待される事項と言えます。

★受賞式の動画
https://www.youtube.com/watch?v=6DAJj5ON5dM
52:30~57:15で、HSBCグローバル・アーカイブ・マネジャーであるティナ・ステープルズ氏の受賞とスピーチの模様が収録されています。

★HSBCのデジタル・アーカイブ・マネジャー、ジェームズ・モートロック(James Mortlock)氏のコメント動画
https://www.youtube.com/watch?v=Up1xTt7lemo

★授賞式画像(インスタグラム)
https://www.instagram.com/digitalpreservationcoalition/


[HSBC関連記事を掲載した「ビジネス・アーカイブズ通信」バックナンバー]
https://www.shibusawa.or.jp/center/ba/bn/20151121.html
https://www.shibusawa.or.jp/center/ba/bn/20140220.html
https://www.shibusawa.or.jp/center/ba/bn/20160204.html
https://www.shibusawa.or.jp/center/ba/bn/20150919.html
https://www.shibusawa.or.jp/center/ba/bn/20161115.html
https://www.shibusawa.or.jp/center/ba/bn/20150414.html
https://www.shibusawa.or.jp/center/ba/bn/20160816.html
などです。


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■文献情報:「ジャーナル・オブ・デジタル・メディア・マネジメント」第5巻第1号記事情報
     「ウェルカム図書館精神衛生デジタル化協働プロジェクト」ほか

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◎「ジャーナル・オブ・デジタル・メディア・マネジメント」第5巻第1号目次
Journal of Digital Media Management, Volume 5 Number 1 (Autumn/Fall 2016)
https://www.henrystewartpublications.com/jdmm/v5

「ジャーナル・オブ・デジタル・メディア・マネジメント」(ISSN 2047-1300)第5巻1号各論文記事の書誌的情報をご紹介します。

■[第5巻(2016)第1号]

●タイトル:デジタル・アセット・マネジメントはソフトウェアやシステムではない。それはビジネスの仕方そのものである
原題:Digital asset management is not software or a system, but how to do business
著者名:べス・ゴールドシュタイン
著者名原文:Beth Goldstein
著者所属等:デジタル思考リーダー
著者所属等原文:a digital thought leader
受理日:2016年3月6日

[見出し]
はじめに Introduction
進化 The evolution
ダイナミックなコンビ The dynamic duo
移行 The shift
おわりに Conclusion

[編者より]
要約文中に次のようにあります。「DAMの真の価値は、真実(truth)に関するただ一つの〔組織内の〕ソース(典拠)を保持していることである。本稿では、社内文化を、DAMは単なるソフトウェアではなく、"DAM=ビジネスのやり方そのもの"であるという文化へどのように移行させるのか、という点に焦点を当てた」。なお、"thought leader"は「実践的先駆者」などとも日本語訳されることがあります。


●タイトル:ウェルカム図書館精神衛生デジタル化協働プロジェクト:現在までに得た教訓
原題:The Wellcome Library Collaborative Mental Health Digitisation Project: lessons learned to date
著者名1:エマ・ハンコックス
著者名原文1:Emma Hancox
著者所属等1:バーミンガム図書館 アーキビスト(2016年5月まではウェルカム図書館のデジタル・ディスカバリー&デリバリー・チームのアシスタント・アーキビスト)
著者所属等原文1:Archivist, Library of Birmingham(Until May 2016 she worked as Assistant Archivist in the Digital Discovery and Delivery team at the Wellcome Library)
著者名2:リヨンナッハ・エイハン
著者名原文2:Rioghnach Ahern
著者所属等2:ウェルカム図書館 デジタル・インジェスト・コーディネータ
著者所属等原文2:Digital Ingest Coordinator at the Wellcome Library
著者名3:デイブ・トムソン
著者名原文3:Dave Thompson
著者所属等3:ウェルカム財団ウェルカム図書館デジタル・サービス部 デジタル・キュレーター
著者所属等原文3:Digital Curator, Digital Services, Wellcome Library, The Wellcome Trust
受理日:2016年2月5日

[見出し]
はじめに Introduction
プロジェクト・ワークフロー The project workflow
コミュニケーション Communication
 -文書化 Documentation
 -一般的なコミュニケーション General communication
 -メタデータ・プロセス The metadata process
 -画像化プロセス The imaging process
 -フォルダ構造のアップロード:一度の分量 Upload folder structure: single volume
 -構造的なメタデータをマニュアルで作成 Manual creation of structural metadata
 -機微(機密性)と著作権 Sensitivity and copyright
 -デジタル化画像の一般の人による利用しやすさ Public availability of digitised images
 
[編者より]書誌的情報に続く「★☆★...編集部より...★☆★」をご参照ください。


●タイトル:コンテンツの再収益化:どうやってケーキを持ちつつ食べるのか
原題:Content re-monetisation: how to have your cake and eat it too
著者名1:ヴェニュ・ヴァスデヴァン
著者名原文1:Venu Vasudevan
著者所属等1:ライス大学非常勤講師
著者所属等原文1:Adjunct Professor, Rice University
著者名2:ミュンチョル・ド
著者名原文2:Myungcheol Doo
著者所属等2:エィリス・グループ リサーチ・エンジニア
著者所属等原文2:Research Engineer at Arris Group
著者名3:ファイサル・イシュティエック
著者名原文3:Faisal Ishtiaq
著者所属等3:エィリス・グループ 技術スタッフの著名なメンバー
著者所属等原文3:Distinguished Member of Technical Staff at Arris Group
著者名4:トニー・ブラスキッチ
著者名原文4:Tony Braskich
著者所属等4:エィリス・グループ 応用研究センター 著名な応用リサーチ・エンジニア
著者所属等原文4:Distinguished Advanced Research Engineer, Applied Research Center, ARRIS Group
受理日:2016年2月9日

[見出し]
はじめに:動機 Introduction: motivation
設計とワークフロー Architecture and workflow
 -記述メタデータとMAF Descriptive metadata and the MAF (media analytics framework)
 -微妙なメタデータとACF Nuanced metadata and the ACF (automated crowdsourcing framework)
 -MAFとACFをつなぐ Bridging the MAF and ACF
マシーンがうまくできるもの、うまくできないもの What machines can (and cannot) do well
「人力」は測れるか Can the 'human engine' scale?
 -試験的なAMTの経験 The pilot AMT (Amazon Mechanical Turk) experiment
スポーツでの利用の事例 Sports use case
終わりに Conclusion


●タイトル:地方の大学アーカイブズにおける視聴覚事業:EXTRAに関する事例研究
原題:Audio-visual enterprise at a regional academic archive: case study of EXTRA
著者名1:ジェシカ・ブライマン
著者名原文1:Jessica Breiman
著者所属等1:ユタ大学J・ウィラード・マリオット図書館 動画・音声担当アシスタント・アーキビスト
著者所属等原文1:Assistant Moving Image and Sound Archivist, J. Willard Marriott Library, University of Utah
著者名2:トーニャ・ケラー
著者名原文2:Tawnya Keller
著者所属等2:ユタ大学J・ウィラード・マリオット図書館 デジタル保存担当
暫定アシスタント・ヘッド
著者所属等原文2:Interim Assistant Head, Digital Preservation, J. Willard Marriott Library, University of Utah
著者名3:モリー・ローズ・スティード
著者名原文3:Molly Rose Steed
著者所属等3:ユタ大学J・ウィラード・マリオット図書館 動画・音声アーキビスト アシスタント・ヘッド
著者所属等原文3:Assistant Head, Moving Image and Sound Archivist, J. Willard Marriott Library, University of Utah
受理日:2016年2月1日

[見出し]
はじめに Introduction
視聴覚アーカイブの進化 Evolution of the audio-visual archive
EXTRAについてのすべて All about EXTRA
助成金申請書作成プロセスに着手する Embarking on the grant-writing process
助成執行 Executing the grant
図書館のデジタル保存プログラムの歴史 History of the library's digital preservation programme
追加の助成金とデジタル保存 The extra grant and digital preservation
終わりに Conclusion

[編者より]
EXTRAとは1977年~1984年まで放映されたニュース番組


●タイトル:博物館がメタに行く:ミネアポリス美術館でエンタプライズ・コンテンツ・マネジメントを立ち上げる
原題:A museum goes meta: initiating enterprise content management at the Minneapolis Institute of Art
著者名1:フランシス・ロイド=ベインズ
著者名原文1:Frances Lloyd-Baynes
著者所属等1:ミネアポリス美術館 コンテンツ・データベース・スペシャリスト
著者所属等原文1:Content Database Specialist, Minneapolis Institute of Art
著者名2:ジョシュア・リン
著者名原文2:Joshua Lynn
著者所属等2:ミネアポリス美術館 デジタル・メディア・スペシャリスト
著者所属等原文2:Digital Media Specialist, Minneapolis Institute of Art
受理日:2016年1月29日

[見出し]
はじめに Introduction
MIA(ミネアポリス美術館)を知る Getting to know MIA
準備を整える Setting the stage
最初の段階 First steps
メタデータの挑戦に出会う Meeting the metadata challenge
次の段階 Next steps
MetaMiaの作成 The making of MetaMia
残された課題 Remaining issues
ECMを超えて Beyond ECM (enterprise content management)
考慮すべき点と教訓 Takeaways and lessons learned
おわりに Conclusions
謝辞 Acknowledgments

[編者より]
MetaMiaとはブラウザをベースにした統合検索インターフェース。本稿は最近助成金を獲得して実施したプロジェクトの紹介です。ミネアポリス美術館は近年デジタル・メディアに関して、新しい概念モデルと業界で共有されている標準が推奨する新しいメタデータを開発しました。本稿では同美術館のエンタプライズ・コンテンツ・マネジメント・プロジェクトを紹介するとともに、コンテンツ作成に利用するリソースを最大化し、デジタル・リソースと美術館のコレクションとを深く結びつけるよう、デジタル・コンテンツ・マネジメントを改善してきたことも述べています。プロジェクトは、メタデータ仕様、新しいオープンソースのデジタル・アセット・マネジメント・システム、統合検索インターフェースといったものを生み出しました。このプロジェクトから得られた教訓にも言及しています。それらは、プロジェクト開始時からアジャイル/スクラム手法(反復的、漸進的なソフトウェア開発手法)を用いる、時間がたっても利用可能な柔軟なメタデータを作る、オープンソースを選ぶときはリソース(スタッフと予算)がどれだけ使えるのかを理解する、オープンソースの設定とカスタマイズには予定以上の時間がかかることに備える、といった点です。


●タイトル:チャンネル横断メディア・アセット・マネジメントの処理と配信のための方法とシステム
原題:Methods and systems for cross-channel media asset management processing and delivery
著者名:アリエル・ニシュリ
著者名原文:Ariel Nishri
著者所属等:MX1 技術部門 製品開発統括責任者
著者所属等原文:VP Product Development, Technology, MX1
受理日:2016年5月31日

[見出し]
はじめに Introduction
メディア・グリッドと計画を決定する Determining media grids and plans
ビデオ配信ネットワーク Video delivery networks
システム構成とアセットのデリバリ System configuration and asset delivery
チャンネル横断したアセットの配信と関連広告の方法 Method for cross-channel delivery of assets and associated advertisements
ビデオ・アセットの最適化 Optimisation of video assets
表示のタイミング Timing of display
将来手配するために広告をアセットに添付する Attaching advertisements to assets for future placement
終わりに:異なったチャンネルを横断して様々な行き先にメディア・アセットを配信する Conclusion: delivering media assets to various destinations across different channels


●タイトル:伝統的アートを超えて:デジタル・アートの保存のための戦略
原題:Beyond traditional art: strategies for the preservation of digital art
著者名:カーメン・コーウィック
著者名原文:Carmen Cowick
著者所属等:プリザーブ・ディス 保存・収集ケア・コンサルタント
著者所属等原文:Preservation and Collections Care Consultant, Preserve This
受理日:2016年2月29日

[見出し]
はじめに:挑戦と現在のアプローチ Introduction: challenges and current approaches
終わりに Conclusion


●タイトル:オープン・オレゴン・デジタル:セマンティック・ウェブのためにメタデータを変換する
原題:Open Oregon Digital: transforming metadata for the semantic web
著者名1:ジュリア・シミック
著者名原文1:Julia Simic
著者所属等1:オレゴン大学 デジタル・スカラシップ・センター メタデータ&デジタル・プロダクション・ライブラリアン
著者所属等原文1:Metadata and Digital Production Librarian, Digital Scholarship Center, University of Oregon
著者名2:セラ・E・シーモア
著者名原文2:Sarah E. Seymore
著者所属等2:オレゴン大学 デジタル・スカラシップ・センター デジタル・メタデータ技術者
著者所属等原文2:Digital Metadata Technician, Digital Scholarship Center, University of Oregon
受理日:2016年3月1日

[見出し]
はじめに Introduction
UO(オレゴン大学)メタデータの変換 Transformation of UO Metadata
目録作成ワークフロー Cataloguing workflows
ファセット、ブラウズ、サーチ Facets, browsing and searching
さらなる開発 Further development
終わりに Conclusion

[編者より]
本稿はオレゴン大学とオレゴン州立大学のふたつの大学が共有するデジタル・コレクション「オレゴン・デジタル」の最近の取り組みに関するものです。オレゴン・デジタルは、このプロジェクトでデジタル・アセット・マネジメント・システムをハイドラ(Hydra)に、デジタル・コレクションのデータをリンクト・オープン・データ(LOD)にマイグレートしました。ハイドラ・プロジェクトはデジタル・コンテンツへのアクセス、管理と保存を提供するためのフェドラ(Fedora)バックエンド(最終工程)を有するオープンソースの技術フレームワークです。本稿はオレゴン・デジタルがデータをクロスウォークさせ、組織内あるいは組織横断的にコレクションを標準化し、LOD実装に必要なURIを発行するためのステップに焦点を当てています。またデジタル・コレクションの目録作成、検索、ディスカバリーにとって、LODが持つ今後のメリットについても議論しています。

★☆★...編集部より...★☆★

今号では各記事の見出しまでご紹介してみました。ここでは2番目の記事「ウェルカム図書館精神衛生デジタル化協働プロジェクト:現在までに得た教訓」についてもう少し詳しくご紹介したいと思います。

ウェルカム図書館の親組織にあたるウェルカム財団は、米国出身の企業家ヘンリー・ウェルカムの遺言によって1936年に設立された非営利団体(チャリティ)です。ヘンリー・ウェルカムは製薬会社経営によって富を築いたことから、ウェルカム財団は医学研究に対して多額の助成を行っています。2016年9月末時点での純資産総額が208億ポンド(約2兆9000億円)という強固な財務基盤を持つ団体です。
https://wellcome.ac.uk/about-us/history-wellcome

https://wellcome.ac.uk/sites/default/files/WellcomeTrustAnnualReportFinancialStatements_160930.pdf (PDF)

ウェルカム図書館は財団の一部で、無料で一般に開放されています。
https://wellcomelibrary.org/

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さて、ウェルカム図書館は5,000万ページ以上の歴史的な医学書、アーカイブズ、手稿資料、定期刊行物を2020年までにデジタル化して誰でも自由に閲覧できるようにするプロジェクトを2010年に開始しました。このプログラムのビジョンは、"文化的なコンテクストに焦点を絞った、健康に関する、世界最大、無料、利用に制限をつけない、デジタル図書館"を作るというものです。

このプログラムの一環として、ウェルカム図書館ではイギリス国内の精神病院の80万ページ以上のアーカイブズ資料を協働でデジタル化する試みを2014年に開始しました。2017年の前半にはオンラインでの公開が予定されています。今号の記事はこの取り組みに関するものです。

まずプロジェクトが利用するのは既存の図書館システムです。ウェルカム図書館ではアーカイブズ目録のメタデータ処理にはアクシエル社(Axiell)のCALM、図書目録のメタデータ処理にはSierra、ワークフローの追跡と管理にはGoobi、デジタル・オブジェクトのリポジトリとしてプリザービカ・エンタプライズ・エディションを利用してきましたが、これらをデジタル化協働プロジェクトでも用いています。

プロジェクトに参加する契約を結んだ機関は、王立精神神経科カレッジを除いて、すべて資料所蔵機関でデジタル化作業を行います。画像はJPEG2000(Part1)(JP2)フォーマットで作成し、JP2検証のためのJpylyzerツールを使い、その後ファイル転送プロトコル(FTP)を介してウェルカム図書館に画像を送ります。参加機関がテキストファイルをFTPサーバにアップロードすると自動的にGoobiへのアップロードが引き起こされ、システムは画像とメタデータ・レコードを結びつけることができます。その後、最終工程として画像に関するメタデータを、METS(Metadata Encoding and Transmission Standard)にしたがってウェルカム図書館のスタッフが手作業で作成します。

本稿では一連の作業に関わる文書作成の必要性、機微に関わる情報を含むかどうかの判断、他機関とウェルカム図書館の間でのコミュニケーションのあり方(初期はフェイスツーフェイスや電話でのやりとりが重要、後半はメールでも大丈夫)、といったことが指摘されています。

メタデータ・プロセスに関して。ウェルカム図書館ならびに連携に参加する全機関はISAD(G)によって目録を作成しています。この標準にメタデータを合わせることが、本プロジェクトでは重要であるとの指摘がなされています。各機関では記述メタデータを自館のシステムからエクスポートし、これをウェルカム図書館のCALMシステムがインポートして、さらにプリザービカがインジェストするという流れになっています。

ウェルカム図書館ではデジタル化された資料へのアクセス・ポイントとしてアイテムレベルを用いています。ただし他の機関では別の階層をアクセス・ポイントとすることもある、とあります。

デジタル化された画像の提供にあたって、機微に触れる情報が含まれていないかどうかの確認は、1998年データ保護法を参照しつつ参加各機関で行われます。多くのアーカイブズ資料はCC-BY-NCかCC-BYで公開されますが、場合によってはセンシティブな情報の割合が多いため、デジタル化しない、と判断する場合もありました。

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以上、本稿を簡単にまとめてみました。編集部のみるところ、すでに共通の目録作りの方法で資料の整理が終わっていたから可能となったプロジェクトと言えます。精神衛生関係の資料80万ページを、多くの機関が協働してデジタル化し、CC-BY-NCかCC-BYでオンラインで提供するとは、素晴らしい取り組みですね。


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[略称一覧]
ACA: Association of Canadian Archivists(カナダ・アーキビスト協会)
ARA: Archives and Records Association(アーカイブズとレコード協会)
ARC: ARC magazine: archives - records management - conservation
(SoAが発行する月刊ニュースレター)
ASA: Australian Society of Archivists(オーストラリア・アーキビスト協会)
BAC: Business Archives Council(ビジネス・アーカイブズ・カウンシル)
BACS: Business Archives Council in Scotland
(スコットランド・ビジネス・アーカイブズ・カウンシル)
BAS: Business Archives Section
(ビジネス・アーカイブズ部会:SAA内の部会)
CITRA: International Conference of the Round Table on Archives
(アーカイブズに関する国際円卓会議:ICAの年次会議)
CoSA:Council of State Archivists(米国・州文書館長評議会)
DCC: Digital Curation Center(英国デジタル・キュレーション・センター)
EDRMS:Electronic Document and Record Management System
(電子文書記録管理システム)
ERM:Electronic Record Management(電子記録管理)
ICA: International Council on Archives(国際文書館評議会)
LSE: London School of Economics and Political Science
(ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス)
MLA: Museums, Libraries and Archives Council
(英国 博物館、図書館、アーカイブズ評議会)
NAGARA: National Association of Government Archives and Records
Administrators
(米国・全国政府アーカイブズ記録管理者協会)
NARA: National Archives and Records Administration
(米国 国立公文書館記録管理庁)
RIKAR: Research Institute of Korean Archives and Records
(韓国国家記録研究院)
RMS:Record Management System(記録管理システム)
SAA: Society of American Archivists(米国アーキビスト協会)
SBA: Section for Business Archives
(企業アーカイブズ部会、ICA内の部会)
SoA: Society of Archivists(イギリス・アーキビスト協会)
TNA: The National Archives(英国国立公文書館)

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☆★ 編集部より:あとがき、次号予告 ★☆

HSBCのデジタル記録保存事業とウェルカム図書館の多機関連携によるデジタル化記録資料公開事業は、ともにしっかりした財政基盤を持っているからこそ可能な取り組みであるといえます。そして最も重要な点は、アーカイブズ関係者の先進的な思考と実務の実績を基に、組織のトップが事業の意義を理解し、投資に関する決定を行っている点でしょう。

1990年代後半にミッドランド銀行を合併買収した時点でのHSBCアーカイブズのスタッフはわずかに2名程度でした。昨年11月のBAC(ビジネス・アーカイブズ・カウンシル)の総会でロンドンのHSBC本社を訪問した時点では、グローバル・アーカイブズのスタッフはデジタル専門あるいは美術品のコレクション管理などのスペシャリストも増やし、総勢十数名のチームになっているとのことでした。

編集部が初めてイギリスを訪問したのは1990年、ちょうどサッチャー政権が終焉を迎えた時でした。当時は「イギリス病」という言葉を日本の新聞などでまだ見かけた時代です。四半世紀後に、同国のアーカイブズ機関によるデジタル記録保存やその公開事業における先進的な取り組みを目にすることになり、感慨深く感じます。

このような話をすると、日本のアーカイブズ界の立ち遅れ、というニュアンスの話が続きがちです。ここで1956年から57年にかけて内閣総理大臣を務めた石橋湛山の言葉を思い出したいと思います。湛山は政界入りする前のジャーナリスト時代、1945年8月25日、つまり日本がポツダム宣言を受諾して10日あまりの後に『東洋経済新報』に論説「更正日本の進路:前途は実に洋々たり」を発表しています。科学技術によって日本は再び立ち上がることができるという、とても前向きな文章です。

アーカイブズや歴史資料というと文化系の領域と思われがちですが、これからの実務と教育ではエンジニアやITの専門家に積極的に協力を仰いで、デジタルにおけるアーカイブズの保存と管理、活用に取り組んでいきたいし、いかねばならないでしょう。そして機会あるごとに、組織のトップにその意義を伝えられるように、と考えます。

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次号は2017年3月中旬発行予定です。

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ビジネス・アーカイブズ通信(BA通信) No.69
2017年2月14日発行 (不定期発行)
【創刊日】2008年2月15日
【発行者】公益財団法人渋沢栄一記念財団事業部情報資源センター
【編集者】公益財団法人渋沢栄一記念財団事業部情報資源センター
      「ビジネス・アーカイブズ通信」編集部/
      株式会社アーカイブズ工房
【発行地】日本/東京都/北区
【ISSN】1884-2666
【E-Mail】
【サイト】https://www.shibusawa.or.jp/center/ba/index.html

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