情報資源センターだより

84 『論語と算盤』の出典 竜門社機関誌『竜門雑誌』について

『青淵』No.908 2024年11月号|情報資源センター 井上さやか

『論語と算盤』の出典のひとつ『竜門雑誌』

 情報資源センターでは『論語と算盤』デジタル化プロジェクトの成果として、2024年3月に「論語と算盤オンライン」(以下、オンライン)のインターネット公開を開始しました。

 『論語と算盤』は、1916(大正5)年に東亜堂書房より刊行された10篇90章からなる渋沢栄一の訓話集です。『竜門雑誌』等に掲載された渋沢栄一の記事を編纂したもので、現在判明している出典の割合(下図参照)から、改めて次のようなことがわかってきました。

○ 出典の約3/4は『竜門雑誌』、約1/4は『青淵百話』。
○ 現在判明している『竜門雑誌』出典記事掲載年は1912~1916年。

 『青淵百話』は1912(明治45)年に同文館から刊行された渋沢の小伝つき論説談話集、古稀を迎えた渋沢自身が校閲も行った総ページ数1,000頁を超える2巻本[1]です。1913(大正2)年には1冊にまとめた縮刷版[2]が刊行されました。『論語と算盤』は、『青淵百話』を中継点とし、『竜門雑誌』によって最新の話題までをとりまとめた1冊だったのかもしれません。

『竜門雑誌』出典記事掲載年『竜門雑誌』出典記事掲載年

『竜門雑誌』のあゆみ

 さて今回は、渋沢栄一記念財団の前身となる竜門社の機関誌『竜門雑誌』について、かいつまんでご紹介いたします。

 1886(明治19)年、渋沢を慕い深川福住町の渋沢栄一邸に寄寓していた書生たちが始めた勉強会「竜門社」から、社員たちの意見を発信するために創刊された機関誌が『竜門雑誌』です。1887(明治20)年に出版条例が改正されると、翌1888(明治21)年出版願を届け出、改めて1号から月刊誌として発行を開始しました。

 このときの『竜門雑誌』は、社員の論説や寄稿、同社行事などの雑報を掲載していました。奥付には「発行者 深川区福住町四番地寄留 尾高次郎」とあって、渋沢栄一邸内で発行されたことがわかります。やがて竜門社の拡大や組織整備とともに発行部数は増加して内容も充実し、渋沢栄一の新聞・雑誌等に掲載された論説を逐次転載した記事や、日々の動向も収載するようになります。例えば『論語と算盤』が発行された1916年の各号を見てみると、渋沢の論説は多い号で12本も収載されており、渋沢の精力的な姿を垣間見ることができるのではないでしょうか。

 1931(昭和6)年に渋沢が没すると、『竜門雑誌』は2号にわたって追悼特集を組んだ後、再び社員の論説や竜門社の事業などの記事を中心に掲載するようになります。それから太平洋戦争の厳しい時局による規模縮小や中断をはさみ、1948(昭和23)年12月の677号まで発行されました。その翌年4月に社会教育協会が『青淵』を発刊、28号以降は竜門社がその事業を引き継ぎました。このようにして機関誌『青淵』は、竜門社が渋沢栄一記念財団となった現在も毎月発行しています。

『竜門雑誌』の収集と保存と活用と

 竜門社の長い歴史の中では、『竜門雑誌』逸失の危機もありました。

 1923(大正12)年9月に関東大震災が発生すると、当時兜町2番地の渋沢事務所内に移っていた竜門社事務所も全焼しました。『竜門雑誌』は8月~11月を休刊し、12月発行の423号では、1号から422号まで全てを焼失したとの被害を報告しています。その翌年3月発行の426号には「竜門雑誌及青淵先生に関する書籍蒐集に付謹告」を掲載、焼失した『竜門雑誌』を「会員各位より...(中略)...寄贈を請ふべく順次照会中」と告知しました。

 また『竜門雑誌』には、渋沢の事績をまとめた『渋沢栄一伝記資料』の編纂室による「青淵先生伝記資料編纂室たより」が連載されました。1933(昭和8)年535号では「竜門雑誌の御寄附を乞ふ」として、『竜門雑誌』欠号分寄贈を呼びかけています。編纂室では、竜門社保有の『竜門雑誌』も勿論渋沢の伝記資料編纂に活用していたと考えられますが、この時には焼失してしまった多くの号をまだ収集できていなかったようです。1969年に刊行された『渋沢栄一伝記資料』別巻第八には「竜門雑誌総目次」が収載されており、渋沢の伝記資料を編纂するに当たって、『竜門雑誌』が担った役割をうかがい知ることできます。『竜門雑誌』は、竜門社の活動を伝えるだけではなく、今日では渋沢の言動を記録した貴重な情報資源庫、アーカイブともなっています。

 2001~2002年、当財団渋沢史料館では、伝記資料編纂でも収集しきれなかった欠号の所在調査を行い、東京大学明治新聞雑誌文庫の協力のもと、確認できた号のマイクロフィルム撮影とデジタル化を実施しました。竜門社創立120年を迎えた2006年には総目次をデータとして整理し、研究活動や情報発信の基本となる情報資源として活用しています。

 残念ながら当財団には『竜門雑誌』を閲覧いただく設備はありませんが、同誌を所蔵する幾つかの図書館では見ることができます。現在、情報資源センターでは、未だ見つからない1886年の旧1号および1947年の672号を捜索するとともに、この総目次のデータを基にして、本文より情報を追加した「『竜門雑誌』記事索引」を作成中です。

* * *

 「論語と算盤オンライン」では、今冬より、各章の出典と判明した『竜門雑誌』の記事を順次公開する予定です。『竜門雑誌』が伝える渋沢栄一の言葉にも、どうぞご期待ください。

 本デジタル化プロジェクトでは、『論語と算盤』のインターネット公開を目指し、編纂や刊行の背景、諸権利の情報についても情報収集を行っています。収集した情報は、ひろく活用できるよう今後も発信していく予定です。

 『論語と算盤』デジタル化プロジェクトについては、以下も参考になさってください。

・『論語と算盤』の源流を探る
 https://www.shibusawa.or.jp/center/newsletter/854.html
・『論語と算盤』の出版者「東亜堂書房」について
 https://www.shibusawa.or.jp/center/newsletter/893.html
・『論語と算盤』の編者「梶山彬」について
 https://www.shibusawa.or.jp/center/newsletter/896.html
・『論語と算盤』のシリーズや価格などについて
 https://www.shibusawa.or.jp/center/newsletter/902.html
・『論語と算盤』を再刊した出版社「忠誠堂」について
 https://www.shibusawa.or.jp/center/newsletter/905.html


【注】(URLは、2024年10月31日確認)

[1] 渋沢栄一 著『青淵百話』乾坤(同文館,1912.06 ; 国立国会図書館デジタルコレクション: 乾 https://dl.ndl.go.jp/pid/781539, 坤 https://dl.ndl.go.jp/pid/781540
[2] 渋沢栄一 著『青淵百話 : 縮刷』(同文館,1913.08)

【参考】

(1)渋沢栄一 述 ; 梶山彬 編『論語と算盤 : 縮刷名著叢書 ; 第37編』(東亜堂書房, 1916.09)
(2)『竜門雑誌』旧1~旧9号, 1~677号(竜門社, 1886~1948)
(3)『竜門社の歩み : 青淵先生、想い続けて120年 : 企画展図録』(渋沢栄一記念財団付属渋沢史料館, 2006.10)
(4)機関誌『青淵』|財団概要|公益財団法人 渋沢栄一記念財団 https://www.shibusawa.or.jp/outline/seien/index.html

※本記事は『青淵』2024年11月号掲載記事をウェブサイト版として加筆・再構築したものです。


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