情報資源センターだより

82 『論語と算盤』のシリーズや価格などについて

『青淵』No.902 2024年5月号|情報資源センター長 茂原暢

 情報資源センターでは2024年3月29日(金)に「論語と算盤オンライン」を公開しました。その詳しい紹介は別の機会に譲り、今回はこれまでの『論語と算盤』関連記事に書き切れなかった情報をまとめておきます。

シリーズ「縮刷名著叢書」について

 『論語と算盤』が含まれるシリーズ「縮刷名著叢書」について、1918(大正7)年11月15日付『東京朝日新聞』に掲載された東亜堂の広告には「新刊三種の発行によりて縮刷名著叢書愈々全部完成」とあり、全48タイトルの内容が記されています。そのリストによると、「新刊三種」とは佐藤陸軍中将[佐藤鋼次郎]『皇国の興廃』(第46編)、田尻稲次郎『生きるの道』(第47編)、福本日南『縮刷石臼のへそ』(第48編)の3タイトルで、国立国会図書館デジタルコレクションで奥付の発行日(いずれも内務省交付本)を確認すると、『皇国の興廃』は「大正七年十一月十一日発行」、『生きるの道』と『縮刷石臼のへそ』は「大正八年一月九日発行」とありました。また、その後に発行された広告や株式会社東亜堂の出版総目録でも内容に変化がないことから、1919(大正8年)1月頃には全48タイトルの刊行が完了したと言えそうです。

 このシリーズはその名前に「縮刷」とあるように、袖の中に入れることができる小型本=袖珍本(しゅうちんぼん)として刊行されました。前記『東京朝日新聞』の広告には「縦五寸横三寸袖珍形」「各冊箱入天金頗美本」「総クロース綴栞付」「各冊読切かな付」と、その特徴が書かれています。いくつかのタイトルを確認したところでは、クロス貼りの表紙や外函には簡素ながら美しい装飾が施されています。ただ本文用紙はどれも上質とは言えず、100年以上経過した現在では劣化が目立っていました。

版(刷)について

 東亜堂書房版『論語と算盤』の版(刷)については、2023年に国立国会図書館サーチやCiNii Booksを頼りに全国の図書館を対象に調査を行い、4版までを確認しました。初版(1916.09.13発行)と再版(1916.09.25発行)の奥付の間には、再版情報が追記されたこと以外に異同はありません。ところが、3版(1918.12.28発行)の奥付には「述者渋沢栄一」「編者梶山彬」という記述がなく、代わりに「著作者村上信」とあります。「縮刷名著叢書」では第30編が村上浪六(村上信の筆名)著『人生の裏面』(1916.02初版発行)となっていること、『論語と算盤』3版奥付のシリーズ表記が「第 三 十 編」の「十」と「編」の間に「七」を入れ込んだようになっていることから、別タイトルの奥付の紙型を不完全な形で流用した可能性があります。株式会社東亜堂への改組(1919年)後に刊行された4版(1920.09.10発行)の奥付では「述者渋沢栄一」「編者梶山彬」に戻されましたが、「縮刷名著叢書」というシリーズ名の表記がなく、発行者と発行所が「株式会社東亜堂」となっているなどの違いがありました。

 印刷所は、初版・再版は「凸版印刷株式会社分工場」、3版・4版は「株式会社共栄舎」で、3版・4版では本文p.196冒頭の「り」が右に90度傾いて印刷されています。表紙(クロス)の色は、これまでに紺と緑の2種類を確認しています。また、3版と4版では巻末広告がありませんでした。

価格の推移について

 初版および再版奥付の価格表記は1円でしたが、2024年3月現在で判明している情報をまとめると、以下のような推移が確認できます。

1916(大正5)年9月13日発行『論語と算盤』初版奥付1円
1916(大正5)年9月25日発行『論語と算盤』再版奥付1円
1917(大正6)年10月2日付『東京朝日新聞』広告1円20銭
1918(大正7)年12月28日発行『論語と算盤』3版奥付1円20銭
1920(大正9)年2月5日付『東京朝日新聞』広告(「三版」)1円40銭
1920(大正9)年9月10日発行『論語と算盤』4版奥付1円50銭
1921(大正10)年1月改正『株式会社東亜堂出版図書総目録』1円50銭

 前記『東京朝日新聞』(1918年11月15日付)の広告には、「縮刷名著叢書完成記念特売」「東亜堂発行名著選抜特売」という見出しも掲げられています。原材料高騰による値上げが相次いでいるが、「東亜堂発行の名著三百点を選み三割引乃至七割引の廉価を以て短期特売を行ふ」とあり、さらに「特典」として、縮刷名著叢書全タイトル購入者に「特設書棚壱個を無料贈呈」と記載されています。しかし、1919(大正8)年7月15日付『東京朝日新聞』の広告には、同叢書の欠本について「此度全部取揃へ貴需に応ずること」とするが、次に品切れになった場合には「各冊二割以上の値上げを断行する予定」と書かれています。

 なお、渋沢栄一記念財団が所蔵する再版本では、奥付の価格欄に「正価金壱円弐拾銭」と印刷された紙片が貼付されており、価格改定の過程(タイミング)を示す貴重な資料となっています。

「論語と算盤オンライン」について

 今般の「論語と算盤オンライン」では、東亜堂書房版『論語と算盤』をデジタル化し、第一弾として、本文テキストと共に、各章の出典と思われる参考記事に関する情報などを公開しました。2024年度には、東亜堂書房版『論語と算盤』のページ画像、マスターデータとなるTEI/XMLファイルを公開するほか、参考記事をテキスト化して順次公開していく予定です。下記URLからアクセスしていただければ幸いです。

・論語と算盤オンライン
https://eiichi.shibusawa.or.jp/features/rongotosoroban/

『論語と算盤』デジタル化プロジェクトについては、以下も参考になさってください。

・『論語と算盤』の源流を探る
 https://www.shibusawa.or.jp/center/newsletter/854.html
・『論語と算盤』の出版者「東亜堂書房」について
 https://www.shibusawa.or.jp/center/newsletter/893.html
・『論語と算盤』の編者「梶山彬」について
 https://www.shibusawa.or.jp/center/newsletter/896.html

※本記事は『青淵』2024年5月号に掲載した記事をウェブサイト版として加筆・再構築したものです。


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