ビジネス・アーカイブズ通信(BA通信)

第98号(2023年6月15日発行)

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☆      □■□ ビジネス・アーカイブズ通信 □■□

☆       No.98 (2023年6月15日発行)

☆    発行:公益財団法人 渋沢栄一記念財団 情報資源センター

☆                        〔ISSN:1884-2666〕
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この通信では海外(主として英語圏)のビジネス・アーカイブズ(BA)に関する情報をお届けします。

海外BAに関わる国内関連情報も適宜掲載しております。

今号は文献情報4件、企業団体情報4件、行事情報2件です。

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◆ 目次 ◆

[掲載事項の凡例とご注意]

■行事情報:ICA/SBA、ディアジオ・アーカイブ主催 ビジネス・アーカイブズ国際シンポジウム
◎テーマ:「アーキビスト会議2023:オーディエンスとの関わり方」
     2023年9月25-26日
     ジョニーウォーカー・プリンセスストリート(英国・エジンバラ)

■文献/企業団体情報:企業史料協議会『企業と史料』第18集 目次
◎テーマ:「企業アーカイブズの価値再発見」2023年5月発行

■文献/企業団体情報:BNPパリバ・アーカイブズ(フランス)
◎「フランスの銀行アーカイブズ:歴史と展望」

■行事情報:ビジネス・アーカイブズ研修会/セミナー 海外の動向

■企業団体情報:ドイツ・ビジネスアーキビスト協会
◎「ビジネスアーカイブ・オブ・ザ・イヤー 2023」賞

■文献/企業団体情報:企業アーキビストと情報発信

■文献情報:SAA『ビジネス・アーカイブズのマネジメント』書評

☆★ 編集部より:あとがき、次号予告 ★☆

宮本又郎他『日本経営史:江戸から令和へ・伝統と革新の系譜』(第3版)
水谷長志編著『ミュージアム・ライブラリとミュージアム・アーカイブズ』


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[掲載事項の凡例]

・欧文の場合、日本語で読みやすいものになるように、タイトルははじめに日本語訳を、続いて原文を記します。
・人名や固有名詞の発音が不明の場合も日本語表記を添えました。便宜的なものですので、検索等を行う場合はかならず原文を用いてください。
・普通名詞として資料室や文書室、物理的な記録資料を表現する際は「アーカイブズ」を用います。固有名詞の場合はこの限りではありません。また物理的およびデジタル記録資料の蓄積や組織化に関しては「アーカイブ」「アーカイブ化」「アーカイビング」などの表現を用いることもあります。

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[ご注意]
・受信時にリンク先を示すURLが途中で改行されてしまう場合があります。通常のURLクリックで表示されない場合にはお手数ですがコピー&ペーストで一行にしたものをブラウザのアドレス・バーに挿入し、リンク先をご覧ください。


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■行事情報:ICA/SBA、ディアジオ・アーカイブ主催 ビジネス・アーカイブズ国際シンポジウム
テーマ:「アーキビスト会議2023:オーディエンスとの関わり方」
     2023年9月25-26日
     ジョニーウォーカー・プリンセスストリート(英国・エジンバラ)

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◎ICA/SBA、ディアジオ・アーカイブ主催 ビジネス・アーカイブズ国際シンポジウム
ICA-SBA in collaboration with the Diageo Archive
「アーキビスト会議2023:オーディエンスとの関わり方」
Archivist Conference 2023:Engaging with our audiences
https://www.archivistconference2023.com/

2023年9月、ICA/SBAは4年ぶりに対面での国際シンポジウムを英国スコットランドで開催します。

シンポジウムはディアジオ・アーカイブ Diageo Archiveとの共催で、9月25日、26日の2日間、エジンバラのジョニーウォーカー・プリンセスストリートが会場です。シンポジウムの特設サイトが開設され、現在参加申し込みを受付中です。

9月24日夕にはレセプションも予定されています。

〔特設サイト〕
https://www.archivistconference2023.com/

〔参加登録〕参加費は無料
https://www.eventbrite.co.uk/e/archivist-conference-2023-tickets-609343862897

【プログラム】
https://www.archivistconference2023.com/home/#block-866c05bb7bfe92b939ba

■9月24日(日)
18:30-20:30
英国を代表する金融サービス企業であるロイズ・バンキング・グループの歴史的なスコットランド本部の「マウンドの博物館」Museum on the Mound(お金をテーマにした博物館)でのレセプション

ロイズ・バンキング・グループのアーカイブとミュージアム
https://www.lloydsbankinggroup.com/who-we-are/our-heritage.html

■9月25日(月)
08:15-09:00 受付

09:00-09:10 挨拶と連絡

09:10-10:30
「デスティネーション・ストーリーテリング」
Destination storytelling
ディアジオ・アーカイブ(英国)、バカルディ(イタリア)他

10:30-10:50 休憩

10:50-11:50
「アドボカシー」Advocacy
ムゼインプレーザ(イタリア)、現代史研究所 Institute of Contemporary History(スロベニア)他

11:50-12:10 ICA/SBAからのお知らせ他

12:10-13:10 昼食

13:10-14:30
「ステークホールダーにスポットを当てる」
Spot on the stakeholders
ロイズ・バンキング・グループ(英国)、マッキンゼー(米国)他

14:30-14:50 休憩

14:50-16:10
「アウトリーチ」Outreach
カーギル(米国)、ストックホルム経営史センター(スウェーデン)、グラスゴー大学アーカイブズ(英国) 他

16:10-16:20 まとめと実践例

17:40以降
ジョニーウォーカー・プリンセスストリートでのジョニー・オブ・フレイバー・ツアーとネットワーキングディナー

■9月26日(火)
08:15-09:00 受付

09.00-09.10 挨拶と連絡

09:10-10:30
「テクノロジーによるインパクトの拡大」
Increased impact through technology
HSBC(英国)、オリベッティ(イタリア)、IBM(米国)、ゴードレージ(インド)他

10:30-10:50 休憩

10:50-11:50
「パートナーシップの活用」Leveraging partnerships
ユニリーバ(英国)、エセックス大学(英国)、アイリッシュディスティラーズ/ぺルノ・リカー(アイルランド)、ギネス/ディアジオ(英国)他

11:50-12:00 まとめと連絡

12:00-13:00 ランチ

13:00以降
ジョニーウォーカーの故郷であるグレンキンチー蒸留所 Glenkinchie Distillery 訪問、ディアジオ・アーカイブ見学


★☆★...編集部より...★☆★

4年ぶりに開催されるICA/SBA国際シンポジウムのテーマは、アーカイブズの利活用におけるオーディエンスにフォーカスしています。「オーディエンスとは誰か」、「オーディエンスに向けて、アーカイブズ・アーキビストはアーカイブズを用いて、何をどう届けるのか」、「アーカイブズ、アーキビストとオーディエンスとの間のインタラクティブなやり取りによる新しい価値創造の可能性」といった発表、討論が期待されます。

昨年11月に開催された企業史料協議会第11回ビジネスアーカイブズの日シンポジウム「経営にとっての組織アーカイブズの価値と存在意義」のパネルディスカッションのまとめの部分で、「デジタル変革の時代に情報発信の仕方・情報の受け取り方が変わりつつある中、アーカイブズは個々の組織構成員、ステークホールダーのエンパワーメントという領域で求められ、活用されているのではないか」という考え方が示されました。ICA/SBAの今年のシンポジウム「アーキビスト会議2023:オーディエンスとの関わり方」には、この点でも注目したいと思います。

     *     *     *     *     *

ディアジオ・アーカイブは1997年に設立された酒造メーカー、ディアジオ社のアーカイブズです。同社は今年が会社設立25周年にあたり、比較的新しい会社と言えます。しかしながら、ジョニーウォーカーやギネスを含む200以上のブランドを持ち、最も古いブランドの起源17世紀に遡ります。
https://www.diageo.com/en/our-business/our-history

特設サイト内ディアジオ・アーカイブ・ギャラリー
https://www.archivistconference2023.com/gallery

ディアジオ・アーカイブのページ
https://www.diageo.com/en/our-business/our-history/the-archive
バーチャルツアーを楽しめます。


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■文献/企業団体情報:企業史料協議会『企業と史料』第18集 目次
テーマ:「企業アーカイブズの価値再発見」2023年5月発行

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◎企業史料協議会『企業と史料』第18集「企業アーカイブズの価値再発見」目次

日本における唯一のビジネス・アーカイブズに関わる団体、企業史料協議会の会誌『企業と史料』第18集が刊行されました。1986年に創刊され、2011年までは不定期に、2012年以降は毎年、基本的に総会開催に合わせて刊行されています。前年度の活動の成果を中心とした内容です。

最新号第18集の目次をご紹介します。(カッコ内はページ番号)

[目次]

◆ご挨拶 (3)
企業史料協議会 会長 石原邦夫

◆企業史料協議会・第41回会員総会 記念講演 (5)
未来につなぐ:高島屋アーカイヴスと史料館のリニューアル
株式会社高島屋 高島屋史料館部長 田中喜一郎

◆第11回ビジネスアーカイブズの日 シンポジウム
企業アーカイブズの価値再発見

【特別講演】 (30)
DX時代に企業アーカイブズを経営層にどう売り込むか
博士(情報科学)東北大学 山﨑久道

【基調講演】 (56)
変革期にこそアーカイブズを:組織を強くするための自己検証と社会発信
学校法人自由学園 資料室 主任研究員 村上民

【パネルディスカッション】 (68)

経営にとっての組織アーカイブズの価値と存在意義
学校法人自由学園 資料室 主任研究員 村上民
株式会社資生堂 アート&ヘリテージマネジメント部 小泉智佐子
富士通株式会社 総務本部総務部富士通アーカイブズ 笠原正子

モデレータ
公益財団法人渋沢栄一記念財団情報資源センター企業史料プロジェクト担当/企業史料協議会理事 松崎裕子

オブザーバー
博士(情報科学)東北大学 山﨑久道

総合司会
企業史料協議会理事(元・森永製菓株式会社) 野秋誠治

◆「『らしさ』とアーカイブズ」勉強会
「『らしさ』とアーカイブズ」勉強会の開催に向けて (84)
公益財団法人渋沢栄一記念財団情報資源センター企業史料プロジェクト担当/企業史料協議会理事 松崎裕子

第1回
「らしさ」の共有にアーキビストはどのようにかかわれるのか (87)
学校法人自由学園 資料室 菅原然子

第2回
BEAMSのアーカイブズは、インスピレーションを与えるブランディング装置 (89)
株式会社ビームス 長友美恵子

寄稿
企業の内と外にあるMLA連携:キュレーションを「図書史料室」の要素と認識する (94)
東京海上日動火災保険株式会社 図書史料室/企業史料協議会理事 櫻井由佳

「見えざる手」によるアイデンティティ構築 (100)
東洋英和女学院大学 国際社会学部国際社会学科 専任講師 町田小織

◆イギリスのビジネス・アーカイブズと企業史料:公共財化する史料の行方 (106)
東京都立大学 経済経営学部 准教授 井澤龍

◆企業史料協議会・2022年度の活動概況 (130)

◆執筆者紹介 (134)

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頒価:3000円

問い合わせ先:https://www.baa.gr.jp/contact.html


★☆★...編集部より...★☆★

第18集は、2022年5月の会員総会での記念講演、11月のビジネスアーカイブズの日シンポジウムでの講演とパネルディスカッション、さらに9月から12月にかけて開催した「『らしさ』とアーカイブズ」に関する勉強会といった、会の活動の記録となる記事、また勉強会に関わる櫻井由佳氏(東京海上日動火災保険株式会社図書史料室/企業史料協議会理事)と企業ミュージアムの専門家町田小織氏(東洋英和女学院大学国際社会学部国際社会学科専任講師)の寄稿二篇に加え、経営史研究の専門家である井澤龍氏(東京都立大学経済経営学部准教授)による論考を掲載しています。

町田氏、井澤氏の論考は、アーカイブズ利用者としての視点からの論考というよりは、組織における、あるいは社会における「アーカイブズとアーキビスト」、「企業史料」の価値、存在意義、役割の考察に結びつく、新しいタイプの論考と位置づけられるように思います。

デジタル社会の進展にともない、資料としての企業アーカイブズ(企業史料)は社会に存在する膨大なデジタルデータの一部として、利用の用途と機会が拡大しつつあります。企業アーカイブズの実務家(アーカイブズ担当者、アーキビスト)がデータの収集、保存、整理、利活用に取り組むのと並行して、「企業アーカイブズのデータ(とコンテンツ)の扱い(管理・利活用)という営み」自体が研究の対象となりつつあることを、二つの論考を読んで感じました。

アーカイブズは利用によって新しい価値を生み出す可能性を持ちます。今後、個々の企業内にとどまらず、グループ企業や業界内の複数の企業の間で、あるいは広く社外との間でアーカイブズ・データの流通を促進することが、新たな価値の創造につながるのか、あるいはそのコストを正当化できる(ビジネスケースを作れる)状況はまだまだ先なのか、そのようなことにも考えが広がりました。


[関連ページ]

企業史料協議会
https://www.baa.gr.jp/

高島屋アーカイヴス
https://www.takashimaya.co.jp/shiryokan/takashimaya_archives/

山﨑久道氏業績一覧(国立情報学研究所CiNiiリサーチ)
https://cir.nii.ac.jp/all?q=%E5%B1%B1%EF%A8%91%E4%B9%85%E9%81%93&count=100&sortorder=0&lang=ja

学校法人自由学園
https://www.jiyu.ac.jp/

学校法人自由学園100周年記念サイト
https://www.jiyu.ac.jp/100th/

株式会社資生堂企業情報サイト
https://corp.shiseido.com/jp/
(トップページ>サステナビリティ>文化 のページにアート&ヘリテージ関連情報がまとめられています。)

富士通株式会社 富士通アーカイブズ
https://www.fujitsu.com/jp/about/plus/museum/archives/

株式会社ビームスホールディングス企業情報サイト
https://www.beams.co.jp/company/

東京海上日動火災保険株式会社「東京海上日動の歴史」ページ
https://www.tokiomarine-nichido.co.jp/company/rashisa/story/history/

町田小織氏マイポータル(国立研究開発法人科学技術振興機構リサーチマップ)
https://researchmap.jp/saorim

井澤龍氏マイポータル(国立研究開発法人科学技術振興機構リサーチマップ)
https://researchmap.jp/ryoizawa


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■文献/企業団体情報:BNPパリバ・アーカイブズ(フランス)
「フランスの銀行アーカイブズ:歴史と展望」

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◎マリー・ラペルドゥリ、ロジェ・ヌガレ「フランスの銀行アーカイブズ:歴史と展望」
ドイツ・ビジネスアーキビスト協会会誌『アーカイブと経済』2022年2号
Marie Laperdrix, Roger Nougaret, French banking archives: history and perspectives,
Vereinigung der Wirtschaftsarchivarinnen und Wirtschaftsarchivare e.V., Archiv und Wirtschaft, Heft 2/ 2022
https://www.wirtschaftsarchive.de/publikationen/archiv-und-wirtschaft/2022-heft-2/
https://www.wirtschaftsarchive.de/site/assets/files/24397/auw_2_2022_84-92.pdf(PDF)

ドイツ・アーキビスト協会のウェブサイトでは、フランスの大手銀行BNPパリバの現在のアーキビスト、マリー・ラペルドゥリ氏と前任者ロジェ・ヌガレ氏による記事が公開されています(同会が年に4回発行する同協会会誌『アーカイブと経済』の2022年2号)。この記事は、2021年5月3日に開催された第56回ドイツ・アーキビスト協会年次会合での講演内容を基にしたものです。

記事の構成は次の通りです。

1. 歴史的概観:フランスの銀行の歴史的類型
2. アーカイブズの初期組織
3. 経済・金融史の資料(ソース)としての銀行アーカイブズ
3.1. 利用可能な資料(ソース)の概要
3.2. フランスの大学における銀行アーカイブズの利用:パリ経済学院(PSL)と経済アーカイブズ、銀行アーカイブズの例
4. 銀行アーカイブズの新たな挑戦:BNPパリバの例
4.1. 歴史的なアーカイビングの方針:90年にわたるアーカイブズの発展
4.2. デジタル時代に再考される歴史アーカイブズの保存
4.3. より多くの人々に歴史アーカイブズを普及させる

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3.1.での銀行アーカイブズ所蔵記録の紹介によると、取締役会や経営委員会、会計記録(貸借対照表、損益計算書、元帳など)、人事(政策や個人のファイル)、不動産(支店や本社)など、他の業種と共通する記録に加え、銀行に特有な記録として株式、債券、ローンの発行に関するファイルやスエズ運河、コリント運河、パナマ運河、北京~漢口(現武漢)間の鉄道、ベルリン・バグダッド間の鉄道、カイロやメキシコの地下鉄などの工事に関わるプロジェクトファイナンスファイル、鉱山、石油コンビナート、製鉄所、原子力発電所、火力発電所など、世界各地にあるプラントの資金調達のためのファイル、経済調査専門部署による国や経済分野、企業に関する研究といったものが利用可能です。

3.2.では、ビッグデータ技術を活用し、OCRと機械学習技術の向上を目指す「Data for Financial History(DFIH)」プロジェクトへの参加が紹介されています。これはフランス財務省とBNPパリバをはじめとするフランスの銀行が保有するアーカイブズ資料をデジタル化・OCR処理することにより高品質の歴史的経済・金融データベースを構築するプロジェクトです。これはまた、デジタル・ヒューマニティーズの発展とAIの新たな可能性により現在発展しつつある科学的研究への関与と位置づけられています(4.1.冒頭部分)。

4.1.で「90年にわたるアーカイブズの発展」というタイトルが付されているのは、銀行業務における現用記録の管理の開始からの歴史を指しています(3.1.の冒頭で歴史アーカイブズ部門の設置は1990年代であると述べている)。

1980年代にはフランス国立公文書館館長、ICA会長も務めたジャン・ファビエ氏のサポートを受け、急成長する公共団体のアーキビストネットワークとの関わりが拡大し、同じくファビエ氏の招待でフランス文化省主催のアーカイブズに関わる国際的な技術コースにも参加したとあります。国際的な関心から、イギリスのビジネス・アーカイブズ・カウンシル(BAC)のような協会の結成への動きもあったようですが、実現はしなかったと言います。

BNPパリバでは、1990年にピエール・ド・ロングマールを責任者とするアーカイブズ部門が設立され、専門化が図られ、1999年に歴史アーカイブズ部門を創設して、特に第二次世界大戦中のユダヤ人資産の略奪に関する公式調査を実施しています。2010年になると、アーカイブズ&歴史部門を創設し、その後デジタル技術がますます主流になるにしたがい、これに関わる専門知識が必要とされ、アーカイブズに関するグループポリシー、グループアーカイブズと歴史に関するポリシーといったものが作成されました。

4.1.の末尾では、EUの一般データ保護規則(GDPR)への準拠を大幅に高めつつ、個人データの収集には、特にグループの歴史アーカイブズの記録が匿名化されないようにするために、GDPRのコンプライアンスを担当するチームと日々協力しているとあります。

4.2.ではBNPパリバのデジタル基盤の強化の取り組みとして、2013年にアーカイブズ情報システム、2017年には「HISTORAGE」と呼ばれる初の歴史的デジタルアーカイブ・システムが導入を説明しています。

4.3.は、さまざまなデジタルツールの登場によって、アーカイブズの記録を一般の人々に見てもらう機会が格段に増えた状況での取り組みについて紹介しています。

2010年以降は、フランス語と英語のバイリンガルでのウェブサイト「Well of History」運営、ソーシャルネットワーク(最初はTwitterとLinkedIn、後にInstagram)の利用、さらに2021年秋以降ウェブサイトのコンテンツに動画やポッドキャストも取り入れています。このほかVRツールを導入してオンライン・ツアーを実施するなどしています。

2010年に設置されたアーカイブズ&歴史部門では、経済史の論文賞のスポンサーや、フランス語圏の優秀なYouTuberを表彰し、歴史コンテンツの制作や公共の歴史に関する研究を奨励する「History YouTube award32」のスポンサーでもあります。


★☆★...編集部より...★☆★

1990年代に創設されたアーカイブズ部門が2010年、アーカイブズ&歴史部門に再編された理由は、ウェブサイト、SNSといったデジタルプラットフォームを通じたアーカイブズの利活用方針を組織上明確にしたためであると思われます。これは、アーカイブズ部門とその資料を企業広報、ブランディングに用いることを意図したものでしょう。

しかしながら、BNPパリバ銀行アーカイブズのデジタル化はそれにとどまらず、デジタル・ヒューマニティーズといった学術分野とも密接に関わっています。フランスの場合、第二次世界大戦後に銀行が国有化された時期があったため、文中にあるようなフランス財務省とのコラボレーション・プロジェクトが実現しやすかったのではないかと思われます。企業アーカイブズとデジタル・ヒューマニティーズの連携という事例は、これまでのところ多くは存在しませんので、これからのデータ社会における企業アーカイブズの利活用の先行事例として、今後注目していきたいプロジェクトです。

[関連ページ]

BNPパリバ 歴史ページ
https://histoire.bnpparibas/


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■行事情報:ビジネス・アーカイブズ研修会/セミナー 海外の動向

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◎ビジネス・アーカイブズ研修会/セミナー 海外の動向

激しく変化するビジネス環境のなかで、常に知識やスキルのアップデートを図っていくことは、企業アーキビストにとって大切なことです。また、企業以外の組織において経験を持つアーキビストであっても、企業アーカイブズで働くことになった場合、それまでとは異なった知識やマインドセットが必要になります。

このようなニーズに応えるために、各地の企業アーカイブズに関わる専門団体は研修の機会を提供してきました。今号は、そのような研修講座についてご紹介します。


◆(米国)SAAビジネス・アーカイブズ・セミナー(2日間)
「ビジネス・アーカイブズのナビゲーションとマネジメント」
Navigating and managing a business archives
https://mysaa.archivists.org/NC__Event?id=a0l5a00000GKEQXAA5

米国アーキビスト協会(SAA)では、10月に2日間のプログラムを予定しています。

日時:2023年10月23日(月)午前8時00分~2023年10月24日(火)午後4時00分(米国中部標準時夏時間)
早期登録締め切り:2023年9月25日午後11時45分(同上)
会場:フォードエクスペリエンスFXC(米国ミシガン州ディアボーン)
講師:ジェニファー・ジョンソン、ジェイミー・マーティン
概要:企業アーカイブズ見学、企業内アーカイブズ・企業図書館・記録管理部門・情報センター等との相互関係、企業内でアーカイブズ理論の原則の実務への適用、組織内アドボカシー、法的問題への対応、電子記録管理についての理解、ネットワーキング等。
費用:会員早期登録329ドル/会員通常409ドル
機関会員従業員早期登録399ドル/機関会員従業員通常499ドル
非会員早期登録469ドル/非会員通常489ドル


◆ドイツ・ビジネスアーキビスト協会主催
第99回研修会
「ビジネス・アーカイブズ入門:乗り込む、レベルアップする、リフレッシュする」
Einführung in das Wirtschaftsarchivwesen: Einsteigen - Aufsteigen - Auffrischen
https://www.wirtschaftsarchive.de/aktuelles/veranstaltungen/99-vdw-lehrgang/

ドイツ・ビジネスアーキビスト協会が開催している企業アーキビスト向けの第99回研修会も10月に予定されています。

日時:2023年10月15日(日)から20日(金)まで(5日間)
場所:ハイデルベルグ
概要:15日(ボディランゲージ・呼吸法、自己紹介、食事)、16日(アーカイブズ関連法、著作権・知的財産権、企業アーカイブズの歴史、コスト意識他)、17日(視聴覚コレクション評価・保存・利活用、資料読解とトランスクリプション、ケルン・サーカス・アーカイブ立ち上げ体験談他)、18日(災害予防、リスク管理、企業文化、ドイツ結核アーカイブズ他)、19日(目録、グループワーク、家族経営ブルワリー他)、20日(文書管理・記録管理、デジタルアーカイブ、アーカイブズ・ツアー他)、受講者には修了証が発行される。
プログラム:
https://www.wirtschaftsarchive.de/site/assets/files/24889/99__vdw-lg__infos_programm_referentinnen_teilnehmerinnen_20230330.pdf(PDF)
費用:会員600ユーロ/非会員650ユーロ(休憩・昼食のケータリングとホテルから会場への移動費込み)
(ホテル宿泊費は1日当たり99~103ユーロ)


◆「(イタリア)アッカデミア・コスチューム&モーダ主催 ファッション・アーカイブ講座」
https://www.accademiacostumeemoda.it/en/programmes/introduction-to-fashion-archive/

ローマにあるアッカデミア・コスチューム&モーダACCADEMIA COSTUME & MODAではファッション・アーカイブズに関する講座を開催中です。アッカデミア・コスチューム&モーダは、衣装デザイナー・スタイリスト・教育者であったロザーナ・ピストレーゼRosana Pistolese氏が労働社会保障省 (当時) 、ローマ市等の支援を受けて1964年にローマで設立したファッション専門教育機関です。

概要は下記の通りです。

入学時期:4月
受講期間:6週間
言語:イタリア語
通学時間:夜間コース+土曜コース
開催地:ミラノ
入学金:750ユーロ
授業料:1,750ユーロ

目的:マックスマーラとのコラボレーションによる体験コース。アーカイブズは歴史的遺産であるのみならず、ブランドの文化的アイデンティティを強化することを使命とする新しい企業機能と認識されつつある。講座は、ファッション企業の競争力の源泉となるよう、アーカイブズを具体的・統合的に理解し、首尾一貫した方法で使用するための一連のツールを参加者に提供すること
対象:ファッション、マネジメント、コミュニケーション、アーカイブズの分野の学生や卒業生、またはファッション部門に焦点を当てた遺産管理の実践とガバナンスを深めたい同分野の専門家
ディレクター:グラツィア・ヴェンネリGrazia Venneri氏(NEVコンサルタント事務所の創設者、グッチのヘリテージ部門マネージャーとして、歴史アーカイブズ、グッチデジタルプラットフォームの作成・管理、グッチミュージアムのコンセプト、作成、立ち上げに関わる)
受講者選考方法:志望動機書のプレゼンテーション、面接
概要:物理的アーカイブズの管理、製品およびアナログ資料(文書や画像)のアーカイブズ保管庫への配置、保存、編成、修復。
リサーチ、提供、デジタル化、コースで習得した能力を強化することを目的としたプロジェクトなど


★☆★...編集部より...★☆★

SAAの講座の講師のお二人は、同協会のビジネス・アーカイブズ部会の部会長経験者で、ジョンソン氏はミネソタ州に本社がある穀物メジャー・カーギルのアーカイブズ・ディレクター、マーティン氏はニューヨーク州に所在するIBMアーカイブズのアーキビストです。

ドイツ・ビジネスアーキビスト協会の研修講座は5日間と期間も長く、座学だけでなく、近郊のアーカイブズ施設の見学なども複数組み込んだ実践的かつインテンシブなコースのようです。10月18日のプログラムには「企業文化」に関するセッションがあり、講師はICA/SBA部会長のロシュ・歴史コレクション&アーカイブズのキュレーター アレクサンダー・ビエリ氏です。この日は他にボーフムの鉱山アーカイブやハイデルベルクの結核アーカイブ関する講義もあり、ドイツのビジネス・アーカイブズ研修講座の幅広さ、奥深さが感じられます。

[関連ページ]

アメリカ・アーキビスト協会企業アーカイブズ部会
https://www2.archivists.org/groups/business-archives-section

ドイツ・ビジネスアーキビスト協会
https://www.wirtschaftsarchive.de/

同協会 過去の研修会のページ
https://www.wirtschaftsarchive.de/archivwesen/aus-und-weiterbildung/fruhere-lehrgange/

ケルン・サーカス・アーカイブ
https://www.circusarchiv.com/

ボーフム・鉱山アーカイブ
https://www.bergbaumuseum.de/montandok/bergbau-archiv-bochum

ハイデルベルク・ドイツ結核アーカイブ
http://www.tb-archiv.de/

ジュートツッカーSüdzucker社企業アーカイブズ
https://www.suedzuckergroup.com/de/unternehmen/geschichte/unternehmensarchiv
https://www.suedzuckergroup.com/sites/default/files/2020-03/Unternehmensarchiv_Flyer.pdf (チラシ、PDF)

アッカデミア・コスチューム&モーダ
https://www.accademiacostumeemoda.it/en/

マックスマーラ・ライブラリー&アーカイブズ
https://www.maxmarafashiongroup.com/heritage


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■企業団体情報:ドイツ・ビジネスアーキビスト協会
        「ビジネスアーカイブ・オブ・ザ・イヤー 2023」賞

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◎ドイツ・ビジネスアーキビスト協会「ビジネスアーカイブ・オブ・ザ・イヤー 2023」賞
Wirtschaftsarchiv des Jahres 2023,
Satzung der Vereinigung der Wirtschaftsarchivarinnen und Wirtschaftsarchivare e. V. (VdW)

ドイツ・ビジネスアーキビスト協会は、今年5月14日から16日までベルリンで開催された年次会合の中で、「ビジネスアーカイブ・オブ・ザ・イヤー 2023」Wirtschaftsarchiv des Jahres 2023の表彰を行っています。
https://www.wirtschaftsarchive.de/aktuelles/mitteilungen/wirtschaftsarchiv-des-jahres-2023/

「2023年度 アーカイブズオブ・ザ・イヤー」に選ばれたのは、ロバート・ボッシュ社(シュトゥットガルト)歴史コミュニケーション部門のプロジェクト「朝はバンガロール、夕方はカンピーナス」Morgens Bangalore, abends Campinas でした。これは、同社の会社史バーチャルツアーのプロジェクトです。

審査委員長であるエボニーク社アーキビスト、アンドレア・ホーマイヤー氏の講評によると、このオンライン・バーチャルツアーによって、空間的な距離の問題から、これまでアーカイブズの展示にアクセスする機会がなかった海外法人の従業員(例えばインドのバンガロールのソフトウェア開発者やブラジルのカンピーナスの営業部員など)が、展示にアクセスできるようになったことが高く評価されたようです。
https://www.wirtschaftsarchive.de/archivwesen/preis-der-vdw/
https://www.wirtschaftsarchive.de/site/assets/files/24967/2023_05_laudatio_website.pdf(PDF)

このほか最終選考に残ったのは、チューリッヒ保険グループ企業アーカイブズの新しいヘリテージ・センター、マスト・イェーガーマイスター社アーカイブズのプロジェクト「アンネマリー・フィンデル=マストの誕生日を記念した『イェーガーマイスター・ボランティア・デー』」、ティッセンクルップ社アーカイブズのプロジェクト「ルール地方の鉄鋼産業(1920年代から現在)の社内新聞のデジタル化とインターネットでの提供」でした

表彰は2-3年に一度行われているようで、次回は2025年度の予定とあります。


[関連ページ]

ボッシュ社歴史コミュニケーション部門
https://www.wilhelmsbau-stuttgart.de/projects/bosch-historische-kommunikation/

ボッシュ社会社史ページ
https://www.bosch.com/de/unternehmen/unsere-geschichte/


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■文献/企業団体情報:企業アーキビストと情報発信

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◎SNS、ウェブサイトにおける企業アーキビストの情報発信

2010年代以降、インターネット、SNSを用いた企業アーカイブズの情報発信は定着し、最近は企業アーキビスト(米国の場合は「ヒストリアン」という肩書きを持つことも多い)が個人のアカウントから、自社のアーカイブズ部門や所蔵資料を紹介しているのを目にすることが増えました。また、企業アーキビストへのインタビューを基にした記事も見かけます。

国際アーカイブズ評議会(ICA)企業アーカイブズ部会(SBA)や米国アーキビスト協会(SAA)ビジネス・アーカイブズ部会(BAS)で積極的に活動するアーキビスト、例えばフォード・モーターのテッド・ライアン氏、リーバイ・ストラウス・アーカイブズのトレイシー・パネック氏、ハーレー・ダビッドソン・アーカイブズのビル・ジャクソン氏、インド・ゴードレージのヴルンダ・パターレ氏などは、アーカイブズを用いた情報発信に積極的に取り組んできた代表的な企業アーキビストと言えます。

こういった、いつもの顔ぶれとは違った企業アーキビストによる情報発信、あるいは企業アーキビストを取り上げた記事をご紹介します。


◆ディア&カンパニー社(米国) Deere & Company
ジョン・ディア・アーカイブズ John Deere Archives
アーキビスト、ヒストリアン
ニール・ダールストロム Neil Dahlstrom 氏

ディア&カンパニー社はジョン・ディア氏によって1837年イリノイ州で創業した米国を代表する農業機械メーカーです。ダールストロムス氏は、LinkedInのページによると、イースタン・イリノイ大学で歴史アドミニストレーションの修士号を得たのち、2001年からジョン・ディア・アーカイブズでアーキビストとして働き、現在はブランディッド・プロパティーズ&ヘリテージ・マネージャー Branded Properties and Heritage Manager です。リンク先の読書関係サイトには、ダールストロム氏のLinkedIn、Twitterそして個人のホームページへのリンクが上げられています。これらのオンライン・メディアを通して、個人としても企業アーカイブズに関する発信を行っています。

「ジョン・ディアのヒストリアン ニール・ダールストロムス」YouTube
Neil Dahlstroms Journey as John Deere Historian
https://www.youtube.com/watch?v=_J87aPDlpXM

マーク・ガンディ「ビジネス・アーカイブズのインディアナ・ジョーンズ」
『CFOブッククラブ』(企業財務担当者向けの本の紹介サイト)
2023年5月21日
Mark Gandy, The Indiana Jones of Business Archives, CFO Bookshelf, MAY 21, 2023
https://cfobookshelf.com/the-indiana-jones-of-business-archives/#more-8626
(ダールストロムス氏に関する記事。マーク・ガンディ氏は経営コンサルタント)
https://www.linkedin.com/in/markagandy/


◆BNPパリバ(フランス)BNP Paribas
アーカイブズ・歴史部門ヘッド Head of Archives and History
マリー・ラペルドゥリ氏 Marie Laperdrix
https://twitter.com/Archivchronicle

前述の「フランスの銀行アーカイブズ:歴史と展望」の共著者の一人であり、本通信92号(2021年10月19日)中の欧州銀行・金融史協会(eabh)のポッドキャストに関する記事でもご紹介したことのあるマリー・ラペルドゥリ氏はTwitterの個人アカウントからBNPパリバ・アーカイブズの所蔵記録の紹介をつぶやいています。

同行は、1973年以来、全仏オープンの会場であるローラン・ギャロスのスポンサーであることから、同オープン開催期間に合わせて、これをテーマにしたウェブサイトのコンテンツを公開するとともに、ラペルドゥリ氏個人のTwitterアカウントでも、関連するツイートを行っています。
https://histoire.bnpparibas/actualites/revivez-en-images-lhistoire-de-fidelite-qui-unit-bnp-paribas-et-roland-garros-depuis-1973/
https://twitter.com/hashtag/50ansdeFid%C3%A9lit%C3%A9?src=hashtag_click&f=live


◆NBCユニバーサル NBCUniversal
NBCユニバーサル・アーカイブズ&コレクション、収集&アウトリーチ・マネージャー
Manager of Collection & Outreach at NBCUniversal Archives & Collections
ナタリー・オーシエ Natalie Auxier氏

米国モーション・ピクチャー・アソシエーション(MPA)のサイト内のインタビューページThe Creditで、NBCユニバーサル・アーカイブズのナタリー・オーシエ氏のインタビューが紹介されています。

ブライアン・エイブラムス
「NBCユニバーサル アーキビスト ナタリー・オーシエが『ジュラシック・パーク』から『ファストX』まで案内してくれました」
Bryan Abrams, NBCUniversal Archivist Natalie Auxier Takes Us From "Jurassic Park" to "Fast X", The Credits
https://www.motionpictures.org/2023/05/nbcuniversal-archivist-natalie-auxier-takes-us-from-jurassic-park-to-fast-x/
〔2023年5月11日〕

インタビューによると、NBCユニバーサルでアーカイブズ部門がスタートしたのは90年代、敷地内に散らばっていた保管エリア(小道具、衣装など)からさまざまな記録・資料を1カ所に集約することから始めています。オーシエ氏の役割はアーカイブズ、コレクション、ポリシー、およびプロセスの手順を監督することと、アーカイブズの広報も担当しています。オーシエ氏の一番のお気に入りは「1912年4月30日の会社設立を記録した取締役会の議事録の原本」。

また、現在の映画製作のために、アーカイブズが所蔵する以前の映画のセットプランを貸し出すなどして、ビジネスをサポートしている、とも語っています。

そのほか、膨大な資料・ドキュメント類の中から何を残すのか判断し、また中性紙箱など資料・ドキュメントの保存にとって必要な環境を整えることもアーカイブズの大切な仕事だといいます。

近年の仕事の変化としては、社内各部署がデジタルデータを作成する際に、アーカイブズがメタデータ作成の支援をしていると語っています。

[関連ページ]

NBCユニバーサル・アーカイブズ&コレクション
https://www.universalstudioslot.com/archives-and-collections


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■文献情報:SAA『ビジネス・アーカイブズのマネジメント』書評

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◎アメリカ・アーキビスト協会発行 サラ・ポーライアー編『ビジネス・アーカイブズのマネジメント』書評
Reviews, "Managing business archives", edited by Sarah Polirer, published by SAA

本通信93号でご紹介したアメリカ・アーキビスト協会発行サラ・ポーライアー編『ビジネス・アーカイブズのマネジメント』が米国の二つのアーカイブズ専門ジャーナルで取り上げられています。

一つ目は米国の中部大西洋岸(Mid-Atlantic)地域(デラウェア州、コロンビア特別区、メリーランド州、ニュージャージー州、ニューヨーク州、ペンシルベニア州、バージニア州、ウエストバージニア州)のアーキビストの団体「中部大西洋岸地域アーカイブズ会議」(Mid-Atlantic Regional Archives Conference : MARAC。会員数1,000名超)の会誌『Mid-Atlantic Archivist』第52巻第2号(2023年春号)です。

Book review, "Managing business archives", edited by Sarah Polirer.
Reviewed by: Amanda Garfunkel, Digital archivist.
https://marac.memberclicks.net/assets/maa/maracspring23.pdf(PDF、6-7ページ)

書評では、『ビジネス・アーカイブズのマネジメント』は、企業アーキビストにはビジネス・環境の変化に即座に対応する柔軟性が必要であること、企業ではアーキビスト自身がレファレンスや調査・研究業務に進んで携わらないといけないこと、アーカイブズのアドボカシー(アーカイブズに対する周囲の理解を促進するための活動)が必要であることが繰返し登場する点を指摘しています。他方、評者は、ビジネスには非営利の事業体や団体も含まれると考えると、さらにカバーすべき事項があるのではないか、とも示唆しています。

二つ目は、2010年に創刊された米国西部のアーカイブズ関係者を中心としたオンラインのオープン・アクセス・ジャーナル『Journal of Western Archives』第14巻第1号(2023年)です。

Louthen, Erin M. (2023) "Review of Managing Business Archives," Journal of Western Archives: Vol. 14: Iss. 1, Article 5.
https://digitalcommons.usu.edu/westernarchives/vol14/iss1/5

評者はカリフォルニア州サンホセ市のサンホセ教区(カトリック教会)アーカイブズ・レコード・センターのアーキビスト、レコード・マネージャーです。こちらの書評では、本書の特色は徹頭徹尾実践的で現実に即したアプローチにあるとした上で、本書は情報専門職にとって現代の古典になりうる可能性があること、つまり、貴重な知識と経験を次世代に継承することを可能にする内容を備えたものと、高い評価を与えています。


[関連ページ]

「ビジネス・アーカイブズ通信」93号(2022年3月8日発行)
https://www.shibusawa.or.jp/center/ba/bn/20220308.html#04


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[略称一覧]
ACA: Association of Canadian Archivists(カナダ・アーキビスト協会)
ARA: Archives and Records Association(アーカイブズとレコード協会)
ASA: Australian Society of Archivists(オーストラリア・アーキビスト協会)
BAC: Business Archives Council(ビジネス・アーカイブズ・カウンシル)
BACS: Business Archives Council in Scotland(スコットランド・ビジネス・アーカイブズ・カウンシル)
BAS: Business Archives Section(ビジネス・アーカイブズ部会:SAA内の部会)
CoSA: Council of State Archivists(米国・州文書館長評議会)
DCC: Digital Curation Center(英国デジタル・キュレーション・センター)
EDRMS: Electronic Document and Record Management System(電子文書記録管理システム)
ERM: Electronic Record Management(電子記録管理)
ICA: International Council on Archives(国際文書館評議会)
NAGARA: National Association of Government Archives and Records Administrators(米国・全国政府アーカイブズ記録管理者協会)
NARA: National Archives and Records Administration(米国 国立公文書館記録管理庁)
RIKAR: Research Institute of Korean Archives and Records(韓国国家記録研究院)
RMS: Record Management System(記録管理システム)
SAA: Society of American Archivists(アメリカ・アーキビスト協会)
SBA: Section for Business Archives(企業アーカイブズ部会、ICA内の部会)
TNA: The National Archives(英国国立公文書館)


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☆★ 編集部より:あとがき、次号予告 ★☆

6月9日は国際アーカイブズの日です。世界のさまざまなアーカイブズ関係機関、関係者がこの日を記念し、アーカイブズをプロモートするために、この日の前後に各種イベントを開催しています。日本では国立公文書館が今年は前日の6月8日に「国際アーカイブズ週間」記念講演会を開催しました。法政大学法学部教授、元一橋大学副学長の髙橋滋氏が「公文書管理法制の到達点と展望」、日本総合研究所常務執行役員の寄高由季子氏が「多様性を活かした人材育成」でお話されていました。

ビジネス・アーカイブズ分野ではインドのゴードレージ・アーカイブズが、6月9日、昨年に引き続きオンラインでのマスター・クラスとして、HSBCグローバル・アーカイブズのヘッドであるティナ・ステープル氏による「ハイブリッドな仕事環境におけるグローバル・リーチ:HSBCアーカイブズの経験」と題した講演を配信してくれました。
https://twitter.com/GodrejArchives/status/1665615347322601472
(この講演はアーカイブ配信なし)

HSBCグローバル・アーカイブズに関しては、2000年代初頭のヒストリー・ウォール・プロジェクト、2015年の150周年プロジェクト、2000年代後半から2010年代半ばにかけてのグローバル・デジタル・アーカイブズ・プロジェクトなど、本通信のバックナンバーや「世界/日本のビジネス・アーカイブズ」のページでたびたびご紹介してきました。

https://www.shibusawa.or.jp/center/ba/bunken/doc014_staples.html
https://www.shibusawa.or.jp/center/ba/bn/20151121.html#03
https://www.shibusawa.or.jp/center/ba/bn/20140220.html#04
ほか

ステープル氏は2000年、アーカイブズ部門の行員が3名の時期に入行し、2007年にグローバル・アーカイブズの責任者のポジションに就任して以来、ロンドン、香港、ニューヨーク、パリの四つのアーカイブズで働くグローバルなチーム(現在は総勢16名)のヘッドとして、社内各部署と連携しながら各種のプロジェクトを率いてきました。

今回印象に残ったのは、次のようなコメントです。

・アーカイブズは長年にわたり、非常に多くの資金を必要とするプロジェクトに取り組んできたが、これらの資金には常に、投資に対する強い見返りが期待されている。アーキビストの肩にかかる期待値も大きかった。アーキビストは多くの面でプロジェクトを成功させ、自分たちの価値を証明したと思う。チームは2倍以上の規模に拡大した。

・親組織は大規模なデジタル化(デジタルバンキング)を目指し、取り組んでいる。顧客体験の領域にアーカイブズが関与する大きな可能性があり、そのような機会に参加するために、アーカイブズは組織内で非常に強力なポジションを築いてきた。シニアマネジメントに年に2回、アーカイブズ・ニュースを送付するなど、社内で知名度を上げる努力も長年にわたり積極的、継続的に行ってきた。

・ストーリーテリングは単なる楽しみではなく、信頼性を高め、ブランドに付加価値を与えるものである。よりクリエイティブに幅広くアーカイブズを活用している。また、ストーリーテリングのスキルを最新のテクノロジー(例えばメタバースなど)と組み合わせている。


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ビジネス・アーキビストのための研修講座にも出講されている経営史研究者の方々による、有斐閣『日本経営史』の第3版が刊行されました(2023年5月)。

<書誌情報>
タイトル:日本経営史:江戸から令和へ・伝統と革新の系譜. 第3版
著者:宮本又郎 (大阪大学名誉教授),阿部武司 (大阪大学名誉教授),宇田川勝 (法政大学名誉教授),沢井実 (大阪大学名誉教授),橘川武郎 (国際大学教授)
ISBN:978-4-641-16617-2
定価:3,960円(本体 3,600円)
発行日:2023年5月10日
体裁:A5判並製カバー付き
ページ数:432ページ
https://www.yuhikaku.co.jp/books/detail/9784641166172

<目次>
第1章 日本型企業経営の起源:江戸時代の企業経営(宮本又郎)
第2章 近代経営の形成:明治前・中期の企業経営(阿部武司)
第3章 近代経営の展開:明治後期から昭和初期の企業経営(宇田川勝)
第4章 戦前から戦後へ:企業経営の変容(沢井実)
第5章 経済成長と日本型企業経営:高度成長から1980年代末までの企業経営(橘川武郎)
第6章 長期低迷と再生の条件:1990年代以降の日本企業(橘川武郎)

初版の発行が1995年、第2版が2007年で、今回は16年ぶりの改訂版とのことです。前の版との大きな違いは1990年代以降の日本経済の構造変化を踏まえ新たに第6章が加えられたことです。同章では、「投資抑制メカニズム」「イノベーション」「金融システムの変化」等を軸に、今日に至る日本経済が分析されています。

過去30年を記録するアーカイブズ資料を収集し、それらをもとに自組織を振り返り、ものがたるためには、自組織を取り巻く環境を深く理解する必要があります。あるいは、アーカイブズとアーキビストはつい最近、すなわち「今」に近い過去にも、俯瞰的な視座から目を向ける必要がある、と言えるでしょう。企業アーキビストが経営史を学ぶ意義はそこにあるのではないでしょうか。

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本通信前号では、活用によって価値を生み出す、その価値の源泉、資産としての組織アーカイブズに関する情報資源センターからのメッセージ「"活用"を通して組織アーカイブズの価値を探る:企業を中心に」をご紹介しました。
https://www.shibusawa.or.jp/center/ba/bunken/doc020_value.html

本年4月に刊行された水谷長志編著『ミュージアム・ライブラリとミュージアム・アーカイブズ』(樹村房、2023年4月)第3章「ミュージアム・アーカイブズ」は、ミュージアム(博物館、美術館)という組織におけるアーカイブズの役割、アーキビストの業務を具体的に紹介する優れた文献です。(執筆は認証アーキビストで大阪中之島美術館アーキビスト(執筆当時)の松山ひとみ氏)
https://www.jusonbo.co.jp/books/288_index_detail.php

同章の目次は下記の通りです。

3.1 ミュージアム・アーカイブズとは何か
 3.1.1 アーカイブズの定義
 3.1.2 SAAとミュージアム・アーカイブズ・ガイドライン
 3.1.3 ミュージアムの活動記録を管理する
 3.1.4 レコード・マネジメントとアーキビスト
 3.1.5 コレクションとしてのアーカイブズを管理する
3.2 ミュージアム・アーカイブズの実践
 3.2.1 方針
 3.2.2 評価・選別・収受
 3.2.3 処理・保存
 3.2.4 公開
3.3 ミュージアム・アーカイブズの普及のために
 3.3.1 デジタルアーカイブズ・スペシャリストの育成
 3.3.2 おわりに

全体は5章立て、6つのコラムで構成されています。

1章 ミュージアム・ライブラリの原理と課題:竹橋の近代美術館で学んだ5つの命題から
2章 ミュージアム・ライブラリ
3章 ミュージアム・アーカイブズ
4章 ドキュマンタシオン:作品の歴史情報とその資料の集成
5章 ミュージアムの中の情報連携

[コラム]
 1 美術書誌編纂家という生き方
 2 展覧会記録の利活用
 3 アーカイブの実務を学ぶ
 4 国立美術館におけるデータ公開・利活用
 5 国立国会図書館における博物館・美術館刊行物
 6 ジャパンサーチでのMLA資料キュレーション

本書は、これから組織アーカイブズを整備していこうという企業アーカイブズ関係者にもさまざまな示唆を与えてくれるでしょう。

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今号でご紹介したビジネス・アーカイブズに関わるさまざまな情報から読者のみなさんはどのようなご感想をお持ちになったでしょうか。

編集部の感想は、「デジタル社会におけるアーカイブズ(とそこに含まれるデータ)の利活用(その前提として収集・移管、整理、目録・データベース作成、保存)を組織において、あるいは広く社会において進めようとするならば、歴史アーカイブズと現用記録の管理という専門分野に関わる高度な知識とスキルは不可欠であり、そのためのトレーニングの提供、専門家の養成は論を待たない」でした。

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次号は2023年9月発行の予定です。どうぞお楽しみに。

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◆◇◆バックナンバーもご活用ください◆◇◆

https://www.shibusawa.or.jp/center/ba/bn/index.html

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ビジネス・アーカイブズ通信(BA通信) No.98
2023年6月15日発行 (不定期発行)
【創刊日】2008年2月15日
【発行者】公益財団法人渋沢栄一記念財団情報資源センター
【編集者】公益財団法人渋沢栄一記念財団情報資源センター
      「ビジネス・アーカイブズ通信」編集部/
      株式会社アーカイブズ工房
【発行地】日本/東京都/北区
【ISSN】1884-2666
【E-Mail】
【サイト】https://www.shibusawa.or.jp/center/ba/index.html

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