ビジネス・アーカイブズ通信(BA通信)

第33号(2010年9月29日発行)

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☆      □■□ ビジネス・アーカイブズ通信 □■□

☆       No.33 (2010年9月29日発行)

☆ 発行:公益財団法人 渋沢栄一記念財団 実業史研究情報センター

☆                         〔ISSN:1884-2666〕
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★渋沢栄一記念財団は2010年9月1日に「公益財団法人」になりました★

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この通信では海外(主として英語圏)のビジネス・アーカイブズに関する情報をお届けします。

今号は文献情報4件です。

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◆ 目次 ◆

[掲載事項の凡例とご注意]

■文献情報:「スコットランドにおける企業史料のためのナショナル・ストラテジー」
        2010年7月

■文献情報:ビジネス・アーカイブズ・プロモーション・リーフレット
  ◎英国国立公文書館「あなたの会社の最大の資産はその歴史かもしれません:ビジネス・アーカイブズへのあなたのガイド」

■文献情報:アメリカ・アーキビスト協会「アーキビストに関わる基本的価値」(案)

■文献情報:韓国記録学会『記録学研究』23号 2010年1月

☆★ 編集部より:次号予告 ★☆

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[掲載事項の凡例]

・欧文の場合、日本語で読みやすいものになるように、タイトルははじめに日本語訳を、続いて原文を記します。
・人名や固有名詞の発音が不明の場合も日本語表記を添えました。便宜的なものですので、検索等を行う場合はかならず原文を用いてください。

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[ご注意]
・受信時にリンク先を示すURLが途中で改行されてしまう場合があります。通常のURLクリックで表示されない場合にはお手数ですがコピー&ペーストで一行にしたものをブラウザのアドレス・バーに挿入し、リンク先をご覧ください。

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■文献情報:
  「スコットランドにおける企業史料のためのナショナル・ストラテジー」
        2010年7月

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◎「スコットランドにおける企業史料のためのナショナル・ストラテジー」
The National Strategy for Business Archives in Scotland

http://www.scoarch.org.uk/filegrab/documents/db98b5c14a424a177569b7fe6b49f53b/NSBAS_Final_July_2010.pdf

昨年7月に英国国立公文書館(TNA)が発表した「企業史料のためのナショナル・ストラテジー(イングランド&ウェールズ)」に続き、本年7月には、スコットランド・アーカイブズ・カウンシル、スコットランド国立公文書館、スコットランド・ビジネス・アーカイブズ・カウンシル、そしてバラスト・トラストの四者が共同で、「スコットランドにおける企業史料のためのナショナル・ストラテジー」を発表しました。イングランド&ウェールズ版はすでに、本BA通信20号(2009年7月16日発行)http://www.shibusawa.or.jp/center/ba/bn/20090716.htmlで、同草案はBA通信13号(2009年1月26日発行)http://www.shibusawa.or.jp/center/ba/bn/20090126.htmlでご紹介しております。

今号では「企業史料のためのナショナル・ストラテジー」スコットランド版の目次情報と要旨概要をお伝えします。

[目次]

1. 要旨 Executive summary /3
  事業資産 Business assets
  文化的資産 Cultural assets
  戦略 The strategy
  行動 Actions

2. 範囲と背景 Scope and background /4
2.1 範囲 Scope
2.2 背景 Background
2.3 政策要因 Policy elements
2.4 戦略開発 Strategy development
2.5 期間と実行 Time frame and implementation

3. 展望と戦略目標 Vision and strategic goals /5
3.1 展望 Vision
3.2 戦略目標 Strategic goals
3.3 スコットランド政府戦略目的 Scottish Government strategic objectives

4. 戦略の効用 Strategy benefits /6
4.1 企業に対する効用 Benefits to business
4.2 社会に対する効用 Benefits to society

5. 現状評価 Current status review /8
5.1. 企業アーカイブズ部門 Corporate archives sector
5.2. スコットランド国立公文書館とスコットランドのためのナショナル・レジスター・オブ・アーカイブズ
  The National Archives of Scotland and the National Register of Archives for Scotland
5.3 グラスゴー大学アーカイブズ部 Glasgow University Archive Services
5.4 スコットランド・ビジネス・アーカイブズ・カウンシル
  Business Archives Council of Scotland
5.5 バラスト・トラスト The Ballast Trust
5.6 大学アーカイブズ University archives
5.7 地方自治体アーカイブズ Local authority archives
5.8 国立または地方の、あるいは独立した博物館と図書館
  National, local and independent museums and libraries
5.9 主題アーカイブズとコミュニティ・アーカイブズ
  Subject and community archives
5.10 専門職研修 Professional training
5.11 資金調達と投資 Funding and investment

6. 現在の戦略上のリスク Current strategic risk /12
6.1 一般的リスク General risks
6.2 目標に固有のリスク Goal specific risks

7. 実施 Implementation /14
7.1 実施計画 Implemetation plan
  i. ネットワークと連携を構築・発展させる Develop networks and partnership
  ii. 関心とアクセスを向上させる Increase awareness and access
  iii. リーダーシップ、教育、訓練を提供する Provide leadership,
  education and training

8. 戦略行動 Strategic actions /15
8.1 ネットワークと連携を構築・発展させる Develop networks and partnership
8.2 関心とアクセスを向上させる Increase awareness and access
8.3 教育、訓練を提供する Provide education and training

9. 戦略実施に対して準備する Resourcing strategic implementation /18

付録 Appendices /19
付録A:戦略構造 Appendix A: Strategy structure
付録B:政策要因 Appendix B: Policy elements /20
付録C:歴史的文脈 Appendix C: Historical context

謝辞 Acknowledgement /22

☆★ 要旨概要 ★☆
(以下は3ページの「要旨」概要です)

スコットランドの企業、企業関連団体、そして企業家の記録は、スコットランドの経済的、政治的そして社会的発展に対する説明のみならず、イギリス全体と世界の多くの国々の発展に対する説明を提供してくれる。

〔事業資産〕
記録は企業の資産である。記録は事業を継続していくうえで必要不可欠な情報を含み、短期的長期的な法律上の義務を果たす上で必要である。記録は組織の成功と失敗に関する内部情報を提供するが、それらは現在の企業のリーダーへの情報提供に利用される。記録は競争上の優位性を後押しし、企業の発展と製品開発を支援し、刺激を与える。記録はまたマーケティングと意思決定、法律上の保護、ブランド保護のための証拠を提供する助けとなる。

〔文化的資産〕
社会的にも文化的にも、企業は包括的である。企業はすべての市民(従業員であろうと消費者であろうと)の生活に触れていることから、国民経済、地方経済の活力となり、それらに資金を供給する。企業の成功と失敗はコミュニティ、そして必然的にコミュニティの住人を経済的物理的に特徴づける。企業の遺産が忘却されないこと、移ろいやすい人の記憶の中にだけ残されるのでないこと、それは社会のまとまりと文化的アイデンティティにとって決定的に重要である。

〔戦略〕
この5か年戦略は四つのゴールを定めた。

1.企業の中でのアーカイブズの価値に関する関心を高め、アドバイスとサポートを提供する。

2.閲覧可能なコレクションの数を増やす。

3.一般の人々にとってのビジネス・アーカイブズの注目度を高める

4.記録の扱いに関する標準を向上させる

スコットランドのアーカイブズ・コミュニティは、スコットランド国立公文書館、スコットランド・ビジネス・アーカイブズ・カウンシル、そしてグラスゴー大学の長年にわたる努力のおかげで、確固たる地位を築いている。スコットランドは安定した企業アーカイブズ・セクターを持ち、企業の富とそれに関連する記録は、公文書館、博物館、大学、図書館、そして地域で保存されてきた。多くの企業は自分たちの記録を保持しており、調査によって確認された後はスコットランド・ナショナル・レジスター・オブ・アーカイブズを通じて一般に閲覧可能である。しかしながら、スコットランドは自己満足に甘んじてはいられない。とりわけ最近の経済的な先行き不安と、変化しつづけるデジタル記録環境においてはなおさらである。

〔行動〕
この戦略は、スコットランドにおけるビジネス・アーカイブズの状況を下支えし、前進させ、そしてさらによりよいものとするために、行動を必要とする3つの分野を特定する。

1.企業、アーキビスト、その他ビジネス・アーカイブズの管理と利用に責任を持つ専門家の間に、効果的なネットワークと連携を築く。

2.ビジネス・アーカイブズのコレクションの価値、またその商業上証拠上の継続的な価値に関する関心を高め、可能な場合はこれらコレクションの公開を促進する。

3.リーダーシップ、教育、専門的な訓練の強化を通じて、ビジネス・アーキビストと企業史料コレクションの可能性を広げてその地位を高める。

[関連ページ]

ブログ:ビジネス・アーカイブズ・スコットランド
Blog: Business Archives Scotland
http://businessarchivesscotland.blogspot.com/

スコットランド国立公文書館
http://www.nas.gov.uk/guides/wills.asp

スコットランド・ビジネス・アーカイブズ・カウンシル
http://www.gla.ac.uk/services/archives/bacs/

スコットランド・アーカイブズ協議会
http://www.scoarch.org.uk/home

バラスト・トラスト・ブログページ
http://theballasttrust.blogspot.com/

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■文献情報:ビジネス・アーカイブズ・プロモーション・リーフレット

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◎英国国立公文書館
「あなたの会社の最大の資産はその歴史かもしれません:ビジネス・アーカイブズへのあなたのガイド」
Your company's biggest asset could be its history: Your guide to Business Archives

http://www.managingbusinessarchives.co.uk/materials/business_archives_leafletpdf.pdf

英国国立公文書館は企業史料の保存と活用振興のために新しいリーフレットを作成し、「マネージング・ビジネス・アーカイブズ・オンライン」に掲載しました。
http://www.managingbusinessarchives.co.uk/news/new_business_archives_leaflet

新リーフレットのタイトルは「あなたの会社の最大の資産はその歴史かもしれません:ビジネス・アーカイブズへのあなたのガイド(Your company's biggestasset could be its history)」です。リーフレットの内容は、

★アーカイブズはあなたのビジネスにどのように役立つのか?
  How could an archive benefit my business?

★国立公文書館はあなたのアーカイブズ立ち上げのためにどんなお手伝いができるのか?
  How can The National Archives help me create an archive?

★より詳しいことを知りたい場合の連絡先とウェブ上の情報資源
  Find out more...

といった記事で構成されており、ビジネス・アーカイブズは商品やサービスの開発、社員教育などに活用できると述べています。また、もし自社で保管する余裕がない場合は、(英国の場合)地域の公文書館に寄贈・寄託するという選択肢があることにも言及しています。

ビジュアルなアーカイブズ資料を用いた親しみやすいリーフレットに仕上がっています。アーカイブズの認知度の向上や利用増大のためには、このような親しみやすいツールの開発も必要だと思われます。

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■文献情報:SAA「アーキビストに関わる基本的価値」(案)への意見募集

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◎「アーキビストに関わる基本的価値」声明案
Draft of "Core Values of Archivists" statement

アメリカ・アーキビスト協会のカウンシル(運営委員会)では「アーキビストの基本的価値」(案)に対する会員からの意見を募っています。締め切りは10月15日です。

http://www2.archivists.org/news/2010/comment-on-draft-values

【「アーキビストに関わる基本的価値」声明案作成の経緯】

「アーキビストの基本的価値」声明案をご紹介する前に、これがどのような経緯で生まれたのかをご紹介します。2010年2月2日〜4日に開催されたカウンシル会議の議事録によると、「アーキビストは、自らの専門職としてのアイデンティティと責任を定義するという課題と長い間格闘してきた」のであり、SAAは米国におけるアーキビストの代表的専門家協会として、実務に関する標準策定、専門書の販売促進・出資、年次大会の開催、教育機会の提供、技術的な標準や資格認定制度の開発、倫理規定の公表などに携わってきたと述べています。そして、2008年8月の年次大会で、マーク・グリーン会長(当時)は、会長演説の中で他の専門職団体が自分たちの専門職のアイデンティティ、専門職の価値を自ら定義しているように、アーキビストに関わる基本的価値に関する声明を採択することをSAAに要求したのでした。グリーン会長は「専門的技術・プロ意識 Professionalism」「集合性 Collectivity」「積極的な行動 Activism」「選別 Selection」「保存 Preservation」「民主主義 Democracy」「サービス Service」「多様性 Diversity」「利用とアクセス Use and Access」「歴史 History」という10の価値をアーキビストの基本的価値として上げています。同演説については当センター(公益財団法人渋沢栄一記念財団 実業史研究情報センター)の「センターだより」(『青淵』2008年11月号)で概略をご紹介しております。
http://www.shibusawa.or.jp/center/newsletter/716.html

このグリーン会長の提案を受けて、2008年8月25日にカウンシルは、アーキビストのための「価値声明 Values Statement」作成の実行可能性を検討するタスクフォースを設置しました。2009年2月、当時のゴッドリーブ会長はタスクフォースの提案を容れて、「声明」を実際に作成するためのメンバー5人による新たなタスクフォース設置を決定、同年7月にメンバーが任命されています。

この5人のメンバーによるタスクフォースは、グリーン元会長の10の価値を吟味するとともに、他団体における同様の文書を検討したということです。「価値声明 Values Statement」に類似した文書を持つ団体には次のようなものがあります。

アメリカ図書館協会 American Library Association
アメリカ図書館協会貴重書・手稿部会 Rare Book and Manuscripts Section of ALA
アメリカ歴史協会 American Historical Association
ARMA
全国政府アーカイブズ記録管理者協会 NAGARA
州文書館協議会 Council of State Archives
アメリカ博物館協会 American Association of Museums
アメリカ人類学者協会 Society of American Anthoropologists
専門図書館協会 Special Library Association
アメリカ美術館学芸員協会 American Association of Art Museum Curators
American Institute for the Conservation of Art and Historical Artifacts アメリカ美術・歴史工芸品保存協会
The National Film and Sound Archives of Australia オーストラリア国立フィルム・音声アーカイブズ

5人のメンバーによるタスクフォースは、グリーン元会長の提案、他団体における同様の文書の検討作業を行いSAAとしての声明案を作成、今年の5月にカウンシルのメンバー12名に対して意見募集を行っています。カウンシル・メンバーからの意見を取り込んだ声明案が8月9日に発表され、現在ウェブ上でSAA会員からの意見の募集を行っている段階です。

現在意見を募っている声明案の概略は下の通りです。

【「アーキビストに関わる基本的価値」声明案]】

〈目的〉Purpose

アーキビストは、法的・行政的証拠のために、あるいは社会の文化遺産の一部として、組織、コミュニティ、個人の活動を記録する1次資料を評価選別、保存、提供するという必要不可欠な機能に関与する。現代のアーカイブズ専門職は、その理論的基礎と機能を、一組の基本的価値に置く。この基本的価値はアーキビストの実務と活動(個人的なものと集団的なもの両方)を定義し、その指針となるものである。価値というものはある専門職が意味するものを具体的に表し、専門職メンバーの行動の基礎を形づくるはずである。

アーキビストは以下の業務に従事する。社会の文化的遺産の最も重要な部分を特定し、保存する。組織、グループ、個人の記録を組織化して維持する。真正かつ信頼できる一次資料を通じて、過去を記憶する作業を支援する。重要な証拠と情報を発見して利用しようとする広範な人々に奉仕する。古代より、アーカイブズはアーカイブズを支配する者に根本的な力を提供してきた。民主主義の社会では、そのような力はそのコミュニティの全構成員に利益をもたらすはずである。アーキビストによって共有され、支持される価値は、これらの義務を果たすこと、社会の全集団、全個人の利益になるよう重要なサービスを提供することを可能にする。

アーカイブズの基本的価値に関わる声明は、アーキビストが自らの専門職上の責務になぜ従事するのかをアーキビスト自身に思い起こさせ、アーキビスト以外の人々に対しては、アーキビストの社会への貢献の根拠を明確化する中心原理を明らかにするものである。アーキビストが持つ基本的価値に関わるこの声明は、アーキビストがしばしば相対立する主張や要請にさらされ、ある状況においては価値同士が相互に対立するかもしれないことを認める。この声明は、アーキビストが意思決定したり選択する場合の導きとなる基本的な価値を特定することによって、アーキビストとアーカイブズに関わる人々のために指針を提供するだろう。基本的価値は倫理的な問題を分析する文脈の一部を提供する。

〈アーキビストの基本的価値〉Core values of arhcivists

★アクセスと利用 Access and use
記録を保存することの第1の目的は、そのアーカイブズ記録から恩恵を受けうる人によって記録が利用されることであるのをアーキビストは認める。アーキビストは、法律や、寄贈者との合意、あるいは企業の意向によって課せられた強制的なアクセス制限への抵触を避けつつ、可能な限り資料の公開を促進する。また、正当な権利、法律・安全保障上・知財・文化的規範・プライバシーへの配慮といった利害関係を保護するための公開制限もあり得るが、アーキビストはこれらの懸念事項と両立するよう、可能な限りの資料の公開を促進する。

★説明責任 Accountability
組織の機能、活動、意思決定を記録することによって、アーキビストは説明責任を保証する重要手段を提供する。そのような説明責任と透明性は民主主義に必要不可欠な特徴である。公共部門のリーダーは歴史の審判、将来の世代に対するとともに、現在の市民に対しても説明責任がある。公務員と公的機関に関する資料公開は説明責任に不可欠な部分である。民間部門におけるアーカイブズ記録を通じた説明責任もまた、消費者、株主、市民の権利と利益を保護する。収集アーカイブズで働くアーキビストは、組織内アーキビストと同レベルの説明責任への義務を持たないかもしれないが、彼らもまた個人、グループ、組織の行動の証拠を保持するものである。こういった証拠は、現代および将来の利益の判断に対して、説明責任を提供するよう要請されることもあり得る。

★理解増進のための活動 Advocacy
アーキビストは歴史的な記録の利用と理解を促進する。アーキビストは所属機関のアーカイブズ・プログラムや組織のニーズのために、理解増進を促す活動に奉仕する。また所属組織に対する責任と両立する限りにおいては政治的な場も含むさまざまな状況において、アーカイブズに関連する問題や価値に関する理解増進のための活動にも従事する。アーキビストはアーカイブズと記録管理に関わる公共政策形成の議論に加わり、自分たちの専門知識が公益のために利用されるのを保証するよう支援する可能性がある。

★多様性 Diversity
特定のアーカイブズ機関は限定された数の顧客・支持者にサービスを提供しているかもしれないが、アーキビストは社会に存在するできうる限り幅広い個人、社会経済上のグループ、統治体、企業体の記録を集団として記録し保存するよう努力する。アーキビストは、これまで見過ごされてきたり、周縁に追いやられてきた声を記録する資料を丹念に特定(場合によっては作成)することの重要性を受け入れる。アーキビストはこれまであまり記録されてこなかったコミュニティとのつながりを築くよう努力する。そのようなつながりは、それらのコミュニティの活動に関する原資料の収集と保存、コミュニィティ・メンバーによるアーカイブズ資料の利用奨励を支援し、これらのグループが自分たちのコミュニティ・アーカイブズを立ち上げることの助けとなる。アーキビストは、専門職内においてメンバーの多様性を確保し、これまで代表を送って来なかったグループの成員を専門職メンバーに迎え入れるよう、積極的に働きかける。

★歴史と記憶 History and memory
アーキビストは、一次資料が人々が過去の出来事を理解することや祖先について語ることを可能にし、それによって人間のありようへの洞察を得ることができるのを認める。文書は、人間の記憶(個人的にも集団的にも)のための代用品を提供し、適切に保存されるならば、個人的あるいは社会的な記憶が試される場において、真正かつ信頼できる証拠として用いられる。アーキビストはそのような一次資料を、過去をよりよく把握し、現在を理解し、将来に備えるために、保存する。歴史を理解するには知識と文脈の判断が求められる。文脈とは、一次資料を組織化して解釈するというアーカイブズの理論と実務における中心的な原理(出所原則)である。

★保存 Preservation
アーキビストは将来の世代が過去を知り、これら重要な法律、証拠、文化的資源を利用するために、幅広い種類の一次資料を保存する。資料を保存することは、それ自体が目的なのではなく、目的に到達するための手段である。所定の法律と実務の標準の範囲内で、アーキビストは原資料が残されるべきなのか、あるいは資料に含まれる情報や資料の象徴的な価値で十分なのか決定できる。つまりアーキビストは将来の利益のために資料を保存するのであり、過去に関する関心から保存するのではない。

★専門的技術・プロ意識 Professionalism
ひとつの重要な専門職のメンバーとして、アーキビストは共通の使命に従い、進化しつづける知的理論的基盤を受け入れ、専門的な標準を開発してそれに従い、日々の実務をすぐれたものにするために努力し、生涯を通じた学習を含む専門教育の重要性を認識する。アーキビストは同僚が専門的に成長することを励まし、アーカイブズ専門職に足を踏み入れたばかりの若手のヤル気を育て、積極的に知識と専門技能を共有する。アーキビストは、他の情報専門職と、そしてアーカイブズ資料の利用者ならびに潜在的利用者と、協力する機会を拡大するよう努力する。

★信頼できる保管 Responsible Custody
アーキビストは、自分たちに託された文書と記録が適切に保管されることを確実にすべきことを了解しつつ、自らの業務を遂行する。アーキビストは信頼できる管理人として、所属機関の所蔵資料のために最善の選択を行う。アーキビストは様々なアーカイブズの利害関係者(ステークホルダー)の相対立する利害をバランスさせるよう努力する。アーキビストは、サービスの標準、コレクション構築ポリシー、その他の実績の記録と評価基準において、ベストプラクティス(最善の方法)に準拠して記録を管理する、思慮深い管理人である。記録の保存や活用に必要とあらば、外部の者とも進んで協力する。アーカイブズ管理に関する意思決定は、保存を通じてコレクションに対するリスクを限定することをめざし、もし所蔵機関が解散したり支援を受けられないときは、他に適切な保管者を探す。

★選別 Selection
アーキビストは、広範囲にわたる潜在的利用者のニーズに基づいて、どの資料を保存すべきかの選択を行う。現代社会で作成されるアナログおよびデジタルの形式の膨大な量の文書と記録は、全てを保存するにはコストがかかり過ぎるし、特定の情報・知識をうまく検索するには手に負えない。この膨大な量のために、長期保存に値しそれを必要とするものとそうでないものを分ける必要が生じる。アーカイブズ資料は記録するにのに必要とされる多様な媒体(テキスト、ビジュアル、音声、電子、ボーン・デジタル、その他を含む)から成る。他の利害関係者と協力しつつ、アーキビストは将来の利用のために資料を賢明に選択する必要性を認める。それゆえ、アーキビストは、自分たちを過去の記録を形づくり解釈する積極的な主体としての自らの責任を認め受け容れる。

★サービス Service
アーキビストは数多くの顧客・支持者(constituencies)と利害関係者(stakeholders)に仕える。顧客・支持者、利害関係者には組織運営者、記録資料の作成者や寄贈者、権利保有者、記録対象者(documented peoples)、アーカイブズを独自の目的のため、あるいは企業や政府の利益のために利用する研究者、アーカイブズ原資料に含まれる情報と証拠に関心を持つ市民を含む。所属機関の使命(mandate and mission)の範囲において、誰であろうと利用者が社会、組織、個人のアーカイブズ記録を発見しそこから恩恵を受けるように、アーキビストは一次資料と利用者の間の効果的かつ効率的な橋渡しを行う。アーキビストは利用者のニーズをできるだけ速やかに、効果的に、そして効率的に満たすよう努力する。

★社会的責任 Social responsibility
アーキビストが負う種々の責任の根本にあるのは、社会に存在する様々なグループと公益に対する責任である。最も直接的にはアーキビストは自分たちの雇用者と所属機関の必要性と利益に奉仕する。しかし、アーカイブズ記録は社会の全成員に関する文化遺産の一部である。したがって、組織の使命が潜在的には非常に狭く定義されているにしても、アーキビストは公益に貢献する。アーキビストはアーカイブズ記録の評価選別・保存・公開(アクセス)・利用に関わるポリシーと手続きにおいて、これらの広範な社会的責任を果たそうと努力する。これをなすことによって、アーキビストは社会に対して必要不可欠なサービスを提供するのである。

【SAAアーキビスト倫理規定との関係】

SAAが最初に倫理規定を定めたのは1980年、その後1992年と2005年に改定されています。そしてSAA内の「倫理と専門職の行為に関する委員会」は2006年以来、現行規定(2005年版)の見直しを進めています。それは現行版にはいくつかの欠陥があると指摘されてきたからです。本通信17号でご紹介した米国アーキビスト協会(SAA)会長コメント「倫理を強制すること」http://www.shibusawa.or.jp/center/ba/bn/20090417.htmlにまつわる出来事も、会員の中に現行規定に対する懐疑的な見方を生んでいるようです。この規定改定も2011年夏の年次大会への提出が予定されています。

今年2月のカウンシルに提出された文書によると、「倫理と専門職の行為に関する委員会」は「アーキビストに関わる基本的価値」声明を倫理規定に対する補完的文書と位置付けています。

[関連ページ]

2010年2月2〜4日開催SAAカウンシル会議への報告
http://www.archivists.org/council/Council0210/0210-V-P-ValuesTF.pdf

2010年2月2〜4日開催SAAカウンシル会議議事録
http://www.archivists.org/governance/minutes/min0210.asp

SAAカウンシル会議議題
http://www.archivists.org/governance/agendas/index.asp

SAAカウンシル会議議事録
http://www.archivists.org/governance/minutes/index.asp

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■文献情報:『記録学研究』23号 2010年1月

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◎韓国記録学会『記録学研究』第23号 2010年1月

2000年12月に結成された韓国記録学会は年に4回(1月、4月、7月、10月)学術誌『記録学研究』を発行しています。『記録学研究』誌の最近の号の目次情報と各論文の概要をご紹介します。各論文タイトルは韓国語原題の翻訳、概要は同誌に掲載されている韓国語と英語の要約を参考に編集部がまとめたものです。

韓国記録学会『記録学研究』第23号 2010年1月
ISSN: 1229-7941

[論文]

◆タイトル:記録検索ツールの発展と展望
著者:ソル・ムノン
所属等:釜山大学校文献情報学科助教授
[概要]
ファインディング・エイド(finding aids)はアーカイブズと記録を探し出し、理解することを容易にするツールである。伝統的には二つのタイプのファインディング・エイドが存在する。垂直的なものと水平的なものである。一覧表(inventories)といった垂直的なファインディング・エイドは出所原則に基づいたマルチレベル記述であるのに対して、目録や索引といった水平的なファインディング・エイドは主題に基づいたものであり、垂直的なファインディング・エイドをガイドするツールである。ウェブ環境においては、伝統的なファインディング・エイドはよりダイナミックな形態に進化しつつある。出所と原秩序の原則を尊重しながら、垂直的なファインディング・エイドは各構成要素を記述するための標準としてのISAD(G)、ISAAR(CPF)、ISDFの開発とともに、複数の構成要素の構造へと変化を遂げつつある。しかしながら、垂直的ファインディング・エイドは多くの利用者にとっては難解、複雑、退屈でありすぎる場合がある。彼らはインターネットの世界における簡単でわくわくするような検索ツールに慣れてしまっているのである。そのような欠点を補完するために、新しいタイプのファインディング・エイドは、簡単で、面白く、そして広範囲に及ぶアクセス経路を提供するものであるとみることができる。

この研究では垂直的なファインディング・エイドの発展と限界、垂直的なファインディング・エイドを補完する、進化しつつあるファインディング・エイドの新しい潮流を調査する。本研究ではファインディング・エイド開発の3つの新しい潮流を見出した。すなわち「複合化」「統合化」「開放化」である。複合化とは主題解説と検索ツールを連携させたもの、統合化とは機関横断的な統合検索、開放化とはウェブ2.0的アプリケーションを用いた利用者参加型のファインディング・エイドの開発を指す。これらの新しいタイプのファインディング・エイドはいくつかの問題をもたらす。たとえば脱文脈化された記述と偏見、とりわけ複合化されたファインディング・エイドや、利用者が作成に関わった注釈・コメントの品質管理における問題がそれにあたる。これらの問題を解決するため、本研究では垂直的なファインディング・エイドの基盤を持続的に強化し、それらをさまざまな新しいものと結びつけ、ファインディング・エイドの利用者との相互交流を促進することを提案する。

◆タイトル:記録物の保存価値の評価改善方案に関する研究:陸軍特殊記録館事例を中心に
著者1:チョン・クォンジュ
所属等1:陸軍15師団副官参謀(人事・行政ならびに記録管理業務総括)、少領[編注:軍隊の一階級で中領の下、大尉の上に位置する]
著者2:キム・ヒョミン
所属等2:第3軍需支援司令部人事将校(人事ならびに記録管理業務担当)、陸軍大尉
[概要]
本研究はアーカイブズ価値のための評価選別に関して、客観的かつ効果的な最適化計画を提起する。これまでの研究は専ら評価選別に関する理論的分析を検討することに集中し、実務上の方法が明らかでないままであった。本研究では評価選別を3つのレベルに分ける。まず記録作成者に対する問い合わせ。次にアーキビストによる評価選別、そして最後に評価選別専門家による評価選別である。評価選別に関する最適化計画は、アーカイブズ保存機関における再評価(reappraisal)の活性化に影響を与えるだろう。

◆タイトル:記録情報コンテンツの品質向上方案研究:韓国、英国、日本の事例の比較を中心に
著者:ヤン・インホ
所属等:株式会社クルメイト 記録情報チーム代理(ハンナム大学校記録管理学科修士卒業)
[概要]
現代社会の記録管理業務は、保存を重要視した過去とは異なり、記録の活用を重視する新しいパラダイムに変化した。記録物が効果的に利用されるようにするためには、記録の価値を強調し、利用者が簡単にアクセスできるように誘導しなくてはならない。このような時代の要請に従い、注目を浴び始めたのがいわゆる「コンテンツ」である。

英国国立公文書館は、所蔵する多様な記録物にデジタル技術を活用し、マルチメディアを利用したコンテンツを製作・提供しており、日本のアジア歴史資料センターは利用者の要求を反映したアーカイブズ情報コンテンツを製作し、継続的な更新を行うことによってコンテンツが常に新しいものであることに傾注している。

最近国家記録院においても記録の活用を中心とする記録管理へのパラダイム転換に従い、デジタル・アーカイブズへの参入を推進し、その中に搭載されるコンテンツ開発に拍車がかかっている。しかし多くのコンテンツを保有し、サービスすることも重要ではあるが、コンテンツ自体の高い品質水準を維持してこそ、利用者から良い反応を引き出すことができ、長期的にはさらに高水準の記録情報を提供することができよう。

したがって、本研究ではそれぞれ異なった特徴を持つ英国国立公文書館とアジア歴史資料センターの事例とともに、国家記録院が提供しているコンテンツの類型と特徴を分析し、各機関ではどのようにコンテンツを活用しているのか多様な方法を見てみる。

またアーカイブという機関ではどのような主題をコンテンツ化して利用者に提供しているのかに対する類型の把握とともに、利用者からのフィードバック方式を比較分析して、コンテンツの品質を評価した。このような方法により、記録管理機関がコンテンツ構築時に考慮すべき事項を導き出して示唆的な事項を提示した。

◆タイトル:労働庁記録の再組織に関する研究:国家記録院所蔵記録を中心に
著者:クァック・ゴンホン
所属等:ハンナム大学校大学院 記録管理学科教授
[概要]
労働庁は労働政策形成や関連法制の実施といった技術的・実務的機能に責任を負っていた。しかし、労働政策の形成過程を知る助けとなる記録で国家記録院に移管されたものはわずかである。これは、韓国での断絶と不均衡、そして行政記録の無秩序なファイリングを示す典型的な例である。当然のこととして、記録のファイル名から適切な内容を引き出すことはほとんど不可能である。利用者は記録とその内容をいちいち対照しなくてはならず、たいへんやっかいである。

労働庁記録の再組織化のために、この研究は行政機能に関する4段階分析を提起する。労働庁の残存記録は各レベルの機能にリンクすることができるだろう。また利用者に記録に関するより多くの情報を提供する「記録物概要目録」は、記録への容易なアクセスに道を開くだろう。さらに、この研究は私たちが秩序や順序を見出すことのできない残存記録の論理的な再ファイリングも提起する。残存記録に関するこの再組織化は労働記録に関する収集・評価選別ポリシーの確立、またそれに続く記述と検索ツールに関する新たな方法の確立に寄与するだろう。

「労働史マップ」の作成は労働記録の収集戦略の出発点である。それはまた利用者が残存記録への体系的なアクセスを行うことを可能にするだろう。もちろん、残存記録に対する広範な調査はマップ作成の前提である。経済社会分野を主管する省庁、捜査機関、そして国会を含む他省庁の残存記録に対する調査も必要だろう。また、労働史における重要事件や活動を主題別、時期別に整理する作業が要求される。これを基礎として残存記録とリンクさせることが可能なら、労働記録収集とオーラル・ヒストリーの実現等に大きな助けとなるだろう。

◆タイトル:情報公開に対応する公務員の業務情報提供行動研究
著者1:イム・ジニ
所属等1:社団法人韓国国家記録院 学術研究処長
著者2:イ・ジュンギ
所属等2:交信著者(corresponding author)、延世大学校情報大学院正教授
[概要]
本研究の目的は情報公開に対応して、公共機関の業務担当者が業務情報を提供する手順を定義し、各手順に影響を与える要因を分析し、公共機関の情報提供モデルを導き出そうとするものである。特に、機関の情報管理システムと管理基準、業務情報化とデジタル・インタフェイス、情報提供中継者の役割と提供者の特性が与える影響を探っている。全部で21名の公共機関業務担当者に深くインタビューして、情報提供過程での感想、経験、認識等を分析した結果、1)情報提供手順を定義、2)全部で55個の概念と18個の範疇、6個の上位範疇を導き出し、3)影響要因モデルを研究結果として導き出している。また、機関業務情報の記録化レベルならびに形態に従い、提供様相が異なって出てくることを論議している。この研究は情報公開制度の背景において、公務員の情報提供行動を取り扱う質的研究という点で理論的意義があり、機関の情報公開制度施行と情報管理ならびに情報システム構築に示唆する事項を提供している点においては実務的貢献をなしている。

◆タイトル:永久平和のための超国家主義的な歴史としての転換期アーカイブズとアーキビストの役割:欧州連合アーカイブズ設立過程とヨーロッパ次元の過去史清算のためのドイツのアーキビストたちの役割を中心に
著者:ノ・ミョンファン
所属等:韓国外国語大学校人文大学史学科/大学院情報・記録管理学科教授
[概要]
本稿の目的は二つである。一つは欧州連合(EU)の公式アーカイブズの発展を検討することによってヨーロッパの共通の過去に取り組むこと。もう一つはドイツのアーキビストの活動に特別な注意を払うことである。

EUアーカイブズは1951年のヨーロッパ石炭鉄鋼共同体設立時以来の、ヨーロッパ統合に関する共通の歴史を公的に記録した全文書を所蔵している。しかしながら、ヨーロッパ共同体(EC)のアーカイブズが一般の利用のために体系化され始めたのは、これらの文書の作成から30年も経った1980年代初頭であった。その時イタリア・フィレンツェにある欧州大学機関が、そのアーカイブズの保管場所として選ばれたのであった。1993年にマーストリヒト条約が発効した後、ECアーカイブズはEUアーカイブズに名称を改めた。EU加盟国の国立アーカイブズとこのECアーカイブズの協力を通じて、保管に関する共通の規範が生み出された。EUのあらゆる側面と今日のEUの政策史に関する真面目な研究にとって、それゆえ共通のヨーロッパ・アイデンティティの形成にとって、このアーカイブズは正真正銘の宝の山である。

アーカイブズの証拠を用いた脱ナチプロセスは、新生ドイツのヨーロッパへの適応に貢献した。ドイツのアーカイブズは第二次世界大戦後以来、過去を正すのにかなりの程度貢献してきた。

もっと最近では、2000年にドイツで「記憶、責任、そして未来」財団が設立されたことによって、特にナチ体制下でのかつての強制労働についての証拠を提供するという目的のために、東ヨーロッパ諸国のアーカイブズとの協力が可能になった。それゆえアーカイブズ間のヨーロッパ規模でのネットワークが形成されてきている。これらの展開がヨーロッパの過去をさらに共通なものに正してきたのであり、この過程は逆にヨーロッパ人の精神とアイデンティティを強化するのに貢献してきた。

◆タイトル:米国の秘密記録管理システムに対する歴史的理解
著者:イ・ギョンネ
所属等:中央大学校大学院歴史学科博士修了
[概要]
米国政府は政府記録を機密指定して管理してきた長い歴史を持つ。独立に先立つ植民地時代、機密記録の保持とアクセス制限は特定の法律的権威を持たず、長期にわたり慣習に従ってきた。米国憲法の制定以来、政府は憲法の権限を根拠に機密記録の保持を行ってきた。しかし米国政府が機密記録管理システムの形成に本格的に取り組み始めたのは、米国が第一次世界大戦に参加した時である。この戦争では脅威的に増大した重要な軍事的外交的文書を現実に管理する必要性を反映したシステムが求められた。第二次世界大戦は、米国政府の機密記録管理システムを増強し、その時の機密記録管理システムに関する考え方は今日まで引き継がれている。

現行の米国の機密記録管理システムは、相変わらず憲法の権威と行政命令によって管理されている。この論文は米国史最初期から冷戦に至る間の米国の機密記録管理システムを再検討することを意図している。機密管理システムを理解するために、本稿は時期を3つに区切り、米国機密記録管理史を調査する。3つの時期とは、伝統が確立した時期(植民地時代から第一次世界大戦直前まで)、そのシステムが形を整えた時期(第一次世界大戦から第二次世界大戦)、そしてそのシステムに関して現在と同様に理解されてきた時期である。これらの区分の基準は、機密記録に関連する法律と、機密管理システムの申請方法の違いに基づいて作成された。

[書評]

[1]
編著者:国史編纂委員会
タイトル:記録と遺物で見たわたしたちの音楽の歴史
刊行年:2009
評者:マ・ウォンジュン
評者所属等:韓国国家記録院記録研究士

[2]
著者:斉藤孝
訳者1:チェ・ソットゥ
訳者2:ハン・サンギル
タイトル:オントロジ アルゴリズム I
刊行年:2008
評者:イ・ミヨン
評者所属等:明知大学校記録情報科学専門大学院博士課程修了。人文学博物館研究員・司書
[編注:日本語原書のタイトルは「『記録・情報・知識』の世界:オントロジ・アルゴリズムの研究」。出版者:中央大学出版部。出版年:2004年。]

[関連ページ]
韓国記録管理学会サイト(韓国語)
http://www.ksas1.org/

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[略称一覧]
ACA: Association of Canadian Archivists(カナダ・アーキビスト協会)
ARA: Archives and Records Association(アーカイブズとレコード協会)
ARC: ARC magazine: archives - records management - conservation
(SoAが発行する月刊ニュースレター)
ASA: Australian Society of Archivists(オーストラリア・アーキビスト協会)
BAC: Business Archives Council(ビジネス・アーカイブズ・カウンシル)
BACS: Business Archives Council in Scotland
(スコットランド・ビジネス・アーカイブズ・カウンシル)
CITRA: International Conference of the Round Table on Archives
(アーカイブズに関する国際円卓会議:ICAの年次会議)
CoSA:Council of State Archivists(米国・州文書館長評議会)
DCC: Digital Curation Center(英国デジタル・キュレーション・センター)
EDRMS:Electronic Document and Record Management System
(電子文書記録管理システム)
ERM:Electronic Record Management(電子記録管理)
ICA: International Council on Archives(国際文書館評議会)
LSE: London School of Economics and Political Science
(ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス)
MLA: Museums, Libraries and Archives Council
(英国 博物館、図書館、アーカイブズ評議会)
NAGARA: National Association of Government Archives and Records
Administrators
(米国・全国政府アーカイブズ記録管理者協会)
NARA: National Archives and Records Administration
(米国 国立公文書館記録管理庁)
RIKAR: Research Institute of Korean Archives and Records
(韓国国家記録研究院)
RMS:Record Management System(記録管理システム)
SAA: Society of American Archivists(米国アーキビスト協会)
SBL: Section for Business and Labour Archives
(企業労働アーカイブズ部会、ICA内の部会)
SoA: Society of Archivists(イギリス・アーキビスト協会)
TNA: The National Archives(英国国立公文書館)

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☆★ 編集部より:あとがき、次号予告 ★☆

今号はSAAで現在改定中の倫理規定を補完する文書「アーキビストに関わる基本的価値」(案)をご紹介しました。日本では、日本図書館協会が「図書館員の倫理綱領」を1980年6月4日の総会で決議しています。博物館、アーカイブズには全国的な倫理規定がまだ存在しません。国際団体である国際博物館会議(ICOM)は「ICOM博物館のための倫理規定」を1986年に定め、その後何度か改定されて今日に至っています。日本でこれを周知している館園の割合は3.1%ということですが(『日本の博物館総合調査研究報告書』2009)、最近博物館界ではこの倫理規定の制定への関心が高まっているようです(例えば「特集:博物館職員のための行動規範」『博物館研究』2010年9月)。アーカイブズはというと、国際アーカイブズ評議会(ICA)は1996年9月6日の総会(北京)で初めてアーキビストのための「倫理規定」を決議しています。日本におけるアーキビストとアーカイブズのための「倫理規定」に関する議論はこれからどのように発展していくのでしょうか。また、企業倫理、企業におけるアーキビストの行動規範といった議論の行方にも注目したいと思います。

次号は『ビジネス・アーカイブズ 理念と実践』100号他のご紹介を予定しております。2010年10月下旬配信予定です。どうぞお楽しみに。

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◆◇◆〈渋沢栄一記念財団からのお知らせ〉◆◇◆

□「企業史料ディレクトリ」:企業アーカイブズと企業史料の所在・概要ガイド

2008年7月22日公開いたしました。日本を代表する企業を中心とした企業アーカイブズと史料保存・学術研究機関合わせて30企業・団体・機関の概要、所蔵資料に関する情報を掲載しております。ぜひご覧ください。
http://www.shibusawa.or.jp/center/dir/index.html

□実業史研究情報センター・ブログ「情報の扉の、そのまた向こう」

「今日の栄一」「渡米実業団」「栄一情報」「栄一関連文献」「センターニュース」「今日の社史年表」「社史紹介(速報版)」「ビジネス・アーカイブズ通信(速報版)」「アーカイブズニュース」「図書館ニュース」をお届けしております。
http://d.hatena.ne.jp/tobira/

「アーカイブズニュース」では公文書等の管理に関する法律に関する動向やアーカイブズのデジタル化、資料の発見・公開に関わるニュースを随時ご紹介しております。

ブログ画面右側の「カテゴリー」にある「アーカイブズニュース」をクリックしてください。「アーカイブズニュース」として掲載した記事をまとめて一覧することができます。

・カテゴリーの紹介
http://d.hatena.ne.jp/tobira/20080203

実業史研究情報センター・ブログ「情報の扉の、そのまた向こう」はほぼ毎日更新しております。どうぞご利用ください。

□「渋沢栄一関連会社社名変遷図」

渋沢栄一がどのような会社に関わったか、それが今にどうつながっているのか、一目でわかるように業種別にまとめて変遷図にしました。現在101図掲載中です。社名索引もありますので、どうぞご覧ください。
http://www.shibusawa.or.jp/eiichi/companyname/index.html

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★渋沢栄一記念財団は2010年9月1日に「公益財団法人」になりました★

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ビジネス・アーカイブズ通信(BA通信) No.33
2010年9月29日発行 (不定期発行)
【創刊日】2008年2月15日
【発行者】公益財団法人 渋沢栄一記念財団実業史研究情報センター
【編集者】公益財団法人 渋沢栄一記念財団実業史研究情報センター
      「ビジネス・アーカイブズ通信」編集部
【発行地】日本/東京都/北区
【ISSN】1884-2666
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