ビジネス・アーカイブズ通信(BA通信)

第103号(2024年12月26日発行)

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☆      □■□ ビジネス・アーカイブズ通信 □■□

☆      No.103(2024年12月26日発行)

☆    発行:公益財団法人 渋沢栄一記念財団 情報資源センター

☆                        〔ISSN:1884-2666〕
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この通信では海外(主として英語圏)のビジネス・アーカイブズ(BA)に関する情報をお届けします。

海外BAに関わる国内関連情報も適宜掲載しております。

今号は行事情報4件です。

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◆ 目次 ◆

[掲載事項の凡例とご注意]

■行事情報:ICA/SBA、ポーランド開発銀行、コズミンスキー大学主催ビジネス・アーカイブズ国際シンポジウム
テーマ:「ビジネス・アーカイブズと回復力(レジリエンス)」
     2024年9月22-24日
     コズミンスキー大学(ポーランド・ワルシャワ)

■行事情報:企業史料協議会 第13回 ビジネスアーカイブズの日シンポジウム
テーマ:「AI・デジタル技術の進歩と企業アーカイブズ」
     2024年11月5日
     連合会館(東京都千代田区)

■行事情報:ビジネス・アーカイブズ・カウンシル、スコットランド・ビジネス・アーカイブズ・カウンシル共催シンポジウム
テーマ:「リキッド・ゴールド」
     2024年11月7日
     マッカラン(イギリス・グラスゴー)

■行事情報:EASTICA(国際アーカイブズ評議会東アジア支部)セミナー
テーマ:「アーカイブズの新たな時代へ:課題と可能性」
     2024年11月12日
     KKRホテル竹橋(東京都千代田区)

☆★ 編集部より:あとがき、次号予告 ★☆
フォード・モーター・アーカイブズ、eabh、フォートナム・アンド・メイソン


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[掲載事項の凡例]

・欧文の場合、日本語で読みやすいものになるように、タイトルははじめに日本語訳を、続いて原文を記します。
・人名や固有名詞の発音が不明の場合も日本語表記を添えました。便宜的なものですので、検索等を行う場合はかならず原文を用いてください。
・普通名詞として資料室や文書室、物理的な記録資料を表現する際は「アーカイブズ」を用います。固有名詞の場合はこの限りではありません。また物理的およびデジタル記録資料の蓄積や組織化に関しては「アーカイブ」「アーカイブ化」「アーカイビング」などの表現を用いることもあります。

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[ご注意]
・受信時にリンク先を示すURLが途中で改行されてしまう場合があります。通常のURLクリックで表示されない場合にはお手数ですがコピー&ペーストで一行にしたものをブラウザのアドレス・バーに挿入し、リンク先をご覧ください。


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■行事情報:ICA/SBA、ポーランド開発銀行、コズミンスキー大学主催
ビジネス・アーカイブズ国際シンポジウム
テーマ:「ビジネス・アーカイブズと回復力(レジリエンス)」
     2024年9月22-24日
     コズミンスキー大学(ポーランド・ワルシャワ)

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◎ICA/SBA、ポーランド開発銀行(BGK)、コズミンスキー大学主催
ビジネス・アーカイブズ国際シンポジウム
「ビジネス・アーカイブズと回復力(レジリエンス)」
Business Archives & Resilience
https://archivistconference2024.com/

2024年9月22日(日)から24日(火)、ポーランド・ワルシャワにあるコズミンスキー大学や近隣の博物館を会場に、2024年度のICA/SBAシンポジウムと関連行事が開催されました。今号では2日目のプレゼンテーションと3日のワークショップに関して報告します。

【2日目】

09:00-09:30
■開会挨拶

(1) アレクサンダー・ルーカス・ビエリ Alexander Lukas Bieri
ロシュ社歴史コレクション&アーカイブ キュレーター、ICA/SBA部会長
Curator, The Roche Historical Collection and Archive and ICA SBA Chair

[概要]
 10年前、国際アーカイブ評議会(ICA)ビジネス・アーカイブズ部会(SBA)部会長に就任し、東欧諸国での活動強化を目指してきた。この背景には、国有化された企業アーカイブズへのアクセスの困難さがあり、東欧の企業がブランドの歴史をどのように活用しているのか疑問に思っていたということがある。英国、日本の運営委員とも相談し、2023年9月のスコットランド・エジンバラでの会合でワルシャワでの開催を決めた。ビジネス・アーカイブズは他のアーカイブズとは異なり、多国籍な構造を持っている。ICA/SBAは、多国籍企業間の協力やベストプラクティスの共有を促進する唯一の組織。

[登壇者]
 アレクサンダー・ルーカス・ビエリ(1976年生)は、1994年にロシュ・グループ・ホールディングスでの勤務を開始。2000年には、ロシュ歴史コレクション&アーカイブのキュレーターに任命され、ロシュの建築遺産の管理も担当している。
 2014年以降、科学、歴史、美術史などのテーマに関する書籍を制作する社内出版部門「エディチオネス・ロシュ」Editiones Rocheの責任者も務めている。また、ロシュ社内の複数の博物館のキュレーションを手掛け、スイス国内外での展示会を企画している。20世紀のインテリアデザインの専門家として、ICOMOS(国際記念物遺跡会議)スイス支部のメンバーでもある。
 現在、国際アーカイブズ評議会(ICA)のビジネス・アーカイブズ部会(SBA)会長、ドイツ・ビジネス・アーキビスト協会(VdW)の理事、ならびにVdWの化学・製薬業界アーカイブズ作業部会の部会長を務めている。

[関連ページ]
ICA/SBA
https://www.ica.org/ica-network/professional-sections/sba/

VdW
https://www.wirtschaftsarchive.de/

(2) グジェゴシュ・マズレク教授(博士、教授資格取得者)、コズミンスキー大学学長
Prof. dr hab. Grzegorz Mazurek, Kozminski University Rector

[関連ページ]
コズミンスキー大学
https://www.kozminski.edu.pl/en

コズミンスキー大学 起源と歴史
https://www.kozminski.edu.pl/en/about-university/origin

(3) マチェイ・クリシュ、BGK取締役会メンバー
Maciej Kliś, BGK Board Member

09:30-11:00
■セッション 1: 回復力(レジリエンス)と持続可能な開発 (座長: トマシュ・オレイニチャク)
Session 1 Resilience & ustainable development (Chair: Tomasz Olejniczak)

(1) 時間を超える遺産:BGKの100年にわたるレジリエンスの歴史
Time-Proof Legacy: 100 years history of BGK's resilience
ラドスワフ・ミルチャルスキ Radosław Milczarski
BGKの歴史普及の専門家
Expert in promoting the BGK history, BGK - Polish Development Bank
ポーランド、ワルシャワ Warsaw , Poland

[概要]
 銀行アーカイブズの歴史、再建プロジェクト、社会的住宅建設への取り組みを紹介。

[登壇者]
 ポーランド開発銀行(BGK)の歴史を普及する専門家。2023年の「実践型博士課程」プログラムで奨学金を受けコズミンスキー大学博士課程在籍中。博士論文のテーマは長寿組織における歴史資産の戦略的管理。教師向けハンドブック『歴史と人権』の共著者。ルブリンのマリア・スクウォドフスカ=キュリー大学で法学修士号を取得後、ワルシャワ大学で革新的経済政策に関する大学院課程を修了。

[関連ページ]
BGK100周年特設サイト
https://100years.bgk.pl/en/

(2) 戦略からポリシーと手続きへ
From strategy to policies and procedures
ヘニング・モーゲン Henning Morgen
A.P.モラー・グループ、グループ・ヒストリアン
Group Historian, A.P. Moller Group
デンマーク、コペンハーゲン Copenhagen, Denmark

[概要]
 アーカイブズ管理戦略の策定と、歴史的資料を活用した一貫したコミュニケーションの重要性を議論。

[登壇者]
 A.P.モラー・グループのグループ史家として、アーカイブズ管理および歴史の記録・伝達を担当。1998年にA.P.モラーに入社、A.P.モラー・アーカイブズを用いた研究をもとに、マースクの歴史に関する複数の書籍や記事を執筆・寄稿している。

[関連ページ]
A.P.モラー・グループ 歴史
https://www.maersk.com/about/our-history

(3) 先コロンブス期の彫像の返還
The repatriation of the pre-Colombian figurines
ロヴィサ・セヴェリン・クラゲルード Lovisa Severin Kragerud
アブソルート・グループ(ペルノ・リカール) アーキビスト兼チーフストーリーテラー
Archivist & Chief Storyteller、The Absolut Group Pernod Ricard
スウェーデン、ストックホルム Stockholm, Sweden

[概要]
 先コロンブス期の彫像返還のエピソードを紹介し、倫理的配慮がブランドイメージに与える影響を説明。メキシコへの彫像返還は、企業倫理を強調し、ポジティブなPR効果を生み出した。

[登壇者]
 2017年よりアブソルート・グループ(ペルノ・リカール)のアーキビスト兼チーフストーリーテラーを務めている。同社初のアーキビストとして採用され、アブソルート・ウォッカ、カルーア、マリブといったブランドを担当。最初、ボトルや資料の収集に取り組み、ブランドに関する調査を通じアーカイブズの構築を目指した。その後、歴史マーケティングを活用してブランドの価値を高めることが主な業務となる。
 日々の業務では、マーケティング・チームと協力し、ソーシャルメディア向けの歴史的コンテンツを制作し、ブランドの伝統を社内および世界中に広めることに注力している。

[関連ページ]
アブソルート・グループウェブサイト:メキシコへの彫像返還に関する画像ファイル
https://theabsolutgroup.com/media-room/file/giving-back-the-pre-colombian-figurines-to-the-mexican-embassy-3/

同グループ 歴史関連ページ
https://theabsolutgroup.com/?s=history

同グループ アーキビスト関係記事
https://theabsolutgroup.com/story/the-holy-trinity-for-an-archivist/
https://theabsolutgroup.com/story/meet-the-absolut-companys-archivist-lovisa-severin-kragerud/

(4) 学校アーカイブズと企業アーカイブズ:一つの可能な関係性
School and business archives: a possible relationship
マヌエル・トノリーニ Manuel Tonolini
ダルミネ財団 ディレクター
Director, Fondazione Dalmine
イタリア、ダルミネ Dalmine, Italy

[概要]
 イタリアにおける企業アーカイブズと教育プロジェクトを通じた学習と歴史意識の向上を議論。「企業遺産イタリア」プロジェクトでは、高校生や大学生がアーカイブズ資料を活用し、現代社会への応用を学ぶ機会となった。

[登壇者]
 ダルミネ財団のディレクターとして、産業遺産の普及や文化的イニシアチブの推進に取り組んでいる。教育プログラムや公共イベントの企画・調整における専門知識により、地域の文化的景観を豊かにすることを目指し、革新的で影響力のあるプロジェクトを通じて、産業史への理解をさらに深める活動を続けている。

[関連ページ]
ダルミネ財団
https://fondazionedalmine.org/

トノリーニ氏LinkedInページ
https://www.linkedin.com/in/manueltonolini

11:30-12:50
■セッション 2: 企業アーカイブズ、会社史、記念日 (座長: アンダース・ショーマン)
Session 2 Business archives, corporate histories and anniversaries (Chair: Anders Sjöman)

(1) MUMACデジタル保管庫:終わりなき旅のための記憶と未来
MUMAC Digital Caveau: memory and future for an endless journey
アンナ・チェント Anna Cento
チンバリ・グループ コーヒー・エスプレッソマシン博物館 キュレーター
Museum Curator, Museum of the Coffee Espresso Machine of Cimbali Group
イタリア、ミラノ Milan, Italy

[概要]
 チンバリ・グループの企業博物館であるMUMAC(コーヒー・エスプレッソマシン博物館)のビジョンは単なるブランドの歴史を超え、エスプレッソマシン業界全体の進化を伝えることを目的としている。
 企業文化を発展させる取り組みとして、アーカイブズを単なる記憶の保管庫としてではなく、研究と分析のための動的で重要なツールとする「MUMAC デジタル保管庫(Digital Caveau)」プロジェクトについての発表。プレゼンテーションでは、歴史的遺産のデジタル化が、企業内でヘリテージ・マーケティングに重点を置いたアプローチにつながった具体例を紹介。たとえば、ブランドに関連したグッズやパンフレットの制作、新しい企業アイデンティティに関するロゴ・リブランディングの発表への貢献など。特に社員への歴史教育を通じてブランド価値を浸透させた。
 ユニークなプロジェクトとしては、コーヒーの香りをテーマにした「エスケープ・ルーム」型ゲームを開発。ゲームを通じてエスプレッソの歴史に触れる新たな体験を提供した。

[登壇者]
 チンバリ・グループの企業博物館であるMUMACのミュージアム・キュレーターを務めている。主な役割は、世界で最も重要なプロフェッショナル用コーヒー・エスプレッソマシンのコレクションの遺産を管理し、普及させること。最近では、イタリア文化とエスプレッソに敬意を表した書籍『SENSO ESPRESSO Coffee. Style. Emotions.』の制作や、チンバリ・グループ110周年とMUMAC10周年を祝うための2022年MUMACリ・スタイリング・プロジェクトに貢献した。
 ミラノのカトリック大学サクロ・クオーレで経済学およびミュージアム・展示イベント管理の修士号、文化遺産管理の学士号を取得。「私たち企業アーカイブズの管理者としては、それを保護しアクセス可能にすることを優先し、未来の世代が学び利用できる貴重なリソースであり続けるようにすることが重要です」と述べている。

[関連ページ]
MUMAC
https://www.mumac.it/en

(2) リーバイス501ジーンズ150周年を祝う:元祖ブルージーンズ
Celebrating 150 years of Levi's 501 jeans, the original blue jean
トレイシー・パネック Tracey Panek
リーバイ・ストラウス&カンパニー ヒストリアン・アーカイブズ責任者
Historian, chief of Archives. Levi Strauss & Co.
アメリカ、カリフォルニア州サンフランシスコ San Francisco, California, USA

[概要]
 2023年に開催されたリーバイス501ジーンズの150周年祝賀イベントについて紹介。このマイルストーンに向けては事前に長期計画を立て、デザイナーと共にアーカイブズを調査した。また、スミソニアン博物館で見つかった貴重なジーンズのペアを基に、初期の501ジーンズを再現した話や、そのジーンズが「9リベット」と呼ばれる特異なデザインを持つことが判明したエピソードを共有。また、マーケティングキャンペーンの一環として、世界各地での展示やメディア向けの特別体験を通じてブランドの物語を伝えた。
 またこの取り組みを通じて得た5つの教訓を共有した。
1) 大きなマイルストーンは少なくとも5年前に計画を開始し、社内外の連携を強化する。
2) アーカイブズで新たな発見を目指す。
3) ストーリーバンクを作る。
4) メディア向けのユニークな体験を提供すること。
5) 展示スキルを磨く。

[登壇者]
 リーバイ・ストラウス&カンパニーの歴史家で、サンフランシスコ本社のアーカイブズ部門のディレクター。企業の重要な資産であるアーカイブズの管理を担当し、歴史資料を必要とするデザイナー、ブランドマネージャー、経営陣、その他の社員からの歴史的な質問に対応し、業務を支援している。また、アーカイブズを充実させるため、ユニークなヴィンテージのリーバイスの衣類や珍しいリーバイス関連アイテムを探し求めている。
 同社のブログ「Unzipped」に寄稿し、企業の歴史やヴィンテージのリーバイス衣類、アーカイブズでの舞台裏の作業について執筆している。また、YouTubeとTikTokで公開されている動画シリーズ「From the Levi's® Archives」でナレーションを務めるほか、リーバイ・ストラウス&カンパニーの伝統を広めるメディアスポークスパーソンとして活躍。

[関連ページ]
リーバイ・ストラウス&カンパニー 歴史
https://www.levistrauss.com/levis-history/

Unzippedブログ ヘリテージ関連ページ
https://www.levistrauss.com/unzipped-blog/?heritage

(3) 企業の歴史を通じたブランド・アイデンティティの強化
Strengthening brand identity through corporate history
カタジナ・パク Katarzyna Pąk
エリクソン・ポーランド マーケティング&コミュニケーション部門長
Head of Marketing & Communications, Ericsson Poland
ポーランド、ワルシャワ Warsaw, Poland

[概要]
 エリクソンは、ポーランドで120年、世界で150年の歴史を持つ企業。ポーランドでは、1920年代に通信用スイッチボードを製造し、戦争を経て再建された。当時の建物は、コンクリート構造のおかげで第二次世界大戦を生き延びた。
 発表ではエリクソンの150年にわたる通信技術の歴史とその歴史的遺産を守るための取り組みを紹介。社内教育として、歴史的資料を活用して社員の関心を引き出し、過去と未来をつなぐプロジェクトを実施。社員を「アンバサダー」として巻き込んだ。また、個人や公的アーカイブズから得られる情報の収集・活用を紹介。

[登壇者]
 歴史家であり、コミュニケーション、PR、統合型マーケティングコミュニケーション(IMC)の実践者および専門家。コカ・コーラ・ポーランドやソニー・ポーランドでの初代PRスペシャリストとしての経験をはじめ、国際的な企業でマーケティングとコミュニケーションの経験を積んできた。メキシコで文化人類学の分野で3年間の研究を行った経験も持つ。
 エリクソン・ポーランドに20年以上勤務。歴史に基づくブランド構築の歴史的アプローチの提唱者でもある。『エリクソン:ポーランドにおける100年の記録』の執筆者。

[関連ページ]
エリクソン・ポーランド
https://www.ericsson.com/en/about-us/company-facts/ericsson-worldwide/poland

エリクソン・ポーランド 歴史
https://www.ericsson.com/en/about-us/history

(4) なぜ、そしてどのように長寿企業のアーカイブズを保存するのか? タングスラム歴史コレクションの物語
Why and how to save archives of long-lived companies? The story of Tungsram Historical Collection
マリア・ヒドヴェギ Mária Hidvégi
歴史家、ミラノ・ボッコーニ大学研究員
Historian, Research Fellow, Bocconi University Milan
ハンガリー、ブダペスト Budapest, Hungary

[概要]
 消滅した企業の遺産保全に関する発表。1896年創業のタングスラムは2022年に倒産。登壇者は2019年に同社の歴史家として採用され、歴史資料の収集と保存に取り組んだ。しかし予算不足や倒産手続きの中で、多くの資料を保存することは困難であった。解決策として、公的アーカイブズや博物館との連携を模索し、資料の一部を国のアーカイブズに移管した。長寿企業の遺産は、地域社会や経済、文化に重要な影響を持つため、ステークホルダー全員の協力が必要。

[登壇者]
 ミラノのボッコーニ大学ドンデーナ社会動態および公共政策研究センターで研究員を務めている。2015年にドイツ・ライプツィヒ大学で比較文化・社会史の博士号を取得、その後ドイツのコンスタンツ大学で研究プロジェクトに従事。2019年から2023年春まで、ブダペストのタングスラム・グループで歴史家として勤務。ブダペストの経営史研究グループの会員。

[関連ページ]
タングスラムの歴史1896-1945 (The History of Tungsram 1896-1945)
https://mek.oszk.hu/08800/08856/08856.pdf(PDF)

ヒドヴェギ氏 ボッコーニ大学ドンデーナ社会動態および公共政策研究センター
https://dondena.unibocconi.eu/maria-hidvegi

14:00-15:20
■セッション 3: ビジネス・アーカイブズ、ラグジュアリー、ヘリテージ・マーケティング
Session 3 Business archives, luxury, and heritage marketing

(1) スタイルの世紀:100年の歴史を持つタイル会社が『クール』を再定義した方法
Century of style: how a 100-year-old tiling company redefined cool
サンガミトラ・チャタジー Sanghamitra Chatterjee
パスト・パーフェクト・ヘリテージ・マネジメント・エージェンシー創業者
Founder, Past Perfect Heritage Management Agency
インド、ムンバイ Mumbai, India

[概要]
 バラット・フローリング・タイルズ(Bharat Flooring Tiles)社の100年史プロジェクトの紹介。同社は1922年に設立され、インド独立運動の最盛期に「経済的自立」をテーマに掲げた。創業から1950年代までが最盛期で、ムンバイの「メトロシネマ」や「インド準備銀行」の建物にもタイルを供給した。1960年代から1990年代には困難な時期を迎えたが、1999年以降に復活し、若い世代にもアピールするダイナミックなブランドとして再生。
 2022年に迎えた創業100周年にあたっては、デジタルキャンペーン「100年、100の物語」を展開した。創業初期のストーリー、家族経営のストーリー、工場で働く職人たちの声を取り上げた。このキャンペーンは、巡回展や本の出版など、多角的に展開された。

[登壇者]
 ビジネスおよび企業アーカイブズの分野で豊富な経験を持つ専門家。2016年にパスト・パーフェクト・ヘリテージ・マネジメント(Past Perfect Heritage Management)を創業し、アーカイブズ資産の保存、遺産の記録、そして歴史を魅力的かつ効果的に伝えることを専門としている。現在、同社の顧客には、バジャジ、HCLテクノロジーズ、インド輸送株式会社、ピディライト・インダストリーズ、タタ・トラスト、エキサイド・インダストリーズなどが含まれている。
 また、デジタルコンテンツ制作の分野で重要な役割を果たしており、アマゾン・プライムの「Jubilee」、ネットフリックスの「The Hunt for Veerappan」および「The Railway Men: The Untold Story of the Bhopal Gas Tragedy」などのウェブ番組でアーカイブズ・プロデューサーおよびリサーチャーとして貢献している。

[関連ページ]
バラット・フローリング・タイルズ社
https://www.bharatfloorings.com/

同社 歴史とマイルストーン
https://www.bharatfloorings.com/about/history.html

同社 歴史動画 The BFT Story
https://www.youtube.com/watch?v=BbYRhhpJubU

パスト・パーフェクト・ヘリテージ・マネジメント・エージェンシー
https://www.pastperfect.co.in/

(2) ミドルトン・ベリー・レア:静かな蒸留所- 5つの章からなる物語
Midleton Very Rare: Silent Distillery - a story in 5 chapters
キャロル・クイン Carol Quinn
アイリッシュ・ディスティラーズ(ペルノ・リカール)アーカイブズ部門長
Head of Archives, Irish Distillers Pernod Ricard
アイルランド、ミドルトン Midleton, Ireland

[概要]
 アイリッシュ・ディスティラーズのアーカイブズ管理者として、200周年を記念した「Middleton Very Rare」のブランド戦略を紹介。この戦略では、毎年、異なるテーマの限定ウィスキーをリリースし、蒸留所の歴史と職人技をストーリーにした。例えば、「イノベーション」「火」「木」などのテーマを通じて、蒸留所の歴史的背景や技術者の物語を消費者に届けた。

[登壇者]
 アイルランド・ミドルトンのディスティラーズ・コテージを拠点とし、アイリッシュ・ディスティラーズの歴史的アーカイブズを管理している。このアーカイブズには、ジョン・ジェイムソン&サン、ジョン・パワー&サン、コーク蒸留会社によって作成された記録、そしてこれらの会社が1966年に合併して誕生したアイリッシュ・ディスティラーズ自体の記録が含まれており、その歴史は18世紀に遡る。
 登壇者はアーカイブズの物理的な保存と維持管理を担当。個々の資料は、クリーニングと評価を経て、専用の強固な保管室5室のいずれかに移される。また、これらの記録に含まれる情報を社内の同僚に知らせ、それが現在のビジネス活動にどのように関連するかを伝えることも担当している。そのために、ブランドチーム、アイリッシュ・ディスティラーズの法務部門、ブランド関連施設と連携している。新しい資料を発見するたびにブランドの歴史を補完し、問い合わせに対応している。
 2012年にアイリッシュ・ディスティラーズに加わる前は、ユニバーシティ・カレッジ・コークで16年間アーキビストを務めた。また、アイルランド・アーカイブズ&レコード協会の会長を務めた経験や、アイルランド国立公文書館に関する問題で関連大臣に助言を行う国立公文書館諮問委員会のメンバーも2期務めた。アイルランドにおけるアーカイブズ利用の促進に尽力するとともに、ビジネス・アーカイブズは企業活動を支える価値を持つという信念を掲げている。

[関連ページ]
アイリッシュ・ディスティラーズ(ペルノ・リカール)「私たちのストーリー」
https://www.irishdistillers.ie/our-story/

『Irish Times』2022年12月17日記事
「アーキビストはアイルランドの蒸留の歴史を保存する手助けができることを非常に誇りに思っている」
Archivist is very proud to help preserve history of Irish distilling
https://www.irishexaminer.com/business/companies/arid-41029082.html

(3) リーヴァの歴史アーカイブの価値を高めるためのデザイン戦略
A design strategy to foster the value of the Riva's historical archive
フランチェスカ・ムッケッティ Francesca Mucchetti
デザインとテクノロジーの博士課程学生、リーヴァ(フェレッティ・グループ)歴史アーカイブの協力者
PhD student in Design and Technology, Collaborator of the historical archives of Riva (Ferretti Group)
イタリア、トリノ Torino, Italy

[概要]
 ヨット会社であるリーヴァの182年にわたる歴史を活用したブランド価値の向上についての発表。同社では高品質な3巻構成の本を通じて、製品デザインやブランドの歴史を紹介している。この書籍はマーケティング資産としてだけでなく、ブランド・アイデンティティの構築にも貢献している。

[登壇者]
 トリノ工科大学で「デザインとテクノロジー:人々、システム、環境」に関する博士課程に在籍中。2022年にブレシアのサンタ・ジュリア美術アカデミーでグラフィックとコミュニケーションを専攻して卒業。2021年から2023年にかけて、リーヴァのヨット・ブランドで歴史アーカイブズの管理および広報関係を担当。2023年11月に開始した博士課程では、デザインの観点から企業アーカイブズをテーマに研究を行っている。具体的には、フェレッティ・グループの歴史アーカイブズ、特にリーヴァに焦点を当て、物理的およびデジタルの記録遺産の価値向上に取り組んでいる。

[関連ページ]
リーヴァ「軌跡」
https://www.riva-yacht.com/ja-jp/History

(4) 国立公文書館と企業の歴史:E.ウェデルチョコレート工場の事例
State archives and corporate histories - the case of E. Wedel Chocolate Factory
バルトウォミェイ・コノパ Bartłomiej Konopa
国立公文書館本部アーキビスト
Archivist, State Archives Head Office
ポーランド、ワルシャワ Warsaw, Poland
コンラッド・シュバ Konrad Szuba
国立公文書館本部主任専門官
Chief specialist, State Archives Head Office
ポーランド、ワルシャワ Warsaw, Poland

[概要]
 ポーランドの国立公文書館所蔵アーカイブズと企業の歴史研究に果たすその役割についての発表。例として、ヴェデル・チョコレート工場を取り上げた。国のアーカイブズとして所蔵されている記録には、財務記録、労働者の日誌、製品デザイン、包装、プレス記事などが含まれており、企業の歴史研究に極めて有用であることを説明した。

[登壇者]
 コノパ氏はトルンのニコラウス・コペルニクス大学でアーカイブズ学および文書管理の修士号を取得したアーキビスト。現在、国立公文書館本部のアーカイブズ研究部門で上級専門官として勤務。研究の関心分野は、ウェブアーカイブや資料研究を含む。学術誌『ポーランドのアーキビスト』の編集者も務める。
 シュバ氏はワルシャワにあるポーランド国立公文書館本部の主任専門官で、現在、『アーカイブズ用語事典』プロジェクトを主導している。都市とブルジョワジーの歴史、中世の聖なる空間、近世初期の研究に関心を持っている。

[関連ページ]
ポーランド国立公文書館
https://archiwa.gov.pl/en/

15:40-17:00
■セッション 4: ビジネス・アーカイブズ、デジタル・トランスフォーメーション、AI
Session 4 Business archives, digital transformation, and AI

(1) E.ウェデルチョコレート工場:ポーランド最新の企業博物館、170年の伝統を持つブランドストーリー
E. Wedel Chocolate Factory - the latest company museum in Poland, a brand story with 170 years of heritage
金子泰 Hiroshi Kaneko、寺田頼子 Yoriko Terada
ロッテ・ウェデル
Lotte-Wedel
ポーランド、ワルシャワ Warsaw Poland

[概要]
 前半ではポーランド・ワルシャワのロッテ・ウェデル・チョコレートの歴史とその買収および統合プロセスについて、後半では2024年9月にオープンしたチョコレート・ミュージアムを紹介。19世紀に創業したウェデル社はポーランドを代表する有名菓子メーカーであった。第二次世界大戦後の国有化を経て、共産主義体制が終わるとともに民営化され、ペプシコ社に買収された後にイギリス企業キャドバリーに売却された。キャドバリーがクラフト・フーズ(現在はモンデリーズ・インターナショナル)に経営統合されたため、ポーランドにおける両社のチョコレート市場シェアの高さがEUのヨーロッパ委員会で問題となった。これに対して、日本・韓国を拠点とするロッテホールディングスがキャドバリーからウェデルを買収し、今日に至っている。工場はポーランドのほか、カザフスタンやベルギーにもある。日本とポーランドの文化統合には課題があり、協力に関する新しい記憶を作るために博物館が設立された。
 後半は博物館の公式ガイドである寺田氏からミュージアムに関する紹介が行われた。オープンは2024年9月4日で、日本とポーランドの協力の新たな出発点となった。館はチョコレートの歴史やロッテ・チョコレートの歩みを訪問者に教育することを目的としている。現在も創業する工場敷地内に位置しており、チョコレートの生産プロセスをインタラクティブに体験できる。

[登壇者]
 金子氏は、日本出身。2005年からポーランドに在住。法務、コンサルティング、貿易の分野での経験を持ち、2015年からロッテ・ヴェデル社でコーポレート・レポーティング・マネージャーを務めている。2022年にコズミンスキー大学で法学博士号を取得し、現在はワルシャワ大学応用言語学研究所の助教授を務めている。
 寺田氏も日本出身。教育音楽フェスティバルや国際NGOでの広報業務、ポーランドの日本大使館での文化外交、銀行業務を経験し、2022年からロッテ・ヴェデル社でコーポレート・レポーティングおよびグローバル・コミュニケーション・マネージャーを務めている。ポズナンのアダム・ミツキェヴィチ大学で社会学の修士号を取得している。

[関連ページ]
E. Wedel社
https://wedel.com/

同社沿革
https://wedel.com/about-us/history

E.ウェデルチョコレート工場博物館に関するページ
https://wedel.com/o-firmie/aktualnosci/the-chocolate-factory-e-wedel-a-new-landmark-of-tradition-and-innovation-opens-in-warsaw

ポーランド日本人会の関連ページ
https://nihonjin.pl/custom/e-wedel%E3%83%81%E3%83%A7%E3%82%B3%E3%83%AC%E3%83%BC%E3%83%88%E3%83%95%E3%82%A1%E3%82%AF%E3%83%88%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%83%BB%E3%83%9F%E3%83%A5%E3%83%BC%E3%82%B8%E3%82%A2%E3%83%A0-%E8%A6%8B%E5%AD%A6/

株式会社ロッテニュースリリース 2024年9月11日
https://www.lotte.co.jp/info/pdf/20240913081315.pdf(PDF)

(2) ポーランドにおけるコミュニティ・アーカイブズ・センター:コミュニティ・アーカイブズ運動の支援システム
Centre of Community Archives in Poland - a support system for community archive movement
エヴァ・マイデッカ Ewa Majdecka
研究者、デジタルプロダクト・マネージャー、博士、コミュニティ・アーカイブズ・センター
Researcher and manager of digital products. Phd, The Center of Community Archives - Centrum Archiwów Społecznych
ポーランド、ワルシャワ Warsaw, Poland

[概要]
 コミュニティ・アーカイブズ・センターで活動する登壇者からは、地域アーカイブズの概念とその重要性が紹介された。登壇者によると、コミュニティ・アーカイブズは、地域コミュニティや歴史に関する情報を収集する独自の公共的な機関である。ポーランドの文化遺産省とカルタ財団によって2020年に設立されたコミュニティ・アーカイブズ・センターがさまざまな支援を提供している。例えば、教育プログラムやデジタルツールを通じてコミュニティ・アーカイブズをサポートし、歴史資料の保存とそれへのアクセスを確実なものとしている。

[登壇者]
 社会科学の博士号を持つ研究者であり、デジタルプロダクト・マネージャー。コミュニティ・アーカイブズ・センターでは、デジタルツール開発部門を管理し、コミュニティ・コレクション・ポータルを含むオープン・アーカイブズ・システムの維持と開発を担当している。

[関連ページ]
コミュニティ・アーカイブズ・センター
https://cas.org.pl/

(3) イタルガスのヘリテージラボ
Heritage Lab Italgas
カティア・コルヴィーノ Katya Corvino
イタルガス・グループ ヘリテージラボ(ミュージアム兼ラボ)ヘリテージラボ部門長
Head of Heritage Lab, Heritage Lab, the museum - laboratory of Italgas Group
イタリア、トリノ Torino, Italy

[概要]
 イタリアとギリシャでガスを供給するイタルガスのデジタル・トランスフォーメーション・プロジェクトを紹介。イタルガスは創業が1837年、書架延長3キロの文書を所蔵する。スタッフはアーキビスト4、文書形式学の専門家2、司書3、デジタル化専門技術者15、写真製版専門技術者5。デジタル化にあたっては最初に、優先順位をつけて選別し、会社の基幹となる取締役会の記録からデジタル化を始める。地理的なガイドラインに沿ってもデジタル化を行う。スキャンして処理したものをオペレーターがチェックし長期保存する。このファイルからJPEGファイルを作成し会社のプラットフォームを通じてアクセスを提供する。世界に3台しかないデジタル化機器を利用している。これは高性能で8時間4000点の資料スキャンが可能。これまで200万点以上の資料デジタル化を行った。研究者に依頼して、社報の1969年から2003年までをデジタル化した。機械学習とAIの両方を利用している。

[登壇者]
 イタルガス・グループのミュージアム兼ラボであるヘリテージラボの部門長を務めるとともに、企業の社会的責任(CSR)マネージャーも兼任。また、地方自治体との関係部門の責任者として、ブリュッセルの欧州連合におけるSnam(エネルギー・インフラ企業)の代表を務めた。エニ、Snam、イタルガスでの30年にわたる経験を通じて、社会的持続可能性および外部機関との関係構築を専門としている。

[関連ページ]
イタルガス・グループ ヘリテージラボ・歴史アーカイブズ
https://www.italgas.it/en/group/our-history/heritage-lab-historical-archive/

17:20-18:40
■セッション 5:ビジネス・アーカイブズ、ミュージアム、再生化
Session 5 Business archives, museums, and revitalizations

(1) ボエルワーフ造船所の再生:ビジネス・アーカイブズとコミュニティが、デベロッパーには成し得なかったことを実現する
Revitalization of the Boelwerf Shipyard: where business archive and communities do what the developer didn't.
ロビン・デボ Robin Debo
ETWIE(フランドル地方の技術、科学、産業遺産の専門センター、Industry Museumの一部)
ETWIE (Centre of expertise on technical, scientific and industrial heritage in Flanders, part of the Industry Museum)
ベルギー、ヘント Gent, Belgium

[概要]
 ベルギー最大の造船所の閉鎖をケーススタディとして取り上げた。小都市エメルソンに隣接する造船所は約3,500人を雇用していたが、偽造文書や政府の不正行為など一連の不運により1994年に破産した。これは地元コミュニティに大きな衝撃を与え、喪失感や断絶感を生んだ。その後、アーカイブズが保存され、ベルギーで最も利用されるビジネス・アーカイブズの一つに成長した。
 地元コミュニティは、アーカイブズを活用して写真集を作成し、世界中で販売。新しい住民には造船所の歴史を教育するための散策ツアーや講演会を開催。コミュニティはアーカイブズを通じて過去と繋がりを持つアイデンティティを確立し、これにより、造船所閉鎖後も歴史への繋がりを維持し、コミュニティの癒しに寄与した。

[登壇者]
 ベルギー・フランドル地方の技術、科学、産業遺産に関するセンターで、企業が自社の「企業遺産」を管理するのを支援し、そのための働きかけを行なっている。これには、アーカイブズや物品(機械、設備、包装、製品など)、また文書化が難しい無形の要素(手仕事や頭の中の知識)を含む。同センターは自身のコレクションを持たない中立的な組織として、アーカイブズ分野と博物館分野を橋渡しし、企業とその遺産を結びつける役割を果たしている。目標は、企業遺産の本質的価値への意識を高め、企業を超えてその保護責任を広げ、より幅広い聴衆と共有すること。

[関連ページ]
Industry Museum
https://www.industriemuseum.be/en

ETWIE
https://etwie.be/nl/etwie-in-english

(2) その歴史にふさわしい場所、ここで #新しいストーリー が紡がれる
A place worth its history, where #newstories will be written.
ダグマラ・ロズクヴィタルスカ Dagmara Rozkwitalska
インペリアル造船所 ビジネス開発マネージャー
Business Development Manager, Imperial Shipyard
ポーランド、グダニスク Gdańsk, Poland

[概要]
 不動産開発においては、コミュニティとの連携や歴史的要素の保存が欠けてきた。開発プロジェクトでは、歴史的要素を新しい建築物に取り入れることで、過去への敬意と継続性を生み出すことが重要である。そのためには、ビジネス・アーカイブズを保存し、スキルやストーリーを記録することが大切であることを強調する。
 グダニスクのインペリアル造船所が新たな地区に再生した事例を例として取り上げた。ここは1844年に遡る豊かな歴史を持ち、1970年の抗議活動(ポーランドの共産党指導者ゴムウカの失脚につながった)や1980年のグダニスク合意(ポーランド政府と造船所ストライキ労働者の間で結ばれた協定。労働者側の署名者はレフ・ワレサで、その後労働組合「連帯」設立につながる)などの重要な出来事が起きた場所である。再生プロジェクトでは、歴史を活かしながら、多機能地区の創造や社会プログラム、公共スペースの提供を目指している。プレイスメイキング活動(人々が自分たちの地域や公共空間をより魅力的で居心地のよい場所にするための取り組み)、バーチャルツアー、歴史的散策ルートなどを通じて、コミュニティとの関与を深め、造船所の遺産を保護している。

[登壇者]
 2002年に国際的な法律業界でキャリアをスタートし、不動産および税務の分野での取引に関する知識を習得した。2007年以降、グダニスクの旧造船所エリアの再開発プロジェクトに携わっている。現在はビジネス・ディベロップメント・マネージャーとして、コミュニケーション、プロモーション活動、プレイスメイキング活動、ステークホルダー管理、開発業務を担当している。

[関連ページ]
インペリアル造船所開発
https://stoczniacesarska.pl/en/

インペリアル造船所開発 レガシー
https://stoczniacesarska.pl/en/the-legacy/

インペリアル造船所開発 私たちのストーリー
https://stoczniacesarska.pl/en/our-story/

インペリアル造船所開発 新たなストーリー
https://stoczniacesarska.pl/en/new-stories/

インペリアル造船所開発 あなたのストーリー(ウェブサイト閲覧者が自分のストーリーをサイトにアップロードして共有するためのページ)
https://stoczniacesarska.pl/en/your-stories/

インペリアル造船所開発 チーム
https://stoczniacesarska.pl/en/the-team/

(3) リガにおけるロシュの帰還:歴史的な再生
The homecoming of Roche in Riga: a historic remediation
アレクサンダー・ルーカス・ビエリ Alexander Lukas Bieri
ロシュ歴史コレクション&アーカイブ キュレーター、ICA/SBA部会長()
Curator, The Roche Historical Collection and Archive and ICA SBA Chair
スイス、バーゼル Basel, Swiss

[概要]
 1930年にロシュのために建てられた歴史的建物の改修についての事例を紹介。この建物は、ラトビアの近代建築の象徴として重要であり、ソビエト時代に国有化されていた。改修プロジェクトでは、建物の不均一な地盤沈下を是正し、歴史的なディテールを残しつつ最新鋭のオフィスビルに改装した。
 ロシュの遺産保存への取り組みと、従業員に現代的な作業環境を提供する目的で進められたプロジェクトである。

[関連ページ]
「ロシュ社ラトビア事務所建物の建て替えとアーカイブズ」(2020年10月13日発行「ビジネス・アーカイブズ通信」87号あとがき)
https://www.shibusawa.or.jp/center/ba/bn/20201013.html#05

(4) レジリエンス(回復力)に関わるビジネス:遺産を通じたストーリーテリング
The business of resilience - storytelling through heritage
ドーン・スチュワート Dawn Stewart
ザ・マッカラン(エドリントン・グループ)ブランドアーカイブ・マネージャー
Brand Archive Manager, The Macallan, The Edrington Group
イギリス、グラスゴー Glasgow, UK

[概要]
 200年の歴史を持つマッカラン蒸留所(スコットランド)の遺産とレジリエンスについての発表。200年を通じて、各時代の所有者や管理者が蒸留所の進化と成功に貢献してきた。アーカイブズは、ストーリーテリングにおいて重要な役割を果たし、消費者を引きつけるマーケティングキャンペーンや製品を生み出す。「Tales of the McCallum」などのキャンペーンでは歴史的な人物や出来事に光を当てた

[登壇者]
 2022年よりマッカランのヘリテージチームで働いており、ストーリーテリングやコンテンツ制作を通じてブランドマーケティングをサポートし、200年の歴史を持つ同社の遺産を守る役割を担っている。
 2009年にグラスゴー大学でドイツ語とロシア語の学士号を取得し卒業後、グラスゴー女性図書館でボランティアとして活動、初めてアーカイブズ業務に携わった。その後、2011年に情報管理および保存の修士号を取得し、同時にグラスゴー・プリントスタジオやバラスト・トラストなど、さまざまなアーカイブズでのボランティア活動を続け、多くの経験を積んだ。2012年にハーパーコリンズ出版のアーキビストとなり、アーカイブズの日常業務を管理するとともに、社内外へのアウトリーチ活動も行った。

[関連ページ]
ザ・マッカラン・アーカイブ
https://www.themacallan.com/en/single-malt-scotch-whisky/archive

ザ・マッカラン 会社紹介(沿革を含む)
https://www.themacallan.com/en/about

【3日目】

09:00-12:00
「ワークショップ: 実践的歴史マーケティング:現代の顧客に響く企業史の活用法」
Workshop: History marketing in practice: making your business history relevant for today's audiences
アンダース・ショーマン Anders Sjöman
経営史センター 顧客プロジェクトおよびコミュニケーション部門長
Head of client projects and communication, The Centre for Business History
スウェーデン、ストックホルム Stockholm, Sweden

[モデレータ]
 ショーマン氏は、ストックホルムの経営史センターで顧客プロジェクトおよびコミュニケーション部門の責任者を務めている。以前は、Voddlerのコミュニケーション部門長、ストックホルムのSpringtimeでPRコンサルタント、ハーバード・ビジネス・スクールの欧州研究センター(パリ)で教材の開発、EFエデュケーション(ボストン)でオンライン言語学習プロジェクトの運営に従事した。ストックホルム経済大学で経済学および経営学の修士号を取得している。
 ストックホルム経営史センターは、スウェーデン企業が歴史的資料を物理的およびデジタルの両面で専門的に保存することを支援している。また、企業の遺産を歴史マーケティングなどに用いる戦略的なビジネス資産として積極的に活用するためのサポートも提供している。さらに、研究事務局を通じて独立した研究を行い、学際的なコラボレーションによる学術プロジェクトも推進。

◎午前のワークショップでは、事実に基づいた歴史と現代の視点を調和させ、信頼性あるストーリーテリングによって、現代のオーディエンスに訴求する重要性が強調されました。最初にアンダース氏から「現代の顧客に響く企業史の活用法」に関するレクチャーを聞いた後、参加者は数名ずつのグループに分かれて、スウェドバンクの200周年記念を題材としたワークショップに取り組みました。

記念キャンペーンについては、銀行の地域的ルーツや日常生活の簡素化への貢献を強調し、世代間の価値形成の役割も議論されました。一方で、地域性と国際性のバランス、高齢層と若年層の双方にアピールする戦略の必要性など、課題も浮き彫りになりました。

最終的に、企業が信頼と革新を両立させるためには、自社の歴史を積極的に活用し、顧客や社会との信頼関係を深めることが鍵となることが、このワークショップで再確認されました。

[関連ページ]
ストックホルム経営史センター
https://www.naringslivshistoria.se/en/

スウェドバンク 沿革
https://www.swedbank.com/about-swedbank/our-history.html

スウェドバンク200年史(PDF版、72ページ)
https://internetbank.swedbank.se/ConditionsEarchive/download?bankid=1111&id=WEBDOC-PRODE67825296

12:00-13:00 Lunch break

13:00-16:00
「ワークショップ:アーカイブズの責任ある活用方法」
Workshop: Responsible uses of the archives
マリウシュ・ヤストシャンブ博士、歴史家・文化専門家であり、ビジネスコーチ、ICA/SBAメンバー
Mariusz Jastrząb, PhD - historian and cultural expert, business coach, ICA SBA Member
ポーランド、ワルシャワ Warsaw, Poland

[モデレータ]
 ヤストシャンブ氏は、歴史家・文化専門家、ビジネスコーチ。経済史、組織の歴史、ビジネスの歴史を専門とする。コレギウム・シヴィタス大学講師。
 2014年から2024年まで、ポーランド・ユダヤ人歴史博物館(POLIN)の職員として勤務し、警察官、国境警備隊、刑務所職員、図書館員、観光ガイド、博物館で公共サービスに携わる職員、地方自治体の公務員などを対象に、多文化主義や差別防止に関する研修を企画・実施した。また、経済学部の学生向けに「経済世界における多文化主義」に関するワークショッププログラムを導入した。

◎午後の部では諸事情のため、当初予定されていたもう一人のモデレータが欠席、ヤストシャンブ氏もオンライン参加となりました。最初にヤストシャンブ氏よりアーカイブズの責任ある活用方法についてのレクチャーを聴講したのち、コズミンスキー大学のオレイニチャク教授の進行で、ディスカッション形式により参加者から企業アーキビストに関わる課題・テーマが上げられました。

アーカイブズの責任ある活用とは何のためか、CSRとの関係、whitewashing history(ホワイトウォッシング・ヒストリー:歴史を意図的に美化したり、不都合な部分や恥ずべき事実を隠したりすること。歴史の事実を偏向的に書き換える、あるいは都合の良い部分だけを強調するなど)、ICAのアーキビスト倫理綱領、greenwashing(グリーンウォッシング:企業や団体が実際には環境に配慮していない、またはその取り組みがごくわずかであるにもかかわらず、あたかも環境に優しい活動をしているように見せかける行為)、経営史研究者であることと企業に所属する会社史専門家の違いとジレンマ、などです。

ワークショップの最後に、アーカイブズの責任ある活用のための重要事項として以下の点を確認し、全体の会議の結びとなりました。

・Taking responsibility: 責任を取る
・Settlements: 和解 / 解決
・Widest possible access: 可能な限り広範なアクセス
・Reaching out to other departments: 他部門への働きかけ
・Contingency planning: 緊急時対応計画
・Contextualizing history: 歴史を文脈化する
・Authority built on integrity: 誠実さに基づく権威
・Proactively create model content: 模範的なコンテンツを積極的に作成する
・Follow the ethics by protecting the value: 価値を守ることで倫理に従う
・Bringing attention to recurring issues: 繰り返し起こる問題に注目する
・Celebrating crisis recording: 危機記録を称賛する
・Proactive communication: 積極的なコミュニケーション

[関連ページ]
ポーランド・ユダヤ人博物館(POLIN)
https://www.polin.pl/en/about-museum


★☆★...編集部より...★☆★

とくに印象に残ったのはセッション4と5です。DXとAIに関わる前者では、イタルガスのDXとイノベーティブな技術に関して、活発な質疑応答が行われました。

一つはOCRの問題が指摘されました。ある参加者からは、「ポーランドの戦間期の貸借対照表をAIで書き起こす際に、会計基準が毎回少しずつ異なっていたことを知った。そこでAIを使用したところ、カテゴリーや文字、単語の転写は素晴らしいが、数字になると誤作動を起こす」といった事例の紹介がありました。

一方、資料コレクション管理支援会社を経営する参加者からは、次のような発言もありました。この会社が協力している約60組織の顧客が管理するコレクション・アイテム数は50~150万以上のオブジェクトに及ぶため、メタデータ作成やタグ付け、キーワード付けを行おうとしても、この情報量に対処できるだけのマンパワーはない。そこでチャットGPTやその他の人工知能や機械学習ツールの実験を始めたそうです。

デジタル化については、環境への影響を指摘する意見もありました。データ交換量が3年ごとに急増するサーバー・プレートは、貴重な金属を手に入れるためグローバルサウスで児童労働を招いているといいます。

また、「AIは一種の機械学習に基づく言語モデルなのだから、これを表現するのに人工「知能」と表現するのは正しくない。そこには何の知性もない。現在インターネット上でより多くの人工知能生成テキストが作成されるにつれ、これらのモデルは、自ら作成したテキストから学習しようとしているが、そのテキストはさらに不正確で誤りが多くなる。モデル自体が極めて偏ったものになる傾向もあり、政治的に偏ったり、人種差別的になったり、何にでもなり得る」、という指摘もありました。

こういったことから、DXやAIの利用には倫理的配慮、倫理的責任とのバランスをとることが重要であるという意見が強調されました。

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セッション5は遺産保存の課題と機会に関するものでした。開発プロジェクト計画時に歴史的文脈やコミュニティの意見を考慮する必要性を強調した事例報告では、遺産保存は単なる歴史的な正確性・真正性の問題ではなく、将来世代のための「場」と「つながり」を作り出すことが重要であると結論付けていました。少子高齢化が進む日本の未来にも示唆を与えてくれるように感じられました。

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また、最後に来年のSBAの開催地に関する発表もありました。来年の会合は米国ミシガン州デトロイトで開催予定です。再開発されたミシガン中央駅をテーマとし、フォード・モーター・カンパニーやアパレル会社カーハートとの提携、ヘンリーフォード博物館などの地元の観光施設との連携も予定されています。


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■行事情報:企業史料協議会 第13回 ビジネスアーカイブズの日シンポジウム
テーマ:「AI・デジタル技術の進歩と企業アーカイブズ」
     2024年11月5日
     連合会館(東京都千代田区)

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◎企業史料協議会 第13回 ビジネスアーカイブズの日シンポジウム「AI・デジタル技術の進歩と企業アーカイブズ」

2024年11月 5 日(火)13:00-16:40
連合会館 2階大会議室(東京都千代田区神田駿河台3-2-11)
オンライン ZOOMミーティング

今年の「ビジネスアーカイブズの日」シンポジウムは、AI技術にみられる技術の急速な進歩を背景に、ビジネス・アーキビストの業務とは何か、これまでを振り返りつつ、現在、そして未来を展望することを意図したものでした。

<プログラム>
特別講演 13:10 - 14:10
「生成AI時代に企業アーキビストが果たせる役割」
 情報科学技術協会会長・麗澤大学教授 清田 陽司 氏

基調講演 14:20 - 15:05
「AI・デジタル時代のビジネスアーキビストのこれまでとこれから」
 京都大学大学文書館助教 橋本 陽 氏

パネルディスカッション 15:20 - 16:40
「AI・デジタル時代のビジネスアーキビストのこれまでとこれから」
 モデレータ 京都大学大学文書館助教 橋本 陽 氏
 パネリスト ヤマハ発動機株式会社 和田 一美 氏
       日本電気株式会社 益戸 勇一 氏
       鹿島建設株式会社 真下 英邦 氏 

懇親会 16:50 - 18:30
 連合会館 2階大会議室

★☆★...編集部より...★☆★

ICA/SBAでも話題になったAIについて、清田教授による基調講演ではAIとは何か(大規模言語モデル)、アーカイブズにはどのように活かせるのか、といったお話を聞くことができました。新技術の導入方法や導入の可否を考えるにあたっては、根本に遡り、その本質について学ぶ必要があることを示してもらえた講演でした。

2025年6月に刊行予定の『企業と史料』第20集にシンポジウムの記録を掲載予定です。


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■行事情報:ビジネス・アーカイブズ・カウンシル、スコットランド・ビジネス・アーカイブズ・カウンシル共催シンポジウム
テーマ:「リキッド・ゴールド」
     2024年11月7日
     マッカラン(イギリス・グラスゴー)

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◎ビジネス・アーカイブズ・カウンシル(BAC)、スコットランド・ビジネス・アーカイブズ・カウンシル(BACS)合同年次大会
テーマ:リキッド・ゴールド:ビジネスアーカイブコレクションの可能性を実現する
https://busarchscot.org.uk/events/
https://businessarchivescouncil.org.uk/activitiesobjectives/conference/
https://www.linkedin.com/company/business-archives-council/posts/?feedView=all
https://bac.whitefuse.net/events/liquid-gold-making-the-most-of-your-business-archive-assets

ビジネス・アーカイブズ・カウンシル(Business Archives Council: BAC)とスコットランド・ビジネス・アーカイブズ・カウンシル(Business Archives Council of Scotland: BACS)は、2024年11月7日、合同での年次会議をグラスゴーで開催しました。合同会議はザ・マッカラン(The Macallan)がホストし、タウンズウェブ・アーカイビング(TownsWeb Archiving:アーカイブズの保護とアーカイブズへのアクセス向上のためのデジタル化サービスを提供)、プリザービカ(Preservica:デジタル記録の長期保存システムの開発、サービス提供、販売)、ナオミ・コーン・アソシエイツ(Naomi Korn Associates:著作権、データ保護、商業ライセンスに特化したコンサルティング会社)の3社がスポンサーとなり、ザ・マッカランの製造販売元エドリントン・グループの本社を対面会場とし、オンラインも併用してのハイブリッド開催でした。

テーマにある「リキッド・ゴールド Liquid Gold」とはスコットランドの代表的産品であるウィスキーを指しています。この会議では、企業自身の資産としての企業アーカイブズ資料の活用に加え、それらが社会に与える幅広い価値、学術研究や公共的な関心を引き出す可能性についての検討が企図されました

【プログラム】
09:30 ネットワーキング朝食会(受付は10:15より)

■セッションA:アニバーサリー■
Session A: Anniversaries
司会:マイク・アンソンMike Anson(BAC)

10:30 開会の挨拶 Welcome
シェリル・トラヴェルサ(ザ・マッカラン グローバル・アーカイブ マネージャー)
Cheryl Traversa, Global Archive Manager, The Macallan

10:40 基調講演:マッカラン
Keynote: The Macallan
フェリペ・フェラーリ(ザ・マッカラン シニアマーケティング マネージャー)
Felipe Ferrari, Senior Marketing Manager, The Macallan

11:00 未完のビジネス:ガーディアン創刊200周年を祝うアーカイブの役割 Unfinished business: the archive's role in celebrating 200 years of The Guardian
フィリッパ・モール(ガーディアン・ニュース&メディア・アーカイブ部門長)
Philippa Mole, Head of the Guardian News & Media Archive

11:20 半世紀以上の「サン」:記念行事での取り組み
More than half a 'Sun-tury' - how The Times flies when working on anniversaries
アン・ジェンセン&マイケル・ジョン・ジェニングス(ニューズUK)
Anne Jensen and Michael-John Jennings, News UK

11:40 質疑応答
11:50 休憩

■セッションB:アウトリーチ、コラボレーション&パートナーシップ■
Session B: Outreach, collaboration & partnerships
司会:マイク・アンソンMike Anson(BAC)

12:05 リーバイス・アーカイブズの「ゴールドストーリー」:ビジネス・アーカイブズ活用の教訓
Gold stories from the Levi's Archives: lessons on using business archives.
トレイシー・パネック(リーバイスストラウス&カンパニーアーカイブ ディレクター)
Tracey Panek, Historian & Director, Levi Strauss & Co. Archives

12:25 ビジネス・アーカイブズ・コレクションを通じた社会的記憶の創造
Creating a social memory through the business archival collection.
キティ・バット(香港ランド アーカイブズ 部門長)
Kity But, Head of Archives, Hongkong Land Corporate Archives

12:45 歴史のためのAI:ヘネシーの例
AI at the service of history: The Hennessy example.
クリストファー・ケルモヴァント(テクリア)&ファビエンヌ・モロー(ヘネシー ヘリテージ部門長)
Christopher Kermovant, Teklia and Fabienne Moreau, Head of Heritage, Hennessy

13:05 質疑応答
13:15 昼食

■セッションC:アーカイブへの異なるアプローチ■
Session C: Different routes to your archive
司会:アマンダ・ノーブル Amanda Noble(BACS)

14:15 地域新聞アーカイブズの地域コミュニティにとっての価値
"They're gold": the value of local newspaper archives to communities
ラケル・マシューズ博士(コベントリー大学 研究&交流部門 副所長)
Dr Rachael Mathews, Associate Director for Research & Engagement at Coventry University

14:35 生存から繁栄へ:レキット・ヘリテージがビジネスケースを構築した方法
From surviving to thriving: how Reckitt Heritage built a business case
グレイス・チャップマン博士(レキット・ヘリテージ アドバイザー)
Dr Grace Chapman, Heritage Advisor, Reckitt

14:55 ビジネス・コレクションの商業的可能性の実現:クラークス・シューズの事例研究
Realising the commercial potential of a business collection: a case study of Clarks Shoe
ティム・クラムプリン(アルフレッド・ジレット・トラスト/靴職人博物館 ビジネスアーキビスト)
Tim Crumplin, Business Archivist, Alfred Gillet Trust/Shoemakers Museum

15:15 カラーでデザイン:国立スコットランド博物館のベルナート・クラインコレクション&アーカイブ
Design in colour: the Bernat Klein Collection & Archive at National Museums Scotland
リサ・メイソン(国立スコットランド博物館 現代デザイン部門 助手キュレーター)
Lisa Mason, Assistant Curator of Modern & Contemporary Design at NMS

15:35 質疑応答
15:45 休憩

■セッションD:ビジネス・アーカイブズの価値■
Session D: Value of business archives
司会:アマンダ・ノーブル Amanda Noble(BACS)

16:05 公益としての経営史保存事業
Preserving business history as a business itself - in the public interest
アンダース・ショーマン(ストックホルム経営史センター 顧客プロジェクト&コミュニケーション部門長)
Anders Sjöman, Head of Client Projects and Communication at the Centre for Business History in Stockholm

16:25 「偉大で古きもの」:スワイヤー・アーカイブズの管理を通じた価値創造
'Great and Ancient,' creating value through custodianship of the Swire Archives
マシュー・エドモンドソン(スワイヤー・アーカイブズ シニアアーキビスト)
Mathew Edmondson, Senior Archivist, Swire Archives

16:45 宝の山:デザインを洗練する場としてのRSHPアーカイブの役割
Goldmine: The RSHP Archive as design refinery
アイメ・ソーン・クラーク(RSHP / ロジャース・スターク・ハーバー+パートナー アーキビスト)
Aymée Thorne Clarke, Archivist, RSHP / Rogers Stirk Harbour + Partners

17:05 コラボレーションの冒険:初期のテレビ広告映画の公共・商業的価値を引き出す
Adventure in collaboration: unlocking potential of early TV advertising films for public and commercial good
デビッド・パウエル(DCトムソン&カンパニー)&ケイ・フービスター(スコットランド国立図書館ムービング・イメージ・アーカイブ)
David Powell, DC Thomson & Co Ltd and Kay Foubister, NLS Moving Image Archive

17:25 質疑応答および閉会の挨拶

17:40 懇親会(19時まで)


[関連ページ]
タウンズウェブ・アーカイビング
https://www.townswebarchiving.com/

プリザービカ
https://preservica.com/

ナオミ・コーン・アソシエイツ
https://naomikorn.com/

ザ・ガーディアン・ニューズ&メディア・アーカイブ
https://www.theguardian.com/gnm-archive

ニューズUK (イギリス国立公文書館ディスカバリーのページ)
https://discovery.nationalarchives.gov.uk/details/a/A13533062

香港ランド・コーポレーション
https://www.hkland.com/en

香港ランド・コーポレーション 歴史・マイルストーン
https://www.hkland.com/en/about-us/history-and-milestones

ヘネシー
https://www.hennessy.com/en-int

ヘネシー・メモワール
https://www.hennessy.com/en-int/stories/hennessys-memoirs

レキット社
https://www.reckitt.com/

レキット社 沿革
https://www.reckitt.com/our-company/our-history/
https://www.reckitt.com/our-stories/2021/our-story-our-heritage-our-future/

アルフレッド・ジレット・トラスト/靴職人博物館
https://alfredgilletttrust.org/

スコットランド国立博物館「ベルナート・クライン:カラーでデザイン」展ページ
https://www.nms.ac.uk/past-exhibitions/bernat-klein-design-in-colour

スワイヤー・パシフィック
https://www.swirepacific.com/en

スワイヤー・パシフィック ヘリテージ
https://www.swirepacific.com/en/about-us/heritage

スワイヤー・アーカイブズ(香港アーカイブズ・ソサエティ:香港档案学会の企業アーカイブズ・ディレクトリのページ)
http://www.archives.org.hk/en/page.php?pagename=archive_directory&id=36

RSHP
https://rshp.com/

RSHPアーカイブズ・サポートチーム
https://rshp.com/people/support-team/archives/

DCトムソン&カンパニー
https://www.dcthomson.co.uk/

DCトムソン&カンパニー 沿革
https://www.dcthomson.co.uk/about-us-2-2/

スコットランド国立図書館ムービング・イメージ・アーカイブ
https://www.nls.uk/collections/moving-image-archive/


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■行事情報:EASTICA(国際アーカイブズ評議会東アジア支部)セミナー
テーマ:「アーカイブズの新たな時代へ:課題と可能性」
     2024年11月12日
     KKRホテル竹橋(東京都千代田区)

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◎EASTICA(国際アーカイブズ評議会東アジア支部)セミナー「アーカイブズの新たな時代へ:課題と可能性」
http://www.eastica.net/home/sub.php?menukey=30090
https://www.archives.go.jp/about/activity/international/202411_EASTICA.html

ICAの東アジア地域支部(EASTICA)の年次会合が今年は東京で開催されました。一般にも公開されたセミナーは「アーカイブズの新たな時代へ:課題と可能性」をテーマとして、二つの基調報告と、メンバー国・地域の報告、さらにアーカイブズ機関等の活動報告の三つのセクションで構成されたものでした。

本通信では基調講演の概要と、その他の部分の発表タイトルをお伝えします。

■セッション1 基調講演■

(1) ジョン・シェリダン イギリス国立公文書館デジタル部長
「新しいフロンティア-AI時代のデジタルアーカイビング-」
https://www.archives.go.jp/about/activity/international/pdf/S1_10_EASTICA2024.pdf(PDF)

AIの進化がアーカイブズに与える影響と、その可能性について、講演では次のような点が議論されました。

AIの定義・本質は、人間の知能を模倣する技術であり、その実態はデータに基づく統計モデルやアルゴリズムの集合体である。特に、現在主流の機械学習(ML)や大規模言語モデル(LLM)は、膨大なデータセットを学習し、パターンを認識する能力に特化したもので、AIの性能は、学習データの質と量に依存し、人間のような創造性や意識を持つものではない、といいます。

AIはどのような問題でも解決できるという考えは誤解で、実際には画像認識や自然言語処理などの特定の用途で効果を発揮するに過ぎず、偏りのあるデータで学習したAIは同じ偏りを持った結果を出すリスクを持つ、すなわちAIが出力する結果は必ずしも正しいとは限らない。AIは一種の「ブラックボックス」であり、意思決定プロセスが不明瞭で、これは言い換えると透明性の欠如、ということになります。

AIが解決できる問題として、「記録の文脈化(Contextualization of Records)」の概念を用いて、これをAI活用の重要な分野と位置付けておられました。この概念は、記録が作成された背景や、それらがどのような人や出来事と関連しているかを明確にし、アーカイブズの価値を最大化することを目的としています。具体的には次の3点が上げられました。

・AIを活用して記録内の固有名詞(人物、場所、出来事)を特定し、それらを関連情報と結び付けることによって、記録の検索性を向上させ、利用者が文脈を理解しやすくする(エンティティの抽出とリンク)。
・AIを用いて既存の記録の記述をICAが開発したレコード・イン・コンテクスト(RiC)のフレームワークに変換する取り組みが進められており、これにより記録の意味をより明確に伝え、記録の有用性を高めることが目指されている(Records in Context(RiC)フレームワーク)
・記録の要約や関連情報を提示することにより、利用者が必要な情報を効率的に得られるようになる。これによりアーカイブズの役割が単なる記録の保管場所から、知識生成の拠点へと進化することができる(ユーザーエクスペリエンスの向上)。

AIの進化に伴い、記録の文脈化はアーカイブズにおける新しい可能性を切り開く鍵となっている一方、倫理やプライバシーの課題にも対処しつつ、適切に技術を活用していく必要がある。AIの導入に際しては、透明性と説明責任を確保するためのガイドラインや倫理的基準の策定が必要であることを強調しています。


(2) ジョセフィーン・シーキス オーストラリア国立公文書館(NAA)コレクション管理担当副館長
「ユーカリからさくらへ ―記録管理において花開く関係を育む―」
https://www.archives.go.jp/about/activity/international/pdf/S1_20_EASTICA2024.pdf(PDF)

セキス氏は、情報管理分野でのNAAの役割を中心に、アーカイブズの新時代における課題と可能性について語りました。NAAの構造や使命、特にデジタル技術と人工知能(AI)の統合に焦点を当てたものでした。

NAAは1983年の公文書館法に基づき設立され、オーストラリア政府機関の情報管理を主導する役割を担っています。記録の作成から廃棄までを支援し、政策や標準を提供するとともに、デジタル化や記録の保存を推進しています。さらに、NAAは、国民にとって価値ある記録を特定し保存することを使命とし、広範な記録をデジタル形式でも提供しています。

情報管理の課題として次の点を上げています。

・技術進化への対応:AIを含む先進技術を情報管理に統合し、効率化と透明性を実現。
・サイバーセキュリティとデータ管理:データ漏洩のリスクを減らしつつ、デジタル情報資産のライフサイクル全体を管理。
・人材不足と資源の限界:情報管理スキルを持つ人材が不足。
・記録の移管と保存:各機関からNAAへの記録移管が不十分であり、デジタル資産の最終処分。

NAAはAIの導入に積極的で、特にMicrosoft 365の「Co-pilot」機能を利用した記録管理の最適化を進めています。また、AI活用のガイドライン(ガードレール)を整備し、安全かつ責任ある運用を推進しているとのことです。これはAIが提供するデータ分析能力や効率化を情報管理に活用し、未来の記録管理基準を確立することを目指すものです。

NAAは過去にデジタル移行政策(DTP)を成功させ、全ての記録をデジタル形式で受け入れる基盤を築きました。今後は、「公記録への信頼構築」政策の延長や、いっそうの情報ガバナンスの強化が計画されています。また、国際的な連携を通じて、他国との知識共有や標準の策定にも力を入れる予定です。

講演では、情報管理が社会の透明性と信頼性を維持する鍵であることが強調されました。NAAはAIやデジタル技術の活用を通じて、効率的で倫理的な情報管理を追求し、未来のアーカイブズの在り方をリードしようとしていると講演を結んでいます。


■セッション2 国・地域別報告■

・ワン・ヤンミン 中国国家档案局科学技術情報部長
「情報化時代におけるアーカイブズの役割の変化」
https://www.archives.go.jp/about/activity/international/pdf/S2_10_EASTICA2024.pdf(PDF)

・テッド・チェン 香港政府档案処アーキビスト
「デジタル時代の課題を活用してアーカイブズの未来をより良いものに:政府档案処の事業と取り組みのハイライト」

・篠原佐和子 国立公文書館業務課電子公文書係長
「国立公文書館における電子公文書等の保存等に関する取り組み」
https://www.archives.go.jp/about/activity/international/pdf/S2_30_EASTICA2024.pdf(PDF)

・イ・ジヨン 韓国国家記録院シニアアーキビスト
「韓国の状況: 行政データセットとウェブ記録の管理への注力」

・デビー・チャン マカオ档案館上級技術者
「マカオにおける新時代のアーカイブズマネジメントの革新と発展」
https://www.archives.go.jp/about/activity/international/pdf/S2_50_EASTICA2024.pdf(PDF)

・チュルン・オユンチメグ モンゴル公文書管理庁研修調査部長
「モンゴルアーカイブの新時代: 課題と機会」


■セッション3 アーカイブズ機関等の活動紹介■

・池田功一 国立国会図書館電子情報企画課課長補佐
「国の分野横断型統合ポータル「ジャパンサーチ」について―取組と展望―」

・髙橋徳嗣 国立公文書館アジア歴史資料センター次長
「アジア歴史資料センターの紹介」

・森本祥子 全国歴史資料保存利用機関連絡協議会副会長
「全国歴史資料保存利用機関連絡協議会(全史料協)とは」

・保坂裕興 日本アーカイブズ学会会長
「日本アーカイブズ学会とは」

・サイモン・チュー EASTICA特別顧問
「EASTICAの2つの専門職養成プログラムの紹介―PCASとPDAS」


★☆★...編集部より...★☆★

EASTICAの年次会合はメンバー国・地域の基幹的な公文書館(国立公文書館など)が持ち回りでホストとなって開催されてきました。2023年は深圳(中国)、2024年は東京(日本)、2025年は韓国での開催が予定されています。

セッション3の講演者でもあるEASTICA特別顧問サイモン・チュー氏によると、EASTICA 設立のアイデアは、1992 年にモントリオールで開催されたICA大会の場で、中国、日本、マカオ、大韓民国によって最初に提案されたといいます。この提案は、モンゴル、香港、朝鮮民主主義人民共和国によって支持され、1993年7月7日に開催の北京で設立大会を開催、ICAの10番目の地域支部として正式に誕生しました。

EASTICAは、デジタル化の幕開け時代に生まれ、常にデジタルに関わる課題に取り組んできたと言えます。国を超えた連携であるEASTICAの活動は、アーカイブズを通じた東アジア全体の協調を促す枠組みとして、今後ますますの発展が期待されます。

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[関連ページ]
EASTICA
http://www.eastica.net/home/main.php

イギリス国立公文書館
https://www.nationalarchives.gov.uk/

イギリス国立公文書館「デジタル戦略: 2017年3月」
https://www.shibusawa.or.jp/center/ba/bunken/doc016_tna01.html

公益財団法人渋沢栄一記念財団 情報資源センター「解題:イギリス国立公文書館『デジタル戦略 : 2017年3月』」
https://www.shibusawa.or.jp/center/ba/bunken/doc017_tna02.html

オーストラリア国立公文書館
https://www.naa.gov.au/

国立公文書館(日本)
https://www.archives.go.jp/

中国国家档案局
https://www.saac.gov.cn/

韓国国家記録院
https://archives.go.kr/japan/index.jsp

香港政府档案処
https://www.grs.gov.hk/tc/

マカオ档案館
https://www.archives.gov.mo/cn

モンゴル公文書管理庁
https://www.gov.mn/en/organization/arhivin-erunhii-gazar

ジャパンサーチ
https://jpsearch.go.jp/

アジア歴史資料センター
https://www.jacar.go.jp/

全国歴史資料保存利用機関連絡協議会(全史料協)
https://www.jsai.jp/

日本アーカイブズ学会
http://www.jsas.info/


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[略称一覧]
ACA: Association of Canadian Archivists(カナダ・アーキビスト協会)
ARA: Archives and Records Association(アーカイブズとレコード協会)
ASA: Australian Society of Archivists(オーストラリア・アーキビスト協会)
BAC: Business Archives Council(ビジネス・アーカイブズ・カウンシル)
BACS: Business Archives Council in Scotland(スコットランド・ビジネス・アーカイブズ・カウンシル)
BAS: Business Archives Section(ビジネス・アーカイブズ部会:SAA内の部会)
CoSA: Council of State Archivists(米国・州文書館長評議会)
DCC: Digital Curation Center(英国デジタル・キュレーション・センター)
EDRMS: Electronic Document and Record Management System(電子文書記録管理システム)
ERM: Electronic Record Management(電子記録管理)
ICA: International Council on Archives(国際文書館評議会)
NAGARA: National Association of Government Archives and Records Administrators(米国・全国政府アーカイブズ記録管理者協会)
NARA: National Archives and Records Administration(米国 国立公文書館記録管理庁)
RIKAR: Research Institute of Korean Archives and Records(韓国国家記録研究院)
RMS: Record Management System(記録管理システム)
SAA: Society of American Archivists(アメリカ・アーキビスト協会)
SBA: Section for Business Archives(企業アーカイブズ部会、ICA内の部会)
TNA: The National Archives(英国国立公文書館)


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☆★ 編集部より:あとがき、次号予告 ★☆

本通信前号のあとがきでご紹介したゴードレージ・グループ・アーカイブズ主催、国際アーカイブズの日を記念して2024年6月7日に開催されたマスタークラスがユーチューブで一般公開されています。講師はフォード・モーター社アーカイブズ・ヘリテージブランド・マネージャー テッド・ライアン氏、タイトルは「企業環境での遺産活用:フォード・ヘリテージ・ヴォールトの事例」Bringing Heritage to Life in a Corporate Setting: The case of the Ford Heritage Vaultです。
https://www.youtube.com/watch?v=cOjsBcTIIMs

前号あとがき
https://www.shibusawa.or.jp/center/ba/bn/20240704.html#06

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eabh(欧州銀行金融史研究協会)の2025年の年次会合は、BNPパリバとパリ造幣局後援で、2015年6月12日にパリ市内で開催予定です。年次会合に合わせて開催されるワークショップのための発表を現在募集中です。
https://bankinghistory.org/wp-content/uploads/Legay_Call-for-Papers.pdf(PDF)

2025年度のワークショップのテーマは「アーカイブズ、モノ資料、専門的実践:企業遺産コレクションをどのように文脈化するか?」Archives, artefacts and professional practices: how to contextualize corporate heritage collections?です。

このワークショップは企業遺産の未来を形作るための過去の探求という視点から、銀行、貨幣、金融セクターにおける企業の歴史的コレクションのよりよい保存と活用のための収集、保存、分析と普及についての議論を予定しています。

「収集」では「企業の歴史的遺産を構成する文書類、モノ資料、無形の知識をどのように収集するか?」、「保存」では「作成過程の複雑さを考慮し、モノ資料を最適に保存するにはどうすればよいのか?」、「分析と普及」では「産業における『動作』や『ノウハウ』を長期間にわたりどのように記録すればよいのか?産業の記憶にどのようにアクセスできるのか?」を探ることを目指しているとのことです。

応募方法: 約250語の要旨と3行の簡単な経歴を事務局 Carmen Hofmann(c.hofmann★bankinghistory.org ★は@に変換)宛、2025年1月15日までに提出。採択通知は2025年2月末までに行われる予定。

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フォートナム&メイソン アーキビストのインタビュー

ロンドン地域に保管されている歴史的アーカイブズの整備と一般公開をサポートする教育慈善団体AIM25が2020年6月20日に行った、英国の百貨店大手フォートナム&メイソンのアーキビスト、(故)アンドレア・タナー氏のインタビューをご紹介します。
https://maxcommunications.co.uk/podcasts/andrea-tanner-fortnum-mason/

タナー氏がフォートナム&メイソンのアーキビストとなったのは偶然でした。20数年前、同氏の友人がディナーパーティーでフォートナム&メイソンの役員の隣に座っていました。この役員は「フォートナムの過去についてたくさんの問い合わせがあるけれど、それにどう答えればいいのかわからない。文書が残っていることは知っているけれど、それを活用していない。誰かその仕事を引き受けてくれる人を知っていますか?」と言い、友人であるタナー氏を紹介しました。最初は、ボランティアとして土曜日に誰もいないオフィスに行って、書籍をカタログ化したり、質問に答えたりするうちに、徐々に週1日、週2日、週3日となり、インタビュー当時は週4日(月曜、火曜、木曜、金曜)アーカイブズで働いて、水曜日はロンドン大学で教える、という1週間であると語っています。

フォートナム&メイソンの初代アーキビストとして、ゼロからアーカイブズの整理を始め、インタビュー時にはアーカイブズの保管、デジタル化、商品や歴史に関する資料の管理、メディア対応など、多岐にわたる仕事をこなしています。アーカイブズには物理的なアイテム(缶やパッケージなど)やカタログ、写真が含まれていますが、過去の資料の多くは二十世紀の二つの大戦で失われており、18世紀の情報が特に不足しています。そのため、彼女はデジタル化された資料や新聞を利用してギャップを埋めようと努力しています。特に過去のバイヤーや社員の記録に関心を持ち、伝記の作成にも取り組んでいます。

「過去の記録は、革新や新しいデザイン、新しい製品のためのインスピレーションとして活用されるべきであり、過去に縛り付けられるためのものではないのです」「アーカイブズはインスピレーションを与えるために存在しており、時には過去に何がうまくいかなかったのか、その理由を示す警告としての役割も果たすもので、これこそが本来の目的なのです」といった未来のためのアーカイブズという発言、「アーキビストはコミュニケーション業界の一員、情報の管理者であり、デザイナーであり、ストーリーテラーでもあります。そして、何が記憶されるべきかを決定する立場にある」というアーキビストの役割に関する意見が印象深いインタビューです。

またビジネス・アーカイブズ・カウンシル(BAC)のメンバーであり、さらに非公式な小売アーキビストのグループにも所属し、「こうした場で密接に協力し合い、いつもお互いのために役立つ情報を探しています」といいます。ハロッズ、ジョン・ルイス、バーバリーのアーキビストとは特に親しくしていると語っています。インタビューからは、アーキビストの横のつながりが、企業アーカイブズの成功に大切であることが伝わってきました。

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タナー氏は2014年にロンドンのユニリーバ・アーカイブズで開催されたICA/SBA会合に登壇し、2012年のエリザベス2世女王即位60周年を記念したセレモニーや記念商品の開発へのアーカイブズの貢献といった経験をシェアしてくれました。
https://www.shibusawa.or.jp/center/ba/bn/20140611.html

このインタビューの後、闘病生活に入り、2024年11月末、英国のアーカイブズ関係メーリングリストに訃報が投稿されました。AIM25サイトの追悼記事が、MAX Communications(AIM25のパートナー企業でデジタル化、アーカイブズのサポートを専門とする事業者)サイト掲載の上記のインタビュー(ポッドキャスト)を伝えています。

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次号は2025年2月発行予定です。
どうぞお楽しみに。

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◆◇◆バックナンバーもご活用ください◆◇◆

https://www.shibusawa.or.jp/center/ba/bn/index.html

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ビジネス・アーカイブズ通信(BA通信) No.103
2024年12月26日発行 (不定期発行)
【創刊日】2008年2月15日
【発行者】公益財団法人渋沢栄一記念財団情報資源センター
【編集者】公益財団法人渋沢栄一記念財団情報資源センター
      「ビジネス・アーカイブズ通信」編集部/
      株式会社アーカイブズ工房
【発行地】日本/東京都/北区
【ISSN】1884-2666
【E-Mail】
【サイト】https://www.shibusawa.or.jp/center/ba/index.html

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