ビジネス・アーカイブズ通信(BA通信)

第76号(2018年7月5日発行)

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☆      □■□ ビジネス・アーカイブズ通信 □■□

☆       No.76 (2018年7月5日発行)

☆    発行:公益財団法人 渋沢栄一記念財団 情報資源センター

☆                        〔ISSN:1884-2666〕
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この通信では海外(主として英語圏)のビジネス・アーカイブズ(BA)に関する情報をお届けします。

海外BAに関わる国内関連情報も適宜掲載しております。(今号は国内BA関連情報も掲載しております。)

今号は行事情報2件です。

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◆ 目次 ◆

[掲載事項の凡例とご注意]

■行事情報:中華人民共和国国家档案局(SAAC)主催、ICA/SBA協力 ビジネス・アーカイブズ・シンポジウム
◎テーマ:「アーカイブズが促進する企業イノベーションと成長」
     2018年5月16~17日
     中国銀行(中国・北京)

■行事情報:ICA/SBA、BAC共催 ビジネス・アーカイブズ国際シンポジウム
◎テーマ:「信頼」
     2018年11月14~15日
     TNA(イギリス国立公文書館、英国・ロンドン)

☆★ 編集部より:あとがき、次号予告 ★☆
     サステナビリティ、責任投資、ESG、SDGs、そして企業アーカイブズ

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[掲載事項の凡例]

・欧文の場合、日本語で読みやすいものになるように、タイトルははじめに日本語訳を、続いて原文を記します。
・人名や固有名詞の発音が不明の場合も日本語表記を添えました。便宜的なものですので、検索等を行う場合はかならず原文を用いてください。
・普通名詞として資料室や文書室、物理的な記録資料を表現する際は「アーカイブズ」を用います。固有名詞の場合はこの限りではありません。また物理的およびデジタル記録資料の蓄積や組織化に関しては「アーカイブ」「アーカイブ化」「アーカイビング」などの表現を用いることもあります。

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[ご注意]
・受信時にリンク先を示すURLが途中で改行されてしまう場合があります。通常のURLクリックで表示されない場合にはお手数ですがコピー&ペーストで一行にしたものをブラウザのアドレス・バーに挿入し、リンク先をご覧ください。


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■行事情報:中華人民共和国国家档案局(SAAC)主催、ICA/SBA協力 ビジネス・アーカイブズ・シンポジウム
◎テーマ:「アーカイブズが促進する企業イノベーションと成長」
     2018年5月16~17日
     中国銀行(中国・北京)

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◎ビジネス・アーカイブズ・シンポジウム「アーカイブズが促進する企業イノベーションと成長」
Business Archives Symposium, "Archives facilitate enterprise innovation and development"
企業档案工作国際研討会「档案助力企業創新与発展」

中国のアーカイブズ政策を策定し、実施の指導、監督にあたる同国国家档案局(SAAC)主催のビジネス・アーカイブズ・シンポジウムが、5月16日と17日の2日間にわたり、中国北京市内の中国銀行本店を会場に開催されました。参加者は海外からの発表者を含め、主催者発表では約120名でした。

今号ではプログラムと発表内容の概要をお伝えします。当日は中国語から英語への同時通訳がつきました。パワーポイントは中国語、外国人参加者には英語版プログラムの配布がありました。以下ではタイトル、人名、所属等を英語から翻訳したものを掲載します。SAACより本通信編集部に提供された中国語版プログラムに掲載されている人名とタイトルも併記しました。

【概要】

◆テーマ◆
アーカイブズが促進する企業イノベーションと成長:ビジネス・アーカイブズに関する国際会議
Archives Facilitate Enterprise Innovation and Development: International Conference on Business Archives
「档案助力企業創新与発展:企業档案工作国際研討会」

◆主催(Host)◆
中国国家档案局 State Archives Administration of China

◆事務局(Organizer)◆
中国銀行 Bank of China

◆事務局サポート(Co-Organizer)◆
国家電網公司 State Grid Corporation of China
国際档案理事会企業档案処 Section on Business Archives of ICA (ICA/SBA)


【プログラム】

◆5月16日(水)◆

■オープニング・セレモニー■

◇司会:中国国家档案局経科司司長 Director of Supervision Department of Archives and Records Offices, SAAC
王雁賓 Wang Yanbin

◇挨拶:中国銀行領導 Leader of Bank of China

◇挨拶:国際アーカイブズ評議会(ICA)会長 デイビッド・フリッカー
David Fricker(オーストラリア国立公文書館館長)
大衛・弗裏克 国際档案理事会主席、澳大利 亜国家档案館館長

◇挨拶:中国国家档案局副局長 Deputy Director General of SAAC
付華 Fu Hua


■第1セッション■

◇進行:王雁賓 Wang Yanbin
(中国国家档案局経科司司長 Director of Supervision Department of Archives and Records Office, SAAC)

◇発表1◇
タイトル:ICAとビジネス・アーカイブズ:イノベーションと成長を支える
タイトル原文:ICA and business archives: supporting innovation and growth/国際档案理事会及企業档案―支持創新発展
発表者:デイビッド・フリッカー David Fricker/大衛・弗裏克
所属等:
国際アーカイブズ評議会 International Council on Archives/国際档案理事会主席
https://www.ica.org/en
オーストラリア国立公文書館 National Archives of Australia/澳大利亜 国家档案館館長
http://www.naa.gov.au/
概要:
アーカイブズは社会の発展に大きく寄与するもので、特別な便益を社会にもたらす。2011年11月10日にユネスコの総会で採択された「世界アーカイブ宣言」ではビジネス・アーカイブズは資産であると言っている。企業のイノベーションと成長にとって、アーカイブズ管理は極めて重要な原理である。アーカイブズは、新しい知見を引き出すための情報資源であり、過去のものではなく、未来のためのものである。ビジネスにとっては、市場における差別化にアーカイブズが大いに役立つ。その意味で、組織の意思決定、イントラネット、インターネットといった領域で、常にアーカイブズのコンテンツは中心的な存在である。アーカイブズの意義は組織全体を支える力(ちから)ということができる。デジタル時代のアーカイブズは、アイテムレベルの記述によって力をさらに発揮する。データビジュアライゼーションやデータアナリシスなどである。一方、デジタル保存に関しては、アーカイブズ業界以外ではよく理解されていない。こういった価値を持つアーカイブズを専門的に扱うアーキビストは親組織の戦略といったものをよく理解している必要がある。そしてプロアクティブに業務に携わることが求められる。そして長期的にはアーカイブズは社会全体に寄与するのである。

※講演内容はオーストラリア国立公文書館サイトに全文が掲載されています。
http://naa.gov.au/about-us/media/speeches/archives-facilitating-enterprise-innovation-growth.aspx

◇発表2◇
タイトル:監督・管理の強化によって中国企業のアーカイブズ(档案)を発展させる
タイトル原文:Improving the archival development of Chinese enterprises by enhancing supervision and management/加強監督与管理、促進中国企業档案工作発展
発表者:付華 Fu Hua
所属等:
中国国家档案局副局長 State Archives Administration of China
http://www.saac.gov.cn/
概要:
企業アーカイブズ(档案館)に関する中国国家档案局の関わりについての講演。
(1)SAACの監督(supervision)機能について。中国には档案法や電子文書管理ガイドラインといったアーカイブズ(档案)分野で従うべき各種の規範が存在する。毎年各レベルで会議を行い、締め切りを設定する。中央レベル(国家レベル)でSAACがアーカイブズ(档案)保存に関する評価を行う。省レベルでも同様の規則を策定し、これに従うようにSAACが指導する。またランダムにサンプリングして、検査の結果を公開する。それが高品質な業務とよりよい労働条件につながる。SAACはアカウンタブルであるために各企業档案館のコンプライアンスを監督する。さらに学術交流(編者注:これは日本語で言うと、「学問的」というよりは、「専門職としての研修や交流」といった意味が近いように感じた)をセクターを超えて行っている。これによってコーディネーションを行う。討論し、ネットワーキングをし、問題点を共有する。このようなことをSAACが監督しながら、中国企業アーカイブズ(档案)界として行っている。
(2)標準化の重要性について。標準に関しては、SAACがガイダンス(指導)を提供している。電子文書管理、電子档案管理、デジタル化、情報化といった分野で様々な標準がある。これまでのやり方では情報化のニーズに応えていなかった。そこでSAACはハイテクノロジーでサポートされたアーカイブズ(档案)を作ろうと考えている。また新しい環境は新しい要件を必要とする。ファイリング等もアップグレードする必要がある。現在電子記録管理のパイロットプロジェクトを行っている。また2020年をめどに伝統的なアーカイブズ(档案)のデジタル化も進めている。地方のアーカイブズ(档案館)には計画の提出を求めている。アーカイブズ(档案)情報資源の利用にも取り組んでいる。ベストプラクティスを選定する取り組みもある。

◇発表3◇
タイトル:会社の記憶を継承することによって航空宇宙産業を発展させる
タイトル原文:Develop the aerospace industry by inheriting enterprises' memory/档案伝承記憶 弘揚航天精神 助推航天強国建設
発表者:龐海涛Pang Haitao
所属等:中国航天科技集団有限公司航天档案館館長
China Aerospace Science and Technology Corporation
http://english.spacechina.com/n16421/index.html (英語)
http://www.spacechina.com/n25/index.html (中国語)
概要:
アーカイブズ(档案)は、新しいビジネス環境に適応するため、航空産業の発展にとって欠かせない。中国では航空宇宙産業が始まって60年が経過した。アーキビストは記憶の記録者という重要な役割を果たしている。2016年から4月24日は「中国航天の日」と定められた。引退した人々から写真を集めたり、聞き取り(オーラル・ヒストリー)を行っている。特に60周年事業として、中国航空宇宙産業に関わった科学者の話を収集(文書とオーラル・ヒストリー)して刊行した。愛国主義とモチベーション喚起に役立つ。「チャイニーズ・ドリーム」の見本である。愛国のために重要な事業である。

◇発表4◇
タイトル:企業の歴史とアーカイブズへの投資はHSBCの戦略とブランドを直接的に支援する
タイトル原文:Investment in corporate history and archives provides direct support to HSBC's strategy and brand/支持企業暦史与档案事業助力匯豊銀行戦略与品牌発展
発表者:ヘレン・スウィナートン Helen Swinnerton/海倫・斯温納頓
所属等:HSBCアーカイブズ(中国・香港) HSBC Archives, Hong Kong,
China/香港匯豊銀行档案館館長
https://www.hsbc.com/about-hsbc/company-history/hsbc-archives
概要:
HSBCグローバル・アーカイブズはロンドン、香港、パリ、ニューヨークに全部で約20名のスタッフがいる。アーカイブズは従業員教育、顧客との関係の強化、地域社会とのつながりのために用いられている。顧客との関係の強化では、例えば行内の様々な部門の顧客をアーカイブズに招待し、HSBCのルーツをシェアする。地域社会とのつながりのために、スマートフォン用のヴィジュアル・アプリを開発した。これによって新しいオーディエンスをつかんだ。ただし、さらにこのアプリに投資するかどうか、短期的なプロジェクトで終わらせるかは現在検討中である。アーカイブズに関する、アーカイブズ資料を利用した、動画も作成した。展示スペースの物理的な展示をオンラインでアクセシブルにすることを検討中である。結論としては、HSBCにおいてアーカイブズは戦略的に重要な役割を果たしている。

◇発表5◇
タイトル:国家電網公司アーカイブズ(档案)の緊急サービスと推進業務
タイトル原文:Emergency service and promotion work of State Grid
Archives/応急服務彰顕価値、創新宣伝提振形象―国家電網公司档案応急服務与宣伝
発表者:周峰 Zhou Feng
所属等:国家電網公司辦公庁文档処処長 State Grid Corporation of China
http://www.sgcc.com.cn/ywlm/ (英語)
http://www.sgcc.com.cn/ (中国語)
概要:
四川省での大地震のへの緊急対応にアーカイブズ資源を利用した事例である。地震後20分以内に政府に対してアーカイブズ資源を緊急的に提供した。電源復旧が必要であったが、これに関連してアーカイブズのデータが利用された。また復旧状況の広報にも取り組んでいる。アーカイブズの重要性を知らせるために、災害時のアーカイブズの有用性を訴えるのは効果的である。

◇発表6◇
タイトル:積極的な探査と率先サービスが事業の発展を促進する
タイトル原文:Active exploration and initiative service boost business development/積極探索主動服務切実助力公司業務発展
発表者:劉俊 Liu Jun
所属等:国泰君安証券股份有限公司総裁辦公室主任助理兼档案管理総監
Guotai Junan Securities, China
http://www.gtja.com/content/gtja_en/index.html (英語)
http://www.gtja.com/i/ (中国語簡体字)
http://big5.gtja.com/i/ (中国語繁体字)
概要:
国泰君安証券は有力証券会社として2008年には格付け会社によってAランクに格付けされた。顧客に関するアーカイブズ(档案)の統合管理への移行を行った事例を発表。以前のアーカイブズ(档案)管理システムにはいくつか難点があった。毎日新しい商品が出てくることにうまく対応できないこと、アカウントを開設するときはオリジナル店舗に行かないと開設できないこと(もっと効率化が必要)、さらに監査ではコンプライアンス・リスク管理において、サンプリングチェックでは十分でないことが指摘されていた。新しいシステムでは、本店のアーカイブズ(档案)管理システムにアクセスすればよく、オリジナルな店舗に行く必要がなくなる。AIや新しい技術を活用するものである。全国360の支店で顧客に対して高品質なサービスを提供できるようになった。データが異なっていればオンラインとオフラインでダブルチェックするが、このチェックの手間は莫大である。これも改善して、デジタル化による大規模データベースを構築した。経営陣はアーカイブズ(档案)の重要性を認識している。
(質疑応答で)業務システムとアーカイブズ(档案)システムは別である。ただしアカウントナンバー、IDナンバーを入力すれば必要情報を得ることができる。


■第2セッション■

◇進行:ヘレン・スウィナートン Helen Swinnerton/海倫・斯温納頓
(HSBCアーカイブズ、中国・香港 HSBC Archives, Hong Kong, China/香港匯豊銀行档案館館長)

◇発表7◇
タイトル:国際アーカイブズ評議会企業アーカイブズ部会(ICA/SBA)紹介と日本の企業アーカイブズの概要:特に渋沢栄一記念財団との関連で
タイトル原文:An Introduction to the Section on Business Archives in International Council on Archives (ICA SBA) and an Overview of Japanese Corporate Archives: With Special Reference to the Shibusawa Eiichi Memorial Foundation/国際档案理事会企業档案処介紹、日本企業档案工作和渋沢栄一紀念基金会概況
発表者:松崎裕子 Yuko Matsuzaki
所属等:渋沢栄一記念財団情報資源センター
Information Resources Center, Shibusawa Eiichi Memorial Foundation/日本渋沢栄一紀念基金会档案専家
概要:
ICAの設立(1948年)以降、極めて初期の時代からビジネス・アーカイブズに対する関心が存在した。1976年にビジネス・アーカイブズ委員会が設置され、これは1988年にビジネスと労働アーカイブズ部会(SBL)に再編された。部会活動には長ら労働アーカイブズ関係者が不在であったため、2014年秋に名称をビジネス・アーカイブズ部会(SBA)に変更した。近年のSBAの活発な活動の中心は年次シンポジウムである。アーカイブズがどのようにビジネスに貢献するのか、そのベストプラクティスを学び合い、ネットワーキングを行う場である。日本では渋沢栄一記念財団が渋沢栄一の「道徳経済合一説」の現代的実現、企業文化向上のためのアーカイブズの役割に注目し、2008年度よりSBA(SBL)に参加し、諸外国の企業アーカイブズの動向を日本の企業アーカイブズ関係者に伝えると同時に、日本における企業アーカイブズの優良事例をSBAのシンポジウムやICAコングレスで海外に紹介してきた。そのなかから、トヨタ自動車アーカイブズグループ、資生堂企業文化部・資生堂企業資料館、花王ミュージアム・資料室、森永製菓史料室のアーカイブズ活用のハイライトを紹介した。

◇発表8◇
タイトル:アーカイブズ(档案)管理がICBCの信用管理手続きのイノベーションを前進させる
タイトル原文:Archives management advances ICBC's credit management procedure innovation/档案管理支持工商銀行経営管理創新
発表者:卞俊峰 Bian Junfeng
所属等:中国工商銀行総行辦公室副主任 Industrial and Commercial Bank of China
http://www.icbc-ltd.com/icbcltd/en/ (グローバル英語サイト)
http://www.icbc.com.cn/ICBC/default.htm (中国語簡体字)
http://www.icbc.com.cn/ICBC/default.htm (中国語繁体字)
概要:
中国工商銀行(ICBC)は2006年に株式会社化した。香港と上海の株式市場に上場している。アーカイブズ(档案室)に求められている新たな任務は、ガイダンスとマネジメントを下位レベルに提供することである。会社の変化(トランスフォーメーション)に対応して、アーカイブズ(档案)管理も標準化を進め、検索能力を上げる必要がある。同行では、信用(credit)リスクの管理、信用手続き革新が追及されてきた。それに伴ってクレジット・アーカイブズ(档案)のコスト削減、標準化、現代化が進められてきた。更なる電子化を進め、ビックデータ時代に備えるために、システムの更新、一層の標準化推進を追及している。

◇発表9◇
タイトル:わたしたちのルーツに立ち返ることによって成長を拡大する:リーバイ・ストラウス・アーカイブズからの教訓
タイトル原文:Amplifying growth by going back to our roots: lessons from the Levi Strauss & Co. Archives/尋本遡源、推動企業成長―李維・斯特労斯公司企業档案工作
発表者:トレイシー・パネック Tracey Panek/特雷西・帕內克
所属等:リーバイ・ストラウス ヒストリアン Levi Strauss & Co. Historian, USA/美国李維・斯特労斯公司 档案専家
http://www.levistrauss.com/
概要:
リーバイ・ストラウス社の創業者が同社のブルージーンズに関わる最初の特許を取得した記念すべき日が、1873年5月20日であった。社内アーカイブズは2019年に部署設置30年を迎える。リーバイ・ストラウスのアーカイブズは次の3つの点で企業のイノベーションと成長を支えている。(1)会社の戦略につながること。同社では3年前にブランドの立て直しにとりかかった。その戦略の一つとして、アーカイブズにメディアを招いた。自社のアーカイブズに関わる1本の記事が600程度引用される成果を得た。(2)クリエイティブなセールス・マーケティング。サステナビリティに関連して、ブルージーンズの洗濯に必要な水量を減らすイノベーションがあったのだが、これをアーカイブズのストーリーとしてセールス・マーケティングに利用した。オリンピック時には、過去のオリンピックでリーバイ・ストラウスがユニフォームを提供したストーリーを提供した。さらにウェブサイトでは、アーカイブズ(資料)のメタデータを共有し、これもセールス・マーケティングに貢献している。(3)製品のイノベーション自体がオリジナルなアーカイブズ資料(アーカイブズが管理する過去製品)を参照して生まれることがある。

◇発表10◇
タイトル:アーカイブズ(档案)管理の革新によってスカイレール(モノレールシステム)の産業競争力を押し上げる
タイトル原文:Develop Skyrail industrial competitiveness by archives management innovation/創新360度文档管理模式―促雲軌産業競争力
発表者:王亜蘭 Wang Yalan
所属等:比亜迪股份有限公司集団文档中心主任 BYD Auto Company Limited , China
http://www.byd.com/sites/byd/en/index.html (グローバル英語サイト)
概要:
比亜迪自動車は2016年からスカイレール(モノレールシステム)事業に取り組んでいる。同社会長は2025年には競争文化を社内に完全に根付かせることを方針として掲げている。これと並行して文書情報管理システム=創新360度文档管理模式(360°Skyrail Document Management Mode)の革新も進めている。具体的にはアーカイブズ(档案)の情報化、コンピュータ化、人材養成その他である。
(質疑応答で)新入社員はアーカイブズ(档案)に関連して、どのようにデータを管理し、情報をコントロールするのかを学ぶ。特にライフサイクルに関して。


■国家電網公司档案館(アーカイブズ)見学■

1日目のプログラムの最後は、国家電網公司档案館(Archives of State Grid Corporation of China)の見学でした。

国家電網公司は2002年12月29日創業の国有企業で、送電設備の建設と運営を主たる事業としています。国家電網は、中国国土の88%をカバーする26省(自治区と直轄市含む)の11億を超える人々に送電サービスを提供しています。2017年末の総資産は6,000億米ドル(約66兆円)、営業収入は3,600億米ドル(約40兆円)です。2017年にはフォーチュン500の第2位にランク付けされました。フィリピン、ブラジル、ポルトガル、オーストラリア、イタリア、ギリシャ、香港に655億米ドル(約7兆2000億円)の海外資産を保有し、海外投資額は196億米ドル(約2兆1500億円)。

国家電網公司档案館は2011年6月30日オープン。中国国内における一流企業アーカイブズ、世界では一流の電網アーカイブズを目指しています。同館は「三つのセンター、一つの窓口」(三箇中心、一箇窓口)を掲げています。三つのセンターとは国家電網公司重要档案保管センター、档案情報資源データセンター、档案開発利用サービスセンター、一つの窓口は企業イメージと社会的責任のための窓口を指しています。档案館には三つの部門、すなわち「档案保護のための資源技術部門」、「開発利用部門」、そして「情報技術応用部門」があります。同館のミッションは、国家電網公司本社と支社、関連会社の档案のうち、「四つの主要なものと一つのモデル」(四重一典)つまり、主要な業務、主要な行事・出来事、主要な達成、主要なプロジェクトと模範人物に関する档案の収集、整理、保存、研究を行うことです。

住所:北京市西城区南横東街8号都城大厦2层
郵便番号:100052
電話:010-63414688
FAX:010-63414682


◆5月17日(木)◆

■第3セッション■

◇進行:劉左 Liu Zuo
(兵器工業档案館館長 Director of China Weapon Industry Corporation Archives)
※参考サイト
https://baike.baidu.com/item/%E4%B8%AD%E5%9B%BD%E5%85%B5%E5%99%A8%E5%B7%A5%E4%B8%9A%E6%80%BB%E5%85%AC%E5%8F%B8
(中国兵器工业总公司に関する百度記事)
https://baike.baidu.com/item/%E4%B8%AD%E5%9B%BD%E5%85%B5%E5%99%A8%E5%B7%A5%E4%B8%9A%E6%A1%A3%E6%A1%88%E9%A6%86/7443159
(中国兵器工业档案館に関する百度記事)

◇発表11◇
タイトル:アーカイブズ(档案)情報マイニングによって100年の歴史を持つブランドの価値を高める
タイトル原文:Promote century-old brand value by archival information mining/挖掘档案信息資源、提升百年品牌価値
発表者:張筠 Zhangyun
所属等:中国銀行辦公室档案管理団隊主管 Bank of China
http://www.boc.cn/en/ (グローバル英語サイト)
概要:
中国銀行は人民銀行から分かれたもので、中国の銀行で唯一100年以上の歴史を持つ銀行である。外国為替銀行。アーカイブズでは展示もするし、2012年には大規模な100周年記念事業を行った。ブランディング、企業文化、企業アイデンティティの面で、銀行に貢献してきた。銀行の顧客がアーカイブズの展示スペースに来ることもある。

◇発表12◇
タイトル:ロシア国民経済アーカイブズにおける業務経験と現在のロシアの法律枠組みにおける企業活動
タイトル原文:Working experience of Russian National Economic Archives and Business Enterprises in current Russian legal framework/現代俄羅斯法律框架下俄羅斯国家経済档案館与商業机構的工作経験
発表者:葉蓮娜・秋裏娜・亜暦山徳羅夫娜 Elena Yurina
所属等:ロシア国民経済アーカイブズ Russian National Economic Archives/俄羅斯 国家経済档案館館長 
概要:(露語からの通訳がなかったため不明)

◇発表13◇
タイトル:文書基盤を固め、業務コンプライアンスを支援する
タイトル原文:Consolidate the document foundation, support the business compliance/夯実文档基礎助力業務合規
発表者:鐘徳和 Zhong Dehe
所属等:華為技術有限公司基建質量与運営部文档模塊経理 HUAWEI Technology Co., Ltd., China
https://www.huawei.com/jp/ (日本語)
https://www.huawei.com/en/ (英語)
https://www.huawei.com/cn/ (中国語簡体字)
概要:
Huaweiの文書管理システムについて。人材不足であり、現在リクルートに取り組んでいる。アーカイブズ(档案)管理では、全部を管理するのは難しい。そこで、プロジェクトドキュメントの場合、キー・ドキュメントを選び管理している。外部コントラクターを利用している。毎月40程度のプロジェクトを行っている。ドキュメントのデジタル化も行っているが全部をデジタル化するならばコストがかかる。(質疑応答の中での発言)海外の事業の文書は、国内と同様に扱う。グローバルなプラットフォームを使っている。文書管理システムは内製ではなく外注ししたものを自分たちで統合している。不具合が見つかったら再設定する。1プロジェクトに10人程度の担当者がいる。プロジェクトチームはアドホックに作られる。

◇発表14◇
タイトル:ポーランドにおけるビジネス・アーカイブズ:現況とイノベーションの可能性
タイトル原文:Business archives in Poland: current state and potential for innovation/波蘭企業档案工作現状和創新潜力
発表者:トマシュ・オレイニチャック Tomasz Olejniczak/託馬斯・奥雷尼扎克
所属等:コズミンスキ大学(ポーランド・ワルシャワ) Kozminski University, Warsaw, Poland/科茲明斯基大学管理学系
https://www.kozminski.edu.pl/en/
ICA/SBAメンバー/国際档案理事会企業 档案処委員
https://www.ica.org/en/member/13470
概要:(ポーランドのアーカイブズに関わる講演内容は次号で詳しくお伝えします。)
トマス・オレイニチャックさんはワルシャワ大学卒業後(日本研究)、東京大学で経営学の修士号を取得し、その後2012年よりワルシャワのコズミンスキ大学経営学部の教員となり、2014年に同大学から経営学博士号を取得しています。日本の文部科学省と国際交流基金のリサーチ・フェロー。2015年よりICA/SBAのメンバー。

◇発表15◇
タイトル:アーカイブズ(档案):原因を探ることによって品質を管理し、革新的な方法で売り上げを伸ばす
タイトル原文:Archives: control quality by tracing sources, boost sales by innovative ways/档案追根遡源控質量、創新利用助銷售
発表者:楊高敏 Yang Gaomin
所属等:中国中化集団有限公司辦公庁行政 服務中心档案主管 Sinochem Group,China
http://english.sinochem.com/ (英語)
http://www.sinochem.com/ (中国語)
概要:
1950年の創業以来中国中化集団ではアーカイブズ(档案)業務を重視してきた。発表では、グループ会社の一つで不動産開発を行う中国金茂控股集団有限公司の事例を取り上げた。同社では不動産開発・販売において、社内のさまざまな部署がアーカイブズ(档案)を利用している。販売関係での展示などを通じて、アーカイブズ(档案)は売り上げ向上に寄与している。(質疑応答の中での発言)90以上のプロジェクトを行っており、アーカイブズ(档案室)には200人以上のスタッフがいる。表彰制度を持っている。ベストプラクティスを共有するとともに、研修制度も重視しており互いに学び合う。


■中国銀行本店建築と行史陳列館(歴史展示室)見学■

シンポジウムの会場となった中国銀行本店は、2012年に創業100周年を迎えた中国を代表する商業銀行です。建物は中国出身で米国人のI・M・ペイの設計によるものです。建築家の父親が同行の幹部であったという縁による、という説明を受けました。
http://www.boc.cn/

また100周年を記念して開設された行史陳列館(歴史展示室)は創業以来の重要档案を展示するスペースです。中国銀行の行名は郭沫若の書で、その原本や、毛沢東による社内報題字といった展示物が印象に残りました。

行史陳列館は一般への公開は行っておらず、特別な顧客などに見学ツアーを提供しているということでした。英語で展示解説をしてくれたガイドは、学芸員などの専門職ではなく、一般の行員で、英国ロンドン駐在経験があるという女性でした。こういったガイドは、ボランティア活動にあたるという説明を受けました。


■中国第一歴史档案館見学■

二日目最後のプログラムは、故宮内にある国家档案局直属の中国第一歴史档案館の見学でした。ここには明清時代の歴史的文献が所蔵されています。孫森林館長のご案内で書庫の中を見学しました。科挙能力合格者リストである大金榜が目に留まりました。インターネットでも公開されています。
http://www.lsdag.com/nets/lsdag/page/article/Article_224_1.shtml

住所:北京故宮西華門内中国第一歴史档案館


[関連ページ]
SAAC シンポジウムに関する報告記事
http://www.saac.gov.cn/news/2018-05/22/content_236263.htm

SAAC
http://www.saac.gov.cn/

国家電網公司
http://www.sgcc.com.cn/ (中国語簡体字)
http://www.sgcc.com.cn/ywlm/index.shtml (英語)


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■行事情報:ICA/SBA、BAC共催 ビジネス・アーカイブズ国際シンポジウム
◎テーマ:「信頼」
     2018年11月14~15日
     TNA(イギリス国立公文書館、英国・ロンドン)

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◎ビジネス・アーカイブズ国際シンポジウム「信頼」
International Business Archives Symposium
Theme: Trust
https://www.businessarchivescouncil.org.uk/activitiesobjectives/conference/

2018年度のICA/SBAの公式シンポジウムは、イギリスのビジネス・アーカイブズ・カウンシル(BAC)との共催で、11月14、15日の2日間、ロンドンの英国国立公文書館(TNA)で開催されます。テーマは「信頼」です。

プログラム委員会では次のような視点から「信頼」について議論することを考えています。

(1)記録への信頼 Trust in the record
・私たちは記録を証拠(エビデンス)として保持する。しかし、ある記録が歴史を表している(a record represents history)と、どのように知ることができるのか? あるいは、ある記録が真正なものかどうかを、どのように知ることができるのか(とりわけデジタル時代には)? フェイク・ニュースによって記録への信頼は損なわれたか?

(2)アーカイブズ・サービス(アーカイブズ部署の業務)への信頼 Trust
in the archive service
・信頼されるサービスをどのように提供することができるか? イギリスではいくつかの企業アーカイブズが最近認証された(gained 'Accredited' status)。認証によってアーカイブズはさらに信頼されるのか? 信頼しうるデジタル保存策はどのようなものか、どのように運用するのか?

(3)ビジネスへの信頼 Trust in the business
・銀行や他の組織、例えばフェイスブック、石油会社などは信頼されていない。そういった組織のアーカイブズは、どのように組織に対する信頼獲得をサポートすることができるのか? あるいは、もしかしたら「公式な」アーカイブズではそのようなことは不可能で、コミュニティ・アーカイブズが(信頼されていない企業の)ストーリーを取り上げる必要があるのだろうか?

(4)国境をまたいだ信頼 Trust across boundaries
・「信頼」は国によって意味が異なるのだろうか? 本国とは異なった法律を持つ国々への情報伝達はいかに信頼されるのか?


[関連ページ]
ICA/SBA
https://www.ica.org/en/section-on-business-archives-sba

BAC
https://www.businessarchivescouncil.org.uk/

TNA
http://www.nationalarchives.gov.uk/

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[略称一覧]
ACA: Association of Canadian Archivists(カナダ・アーキビスト協会)
ARA: Archives and Records Association(アーカイブズとレコード協会)
ASA: Australian Society of Archivists(オーストラリア・アーキビスト協会)
BAC: Business Archives Council(ビジネス・アーカイブズ・カウンシル)
BACS: Business Archives Council in Scotland
(スコットランド・ビジネス・アーカイブズ・カウンシル)
BAS: Business Archives Section
(ビジネス・アーカイブズ部会:SAA内の部会)
CoSA:Council of State Archivists(米国・州文書館長評議会)
DCC: Digital Curation Center(英国デジタル・キュレーション・センター)
EDRMS:Electronic Document and Record Management System
(電子文書記録管理システム)
ERM:Electronic Record Management(電子記録管理)
ICA: International Council on Archives(国際文書館評議会)
NAGARA: National Association of Government Archives and Records
Administrators
(米国・全国政府アーカイブズ記録管理者協会)
NARA: National Archives and Records Administration
(米国 国立公文書館記録管理庁)
RIKAR: Research Institute of Korean Archives and Records
(韓国国家記録研究院)
RMS:Record Management System(記録管理システム)
SAA: Society of American Archivists(アメリカ・アーキビスト協会)
SBA: Section for Business Archives
(企業アーカイブズ部会、ICA内の部会)
TNA: The National Archives(英国国立公文書館)

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☆★ 編集部より:あとがき、次号予告 ★☆

CSRやサステナビリティといった分野で、ここ数年目にするようになった言葉の一つに「責任投資」があります。これは利益を追求する企業が、その目的を遂行するなかで、社会の持続可能性に積極的に関わることを推奨する考え方といえます。具体的に言うならば、"一連の事業活動の過程から、環境破壊や社会的にアンフェアな慣行、不透明なガバナンスといった要素を取り除いた、公益に寄与する企業"への投資を勧めるという考え方です。そのような企業への投資が拡大すれば、当該企業の企業価値が高まり、将来への投資につながるわけです。ここで「環境破壊や社会的にアンフェアな慣行、不透明なガバナンスといった要素を取り除いた」と述べている部分は、いわゆるESG(Environment, Society, Governance)といわれるプラットフォームです。

その背景には次のようなグローバルな動きがあります。2015年9月25日、第70回国連総会で「持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals: SDGs)」計画が採択されました。これは2030年までに極度の貧困や不平等・不正義をなくし、地球を保護することを目標とするものです。またそれに先立ち、同月16日、日本の年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)は、国連責任投資原則(UN PRI)へ署名しています。GPIFの運用資産額は162兆6,723億円(2017年第3四半期末現在)にのぼるため、これ以降、日本企業においてもESGに対する取り組みへの注目が高まっています。
http://www.gpif.go.jp/topics/2015/pdf/0928_signatory_UN_PRI.pdf (PDF)
http://www.gpif.go.jp/operation/highlight.html

ICA/SBAが2016年の米国アトランタでの国際シンポジウムのテーマを「サステナビリティ」(持続可能性)としたのもこのような世界の動向を取り入れたものと言えます。
https://www.shibusawa.or.jp/center/ba/bn/20160525.html#02

ただし、ESGは非財務的な要素であり、直接金銭価値として計れず、それがどのように利益につながるのか、企業経営の側からするとはっきりしません。ですから、(サプライチェーン全体ではなく)自社に限った企業活動が法令に違反しない限り、特に関わる必要、取り上げる必要はない、と考えることもできますし、そのように考えてきた企業が大部分ではないでしょうか。

そのような中、ビジネスと人権に関わるシンポジウムが開催されることを知り、参加してみました(共催:上智大学、グローバル・コンパクト・ネットワーク・ジャパン、EYジャパン、ジェトロ・アジア経済研究所)。人権はダイバーシティなどとならび、ESGでは「社会」に関わるものと考えられています。
https://www.sophia.ac.jp/jpn/news/PR/2018/UNWeeksJ2018.html#UNW2018J0607

第一部の「人権尊重を促進する金融の役割」では学校法人上智学院経営企画担当理事(三菱UFJ信託銀行出身)の引間雅史さんのお話があり、それによると、ESG投資は世界全体で24兆ドル、世界の運用資産の26%を占めるとのことです。内訳は欧州が52%、米国が38%(合計で9割を超える)、日本は0.5%です(アジア地域の数字は不明)。日本の場合、環境への投資が多く、ガバナンスと社会への投資が少ないということです。編集部が注目したのは第二部「海外のサプライチェーンにおける人権課題」でパネリストをつとめられた株式会社花王経営サポート部門サステナビリティ推進部長柳田康一さんのお話でした。同社は2014年に、人権方針を持たないため先住民への人権配慮に対応できていないというコメントをNGOから受け、翌2015年には花王人権方針を策定しました。このことは、経済活動がグローバル化した結果、自社プロダクトの生産プロセスには、自社以外のいくつものサプライヤーがかかわっており、そのサプライチェーン全体におけるESGに企業は目を向ける必要があることを示しています。同社はさらに、今年2018年年頭、ESGを強化するという社長のコメントが発表しています。柳田さんによると、このような会社の方針は、創業者長瀬富郎の「正道を歩む」という考え、またそれを経営理念として明確化した「花王ウェイ」によって支えられているというお話でした。
https://www.kao.com/jp/corporate/investor-relations/management-information/top-message/

なお、シンポジウムで何度も言及された、2015年3月に英国議会で法制化された現代奴隷法(Modern Slavery Act 2015)についても留意する必要があるでしょう。同法は、英国で活動する企業で、世界での売上高が3,600万ポンド(約50億円)を超えるところに対し、自社のサプライチェーンにESGの点で問題がないことを確認し開示することを求めています。これによって、日本企業も続々と自社ウェブサイトにて同法を順守している旨を開示している状況です。
(例)アサヒグループホールディングス
http://www.asahigroup-holdings.com/company/governance/humanright.html#modernslavery

(余談ですが、同法は保守党の国会議員James Brokenshire提案による立法です。日本の政治の文脈からは意外な感じを受けました。)

本通信の編集部では、2015年のミラノでのICA/SBA国際シンポジウムにおいて、展示施設を持たない企業のアーカイブズが非営利の博物館と連携して所蔵資料を展示に利用する事例を発表したことがあります。この時の発表では、森永製菓史料室とたばこと塩の博物館のコラボレーションが、森永製菓のIR(投資家向け広報)に利用されている点を、ESGの観点から優良事例の一つとして位置づけました。
https://www.shibusawa.or.jp/center/ba/bunken/doc005_angel.html

企業アーカイブズを自社のESGにどのように、どの程度活用しうるのか、あるいは利用価値がないのか、明確な答えは出ていません。しかし、近年の企業社会を取り巻く環境変化のなかで、「責任投資」を念頭においてアーカイブズの整備と活用を進めることには意義があると編集部は考えます。かねてより会社史の執筆者たちは、失敗の記録の経営に対する有用性を指摘してきました。サステナビリティが企業経営の課題となった今日の文脈にこの主張をおいてみましょう。この文脈では、ESGに関わる各種ポリシーの策定やデューディリジェンスといったものが必要とされます。その場合、それぞれの会社に固有の将来のリスク予測、あるいはポリシーの策定にとって、過去の失敗の記録は極めて有用な情報価値を持つものであろうと当編集部では考えます。

[参考ページ]

「花王アーカイブズと花王ウェイ:ビジネス環境の変化の中におけるアーカイブズと企業アイデンティティー」
https://www.shibusawa.or.jp/center/ba/bunken/doc008_kao_way.html

GPIFのESG投資に関するページ
http://www.gpif.go.jp/operation/esg.html

「責任投資原則」(英語)
https://www.unpri.org/

三和良一(青山学院大学名誉教授)「会社史への提言:『社史』の可能性」
https://www.jbhi.or.jp/teigen_miwa.html

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次号は2018年7月下旬発行の予定です。どうぞお楽しみに。

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ビジネス・アーカイブズ通信(BA通信) No.76
2018年7月5日発行 (不定期発行)
【創刊日】2008年2月15日
【発行者】公益財団法人渋沢栄一記念財団事業部情報資源センター
【編集者】公益財団法人渋沢栄一記念財団事業部情報資源センター
      「ビジネス・アーカイブズ通信」編集部/
      株式会社アーカイブズ工房
【発行地】日本/東京都/北区
【ISSN】1884-2666
【E-Mail】
【サイト】https://www.shibusawa.or.jp/center/ba/index.html

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