ビジネス・アーカイブズ通信(BA通信)

第73号(2017年10月18日発行)

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☆      □■□ ビジネス・アーカイブズ通信 □■□

☆       No.73 (2017年10月18日発行)

☆    発行:公益財団法人 渋沢栄一記念財団 情報資源センター

☆                        〔ISSN:1884-2666〕
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この通信では海外(主として英語圏)のビジネス・アーカイブズ(BA)に関する情報をお届けします。

海外BAに関わる国内関連情報も適宜掲載しております。(今号は国内BA関連情報も掲載しております。)

今号は行事情報4件、文献情報1件です。

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◆ 目次 ◆

[掲載事項の凡例とご注意]

■行事情報:ICA/SBA主催 ビジネス・アーカイブズ国際シンポジウム
◎テーマ:「ビジネス・アーカイブズの未来の役割」
     ワークショップ・セッション「これから5年間、私たちにとっての一番の課題は何か?」
     2017年4月5日 エリック・エリクソン・ホール(スウェーデン・ストックホルム)

■行事情報:アメリカ・アーキビスト協会(SAA)ポートランド大会 ビジネス・アーカイブズ関連セッション
     2017年7月23~29日(米国オレゴン州ポートランド)

■行事情報:ビジネス・アーカイブズ・カウンシル(BAC)年次大会
◎テーマ:「記録についての考えを新たに(同じことの繰り返しをやめよ)」 2017年11月21日
     ハーパーコリンズ出版(イギリス・ロンドン)

■行事情報:ICA/SBA主催 ビジネス・アーカイブズ国際シンポジウム ウェブサイト開設
◎テーマ:「ゴーイング・バック・トゥー・ザ・フューチャー:ブランド・アイデンティティと企業文化の再形成における企業アーカイブズの役割」
     2017年12月4~6日 ゴードレージ・アーカイブズ(インド・ムンバイ)

■文献情報:「デジタルアーカイブ学会第2回定例研究会」発表資料
     2017年8月21日、岐阜女子大学

☆★ 編集部より:次号予告 ★☆


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[掲載事項の凡例]

・欧文の場合、日本語で読みやすいものになるように、タイトルははじめに日本語訳を、続いて原文を記します。
・人名や固有名詞の発音が不明の場合も日本語表記を添えました。便宜的なものですので、検索等を行う場合はかならず原文を用いてください。
・普通名詞として資料室や文書室、物理的な記録資料を表現する際は「アーカイブズ」を用います。固有名詞の場合はこの限りではありません。また物理的およびデジタル記録資料の蓄積や組織化に関しては「アーカイブ」「アーカイブ化」「アーカイビング」などの表現を用いることもあります。

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[ご注意]
・受信時にリンク先を示すURLが途中で改行されてしまう場合があります。通常のURLクリックで表示されない場合にはお手数ですがコピー&ペーストで一行にしたものをブラウザのアドレス・バーに挿入し、リンク先をご覧ください。


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■行事情報:ICA/SBA主催 ビジネス・アーカイブズ国際シンポジウム
      「ビジネス・アーカイブズの未来の役割」
      ワークショップ「これから5年間、私たちにとっての一番の課題は何か?」
      2017年4月5日
      エリック・エリクソン・ホール(スウェーデン・ストックホルム)

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◎ワークショップ「これから5年間、私たちにとっての一番の課題は何か?」
In 5 years, what will our main challenges be?
http://naringslivshistoria.se/en/cfn-news/ica-sba-17-5-years-will-challenges/
アンダース・ホルツ Anders Houltz

30か国、130人あまりのビジネス・アーカイブズ関係者が参加した、今年4月のICASBAストックホルム会議1日目のワークショップ「これから5年間、私たちにとっての一番の課題は何か?」に関する記事が、同会議共催者であるストックホルム経営史センターのウェブサイトに掲載されています。筆者は同センター研究部門ヘッドのアンダース・ホルツ Anders Houltzです。

ワークショップでは、「これから5年間、私たちにとっての一番の課題は何か?」というテーマで各参加者がそれぞれの考えを書き出して、着席しているテーブルごとに議論しました。アンダースのまとめによれば、企業アーキビスト、企業アーカイブズが取り組むべき課題は次のようなものです。

1.デジタル化に対応すること Coping with digitization
デジタル化は多くのチャンスをもたらす一方、デジタル資料、とりわけボーン・デジタル資料の長期保存に関して多くの問題点を抱えています。どのように真正性を保持し続けるのか、技術的にも解決されていません。またインターネット上にないものは存在しないものという認識を人々が持ちつつある中で、企業の場合プライバシーやさまざまな業務上の権利の保護と、オープン・アクセスの考え方には両立しない部分があります。

2.常に必要とされ続けること Remaining relevant
最近のビジネスでは、組織への人の出入りがますます激しくなっており、短期間で交代するトップ・マネジメントをはじめとするステークホールダーに、アーカイブズの必要性を粘り強く、繰り返し説明し、説得しつづけることが欠かせません。CSRの観点からも記録と記憶をマネジメントする必要がありますし、グローバル企業にとっては自国外でのビジネスの記録の保存と活用も課題です。ここでもボーン・デジタル記録のアーカイブ化は大きなチャレンジです。

3.資金を見つけてくること Finding funding
コストカット圧力はますます強くなっています。専門的な訓練を受けておらず、真正性や歴史的信用、長期的信頼性といった点に関する理解を持たない、コスト的には安い人材にアーカイブズ業務をゆだねる方向に向かう可能性があります。物理的な保管コスト削減のために、アーカイブズを本社から離れたところに置く選択によって、経営トップとの関係が弱まるといった問題もあります。

4.専門能力を維持し続けること Keeping up professional competence
3の資金に関する問題とも大きく関係する問題に、アーキビストやレコード・マネジャーの専門性への投資が減らされる危惧もあります。レコード・マネジメント部門をIT部門に統合するといった考え方も指摘されています。さらに大きな問題として、アーキビストの仕事をストーリーテリングやブランド・マネジメント、マーケティングに寄せすぎることによって、記録資料の真正性を保持し続けるという、最も本質的な業務が危険にさらされているのではないか、という点を多くの参加者は案じていました。これに対しては、教育、とりわけマネジメントに関する教育の必要性を多くの参加者は強調しています。

5.信頼を確保し続けること Safeguarding credibility
これは4と関係する問題です。経営への直接的な貢献を追及する結果、アーカイブズ部門がストーリーテリングやSNS等への単なるコンテンツ提供者の役割に甘んじてしまい、アーカイブズが持つ独自の意義・価値が薄れていくことへの危機感もあります。アーカイブズはコンテンツの真正性と事実に基づいた歴史叙述を保障することと、変化に対して適応すること(これはすべてのヘリテージ関連機関に共通の課題)のバランスをとることが必要です。それによって、ビジネス・アーカイブズはデジタル化や増大する情報への需要といった課題を、ビジネス・チャンスとして前向きに受け止めることができるだろう、とアンダースはまとめています。


★☆★...編集部より...★☆★

アンダース・ホルツのまとめは、ビジネス・アーカイブズが置かれている状況と、アーカイブズにとって、その本質・もっとも大切な仕事は何か、という2つの点を明瞭に表現してくれています。デジタル化とそれによるアクセスの向上は、アーカイブズとその利用者に大きな便益をもたらしてくれています。しかし、インターネットには「フェイクニュース」や典拠のあやふやな情報が満ち満ちてもいます。このような状況で、企業は自らの責任として、現在ならびに未来の人々に、自分たちのこれまでの事業に関する正確な情報を提供する必要があります。それによって、企業の存在とそのビジネス、製品やサービスへの信頼が生まれます。この正確な情報の基になるのが「真正な(オーセンティックな)記録」です。

ここで大きな問題であるのは、デジタル記録の長期保存と真正性確保が技術的にも方法的にも未確立である点です。ただでさえアーカイブズ部門はコスト・センターとして認識されがちであり、アーカイブズを重視する企業であっても所蔵資料のデジタル化投資には限度があるでしょう。「真正な(オーセンティックな)」デジタル記録資料、とりわけボーン・デジタル記録資料の保存技術、方法、戦略・・・を個々の企業のアーカイブズ部門が研究開発しうる状況にないことは明らかです。その意味で、デジタルな企業資料保存問題は公的セクター(例えば国立公文書館や大学等研究機関)におけるデジタル資料保存に関する研究に負うことを認識しておくことは大切でしょう。

当センターの過去10年間の取り組みを振り返ってみると、企業アーカイブズに対する社会的認知度は確実に向上しています。しかしながら、日本においては、上で述べたようなデジタル資料の真正性確保と長期保存、さらに電子記録管理に関する実務と研究は、欧米のみならず中国韓国からも大きく後れをとっています。この後れをどのように埋めていくべきなのでしょうか。本編集部は、引き続き海外におけるビジネス・アーカイブズの動向をお伝えするとともに、デジタル記録資料の真正性確保と長期保存問題については、公的セクターにおける取り組みにも視野を広げて(とりわけ民間との協力という観点から)取り上げていきたいと考えています。

[関連ページ]
企業団体情報:ストックホルム経営史センター
https://www.shibusawa.or.jp/center/ba/bn/20170530.html#02


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■行事情報:アメリカ・アーキビスト協会(SAA)ポートランド大会 ビジネス・アーカイブズ関連セッション

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◎SAAポートランド大会ビジネス・アーカイブズ関連セッション

本編集部は2011年のシカゴ大会以来6年ぶりにSAA大会に参加しました。今年の開催地は西海岸オレゴン州ポートランドでした。

SAAポートランド大会ウェブページ
https://www2.archivists.org/am2017

2017年大会の参加登録者は2,053名で、過去2番目に多い参加登録者数ということです。
https://twitter.com/archivists_org/status/891065640739454977

ちなみにSAAの会員総数は6,200超です。
https://www2.archivists.org/aboutsaa

編集部ではビジネス・アーカイブズ関連セッションを中心に参加しました。ビジネス・アーカイブズ部会(BAS)のニューズレター(2017年9月号)を参照しながら、セッション・イベントの様子をご紹介します。
http://mailchi.mp/c36833c7a018/ipha6espm8-1297321


【1】【企業アーカイブズ部会(BAS)見学会:ナイキ・アーカイブズ】*7月25日(火)
https://www2.archivists.org/groups/business-archives-section/bas-members-tour-the-nike-archives
今年の企業アーカイブズ・ツアーはスポーツ・シューズ、アパレルのメーカーであるナイキのアーカイブズでした。7月25日(火)午後3時から5時まで。本社敷地内にある同アーカイブズ施設には、ポートランドの中心地から貸し切りバスで移動、到着後は4グループに分かれて、同アーカイブズのスタッフに施設内を案内していただきました。

ナイキ・アーカイブズは2006年に設置され、ナイキのビジネスにおける戦略優位性をサポートすることを目的として、会社の記憶と歴史的資産を収集、保全、活用しています。現在所蔵する資産点数は20万点を超えます。

同見学会関連リンク
https://www.facebook.com/BASarchivists/photos/a.426948437413468.1073741827.350171245091188/1311003462341290/
https://www.facebook.com/BASarchivists/photos/a.426948437413468.1073741827.350171245091188/1311003492341287/
https://www.facebook.com/BASarchivists/photos/a.426948437413468.1073741827.350171245091188/1311003465674623/
https://www.facebook.com/BASarchivists/photos/a.426948437413468.1073741827.350171245091188/1311003482341288/

施設見学に続いて、敷地内の屋外でレセプションが開催され、普段はなかなか直接交流する機会のない企業アーキビスト同士の情報交換、ネットワーキングが行われました。その後はナイキ・ショップへバスで移動、希望者はショッピングというスケジュールでした。


【2】【ビジネス・アーカイブズ部会コロキアム】*7月26日(水)
https://www2.archivists.org/groups/business-archives-section/2017-bas-colloquium-on-media-and-design

https://archives2017.sched.com/event/AJfq/saa-business-archives-section-colloquium
ビジネス・アーカイブズ部会(BAS)会員限定の会合です。

今年のコロキアムのテーマは「メディアとデザインを使って自社の歴史の中にインスピレーションを見つける」"Finding inspiration in your company history using media and design"でした。前半は「ブランドの歴史は未来をどのように形作ることができるか」"How a brand's history can shape its future"。ブランドは非常に重要なマーケティング・ツールです。しかし、米国企業の場合、マーケティング担当役員(CMO)の交代も頻繁で、時に担当役員自体がブランドに関する歴史的事実・真実に通じていないことがあり、アーキビストこそが(ブランドに関わる)真理の守り手 the keepers of the truth という話で会合が始まりました。KFC(ケンタッキー・フライド・チキン)、コカ・コーラ、オールド・スパイスの3つのブランドのアーキビストから、アーカイブズが管理する過去の歴史情報を今のブランド価値につなげる事例が紹介されました。

そのあとは企業アーキビストのためのメディア・トレーニング・ワークショップの時間でした。最初に、メディアへの露出が多く、これまで何度かメディア・トレーニングを受けたことのある、コカ・コーラ・アーカイブズのアーキビスト、テッド・ライアンから自分の経験の紹介と、ワークショップの方法に関する説明を受けました。ワークショップは8つの小グループに分かれ、それぞれメディアからの難しい質問にどのように答えるべきか、グループごとに話し合いました。ちなみに、当編集部が参加したグループの課題は、

「あなたはグローバルな金融機関のアーキビストで、自社を代表して、全国中継されるパネル・ディスカッションに参加するという設定です。質疑応答セッションで、『あなたの会社のライバルは自社のアーカイブズ・プログラムをカットし、所蔵する歴史的な資料をオークションに売りに出すという決定をしたことはご存じだと思います。この決定に関してどう思いますか』という質問を受けました。さてどのように答えるべきでしょうか?」

というものでした。議論の結果、「私たちの会社は歴史を大切にしています」"Our company values history."

という答え方が適切、という結論になりました。その他にも、

「あなたはドイツの自動車会社のアーキビスト。ラグジュアリー・カーの25周年記念についてメディアから取材を受けている途中で、『ところで創業者はナチスへの協力者であったことはよく知られていますが、このことについてのあなたのコメントは?』」

「あなたは大手コンピュータ・メーカーの社内ヒストリアンで、会社が新たにスマートフォンを発売するという時期に、広報チームからこのスマートフォンがどれだけ環境にやさしく、開発にあたってはどのようにエンジニアたちに過去のスマートフォンに関するコンセプトやデザインに関する情報を提供したかについて語るパネリストになってほしいと依頼されました。パネル・ディスカッションでメディアから『ところであなたの会社は環境破壊の長い歴史を持っており、産業廃棄物を発展途上国に捨てています。このスマートフォンはそういう悪弊を変えるとあなたは信じますか』という質問を受けた場合、どう応答すべきでしょうか?」

といった課題が出されていました。

メディア・トレーニングのワークショップに続いて、コロキアムの最後のセクションは「未来のデザインをインスパイアする:新商品開発のためにアーカイブズを利用した企業の教訓」"Inspiring future design: lessons from companies that tap archives to develop new products"というテーマでのパネル・ディスカッションでした。ハーレー・ダビッドソン、リーバイ・ストラウス、ナイキ、ティファニーのアーキビストがそれぞれ自分たちの経験を語りました。デザイナーによるアーカイブズ訪問と彼らとの定期的な意見交換、デザイナーたちが活用できるようなオンライン・データベースの提供、オーラル・ヒストリーの蓄積による、よりよいストーリー作り、といった内容です。「真空のなかからはクリエイトできない。アーカイブズはインスピレーションを提供してくれる」というデザイナーの声や、「歴史的コンテクストを重視する」、「アーキビストがデザイナーたちの言葉で語ることが大切」といったパネリストの指摘がありました。


【3】【アフィニティ・グループに関するセッション】*7月27日(木)
https://archives2017.sched.com/event/ABGl/111-everyones-vested-interests-archivists-and-affinity-groups
企業アーキビストの仕事は、企業資料の管理(収集・移管、評価選別、目録作成、保存、利用提供)に加え、資料を解釈し、ストーリーを語るといったことも含まれます。ブランド・プロモーションや顧客獲得のため、会社はアーキビストに企業やブランドのアフィニティ・グループ(ファンクラブなど社外のグループ。コレクター、歴史家、ファンなどから成る)との結びつきを強める役割を求めることもあります。このセッションでは司会と7名のパネリストが、アフィニティ・グループに対してどのような関わり方をし、それによってアーキビストの専門職としての役割がどのように広がり、資料収集にどんな貢献をしたかといった内容のプレゼンテーションが行われました。登壇者の氏名、所属、発表タイトルは下の通りです。なお司会のエリック・チンはハリウッドのNBCユニバーサルのシニア・アーキビストで、今大会から来年夏の2018年大会までの間、BASの部会長を務めます。パネリストの一人、IBMのアーキビスト、ジェイミー・マーティンは昨年夏の2016年大会からBAS部会長を務め、今大会でバトンをエリックに渡しました。


(司会)
◆エリック・D・チン Eric D. Chin
NBCユニバーサル シニア・アーキビスト
Senior Corporate Archivist, NBCUniversal
https://archives2017.sched.com/moderator/eric.d.chin

(パネリスト)
◆レベッカ・クライン Rebecca Cline
ウォルト・ディズニー社 ウォルト・ディズニー・アーカイブズ ディレクター
Director, Walt Disney Archives, The Walt Disney Company
https://archives2017.sched.com/speaker/rebecca.cline
発表タイトル「誰がクラブのリーダーなの?:D23の結成:最初のディズニー公式ファンクラブ」
Who's the leader of the club?: the formation of D23 - Disney's first official fan club

◆ジャスティン・フレッチャー Justine Fletcher
コカ・コーラ社 アーカイブズ・スペシャリスト
Archives Specialist, The Coca-Cola Company
https://archives2017.sched.com/speaker/jufletcher
発表タイトル「コークをシェアして:コカ・コーラ・アーカイブズと世界中のコカ・コーラ・コレクターズ・クラブは互いにメリットのある関係を築いているか」
Share a Coke: how the Coca-Cola Archives team and Coca-Cola collectors clubs around the globe engage for a mutually beneficial relationship

◆ビル・ジャクソン Bill Jackson
ハーレー・ダビッドソン アーカイブズ&ヘリテージ・サービス マネジャー
Manager, Archives and Heritage Services, Harley-Davidson
https://archives2017.sched.com/speaker/bill.jackson
発表タイトル「すぐそばのアフィニティ・グループ:同僚の優先順位が一番高くなる時」
The affinity group next door: when your coworkers are priority one
*職場の同僚は最も身近なアフィニティ・グループである、という趣旨。アーカイブズ・ツアーやイントラネット、プレゼンテーション、社内SNSなどを通じて、アーカイブズは同僚たちに商品やブランド、あるいは会社自体の魅力を伝えることができる。また、広報部門はつねにコンテンツを探しており、アーカイブズは彼らと協力することによって、社内ファンづくりに貢献できる。

◆ジェイミー・マーティン Jamie Martin
アイ・ビー・エム 社内アーキビスト
Corporate Archivist, IBM
https://archives2017.sched.com/speaker/Autum1031
発表タイトル「でも私たちの歴史はあなたのところの記録の中にあるの:企業アーキビスト、歴史家、学者、コレクターたちの協力」
But our history is in your records: collaboration among corporate archivists, historians, scholars, and collectors
*コレクターやコンピュータ史の研究者、大学院生がアーカイブズ資料を利用する。彼らは会社より会社のことをよく知っていると主張することもあるし、なによりもコンピュータ技術が大好きである。彼らに協力することは会社にとっても有益である。だが、彼らの研究に協力するのにどれだけコストを割くのか、全体業務の中でのバランスを考えなければならない。

◆トレイシー・パネック Tracey Panek
リーバイ・ストラウス ヒストリアン
Historian, Levi Strauss & Co.
https://archives2017.sched.com/speaker/tpanek
発表タイトル「カウボーイたち、対抗文化、ヘビメタ、あるいはハイヒール:ブルージーン・ブログのストーリーを通じて多様なデニムファンを惹きつける」
Cowboys, counterculture, heavy metal or high heels: engaging diverse denim fans through blue Jean blog stories
*どうやって多様なアフィニティ・グループを惹きつけるか?それはストーリーテリングによる。ブルージーンズはカウボーイや対抗文化、ヘビメタ、ハイヒールなど大衆文化と結びついている。その結びつきをブログ記事のストーリーとして、語ることがファンを増やすことにつながる。ヘビメタやパンクに関する大学図書館(UCLA)のコレクションも有用である。

[関連ページ]
UCLA図書館特殊コレクション「LSCヘビーメタル・アーカイブ」
http://www.library.ucla.edu/special-collections/discover-collections/collecting-areas/lsc-heavy-metal-archive

UCLA図書館特殊コレクション「LSCパンク・アーカイブ」
http://www.library.ucla.edu/special-collections/discover-collections/collecting-areas/lsc-punk-archive

◆エリザベス・スパッツ Elizabeth Spatz
ディズニー・コンシューマー・プロダクツ社シニア・ライブラリアン/アーキビスト
Senior Librarian/Archivist, Disney Consumer Products
https://archives2017.sched.com/speaker/espatz
「同室の親友と世界を旅する人々:最初のディズニー会員クラブはどのようにして新しいファンを歓迎して惹きつけたのか」
Chums and globetrotters: how the first Disney membership clubs embraced and engaged their emerging fan base
*最初のディズニー会員クラブ、ミッキー・マウス・クラブ結成の経緯と成功の要因について紹介。


★☆★...編集部より...★☆★

セッションのまとめでは「ファンはしばしばアーキビストよりも会社や商品、ブランドについてよく知っていることがある。ただし、ファンは間違うこともある。アーキビストは広報などと協力して、正しい情報を伝えるようにすることが使命である」と結ばれました。


【4】【ビジネス・アーカイブズ部会(BAS)総会】*7月28日(金)
https://www2.archivists.org/groups/business-archives-section/2017-bas-annual-business-meeting
https://archives2017.sched.com/event/ADFp/business-archives-section
年に一度の部会総会も開催され、下の議題が話し合われました。

-部会役員選挙の結果と規約改定
-メンター・プログラム
-SNAP(Students and New Archives Professionals Section=学生・新人専門職部会)との連携・協力
-ビジネス・アーカイブズ部会(BAS)新規インターン
-ニューズレター編集長、副編集長から
-Citiフェローシップ・プログラムについて
-ICASBA(国際アーカイブズ評議会企業アーカイブズ部会)ストックホルム会議の報告
-2018年大会に向けてのビジネス・アーカイブズ関連企画プロポーザルについて
-ミッド・アドランティック地域アーカイブズ会議(MARAC)での第1回ビジネス・アーカイブズ・フォーラム(2017年4月、ニュージャージー州ニューアークで開催)の報告
-今年度のビジネス・アーカイブズ・ワークショップ(2017年6月12~14日、ハーレー・ダビッドソン・ミュージアムにて開催)報告
-新部会長エリックから抱負と今年度計画のスピーチ
-SAAカウンシル(SAA本体の執行機関)からの報告
-マッキンゼー社アーキビスト、ポール・ラーサウィッツから次年度以降のSAAセッションへの積極的な参加提言
など

詳しい議事録はこちらにあります。(PDF)
https://www2.archivists.org/sites/all/files/BAS-Annual-Business-Meeting-Minutes-2017-07-28.pdf


【5】【ゲーミフィケーションに関するセッション】*7月28日(金)
https://archives2017.sched.com/event/ABHG/409-it-is-all-fun-and-games-bringing-gamification-to-the-archives

ゲーミフィケーションとは仕事に関係するタスクを遂行するのにゲームの要素を取り入れ、参加者のモチベーションを高め、ちょっとした見返り(reward)を提供することを言います。別の言葉で言うと、ゲーム・デザイン(ゲーム的なもの)をゲームではない活動(業務)に適用して、その活動を楽しいものとし、参加者のやる気を高め、ご褒美的なものも提供することです。アーカイブズの業務でも、アウトリーチ、記述、収集などの分野にゲームを利用することができます。このセッションでは種類や規模が異なるアーカイブズでのゲーミフィケーションの事例を持ち寄り、予算やニーズに見合ったゲームの取り入れ方を学びました。

なおこのセッション自体が「ジャーゴン・ビンゴ」というゲーミフィケーション仕立ての運営でした。各発表者の口頭プレゼンテーションに含まれるジャーゴンを聞きとって、あらかじめ配布されたビンゴ・カードの中にその単語を見つけたらチェックしていき、各発表の後にビンゴに達した人を募る(発表中の「ビンゴ!」はなし)というものです。本編集部にとって、ジャーゴンの聞き取りビンゴ・ゲームはかなり難度の高いものでした!


◆Nicola Laflamme ニコラ・ラフラム
J・M・スマッカー社 社内アーカイブズ・マネジャー
Manager, Corporate Archives, The J.M. Smucker Company
https://archives2017.sched.com/moderator/nicolelaflamme
発表タイトル「生き方を保存する:教育と文化的な成長のためのゲーム」
Preserving a way of life: games for education and cultural development
*創業家であるスマッカー一族が120年にわたって経営してきたJ・M・スマッカーズ社は、果実を使ったペーストなどの食品製造・販売会社です(本社はオハイオ州オーヴィル)。同社のアーカイブズでは社内のトレーニング・チームと協力して、クロノロジー(chronology)という既存のゲームをヒントにして「マイルストーン」というゲームを開発しました。自社の年表を使ったカードを作成し、利用しています。カードには会社史上の重要な出来事を記載して、タイムライン上に正しく並べることを競い合うゲームです。ゲームを提供するようになって、アーカイブズへのレファレンスが1割以上増加した、という報告もありました。

◆スティーブ・ハウスフェルド Steve Hausfeld
ネイションワイド保険 ライブラリー&アーカイブズ・センター マネジャー
Manager, Library and History & Archives Center, Nationwide Insurance
https://archives2017.sched.com/speaker/hausfes
発表タイトル「分散している従業員に参加してもらうためにソーシャル・メディア上でトリビアとスキャベンジャー・ハント(ゴミ拾い競争)ゲームを利用する」
Using trivia and scavenger hunt games on social media to engage a distributed workforce
*ネイションワイド保険は1926年創業。全米で約34,000人の従業員が働いており、そのうちの3分の1が在宅勤務(Home Office)を基本としています。2006年に社内アーカイブズ・プログラムを立ち上げています。2012年にシェアポイントを全社的に導入したのを利用し、アーカイブズ資料を用いたゲーム的要素を加えたアプリ(「トリビア・コンテスト」)を提供しています。内容は会社史に関するクイズですが、ゲーム回答者のポイントを競う要素によって、参加者に楽しんでもらいつつ、全国に分散して働く従業員に対して、会社とのつながりの感覚も作り出して行っている、という発表でした。また、社内SNSであるYammer(2008年に全社的に導入)にもアーカイブズのコンテンツを提供しています。これはYammerにアーカイブズ・グループを作成し、ここにアーカイブズ・センターがトリビア・クエスチョンを投稿、社内の参加者が答えを書き込んでスレッドができる、というものです。これも遠隔地に居住している同じ会社の同僚とのコミュニケーション増進に大いに寄与しているということです。毎週末にゲームの参加者を対象にランダムに抽選を行い、当選者にはスターバックス5ドル分のギフトカードを景品として進呈している、という話でした。

◆キャシー・ヘーテル=ベイカー Kathy Hertel-Baker
ナザレの愛の姉妹会 アーカイブズ ディレクター
Director of Archives, Sisters of Charity of Nazareth
https://archives2017.sched.com/speaker/khertelbaker
発表タイトル「女子修道会アーカイブズでのゲーミフィケーション」
Gamification in the Archives of Women Religious
*キャシーはナザレの愛の姉妹会という女子修道会(本部はケンタッキー州ナザレ、創立は1812年)のアーカイブズのアーキビストであるとともに、女子修道会アーキビストの会(約150の修道会のアーキビスト、会員数約250人、毎年1度SAA大会時に会合)の会長(任期2016~2017年)です。ナザレの愛の姉妹会では、アーカイブズが所蔵する資料を用いた期間限定の(ポップアップ式)催しを開催し、修道会施設内に住む、主として高齢により引退したシスターに参加してもらい、オーラル・ヒストリーなどを行いながらメタデータ(資料に関する情報)を収集しています。これにはゲーム的な要素が含まれるということでした。もう一つ、女子修道会アーキビストの会のプロジェクトとして、所蔵資料を用いたシスター(幅広い時代を対象とし、あまり有名ではない人たちを選んだとのこと)たちのトレーディング・カード作成が紹介されました。20種類のカードの作成は印刷会社に発注し、コストは全体で250ドルという報告でした。

◇女子修道会アーキビストの会 Archivists for Congregations of Women Religious
https://www2.archivists.org/assoc-orgs/archivists-for-congregations-of-women-religious

◆ケイジー・デイビス=カウフマン Casey Davis-Kaufman
WGBH教育財団 メディア・ライブラリー&アーカイブズ アソシエート・ディレクター
Associate Director, Media Library and Archives, WGBH Educational Foundation
https://archives2017.sched.com/speaker/casey_daviskaufman
発表タイトル「全米公共放送アーカイブでの音声書き起こしの修正をゲーム化する」
Gamifying speech-to-text transcript corrections in the American Archive of Public Broadcasting
米国の公共放送局のひとつ、ボストンのWGBHの教育財団が議会図書館と協力して進めている公共放送プログラムのアーカイブ「全米公共放送アーカイブ」(AAPB、2013年開始)では、全米100の公共放送から放送プログラムを収集し50,000時間分をデジタル化、保存しています。しかし、収集した放送番組のメタデータは番組作成者が付与したもののみで、非常に乏しいため、クラウド・ソーシングを利用して、メタデータを付与するプロジェクトを進めています。放送番組の音声をオープンソースのテキスト・ツールで書き起こしを作成することができますが、これには間違いも多く含まれています。この間違いを訂正する部分をゲームとして一般の人々に楽しみながら取り組んでもらう、というのがこのゲーミフィケーションのコンセプトです。このメタデータ・ゲームの名前は「フィックス・イット!(Fix it!)」、2017年5月にから始まっています。このゲームは3つのパートから成り立っています。(1)書き起こし(トランスクリプト)の間違いを見つける、(2)他の参加者がこの間違いに対する修正のサジェスチョンを与える、(3)さらに他の参加者が、このサジェスチョンが有効であるかどうか確認する、という構成です。まだ始まったばかりで、修正が入ったものは250タイトルぐらいということでしたが、今後は高齢者の社会参加という観点などからも普及をはかりたい、というお話でした。

◇全米公共放送アーカイブ American Archive of Public Broadcasting
http://americanarchive.org/

◇「フィックス・イット!(Fix it!)」ページ
http://fixit.americanarchive.org

◆エリザベス・E・ライリー Elizabeth E. Reilly
ルイヴィル大学 写真アーカイブズ キュレーター
Curator, Photographic Archives, University of Louisville
https://archives2017.sched.com/speaker/e.reilly
発表タイトル「ひねりを効かせたアーカイブズのアウトリーチ:歴史的写真を使ったスキャベンジャー・ハントを組織する」
Archives outreach with a twist: organizing a historic photo scavenger hunt
ルイヴィル大学図書館写真アーカイブズのチームは地元のルイヴィル振興を目的とする会社であるYelpルイヴィルと組んで、「写真でルイヴィルを記録しよう」(Picture Louisville)というイベントを2016年8月に行いました。これは大学図書館写真アーカイブズが所蔵する、昔のルイヴィルの風景写真をもとに、現在の場所を探し出し、この場所の写真を撮影してインスタグラムにハッシュタグ#PicLouをつけて投稿する、という内容です。すべての場所を探し出した参加者・参加チームには景品が提供されます。なお、このイベントはルイヴィル大学図書館写真アーカイブズがインスタグラムのアカウントを開設した記念として開催されたイベントです。

◇ルイヴィル大学 大学図書館 アーカイブズ&特殊コレクション
Archives and Special Collections, University Library, University of Louisville
https://www.facebook.com/UniversityOfLouisvillePhotographicArchives/
(関連リンク)
https://www.facebook.com/events/914686418642664/
https://www.facebook.com/YelpLouisville/

◆エイミー・スティーブンソン Amy Stevenson
マイクロソフト社 アーカイブズ・マネジャー
Archives Manager, Microsoft Corporation
https://archives2017.sched.com/speaker/ads610
発表タイトル「プロモーションとストーリーテリングのためのカード・ゲーム」
Card games for promotion and storytelling
マイクロソフトでは、1992年に社員の子供たち(4歳から17,8歳が対象ですが、もっと小さい兄弟姉妹や友達も連れてくることができる)を会社に招待するプログラムを始めました(社員数は約43,000人)。来社した子供たち向けのライブラリー(マイクロソフトではアーキビストはライブラリー・チームの一員)の取り組みのひとつが、トレーディング・カードの作成でした。トレーディング・カードは27種類作り、半分以上は女性社員を取り上げていますが、ポイントはマイクロソフトで働く人たちのバックグラウンドや興味・関心が多様であることを示すことにあったということです。もう一つのゲームはマイクロソフトで新しく働くことになった人向けのトレーニングに利用するもので、会社史上の重要な出来事を並べ替えて年表を完成させるとともに、パズル的要素(並べ替えによって、会社のミッションをあらわす単語やフレーズなどが出来上がる)を持たせたもので、会社の歴史に関する研修が単調になりがちなのを防いでくれる、ということです(4人から8人ぐらいでプレーする)。会社の歴史を知ってもらうことよりは、これが会話のアイスブレーカーになって議論が始まることの方が目的です。ゲームはロビーなどの待ち合わせ場所にも置かれてインタビュー前にプレーするといった風にも使われている、というお話でした。

◆ジェシカ・E・ジョンソン Jessica E. Johnson
バージニア・コモンウェルス大学 プロセシング・アーキビスト
Processing Archivist, Virginia Commonwealth University
https://archives2017.sched.com/speaker/jessabeth
架空の組織の資料を作成して、アーカイブズの整理方法の原則である、「出所の原則」や「現秩序維持の原則」を学べるようなゲームを開発した事例の発表でした。

◇バージニア・コモンウェルス大学図書館 大学アーカイブズ
University Archives, VCU Libraries, Virginia Commonwealth University
https://www.library.vcu.edu/research/special-collections/university-archives/


【6】【ボーン・デジタル資料の整理実務の開発に関するセッション】*7月27日(木)
https://archives2017.sched.com/event/ABGm/201-what-we-talk-about-when-we-talk-about-processing-born-digital-building-a-framework-for-shared-practice
企業アーキビストを主たる対象とするテーマ以外のセッションにもいくつか参加しました。そのひとつがボーン・デジタルに関する本セッション「私たちがボーン・デジタル資料の整理を語るときに話すこと:実務共有のためのフレームワークを立ち上げる」"What we talk about when we talk about processing born-digital: building a framework for shared practice"です。

現在のところ、ボーン・デジタルな記録資料の整理(processing)のための標準やベストプラクティスは存在していません。そのため、効果的なワークフローやガイドラインを作成することも難しい状況です。このセッションは、組織を超えて、ボーン・デジタル資料の編成・記述のための包括的方針の枠組み作りに取り組むグループによるものです。最初にグループからこれまでの取り組みに関する説明があり、その後会場参加者は小グループに分かれ、ワークショップ形式で、ボーン・デジタル資料の整理方法について議論しました。

なお、ここでいうprocessingとはアメリカ・アーキビスト協会の用語集での定義によると、
「保存とパトロン(利用者、お客)による利用のためのアーカイブズ資料の編成、記述と保管収納」
1. The arrangement, description, and housing of archival materials for storage and use by patrons.
https://www2.archivists.org/glossary/terms/p/processing
とされます。より一般的な日本語にするなら「整理、目録作成、保管」といった事項に相当します。


セッション・プレゼンテーション・スライド(PDF)
http://schd.ws/hosted_files/archives2017/32/SAA2017_201_DigitalProcessingFrameworkSlides_Public.pdf

(司会)
◆シーラ・ペルツマン Shira Peltzman
UCLA図書館 デジタル・アーキビスト
Digital Archivist, UCLA Library
https://archives2017.sched.com/moderator/shirapeltzman

(発表者)
◆サリー・デボーシュ Sally DeBauche
スタンフォード大学フーバー研究所図書館&アーカイブズ デジタル・アーキビスト
Digital Archivist, Hoover Institution Library and Archives,
https://archives2017.sched.com/speaker/sallydebauche

◆エリン・フォールダー Erin Faulder
コーネル大学図書館 デジタル・アーキビスト
Digital Archivist, Cornell University Library
https://archives2017.sched.com/speaker/eef46

◆ケイト・タスカー Kate Tasker
カリフォルニア大学バークレー校バンクロフト図書館 デジタル・アーキビスト
Digital Archivist, The Bancroft Library, University of California, Berkeley
https://archives2017.sched.com/speaker/katetasker

◆ドロシー・ウォー Dorothy Waugh
エモリー大学 デジタル・アーキビスト
Digital Archivist, Emory University
https://archives2017.sched.com/speaker/dorothy.waugh


セッションでのプレゼンテーション・スライド(PDF)
http://schd.ws/hosted_files/archives2017/32/SAA2017_201_DigitalProcessingFrameworkSlides_Public.pdf

このグループは、9名の主として大学に所属するデジタル・アーキビストが中心となって立ち上げられた実務者中心の集団(研究者も若干名)で、2016年7月にスタンフォード大学を会場に最初の会合を持っています。参加者はスタンフォード、プリンストン、ミシガン、デューク、UCLA、MIT、エモリー等の大学図書館に所属するデジタル・アーキビストやゲイツ・アーカイブズ(ビル・ゲイツの個人アーカイブズ)、コンピュータ史博物館、ロックフェラー・アーカイブズのアーキビストたちです。グループ名はBDAX(ビーダックス、Born-Digital Archiving & eXchange)。

共通の語彙と理解が必要という認識から、BDAXグループは最初に関連文献のレビューと調査を行い、デジタル・プロセッシングとは、「受け入れ」accession から「公開」accessまでを対象とするものと定義しました。そして、ボーン・デジタルの整理(digital processing)を構成する40のアクティビティ(のちに精査して30に)を特定します。さらにデジタル・プロセッシングに関連する標準類には、目的の異なる、以下の2つのものがあるといいます。

(1)アナログに基づいたアーカイブズ整理の方法:階層性を持ち(アイテムではなく)集合として管理する
(2)OAISデジタル保存:リレーションとアイテム/オブジェクトの管理

文献レビューと調査に基づいて、BDAXグループでは、デジタル・プロセッシングのモデルをデザインする基準として次の5つの項目を特定しています。

「柔軟(フレキシブル)」flexible
「モジュールに従っている」modular
「役に立つ」useful
「シンプル」simple
「拡張可能」extensible

そして「基本的(ベースライン)」「最低限(ミニマル)」「中間的(モデレート)」「高度(インテンシブ)」の4つの段階(tiers)を設定し、それぞれの段階に対応したモデルがどのような整理作業によるものかを提示しています。(予算がスタッフが豊富な場合は「高度(インテンシブ)」な整理を施すことができるが、自由に使えるリソースがほとんどまったくないに近いような場合は、資料の整理を「基本的(ベースライン)」段階にとどめておく、そういうような考え方です。

以上のプレゼンテーションの後、グループに分かれて4つの段階の作業に関して意見を出し合いました。

★グループのこれまでの取り組みに関する文書
https://drive.google.com/drive/folders/0By4GpQlPYswAbDJHLUsxcXZPOUk
★グループが利用した参考文献リスト
https://www.zotero.org/groups/632302/born_digital_processing

★☆★...編集部より...★☆★
ボーン・デジタル資料の整理4段階の考え方は合理的なものと感じられました。BDAXグループのプロジェクトは現在進行中です。今後の成果に注目したいと思います。


【7】【リサーチ・データ・マネジメント(RDA)に関するセッション】*7月28日(金)
https://archives2017.sched.com/event/ABHJ/502-at-the-data-curation-table-archival-intersections-with-rdm
「データ・キュレーション・テーブルで:アーカイブズとRDAの交差点」At the data curation table: archival intersections with RDM というタイトルのセッションにも参加しました。研究機関ではデータ・マネジメント・サービスが拡大しており、そういった機関で働く米国のアーキビストはデータ・マネジメントと関係することも増えつつあります。データ・マネジメントはデジタル保存ともかかわります。アーカイブズにおける評価選別、リテンション、長期保存、公開、権利管理といった分野の実務、レコード・マネジメントにおけるライフサイクルの考え方が、RDAに貢献しうると考えられているようです。また、RDAはデジタル・ヒューマニティーズやeサイエンスを含む学術情報流通ともつながっており、今後幅広い分野が連携して展開していくように感じられました。

(司会)
◆リリー・クリスティーナ・トロイア Lily Cristina Troia
オルトメトリック エンゲージング・マネジャー
Engagement Manager, Altmetric
https://archives2017.sched.com/moderator/lily.troia

◆ジョン・ベンス John Bence
エモリー大学 大学アーキビスト
University Archivist, Emory University
https://archives2017.sched.com/speaker/jdbence

◆ナタリー・ボンド Natalie Bond
モンタナ大学 政治文書アーキビスト
Political Papers Archivist, University of Montana
https://archives2017.sched.com/speaker/natalie.bond

◆イーヴリン・マクレラン Evelyn McLellan
アーテファクチュアル・システムズ プレジデント
President, Artefactual Systems
https://archives2017.sched.com/speaker/evelyn10

◆アシュリー・テイラー Ashley Taylor
ビッツバーク大学 アーキビスト
Archivist, University of Pittsburgh
https://archives2017.sched.com/speaker/AshleyLT

◆ジャレード・ライル Jared Lyle
ICPSR, ミシガン大学 アーキビスト
ICPSR, University of Michigan
Archivist
https://archives2017.sched.com/volunteer/lyle13

◆ヘザー・ソイカ Heather Soyka
ポストドクトラル・フェロー データワン/ニューメキシコ大学
Postdoctoral Fellow, DataONE/University of New Mexico
https://archives2017.sched.com/volunteer/hsoyka


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■行事情報:ビジネス・アーカイブズ・カウンシル(BAC)年次大会
◎テーマ:「記録についての考えを新たに(同じことの繰り返しをやめよ)」 2017年11月21日
  ハーパーコリンズ出版、ロンドン(イギリス)

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◎テーマ:「記録についての考えを新たに(同じことの繰り返しをやめよ)」
Change the Record

https://www.businessarchivescouncil.org.uk/activitiesobjectives/conference/

毎年11月に開催されているイギリスの企業アーカイブズ関係者の団体、ビジネス・アーカイブズ・カウンシル(BAC)の年次会合が今年は11月21日にロンドンのハーパーコリンズ出版にて開催されます。


[会場] ハーパーコリンズ出版
HarperCollins Publishers
The News Building
1 London Bridge Street
London
SE1 9GF
United Kingdom


[費用]
会員、経営史学会(ABH)会員料金 90ポンド
学生 20ポンド
非会員 130ポンド
出展者 200ポンド

[参加申し込み]
https://www.eventbrite.co.uk/e/business-archives-council-agm-conference-2017-tickets-36211086334


[日程]
9:00 会員総会受付
9:30 会員総会
10:00 年次会合受付
10:30 年次会合「記録についての考えを新たに(同じことの繰り返しをやめよ)」
17:00 終了


[プログラム]

■オープニング・プレゼンテーション
タイトル:ウェルカムは変わる:進化しつつある環境のなかでわれわれのアプローチを再考する
タイトル原文:Wellcome changes: rethinking our approach in an evolving environment
発表者1:サイモン・デシミー Simon Demissie
発表者2所属:ウェルカム財団アーキビスト archivist at The Wellcome Trust
発表者2:アリケ・オケ Arike Oke
発表者2所属:ウェルカム財団アーキビスト archivist at The Wellcome Trust

■パネル・セッション
テーマ:企業のレコード(記録)の性格変化
テーマ原文:The changing nature of the business record
パネリスト1:エリザベス・ロマス Elizabeth Lomas
パネリスト1所属:ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン UCL
パネリスト2:メアリー・ラザフォード Mary Rutherford
パネリスト2所属:グラクソ・スミスクライン社 GSK
パネリスト3:クリス・キャンベル Chris Campbell
パネリスト3所属:グラクソ・スミスクライン社 GSK
※ある種のレコードのフォーマットの変化、ERP(エンタプライズ・リソース・プラニング)が記録管理に及ぼす影響等を議論

■午後のオープニング・プレゼンテーション
タイトル:19世紀のビジネスを21世紀の世界で記念する
タイトル原文:Celebrating a 19th century business in a 21st century world
発表者:ドーン・シンクレア Dawn Sinclair
発表者所属:ハーパーコリンズ社アーキビスト archivist at Harper Collins

■パネル・セッション
テーマ:レコードを利用する
テーマ原文:Using the record

パネリスト1:マーガレット・プロクター Margaret Procter
パネリスト1所属:リバプール大学 University of Liverpool
パネリスト1プレゼンテーション:リバプール大学とバークレイズ銀行の協力による大学院博士プログラム
プレゼンテーション原タイトル:A collaborative PhD between the University of Liverpool and Barclays

パネリスト2:アリックス・グリーン Alix Green
パネリスト2所属:エセックス大学 Essex University
パネリスト3:ジュディ・ファラディ Judy Faraday
パネリスト3所属:ジョン・ルイス・パートナーシップ The John Lewis Partnership
パネリスト2&3プレゼンテーション:研究者とアーキビストの共同デザインによる企業関連プロジェクトのためのモデルを発展させる
プレゼンテーション原タイトル:Developing a model for academic-archivist co-designed projects in business

※このセッションでは、これまでのアーキビストに関する考え方(レコードを整理して提供する、あるいは問い合わせに答える)を見直して、現在の企業戦略の観点を伝達することによって、研究者と共同して研究をデザインしていく実践事例を紹介する。

■プレゼンテーション・セッション
タイトル:現在の政策に関わる質問対応サポートのためにイングランド銀行のアーカイブズのデータを利用する
タイトル原文:The use of archival data at the Bank of England to help answer current policy questions
発表者:リーランド・トーマス Ryland Thomas
発表者所属:イングランド銀行シニア・エコノミスト Senior Economist, the Bank of England


[問い合わせ先]
bacconference@gmail.com


★☆★...編集部より...★☆★

テーマにあるrecordをそのまま訳せば「記録」です。しかし、アーカイブズ、記録管理(レコード・マネジメント)の世界では、(複数形になりますが)recordsには厳密な定義が存在します。

記録管理に関わる国際標準ISO15489では「記録」(reocrds)とは「法的な義務の履行または業務処理における証拠及び情報として、組織または個人により作成、取得及び維持される情報」と定義されています。

(参考)小谷允志「記録管理の国際標準ISO15489」『情報管理』第48巻5号(2005年8月)(PDF)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/johokanri/48/5/48_5_276/_pdf

あるいは編集部も翻訳に参加した『レコード・マネジメント・ハンドブック:記録管理・アーカイブズ管理のための』(2016年、ISBN:978-4-8169-2611-2)では「レコード」を「ある活動の記録された証拠」と定義しています。このように定義されてきたrecord(s)の管理と提供に関わるアーカイブズ、記録管理に関する考え方と実務は、証拠や情報を載せ、ある種の固定化を行うための媒体が紙からデジタルに変化することによって、近年大きな挑戦を受けています。

イギリス国立公文書館(TNA)が今年2017年3月に発表した「デジタル戦略」3カ年計画(2017~2019年)には、これまで紙の世界での経験を基に行われてきた「レコード」の扱い方を大きく見直そう、という姿勢が見えます。この計画では、デジタル・レコードの移管プロセスをさらに標準化・合理化すること、ウェブサイトをデジタル戦略の中に高く位置づけること、クラウド化、目録記述のオープンデータ化、アジャイル利用によるデジタル文化の発展といった点をロードマップの中に組み込んでいます。そして、デジタル・スキルに習熟した人材をよい待遇でアーカイブズ・セクターに招き入れることを最重要課題とみなしているように読めます。
http://www.nationalarchives.gov.uk/about/our-role/plans-policies-performance-and-projects/our-plans/digital-strategy/

http://www.nationalarchives.gov.uk/documents/the-national-archives-digital-strategy-2017-19.pdf

今年のBACの年次会合のテーマ「記録についての考えを新たに(同じことの繰り返しをやめよ)」Change the Record には、このような、英国国立公文書館のデジタル戦略の考え方が大きく影響を与えているように思います。


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■行事情報:ICA/SBA主催 ビジネス・アーカイブズ国際シンポジウム ウェブサイト開設

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◎テーマ:「ゴーイング・バック・トゥー・ザ・フューチャー:ブランド・アイデンティティと企業文化の再形成における企業アーカイブズの役割」
http://archives.godrej.com/ICA-SBA-Conference-Mumbai-2017/index.html

4月のストックホルム会合に続き、今年度2回目の国際アーカイブズ評議会(ICA)企業アーカイブズ部会(SBA)の国際シンポジウムが12月4~6日にインド・ムンバイにあるゴードレージ・アーカイブズにて開催されます。同会合用の特設サイトが開設されました。
http://archives.godrej.com/ICA-SBA-Conference-Mumbai-2017/index.html

ムンバイ会合のテーマは「ゴーイング・バック・トゥー・ザ・フューチャー:ブランド・アイデンティティと企業文化の再形成における企業アーカイブズの役割」、ブランド・アイデンティティと企業文化に焦点を当てた内容です。

■■【テーマについて】(要約)■■
http://archives.godrej.com/ICA-SBA-Conference-Mumbai-2017/about.html

「2017年12月、ムンバイで国際アーカイブ評議会(ICA)企業アーカイブズ部会(SBA)の2回目の会合を開催します。企業アーカイブズは、ブランドに関する歴史物語が詰まった黄金の蔵(ゴールデン・リポジトリ)です。しかしこの知識の黄金の蔵は究極まで探求し尽くされてはいないし、その価値も探求の途上といえます。2日間にわたり、企業アーカイブズの将来の役割、企業アーカイブズが未来にむけてのブランド・アイデンティティ形成にとって何ができるのかを討議します」


■■【プログラム】■■
http://archives.godrej.com/ICA-SBA-Conference-Mumbai-2017/programme.html

12月4日(月)
●企業でのオーラル・ヒストリーのワークショップ
講師:Dr. Rob Perks
●レセプション

12月5日(火)9時~17時
●シンポジウム
●ディナー

12月6日(水)9時~17時

■■【会場】■■
http://archives.godrej.com/ICA-SBA-Conference-Mumbai-2017/venue.html
ゴードレージ・アーカイブズ
Godrej Auditorium Plant 13A,
Godrej & Boyce Mfg. Co. Ltd.,
Vikhroli (E),
Mumbai, India

■■【申込ページ】■■
http://archives.godrej.com/ICA-SBA-Conference-Mumbai-2017/Contact.aspx


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■文献情報:デジタルアーカイブ学会第2回定例研究会
「海外のアーカイブ、デジタルアーカイブ、ビジネスアーカイブ」講演と資料

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本通信編集部は「海外のアーカイブ、デジタルアーカイブ、ビジネスアーカイブ」のテーマで8月21日に岐阜女子大学にて講演いたしました(デジタルアーカイブ学会第2回定例研究会)。
http://digitalarchivejapan.org/bukai/reikai/teirei-02

当日の発表資料(ウェブ公開用に一部編集)をPDFで掲載しました。

◎海外のアーカイブ デジタルアーカイブ ビジネスアーカイブ [PDF, 4.8MB]
https://www.shibusawa.or.jp/center/ba/bn/pdf/201709_jsda_gifu01.pdf

◎関連資料「企業アーカイブズ機能の立ち上げ事例:帝国データバンク史料館 創業100周年記念社史編纂が土台に」 [PDF, 926.5KB]
https://www.shibusawa.or.jp/center/ba/bn/pdf/201709_jsda_gifu02.pdf

◎海外のアーカイブズ、企業アーカイブズ、日本のデジタルアーカイブ 年表 (2017年8月21日報告用) [PDF, 425.8KB]
https://www.shibusawa.or.jp/center/ba/bn/pdf/201709_jsda_gifu03.pdf


★☆★...編集部より...★☆★

【当日の発表内容:目次】
おおよそ次のような順番でお話いたしました。

1. 自己紹介
2. 渋沢栄一記念財団について
3. 国際アーカイブズ評議会(ICA)について
4. デジタルアーカイブについて
5. 企業アーカイブズ=組織アーカイブズについて
6. 日本の企業が困っていることについて
7. コンテクストについて
8. 日本の企業アーカイブズの事例
9. 世界の企業アーカイブズの事例


【発表のポイント】
https://www.shibusawa.or.jp/center/ba/bn/pdf/201709_jsda_gifu01.pdf
(1) 組織の姿、発展の歩みを記録するためのコンテクストの重要性
組織の記録のアーカイブ化には何が必要なのかを重点的に話しました。カラヴァッジォの「ホロフェルネスの首を斬るユディト」に関するツイッターの投稿と、メールのスレッドの機能は、組織がどのような事業を企画し、実行し、結果はどうだったのかという、一連の文脈を保存・再現するための資料の残し方、つまりコンテクストの保存について直感的に理解するにはよい例だと思いました。

(2) アーカイブズ機能が必要とする専門的な職務を誰がどのように担うのか
日本の組織の場合、アーキビストという専門的な職種が存在することはほとんどなく、社内異動で資料室や社史編纂チームに加わった人々が資料の収集・整理・管理・活用を行うことになります。上に述べたような、コンテクストの情報を保存するための資料収集(移管)、評価選別、保存、社史編纂をはじめとする活用など、専門的な仕事を行う上で、社内のOJTのみでは対応できない部分を補う必要があります。これまではその部分を社外の専門家や企業との連携を通じて補ってきたということができます。情報化が今後さらに進んでいく中で、情報に関わる部署である企業アーカイブズでの職務をだれがどのように担っていくのか、いくつかの方向性も提示しました。


【書きづらい過去の歴史の事例】
https://www.shibusawa.or.jp/center/ba/bn/pdf/201709_jsda_gifu02.pdf
企業アーカイブズを立ち上げるきっかけになるのは周年記念行事、日本の場合はとくに社史編纂といえます。社史編纂の場合、大きな挑戦のひとつに、「書きづらい過去」をどのように記述するのか(あるいはしないのか)という問題があります。未来に活かすためとはいえ、失敗に向き合うことは難しいことです。事業を行っていた当時はさして問題とは思われなかったことも、時代の変遷を通じて今現在はありえないだろう、といった事業や慣行もあります。

講演では帝国データバンクの100年史編纂からアーカイブズ立ち上げまでの事例を取り上げました。これは、当編集部が2013年のICASBA国際シンポジウム(スイス、バーゼルにて)「危機、信頼、会社史」での事例発表のため、聞き取りにご協力いただいた時の記録を基にしています。

【会場からのコメント】
「3時間はあっと言う間でした」と言ってくれた参加者がおられたのはありがたいことでした。また、企業史料協議会が、企業に対して目録(編成・記述)の標準化支援を行えないのか、といったコメント・質問も出ました。個別企業だけで必要な専門性を賄うことが難しい日本の場合、社外の専門団体がそのようなサポートを提供できる仕組みをつくっていくことが今後必要であろうと考えられます。


【海外企業アーカイブズにおけるデジタル化戦略】

(講義3時間、質疑応答1時間という時間をいただきましたが、海外の企業アーカイブズの事例に関してはほとんど触れることができませんでした。この場を借りて、補足したいと思います。)

★イギリスの事例★
イギリス系のBTやブーツ(ウォルマート・ブーツ・アライアンス)は資料をアナログからデジタルへ変換したのち、インターネットでの「デジタルアーカイブ」の公開を行なっています。イギリス企業の場合興味深いのは、ICA(国際アーカイブズ評議会)が開発した目録記述の標準ISAD(G)が記録資料整理に広く用いられており、公開されているウェブサイトをみてみると、企業アーカイブズなのですが、階層性が可視化されるとともに、資料の説明(ディスクリプション)が豊富です。

ブーツ・アーカイブズ「デジタル・アーカイブズ」
1956年7月のグラスゴー・ゴードン・ストリートのストア(アイテムレベル)の公開ページの例
http://archives.walgreensbootsalliance.com/record.aspx?src=CalmView.Catalog&id=WBA/BT/21/46/1/377/12

BTアーカイブズ「デジタル・アーカイブズ」の例
http://www.bt.com/btdigitalarchives

言葉を代えると、50年後、100年後の人がそれを見てもコンテクストがわかるような、アーカイブズ的な整理を行っていることです。その一つの理由は、イギリスのアーカイブズ機関の場合、官民問わずISAD(G)に依拠した目録記述が行き渡っているという歴史的背景がありからでしょう。さらに、CALMという、Axiell社という企業が開発したプロプライエタリなアーカイブズ資料管理システムが行き渡っているという事情もあると思います。

もう一つ、英国の企業アーカイブズのデジタル化事例で興味深いのは、公的補助金を得ているため、インターネットで公開している点にあります。例えば、BTは一時歴史的に国有化されていたという歴史的事情があり、デジタル化・公開は国立公文書館とコベントリー大学との共同で100万ポンドのプロジェクトとして行われました。資金はJISC(英国情報システム合同委員会)から出ています。
http://www.btplc.com/Thegroup/BTsHistory/BTgrouparchives/Digitalarchivesandcatalogue/index.htm

上で紹介したブーツ・アーカイブズの目録の公開も、ウェルカム財団からの助成金の獲得によって可能となったものです。
http://www.managingbusinessarchives.co.uk/news/2017/6/bootscat

もちろん全ての企業アーカイブズというわけではありませんが、イギリスの場合、100年以上の歴史を持つ老舗的な企業のアーカイブズが公的な外部資金を獲得し、企業のデジタル資産をインターネット公開する事例がいくつか生まれてきているという状況です。

一方、ICAのシンポジウムで発表されるデジタル化関連の米国企業アーカイブズの事例では、「デジタル・アセット・マネジメントの導入と社業への貢献」という切り口でのものが多いです。次号では、2015年のイタリア・ミラノでの会議プロシーディングス(2017年3月刊)の紹介とともに、その中の事例をご紹介する予定です。


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[略称一覧]
ACA: Association of Canadian Archivists(カナダ・アーキビスト協会)
ARA: Archives and Records Association(アーカイブズとレコード協会)
ASA: Australian Society of Archivists(オーストラリア・アーキビスト協会)
BAC: Business Archives Council(ビジネス・アーカイブズ・カウンシル)
BACS: Business Archives Council in Scotland
(スコットランド・ビジネス・アーカイブズ・カウンシル)
BAS: Business Archives Section
(ビジネス・アーカイブズ部会:SAA内の部会)
CoSA:Council of State Archivists(米国・州文書館長評議会)
DCC: Digital Curation Center(英国デジタル・キュレーション・センター)
EDRMS:Electronic Document and Record Management System
(電子文書記録管理システム)
ERM:Electronic Record Management(電子記録管理)
ICA: International Council on Archives(国際文書館評議会)
NAGARA: National Association of Government Archives and Records
Administrators
(米国・全国政府アーカイブズ記録管理者協会)
NARA: National Archives and Records Administration
(米国 国立公文書館記録管理庁)
RIKAR: Research Institute of Korean Archives and Records
(韓国国家記録研究院)
RMS:Record Management System(記録管理システム)
SAA: Society of American Archivists(アメリカ・アーキビスト協会)
SBA: Section for Business Archives
(企業アーカイブズ部会、ICA内の部会)
TNA: The National Archives(英国国立公文書館)

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☆★ 編集部より:あとがき、次号予告 ★☆

今年は渋沢栄一渡仏150年にあたり、渋沢史料館ではただいま「渋沢栄一、パリ万国博覧会へ行く[第2期]」を開催中です。
詳しくは下記をご覧ください。
https://www.shibusawa.or.jp/museum/special/2017/kikaku2017_03.html

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図書館、博物館に比べて日本ではあまり知られていなかった文書館、公文書館、アーカイブズに関する記事を見かけることが多くなりました。大手メディアでは、過去10年ほど日本経済新聞が関連記事を掲載してきましたね。
https://www.nikkei.com/article/DGKDZO70174950R20C14A4BE0P00/
https://www.nikkei.com/article/DGKDZO75479670Z00C14A8NN9000/
https://www.nikkei.com/article/DGXNASGG01022_U3A101C1TJM000/
他多数あります。とくに文化欄、文化往来欄などで多く取り上げられてきました。

こんな記事もありました。(「知ってるようで知らないカタカナ語 ベスト10」の第2位が「アーカイブ」)
https://style.nikkei.com/article/DGXZZO78309990R11C14A0000000

最近は他の大手メディアでもアーカイブズが広くとりあげられるようになってきました。今号でご紹介したアメリカ・アーキビスト協会の年次大会でも、日本のメディア関係者とお話する機会がありました。その後、関連記事が公開されています。今後も特集は続くようです。ぜひ幅広くさまざまなテーマを取り上げてほしいと思います。

朝日新聞Globeの特集「記録の力」
http://globe.asahi.com/feature/2017083000014.html

★「アーキビストと『記録』」
http://globe.asahi.com/feature/memo/2017090100025.html

★「極北の凍土で守り抜く記録」
http://globe.asahi.com/feature/article/2017083000010.html

★「『文書公開は日本の広報外交』~アジ歴センター長に聞く」
http://globe.asahi.com/feature/side/2017091200002.html

★「すべてにおいて文書が必要だった~元FBI『記録のプロ』に聞く」
http://globe.asahi.com/feature/side/2017090500001.html

★「トランプ政権下の今は『試練のとき』~米国アーキビスト協会長に聞く」
http://globe.asahi.com/feature/side/2017100600004.html

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今号では女子修道会アーカイブズが高齢の引退シスターたちをターゲットとしたゲームを開発して、所蔵資料のメタデータを収集するイベントや、全米公共放送番組アーカイブの書き起こし修正ゲームについてご紹介しました。どちらも高齢者がアーカイブズに関わる(あるいは今後高齢者に普及したいと考えている)興味深い事例でした。筆者は20年ほど前に出版された、修道会に残された個人記録(組織アーカイブズの記録ですね)を基にしたアルツハイマー研究を思い出しました。
http://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I000007394031-00

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次号は2017年11月中旬発行、ICA/SBA主催ビジネス・アーカイブズ国際シンポジウム「最良のビジネス・アーカイブズを作り上げる:投資に対し望ましい利益を得る」(2015年6月、イタリア・ミラノ)会議プロシーディングス(2017年3月刊、Hoepli社)、「ジャーナル・オブ・デジタル・メディア・マネジメント」第5巻第3・4号目次紹介の予定です。

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ビジネス・アーカイブズ通信(BA通信) No.73
2017年10月18日発行 (不定期発行)
【創刊日】2008年2月15日
【発行者】公益財団法人渋沢栄一記念財団事業部情報資源センター
【編集者】公益財団法人渋沢栄一記念財団事業部情報資源センター
      「ビジネス・アーカイブズ通信」編集部/
      株式会社アーカイブズ工房
【発行地】日本/東京都/北区
【ISSN】1884-2666
【E-Mail】
【サイト】https://www.shibusawa.or.jp/center/ba/index.html

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