ビジネス・アーカイブズ通信(BA通信)

第28号(2010年4月12日発行)

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☆      □■□ ビジネス・アーカイブズ通信 □■□

☆       No.28 (2010年4月12日発行)

☆   発行:財団法人渋沢栄一記念財団 実業史研究情報センター

☆                         〔ISSN:1884-2666〕
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この通信では海外(主として英語圏)のビジネス・アーカイブズに関する情報をお届けします。

今号は行事情報1件、文献情報2件です。

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◆ 目次 ◆

[掲載事項の凡例とご注意]

■文献情報:ビジネス・アーカイブズ・ウェブサイト 12
  ◎コカ・コーラ社アーカイブズ・ブログ「コカ・コーラ・カンバセーションズ」

■行事情報:デジタル・プリザベーション:ザ・プラネッツ・ウェイ 4月19-21日 ローマ(イタリア)
  ◎「ネットワーク化されたサービスを通した保存ならびに長期的アクセス方法」セミナー

■文献情報:企業の社会的貢献 1
  ◎『ザ・インディア・ウェイ(インドの方法):インド実業界のリーダーたちはいかにして経営を大改革しているのか』

☆★ 編集部より:次号予告 ★☆

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[掲載事項の凡例]

・日本語で読みやすいものになるように、タイトルははじめに日本語訳を、続いて原文を記します。
・人名や固有名詞の発音が不明の場合も日本語表記を添えました。便宜的なものですので、検索等を行う場合はかならず原文を用いてください。

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[ご注意]
・受信時にリンク先を示すURLが途中で改行されてしまう場合があります。通常のURLクリックで表示されない場合にはお手数ですがコピー&ペーストで一行にしたものをブラウザのアドレス・バーに挿入し、リンク先をご覧ください。

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■文献情報:ビジネス・アーカイブズ・ウェブサイト 12

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◎コカ・コーラ社アーカイブズ・ブログ「コカ・コーラ・カンバセーションズ(コカ・コーラの会話)」

Coca-Cola Conversations
http://www.coca-colaconversations.com/

今回ご紹介するのはコカ・コーラ社のブログサイト「コカ・コーラ・カンバセーションズ」です。
http://www.coca-colaconversations.com/

このサイトはコカ・コーラ社の社内で正式に認められたブログです。コンテンツの作成を担当しているのは同社アーカイブズ部門。ブログの右肩に「このブログについて(About this blog)」というテキストが掲載されています。著者は同社アーカイブズに30年以上勤務するアーキビスト兼歴史家のフィル・ムーニー(Phil Mooney)です。ムーニー氏にはビジネス・アーカイブズに関する論考も多数あり、本通信でこれまで取り上げてきた文献のなかに収められています。

◆コカ・コーラ社アーキビストのフィル・ムーニー氏著作◆

「企業国家アメリカの実践:アメリカにおける企業アーカイブズ」
『企業アーカイブズと歴史:過去を活かす』(1993年)所収
http://www.shibusawa.or.jp/center/ba/bn/20081020.html

「アーカイブズの神話学と企業の現実:危険をはらんだひとつの場所」
『アメリカ企業の記録』(1997年)所収
http://www.shibusawa.or.jp/center/ba/bn/20081112.html

ムーニー氏はこのブログを立ち上げるまでの道のりをまとめた文章を、「インタラクティブ・アーキビスト:アーカイブズ的経験を向上させるためにWeb2.0を利用した事例研究」(The Interactive Archivist: case studies in utilizing Web 2.0 to improve the archival experience)のひとつ(タイトル:「アーカイブズのツールとしてのブログ:コカ・コーラ・カンバセーションズ」)として発表しています。このテキストについてご紹介したいと思います。
http://lib.byu.edu/sites/interactivearchivist/case-studies/blog-at-coca-cola/

◆「アーカイブズのツールとしてのブログ:コカ・コーラ・カンバセーションズ」◆

The blog as an archival tool: Coca-Cola Conversations by Phil Mooney
http://lib.byu.edu/sites/interactivearchivist/case-studies/blog-at-coca-cola/
(以下のテキストはムーニー氏の英文テキストを翻訳編集したものです。)

コカ・コーラ社がソーシャル・メディアの活用を検討し始めたのは2007年後半。コカ・コーラ社は1886年に創業し、現在では200以上の国々で、3,000種以上の飲料を販売しています。全世界で一日に提供される量は16億人分。人々の生活に少なからぬ関わりを持つ企業と言えます。

コカ・コーラ社のアーカイブズは自社と自社製品の顧客の相互の関わりを記録する宣伝資料・マーケティング資料の収集に特に力を入れています。具体的には国内・国外における新聞広告、雑誌広告、ラジオやテレビのコマーシャル、膨大な写真コレクションです。そういうわけで、自社の過去の遺産と大衆文化に焦点を合わせたコカ・コーラ社のブログを担当する部署として、アーカイブズに白羽の矢が立ったのは自然の成り行きでした。

ブログの立ち上げにあたって、まず社内の情報サービス部門の同僚に打診したところ、社内的に技術的なサポートが得られないことが分かりました。そこで既存のブログサービスのなかから米国では最大規模のタイプパッド(Typepad)を選定しました。同サービスはすでにABC社、MSNBC社、そしてBBC社など有名企業が利用していたことも選定にあたっての有力材料となりました。 またコカ・コーラ社のマーケティング資産の大部分が視聴覚資料であることから、この分野との相性の良さも決定的に重要でした。

タイプパッドは利用しやすく、利用者に対するサポート体制もよく、さらに画像、テキスト、ビデオ、音声ファイルのアップロードも簡単で、利用者がブログのコンテンツ全体をコントロールしやすいのです。コンテンツを公開以前にあらかじめ作成しておくこと、コメントの受付可否、レイアウトの自由な変更も可能です。アクセスに関しては、公開またはパスワードによる保護の設定ができ、記事の主題による索引付けも容易です。そのためサーチエンジンによってブログを素早く見つけてもらえることになります。もうひとつ、そのシステムの柔軟性も大きな選定要因でした。つまり、将来このブログが社内のサーバをホストとするようになった場合、タイプパッドの構造ならばそれが可能なのです。

計画段階で重要だったのは、コンテンツと構成に関する明確なガイドラインを設定することでした。それによると、更新は1週間に数回(明文化してはいませんが、週3〜4回の更新を考えていました)、またテーマはブログの説明書にあるものに限る。そして、ブログの記事のトーンはインフォーマルな感じではあるが、アーキビストである著者の知識と経験を反映した権威あるものをめざしました。ブログが自社や自社製品ブランドのサイトの単なる物まねであるようなPR、あるいはマーケティングの代弁者になってしまわないように、ということも重要でした。

準備段階で最も懸念され、また議論した点は、読者からのコメントです。企業をターゲットとした活動家や企業に対する批判者はこのコメント欄を活用して、自分たちの意見を公表することができます。このようなコンテンツの乗っ取りを避けるために、すべてのコメントをブログに反映される前にモニターすることにしました。このポリシー(コメントに対する事前モニター)は「ハウス・ルール」としてブログのトップページに掲載しています。このポリシーには、不適当であったり侮辱的なコメント(inappropriate or offensive comments)、あるいはブログのテーマとは関連のないコメント(commentary that did not relate to topics covered by the blog)の掲載は行わないことも明記しています。あらかじめポリシーを明確にしておくことにより、批判者が「自分のコメントが掲載されない」と苦情を寄せる機会を減らしました。

いっぽう、ブログのテーマに関連するかぎり、否定的なコメント(negative comment)も受け入れて掲載します。ブログで交わされる話題と関係のないコメントは、消費者情報センターまたは適当な関連部署に返答を依頼します。ブログと関連するコメントは投稿後1〜2日で掲載します。

コメントに関する3番目の事項は、ブログの書き手の側の問題です。ブログを書くには訓練と資源が必要です。最初の年には、コンテンツを選択、構成、編集、掲載し、コメントを検討して返事を書き、類似する他社のサイトをチェックするのに1週間に最低10時間かかりました。また複数の人間が執筆するにしても、全体としての統一性を保たねばならず、さらにスタッフの休暇、病気、出張を考慮に入れた継続計画が必要です。ブログ成功の秘訣は一貫した定期的な更新スケジュールにあります。散発的な更新履歴は、ブログのインパクト、信頼性、そして読者を失わせるものです。

上にあげた必須のことをはっきりさせた後は、ブログの境界とランドスケープを明確に限定することが必要です。自由に議論してよい分野の範囲を確定するのです。コカ・コーラ社のブログでは社史における重要な行事を探究し、それにまつわることを取り上げる。そしてその情報は、有益かつ読者を楽しませるように提示します。可能ならば、ブログの記事を現在の企画・プログラムに結び付けて、過去の遺産と今日の経営実務の架け橋となるように心がけます。

ブログの声は企業アーキビストの声です。30年にわたり社史に関して数多くのラジオ、テレビ、印刷媒体からのインタビューに答えてきた企業アーキビスト(ムーニー氏のこと:編集者注)は、会社史上記念となるイベントを威信を持って語ります。このアーキビストが議論のトピックを選び、記事を作成し、掲載の時期を決定し、そして読者からのコメントに答えます。

コカ・コーラ社の場合、自社の最初のブログとして、アーカイブズ資料をコンテンツとすることにした最大の理由は、コカ・コーラ・ブランドを愛する「ファン」が相当数存在していることによります。ファンたちは、コカ・コーラに関連する様々なグッズを集めており、一種のファンクラブも存在するのです。そのため、ブログはこのファンたちの所蔵するグッズの歴史や価値を証明する信頼すべき情報源と位置付けられます。

このブログは、30年にわたってコカ・コーラ社に勤務してきたアーキビストの比類ない見方を通じて、世界的な商品ブランドが持つ経済的、社会的、文化的影響を、一般の市民が経験する機会を提供するもの、といえます。企業の観点からは、このブログは対立的な議論とは関係しない主題と、特定の観客に高い信頼性を持つ記事の書き手を用いた、ソーシャル・メディア・ネットワークのひとつの実験でした。

このような準備を経て、2008年1月23日にコカ・コーラ社のブログが公開されたのです。最初の15ヶ月間で取り上げたコンテンツは、商品のパッケージ、コカ・コーラとオリンピック、ワールドカップ、スーパーボール、テレビコマーシャル制作の舞台裏、読者によるコカ・コーラと自分との関わりに関する記事、記念碑的な出来事、コカ・コーラ・グッズの価値、会社におけるアーキビストの仕事、などです。最初の1年で200以上のテーマの記事を掲載し、80,000人以上がブログを閲覧しました。そして1,500人以上がコメントを残しています。2009年初頭までの一日あたりの閲覧者数は500〜700人、日曜日の閲覧がもっとも多いという結果になりました。

ブログの成功によって、コカ・コーラ社は他の試みにも乗り出しました。例えば、フェイスブックにあるファンたちのページはコカ・コーラ社が開設し、ロサンゼルス在住の二人の友人が運営しているのですが、このページのメンバ−は300万人を超えました

ブログを統計的にみると、2008年4月から2009年4月までの間に閲覧者は330%増加しています。そして閲覧者の50%以上はグーグルから直接やってきます。この検索エンジンがどれだけ力をもつものかを示してもいます。

最初の1年間、2つの教訓を得ました。ひとつは、このブログはコカ・コーラ・グッズのコレクターをターゲットとしているのですが、読者からのコメント欄が「自分のもっているグッズはどのくらいの価値があるのか?」という相場を確認する場として機能するようになったり、すでに一度取り上げられたにも関わらず再度同じ質問をしてくる読者がいたり、あるいは「〜のコマーシャルに起用されたモデルは誰?音楽のタイトルは何?」といった事細かな質問が寄せられたりと、対応する側にとってはたいへん手間がかかりフラストレーションがたまる状況に陥ったのです。そこで、2009年の初頭にこのような質問は受け付けないこととし、このポリシーを明記しました。

もう一つの大きな教訓は、コンテンツに双方向的なものがあるとき、読者は大きく反応するということです。例えば、2008年9月から始めたのですが、毎週金曜日の記事では歴史的な写真や面白い広告にウィットを効かせたキャプションを付けて投稿することを呼びかけるようになりました。これは通常の記事に対するよりずっとたくさんの反応を得ています(20〜30)。

(「アーカイブズのツールとしてのブログ:コカ・コーラ・カンバセーションズ」ここまで)

☆★ 「インタラクティブ・アーキビスト」について ★☆

この「インタラクティブ・アーキビスト」についてちょっとご説明しましょう。
http://lib.byu.edu/sites/interactivearchivist/

「インタラクティブ・アーキビスト」はアーカイブズ利用者へのサービス向上のために、新しいウェブ技術をどのように用いたらよいのか、それを探るために立ち上げられたプロジェクトです。プロジェクトのまとめ役はブリガム・ヤング大学のJ・ゴードン・ベインズ3世(J. Gordon Daines III)とコリー・L・ナイマー(Cory L. Nimer)の二人です。ベインズ3世とナイマーが行ったユーザー調査によると、アーカイブズ機関の利用者は、利用する資料コレクションに関するウェブ上のコンテンツとの間で、双方向でやり取りをすることを強く望んでいる、そのような結果が得られました。

'The idea for The Interactive Archivist developed out of discussions that we had while leading a project to redesign the delivery of finding aids at Brigham Young University. We were surprised during user studies to discover how strongly our users desired to interact with the content that we provide them about our collections.'
http://lib.byu.edu/sites/interactivearchivist/about/

そこから、ブログや写真共有サイト、ソーシャル・ブックマーキング・サイト、ウィキ、ソーシャル・ネットワークといった新しいウェブ技術(Web2.0)を活用したアーカイブズ利用者のためのサービスに関する事例研究の収集等が始まりました。

この試みは2008年のアメリカ・アーキビスト協会(SAA)サンフランシスコ大会でも議論を呼び、既存のアーカイブズ学関連文献で取り上げられることも少ないことから、「インタラクティブ・アーキビスト」として、SAAとブリガム・ヤング大学ハロルド・B・リー図書館(Harold B Lee Library, Brigham Young University)の協力のもと、ウェブサイトが立ち上げられたのです。
http://lib.byu.edu/sites/interactivearchivist/about/

最近はツイッタ―や、セカンド・ライフなどのバーチャル環境をアーカイブズ機関がどのように利用者へのサービス活用しているか、その事例研究の収集も始めています。
http://www.archivists.org/news/docTweets.asp

[関連ページ]

SAAウェブサイト
http://www.archivists.org/

ブリガム・ヤング大学ウェブサイト
http://www.byu.edu/webapp/home/

ブリガム・ヤング大学ハロルド・B・リー図書館ウェブサイト
http://lib.byu.edu/

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■行事情報:デジタル・プリザベーション:ザ・プラネッツ・ウェイ
        4月19-21日 ローマ(イタリア)

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◎デジタル・プリザベーション:ザ・プラネッツ・ウェイ
Digital preservation: the Planets Way
http://www.planets-project.eu/events/rome-2010/

プラネッツ(Planets)とは、「ネットワーク化されたサービスを通した保存ならびに長期アクセス」(Preservation and Long-term Access through Networked Services)という4年にわたるプロジェクトです。これはEUが資金提供する、デジタル資源を保存するためのプログラムに属しています。このプロジェクトのゴールは、デジタルな文化ならびに科学遺産に対する長期的なアクセスを保証するのに役立つような、実用的なサービスとツールを開発することです。プロジェクトは2006年6月1日に始まりました。

英国図書館(British Library)がコーディネーターになっているこのプロジェクトには下記の団体が参加しています。

オランダ国立図書館 The National Library of The Netherlands
オーストリア国立図書館 Austrian National Library
デンマーク王立図書館 The Royal Library of Denmark
デンマーク 州・大学図書館 State and University Library, Denmark
オランダ国立公文書館 The National Archives of the Netherlands
英国国立公文書館 The National Archives of England, Wales and the United Kingdom
スイス連邦公文書館 Swiss Federal Archives
ケルン大学 University of Cologne
フライブルク大学 University of Freiburg
グラスゴー大学HATII HATII at the University of Glasgow
ウィーン工科大学 Vienna University of Technology
オーストリア技術研究所 The Austrian Institute of Technology
オランダIBM IBM Netherlands
マイクロソフト・リサーチ社 Microsoft Research Limited
テッセラ・サポート・サービス社 Tessella Support Services Plc

今月19日から21日の3日間、このプラネッツの5回目の会議がローマで開催されます。

[日時]2010年4月19日(月)〜21日(水)
[場所]ローマ教皇庁グレゴリアーナ大学
[登録料]1日目のみ95ユーロ/3日間通し199ユーロ
[定員]1日目70名/2・3日目各40名
[登録フォーム]
http://www.tcp-events.co.uk/planets2010/

今号では同会議のプログラムをご紹介します。

[プログラム]
http://www.planets-project.eu/events/rome-2010/programme/

◆1日目◆

◇タイトル:デジタル・プリザベーション入門:保存の理由、保存方法
原題:Introduction to digital preservation: why preserve? how to preserve?
報告者名原文:Ross King
所属:オーストリア技術研究所
概要:デジタルデータの長期的保管(storage)とアクセスには2つの問題がある。ひとつはビットストリームの保存問題(bit-stream preservation problem)、もうひとつは論理的な保存問題(logical preservation problem)。前者はデータ保存メディアの陳腐化、劣化に関するものであり、後者はビットストリームへのアクセスに関する問題で、これはオペレーティング・システムの陳腐化による。「デジタル・プリザベーション」の概念は、長期にわたるデジタル情報へのアクセスを保障するための標準、ベストプラクティス、そして技術を含む。デジタル・プリザベーションには、政府、産業界から個人にまでわたる広大な市場が存在する。デジタル・プリザベーション原理の適用を妨げる主要な障壁は、今日の市場を特徴づける短期的な計画にある。そこでデジタル・プリザベーションには、投資に対する利益を想定した「製品」としてではなく、将来的な負債を回避するための「リスク管理方法」としてアプローチすべきである。そうすることによって、長期にわたるデジタル・プリザベーションの実践に対する投資を正当化することができる。

◇タイトル:保存アクションのサイクル:プラネッツ入門
原題:The preservation action cycle: introduction to Planets
報告者名原文:Clive Billenness
所属:英国図書館
概要:デジタル物を効果的に保存するための諸活動を要約する。そして、それをアーカイブズ情報に関するISOならびに英国規格(British Standards)との関係で述べ、各々の組織の業務リスク管理の文脈に位置付ける。報告ではこれらの規格類がプラネッツにどのように反映しているか検討し、デジタル・プリザベーションに関する業務リスク管理者との対話へとセミナー参加者を導く。

◇タイトル:保存計画入門
原題:Introduction to preservation planning
報告者名原文:Hans Hofman(予定)
所属:オランダ国立図書館
概要:保存計画の動機と必要性を検討したのち、さまざまな保存方法を評価するためのプラネッツのアプローチを紹介する。そして一般に利用可能な計画ツールであるPlatoの概要を説明する。

◇タイトル:デジタル・プリザベーション:保存方法
原題:Digital preservation: how to preserve
報告者名原文:Sara van Bussel
所属:オランダ国立図書館
概要:プラネッツ保存アクションは、デジタル物を利用可能なものにする手法を提供する。プラネッツ環境におけるマイグレーション・ツールとエミュレーション・ツールが開発されている。保存ツールは、拡張版Pronomフォーマット・レジストリのなかのツール・レジストリに記述される。これによって、プラネッツのレジストリの利用者は最も適当なツールやサービスを特定・比較・展開・起動することができる。

◇タイトル:ツール:ファイル理解方法
原題:Tools: how to understand files
報告者名原文:Manfred Thaller(予定)
所属:ケルン大学
概要:ファイルコンテンツの理解は、ビットストリームを翻訳するツールに依存する。マイグレーション、あるいはエミュレーションに関する現在の保存シナリオでは、特性評価ツール(characterisation tools)が非常に重要な役割を果たす。たいていの特性評価ツールは技術的メタデータとフォーマットに特有なプロパティを抽出することを主眼とする。プラネッツはそれを乗り越える高度な特性評価アプローチを開発した。それがXCL(Extensive Characterisation Language)である。XCLはフォーマット記述言語ならびにファイル特定化のための一般的なコンテナフォーマットを提供する。

◇タイトル:デジタル・プリザベーション:確認方法
原題:Digital preservation: how to verify
報告者名原文:Edith Michaeler
所属:オーストリア国立図書館
概要:未掲載

◇タイトル:デジタル・プリザベーション:計画方法
原題:Digital preservation: how to plan
報告者名原文:Hannes Kulovits
所属:ウィーン工科大学
概要:保存計画の必要性を議論し、保存計画方法とワークフローを検討する。要件をどのように定量化し測定するのか、その方法を示す。事例研究を議論する。要件の定義と評価プロセスにおいてプラネッツ・ツールがどのように役立つのかを示す。プラネッツの様々なツールとサービスを利用してみる。あるデジタル物の保存のための要件に関するグループ討議を行う。

◇タイトル:ツール:デジタル・プリザベーション構成要素の統合方法
原題:Tools: how to integrate the components of digital preservation
報告者名原文:Ross King
所属:オーストリア技術研究所
概要:デジタル保存のためのプラネッツ・アプローチは記憶組織(memory institutions)、主要には国立図書館や国立公文書館の要求によって推進されている。これらの機関はすでにアーカイブ・システムを備えており、新たにシステムを入れ替えることを考えるのは難しい。それゆえプラネッツ保存パッケージソフトは現存するアーカイブ・システムと並行して動くようにデザインされている。OAIS(Open Archival Information System)準拠アーカイブの中で各種のプロセスとワークフローがどのようにプラネッツ・ソフトによってサポートされているのかを説明する。

◇タイトル:事例研究 1
原題:Case study 1
報告者名原文:Barbara Sierman
所属:オランダ国立図書館
概要:2003年以来オランダ国立図書館が行ってきたデジタル刊行物のe-Depot(長期保存のためのデジタル・アーカイブ)への保存事例紹介。

◆2日目◆

◇タイトル:事例研究 2
原題:Case study 2
報告者名原文1:Rossella Caffo
所属1:イタリアの図書館の総合目録のための中央研究所
所属原文1:The Central Institute for the Union Catalogue of Italian Libraries
(以下の2名は書誌情報に関する部分)
報告者名原文2:Hannes Kurovits
所属2:ウィーン工科大学
報告者名原文3:Mark Guttenbrunner
所属3:ウィーン工科大学
概要:未掲載

◇タイトル:プラネッツを利用した保存計画:実習
原題:Preservation planning with Planets: practical exercise
報告者名原文1:Hannes Kulovits
所属1:ウィーン工科大学
報告者名原文2:Mark Guttenbrunner
所属2:ウィーン工科大学
概要:Platoを使った保存計画ワークフローの最初の3段階から目的分析系図(objective tree)の定義まで。

◇タイトル:デジタル・コンテンツの特性評価
原題:Characterisation of digital content
報告者名原文:Manfred Thaller
所属:ケルン大学
概要:まず最初にXCLを用いてファイルフォーマットのコンテンツがどのように記述されるのかを説明する。次にコンテンツの表現に関わるXCDL(Extensible Characterisation Definition Language)を実例を挙げながら説明する。特定のシナリオを用いてXCLアプローチの適用を実演する。また実例を用いて、XCEL(Extensive Characterisation Extraction Language)を説明する。

◇タイトル:保存アクション
原題:Preservation actions
報告者名原文:Sara van Bussel
所属:オランダ国立図書館
概要:現存する保存戦略(マイグレーションとエミュレーション)、そしてプラネッツが最も必要とされ有益である環境を説明する。サンプル・コレクションから抽出した文書にプラネッツの保存アクションを当てはめてみる。また長期的保存の観点からツールを評価する。

◇タイトル:保存ツールを評価する:テストベッド(実証実験)環境
原題:Benchmarking preservation tools: the testbed environment
報告者名原文1:Edith Michaeler
所属1:オーストリア国立図書館
報告者名原文2:Matthew Barr
所属2:グラスゴー大学HATII
概要:このセッションではテストベッドの機能性と構成要素に関する詳細な説明を行う。

◆3日目◆

◇タイトル:保存アクション:データベース保存
原題:Preservation actions: preserving databases
報告者名原文1:Clive Billenness
所属1:英国図書館
報告者名原文2:Amir Bernstein
所属2:スイス連邦公文書館
概要:このセッションではSIARD(Software Independent Archiving of Relational Databases)フォーマットを紹介する。
編者注:SIARDはスイス連邦公文書館が開発した、リレーショナル・データベースの長期保存フォーマット。次のURLを参照のこと。
http://www.bar.admin.ch/dienstleistungen/00823/00825/index.html?lang=en

◇タイトル:保存計画達成:実習
原題:Completing a preservation plan: practical exercise
報告者名原文1:Hannes Kulovits
所属1:ウィーン工科大学
報告者名原文2:Mark Guttenbrunner
所属2:ウィーン工科大学
概要:前日に作成した目的分析系図(objective tree)を用いて、あるデジタル物に関する保存アクションを施してみる。そして特性評価ツールを用いてその結果を評価してみる。

◇タイトル:テストベッド環境経験
報告者名原文1:Matthew Barr
所属1:グラスゴー大学HATII
報告者名原文2:Edith Michaeler
所属2:オーストリア国立図書館
概要:テストベッドに関するセッションで実演されたツールやサービスを使った各種実験を行う他。

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■文献情報:企業の社会的貢献 1

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◎『ザ・インディア・ウェイ(インドの方法):インド実業界のリーダーたちはいかにして経営を大改革しているのか』
The India Way: how India's top business leaders are revolutionizing management
http://hbr.org/product/the-india-way-how-india-s-top-business-leaders-are/an/12037-HBK-ENG

本通信創刊の辞には次のようにあります。

「財団法人渋沢栄一記念財団は、近代日本経済の父とも呼ばれる渋沢栄一が唱えた「道徳経済合一主義」に基づいて経済道義を昂揚することを目的としております。民間の企業・団体における企業史料管理、アーカイブズの適切な実践はこの目的に適うものであると私どもは考えております。「ビジネス・アーカイブズ通信」が企業史料管理、ビジネス・アーカイブズの実務に貢献すること、またこれらを通じて経済道義の昂揚に寄与することを私どもは望みます。」

ここにあるように、本通信は企業史料管理、ビジネス・アーカイブズを経済道義昂揚の観点から追求していくことを心にかけています。「経済道義の昂揚」とは、現在の言葉で言えば、コーポレート・シチズンシップ、あるいは企業の社会的貢献(CSR)といったものと共通の価値を持つのではないでしょうか。

今回ご紹介する文献『ザ・インディア・ウェイ(インドの方法):インド実業界のリーダーたちはいかにして経営を大改革しているのか』はこのCSRに非常に関わりのあるものです。本書は本通信がこれまで何度か取り上げてきたインド企業の経営に関する事例研究をまとめたものです。

本書の著者はペンシルベニア大学ウォートン校のインド研究チームの研究者たちです。彼らがインドの経営者へのインタビューやフィールドワークから得たインド企業の経営の特徴は下の4点にまとめられています。

(1)株主の利益よりも公共的な使命と国民的な目的を重要視する。
(2)際限のない障害を乗り越えるために臨機応変、順応性、回復力を利用する。
(3)顧客に対して説得力のある価値を持つ製品とサービスを特定する。
(4)才能に投資し、活発な文化を育てる。

インドの企業経営者たちは個別企業の成長を求めるだけでなく、企業活動が社会全体の発展に貢献することが使命であると考えているのです。それはいまなお現存する絶対的貧困といったインドの状況のなせるわざかもしれません。

それでは目次をご紹介いたします。

日本語タイトル:ザ・インディア・ウェイ(インドの方法):インド実業界のリーダーたちはいかにして経営を大改革しているのか
原題:The India Way: how India's top business leaders are revolutionizing management
著者名1:ピーター・カペリ
著者原文1:Peter Cappelli
著者名2:ハービール・シン
著者原文2:Harbir Singh
著者名3:ジテンドラ・シン
著者原文3:Jitendra Singh
著者名4:マイケル・ユーシーム
著者原文4:Michael Useem
発行地:米国マサチューセッツ州ボストン
発行者名:ハーバード・ビジネス・プレス
発行者名原文:Harvard Business Press
発行年:2010
ページ数:ill, 332 p.
ISBN:978-1-4221-4759-7
版元紹介頁:http://hbr.org/product/the-india-way-how-india-s-top-business-leaders-are/an/12037-HBK-ENG

☆★ 目次詳細 ★☆

1. インドのビジネスが立ち上がる:今日のインド的事業経営方法
(Indian business rising: the contemporary Indian way of conducting business)

2. インドの方法への道:経済改革が新たな可能性の開発を駆り立てる
(The way to the India way: economic reforms drive development of new capabilities)

3. 人を管理する: 従業員とのトータルな関わり合い
(Managing people: holistic engagement of employees)

4. 企業を率いる:臨機応変と順応性
(Leading the enterprise: improvisation and adaptability)

5. 比較優位性:創造的な価値を持つ提案を行う
(Competitive advantage: delivering the creative value proposition)

6. 企業統治:取締役会の使命と目的を果たす
(Company governance: fulfilling board mission and purpose)

7. インドの方法から学ぶ:ビジネス・リーダーシップを再定義する
(Learning from the India Way: redefining business leadership)

付録A:インドの方法の成長(Appendix A: Growth of the India Way)
付録B:インドのビジネス・リーダーのインタビューと調査
(Appendix B: Indian business leader interviews and survey)
注記(Notes)
参考文献一覧(Bibliography)
謝辞(Acknowledgments)
索引(Index)
著者について(About the authors)

[関連ページ]
ペンシルベニア大学ウォートン校 ウェブサイト
http://www.wharton.upenn.edu/

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略称一覧

ACA: Association of Canadian Archivists(カナダ・アーキビスト協会)
ARC: ARC magazine: archives - records management - conservation
(SoAが発行する月刊ニュースレター)
ASA: Australian Society of Archivists(オーストラリア・アーキビスト協会)
BAC: Business Archives Council(ビジネス・アーカイブズ・カウンシル)
BACS: Business Archives Council in Scotland
(スコットランド・ビジネス・アーカイブズ・カウンシル)
DCC: Digital Curation Center(英国デジタル・キュレーション・センター)
EDRMS:Electronic Document and Record Management System
(電子文書記録管理システム)
ERM:Electronic Record Management(電子記録管理)
ICA: International Council on Archives(国際文書館評議会)
LSE: London School of Economics and Political Science
(ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス)
MLA: Museums, Libraries and Archives Council
(英国 博物館、図書館、アーカイブズ評議会)
NARA: National Archives and Records Administration
(米国 国立公文書館記録管理庁)
RIKAR: Research Institute of Korean Archives and Records
(韓国国家記録研究院)
RMS:Record Management System(記録管理システム)
SAA: Society of American Archivists(米国アーキビスト協会)
SBL: Section for Business and Labour Archives
(企業労働アーカイブズ部会、ICA内の部会)
SoA: Society of Archivists(イギリス・アーキビスト協会)
TNA: The National Archives(英国国立公文書館)

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☆★ 編集部より:あとがき、次号予告 ★☆

かれこれ5年ほど前から、筆者(本通信の編集部員)は個人的な英文原稿の校正を、ムンバイの会社に依頼しています。最初の頃は「公用語は英語だし、きっと人件費も安いので、商売が成り立つのだろう」と考えていました。この間、インド経済は発展しつづけ、気がつけば本通信でもインド企業のアーカイブズを何度も取り上げることになりました。そして、筆者はいまや英文校正サービス会社の「ロイヤルカスタマー=固定客」です。

編集部員が学生時代、というのはベルリンの壁崩壊以前の1980年代、発展途上国の経済論として「雁行形態的経済発展論」や、ウォルト・ロストウの「経済発展段階説」、あるいはアンドレ・G・フランクの「低開発の開発」など、さまざまな流派(?)が存在していました。今日わたしたちが目にしているインドの経済発展を、当時は正直なところまったく予想していませんでした。

今回ご紹介した「ザ・インディア・ウェイ」の日本語訳もいずれ刊行されるでしょう。楽しみに待つことといたします。

次号は2010年5月中旬配信予定です。

どうぞお楽しみに。

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◆◇◆〈渋沢栄一記念財団からのお知らせ〉◆◇◆

□「企業史料ディレクトリ」:企業アーカイブズと企業史料の所在・概要ガイド

2008年7月22日公開いたしました。日本を代表する企業を中心とした企業アーカイブズと史料保存・学術研究機関合わせて30企業・団体・機関の概要、所蔵資料に関する情報を掲載しております。ぜひご覧ください。
http://www.shibusawa.or.jp/center/dir/index.html

□実業史研究情報センター・ブログ「情報の扉の、そのまた向こう」

「今日の栄一」「渡米実業団」「栄一情報」「栄一関連文献」「センターニュース」「今日の社史年表」「社史紹介(速報版)」「ビジネス・アーカイブズ通信(速報版)」「アーカイブズニュース」「図書館ニュース」をお届けしております。
http://d.hatena.ne.jp/tobira/

「アーカイブズニュース」では公文書等の管理に関する法律に関する動向やアーカイブズのデジタル化、資料の発見・公開に関わるニュースを随時ご紹介しております。

ブログ画面右側の「カテゴリー」にある「アーカイブズニュース」をクリックしてください。「アーカイブズニュース」として掲載した記事をまとめて一覧することができます。

・カテゴリーの紹介
http://d.hatena.ne.jp/tobira/20080203

実業史研究情報センター・ブログ「情報の扉の、そのまた向こう」はほぼ毎日更新しております。どうぞご利用ください。

□「渋沢栄一関連会社社名変遷図」

渋沢栄一がどのような会社に関わったか、それが今にどうつながっているのか、一目でわかるように業種別にまとめて変遷図にしました。現在101図掲載中です。社名索引もありますので、どうぞご覧ください。
http://www.shibusawa.or.jp/eiichi/companyname/index.html

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ビジネス・アーカイブズ通信(BA通信) No.28
2010年4月12日発行 (不定期発行)
【創刊日】2008年2月15日
【発行者】財団法人渋沢栄一記念財団実業史研究情報センター
【編集者】財団法人渋沢栄一記念財団実業史研究情報センター
      「ビジネス・アーカイブズ通信」編集部
【発行地】日本/東京都/北区
【ISSN】1884-2666
【E-Mail】
【サイト】http://www.shibusawa.or.jp/center/ba/index.html

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