情報資源センターだより

74 2021年度を振り返る

『青淵』No.878 2022年5月号|情報資源センター長 茂原暢

 情報資源センターは、渋沢栄一記念財団(以下「財団」)の「図書館・デジタル部門」として、主に渋沢栄一や実業史に関する資料・情報の資源化に取り組んでいます。「情報資源」は聞き慣れない言葉かもしれませんが、文部科学省が公表する「司書資格取得のために大学において履修すべき図書館に関する科目一覧」で「印刷資料」「非印刷資料」「電子資料」「ネットワーク情報資源」の四つが情報資源として示されています。「資源化」とは、これらの情報資源を「いつでも・どこでも・誰でも使えるようにすること」であり、現代においては"デジタル"の力が必須となります。

 そのため情報資源センターでは、「文化資源を作り出す」「ウェブサイトは閲覧室」という二つのモットーの下に、「実業史研究情報基盤整備」として資源化の基礎となる文献資料を収集・整理・保存し、それを基に「社史プロジェクト」「実業史錦絵プロジェクト」「渋沢関連情報資源の開発」という三方からのアプローチでデジタルアーカイブを開発・公開、ブログ等による情報発信をあわせ行うことで、渋沢栄一や実業史に関する情報資源を広く社会に提供してきました。

 2021年度の事業は、NHK大河ドラマ「青天を衝け」の放映によりデジタルアーカイブの閲覧数が増加し、コロナ禍を契機とするリモート・サービスへの要望の高まりを背景として充実したものとなりました。時代の変わり目となるかもしれない2022年度を迎えるにあたり、主な事業成果をご報告しておきたいと思います。

デジタル・データの利活用

 「渋沢栄一ダイアリー」(以下「ダイアリー」)と「渋沢栄一フォトグラフ」(以下「フォトグラフ」)は、どちらも国立歴史民俗博物館総合資料学奨励研究の研究成果として開発されたデジタルアーカイブです。「ダイアリー」では渋沢栄一の日記と「集会日時通知表」(予定表)を収めた『渋沢栄一伝記資料』(以下『伝記資料』)別巻第1・第2が、「フォトグラフ」では700点あまりの写真資料を収めた『伝記資料』別巻第10が公開されました。プロジェクトの代表は財団デジタルキュレーターの金甫榮が務め、システムは日本を代表する人文情報学(デジタル・ヒューマニティーズ)の研究者たちが開発しました。

 情報資源センターは、この研究に対し『伝記資料』別巻のテキストとページ画像といった"デジタル・データ"を提供するとともに、データ整備や公開環境の構築などを担当しました。「ダイアリー」では人名・地名の可視化や分析等が行われ、「フォトグラフ」はユーザーの力を借りて情報を付与する「市民参加型のデジタルアーカイブ」として構築されるなど、"デジタル"ならではの資源化が実現し、いくつかの新聞・雑誌にも取り上げられました。さらに、それぞれの内容や開発のプロセスに関する研究発表や論文などが生み出されつつあります。「ダイアリー」については『青淵』2021年11月号の「情報資源センターだより」で、「フォトグラフ」に関しては『青淵』2022年5月号 p.10~12 に掲載されている「写真でつながる渋沢栄一:「渋沢栄一フォトグラフ」公開まで」で詳述されていますので、ぜひお読み下さい。

教育現場へのアプローチ

 渋沢栄一の事績や思想を幅広い世代に知ってもらうことの一環として、若年層への接点となる教育現場へのアプローチを行いました。

 まず、自治体・MLAのデジタルアーカイブを学校教育の教材として活用する「S×UKILAM連携:多様な資料の教材化ワークショップ」で2回にわたり「ダイアリー」と「フォトグラフ」を紹介し、その利活用について学校関係者とともに検討を行いました。特に「フォトグラフ」は、多数の写真資料を自由に利用できることに加え、「市民参加型」という特徴を活かして、渋沢栄一をテーマとした授業だけではなく、情報リテラシーの育成にも役立てられるのではないかという評価をいただきました。

 また、順天中学高等学校「Global Week 2021」では渋沢史料館の桑原功一副館長(現・館長)と特別授業を行いました。テーマは「渋沢栄一と東京北郊地域:デジタルアーカイブで調べて考える」で、当日は桑原副館長と情報資源センターのスタッフによるガイダンスに続き、デジタルアーカイブを使ったグループ学習と発表が行われ、参加者からは「大河ドラマで見ていた渋沢栄一を深く知ることができた」という感想をいただきました。

 文部科学省が推進する「GIGAスクール構想」によってICTの利用が進む学校教育では、教材作成などでデジタルアーカイブの利活用が増えることが期待されています。今後も教育現場へのアピールを続けるとともに、できる限り使いやすい形で情報資源を提供していきたいと考えています。

情報資源センターの事業スタイルへの注目

 コロナ禍が続いているということもあり、2021年度は、情報資源センターの「非来館型のリモート・サービス」という事業スタイルに注目が集まりました。冒頭に書いた「文化資源を作り出す」「ウェブサイトは閲覧室」というモットーに示されているとおり、情報資源センターは "デジタル"による情報発信・リソース提供に事業の重点が置かれています。第438回機振協セミナー「ウェブサイトは閲覧室:渋沢栄一記念財団情報資源センターの事業スタイルについて」(機械振興協会経済研究所BICライブラリ主催)では、財団の歴史や情報資源センター設置の経緯、現在の事業等について紹介し、「コロナ禍における利用状況」「所蔵資料をウェブコンテンツとして整理する着眼点」などの質問にお答えしました。情報資源センターは、2018年3月に「図書館サポートフォーラム賞」を受賞した際、「センターの経験を広く社会で共有して欲しい」とのご要望をいただいています。このような報告がその責を果たす機会となることを願っています。


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