情報資源センターだより

75 国立国会図書館デジタルコレクション個人送信サービスで拡がった渋沢栄一の世界

『青淵』No.881 2022年8月号|情報資源センター 若狭正俊

 2022年5月19日、国立国会図書館が同館デジタルコレクション*1において「個人向けデジタル化資料送信サービス」(個人送信)を開始しました。このサービスは2021年の著作権法一部改正によって可能となったもので、「図書館向けデジタル化資料送信サービス」(図書館送信)対象資料約152万点*2が個人のインターネット環境でも閲覧できるようになりました。図書館送信サービスは、これまで国立国会図書館以外では一部の送信参加図書館のみで利用に供されていたため、身近に利用可能な図書館がない、利用時間が限られるなど制約がありました。これに対して個人送信サービスは事前の利用登録と利用規約への同意、インターネット環境があれば、場所や時間の制約を受けることなく利用することができます。現在のところ閲覧のみの利用ですが2023年には印刷機能も提供される予定です。

 個人送信サービスによって渋沢栄一関連の文献も閲覧できる数が大幅に増えました。デジタルコレクションで「渋沢栄一」を全文検索すると、これまでも閲覧可能であった859件に加え、個人送信サービスによって1,873件の文献が合わせて閲覧できるようになりました*3。どのような文献が閲覧できるようになったのでしょうか。今回は当財団「フィランソロピー」シリーズの刊行などで注目を集めつつある渋沢栄一の社会公共事業に関する文献から団体史のいくつかを事例として紹介したいと思います。

『温故学会五十年史』(温故学会、1957年)

 温故学会は国学者塙保己一の偉業を顕彰することを目的として設立された団体です。栄一は顧問、賛助員、維持会員として同会に加わっています。『五十年史』では「温故学会維持会員列伝」の中で栄一と同会のかかわりについて記述があります。また1927(昭和2)年に開館した温故会館の開館式での栄一の式辞と栄一が塙保己一について述べた「塙検校追懐録」が掲載されています。

『二松学舎九十年史』(二松学舎、1967年)

 漢学者・法律家の三島中洲によって開かれた二松学舎で栄一は舎長などに就任し同校の発展に尽力しました。『九十年史』では栄一と同校の関係について知る事ができます。第4章第4節では「渋沢栄一と二松学舎」と題し、栄一と中洲の関係が亡き妻千代の碑文を依頼した時に始まったと記しています。

『献帰十年』(修養団後援会、1935年)

 修養団は蓮沼門三が学生時代に寄宿舎美化活動を始めたことがきっかけで設立された団体です。現在は公益財団法人認定の社会教育団体として活動しています。栄一は修養団を支援するために設立された修養団後援会の会長を亡くなるまで務めていました。『献帰十年』には後援会席上での栄一の挨拶などが複数掲載されています。どちらも『渋沢栄一伝記資料』には収録されておらず、栄一と修養団の関係を知るための貴重な文献です。「後援会と渋沢会長」と題する部分で栄一は修養団の「「愛と汗」の精神は私が多年主張して参りました「道徳経済の合一」に一致」と述べています。

 以上にご紹介した団体史のほかにも個人送信サービスによってこれまでより読みやすくなったデジタル化資料がたくさんあります。一点一点が大変に興味深いものばかりで、時間を忘れて読み耽ってしまいます。同サービスは栄一と彼の生きた時代の全体像を新しい角度から眺める手助けとなる事でしょう。なお国立国会図書館デジタルコレクションは、同館NDLラボで公開中の「次世代デジタルライブラリー」で実験的・先行的に提供されている全文検索機能を反映して今冬に生まれ変わる予定とのことです。また5月31日には新たに30万点のデジタル化資料が追加され、ゆくゆくは個人送信サービスでも閲覧できる資料が増えるとのニュースがありました。今後さらに使いやすく、より多くの栄一情報にアクセスできるようになることが期待されます。個人送信サービスから渋沢栄一の新しい1ページを開いてみてください。


【注】
*1 国立国会図書館で収集・保存しているデジタル資料を検索・閲覧できるサービス。収載資料はインターネット公開、図書館・個人送信、国立国会図書館内限定の3つの範囲で提供している。
*2 2022年5月時点。
*3 2022年6月18日確認。

【参考リンク】
国立国会図書館デジタルコレクション
(URL)https://dl.ndl.go.jp/
個人向けデジタル化資料送信サービス - 国立国会図書館
※サービス利用方法について記載があります。
(URL)https://www.ndl.go.jp/jp/use/digital_transmission/individuals_index.html
次世代デジタルライブラリー - NDLラボ
(URL)https://lab.ndl.go.jp/service/tsugidigi/


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