MENU
『青淵』No.875 2022年2月号|情報資源センター 企業史料プロジェクト担当 松崎裕子
新型コロナウイルスの世界的感染爆発から2年が過ぎました。情報資源センターの企業史料プロジェクトは、感染予防のため、オンラインに限定した業務を続けています。2021年はそのような状況のなか、世界と日本のビジネス・アーカイブズに関わる2つの情報発信に加え、海外の先進的な企業アーカイブズの専門家によるオンライン講演のコーディネートに協力しました。この3つの取り組みについてご紹介します。
『新しい産業創造へ(デジタル
アーカイブ・ベーシックス;5)』
1つ目は2021年5月、勉誠出版より刊行された『新しい産業創造へ(デジタルアーカイブ・ベーシックス;5)』への寄稿です。本書は渋沢栄一記念財団も賛助会員となっているデジタルアーカイブ学会が編集責任者となる専門的啓発書のシリーズ「デジタルアーカイブ・ベーシックス」の5巻目で、シリーズの完結編にあたります。第5巻では、主に、企業におけるデジタルアーカイブの利活用について、先進的な取り組みが紹介されています。寄稿した同書第1章「世界のビジネス・アーカイブズ概観」は、デジタルアーカイブの利活用の前提となる、企業におけるアーカイブズ活動の歴史を広くまとめたものです。他には類を見ない内容となっています。企業アーカイブズのこれまでと現在の特徴を概観しつつ、デジタル時代は、アーカイブズ(史資料および史資料を管理する部署のこと)が社業に貢献し公益に資する上で、アナログ時代に比べてより良い環境を提供してくれていることを解説しています。
『ビジネス・アーカイブズ国際比較』第3版
2つ目は2021年8月30日に国際アーカイブズ評議会企業アーカイブズ部会(ICA/SBA)が同評議会のウェブサイトで公開した『ビジネス・アーカイブズ国際比較(Business Archives in International Comparison)』の第3版への寄稿です。これは、世界のビジネス・アーカイブズの概況を国ごとにまとめ、比較可能にしたものです。日本の項目は情報資源センター企業史料プロジェクト担当が英語で執筆しました。この国際比較は2004年に第1版が公開され、2006年に一部更新、今回の改訂版(第3版)出版まで15年かかりました。初版の収録国数は12の国と地域、第2版は8カ国、今回の第3版には欧州、アジア(日本、中国、インド)、北米地域の21カ国の情報が収録されています。国際比較からは、ビジネス・アーカイブズに関わる法制度の違いや専門団体・協会の有無などが明らかになるとともに、どこの国でも「デジタル」「デジタル化」が、アーカイブズと企業文化の未来への継承、情報の共有に寄与していることが読み取れます。
なお、この度インターネットで公開された第3版は、著作者(ICAならびに各記事の執筆者)名を表記のうえ、非営利目的で利用することが可能です(CC BY-NC)。
3つ目は、2021年に創立40周年を迎えた企業史料協議会の第10回ビジネスアーカイブズの日オンライン・シンポジウム(2021年11月5日)において、ICA/SBA部会長で、スイスに本社を置く世界的な製薬企業ロシュ社のアーカイブズ・キュレーター、アレキサンダー・ビエリ氏による基調講演「ロシュ社のアーカイブズ&アーカイブからビジネスに価値を生み出す」(英語による講演)のコーディネートを行ったことと、この基調講演に関する解説を担当したことです。DXイノベーションにより企業の構造改革・働き方改革が進み、アーカイブズ部門は企業経営そのものに深く関わり、価値を生み出そうとしている時代、そしてまた、リモートワークも進む時代に、アーカイブズの仕事の原点を見直し、「いかに遺し、管理し、活用するか」を考える催しでした。ビエリ氏には、このシンポジウムの劈頭を飾る、示唆に富む基調講演を行なっていただくことができました。(なお講演の日本語訳全文は2022年5月刊行予定の同協議会の会誌『企業と史料』第17集に収録予定です。)
以上3つの取り組みは、2004年の企業史料プロジェクト開始以来蓄積してきた、世界と日本の企業アーカイブズ情報と、国内外関係者との緊密なネットワーキングの成果の集成と位置づけられるでしょう。とくにビエリ氏による講演は情報資源センターがこれまで築いてきた国際的なネットワークなしには実現出来ない企画でした。また、企業史料プロジェクトが目指す「アーカイブズを通じた企業活動の支援」は、デジタルの力を借りることによって、リモートであってもさまざまな可能性を持つことが強く感じられた一年でもありました。