情報資源センターだより

72 「渋沢栄一ダイアリー」の公開

『青淵』No.872 2021年11月号|情報資源センター 井上さやか

「渋沢栄一ダイアリー」TOPページ
「渋沢栄一ダイアリー」
TOPページ

 2021年4月、「渋沢栄一ダイアリー」[1]がインターネットで公開され、渋沢栄一の日記をインターネットで読むことができるようになりました。

 これは日本を代表する人文情報学(デジタル・ヒューマニティーズ)の研究者らによって開発されたもので、2020年度 国立歴史民俗博物館総合資料学奨励研究「TEIを用いた『渋沢栄一伝記資料』テキストデータの再構築と活用」の研究成果として公開されたサイトです。情報資源センターは、本研究に、テキストとページ画像など研究素材の提供、公開環境の整備、研究サポート等の協力をおこないました。
 本研究は、渋沢栄一の「日記」と「集会日時通知表」(予定表)が収録されている書籍『渋沢栄一伝記資料』(以下『伝記資料』)別巻第1・第2を対象に「テキストデータのあり方や、公開方法、活用方法などを考察することを目的」[2]としたもので、(1)『伝記資料』テキストデータの標準化、(2)さまざまな可視化と分析を用いた多角的な研究アプローチの提示などが行われました。『伝記資料』は、発刊から50年近くを経た現在でも、渋沢栄一や日本近代史を調べるための基礎資料集として活用されていますが、本研究によって、人文情報学・日本語学など新たな分野での活用のひろがりの可能性が示唆されたといえましょう。
 今回は、公開された「渋沢栄一ダイアリー」をご紹介します。

* * * * *

 「渋沢ダイアリー」には、渋沢の日記やスケジュールの情報を利用するための、いくつかの機能(方法)が用意されています。

1. 「全文」「本文検索」
 ...基本の〝読む・調べる〟機能です。「全文」では、テキストと書籍のページ画像を並べて読むことができます。テキストはコピー&ペーストが可能です。TEIでマークアップされた日時情報・人名・地名は一目でわかるよう色分け表示されています。「本文検索」からは、知りたい情報が載っている日の記事を検索することができます。

「全文」
「全文」
左にテキストがTEI Viewerで、右にページ画像がIIIF 対応Viewerで表示される。頭からまるごと読むことや、目次のインデックス等から目的の場所に移動すること、ページの拡大縮小、単ページ/複数ページなど切替表示が可能。


2. 「カレンダー」「原本概要」「人名・地名」「ネットワーク」「地図」
 ...日記と予定表を合体させた「カレンダー」表示ができるほか、日記原本を所蔵する国文学研究資料館の公開情報とリンクした「原本概要」の紹介や、Wikipediaの情報とリンクした「人名・地名」の解説、登場人物間の繫がりをみる「ネットワーク」表示、地名を世界地図上にマッピングした「地図」が用意されています。〝可視化と分析〟という研究の面からだけではなく、「渋沢栄一ダイアリー」の内容を、見て、発見して、楽しむことができる機能となっています。

「地図」と「ネットワーク」
「地図」(左)と「ネットワーク」(右)
「渋沢栄一ダイアリー」に登場する地名・人名と、Wikipediaの情報をリンクさせ、自動表示。渋沢が訪れた国・場所や、渋沢が面会した人々の一端をうかがうことができる。


3. 「TEI/XML」
 ...研究成果を〝更に活用する〟機能です。人文学資料向けの標準化されたテキストの記述方法であるTEI形式[3]に整備されたテキストを、「渋沢栄一記念財団デジタル・ラボ」(GitHub)[4]より一括ダウンロードして利用できます。サイト構築に用いたソースも同ラボにてCCライセンス(CC BY 4.0)で公開しており、クレジットを表示すれば無料で誰でも自由に再活用が可能です。

* * * * *

 「渋沢栄一ダイアリー」で確認できる渋沢の日々は、終日時間刻みで予定をこなすことも多く、実にパワフルです。インターネットで公開されている同時代の日記[5]、例えば東京市長をつとめ、渋沢栄一の女婿であった阪谷芳郎の日記などと、同じ事柄を読み比べてみるのも面白いかも知れません。「渋沢ダイアリー」を探検してみるのはいかがでしょうか?
 「渋沢栄一ダイアリー」によって、渋沢栄一に関する情報資源の公開や利用がまた一歩進み、その情報価値が高まることを期待しています。

 当センターでは、『伝記資料』の書籍であるという形を越え、「いつでも・誰でも・どこでも」利用するためのデジタル化プロジェクト[6]に取り組んでいます。また今年度は、渋沢の写真資料を収録する『伝記資料』別巻第10を対象にした、国立歴史民俗博物館総合資料学奨励研究「市民参加型プラットフォームによる写真資料のデータ構築と活用」に参加し、更なる渋沢情報資源の公開と活用を模索しています。今後の渋沢情報資源の発信にも、ご期待ください。

【参考文献・URL】(URLは、全て2021年9月22日確認)
[1] [2] 渋沢栄一ダイアリー https://shibusawa-dlab.github.io/app1/
[3] TEI(Text Encoding Initiative) https://tei-c.org/
[4] 渋沢栄一記念財団デジタル・ラボ(GitHub) https://github.com/shibusawa-dlab
[5] 国立国会図書館電子展示会「国立国会図書館憲政資料室 日記の世界」 https://www.ndl.go.jp/nikki/
[6] デジタル版『渋沢栄一伝記資料』 https://eiichi.shibusawa.or.jp/denkishiryo/digital/main/


一覧へ戻る