情報資源センターだより

70 NHK大河ドラマ「青天を衝け」とデジタルアーカイブ

『青淵』No.866 2021年5月号|情報資源センター長 茂原暢

 2021年というのは、渋沢栄一にとって特別な年と言えるでしょう。没後90年というだけではなく、NHK大河ドラマ「青天を衝け」の主人公として、およそ1年にわたってその人生が描かれるからです。ドラマの放送は2月14日と、栄一の旧暦での誕生日(天保11年の2月13日)の翌日から始まりました。その評判は上々で、初回の平均視聴率は関東地区で20%となりましたが、これは2013年の「八重の桜」以来8作ぶりのことだそうです。また、放送にあわせてTwitterでも話題となり、ハッシュタグ「#青天を衝け」はトレンド世界1位ともなりました。株式会社CINCのプレスリリース「NHK大河ドラマ「#麒麟がくる」「#青天を衝け」Twitterでのハッシュタグ出現数を調査」によると、これらのツイートの半分以上(55%)は女性が投稿しており、どちらかというと登場人物より出演俳優に注目が集まる傾向にあったとのことです。

 また、このドラマでは「こんばんは。徳川家康です。」という台詞と共に、北大路欣也さんが扮する徳川家康がガイド役として登場することも話題となっています。ここで家康が語るのは、その後に続くストーリーの歴史的なコンテクストです。第1回では日本の歴史を総括し、第2回ではその歴史の中に渋沢栄一を位置付けました。それに続く本編では、若き栄一のストーリーと一橋慶喜のストーリーが同時進行的に展開することにより、血洗島を中心とした農村での出来事、水戸や江戸を舞台とした政(まつりごと)の世界、そしてそれらに付随する商業の世界や江戸城下の庶民の暮らしがパラレルに描かれています。そこから考えると、家康のガイドとドラマ本編は縦糸(通時的)と横糸(共時的)のような関係となり、栄一は「歴史の文脈の中に置かれている」ことになります。これは、栄一を近代経済社会の文脈で捉えようとする情報資源センターの事業理念と深く共鳴するところでもあります。

 さて、大河ドラマの放送にあわせ、情報資源センターが開発・公開するデジタルアーカイブの閲覧数(ページビュー数)が増加しています。放送開始前後の2021年1月と2月の月間閲覧数を比較すると、デジタル版『渋沢栄一伝記資料』と「実験論語処世談」は約2倍(1月:35,308/2月:64,228、以下同じ)、「渋沢栄一ゆかりの地」は約3倍(24,673/72,736)、「渋沢栄一関連会社名・団体名変遷図」は約4倍(17,146/67,944)となっています。財団の全コンテンツを見渡すと、一番多く閲覧されているページは「渋沢栄一略歴」で、こちらも約4倍(22,123/89,314)に増加しています。閲覧数が増えるのはやはり大河ドラマの放送日が多く、中でも日曜夜の本放送が終わった20時45分から21時までの15分間に数字が跳ね上がる傾向があります。このように、財団のデジタルアーカイブは大河ドラマが社会に与えるインパクトを休むことなくしっかりと受けとめているのです。

 ところで、ドラマで取り上げられているちょっとしたエピソードが、デジタル版の『渋沢栄一伝記資料』や「実験論語処世談」の中から見つかることがあります。たとえば第6話「栄一、胸騒ぎ」では、ドラマの中盤に「力石(ちからいし)」のエピソードが出てきました。父・市郎右衛門から「得意先回りで、まあた力石やったんか。」と問われた栄一が、「そうよ。河辺村の若もん連中が誰もあげらんねぇ力石を、俺が持ち上げたんだ。」と答えるあの場面です。試しにデジタル版『伝記資料』を「力石」で検索してみると6件ヒットし、本編第1巻のp.123(DK010003k)に「旧幕時代には村々に若者連の集まる場所に力試をする力石と称するものがあつて、今日尚処々に残されて居るものがある、神畑の伝ふる所によれば、翁[渋沢栄一]、青年の際御得意廻りに来られ、村の若者連に参加し此の力石を試みたが、群を抜き若者連一人として翁に及ぶものがなかつたとのことだ。」(『上田郷友会月報』第620号「渋沢翁と紺屋手塚の老婆(柴崎新一)」より)とあることがわかりました。脚本を担当する大森美香さんは『伝記資料』に「全部目を通した」とのことなので、『伝記資料』に書かれている細かい情報までが、ストーリー創作の源泉となっているのかもしれません。また、デジタル版「実験論語」では親族をはじめ徳川家康、一橋慶喜、西郷隆盛などドラマの登場人物に関するエピソードが、栄一の言葉として記されています。実際、渋沢喜作や平岡円四郎に関する談話はこれまでになく読まれています。皆様も気になる言葉やエピソードが出てきたら、ぜひネットで検索してみてください。きっと『伝記資料』や「実験論語」などのデジタルアーカイブがヒットすることでしょう。

 新型コロナウイルスの関係で、社会は大きく「デジタル」にシフトしつつあります。このことを前提として、情報資源センターでは、2021年度の事業として栄一の日記や『論語と算盤』などをデジタル化して皆様にご提供したいと考えています。世界中の誰もが渋沢栄一の英知に触れることのできる社会を実現するため、ますますのご支援をお願いいたします。

*ウェブサイト掲載にあたり、内容の一部を訂正しました。


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