情報資源センターだより

69 企業史料協議会初のオンライン・シンポジウムで企業アーカイブズにおける「つながること」の大切さを訴える

『青淵』No.863 2021年2月号|情報資源センター 企業史料プロジェクト担当 松崎裕子

 企業史料協議会が2020年11月6日に開催した第9回「ビジネスアーカイブズ(BA)の日」の集いにおいて、「《アーカイブズでつながるコミュニティ》アーカイブズ・コミュニティを目指して」というテーマで基調講演とパネルディスカッションのモデレータを務めました。

 企業史料協議会(Business Archives Association)は日本における企業アーカイブズに関する唯一の専門団体です。1981年11月5日に、企業史料の社会的・歴史的価値の重要性を認識し、会員相互の交流を図るとともに、企業史料の収集・保存・管理についての調査研究を行い、その水準向上に資することを目的として、経営史研究者、財界、専門図書館関係者によって設立されました。企業におけるアーカイブズの管理と活用、企業ミュージアムの設立と運営、社史の編纂に関わる研究を三つの柱として、様々な事業活動を展開してきました。現在会長を務めているのは、渋沢栄一とも歴史的なつながりが深い東京海上日動火災保険株式会社の石原邦夫相談役です。

 同協議会では2011年11月11日に創立30周年記念事業として上川陽子衆議院議員(元公文書管理担当大臣)を招き、「残す、伝える、役立てる アーカイブズを社会の力に 知的経営資源としてのアーカイブズを考える」というテーマで「ビジネスアーカイブズフェア」を開催しました。これがきっかけとなり、翌2012年から、協議会設立記念日の11月5日(またはその前後の日)に、ビジネスアーカイブズの振興を目的として、講演とシンポジウムを組み合わせた「ビジネスアーカイブズ(BA)の日」の催しを開催してきました。

 2020年は春以来の新型コロナウイルスの感染の広まりという事態への対応を迫られ、協議会事務局は、状況の変化をにらみながら「BAの日」の開催形式とテーマの精査・再検討をぎりぎりまで繰り返し、「"オンライン形式"での開催」「さまざまな制約下で困難な活動を余儀なくされている企業アーカイブズをサポートしつなげるというテーマ」に決定したということです。協議会からの依頼は、デジタルでの情報発信と国内外の企業アーカイブズ関係者とのネットワーク構築を積極的に進めてきた、情報資源センターのこれまでの取り組みに注目いただいたことによるものです。

 基調講演では、渋沢栄一の道徳経済合一説の現代的実践としての企業史料プロジェクトのスタート(2004年)、2007年の東京での国際シンポジウム以来、海外(米国、インド、オーストラリア、スイス、イタリア、スウェーデン、デンマーク、中国、英国)の国際会議において企業史料プロジェクトと日本を代表する企業アーカイブズを紹介してきた歴史、その取り組みの中で発見した世界と日本の企業アーカイブズに共通する課題、アーカイブズが企業経営にもたらす価値、"グローバル化"と"デジタル化"による企業アーカイブズとアーキビストの新たな役割と意味といった点を、森永製菓史料室、HSBCグローバル・アーカイブズ(英国ロンドン)、ブーツUKアーカイブズ(英国ノッティンガム)、IKEAミュージアム(スウェーデン・エルムフルト)、インテーザ・サンパウロ・グループ歴史アーカイブズ(イタリア・ミラノ)を取り上げて紹介いたしました。取り上げたのは、社内の各部門やキーマンたち、社内外のアーキビストたち、地域、あるいはインターネットを介して世界のオーディエンスとつながることによって、企業のアーカイブズとそのつながりの向こうにいる相手先が、互いに存在価値を高めることができるという具体的な事例です。また、情報資源センターが構築してきた国際ネットワークで交流を深めてきた米国のアーキビストによる「アドボカシー&アウトリーチ」ツールに関する紹介は、これまでにない情報でしたので、参加者からは「さらに詳しい解説が聞きたい」という声が主催者に寄せられていました。講演のまとめの部分では、創業者精神の継承の中核機能を担う社内アーカイブズ部門こそ、SDGs(国連の持続可能な開発目標)、ESG投資といったテーマや課題への企業の取り組みを、内実を持ったものとして、しっかりと支える役割を担うことを強調しました。

 パネルディスカッションでは、グンゼ株式会社 綾部本社総務課課長・グンゼ博物苑前苑長樋川裕二氏(京都綾部市からオンライン参加)、株式会社アンデルセン・パン生活文化研究所理事・広報室社史編纂・史資料チームリーダーの豊嶋朋子氏(広島市から)、TOTO株式会社TOTOミュージアム館長中野寛政氏と同社総務本部社史資料室社史企画グループグループリーダーの松﨑理都子氏(北九州市から)の3社4名のパネリストをお迎えし、ミュージアムでの展示を通じた地域社会とのつながり、史資料の収集、整理、展示における社内やOB・OGとのつながり、他社のアーカイブズやミュージアムとのつながりなど、それぞれの企業文化と地域に根ざしたアーカイブズ・コミュニティのあり方をシンポジウム参加者と共有することができました。

 オンライン・シンポジウムを振り返ってみると、日本における企業アーカイブズが、創業者の志、経営の理念、社としての歩みを継承し広めるため、書物としての社史やリアルな場としてのミュージアムといったツールや装置を上手に活用してきたことを再確認することができたと思います。新型コロナウイルス感染症の拡大により、"グローバル化"のうち人と物の流れは抑制される状態となってしまいました。このような中、"デジタル化"による情報アクセスはますます重要なものとなりつつあります。今後は、基調講演で紹介した欧州企業の事例のような、インターネットを通じた企業アーカイブズへのアクセス提供によるCSRやブランディングに関する検討と実践を、日本企業も進めていく必要があるでしょう。

第9回「ビジネスアーカイブズ(BA)の日」の配信動画より(企業史料協議会提供)
第9回「ビジネスアーカイブズ(BA)の日」の配信動画より
(企業史料協議会提供)


一覧へ戻る