ビジネス・アーカイブズ通信(BA通信)

第91号(2021年10月2日発行)

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
☆      □■□ ビジネス・アーカイブズ通信 □■□

☆       No.91 (2021年10月2日発行)

☆    発行:公益財団法人 渋沢栄一記念財団 情報資源センター

☆                        〔ISSN:1884-2666〕
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


この通信では海外(主として英語圏)のビジネス・アーカイブズ(BA)に関する情報をお届けします。

海外BAに関わる国内関連情報も適宜掲載しております。

今号は文献情報1件です。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――

◆ 目次 ◆

[掲載事項の凡例とご注意]

■文献情報:ビジネス・アーカイブズ基本文献
◎ICA/SBA『ビジネス・アーカイブズ国際比較』第3版公開

☆★ 編集部より:あとがき、次号予告 ★☆
ネットフリックスでアーキビストの求人

―――――――――――――――――――――――――――――――――――

[掲載事項の凡例]

・欧文の場合、日本語で読みやすいものになるように、タイトルははじめに日本語訳を、続いて原文を記します。
・人名や固有名詞の発音が不明の場合も日本語表記を添えました。便宜的なものですので、検索等を行う場合はかならず原文を用いてください。
・普通名詞として資料室や文書室、物理的な記録資料を表現する際は「アーカイブズ」を用います。固有名詞の場合はこの限りではありません。また物理的およびデジタル記録資料の蓄積や組織化に関しては「アーカイブ」「アーカイブ化」「アーカイビング」などの表現を用いることもあります。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――

[ご注意]
・受信時にリンク先を示すURLが途中で改行されてしまう場合があります。通常のURLクリックで表示されない場合にはお手数ですがコピー&ペーストで一行にしたものをブラウザのアドレス・バーに挿入し、リンク先をご覧ください。


==================================

■文献情報:ビジネス・アーカイブズ基本文献
◎ICA/SBA『ビジネス・アーカイブズ国際比較』第3版公開

===================================
◎ICA/SBA『ビジネス・アーカイブズ国際比較』第3版公開
Section on Business Archives, International Council on Archives, Business Archives in International Comparison, 3rd edition
https://www.ica.org/sites/default/files/business_archives_in_international_comparison_-_2021.pdf

国際アーカイブズ評議会(ICA)企業アーカイブズ部会(SBA)がかねてより取り組んできたプロジェクト『ビジネス・アーカイブズ国際比較』第3版の編纂がこの度完了し、2021年8月末にICAのウェブサイトにて公開されました。

『ビジネス・アーカイブズ国際比較』は2004年に初めて公開され、2006年に一部更新、今回の改訂版出版まで15年がかかりました。以前の版は著作権の問題から一般への公開は行われておらず、現在ICA会員のみが初版を閲覧できる状況です。この度公開された第3版は、著作者(ICAならびに各記事の執筆者)名を表記のうえ、非営利目的で利用することが可能です(CC BY-NC)。

(ICA/SBAの告知ページ)
https://www.ica.org/en/ica-sba-business-archives-in-international-comparison
(本文献に関するページ)
https://www.ica.org/en/business-archives-in-international-comparison-3rd-edition
(本文、PDF)
https://www.ica.org/sites/default/files/business_archives_in_international_comparison_-_2021.pdf

このプロジェクトを主導し、マネジメントしてきた責任編集者は英国のビジネス・アーカイブズ・カウンシル(BAC)の副会長アリソン・タートン氏です。ロイヤル・バンク・オブ・スコットランドのアーカイブズ部門を立ち上げて、長らく責任者を務めてきたタートン氏は、ビジネス・アーカイブズのマネジメントに関する、おそらく最初の包括的な文献『ビジネス・アーカイブズを管理する』Managing Business Archives(1991年、Butterworth-Heinemann, Oxford)の編著者、さらに2017年に刊行された『インターナショナル・ビジネス・アーカイブズ・ハンドブック』の編著者として国際的に知られています。
https://www.shibusawa.or.jp/center/ba/bn/20170324.html#08
https://www.routledge.com/The-International-Business-Archives-Handbook-Understanding-and-managing/Turton/p/book/9780754646631

2004年版(初版)に収録されている国は、
1) (1つの見出しで)オーストラリア、ニュージーランド、太平洋島嶼国
2) デンマーク
3) フィンランド
4) ドイツ
5) イスラエル
6) イタリア
7) ノルウェー
8) スペイン
9) 英国
10) 米国

2006年版(第2版)は、
1) カメルーン
2) デンマーク
3) フィンランド
4) フランス
5) イタリア
6) ノルウェー
7) 英国
8) 米国

今回新たに発行された第3版では、収録国数は21カ国に増加しました。第2版発行以後におけるネットワーキング拡大の成果が表れていると言えるでしょう。

2021年(第3版)
1) オーストラリア
2) オーストリア
3) ベルギー
4) カナダ
5) 中国
6) フィンランド
7) フランス
8) ドイツ
9) ハンガリー
10) インド
11) イタリア
12) 日本
13) ポーランド
14) アイルランド共和国
15) ロシア
16) スペイン
17) スウェーデン
18) スイス
19) ウクライナ
20) 英国
21) 米国

各章(国)とも「はじめに」Introductionの部分で、その国におけるビジネス・アーカイブズ分野の発展について、特に重要な活動や革新的な活動に焦点を当てて簡潔に紹介を行った後、8つの項目について、各々の国におけるビジネス・アーカイブズについて記述していきます(「編集覚書」Editorial Note参照)。国によっては、これらの項目がさらに細分化されている場合もあります。

[項目立て]
1. はじめに
Introduction

2. ビジネス・アーカイブズに影響を与える法制度
Legislation affecting business archives

3. ビジネス記録に関する全国的戦略と政策
National strategies and policies on business records

4. ビジネス・アーカイブズが保管されている場所
Where business archives are held

5. ビジネス・アーカイブズ協会
Business archives associations

6. ビジネス・アーキビストのトレーニング
Training for business archivists

7. 危険にさらされているビジネス・アーカイブズのための国の規定
National provision for business archives at risk

8. ビジネス・アーカイブズの情報検索
Finding information on business archives

9. ビジネス・アーカイブズの管理に関するアドバイスの情報源
Sources of advice on managing business archives

今号ではこの文献の「書誌」、「目次」、各章(国)における「注目点」をご紹介します。

なお、各章(国)の「注目点」では以下についてご留意ください。

・伝統的には、archives(archives management)とrecords(records management)の意味と組織内の機能は欧州と北米では異なります。欧州でarchivesといえば現用記録とその管理を含みます。すなわち長期に保存するrecordsと当座の必要性を満たした後は廃棄されるrecordsの両方を含みます。一方、北米では非現用記録(長期保存するrecords)のみを指します。すなわち、当座の必要を満たしたのち廃棄された記録はarchivesには含まれません。いずれの考え方も、現用文書の記録管理 records management が組織内で機能していることを前提としています。

・固有名詞の原語が示されているときはそれを基に適切な日本語に移し替えるよう務めました。原語が示されておらず英訳された言葉の場合は、重訳にあたることになります。

・以上から明らかなように、『ビジネス・アーカイブズ国際比較』の内容を日本語で紹介するにあたっては、表記の統一が難しい部分があります。この問題はとくに、records, documents, archivesといった基本的な名詞を「記録」、「文書」、「アーカイブズ」、「資料」のどの名詞に対応させるのかという部分に現れます。したがって今号の「注目点」(紹介文)に関しては、文字通り「概要」「あらまし」であることにご注意ください。

* * *

[書誌]
タイトル:
ビジネス・アーカイブズ国際比較. - 第3版
Business Archives in International Comparison, 3rd edition
編集者:アリソン・タートン Alison Turton
発行者:国際アーカイブズ評議会 International Council on Archives
発行年:2021年
PDFのURL:
https://www.ica.org/sites/default/files/business_archives_in_international_comparison_-_2021.pdf


[目次] Table of Contents

■編集覚書■
Editorial Note

アリソン・タートン(ビジネス・アーカイブズ・カウンシル、英国)
Editorial Note: Alison Turton, Business Archives Council, United Kingdom
ページ:p.1

■序文■
Preface

アレキサンダー・ビエリ(国際アーカイブズ評議会企業アーカイブズ部会会長、ロシュ歴史コレクション&アーカイブ・キュレーター、スイス)
Alexander Bieri, Chair, Section on Business Archives, International Council on Archives, and Curator, Roche Historical Collection and Archive, Switzerland
ページ:p.2

■国別概観■
National Overviews

1) オーストラリア Australia
執筆者:ブルース・スミス(アーカイブ・リサーチ・コンサルタンシー)
Contributor: Bruce Smith, Archive Research Consultancy
ページ:p.3-7
〔注目点〕
オーストラリアでは1975年にオーストラリア図書館協会のアーカイブズ部会が独立してオーストラリア・アーキビスト協会(ASA)が結成された。ビジネス・アーカイブズ分野で働くアーキビストがお互いの関心事やアイデアについて話し合う場としてASAがビジネス・アーカイブズ・インタレスト・グループを結成したが、このグループは会員数が少ないという理由で1995年にいったん活動を終了した。近年もビジネス・アーカイブズ関係者の活動は活発でない。法制度はイギリスの法律の枠組みに由来するものである。ビジネス・アーカイブズについて定めた法は存在しないが、企業体が国有化・公営化された場合、アーカイブズが連邦や州の公文書館に移管されることがある。文化財の輸出を規定する法律がビジネス・アーカイブズとも関わる。公認された機関への文化資料の寄贈・寄託の場合、税制上の優遇措置がある。

2) オーストリア Austria
執筆者:ゲオルク・リゲレ(イー・ヴィー・エヌ社)
Contributor: Georg Rigele, EVN AG
ページ:p.8-10
〔注目点〕
民間企業のアーカイブズは銀行、エネルギー供給企業、大規模製造業セクターに多い。いくつかの企業アーカイブズの基礎は、1938年~1945年の国家社会主義(ナチス)の時代の強制労働、奴隷労働、財産盗難に関わる激しい議論の結果として生まれた。2000年には犠牲者に対する補償に関する法律が制定されるとともに、企業は和解のための補償基金に拠出した。2001年には米国政府とオーストリア政府の間でワシントン合意(https://www.nationalfonds.org/washington-agreement)が結ばれた。これらがオーストリアにおける企業アーカイブズ設立の1つの背景である。銀行アーカイブズの中には一般に公開されているものがある。ガラス、光学、ジュエリーメーカーのスワロフスキーもアーカイブズを持つ。

3) ベルギー Belgium
執筆者:キャロリン・シース(ベルギー国立公文書館)
Contributor: Caroline Six, State Archives of Belgium
ページ:p.11-16
〔注目点〕
ベルギーにおけるビジネス・アーカイブズへの関心は、1910年にブリュッセルでのアーキビストとライブラリアンの国際会議で、ドイツのノルトライン・ヴェストファーレン経済文書館関連プロジェクト(1906年開始)についての情報が参加者間で共有された時に芽生えた。1920年代以来、中世史家でアーキビストであったエティエンヌ・サッベ Étienne Sabbe がビジネス・アーカイブズの調査や保管において重要な役割を果たした。1955年の6月24日制定の法律により、国立公文書館が個人アーカイブズを法的に収集できるようになった。1957年12月に施行されると国立公文書館館長としてサッベは国内のすべての大規模な産業グループのリーダーに対して、このことを通知する書簡を送っている。1970年代初頭には国立公文書館は『ベルギーの公的機関に保管されている企業アーカイブズのガイド』a Guide des archives d'entreprises conservées dans les dépôts publics de la Belgique (Guide to the business archives kept in public repositories in Belgium) の作成を開始した。ベルギー国立公文書館は、保存されているベルギーのビジネス・アーカイブズ・コレクションの数、範囲、歴史的重要性の点で公的機関の中心的存在として主要な役割を果たしてきた。企業内アーカイブズはその多くが近年運営を停止している。これは銀行部門で顕著である。2008年の経済危機以降、アーカイブズ部門を閉鎖または閉鎖予定の銀行のうち、INGグループなどいくつかは、以前から定期的な連絡を保っていた州の公文書館に所蔵資料を移管した。

4) カナダ Canada
執筆者:ヘザー・リュックマン(コーポレーターズ・グループ)
Contributor: Heather Ryckman, The Co-operators Group
ページ:p.17-19
〔注目点〕
カナダでは1968年に企業が記録を大切にし、保存することを奨励するためにBusiness Archives Councilが設立された。しかし、これは成功せずに、5年後に解散している。1976年にはカナダ・アーキビスト協会(ACA)がビジネス・アーキビスト部会を設立し、1981年にはカナダのアーカイブズに関わる諮問グループが、企業に対し記録を保存することに対してインセンティブを与えるよう推奨する報告書を発表した。しかし、いずれも企業アーカイブズの増加には効果的でなく、ACAのビジネス・アーキビスト部会は2000年代半ば以降、メンバーの活動が停滞したため解散した。多くの企業はアーカイブズ資料を公文書館や学術研究機関に移管することにより、寄付に伴う税金控除を選択する。公的機関が所蔵するビジネス・アーカイブズのほとんどは、カナダ国立図書館文書館(LAC)で所蔵されている。企業内アーカイブズを持つのはおそらく30社に満たない。ノバスコシア銀行やデジャルダングループなど銀行や保険会社がほとんどである。ビジネス・アーキビストはアメリカ・アーキビスト協会(SAA)など、国外、あるいは国際的なアーカイブズ協会の会員である。

5) 中国 China
執筆者:蔡盈芳、袁瑞(中国国家档案局)
Contributors: Cai Yingfang and Yuan Rui, National Archives Administration of China
ページ:p.20-24
〔注目点〕
中国におけるビジネス・アーカイブズ管理の歴史は4期に分けられる。1954年から1980年までの「設立」期、1981年から1995年までの「集中・統一管理」期、1996年から2013年までの「標準化」期、そして2014年以降現在に至る「情報化」期である。中国では中央によるコントロールと分割されたレベルでの管理(マネジメント)のシステムが確立している。中央レベルでは国家档案局が企業アーカイブズに対する全体的な計画、組織、監督、指導を行い、県レベル以上の地方档案管理局はその管轄区域内の企業アーカイブズの全体的な計画、組織、調整、監督、指導に責任を負う。資産関係に応じて、個別企業は完全所有会社、持株会社のアーカイブズ業務の全体的な計画、組織、調整、監督、指導を行う。

2020年に改正された「中華人民共和国档案法」では、国有企業と非国有企業の文書のアーカイブの範囲、アーカイブズ・サービスを提供する企業のマネジメント要件、ITを利用したビジネス・アーカイブズとセキュリティ要件、ビジネス・アーカイブズの監督・監査内容などが定められているほか、ビジネス・アーカイブズ機能の責任やアーカイブ管理原則などの一般的な要件も明記されている。産業管理に関する30以上の法律が、企業が保存すべき文書や資料の範囲と保存スケジュールを規定している。

比較的確立された規程と標準規格のシステムが、中国のビジネス・アーカイブズの発展の基礎となり、保証となっている。これらの規程、標準規格のほとんどは、中華人民共和国国家档案管理局の公式ウェブサイトで公開されている(https://www.saac.gov.cn/daj/fgbzk/fgbzk.shtml)。

中国は、アーカイブズ分野の発展を一貫して重要視しており、1986年以降、国家経済・社会発展の戦略計画と並行して、アーカイブズ・セクターの発展のための5カ年計画を策定している。2021年に発表された「国家档案事業発展のための第14次5カ年計画」では、中国のアーカイブズ・セクターの今後5年間の発展方向、主な課題、保証措置が明記されており、企業アーカイブズ関連の要件も盛り込まれている。国家档案管理局が2019年に発表した「国有企業改革の深化におけるアーカイブズ業務の強化に関する意見」は、特に国有企業のアーカイブズ業務を対象とした国家戦略文書である。また、県レベル以上の地方档案管理局は、対応する档案事業発展5カ年計画や個別の企業アーカイブズ戦略を策定することで、管轄区域内のビジネス・アーカイブズ発展の目標と課題を打ち出している。

企業が自社のアーカイブズ担当の専門家に提供する研修に加えて、国家档案局の幹部教育センターは、この種の唯一の国家直属の研修機関であり、不定期で、全国の企業アーカイブズ専門家を対象に、実地研修やアーカイブズ学の継続教育などの研修を行っている。2021年には、県レベル以上のアーカイブズ部門、中国共産党中央委員会や国務院の機関、中央企業の関連業務を担当する責任者や指導者を対象に、第14次5カ年計画期間中のアーカイブズ事業の発展に関する公益講座を開始する予定である。また、新たにアーカイブズ業務に就いた人や関連する学歴のない人を対象に、アーカイブズ専門家の実地研修プログラムを提供し、すべてのビジネス・アーカイブズ専門家を対象に、デジタル・ビジネス・アーカイブズ・リポジトリの開発研修コースを提供する。国家档案局が提供するトレーニングの詳細については、公式ウェブサイトに情報がある(http://www.saacedu.org.cn/)。

6) フィンランド Finland
執筆者:ヤルモ・ルオマ-アホ(フィンランド企業記録中央アーカイブズ:ELKA)
Contributor: Jarmo Luoma-aho, Central Archives for Finnish Business Records
ページ:p.25-28
〔注目点〕
フィンランドでは、民間のアーカイブズは国のアーカイブズ構造の基本的部分を構成するとされている。民間のアーカイブズに関する法律はないが、これに影響を与える特別な法律がいくつかある。そのうちの1つで2006年に制定された「民間アーカイブズのための国家支援法」the State Aid for Private Archives Act (2006)に基づき、法定の国家支援を受けている民間アーカイブズが11ある。フィンランド企業記録中央アーカイブズ(ELKA)もその1つである。この法律の目的は、フィンランドの歴史を多様に理解するために、公的記録だけでなく、重要な私的記録も保存することにある。法定の国庫補助は、民間アーカイブズの適正費用の80%までとなっている。この費用は、国立公文書館からの助言と、毎年利用可能な資金量に基づいて決定される。

Nokia、UPM、Nordea、OKO-bankのように、専任のプロのアーキビストやレコードマネージャーがアーカイブズの一連の業務を担当している企業もある。しかし、一般的な企業の場合は、非現用記録を保管するストレージエリアを持つだけという場合が多い。ELKAのような第三者機関への移管・寄託は、一般的に、事業が停止したり、事業が小規模な施設に移転したりした場合に選択される。しかし、デジタル化によって、物理的なアーカイブズ施設の需要は減少している。特に1981年にELKAが設立される以前の、国や地域の歴史的価値の高い記録は、国立公文書館に預けられている。現在、国立公文書館は新規の移管・寄託に関する問い合わせをELKAに回しているが、既存のコレクションへの追加分は国立公文書館が受け入れる。

7) フランス France
執筆者: ロジェ・ヌガレ(BNPパリバ歴史協会、フランス国立古文書学校歴史科学研究員会)
Contributor: Roger Nougaret, Association pour l'Histoire de BNP Paribas and CTHS
ページ:p.29-33
〔注目点〕
フランスは、経済問題に国家が介入する伝統があり、国家遺産を保存することに関心を持っていることから、歴史的なビジネス・アーカイブズを支援する最初の取り組みは、公文書館によって行われた。1920年代、公文書館の検査官シャルル・シュミット Charles Schmidt は、有名な歴史評論誌『Les Annales』での呼びかけを含むキャンペーンを展開し、人々にこの問題を認識してもらおうとした。1949年には、国立公文書館内に企業記録部門が創設された。1980年代になると、政府の野心的な文化プログラムや、社会全体、特に歴史家の目から見た企業のイメージの再評価により、関心が再び高まった。1983年に企業記録の全国調査が行われた後、1993年にフランス北部のルーベに企業記録センター、CAMT(Centre d'Archives du Monde du Travail)、現在のANMT(Archives Nationales du Monde du Travail)が開設された。

民間企業におけるアーカイブズの包括的なビジョン(現用記録管理とアーカイブズ管理を結びつけること)が初めて登場したのは、1970年代であった。公文書館のアーキビストだったモーリス・アモンが、1974年にサンゴバン社(Compagnie de Saint-Gobain Pont-à-Mousson)に最初のアーカイブズ部門を設立した時である。それ以来、他の企業でもプロのアーキビストを雇うようになり、この現象は1990年代に入ってから増加した。フランス・アーキビスト協会 Association des Archivistes Français の企業記録部門には、現在400人以上のメンバーが所属するが、全員が企業で働いているわけではない。

21世紀の顕著な傾向のひとつは、企業が経費節減やコアビジネスへの集中(または再集中)のために、文書の保存を民間の保管会社に委ねる方向に急速に進み、こういった分野が拡大、集中、専門化していることである。主に米国の影響を受けてビジネス界の司法化(※)が進み、アーカイブズを適切に、時には超長期的に保存する必要性が証明されている。事業継続計画(BCP)の普及により、ストレスが存在するプロセスを文書化するために、適切な記録管理とアーカイブズが必要とされることが指摘されている。デジタル化は、企業とそのアーキビストが直面している主要な課題である。Saint-Gobain社、La Poste社、Safran社、Electricité de France社のように、すでに電子文書・記録管理システム(EDRMS)を開発している企業もある。BNPパリバの「歴史の泉」 Source d'histoire(Well of history)サイトのように、歴史的なコレクションや歴史に特化したウェブサイトを立ち上げている企業もある。

(※)「司法化」に関しては下記の日仏会館のページも参考にどうぞ(編集部注)。
https://www.mfj.gr.jp/agenda/2021/01/20/judiciarisation/index_ja.php

8) ドイツ Germany
執筆者:カール-ペーター・エラーブロック博士(ヴェストファーレン経済文書館)
Contributor: Dr Karl-Peter Ellerbrock, Westphalian Business Archive
ページ:p.34-41-
〔注目点〕
ドイツでは1930年代の国家社会主義政権下で、企業が自社のアーカイブズ(史資料室)を示すことができないならば、歴史的記録は強制的に国に引き渡すようにと脅されたため、特に石炭・鉄鋼業界では数多くのアーカイブズが設立された。

アーカイブズに関わる法制に関しては、州のアーカイブズ法が規定の中に商工会議所を含んでいる。そのため、ドイツのすべての会議所は、その記録コレクションを専門家が管理することを法的に義務付けられている。

文化財保護法では、一定の年数と価値の制限を超えたすべての文化財を、承認を得た上で輸出する原則を定めている。これは、経済的価値の高い個人所有の文化財が海外に輸出される前に、国がそれを把握することを目的としている。企業アーカイブズに保管されている記録には、以下の年数および価値制限が適用される。写真およびフィルムについては、75年および50,000ユーロ(EU輸出規制:50年および15,000ユーロ)、原稿については、75年および50,000ユーロ(EU輸出規制:50年、価値制限なし)、書籍については、100年および50,000ユーロ、地図については、200年および15,000ユーロ、アーカイブズ全般については、50年および50,000ユーロである。コレクションには年数制限はなく、価値制限は50,000ユーロ。

ドイツにある企業アーカイブズの数は不明である。ドイツ・ビジネス・アーキビスト協会(VdW)のメンバー数400人というのは、大まかな目安に過ぎない。加えて、特にオーナー経営の中堅企業には無数の歴史的なコレクションがあり、アーカイブズとしての性格を持っているが、ほとんどが一般にはアクセスできない。その数は1,000をはるかに超えていると思われる。大きな企業のアーカイブズでは、以前は独立していた企業のアーカイブズも保管されている。ThyssenKrupp AGとその前身であるThyssen、Krupp、Hoeschだけでも、何百もの子会社や関連会社から構成されている。個別企業が管理する企業アーカイブズに加えて、ドイツ国内には10の地域経済文書館があり、そこには約2,000の企業アーカイブズが保管されている。そのほとんどは、現在は存在しない企業のものである。この地域経済文書館設立の最も重要な原動力となったのは、地域経済の公的自治機関である商工会議所である。

9) ハンガリー Hungary
執筆者:マリア・ヘドヴェギ(トゥングスラム・オペレーションズ社)
Contributor: Mária Hidvégi, Tungsram Operations Kft
ページ:p.42-47
〔注目点〕
企業資料が保管されている主な場所は、ハンガリー国立公文書館、その構成機関である郡公文書館、ブダペスト市公文書館である。ブダペスト市公文書館では、1945年以前にブダペストで営業していた企業や社会主義時代に国有化された企業の登記裁判所の記録を保管している。事業活動が第二次世界大戦以前にさかのぼり、戦後に国有化された工業・貿易会社、銀行、金融機関の記録は、主にブダペストの国立公文書館のオブダ研究サイトに保管されている。伝統的な企業の中には、Ganz Holding LtdやハンガリーのSiemens、Tungsramのように、歴史的な記録の一部を社内のアーカイブズに保管しているところも多い。国立映画アーカイブズには、企業や政府機関が発注した映画など、ビジネスの歴史にとって重要な記録が保管されている。

1989 年に始まった民営化の過程で、歴史的な企業記録のかなりの部分が破損、紛失、破壊された。破産と清算に関する法律は、清算人が歴史的な理由で保存する価値のある企業文書を、地元のアーカイブズに引き渡し管理することを義務付けているが、この規則は十分に遵守されなかった。

10) インド India
執筆者:ヴルンダ・パターレ(ゴードレージ・グループ)
Contributor: Vrunda Pathare, Godrej Group
ページ:p.48-54
〔注目点〕
企業記録の保存に関する国の法律や、英国のBusiness Archives Councilのような組織がないため、ビジネス・アーカイブズの設立は、将来の参照のために自分たちの記録を保存しようという企業の意思に大きく依存している。銀行分野では、1981年にプネに設立されたインド準備銀行RBI(インドの中央銀行)アーカイブズが最も古い銀行アーカイブズである。コルカタにあるインド・ステイト銀行アーカイブズ&ミュージアムも2007年にオープンした。銀行以外の企業アーカイブズは、タタ・グループが1991年にプネに設立したTata Central Archivesが最初である。ゴードレージ・グループは、創業100周年を迎えた1997年にアーカイブズの設立を検討し、2006年にムンバイでゴードレージ・アーカイブズが正式にスタートした。

インド国立公文書館は、インドの経済的過去を再構築するために企業記録の重要性を認識し、2008年にセミナーを開催し、インドにおけるビジネス・アーカイブズの概念と展望について議論した。2009年にインド準備銀行RBIアーカイブズが国際アーカイブズ評議会企業アーカイブズ部会(ICA/SBA、当時は「企業労働アーカイブズ部会」:編集者注)とインド国立公文書館とともに共同で開催した「ビジネス・アーカイブズに関する国際会議」には、銀行を含む50社が参加した。このことからもわかるように、企業記録の保存に対する関心が高まってきていた。

企業の記憶を残すことの重要性を認識した多くの企業が、記録のアーカイブ化に着手している。世界的な製薬会社であるCipla社は、2014年にムンバイのMumbai Centralでアーカイブを開始した。そのほかDCM-Sriram社、Dr Reddy's Laboratories社、Wipro社、Bajaj社などの企業がある。現在、約10社が社内に正式にアーカイブズを設置している。それらは研究目的でのアクセスが可能である。いくつかはオンライン公開も行っている。また、Birla、Mahindra & Mahindra、Kirolskar Group、Jasubhai Groupなど、多くの企業がアーカイブズの設立を進めている。

11) イタリア Italy
執筆者:ファビオ・デル・ジウディチェ(銀行・企業アーカイブズ エキスパート) 54
Contributor: Fabio Del Giudice, banking and business archives expert 54
ページ:p.55-66
〔注目点〕
この30年間で、企業アーカイブズは、イタリアのアーカイブズ・シーンにおいて、最も刺激的で活気のある部門の一つとなった。企業アーカイブズは、研究と革新的なマネジメント・ソリューションの実験の場である。アーカイブズの伝統の基本原則が、ビジネス界の特定のニーズを念頭に置いて、時間をかけて適応・修正されてきた。イタリアのビジネス・アーカイブズにとって重要な出来事は、1972年10月6日に開催された「企業アーカイブズに関する円卓会議」Tavola rotonda sugli archivi delle imprese industrialiである。1980年代に入ると、一部の大企業(フィアット、アンサルド)や老舗の主要銀行が、歴史的に重要な文書を調査・収集し、目録を発行し、研究者を閲覧室に迎え入れ、コレクションの中で最も重要なものを保存するようになった。1990年代から2000年代初頭にかけては、様々な取り組みが行われ、ミラノに「企業文化センター」Centro per la cultura d'impresaとムゼインプレーザ(イタリア 企業アーカイブズ・ミュージアム協会)Museimpresa(Associazione italiana archivi e musei d'impresa が設立されたことで、その勢いが増していった。州の文書管理局やイタリア・アーキビスト協会 Associazione nazionale archivistica italiana(ANAI)の地域部会も企業アーカイブズを支援しており、企業のアーキビストのために、社内のスタッフと外部の協力者の両方を対象とした新しいトレーニングコースが開発された。

イタリアの企業アーカイブズの数に関する信頼できるデータはない。企業内で常時雇用されているアーキビストは常に限られており、個人やアーカイブズ・サービスを提供する会社で働くフリーランスのアーキビストを使った流動的な協力関係が続いている。これらのアーキビストの数は増加している。

2020年11月には、「アーカイブズ文化週間」というイベントにおいて、ANAIが発行する『企業アーカイブズ』Archivi d'impresaが発売された。前年にエニ歴史アーカイブズ Eni Historical Archivesの新本部発表の一環として企画されたこの書籍は、36の寄稿からなり、1972年の「企業アーカイブズに関する円卓会議」に始まる過去50年間のイタリアにおけるビジネス・アーカイブズの進化の様々な側面をレビューしている。

近年、ビジネス・アーキビストのトレーニングは主にANAIによって行われており、ANAIはムゼインプレーザとともに、GIAI(ANAIの中のビジネス・アーキビスト部会)の活動の中で、ビジネス・アーキビストのための一連の専門トレーニングコース(2012年~19年)を考案し、実施している。このコースは全7回で、規制の背景、記録のライフサイクル、企業に関する知識、文書の種類と主要な記録シリーズ、製品アーカイブズ、ITツールとデジタル化、プロモーションとビジネスコミュニケーション、企業のアーカイブズと博物館などを扱った。

イタリアの法制度では、散逸や破壊のリスクがあるアーカイブズや文書に関する国の介入や保護は、企業が文化財及び景観法 Codice dei beni culturali e del paesaggio(2004年1月22日付の立法令n.42)の第13条に基づき、所轄の大臣から歴史的に重要であるという宣言を受けた後に行われる。

近年、インターネットの普及により、企業アーカイブズに関する情報を検索する能力が大幅に向上している。イタリアの法制度では、私人のアーカイブズの保護は文書保護局 Archival Superintendencies の責任とされている。この活動の成果は、同局の統一情報システム(SIUSA)の立ち上げにより、2000 年以降、文書保護局が提供した情報を統合し、イタリアの文化遺産に関するこれまでの国勢調査プロジェクトとの関連で参照できるようになったことである。調査対象となったアーカイブズは全体で約60,000 件、そのうち約2,000 件が企業のアーカイブズである。2011年以降、SIUSAのデータは定期的に全国アーカイブズ・システム SAN(Sistema archivistico nazionale)にエクスポートされている。

企業のアーカイブズや文書の所有者や保有者にとっての主な情報源は、国立文書館であり、特に、非国家のアーカイブズや民間のアーカイブズを監督する権限を持つ、地域ごとに分けられた16の文書図書保護局 Archival and Bibliographic Superintendency のネットワークである。初期の頃は、国やその役人の役割は、企業家の側からある種の不信感を持って見られていた。現在ではこの状況はほぼ全面的に変わり、相互協力が主流となっている。協力の主な分野は、アーカイブズの同定と記述、選別の手順と利用、アウトリーチの取り組みに関するものである。また、ANAI、特にGIAIは、ムゼインプレーザと共同で、様々なレベルのトレーニングコース、セミナー、会議、出版を行っており、国内の様々な地域で活動する企業やアーキビストのネットワーク作りに貢献している。

12) 日本 Japan
執筆者:松崎裕子(渋沢栄一記念財団)
Contributor: Yuko Matsuzaki, Shuibusawa Eiichi Memorial Foundation
ページ:p.67-72
〔注目点〕
1960年代以降、経営史が学問として発展してきたことが、社史編纂の追い風となった。編纂事業によって経営史家は記録にアクセスできるようになり、社史の出版によって企業の歴史的情報が社内外に公開されるようになった。また、社史は、経営理念や価値観、企業文化やアイデンティティを共有するための重要なツールとみなされてきた。

2000年代に入ってからはデジタル化が進み、社史編纂以外の目的でも企業資料は利用されるようになりつつある。周年事業の終了後、チームは、アーカイブズ担当に改変され、常設プログラムとなることも増えつつある。

近年のデジタルICT技術の発展により、企業アーカイブズ間の協力や情報共有が促進されている。このような状況の中、渋沢栄一記念財団は、新たに開発した社史データベースや、国内外のビジネス・アーカイブズの動向やベストプラクティスに関する最新情報をインターネットで提供し、企業アーカイブズとビジネス・アーキビストを支援してきた。

13) ポーランド Poland
執筆者:トマシュ・オレイニチァク教授、アンナ・ピコス博士(コズミンスキー大学)
Contributor: Prof. Tomasz Olejniczak and Dr Anna Pikos, Kozminski University
ページ:73-80
〔注目点〕
ポーランドでは、国自体が歴史的に不連続であること、そしてポーランドのビジネスを破壊した社会的・政治的な変化によって、企業のアーカイブ機能や包括的な企業記録の特定が非常に困難になっている。ポーランドのビジネス・アーカイブズは、戦間期から存在していたと主張することも、現在は存在していないと主張することも可能である。真実はその中間にあり、それは複雑である。実際のところ、「ビジネス・アーカイブズ」は法律上もアーキビストの意識の中でも、独立したカテゴリーとして存在していない。そうは言っても、企業記録の多くのコレクションは、60年以上にわたり、州の文書館の厳格な基準に従い、プロのアーキビストや博物館学芸員によって管理されてきた。

1989年に社会主義が崩壊した後の企業記録の状況は、民営化と(ずっと後の)デジタル化という2つの大きな流れによって形成されてきた。民営化は、企業記録の断片化をさらに助長する大きな力となった。国有企業が再編され、分割され、民営化され、地元や外国の企業に売却されると、その「会社」のアーカイブズもバラバラになり、名前も変えられ、時には破壊されたり、紛失したり、何者かに横取りされたりした。事業体の不連続性とその規模の大きさから、国立公文書館が状況を効果的に監視し、アーカイブされた企業記録を完全に保存することは不可能であった。しかし、事業活動の停止や再編の際に、国が事業記録を強制的に取得する規定が確立されているため、民営化の時点までの事業記録の一部は公文書館にうまく保存されている。民営化による企業文書の断片化に対抗するための第2の傾向は、2000年代に入ってからのアーカイブズのデジタル化である。近年は公式のオンラインプラットフォームにより、容易に検索することができるようになりつつある。しかし、多くの企業記録、特に過渡期の重要な情報を含むものや、1990年代以降に作成されたものは、ほとんどが特定されていない。

とは言え、ポーランドでは現在、ビジネス・アーカイブズの将来に希望を与える2つの傾向が見られる。1つ目は、コミュニティ・アーカイブズのネットワークが長期的に発展し、2020年にコミュニティ・アーカイブズ・センター(CAS)を設立することになったこと。2つ目の傾向は、ポーランドの経済界で歴史的資産の価値が認識されてきたことである。この傾向は、ヘリテージ・マーケティング・キャンペーンの増加、産業遺産の再生と適応的な再利用、企業博物館の設立、記念日の推進などに現れている。特に中央機関の場合、その多くが1918年から39年の独立国としての期間に関連する100周年記念を迎える。これらの傾向から、ポーランドのビジネス・アーカイブズは近い将来、独立したカテゴリーとして登場するだろうという楽観的な見方もできる。

14) アイルランド共和国 Republic of Ireland
執筆者:キャロル・クゥィン(アイリッシュ・ディスティラーズ・ペルノ・リカール)
Contributor: Carol Quinn, Irish Distillers Pernod Ricard
ページ:p.81-83
〔注目点〕
1970年にアイルランド写本委員会 Irish Manuscripts Commission が行った調査の結果、国立公文書館に大量のビジネス・アーカイブズが移管された。現在も同公文書館には企業記録調査員が常勤しており、破壊の危機にあった主要なコレクションの保存に欠かせない存在となっている。最近では、アイルランドで最大かつ最も影響力のあるビジネスロビー団体であり、民間企業の70%以上の従業員を擁するIbecと共同で、ビジネス・アーカイブズの発展を促す活動を行ってきた。このアドボカシーは、ビジネスリーダーを対象とした一連のセミナーで構成されており、企業アーカイブズの用途と利点を強調している。

現在、アイルランド共和国には8つの企業アーカイブズがあり、いずれも様々な形で一般公開されている。最もよく知られているのは、1998年に開設されたダブリンのギネス・アーカイブである(https://www.guinness-storehouse.com/en/archives 参照)。さらに、 Dublin Port, the ESB, Irish Distillers Pernod Ricard, the Irish Central Bank, Irish Lights and Irish Railといった企業が企業アーカイブズを設立している。2020年、ESBは専門的な資格を持つアーキビストを常駐させ、一般公開の最先端のリポジトリを開設した(https://esbarchives.ie 参照)。アイルランド銀行のように、以前はコレクションの管理にアーキビストを雇っていたが、現在は雇っていないところも多い。

アイルランドの企業アーキビストのほとんどは専門的な資格を持っている。現在、アイルランドの企業アーカイブズはすべて社内で記録を保管しており、その大半は専用施設を持っている。企業内の管理体制の違いを反映して、レポートライン(所属部門)はそれぞれ異なり、利用方法も異なる。しかし、どの企業もアーカイブズを、親会社の企業活動や商業活動を支える資産と考えている。消費者とのコミュニケーションの手段として、また、組織のストーリーを語り、その歴史だけでなく価値観を伝えるための手段として、アーカイブズとの関わりが増えている。

15) ロシア Russia
執筆者:マリーナ・チチューガ博士(ロシア国立人文大学)
Contributor: Prof. Marina Chichuga, Russian State University for the Humanities
ページ:p.84-88
〔注目点〕
1917年の革命により、起業家精神の進化、つまりビジネス・アーカイブズの進化は中断された。私有財産が廃止されたことで、研究者は何十年もの間、帝政ロシア時代の企業アーカイブズを詳細に研究する機会を失った。

近年、政府は組織の財務・経済活動を記した書類の保存に注意を払うようになり、現在、企業記録の保存は、様々な法律や2004年の連邦法125-FZ「アーカイブズの保存について」に記載された記録リストによって規制されている。この法律は、(企業)組織から州および自治体のアーカイブズへの記録の移転に関する規則を定めている。「株式会社に関する法律」、「有限責任会社に関する法律」、「国営および地方自治体の単一企業に関する法律」は、保存すべき記録の公開リストを含む。これらのリストは、いくつかのタイプの記録の保管規則と期間を規定した特別法令に詳細に記載されている。

ビジネス・アーカイブズの保管は、ロシアではまだ公的に重要視されていない。あらゆる機関や企業は、必要に応じて、その記録が適切な時期に、適切な状態で、国のアーカイブズやアーカイブズ保管施設に送られるようにしなければならない。非政府機関は、州のアーカイブズのサービスを利用することができ、その記録をどのように保管するか、寄託するのか、州や自治体の所有に永久に移管するのかを選択することができる。民間組織は記録を社内で保管する。民営化された場合、組織は民営化前に作成された文書を、一定期間内に、満足のいく状態で永久保存のために政府に引き渡さなければならない。しかし、ロシアの法律では、経済関連の記録をアーカイブズに移管するための明確な手順がまだないため、改善しなければならない。

16) スペイン Spain
執筆者:ホセ・アントニオ・グティエレス・サバ―レス(サンタンデール・フィナンシャル・インスティテュート)
Contributor: José Antonio Gutiérrez Sebares, Santander Financial Institute
ページ:89-95
〔注目点〕
スペインでは、他のヨーロッパ諸国と比較して、ビジネス・アーカイブズの発展は比較的最近のことである。研究者や学術関係者が利用できるアーカイブズの設置は、20世紀の最後の四半期になってから始まった。その大きな一歩となったのが、1982年に開催された「第1回経済・民間企業アーカイブズ会議」である。特に1990年代から2000年代にかけて、多くの企業アーカイブズが設立された。

企業アーカイブズの増加には多くの理由があるが、最も重要なのは、企業自身の意識が高まったことである。企業の社会的責任の取り組みにおいて、アーカイブズが重要な役割を果たしていることを発見した。これは多くの場合は周年記念行事がきっかけであった。大学教育の大規模な拡張により、歴史、情報、文書、経済などの分野での多くの卒業生は、一方では企業の社会的責任活動をサポートする専門家に、他方では企業の財務履歴に関する情報を求める人々となった。さらに、社会はアイデンティティや記憶に関する問題をますます意識するようになり、アーカイブズの役割は不可欠となっている。新しいデジタル技術は、「生産性の向上」、「文書管理の改善」、「ビジネス・アーカイブズのコンテンツの普及」を促進する非常に有効なツールとなっている。このようなことから、企業は、スペインの文書遺産を社会に提供すべき資産と見なすようになった。

活動中の企業のアーカイブズのほとんどは、記録を作成した企業によって管理されている。多くの場合、アーカイブズは現用記録と機能的に分離されていない。国内最大のエネルギー会社であるレプソル社のアーカイブズ(マドリッド)やガス・ナチュラル社のアーカイブズ(バルセロナ)がこれに該当する。しかし、この30年間で、官民を問わず、多くの企業で、現用記録管理とアーカイブズ管理を分離するという明確な傾向が見られるようになってきた。銀行部門はこのプロセスの先駆者であり、ビルバオ銀行のアーカイブズ(1977年)、スペイン銀行のアーカイブズ(1982年)が創設された。1980年代後半には、スペインのビジネス・アーカイブズのもう1つの大きな柱となる、鉱業部門のビジネス・アーカイブズの設置が始まった。銀行や貯蓄銀行の分野でも、新しいビジネス・アーカイブズの開設が続いた。

1972年に『スペイン・イベロアメリカ公文書館の国勢調査ガイド』Censo Guía de Archivos de España e Iberoamérica が印刷出版物として作成され、その後CIDA(Centro de Información Documental de Archivos)の組織下でウェブ形式に変換された。このポータルは、スペインだけでなくラテンアメリカのすべてのアーカイブズに関する標準的な情報を提供している。強力な検索ツールを備えており、所有者や地域といったフィルタによってビジネス・アーカイブズを見つけることができる。文化・スポーツ省の支援を受けて運営されているHispanaは、デジタル遺産へのアクセスのためのポータルで、EUが後援する文化遺産ポータル Europeana にスペインのコンテンツを追加する役割を担っている。

17) スウェーデン Sweden
執筆者:アンダース・ギドロフ(スウェーデン国立遺産委員会)、アンダース・フュマン(経営史センター)
Contributors: Anders Gidlöf, Swedish National Heritage Board, and Anders Sjöman, Centre for Business History
ページ:p.96-105
〔注目点〕
スウェーデンのビジネス・アーカイブズが考慮しなければならない規則や法律の中には、スウェーデン・アーカイブズ法(Arkivlagen, 1990:782; 現行法は1990年に施行)がある。しかし、この法律が扱っているのは、公的機関やその他の国や地方自治体の意思決定機関がアーカイブズをどのように管理すべきかに限られる。この法律には、民間企業のアーカイブズについての規定はなく、また、企業アーカイブズは文化遺産の一部としても認識されていない。特に近隣の北欧諸国の法律にはそのような文言が含まれているため、長年にわたり、多くのスウェーデンのアーキビストはこの点について懸念を表明してきた。2019年末には、スウェーデンのアーカイブズ部門に関する政府主導の委員会が、報告書『ここから永遠へ:行政と文化遺産のための長期アーカイブズ政策』(Härifrån till evigheten. En långsiktig arkivpolitik för förvaltning och kulturarv, SOU 2018:58)を発表した。 この報告書は、アーカイブズ法改正にあたっては民間アーカイブズが文化遺産の一部であることを明記すべきだ、と提案している。これは民間アーカイブズ協会や企業の間で肯定的に受け止められたが、これまでの議論では、どの民間アーカイブズを文化遺産として重要であるとみなすべきかの決定方法に焦点が当てられている。報告書では、国立公文書館がその責任を負うべきだと提案している。

国レベルでは、国立公文書館が2013年に設置した民間アーカイブズに関する諮問委員会(Samarbetsrådet för enskilda arkiv)は現在も機能している。諮問委員会の委員長は国立公文書館長(rikarkivarien)で、国立公文書館とスウェーデン・アーカイブズ協会(Svenska Arkivförbundet)を代表するメンバーで構成されている。この委員会は、民間アーカイブズに関する議論の場であるとともに、文化協力モデル(地方自治体、民間機関、文化創造者との密接な対話を通じて、文化関連の政府資金の配分を地方が決定する)で配分されなかった残りの資金を国立公文書館がどのように配分すべきかについて助言を与えている。2020年には、配分された830万SEKのうち、670万SEKがスウェーデン労働運動のアーカイブズと図書館(Arbetarrörelsens arkiv och bibliotek)に与えられ、残りはCentrum för Näringslivshistoria(ストックホルム経営史センター)やSvenska Arkivförbundet(スウェーデン・アーカイブズ協会)など、他の6つの民間アーカイブズに分配された。

1990年代には、企業はコアコンピタンスに集中することが主流となり、不動産の売却やリースバックなどが行われるようになった。アーカイブズにかかるコストが以前にも増してはっきりするようになり、企業は「古いものを保管する」ことよりも、高価なフロアスペースをより有効に活用することを求めた。また、大企業では分散化が進んでおり、新たに設立された小規模な企業の本社では、グループ全体のアーカイブズ・サービスを中核的な使命とは考えなくなった。また、スリム化の結果、多くの企業が施設管理者や秘書、郵便仕分け室などの社内サポートサービスを解体してしまった。このような人たちは、会社に長く在籍していることが多いため、会社の遺産を個人的に管理しているだけでなく、歴史的な記録がどこに置かれているかを、たまたま知っていることが多い。このような傾向から、より正式な企業のメモリーキーピングの必要性が生まれた。その結果、多くの中堅企業や大企業は、歴史的なアーカイブズの管理をビジネス・アーカイブズ機関(※)に委託するようになり、全国各地に設立されるようになった。企業は記録資料の所有権を保持したまま、目録作成、調査、資料の構造化、さらなる目録作成、デジタル化などのサービスへの対価をビジネス・アーカイブズ機関に支払う。

(※)ここで言われているビジネス・アーカイブズ機関として代表的なものに「ストックホルム経営史センター」がある(編集部注)。

18) スイス Switzerland
執筆者:アレキサンダー・ビエリ(F・ホフマン-ラ・ロシュ社)
Contributor: Alexander Bieri, F. Hoffmann-La Roche Ltd
ページ:p.106-108
〔注目点〕
1980年代までは、スイスの企業では専門のアーキビストを雇用することは例外的なことだった。しかし、ナチス時代のスイス企業の行動がメディアで取り上げられ、当時のスイス銀行の休眠口座にあった資産のスキャンダルをきっかけに、状況は一変した。1996年、スイス連邦議会は、第二次世界大戦中のスイス企業の行動を明らかにするために、独立した歴史家による委員会を設置した。スイス政府が民間企業のアーカイブズへのアクセスを強く主張したことにより、それまで一般的ではなかった企業アーカイブズ機関がスイスでも数多く設立された。今日、スイスはその経済が最もグローバルに統合された国の1つである。そのため、ビジネス・アーカイブズは、法的な有用性だけでなく、マーケティング目的で、他社から自社のブランドを区別するための重要な手段としても認識されている。

企業が保有する私的なビジネス文書を除き、歴史的なビジネス文書は通常、カントンの公文書館が保有している。これらの記録は、非常に古い貿易会社や銀行の記録であることが多く、近代的な企業の記録であることは少ない。バーゼル大学は、1910年にスイス経済アーカイブズ(Schweizerisches Wirtschaftsarchiv)を設立した。スイスの経済に関する総合的な情報を収集することを目的としていたが、現在では、放棄された企業資料の重要な保管場所となっており、スイスの歴史的な企業資料の保存を積極的に推進している。チューリッヒにあるスイス連邦工科大学(ETH)は、1966年にナチスに関する記録の収集所と作業グループを設立した。ETHの歴史部門は1974年に設立され、当時は「Archives of Contemporary History」と呼ばれていた。その使命は、19世紀後半から現在に至るまでのスイスの歴史に関する私的な文書、音声、映像の記録を保管することである。

アーキビスト養成におけるスイスの特徴は、非常に高い評価を受けている職業訓練(徒弟制度)にある。「情報と文書」分野は3年制の課程である。教育期間中は主に国立公文書館で働くが、全員が少なくとも2つの異なる機関で実務を行う必要がある。多くの学生は、企業アーカイブズでの1カ月間のインターンシップでトレーニングを補うことを選択する。

19) ウクライナ Ukraine
執筆者:ウラディミール・クリコフ(国立カラジン・ハルキフ大学)、イリーナ・スクビー(クイーンズ大学)
Contributor: Volodymyr Kulikov, Karazin Kharkiv National University, and Iryna Skubii, Queen's Universityページ:p.109-112
〔注目点〕
歴史的な企業記録の大部分は、ウクライナ国立公文書館の傘下にある中央、地方、市の公文書館に保管されている。最大のコレクションは、キエフにあるウクライナ国家中央歴史文書館、ウクライナ最高権力機関・政府中央国家文書館、ウクライナ公共組織国家中央文書館に保存されている。H. Pshenychnyiの名を冠したウクライナ中央州立シネ・フォト・フォノ資料館には、企業の日常業務や歴史上の重要な出来事に関するオーディオ・ヴィジュアル・コレクションが保管されている。ウクライナ国立中央科学技術アーカイブズは、技術文書(技術図面やその他の設計文書)の最大のコレクションを持ち、研究開発やイノベーションの歴史に関する重要な資料を集めている。企業組織の記録コレクション以外にも、多くの中央・地方公文書館には、企業家、経営者、その他給与所得者に関する文書のコレクションがある。これらのコレクションには通常、伝記、私信、ビジネスレターなどが含まれる。

国有企業の記録は、ソビエト時代に作成された文書が圧倒的に多くを占めている。例外は1920年代で、中小企業と国有企業が共存していた過渡期である。多くの中央の公文書館や地方公文書館は、企業の歴史に関する特別な記録を集めている。欧米のビジネス・アーカイブズとは異なり、これらのコレクションは企業の所有者ではなく、工場や鉄道などの生産単位を中心に展開されていることが多い。また、1920年代後半の私経済の縮小と、その後の国有企業や公営企業の統治の結果として蓄積された、国家の規制機関や司法機関のアーカイブズにも、多くの貴重な情報が散見される。中央および地方の州・市の公文書館には、ソビエト連邦崩壊後に清算された企業の記録のコレクションがある。これらのコレクションは、研究者には一部しか公開されていない。

デジタル化により、ウクライナで活動する企業はアーカイブズの整理にデジタル・ソリューションを求めるようになった。また、アーカイブズ業務を専門のサービスに委託する傾向も見られる。

20) 英国 United Kingdom
執筆者:アリソン・タートン(ビジネス・アーカイブズ・カウンシル)
Contributor: Alison Turton, Business Archives Council
ページ:p.113-121
〔注目点〕
50年以上前のアーカイブズ資料や100年以上前の書籍を、単品またはコレクションで、指定額以上の価値があるものを英国外に恒久的または一時的に輸出する場合は、輸出許可を求めなければならない。アーツカウンシル・イングランドの輸出許可ユニットは、デジタル・文化・メディア・スポーツ担当大臣に代わって、このような文化財の輸出許可を発行している(文化財の輸出に関する理事会規則(EC)No.116/2009)。

2016年に英国歳入関税局HM Revenue and Customsの法人営業所得マニュアル Business Income Manualが修正され、「歴史的アーカイブズの維持にかかる費用は、一般的に営業利益を算出する際に認められる費用である」とし、「企業によるアーカイブズへのアクセスや関連する教育サービスの提供にかかる支出は、営業収入に対して認められる」としている。この規定は、資本金やその他の一部の支出を除外している。信託が保有するビジネス・アーカイブズは、追加の税制優遇措置を受けることができる。

現在、英国の企業アーキビストのほとんどは専門的な資格を持っている。典型的な企業アーカイブズは、1人のアーキビストと、1人か2人のアシスタント・アーキビストで構成されているが、大企業の社内アーカイブズは、アーキビストの大規模なチームで構成されていることもある。英国では、アーカイブズの特定(評価選別による長期的保存記録の特定:編集部注)と保存を確実にするために、アーカイブズ管理と記録管理は密接に協力することもあるが、別々の専門家グループが管理する、それぞれ独立した社内機能であることも増えている。

21) 米国 United States of America
執筆者:ポール・ラーサウィッツ(マッキンゼー&カンパニー)、テッド・ライアン(フォード・モーター・カンパニー)
Contributors: Paul Lasewicz, McKinsey & Co, and Ted Ryan, Ford Motor Co
ページ:p.122-126
〔注目点〕
米国の企業アーカイブズ・プログラムは、ほとんど企業のニーズに応えるためだけに存在しており、その結果、圧倒的に組織の内部機能となっている。米国では、法律的にも社会的にも、歴史的な企業記録の保存を義務付けるものはない。時折、歴史センターや歴史協会、政府の公文書館などの公的機関が企業記録を所有・管理していることがあるが、これらは通常、消滅した企業体の記録であり、組織的(体系的)に取得されたものではなく、ランダムに取得された記録である。

1960年代まで、米国では企業アーカイブズ・プログラムを開始する主な理由は、大企業の歴史をサポートすること(周年行事開催など)であった。組織はこのような節目のイベントを祝うことで社内外の利益を得ていたが、このようなめったにない機会を超えて、企業アーカイブズ・プログラムの価値を認識する機会は限られていた。その後、1970年代には、アメリカ建国200周年に向けての機運の高まりなどの影響で、企業アーカイブズ・ブームが起こった。

1980年代に入ると、1970年代の進歩は止まり、企業機能に多大なプレッシャーを与える新たなトレンドが次々と出現した。低コストのグローバルな競争相手の出現により、企業のリーダーたちは競争力を維持する方法を模索した。生産性の向上と経費の削減を求める経営者は、30年間の安定した成長によって肥大化した企業の中枢で、手っ取り早くコストを削減することができた。企業アーカイブズのように、無形の、収益を生まない貢献に価値を置いている機能は、綿密に調査された。1980年代から1990年代にかけてのダウンサイジングの流れの中で、米国の企業アーカイブズは予算や人員の削減を経験したものもあれば、完全に廃止されたものもあった。

米国には様々な種類の企業アーカイブズがある。それぞれのアーカイブズは、その事業環境を形成した組織的なニーズ、より具体的には主要なステークホルダーのニーズによって定義されている。マーケティング組織のアーカイブズのコレクションは、マーケティング、広告、コミュニケーションなど、その機能をサポートする記録に重きが置かれるだろう。同様に、法務部門に置かれたアーカイブズは、訴訟、規制、コンプライアンス活動をサポートするものに傾くと思われる。


■(ビジネス・アーカイブズ国際比較の国別)概観に貢献する
Contributing an Overview
ページ:p.127-128
〔注目点〕
ICA/SBAでは今後もこの『ビジネス・アーカイブズ国際比較』を拡張・発展させていきたいと考えている。まだ収録されていない国のビジネス・アーカイブズ部門の概要を提供できる知識や専門性を持つ関係者が、寄稿する際の執筆者の責任と、必要なコンテンツ項目、編集スタイルについて説明している。


★☆★...編集部より...★☆★

『ビジネス・アーカイブズ国際比較』は世界のビジネス・アーカイブズの多様性を示しています。本通信は2007年の創刊時より長らく英語圏の情報を主として紹介してきました。この国際比較は、これまでの本通信では伝えきれなかった世界のビジネス・アーカイブズの概要を示してくれています。

「アーカイブズ」には2つの意味があり、アーカイブズ資料(長期的に保存する価値のある記録)とこれを保管し管理し提供する館(や機能、部署)です。ヨーロッパに顕著ですが、アーカイブズ資料は企業のみならず、公文書館をはじめとする外部の機関に移管されて目録作成・保存・利用提供が行われてきた歴史も、この国際比較はよく示しています。公文書館や学術機関に移管されたものは、国や地方自治体の公文書管理規定、あるいは一般の利用規定といった規則に沿って一般の人々が利用することが可能です。

中国を除くと、企業のアーカイブズ(長期に亘たって保管、利用提供する企業資料)の管理について包括的に定めた法律を持つ国は見当たりません。英国および英国の法を継受した国々やEU諸国の場合、一定の基準を満たすビジネス・アーカイブズ資料の国外への持ち出しについて、法律上の定めがみられます。北欧やイタリア等の場合、ビジネス・アーカイブズ資料を国の文化遺産として位置づける場合があり、一定の公的なサポートや規制がみられます。

同じく中国を例外として、個々の企業がアーカイブズを管理する場合は、基本的には法的な定めがないため、アーカイブズ資料とアーカイブズ部署(史資料室)の持続性は企業の意思次第であり、不安定です。

各国各様のビジネス・アーカイブズにあって、大きく共通していることは、「デジタル」「デジタル化」であることも明らかです。「デジタル」「デジタル化」は、どの国においても基本的にはビジネス・アーカイブズの未来への継承、情報の共有に寄与していることが読み取れます。

日本は、今回初めてこの国際比較に参加しました。企業の手を離れたビジネス・アーカイブズ(資料)は豊かに存在すると推定されるのですが、公文書館、大学図書館、研究所、博物館等に所在するとみられる、ビジネス・アーカイブズの資料群単位(通常は企業単位)での概要情報や所在情報のリスト化と集約はまだ十分には行われていません。『ビジネス・アーカイブズ国際比較』の更新に当たっては、この部分の増強が必要です。

さらに、日本の内容をアップデートするに当たっては、今回詳細を公開できなかった、会社法・商法をはじめとする経済関連諸法、その他の関連法(公文書館法、個人情報保護法、著作権法、文化財保護法等)のどの部分がどのようにビジネス・アーカイブズに関わってくるのかをリストアップし、整理することも課題となるでしょう。


[関連ページ]

国立国会図書館「カレントアウェアネス・ポータル」
「国際公文書館会議(ICA)、『ビジネス・アーカイブズズ国際比較』第3版を公開」2021年8月31日
https://current.ndl.go.jp/node/44708

イタリア・アーキビスト協会(ANAI)ウェブサイト本の紹介欄 2021年9月17日
「ビジネス・アーカイブズ国際比較」
Business Archives in International Comparison
http://www.ilmondodegliarchivi.org/rubriche/archilibri/898-international-council-on-archives-section-of-business-archives-business-archives-in-international-comparison-a-cura-di-alison-turton-parigi-2021
『ビジネス・アーカイブズ国際比較』第3版でイタリアの項を執筆しているファビオ・デル・ジウディチェによる紹介です。

*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*

[略称一覧]
ACA: Association of Canadian Archivists(カナダ・アーキビスト協会)
ARA: Archives and Records Association(アーカイブズとレコード協会)
ASA: Australian Society of Archivists(オーストラリア・アーキビスト協会)
BAC: Business Archives Council(ビジネス・アーカイブズ・カウンシル)
BACS: Business Archives Council in Scotland(スコットランド・ビジネス・アーカイブズ・カウンシル)
BAS: Business Archives Section(ビジネス・アーカイブズ部会:SAA内の部会)
CoSA: Council of State Archivists(米国・州文書館長評議会)
DCC: Digital Curation Center(英国デジタル・キュレーション・センター)
EDRMS: Electronic Document and Record Management System(電子文書記録管理システム)
ERM: Electronic Record Management(電子記録管理)
ICA: International Council on Archives(国際文書館評議会)
NAGARA: National Association of Government Archives and Records Administrators(米国・全国政府アーカイブズ記録管理者協会)
NARA: National Archives and Records Administration(米国 国立公文書館記録管理庁)
RIKAR: Research Institute of Korean Archives and Records(韓国国家記録研究院)
RMS: Record Management System(記録管理システム)
SAA: Society of American Archivists(アメリカ・アーキビスト協会)
SBA: Section for Business Archives(企業アーカイブズ部会、ICA内の部会)
TNA: The National Archives(英国国立公文書館)

*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*
―――――――――――――――――――――――――――――――――――

☆★ 編集部より:あとがき、次号予告 ★☆

ビジネス・アーカイブズは50年、あるいは100年といった歴史を持つ老舗企業だけのもの、という考えは誤りです。1997年創業の動画配信会社ネットフリックスも、社内アーカイブズを立ち上げるため、初代アーキビストの募集を行っています。

◎ネットフリックス アーカイブズ求人
https://jobs.netflix.com/jobs/110761245
https://web.archive.org/web/20210811220144/https://jobs.netflix.com/jobs/110761245

募集されているのは、物理的資産&アーカイブズ(Physical Assets & Archives)チームにおける「アーカイブ・マネージャー」Archive Manager。求められる役割は、Netflixブランドの作品から映像で用いられた物理的資産(3次元のオブジェクト)を特定し選別し、長期保存のためのワークフローを確立すること。製作段階からアーカイブズ(永久保存)資産を取り込むプロセスを開発管理すること。さらに、外部への貸し出しや内部パートナーのニーズ(賞、PR、イベント)に関わるリクエストを手助けし、必要に応じて外部での展示、展覧会、調査について相談にのること、などです。

☆~~~☆~~~☆~~~☆~~~☆~~~☆~~~☆

次号は2021年10月発行の予定です。どうぞお楽しみに。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――
◆◇◆バックナンバーもご活用ください◆◇◆

https://www.shibusawa.or.jp/center/ba/bn/index.html

―――――――――――――――――――――――――――――――――――


***********************************

ビジネス・アーカイブズ通信(BA通信) No.91
2021年10月2日発行 (不定期発行)
【創刊日】2008年2月15日
【発行者】公益財団法人渋沢栄一記念財団情報資源センター
【編集者】公益財団法人渋沢栄一記念財団情報資源センター
      「ビジネス・アーカイブズ通信」編集部/
      株式会社アーカイブズ工房
【発行地】日本/東京都/北区
【ISSN】1884-2666
【E-Mail】
【サイト】https://www.shibusawa.or.jp/center/ba/index.html

***********************************

Copyright (C)
公益財団法人渋沢栄一記念財団
2007- All Rights Reserved.

一覧へ戻る