ビジネス・アーカイブズ通信(BA通信)

第79号(2019年3月13日発行)

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☆      □■□ ビジネス・アーカイブズ通信 □■□

☆       No.79 (2019年3月13日発行)

☆    発行:公益財団法人 渋沢栄一記念財団 情報資源センター

☆                        〔ISSN:1884-2666〕
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この通信では海外(主として英語圏)のビジネス・アーカイブズ(BA)に関する情報をお届けします。

海外BAに関わる国内関連情報も適宜掲載しております。

今号は文献情報1件と企業団体情報1件です。

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◆ 目次 ◆

[掲載事項の凡例とご注意]

■文献情報:パナソニックのアーカイブズ

■企業団体情報:デイブ・スミス氏(元ウォルト・ディズニー・アーカイブズアーキビスト)訃報

☆★ 編集部より:あとがき、次号予告 ★☆

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[掲載事項の凡例]

・欧文の場合、日本語で読みやすいものになるように、タイトルははじめに日本語訳を、続いて原文を記します。
・人名や固有名詞の発音が不明の場合も日本語表記を添えました。便宜的なものですので、検索等を行う場合はかならず原文を用いてください。
・普通名詞として資料室や文書室、物理的な記録資料を表現する際は「アーカイブズ」を用います。固有名詞の場合はこの限りではありません。また物理的およびデジタル記録資料の蓄積や組織化に関しては「アーカイブ」「アーカイブ化」「アーカイビング」などの表現を用いることもあります。


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■文献情報:パナソニックのアーカイブズ

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◎「エビデンス(証拠)で心の琴線に触れる : 日本におけるウェイ、信頼、企業アーカイブズ」
https://www.shibusawa.or.jp/center/ba/bunken/doc018_panasonic.html

PDF版
https://www.shibusawa.or.jp/center/ba/bunken/pdf/doc018_panasonic.pdf

本稿は2018年11月に英国ロンドンで開催されたBAC(ビジネス・アーカイブズ・カウンシル)とICA SBA(国際アーカイブズ評議会ビジネス・アーカイブズ部会)共催ビジネス・アーカイブズ国際シンポジウム「ビジネス・アーカイブズと信頼」でのプレゼンテーション Striking the right chord with evidence - way, trust and corporate archives in Japan(「エビデンス(証拠)で心の琴線に触れる:日本におけるウェイ、信頼、企業アーカイブズ」)を日本語化したものです。

本稿では経営理念の継承のための企業アーカイブズとしての草分けであり、日本の企業アーカイブズのモデル、ベンチマークであり続けてきたパナソニックの企業アーカイブズを取り上げて、企業アーカイブズと信頼の関係について掘り下げます。後半では特に、2018年の創業100周年を記念した100年史の編纂、歴史資産アーカイブズシステムの構築、パナソニックミュージアムエリア全体の活用を紹介しながら、アーカイブズのデジタル化と情報資産としての活用の意義について考察します。

<目次>

・はじめに : 日本における企業アーカイブズの意味―ウェイ・価値観の共有、経営理念の継承
https://www.shibusawa.or.jp/center/ba/bunken/doc018_panasonic.html#01

・パナソニックのアーカイブズと100周年事業
https://www.shibusawa.or.jp/center/ba/bunken/doc018_panasonic.html#02

 1. パナソニックの沿革と事業概要
https://www.shibusawa.or.jp/center/ba/bunken/doc018_panasonic.html#021

 2. パナソニックのアーカイブズ
https://www.shibusawa.or.jp/center/ba/bunken/doc018_panasonic.html#022

 3. パナソニック創業100周年とアーカイブズの取り組み
https://www.shibusawa.or.jp/center/ba/bunken/doc018_panasonic.html#023

 (1)100年史の編纂
https://www.shibusawa.or.jp/center/ba/bunken/doc018_panasonic.html#0231

 (2)歴史資産アーカイブズシステムの構築
https://www.shibusawa.or.jp/center/ba/bunken/doc018_panasonic.html#0232

 (3)パナソニックミュージアムエリア全体の活用(歴史館とものづくりイズム館)
https://www.shibusawa.or.jp/center/ba/bunken/doc018_panasonic.html#0233

・おわりに : 企業アーカイブズと「信頼」
https://www.shibusawa.or.jp/center/ba/bunken/doc018_panasonic.html#03


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■企業団体情報:デイブ・スミス氏(元ウォルト・ディズニー・アーカイブズアーキビスト)訃報

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◎ウォルト・ディズニー・アーカイブズの創始者デイブ・スミス氏が亡くなる

ウォルト・ディズニーの初代アーキビストで、「ディズニーの歴史に関わる究極の権威」the final authority on the topic of Disney history と呼ばれたデイブ・スミスさんが、2019年2月15日に米国カリフォルニア州バーバンクで亡くなりました。78歳でした。

ディズニー・アーカイブズについては、同アーカイブズの40周年記念に関連する記事を本通信30号(2010年6月28日発行)にも掲載しています。
「ウォルト・ディズニー・アーカイブズ40周年」
https://www.shibusawa.or.jp/center/ba/bn/20100628.html

ウォルト・ディズニー社のウェブサイトを始め、多数のメディアがスミスさんの訃報を一斉に取り上げ、追悼記事を掲載しています。

■米国メディアのサイト記事■
「デイブ・スミスを偲んで」
Remembering Dave Smith
Walt Disney Company (ウォルト・ディズニー社のサイト)
https://www.thewaltdisneycompany.com/remembering-dave-smith/

「ウォルト・ディズニー・アーカイブズの創始者デイブ・スミスが78歳で亡くなる」
Walt Disney Archives founder Dave Smith dies at 78
Variety(「ヴァラエティ」)
https://variety.com/2019/biz/news/disney-archives-founder-dave-smith-dead-78-1203141672/

「ウォルト・ディズニー社のアーキビスト、会社の秘密を目録化した縁の下の力持ち デイブ・スミスが78歳で亡くなる」
Walt Disney Co. archivist Dave Smith, an 'unsung hero' who cataloged
company secrets, dies at 78
Los Angeles Times(「ロサンゼルス・タイムズ」)
https://www.latimes.com/business/hollywood/la-fi-ct-dave-smith-20190215-story.html

「ディズニーの最初のアーキビスト デイブ・スミスが78歳で逝去」
Original Disney archivist Dave Smith passes away at 78
Boardwalk Times(「ボードウォーク・タイムズ」)
https://boardwalktimes.net/original-disney-archivist-dave-smith-passes-away-at-78-3f31ac80b416

「ウォルト・ディズニー・アーカイブズの創始者で最初の代表デイブ・スミスが亡くなった」
Dave Smith, the founder and first head of the Walt Disney Archives, has passed away
Gizmodo(「ギズモード」)
https://io9.gizmodo.com/dave-smith-the-founder-and-first-head-of-the-walt-disn-1832675377

「ウォルト・ディズニー・アーカイブズ創始者 デイブ・スミスが78歳で亡くなる」
Dave Smith, founder of Walt Disney Archives, dies at 78
The Hollywood Reporter(「ハリウッド・レポーター」)
https://www.hollywoodreporter.com/news/dave-smith-dies-founder-walt-disney-archives-was-78-1187426

「悲しい知らせ:伝説のディズニー・アーキビスト デイブ・スミスが78歳で亡くなった」
Sad news: legendary Disney Archivist Dave Smith has passed away at 78
DSNY Newscast(「ディズニー・ニュースキャスト」)
https://dsnynewscast.com/2019/02/sad-news-legendary-disney-archivist-dave-smith-has-passed-away-at-78/


■在りし日の姿■
「主任アーキビスト デイブ・スミスとともにウォルト・ディズニー・アーカイブズの中に」
Inside the Walt Disney Archives with chief archivist Dave Smith
YouTube(「ユーチューブ」)
https://www.youtube.com/watch?v=Gfa8TZj4xSk


■日本語サイトでのお悔やみ記事■
「元ディズニー社CEOのロン・ミラー氏、ディズニー・アーカイブズ館長デイブ・スミス氏が逝去」
D-First Blog
https://d-first-blog.com/company-remembering-ron-miller-and-dave-smith/

「ディズニー・アーカイブズを設立した"ディズニー研究家"、デイブ・スミス氏逝去」
dpost.jp
https://dpost.jp/2019/02/17/wp-46529/


■略伝■

上にあげた各種報道によると、生まれはカリフォルニア州パサデナ、両親は司書と教師でした。15歳の時にディズニーランドを訪問した際、ウォルト・ディズニーが園内を歩いているのを発見し、その場でサインをお願いした逸話があります。ウォルトは注目を浴びるのを避けて、デイブには後ほどサインを郵送しています。その後、UCバークレーの学部では歴史学を、修士課程で図書館学を学んだあと、カリフォルニア州サン・マリノのハンティントン図書館勤務、ワシントンDCの議会図書館でインターン、UCLA研究図書館勤務を経てウォルト・ディズニー社に1970年に入社しています。入社のきっかけはウォルト・ディズニーの兄弟で、同社共同設立者であるロイ・O・ディズニーが、1966年に亡くなったウォルトの遺品を整理する専門家の雇用を思い立ったことにあります。ロサンゼルス・タイムズによると、当時のハリウッドでは、会社資料をアーカイブすることなど全く考えられていなかったということです。アーカイブズ設立40周年(2010年)の前年、2009年にはウォルト・ディズニー・ファミリー・ミュージアムを開館させています。最初はたった一人で目録作りを始めたアーカイブズのスタッフ数は、2016年には24名にまで増加しています。一朝一夕ではアーカイブズは作れないとも言えるでしょう。

さて、デイブ・スミス氏は2010年にウォルト・ディズニー社を定年退職した後も、アドバイザーとして同社との繋がりは残りました。また、1980年代に始まり亡くなるまで続いた「デイブに聞け」Ask Daveというディズニー・メディアの名物コラムがあります。スミス氏はこのコラムを通じて、ディズニーの歴史に関する情報をたくさんのファンとシェアしてきまました。


■お悔やみ記事に見る象徴的なフレーズ■

(1) "unsung hero" 「縁の下の力持ち」、"behind the scenes"「舞台裏で」

どちらもロサンゼルス・タイムズの記事の中に現れる表現です。ディズニーに限らず、どんな企業や団体においても、アーキビストの本務はスポットライトの当たる場所ではなく、ビジネス、事業の裏側でそれらを支える場にあります。デイブ・スミス氏の場合は、ディズニー・ファン、ディズニー・コレクターの熱心な活動によって、「ディズニーの歴史に関わる究極の権威」として世に知られるようになり、さらに「デイブに聞け」Ask Daveというディズニー・メディアのコンテンツも担当するなど、表舞台でも大いに活躍することになりました。しかし、それはディズニー資料の収集と目録化といった地味な業務を何年も続け、会社資料に関するデータベースの基盤を作ることができて以降のことでしょう。

近年日本でもますます企業ミュージアム活動が盛んになってきています。しかし忘れてならないのは、アーカイブズがあってこそのミュージアム活動ということです。ロンドンでのICA SBAシンポジウムで紹介させていただいたパナソニックのアーカイブズも、このことを雄弁に物語っています。資料の地道な収集・移管、保存活動が創業100周年を記念したミュージアムエリア全体の活用を全面的にサポートしているのです。


(2) "investing endless hours restoring and reserving"「修復と保存に多大な時間をつぎ込む」

ウォルト・ディズニー社のサイトに掲載された同社CEOボブ・アイガー氏の追悼コメントに現れます。

「彼はディズニーの歴史に関する縁の下の力持ちです。初代アーキビストとして、数え切れないほどの文書や遺物を暗がりからの救出し、私たちの歴史に関わる千金の価値ある品々の修復と保存に多大な時間をつぎ込み、語るべきストーリーのためにそれらをコンテクストの中に位置付けることに40年間を費やしました。デイブは真のディズニー・レジェンドです。私たちは将来をインスパイアし続ける過去との間の、朽ちることのない、目に見える繋がりを作るために彼に多くのものを負っています。」

ボブ・アイガー
「デイブ・スミスを偲んで」
ウォルト・ディズニー社サイト
https://www.thewaltdisneycompany.com/remembering-dave-smith/

このフレーズは(1)の裏方仕事とも大いに関係があります。アーカイブズを整備するには、バックヤード仕事に時間とお金がかかります。表からはよく見えない、舞台裏における情報インフラ整備の重要性を経営者が認識していたことが、今日のディズニー社の繁栄につながっていると言えるでしょう。

(3) "a conflict of interests" 「利害相反」

これもロサンゼルス・タイムズの記事の中に現れます。デイブ・スミス氏が新人に対して、アーカイブズはファン活動を行う場所ではないと厳しく指導し、ディズニーのアーキビストは自らがディズニーに関わるあれこれのコレクターであることを禁じていました。それは「利害相反」に当たるからです。企業アーキビストとしての職業倫理を明確にし、その遵守をチームメンバーに厳しく課していたことがうかがわれます。


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[略称一覧]
ACA: Association of Canadian Archivists (カナダ・アーキビスト協会)
ARA: Archives and Records Association (アーカイブズとレコード協会)
ASA: Australian Society of Archivists( オーストラリア・アーキビスト協会)
BAC: Business Archives Council (ビジネス・アーカイブズ・カウンシル)
BACS: Business Archives Council in Scotland
(スコットランド・ビジネス・アーカイブズ・カウンシル)
BAS: Business Archives Section (ビジネス・アーカイブズ部会:SAA内の部会)
CoSA:Council of State Archivists (米国・州文書館長評議会)
DCC: Digital Curation Center (英国デジタル・キュレーション・センター)
EDRMS:Electronic Document and Record Management System (電子文書記録管理システム)
ERM:Electronic Record Management(電子記録管理)
ICA: International Council on Archives(国際文書館評議会)
NAGARA: National Association of Government Archives and Records Administrators
(米国・全国政府アーカイブズ記録管理者協会)
NARA: National Archives and Records Administration (米国 国立公文書館記録管理庁)
RIKAR: Research Institute of Korean Archives and Records (韓国国家記録研究院)
RMS:Record Management System(記録管理システム)
SAA: Society of American Archivists(アメリカ・アーキビスト協会)
SBA: Section for Business Archives (企業アーカイブズ部会、ICA内の部会)
TNA: The National Archives (英国国立公文書館)

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☆★ 編集部より:あとがき、次号予告 ★☆

「"あなたのコレクション管理"アプリを使ってゲリラ的に目録作成」という謎めいたイギリス国立公文書館(TNA)のブログ記事のタイトルが目にとまりました(2019年2月27日の記事)。

Guerrilla cataloguing with Manage Your Collections
Wednesday 27 February 2019
The National Archives Blog
https://blog.nationalarchives.gov.uk/blog/guerrilla-cataloguing-manage-collections/

これは少ない費用(あるいはお金を全くかけない)で、ボランティアなどを活用し、なるべくたくさん人を投入して、出来るだけたくさんの目録情報をオンラインで利用できるようにする取り組みです。

"あなたのコレクション管理"(Manage Your Collections: MYC)とはTNAのウェブサービス「ディスカバリー」に目録情報を登録するための編集ツールで、TNAが管理する全国の文書館データベースARCHONのコードを付与されている文書館から利用することができます。
http://www.nationalarchives.gov.uk/archives-sector/advice-and-guidance/managing-your-collection/manage-your-collections-in-discovery/

MYC利用規約
http://www.nationalarchives.gov.uk/documents/manage-your-collections-terms-and-conditions.pdf

ブログ記事によると、昨年12月には2つのアーカイブズがこの取り組みに参加しています。一つはコミュニティ・アーカイブズであるClevedon Pier & Heritage Trust、もう一つはRichmond Local Studies Library & Archiveです。TNAではアーカイブズの目録の国際標準であるISAD(G)に準拠したMYCエクセル・テンプレートを開発し、これを「ゲリラ的な目録作成」で利用しています。アーカイブズに関する専門知識を持たないボランティアには、フォンドとシリーズの違いと行った基本的なアーカイブズの考えを説明した上で、このエクセル・テンプレートに入力してもらいます。とりあえずフォンドとシリーズレベルの目録を作成して公開し、この後アイテムレベルの目録作成を行っていく予定とあります。これによって、自分たちのコレクションのデジタル目録を作成することができ、これをTNAが管理運用する「ディスカバリー」に登録することによって、そのコレクションを広く知ってもらい、利用してもらうことができます。

「ゲリラ的な目録作成」という呼び名のユニークさも、アーカイブズに対する関心を高めるのに一役買っていますね。

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次号は2019年3月下旬発行の予定です。どうぞお楽しみに。

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◆◇◆バックナンバーもご活用ください◆◇◆

https://www.shibusawa.or.jp/center/ba/bn/index.html

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ビジネス・アーカイブズ通信(BA通信) No.79
2019年3月13日発行 (不定期発行)
【創刊日】2008年2月15日
【発行者】公益財団法人渋沢栄一記念財団事業部情報資源センター
【編集者】公益財団法人渋沢栄一記念財団事業部情報資源センター
      「ビジネス・アーカイブズ通信」編集部/
      株式会社アーカイブズ工房
【発行地】日本/東京都/北区
【ISSN】1884-2666
【E-Mail】
【サイト】https://www.shibusawa.or.jp/center/ba/index.html

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