ビジネス・アーカイブズ通信(BA通信)

第80号(2019年4月3日発行)

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☆      □■□ ビジネス・アーカイブズ通信 □■□

☆       No.80 (2019年4月3日発行)

☆    発行:公益財団法人 渋沢栄一記念財団 情報資源センター

☆                        〔ISSN:1884-2666〕
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この通信では海外(主として英語圏)のビジネス・アーカイブズ(BA)に関する情報をお届けします。

海外BAに関わる国内関連情報も適宜掲載しております。

今号は文献情報1件です。

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◆ 目次 ◆

[掲載事項の凡例とご注意]

■文献情報:ビジネス・アーカイブズ論文集 8
◎『インターナショナル・ビジネス・アーカイブズ・ハンドブック』2017年

☆★ 編集部より:あとがき、次号予告 ★☆
・リーバイ・ストラウス社、ニューヨーク証券取引所に再上場

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[掲載事項の凡例]

・欧文の場合、日本語で読みやすいものになるように、タイトルははじめに日本語訳を、続いて原文を記します。
・人名や固有名詞の発音が不明の場合も日本語表記を添えました。便宜的なものですので、検索等を行う場合はかならず原文を用いてください。
・普通名詞として資料室や文書室、物理的な記録資料を表現する際は「アーカイブズ」を用います。固有名詞の場合はこの限りではありません。また物理的およびデジタル記録資料の蓄積や組織化に関しては「アーカイブ」「アーカイブ化」「アーカイビング」などの表現を用いることもあります。

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■文献情報:ビジネス・アーカイブズ論文集 8

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◎『インターナショナル・ビジネス・アーカイブズ・ハンドブック:企業の歴史文書を理解し管理する』初版(2017年)
The International Business Archives Handbook: Understanding and managing the historical records of business, 1st Edition
https://www.routledge.com/The-International-Business-Archives-Handbook-Understanding-and-managing/Turton/p/book/9780754646631
https://www.routledgehandbooks.com/pdf/doi/10.4324/9781315207841.ch3
https://www.taylorfrancis.com/books/e/9781351801874

2017年に刊行された『インターナショナル・ビジネス・アーカイブズ・ハンドブック:企業の歴史文書を理解し管理する』初版をご紹介します。

【書誌情報】
タイトル原語:The international business archives handbook : understanding and managing the historical records of business / edited by Alison Turton.
編著者:アリソン・タートン Turton, Alison
出版者:London ; New York : Routledge
出版年:2017
ページ数:xxii, 462 ページ
備考:参考書誌、索引あり
ISBN:
9780754646631(ハードカバー)
9781315207841(電子版)
言語:英語

【本書の成り立ち】
本書の編者アリソン・タートン氏は1991年に出版されたManaging business archivesの編集に携わっています。同書はイギリスにおけるビジネス・アーカイブズに関わるそれまでの経験を集成したもので、ビジネス・アーカイブズ分野におけるはじめてのハンドブックでした。その後、1997年に『アメリカ企業の記録』The records of American business が米国アーキビスト協会(SAA)から出版されました。
https://www.shibusawa.or.jp/center/ba/bn/20081112.html

これはアメリカとイギリスの企業アーキビストによる論文集で、多くの新しい考え方を反映したものでした。タートン氏は本書序言で、この『アメリカ企業の記録』を前にして、1991年に刊行した Managing business archives はイギリスの経験に偏り、古めかしいものに見えたと回想しています。同年(1997年)BACが主催したグラスゴーでのビジネス・アーカイブズ国際会議には、全世界から300名が参加しました。タートン氏も主催者の一人としてこの会議に関わっています。この時タートン氏は、イギリス、あるいは英語圏での実務や経験に限定されない、より国際的なビジネス・アーカイブズに関するハンドブックの刊行を思い立ったということです。しかしながら、ビジネスを取り巻く環境とビジネスのやり方の変化、紙からデジタルへの流れ、新しい技術・・・こういった様々な要因から実際に本書を刊行するのに20年かかりました。

本書では14の章の執筆者に加え、100名を超える世界中のアーキビストや歴史家が協力し、できる限り「国際的な」ビジネス・アーカイブズに関わるハンドブックとすることが目指されました。そのために重要な役割を果たしたのは国際アーカイブズ評議会企業アーカイブズ部会(ICA SBA)の運営委員とそれぞれの委員の持つネットワークです。査読、コラムへの情報提供、参考文献著者等として、日本からも阿部武司国士舘大学教授(経営史学)、森本祥子東京大学文書館准教授(アーカイブズ学)、和田一夫元東京大学教授(経営史学)、社史研究家村橋勝子氏といった方々に加え、本通信編集部も編集に協力しています。


【目次と執筆者紹介】

第1部:コンテクストの中のビジネス・アーカイブズ
Part 1: Business archives in context

第1章 ビジネス・アーカイブズ序論
An introduction to business archives
執筆者:ケイティ・ローガン
Katey Logan
[執筆者紹介]
2009年にイギリス国立公文書館が発表した「ビジネス・アーカイブズのための全国的戦略」を執筆し、この戦略の内容の一部であるウェブサイトManaging business archivesのコンテンツ作成にも筆者として関わっています。ビジネス・アーカイブズ・カウンシル(BAC)の理事を10年にわたって務め、企業アーキビストとしてはキャストロル・アーカイブズ(Castrol Archives、現在はBPの一部)、ブーツ社(Boots The Chemist、現在はWalgreens Boots Alliance)のアーカイブズとレコード・マネジメントの統合的機能の立ち上げの責任者でした。コンサルタント、またリバプール大学講師としてビジネス・アーカイブズに関する講義を行ってきたほか、アーカイブズ、アーキビスト、レコード・マネジメントに関する著作を発表しています。

第2章 国際的なビジネスの発展
The development of international business
執筆者:ロイ・エドワーズ、ケビン・テネント
Roy Edwards and Kevin Tennent
[執筆者紹介]
ロイ・エドワーズ氏は会計学が専門。サザンプトン・ビジネススクールで銀行会計と経営史を講義。会計学の教師になる前にLSEで経済史し、London Midland & Scottish Railwayの歴史とGeneral Electricの歴史に関する著書があります。現在はBACの理事を務め、Archives and Artefacts Study Network(アーカイブズと遺物研究ネットワーク)の共同創立者です。
https://www.southampton.ac.uk/business-school/about/staff/re1u08.page

ケビン・テネント氏はヨーク大学ヨーク・マネジメントスクールの経営学講師。研究分野は国際経営とスポーツ。BAC理事。British Academy of Managementの経営とビジネスの歴史トラック議長。Journal of Management Historyの編集委員。
https://www.york.ac.uk/management/staff/ktennent/

第3章 オフィス・テクノロジーの変化
Changes in office technology
執筆者:ジョン・オーベル
John Orbell
[執筆者紹介]
1978年から2004年までロンドンを拠点とする金融機関ベアリング・ブラザーズ(ベアリング・ブラザーズ自体は1995年INGグルーブに買収される)のアーキビストを務めました。L.S.プレスネル教授、アリソン・タートン氏とともに英国銀行の歴史文書に関する包括的な調査を行い、これを刊行しています(A Guide to the Historical Records of British BankingとBritish Banking. A Guide to Historical Records)。
https://www.businessarchivescouncil.org.uk/materials/nlsept2001.pdf (PDF)
2011年にリチャード・ストーリィ氏と共にBusiness history explorer: bibliography of UK business and industrial historyをオンラインで公開しています。
https://www.businesshistoryexplorer.co.uk/
https://www.businessarchivescouncil.org.uk/materials/bhenewssep14.pdf/ (PDF)
なお、この本書第3章はPDFで公開されています。
https://www.routledgehandbooks.com/pdf/doi/10.4324/9781315207841.ch3 (PDF)

第2部:企業文書の本質
Part 2: The nature of business records

第4章 中核的な企業文書を理解する
Understanding core business records
執筆者:マイケル・モス
Michael Moss
[執筆者紹介]
英国ノーザンブリア大学アーカイブズ学教授。前職はグラスゴー大学HATIIアーカイブズ学の研究教授。1974年から2003年まではグラスゴー大学アーキビスト。オックスフォード大学で教育を受け、同大学ボードレアン図書館でトレーニングを受けています。
https://www.gla.ac.uk/schools/socialpolitical/research/economicsocialhistory/businesshistory/contact/michaelmoss/

第5章 業界固有の企業文書を理解する
Understanding industry-specific business records
執筆者:レズリー・リッチモンド
Lesley Richmond
[執筆者紹介]
グラスゴー大学図書館副館長兼グラスゴー大学大学アーカイブズ アーキビスト。ビジネス・アーカイブズ・カウンシル・イン・スコットランド(BACS)の議長、国際アーカイブズ評議会企業アーカイブズ部会(ICA SBA)議長を歴任。ビジネス・アーカイブズにおける評価選別、倫理、企業アーカイブズの価値といったテーマを中心に多数の著作があります。

第3部:ビジネス・アーカイブズを管理する
Part 3: Managing business archives

第6章 組織と目的
Organization and objectives
執筆者:ジャネット・ストリックランド
Jeannette Strickland
[執筆者紹介]
ユニリーバ社のArt, Archives and Records Management 部門のヘッドを2014年まで務めました。それ以前は地方自治体と非営利団体のアーカイブズにてアーキビストとして勤務。ユニリーバ社在籍期間中には同社アーカイブズをイギリス国立公文書館(TNA)による認証評価獲得に導いたほか、同社アーカイブズのデジタル保存プログラム、同社企業文書のリテンション・ポリシーとグローバル・リテンション・スケジュール作成の責任者でした。現在はアーカイブズ・レコード協会(ARA)の資格認証パネルの委員他を務めています。

第7章 収集、評価選別、編成(整理)、記述
Acquisition, appraisal, arrangement and description
執筆者:リチャード・ウィルトシャー
Richard Wiltshire
[執筆者紹介]
ロンドン市とロンドン自治区のアーカイブズでありロンドン市が運営するロンドン・メトロポリタン・アーカイブズ(LMA)のシニア・アーキビスト。2001年にアーキビスト資格を得てLMAに就職しています。LMAは広範囲にわたる企業アーカイブズのコレクションを所蔵しています。BAC理事。

第8章 保存
Preservation
執筆者:アリソン・タートン
Alison Turton
[執筆者紹介]
ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン(UCL)修士課程でアーカイブズ学を修め、1988年よりロイヤル・バンク・オブ・スコットランド アーカイブズのヘッド。同銀行のアート・コレクションも管理。同アーカイブズのTNAによるアーカイブズ認証評価獲得を主導したほか、アーカイブズのウェブサイト構築その他各種プロジェクトに携わりました。同銀行入行前は、グラスゴー大学、ハウス・オブ・フレイザー、ビジネス・アーカイブズ・カウンシル(BAC)他でアーカイブズ、レコード・マネジメントに関係する業務に携わっています。ICA SBA運営委員、BACS理事。2010年から16年まで「スコットランドにおけるビジネス・アーカイブズの全国的戦略」実行グループの議長を務めました。

第9章 アクセス
Access
執筆者:アリソン・タートン
Alison Turton

第10章 デジタル・ビジネス・アーカイブズを管理する
Managing digital business archives
執筆者:ウィリアム・キルブライド、ジェイムズ・モートロック、ティナ・ステイプル
William Kilbride, James Mortlock and Tina Staples
[執筆者紹介]
ウィリアム・キルブライド氏はデジタル保存連合(Digital Preservation Coalition, DPC)の事務局長。1990年代に考古学分野でキャリアをスタートし、新しい技術を用いたデータ管理への関心から、デジタル保存に関わるようになりました。グラスゴー大学考古学講師、ヨーク大学考古学データサービスのアシスタント・ディレクター、グラスゴー・ミュージアムのリサーチ・マネージャーを歴任しています。

ジェームズ・モートロック氏はHSBCのデジタル・アーカイブズ・マネージャー。2010年にアーキビスト資格を取得。HSBCに入行前はロイズ銀行グループで働きました。HSBCでは最初はHSBCアーカイブズ所蔵の英国関係記録の管理担当で、その後同銀行のデジタル・アーカイブズ・システムの実装と開発に携わっています。BACの短期研修プログラムの企画、ARAの企業レコード部会の研修担当(2011年から2015年)。

ティナ・スティプルズ氏はHSBCアーカイブズのグローバル・ヘッド。1999年にアーキビストの資格取得、1年間ヴィクトリア&アルバート博物館で英国アーツ・カウンシルのためにアーキビストとして働いた後、2000年にHSBCアーカイブズのロンドンのチームに加わりました。2004年にはアジア太平洋地域をカバーする香港チームを立ち上げ、2007年にロンドンのチームのヘッドに昇格すると共に、同行アーカイブズの米国チームを立ち上げています。主導した近年のプロジェクトには新しいレコード・マネジメント・ポリシー・ユニットの立ち上げ、専用施設へのロンドンのアーカイブズの移転、同行のアート・コレクションの再活性化、HSBCデジタル・アーカイブズ・システムの導入などがあります。

第11章 リスクを管理する
Managing risk
執筆者:セラ・キンゼイ
Sara Kinsey
[執筆者紹介]
全英住宅金融組合(Nationwide Building Society)アーカイブズのヘッド。1993年からHSBCアーカイブズのアーキビストとして働き、2007年にはHSBCのグローバル・ヒストリー・マネージャー。HSBCの150周年行事を主導した後、2016年に全英住宅金融組合に移り、同組合のアーカイブズ立ち上げを指揮しています。2000年から2012年までリバプール大学のアーカイブズ学センターでビジネス・アーカイブズに関わる科目の講師を務めた他、2003年からBAC理事、2007年から2010年までBAC副議長。BAC副議長として「ビジネス・アーカイブズのための全国的戦略」実行に関わっています。2013年度のワッズワース経営史賞(Wadsworth Prize for Business History)選考委員長。

第4部 ビジネス・アーカイブズの利活用
Part 4: Using business archives

第12章 アドボカシー(理解増進活動)、アウトリーチ、企業アーキビスト
Advocacy, outreach and the corporate archivist
執筆者:ポール・C・ラーサウィッツ
Paul C. Lasewicz
[執筆者紹介]
ポール・ラーサウィッツ氏はマッキンゼー・アンド・カンパニーのアーキビストです。2014年に同社に入社する以前は、IBMと大手医療保険会社Aetna Life and Casualtyのアーキビストを務めました。IBM社では同社の100周年を記念する社内チームのメンバーとして活躍し、2012年のIBMアワードを受賞しています。ビジネス・アーカイブズ界を世界的に代表するアーキビストであり、各種会合でスピーカーとして頻繁に登壇しています。

第13章 経営史の学問分野
The business history discipline
執筆者:レズリー・ハンナ
Leslie Hannah
[執筆者紹介]
カーディフ・ビジネススクール名誉教授。ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)で長く教鞭をとりました。オックスフォード大学、エセックス大学、ケンブリッジ大学、ハーバード大学、東京大学で経営史の講義を担当しています。英国を代表する経営史家の一人でしょう。現在は一年の半分を英国、残りの半分を日本で過ごしているということです。
http://www.lse.ac.uk/Economic-History/People/Visiting-Academics/Leslie-Hannah/Leslie-Hannah


【表と囲み記事】
本書では40点を超える表と70を超える囲み記事が、世界のビジネス・アーカイブズの多様な姿と実務を伝えてくれています。また各章末には注、参考文献、さらに詳しい情報を知るための文献案内が置かれています。

■表の例
・企業アーカイブズを持つフォーチュン500企業数(国別)
・歴史上の国際的な事業形態 - 分類学
・文書コピーのためのいくつかの重要な日付
・初期海底電信ケーブルの設立日
・商業組織の機能と活動モデル
・建築図面の種類
・一般的な機械工学図面の種類
・慈善団体アーカイブズのためのさまざまな構造
・企業史料を公的アーカイブズに寄託する長所と短所
・アーカイブズの寄託に関する用語の定義
・いくつかの重要なアーカイブズ・ポリシー文書の例
・アーカイブズ機能が位置する社内の部署による長所と短所
・アーカイブズとレコード・マネジメントを組み合わせた場合の長所と短所
・アーカイブズと博物館を組み合わせた場合の長所と短所
・アート・コレクションを管理することの長所と短所
・アーカイブズとライブラリーを組み合わせた場合の長所と短所
・アーカイブズ整理のためのベストプラクティスのヒント
・一目でわかるオープン・アーカイバル情報システム(OAIS)
・HSBC UATスクリプトからテストスクリプトの一部から抽出

■囲み記事の例
・歴史における透明性
・チャンドラーの遺産
・日本の社史
・国家アーカイブズ:中華人民共和国
・ユネスコ世界記憶遺産:オランダ東インド会社(VOC)
・ケーススタディ:ロンドンのBarings Bankのレジストリ・ファイリングシステム
・造船技術図面の評価
・企業アーカイブズのミッション・ステートメントの例
・事業の破産管財人へのアーキビストの書簡
・買収の意思決定書式
・企業のアーカイブズ・コレクション・ポリシーに含める情報
・ISAD(G)を使用したシリーズおよびファイル・レベルでの主題ファイルの記述の例
・ボランティアによるアイテム・レベルの目録作成の例
・防災対策に含めるべき情報
・ケーススタディ:イギリスのDiageo Archivesでのウェブアーカイブ
・ケーススタディ:米国における銀行の記録と機密性
・利用のための書式の典型的な条件
・オンラインによるアーカイブズ・ガイドの主な要素
・ユーザー・フィードバック・アンケート内容
・ケーススタディ:PDFとPDF/A
・アーカイブズ収蔵庫のリスク監査
・潜在的な評判(レピュテーション)のリスク


【書評1】アメリカ図書館協会 レファレンスと利用者サービス協会(RUSA)
アメリカ図書館協会(ALA)の一部門である、「レファレンスと利用者サービス協会」(RUSA)ビジネス・レファレンスとサービス部会(BRASS)ビジネス・レファレンス資料委員会(Business Reference Sources Committee)は毎年前年5月から当年4月までに刊行された優れたビジネス・レファレンス資料を選定しています。「レファレンスと利用者サービス クオータリー」Reference & User Services Quarterlyの第57巻第2号(2017)では9点のエントリーのうち、2点が傑出して優れた(Outstanding)もの、6点が注目に値すべき(Notable new edition)ものと評価されています。そして、本書『インターナショナル・ビジネス・アーカイブズ・ハンドブック』は傑出して優れた2点のうちの一つとされています。評者であるシアトル大学のFelipe Castilloによると、イギリスのアーキビストと歴史家中心の執筆陣であることから、欧州における企業アーカイブズでも容易に適用できる部分が多いだろうということです。そしてこの極めて優れた文献は、アカデミック・ライブラリー、専門図書館の幅広い情報専門職にとってまたとないガイドであると指摘しています。アーキビストにとっては寄贈に関わる文書作成、災害への備え、企業アーカイブズの分類スキームといった項目が、経営史学者やその他の研究者にとってはどのような企業史料が存在するのかを知るガイドとして、それぞれ役立つであろうといいます。ビジネス・ライブラリアンにはビジネス・アーカイブズに関する新たな洞察を与えてくれるものであり、学生や教員へのサポートの際に有用であろうと評価しています。
https://journals.ala.org/index.php/rusq/issue/view/665
http://dx.doi.org/10.5860/rusq.57.2
http://dx.doi.org/10.5860/rusq.57.2.6530
https://journals.ala.org/index.php/rusq/article/view/6530/8688

【書評2】「アーカイブズ・レコード協会ジャーナル」誌(イギリス)
2010年6月1日にアーキビスト協会をはじめとする関係団体が合併して誕生した英国のアーカイブズ・レコード協会(ARA)の機関誌にも書評が掲載されています。評者はスタンダード・ライフ・アバディーン社(投資会社)の企業アーキビストであるカリン・ウィリアムソン氏です。評者によると、本書は非常に実践的であり、企業アーキビストと歴史家の両方に対してグローバルなコンテクストにおけるビジネス・アーカイブズの全体像を提示しています。ウィリアムソン氏はとりわけ収集、評価選別、編成(整理)、記述に関する第7章が示唆に富むものであると言います。例えば、「企業の記録というものは、アーカイブズ構築のために作成されるわけではない」「適切なレコード・マネジメントが歴史的に重要な記録を漏らさず収集するのに極めて重要」といった点です。あるいは、「コンテクストの重要性」や「アーカイブズ機能が企業内に確固として統合されることの重要性」といった点も挙げています。本書はビジネス・アーカイブズでの業務の初心者にとってもベテランにとっても有益な文献であり、本書を貫く国際性によって、アーカイブズ・サービスはいかなる組織、企業、団体にとっても決して軽視できないものであることが理解されるだろうと述べています。
Karyn Williamson (2018) The International Business Archives Handbook: understanding and managing the historical records of business, Archives and Records, 39:1, 92-94,DOI: 10.1080/23257962.2018.1434068
Available at:
https://doi.org/10.1080/23257962.2018.1434068
https://www.tandfonline.com/doi/abs/10.1080/23257962.2018.1434068
https://www.archives.org.uk/

【書評3】「ジャーナル・オブ・ウエスタン・アーカイブズ」(アメリカ)
マイクロソフト社の創業者であるビル・ゲイツ氏の個人アーカイブズであるゲイツ・アーカイブズのアーキビスト、メグ・トゥオメイラ氏による本書の書評も公開されています。掲載誌は米国のユタ州立大学メリル・ケイジャー図書館が発行する「ジャーナル・オブ・ウエスタン・アーカイブズ」第9巻第1号(2018)です。評者によると本書の第1の強みは企業の記録・アーカイブズに対する総合的で利用しやすいアプローチにあるといいます。またトゥオメイラ氏も各章に置かれたケーススタディや実例を扱った囲み記事がとりわけ役に立つとしています。アメリカのアーキビストであるトゥオメイラ氏から見ると、「国際」と謳ってはいるものの西洋、とりわけ欧州中心で、編者たちがそれ以外の地域に関する記述を盛り込もうと努力しているにも関わらず、新興経済地域におけるアーカイブズ、レコード・マネジメントに関しては触れられていないという指摘がなされています。ゲイツ・アーカイブズは伝統的なアーカイブズと企業アーカイブズの境界に位置するとも言え、評者は特にリスクに関する11章とアドボカシー、アウトリーチに関する12章を洞察に富む章として挙げています。なお、リスクに関して本書ほど深く探求した文献はこれが初めてではないかということです。評者は章末の文献情報がさらに詳しい情報を求める読者に良い手がかりを与えてくれる点も評価しています。
Tuomala, Meg (2018) "Review of The International Business Archives Handbook: Understanding and Managing the Historical Records of Business," Journal of Western Archives: Vol. 9 : Iss. 1 , Article 5.
Available at:
https://digitalcommons.usu.edu/westernarchives/vol9/iss1/5

ゲイツ・アーカイブ
https://www.gatesarchive.com/


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[略称一覧]
ACA: Association of Canadian Archivists(カナダ・アーキビスト協会)
ARA: Archives and Records Association(アーカイブズとレコード協会)
ASA: Australian Society of Archivists(オーストラリア・アーキビスト協会)
BAC: Business Archives Council(ビジネス・アーカイブズ・カウンシル)
BACS: Business Archives Council in Scotland
(スコットランド・ビジネス・アーカイブズ・カウンシル)
BAS: Business Archives Section
(ビジネス・アーカイブズ部会:SAA内の部会)
CoSA:Council of State Archivists(米国・州文書館長評議会)
DCC: Digital Curation Center(英国デジタル・キュレーション・センター)
EDRMS:Electronic Document and Record Management System
(電子文書記録管理システム)
ERM:Electronic Record Management(電子記録管理)
ICA: International Council on Archives(国際文書館評議会)
NAGARA: National Association of Government Archives and Records
Administrators
(米国・全国政府アーカイブズ記録管理者協会)
NARA: National Archives and Records Administration
(米国 国立公文書館記録管理庁)
RIKAR: Research Institute of Korean Archives and Records
(韓国国家記録研究院)
RMS:Record Management System(記録管理システム)
SAA: Society of American Archivists(アメリカ・アーキビスト協会)
SBA: Section for Business Archives
(企業アーカイブズ部会、ICA内の部会)
TNA: The National Archives(英国国立公文書館)

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☆★ 編集部より:あとがき、次号予告 ★☆

今年のICA SBA国際シンポジウムのホストであるリーバイ・ストラウス社が3月21日、ニューヨーク証券取引所に34年ぶりに再上場を果たしました。

「リーバイスがNYで再上場、時価総額80億ドル超」日本経済新聞
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO42758610S9A320C1000000/

1853年、ドイツからの移民リーバイ・ストラウスはゴールドラッシュで沸くカリフォルニア州サンフランシスコで同社の前身となる雑貨商として起業しました。同社は1971年に株式公開した後、1985年にレバレッジド・バイアウト(LBO)によって株式非公開企業となりました。上の記事にもあるように、今回の再上場初日の終値は公開価格を3割上回り、同社株の取引は好調な出だしでした。

ニューヨーク証券取引所では厳格な服装規定があるため、通常ジーンズは禁止ということです。しかし、この日だけはフロアはリーバイスのジーンズなどを身につけた株式仲買人たちでいっぱいになったようです。

「米リーバイス再上場で時価総額9657億円に NY証券取引所がデニム姿で埋め尽くされる」WWD
https://www.wwdjapan.com/833294

そんな中、同社の最高経営責任者チップ・バー氏はSNSサービスLinkedInで上場に関するコメントを発表しています。これまで同社は、公民権擁護、HIV/AIDS患者との共生、難民や移民、LGBTQコミュニティの人々など社会的に弱い立場に置かれている人々を支援する姿勢を明確に打ち出してきました。2018年には銃による暴力や移民政策に対する立場を明らかにしています。上場にあたって、利益のためにこのような明確な価値観の表明を今後は抑制していくのではないか、という質問に対して、バー氏は自社の創業者の行い(自分自身が移民であった創業者は孤児院への寄付や、UCバークレーの女子学生への奨学金提供などを行なった)を引用しながらこれを否定しています。

「私たちの歴史に明らかなように、企業は短期的利益追及のために中核的な価値観を犠牲にする必要はありません。」

「私たちの[市場]価値と私たちの価値観は密接に結びついており、私たちの会社、あるいはどんな会社であっても、企業業績と責任ある社会的態度が両立しないと考えるのは誤っていると信じます。もっとも成功している企業は両方を達成するのです。このようにして、成功企業は成長し、ブランド力を強め、人々をインスパイアし、その人々から支持を受けるのです。」

「理念を通じた利益へのコミットメント」
Chip Bergh, Our Commitment to Profits Through Principles
LinkedIn
Published on March 28, 2019
https://www.linkedin.com/pulse/our-commitment-profits-through-principles-chip-bergh/

バー氏は、利益と企業の社会的問題へのコミットメントは両立しないという考えを真っ向から退けています。ジーンズという商材自体が担う文化的価値、例えば労働者文化やヒッピー文化、対抗文化といった側面も見逃せませんが、長期的視野に立ち社会的公正という価値にコミットしつつ利益を追求する姿勢は、「義と利は両立する」という渋沢栄一の信念に通ずる態度ではないでしょうか。

なお、バー氏は2011年にリーバイ・ストラウス社に入社する以前、長くP&G社に在籍しマーケティング担当役員などを務めています。P&G社も企業アーカイブズの運営に非常に熱心な会社として知られている米国企業の一つです。会社の歴史とそれを支えるアーカイブズは、利益と企業の社会的責任両立にとって極めて有力なツールではないかと、改めて感じた次第です。

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次号は2019年5月上旬発行の予定です。どうぞお楽しみに。

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◆◇◆バックナンバーもご活用ください◆◇◆

https://www.shibusawa.or.jp/center/ba/bn/index.html

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ビジネス・アーカイブズ通信(BA通信) No.80
2019年4月3日発行 (不定期発行)
【創刊日】2008年2月15日
【発行者】公益財団法人渋沢栄一記念財団事業部情報資源センター
【編集者】公益財団法人渋沢栄一記念財団事業部情報資源センター
      「ビジネス・アーカイブズ通信」編集部/
      株式会社アーカイブズ工房
【発行地】日本/東京都/北区
【ISSN】1884-2666
【E-Mail】
【サイト】https://www.shibusawa.or.jp/center/ba/index.html

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