ビジネス・アーカイブズ通信(BA通信)

第11号(2008年11月12日発行)

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☆      □■□ ビジネス・アーカイブズ通信 □■□

☆      No.11 (2008年11月12日発行)

☆   発行:財団法人渋沢栄一記念財団 実業史研究情報センター

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この通信では海外(主として英語圏)のビジネス・アーカイブズに関する情報をお届けします。

今号は文献情報3件です。

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◆ 目次 ◆

[掲載事項の凡例]

■文献情報:アーカイブズと金融危機 2
  □ダウ平均株価銘柄の入れ替え:
   ダウ平均株価銘柄のほぼ半数が社内アーカイブズ・プログラムを持つ

■文献情報:ビジネス・アーカイブズ ウェブサイト 3
  □フォード社のウェブ・アーカイビング・プロジェクト

■文献情報:ビジネス・アーカイブズ論文集 2
  □『アメリカ企業の記録』(1997年)

☆★ 編集部より:次号予告 ★☆

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[掲載事項の凡例]
・書籍の文献情報には、最初に文献の「タイトル・著者等の書誌事項」を掲載し、続いて各収録論文のタイトル、著者名、所属等、ページを掲載します。また編集部による一行解説を付します。
・タイトル、編著者名、所蔵等には、編集部による日本語訳を付します。
・日本語で読みやすいものになるように、はじめに日本語訳を、続いて原文を記します。
・著者名の発音が不明の場合も日本語表記を添えました。便宜的なものですので、検索等を行う場合はかならず原文を用いてください。

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■文献情報:アーカイブズと金融危機 2

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□ダウ平均株価銘柄の入れ替え:
  ダウ平均株価銘柄のほぼ半数は社内アーカイブズ・プログラムを持つ

サブプライム問題を発端とした金融危機、そして経済全般の不調を背景にしたアメリカ大統領選挙では、民主党候補オバマ氏が勝利しました。

実体経済の悪化の象徴として、米国の大手自動車会社の合併に関する観測記事なども目につきます。日米アーカイブセミナーへ寄稿してくれたエリザベス・アドキンス氏の勤務するフォード社が、傘下のマツダ社の株式を売却するのではないか、といった報道もあります。

いっぽう、アドキンス氏と共同論文を執筆してくれたベッキー・タウジー氏がアーキビストとして勤務するクラフト社の株式は、ダウ平均株価30銘柄から除外された米国保険会社最大手AIGに代わって、10月18日新たに同銘柄に採用されることになりました。経営危機に陥ったAIGは今年9月米国政府から公的資金援助を受けることになり、これに伴いダウ平均株価銘柄からAIGを除外し、新たにクラフト社を採用することに決定したということです。

銘柄入れ替えを報じるダウジョーンズのプレスリリースによると、ダウ平均銘柄として選ばれる厳格な規定といったものは存在しませんが、業界の主導的地位にある有力な米国企業ということです。

さて、ここでダウ平均株価銘柄30種に採用されている企業をご紹介します。

・スリーエム(3M Company)
・アルコア(Alcoa Incorporated)
・アメリカン・エキスプレス(American Express Company)
・AT&T(AT&T Incorporated)
・バンク・オブ・アメリカ(Bank of America Corporation)
・ボーイング(Boeing Corporation)
・キャタピラー(Caterpillar Incorporated)
・シェブロン(Chevron Corporation)
・シティグループ(Citigroup Incorporated)
・コカ・コーラ(Coca-Cola Company)
・デュポン(DuPont)
・エクソン・モービル(Exxon Mobil Corporation)
・ジェネラル・エレクトリック(General Electric Company)
・ジェネラル・モータース(General Motors Corporation)
・ヒューレット・パッカード(Hewlett-Packard Company)
・ホーム・デポ(Home Depot Incorporated)
・インテル(Intel Corporation)
・IBM(International Business Machines)
・ジョンソン・エンド・ジョンソン(Johnson & Johnson)
・J.P.モルガン・チェース(J.P. Morgan Chase & Company)
・クラフト・フーズ(Kraft Foods Inc.)
・マクドナルド(McDonald's Corporation)
・メルク(Merck & Company, Incorporated)
・マイクロソフト(Microsoft Corporation)
・ファイザー(Pfizer Incorporated)
・プロクター・アンド・ギャンブル(Procter & Gamble Company)
・ユナイテッド・テクノロジーズ(United Technologies)
・ベライゾン(Verizon Company)
・ウォル・マート(Wal-Mart Stores Incorporated)
・ウォルト・ディズニー(Walt Disney Company)

以上30銘柄です。このうち、SAAが発行する「米国・カナダにおけるビジネス・アーカイブズ・ディレクトリ(要覧)」で、社内アーカイブズの存在が2008年11月6日現在確認されるのは、

・アメリカン・エキスプレス
・AT&T
・バンク・オブ・アメリカ
・ボーイング
・キャタピラー
・コカ・コーラ
・ヒューレット・パッカード
・ホーム・デポ
・IBM
・クラフト・フーズ
・マクドナルド
・メルク
・マイクロソフト
・プロクター・アンド・ギャンブル
・ウォルト・ディズニー

以上15銘柄です。「米国・カナダにおけるビジネス・アーカイブズ・ディレクトリ(要覧)」に掲載されている情報の更新日時は新旧さまざまですし、このディレクトリに掲載されていなくても、社内にアーカイブズ・プログラムを持つ可能性もあります。このような理由から、この15という数字には若干の誤差がありえます。が、それにしてもダウ平均株価銘柄のほぼ半数が社内アーカイブズ・プログラムを持つというのは確かでしょう。翻って、日経平均株価に採用されている225社のうち、どのくらいアーカイブズ・プログラムを持つ企業があるのか、大いに気になるところです。果たして2社に1社の割合に達するでしょうか?

[関連ページ]

AIGとクラフトの銘柄入れ替えに関するダウジョーンズのプレスリリース
http://www.dowjones.com/Pressroom/PressReleases/Other/US/2008/0918_US_MarketWatch_2674.htm

新しくダウ平均株価30銘柄に採用されたことに関するクラフト社サイト上のニュース
http://www.kraft.com/MediaCenter/whats-new/index.htm#3
http://www.kraft.com/assets/pdf/091808nr.pdf

AIGへの公的資金援助決定を知らせるFRB(米連邦準備制度理事会)プレスリリース
http://www.federalreserve.gov/newsevents/press/other/20080916a.htm

ダウ平均株価銘柄の歴史に関するページ
(最新版の銘柄30種が最終ページに掲載されています)
http://www.djindexes.com/mdsidx/downloads/DJIA_Hist_Comp.pdf

SAA 「米国・カナダにおけるビジネス・アーカイブズ・ディレクトリ(要覧)」
http://www.archivists.org/saagroups/bas/directory/corporat.asp

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■文献情報:ビジネス・アーカイブズ ウェブサイト 3

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□フォード社のウェブ・アーカイビング・プロジェクト

http://www.thehenryford.org/research/fordwebsitearchive.aspx

米国ミシガン州ディアボーンのフォード自動車の本社に隣接する、ザ・ヘンリー・フォードには、ヘンリー・フォード博物館やベンソン・フォード・リサーチ・センターがあります。ザ・ヘンリー・フォードは教育を目的とした非営利組織として運営されています。フォード社アーカイブズはベンソン・フォード・リサーチ・センターとの共同事業「フォード歴史資源コラボラティブ」(The Ford Historical Resources Collaborative)として、同社ウェブページのアーカイビングを始めました。

ウェブ・アーカイビングを開始した理由は、アーカイブズは自社の包括的な記録を保存する(To maintain a comprehensive record of Ford Motor Company)という考え方に基づいています。

この事業は、カリフォルニア大学サン・ディエゴ校のサン・ディエゴ・スーパーコンピューティングセンターとのコラボレーションによるものです。「フォード歴史資源コラボラティブ」が定期的に(年に4回)フォード社のウェブサイトにアクセスしてこれを保存し、ザ・ヘンリー・フォードのウェブサイトから閲覧できるようにするものです。

フォード社アーカイブズは、ナチス・ドイツとのかかわりに関する報道に対して、3年半がかりで45人のアーキビスト、歴史家、研究者、通訳・翻訳者を動員し98,000ページに及ぶ報告書作成にも携わりました。社業にアクティブに関わる代表的な企業アーカイブズといえるでしょう。

[関連ページ]
フォード・モーター・カンパニー サイト
http://www.ford.com/

ザ・ヘンリー・フォード サイト
http://www.thehenryford.org/index.aspx

ヘンリー・フォード博物館
http://www.hfmgv.org/museum/index.aspx

フォード社のナチス・ドイツとのかかわりに関する調査報告書リリースについてのページ
http://media.ford.com/article_display.cfm?article_id=10374

フォード社のナチス・ドイツとのかかわりに関する調査報告書
(1〜11章、付録、コメント、評価、写真の各ファイル)
http://media.ford.com/events/pdf/2b-Research_Findings_S01.pdf
http://media.ford.com/events/pdf/2C-Research_Findings_S02.pdf
http://media.ford.com/events/pdf/2d-Research_Findings_S03.pdf
http://media.ford.com/events/pdf/2e-Research_Findings_S04.pdf
http://media.ford.com/events/pdf/2f-Research_Findings_S05.pdf
http://media.ford.com/events/pdf/2g-Research_Findings_S06.pdf
http://media.ford.com/events/pdf/2h-Research_Findings_S07.pdf
http://media.ford.com/events/pdf/2i-Research_Findings_S08.pdf
http://media.ford.com/events/pdf/2j-Research_Findings_S09.pdf
http://media.ford.com/events/pdf/2k-Research_Findings_S10.pdf
http://media.ford.com/events/pdf/2l-Research_Findings_S11.pdf
http://media.ford.com/events/pdf/3-Research_Findings_Append.pdf
http://media.ford.com/events/pdf/1-Reich_Commentary.pdf
http://media.ford.com/events/pdf/4-Dowler_Assesment.pdf
http://media.ford.com/article_display.cfm?article_id=10378

フォード社のアーカイブズ調査に関する同社アーキビストによる2004年 ICAウィーン大会での報告
http://www.wien2004.ica.org/imagesUpload/pres_23_ADKINS_SBL01.pdf

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■文献情報:ビジネス・アーカイブズ論文集 2

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□『アメリカ企業の記録』(1997年)
The Records of American Business

前号に引き続いてビジネス・アーカイブズに関する論文集をご紹介いたします。1997年に刊行された本書は、「アメリカ企業の記録プロジェクト」(the Records of American Business Project: RAB)から生まれた論文集です。マーク・A・グリーンとトッド・J・ダニエルズ‐ハウエルが1992年に提案したこのプロジェクトは、米国人文科学基金(the National Endowment for Humanities: NEH)から助成を受けたものです。本書の中のいくつかの論文は、1996年4月にミネソタ歴史協会とヘイグリー博物館・図書館が共同で開催したシンポジウムで発表されたものです。

近代社会の歩みを十全に記録しようとするならば、企業の記録を欠かすことはできないでしょう。しかし、その企業自体の姿を完全な形で記録として残すには、さまざまな方法上の問題が存在します。本書では多岐にわたる問題が扱われていますが、記録の評価選別に関する方法論は本書の中心を占めています。

日本語タイトル:アメリカ企業の記録
原題:The Records of American Business
編者:ジェームズ・M・オトゥール
編者名原文:James M. O'toole
発行地:Chicago、Illinois
発行者名原文:The Society of American Archivists
発行年:1997
ページ数:xvii, 411p
ISBN-10:0931828457

[目次]

◆謝辞 /v
Acknowledgments /v
著者1:ジェームズ・E・フォガティ
著者名原文1:James E. Fogerty
著者所属原文1:Minnesota Historical Society
著者所属1:ミネソタ歴史協会
著者2:マイケル・ナッシュ
著者名原文2:Michael Nash
著者所属2:ヘイグリー博物館・図書館

著者所属原文2:Hagley Museum and Library

◆序文 /vii
Foreword /vii
著者:ジェームズ・M・オトゥール
著者名原文:James M. O'Toole
一行解説:本書は企業史料を対象としたものだが、ここに含まれている問題はあらゆる分野のアーキビストにも共通する問題である。ひとつはアーカイブズ資料を組織内部のアーカイブズ部署で管理するのか、外部の図書館や研究機関といった収集アーカイブズで管理すべきかという問題。二つ目は記録の評価選別の問題。三つ目は記録の作成と保存に関わるコンピュータ技術の問題である。

◆日本語タイトル:はじめに―ビジネスとアメリカ文化:アーカイブズの挑戦 /1
原題:Introduction-business and American culture: the archival challenge /1
著者:フランシス・X・ブルーアン・ジュニア
著者名原文:Francis X. Blouin, Jr.
一行解説:著者はミシガン大学の歴史学ならびに図書館学の教授。1981年以来ミシガン大学のリサーチ・ライブラリーであるベントレー歴史図書館館長を務める。過去10年にわたってバチカン秘密アーカイブズ所蔵資料に重点を置いた教皇アーカイブズ調査を指揮する。SAAのカウンシル運営に携わるほか、SAAフェローでもある。ミシガン歴史協会の理事、会長を歴任。バチカン図書館アメリカ友の会理事。「はじめに(Introduction)」と題された本章では、本書収録の各論文を簡単に紹介しつつ、企業に関わる記録がアーカイブズ管理全体に提起している問題を論じる。

◆日本語タイトル:1. 企業史とアーカイブズの実際:原資料とパラダイムのシフト /11
原題:1. Business history and archival practice: shifts in sources and paradigms /11
著者:マイケル・ナッシュ
著者名原文:Michael Nash
一行解説:著者はヘイグリー博物館・図書館(デラウエア州ウィルミントン)の主任学芸員。企業の歴史(経営史)に関する学術研究と企業史料の保存は複雑かつ相互的なものである。この論文では1920年代以来の経営史研究の動向を追いながら、アーキビストが収集すべき企業史料がこの研究動向に見合うものである必要があることを説く。

◆日本語タイトル:2. 企業内機関アーカイブズの進化しつつある役割:伝統から柔軟性へ /41
原題:2. The evolving role of in-house business archives: from tradition to flexibility /41
著者:マーシー・G・ゴールドスタイン
著者名原文:Marcy G. Goldstein
一行解説:近年の市場の要請と情報技術の変化が企業内機関アーカイブズの役割を根本的に変えつつある。すなわち以前は企業史料の保管とアクセスの提供が主たる役割であったのであるが、近年はこれらの役割に加え、事業目的に沿うような活動が求められるようになってきている。

◆日本語タイトル:3. アーカイブズの神話学と企業の現実:危険をはらんだひとつの場所 /57
原題:3. Archival mythology and corporate reality: a potential powder keg /57
著者:フィリップ・F・ムーニー
著者名原文:Philip F. Mooney
一行解説:著者は1977年よりコカ・コーラ社のアーカイブズ部長。企業内のすべての部門が企業目的に合致する働きをますます求められる現在、過去20年にわたってアーカイブズ専門誌で語られてきたこと、あるいはアーキビスト志望者に教えられてきたことのいくつかは神話である。神話その1:企業の従業員はアーカイブズを現代のための情報資源のひとつとみなしている。神話その2:企業は企業内の歴史の役割を理解して重視している。歴史は社内文化の確立と共通のゴール設定に寄与している。神話その3:企業アーカイブズは過去20年間発展を続けてきた。これら3つの神話は現実に合致していない。現実の中で生き残るためには、企業アーキビストは積極果敢なプロモーター、あらゆる機会をとらえて企業活動のためにアーカイブズを売り込む役割を果たさなければならない。企業アーカイブズの戦略のためには事例研究と「ベストプラクティス」の考え方が有用である。

◆日本語タイトル:4. 内部からの眺め:企業経営者とアメリカ企業の記録 /65
原題:4. View from the inside: corporate executives and the records of American business /65
著者1:エドワード・G・ジェファーソン
著者名原文1:Edward G. Jefferson
著者2:ドローレス・ハンナ
著者名原文2:Dolores Hanna
著者3:マイケル・マイルズ
著者名原文3:Michael Miles
一行解説:企業経営者の側から企業アーカイブズを考察する。エドワード・G・ジェファーソンはイギリス生まれ。1981年から1986年にかけてデュポン社のCEOとして、アーカイブズを利用して『科学と企業戦略(Science and Corporate Strategy)』(Cambridge University Press, 1988)の刊行を主導する。ドローレス・ハンナは元クラフト社の商標専門家。同社アーカイブズ立ち上げについて、クラフト社アーキビスト(当時)のエリザベス・アドキンスがインタビューする。マイケル・マイルズは1991年からフィリップ・モリスのCEO。前職は1982年よりクラフト・ゼネラル・フーズ(クラフト社の前身)社長。この時クラフト社アーカイブズの立ち上げを主導した。この点についてアドキンスがインタビューを行っている。

◆日本語タイトル:5. 戦略、構造、細部、機能:企業史料評価のための4つの要素 /75
原題:5. Strategy, structure, detail, function: four parameters for the appraisal of business records /75
著者:クリストファー・T・ベイア
著者名原文:Christopher T. Baer
一行解説:著者は戦略、構造、細部、そして機能という4つの概念を用いて企業を考察し、それぞれを評価選別の観点から議論する。このアプローチは、個別の企業内部からの視点といえる。後掲の「ミネソタ・モデル」がマクロ的な観点を強調するのと対照的である。

◆日本語タイトル:6. 証拠に関する事故を避ける:企業史料評価における機能分析 /137
原題:6. Avoiding accidents of evidence: functional analysis in the appraisal of business records /137
著者:ブルース・H・ブリューマー
著者名原文:Bruce H. Bruemmer
一行解説:筆者はミネソタ大学のコンピュータ史に関するチャールズ・バベッジ研究所アーキビスト。この論文では筆者は、企業史料の選別、機能分析、最近のモデル、企業の記録保存にとって機能分析が持つ意義、機能分析の弱点、機能分析の必要性等を論じる。

◆日本語タイトル:7. 姿勢をもった記録保存:現代の企業史料の選別・受入に対するプラグマティストのガイド /161
原題:7. Documentation with an attitude: a pragmatist's guide to the selection and acquisition of modern business records /161
著者1:マーク・A・グリーン
著者名原文1:Mark A. Greene
著者2:トッド・J・ダニエルズ‐ハウエル
著者名原文2:Todd J. Daniels-Howell
一行解説:企業史料の評価選別に関する「ミネソタ・モデル」を提示する。ミネソタ・モデルはミネソタ歴史協会が開発した実践的な手法である。筆者たちは、資料の選別・保管に関して、より戦略的に決定するための文脈(コンテクスト)として、記録の領域(records universe)の範囲を確定することに関心を抱いている。ミネソタ・モデルではまず、いくつかの会社の中から記録を残すべき会社を選別し、そののち残すべき記録をさらに選別する。出発点は全産業対象であるので、この手法は大規模な収集アーカイブズ(レポジトリー)に適合する。

◆日本語タイトル:8. 粉々に吹き飛ばされる:電子記録、アーカイブズの学問分野(archivy)、そして企業 /231
原題: 8. Blown to bits: electronic records, archivy, and the corporation /231
著者:リチャード・J・コックス
著者名原文:Richard J. Cox
一行解説:レコードキーピング・システムは今後電子化が進む。これまでアメリカで企業史料が語られる文脈は、専ら「収集する」という観点からが主流であった。とりわけ歴史協会など収集アーカイブズ(レポジトリ−)はそのような役割を果たしていた。しかし企業における記録の作成が電子化されていくと、「収集」は物理的にも困難である。企業史料に関わるアーキビストは、組織の中での記録作成、レコードキーピングにますます積極的に関与すべきである。

◆日本語タイトル:9. 現実に直面する:オーラル・ヒストリー、企業文化、そして企業の記録保存 /251
原題:9. Facing reality: oral history, corporate culture, and the documentation of business /251
著者:ジェームズ・E・フォガティ
著者名原文:James E. Fogerty
一行解説:企業の姿を記録することは容易ではない。本論文はこの点に関する困難をさまざまな角度から議論して、企業の姿を記録することに付随する困難を補う方策のひとつとして、オーラル・ヒストリーを提唱する。

◆日本語タイトル:10. 音声と視覚記録における企業の記憶 /275
原題:10.Corporate memory in sound and visual records /275
著者:アーネスト・J・ディック
著者名原文:Ernest J. Dick
一行解説:企業史料には音声ならびに視覚資料も含まれる。一般にこれらの資料の価値は企業のなかでははっきり認識されていない。アーキビストは音声・視覚資料が価値あるものであることを周囲に知らせる必要がある。この論文は音声・視覚資料の評価選別、そして音声・視覚資料の多様性(事業の成果物として、業務を記録したものとして、宣伝・販促ための資料として、広報資料として、業務ツールとして、など)、音声・視覚資料の保存、インテレクチュアル・コントロール(記述と目録化)、アクセス提供を論じる。

◆日本語タイトル:11. 企業を超えて:外部の記録と企業史料 /297
原題:11. Beyond business: external documentation and corporate records /297
著者:ティモシー・L・エリクソン
著者名原文:Timothy L. Ericson
一行解説:企業の歴史に関する資料は企業自体が作成・収受した記録ばかりではない。企業外部で作成されたものも、企業史料として活用できる。このような資料には、種々の刊行物(モノグラフ、パンフレット、商品カタログ、雑誌記事など)、新聞、政府記録、組合や業界のアーカイブズ、写真記録、地図、オーラル・ヒストリー、ウェブ、データベースなどがある。これらの資料には長所も短所もある。

◆日本語タイトル:12. 大衆に届ける:一般の人々の歴史としての企業史 /327
原題:12. Reaching the mass audience: business history as popular history /327
著者:ジョン・A・フレックナー
著者名原文:John A. Fleckner
一行解説:著者はスミソニアン・アメリカ史博物館の主任アーキビスト。米国市民は歴史というものを学術的な研究としては好まないにもかかわらず、学校や研究組織の外部で扱われる歴史(一種の通俗的な歴史)に対して多大な興味を示すというパラドクスが存在する。写真入りの書籍や雑誌の売買、博物館の展示、テーマパーク、ドキュメンタリー番組などがそういった興味の対象である。人々は広告やコマーシャルのコレクターや受け取り手としても通俗的な歴史を消費する。この論文では通俗的なさまざまな表象においてアメリカの企業史が用いられている例を整理する。この整理は、企業史料に関わるアーキビストが資料の評価選別を行う際の指針にもなるだろう。

◆日本語タイトル:13. 収集アーカイブズと企業アーカイブズ:テーマによる違い? /349
原題:13. Collecting repositories and corporate archives: variations on a theme? /349
著者:カレン・ベネディクト
著者名原文:Karen Benedict
一行解説:1940年代以降のアメリカの企業史料管理の歴史を振り返り、企業アーカイブズの管理の方法として、社内にアーカイブズ・プログラムを立ち上げる方法と、外部の資料収集機関に寄託・寄贈する二つの方法があることを示す。企業史料保存に関してどちらの方法を採用するか、いくつか考慮すべき点がある。第1はアーキビストが「評価選別」と呼ぶところのもの、すなわちどの資料を永続的に保存するために選ぶのかというプロセスの問題、第2に所蔵資料が含む情報へのアクセスを提供するための資料整理と検索手段(目録)の作成、第3は資料への物理的アクセスの問題、第4はレファレンスとリサーチに対するサービス提供である。もし外部の資料収集機関に寄託・寄贈する場合は、(1)資料寄託契約もしくは覚え書き、(2)記録へのアクセス・ポリシー、(3)自社の記録を利用することを求めてきた場合に提供されるレファレンスとリサーチ・サービスに関して検討する必要がある。著者は研究者の企業史料へのアクセス問題を解決するために、古い記録で特に問題のないもの(プライベートあるいは専有情報の暴露といった脅威がない場合)は収集アーカイブズへ移管することを薦める。

◆日本語タイトル: 14. 企業史料:地球村からの展望 /369
原題: 14. Business records: the prospect from the global village /369
著者1:マイケル・S・モス
著者名原文1:Michael S. Moss
著者2:レズリー・M・リッチモンド
著者名原文2:Lesley M. Richmond
一行解説:企業活動は国境を超えて広がり、企業に関する研究資料も複数の国や地域に所在するという状況が広がりつつある。この論文では、アメリカの企業史料に関わる経験を、ヨーロッパ、とりわけ英国の文脈の中で比較考察する。企業史料の選別評価という点は、他のどの地域よりもアメリカで客観的に提起されているが、これについては国際的な協力体制と共同プロジェクトが望まれる。

◆執筆者 /391
Contributors /391

◆索引 /397
Index /397

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☆★ 編集部より:あとがき、次号予告 ★☆

ここ最近の経済関係の報道では、アーカイブズの世界でなじみのある企業の名前を耳にすることが増えています。

過去を振り返ってみると、1980年代から90年代の米国経済低迷期には、バンク・オブ・アメリカ、シティコープ・バンク、ドミノ・ピザ、インターナショナル・ハーベスターズ、シアーズ、スタンダードオイル・オブ・オハイオ、J・ウォルター・トンプソン広告代理店、ユナイテッド・テクノロジーなどの企業アーカイブズや、OCLC(Online Computer Library Center)内のインハウス・アーカイブズなど、それまで高い評価を受けていた企業アーカイブズ・非営利団体アーカイブズが閉鎖されました。閉鎖によって資料が廃棄された場合もあれば、何年か後にプログラムを再開する(バンク・オブ・アメリカ)、外部の業者に管理を委託するという道を選ぶ(シアーズ・ローバック)、大学に資料を寄託する(デューク大学へ、J・ウォルター・トンプソン)など、企業アーカイブズがたどる道はさまざまだったようです(今号掲載のカレン・ベネディクト「収集アーカイブズと企業アーカイブズ:テーマによる違い?」351頁)。今回の金融危機、経済危機は企業アーカイブズにどのような影響をあたえるのでしょうか?さらに、急激な円高で日本の製造業の業績が不振であるという報道に接し、日本の企業アーカイブズの将来も心に懸ります。

次号ではビジネス・アーカイブズ関連文献情報ほかを予定しております。12月中旬配信予定です。どうぞお楽しみに。

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◆◇◆配信停止をご希望の方は次のメールアドレスまでご連絡ください◆◇◆

batsushin@shibusawa.or.jp

◆◇◆〈渋沢栄一記念財団からのお知らせ〉◆◇◆

□『アーカイブへのアクセス : 日本の経験、アメリカの経験 : 日米アーカイブセミナー2007の記録』発売中

昨年5月に開催された「日米アーカイブセミナー」での発表を中心とした論文集が刊行されました。タイトルは『アーカイブへのアクセス : 日本の経験、アメリカの経験 : 日米アーカイブセミナー2007の記録』(小川千代子、小出いずみ編、東京 : 日外アソシエーツ : 紀伊國屋書店 (発売), 2008.09)です。
詳しい情報は下記のURLをご覧ください。
http://d.hatena.ne.jp/tobira/20080910/1221010761

□「企業史料ディレクトリ」:企業アーカイブズと企業史料の所在・概要ガイド

7月22日公開いたしました。日本を代表する企業を中心とした企業アーカイブズと史料保存・学術研究機関合わせて30企業・団体・機関の概要、所蔵資料に関する情報を掲載しております。ぜひご覧ください。
http://www.shibusawa.or.jp/center/dir/index.html

□実業史研究情報センター・ブログ「情報の扉の、そのまた向こう」

「今日の栄一」「栄一情報」「栄一関連文献」「センターニュース」「今日の社史年表」「社史紹介(速報版)」「アーカイブズニュース」「図書館ニュース」をお届けしております。
http://d.hatena.ne.jp/tobira/

「アーカイブズニュース」では政府の「公文書管理の在り方等に関する有識者会議」の動向やアーカイブズのデジタル化、資料の発見・公開に関わるニュースを随時ご紹介しております。

ブログ画面右側の「カテゴリー」にある「アーカイブズニュース」をクリックしてください。「アーカイブズニュース」として掲載した記事をまとめて一覧することができます。

・カテゴリーの紹介
http://d.hatena.ne.jp/tobira/20080203

実業史研究情報センター・ブログ「情報の扉の、そのまた向こう」はほぼ毎日更新しております。どうぞご利用ください。

□「渋沢栄一関連会社社名変遷図」

渋沢栄一がどのような会社に関わったか、それが今にどうつながっているのか、一目でわかるように業種別にまとめて変遷図にしました。現在の30図に加え11月13日には「ガス」「電力」6図の合計36図を掲載いたします。こちらもどうぞご覧ください。
http://www.shibusawa.or.jp/eiichi/companyname/index.html

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ビジネス・アーカイブズ通信(BA通信) No.11
2008年11月12日発行 (不定期発行)
【創刊日】2008年2月15日
【発行者】財団法人渋沢栄一記念財団実業史研究情報センター
【編集者】財団法人渋沢栄一記念財団実業史研究情報センター
      「ビジネス・アーカイブズ通信」編集部
【発行地】日本/東京都/北区
【E-Mail】batsushin@shibusawa.or.jp
【サイト】http://www.shibusawa.or.jp/center/ba/index.html

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