研究センターだより

27 東日本大震災復興に向けて

『青淵』No.750 2011(平成23)年9月号

東日本大震災復興に向けて

今回も前回に引き続き、東日本大震災への研究部の取り組みを紹介します。6月8日(水)東京商工会議所と共催で、東日本大震災復興シンポジウム「渋沢栄一の経験から考える、いま「民」にできること」を東商ホール(東京都千代田区)で開催しましたので、その内容をご報告いたします。

来場者数概算(関係者も含む)は約550名で、USTREAMによるインターネット同時中継の統計によりますと、累計視聴者数は2417人に上りました。

冒頭、岡村正(東商会頭)氏は、初代会頭渋沢栄一の意思を受け継ぎ、民の立場から「企業と社会をむすぶ」役割を果たし、スピード感を持って復興支援に取り組みたいと述べられました。すでに被災地の約10ヵ所の商工会議所などを訪問され、現状を把握しながら、政府に対して、復旧・復興と原発事故に対する要望をまとめ、復興支援を訴えてこられました。

続いて、五百籏頭真(東日本大震災復興構想会議議長・防衛大学校長)氏が、第2次世界大戦後の廃墟と化した東京で、「日本人の思いやりの心に接して、日本の復興を確信した」という米国人のエピソードを紹介し、数々の自然・社会災害から立ち直った日本人の強さを称賛しました。今回の震災復興にあたり、省庁の壁を超え、新しい法律を作り、復旧するのではなく、新しい東北を再生させたいと力強く抱負を語られました。商工会議所やNPOは、毛細血管となって、公的機関が通した大動脈を助けて、被災地の細やかなお世話をしていただきたい、と民への期待を述べられました。

守屋淳(作家)氏は、「逆境に処しては、断じて行え。決して迷うてはならない」という関東大震災に向き合った渋沢栄一の言葉を引用し、明治のリーダーの持つ「今こそ自分たちの出番だ」という意気込みで事に当たる強いリーダーシップの重要性を説かれました。我々も元気を出してがんばるべき時なのです。さらに震災からの復興に臨み、渋沢栄一が提案した「商業都市東京」としての復興や、公正な競争と協調に基づく「国際日本」のありかたを紹介しました。

パネルディスカッションでは、まず佐藤大吾(チャリティ・プラットホーム代表理事)氏が、日本の寄付文化やNPOの活動を支援するための場(プラットホーム)を提供しているという立場から、NPOの活動を活発化させることの意義を強調されました。佐藤氏の運営しているウェブサイト「Just Giving」には、震災前の20倍にもあたる6億6000万円という金額が集まっているのをみると、日本には寄付文化がないのではなく仕組みや情報がないだけであり、NPO活動を活性化するためには、優れた人材、モノ、カネ、情報をうまく集めることができる仕組みを作ることが肝要だと述べられました。まさしく渋沢栄一の「合本主義」を実践しているように思われました。

続いて、渋沢健(当財団理事、コモンズ投信(株)会長)氏が、渋沢栄一が説いた「人心の復興」の必要性を強調しました。震災に対して気持ちを暗くしないように、「心のスイッチ」を入れようというものです。復興にあたっては、政府に任せきりではだめで、民間の力を合わすことにより、大河のようにモノを動かす大きな力にする必要を説きました。被災地の皆さんが笑顔を取り戻すために、制度や法律の枠に縛られず、できることはどんな小さなことでも実行し、「心のスイッチ」をオンにしていくことが我々の責務であると決意を語られました。

杉山清次(東商副会頭、震災対策特別委員長)氏は、関東大震災後、渋沢栄一が、長期的視点に立ち、商都東京構想を提案したように、東京商工会議所でも日本経済の将来ビジョンについて考え、企業と行政を「絆」でむすぶ役割を会員企業、各地商工会議所、行政と一緒に迅速に対応していきたいと述べられました。ここ1年は、将来に向けた復興策について震災対策特別委員会で案をまとめるが、その後は日本社会全体の将来についてのあるべき姿を考えていきたいと決意を明らかにされました。杉山氏としては、今後も経済成長路線を力強く推し進めることが、将来の日本にとって絶対に必要であることを強調されました。

司会として木村が、1878年、渋沢栄一が諸外国との不平等条約の改正を目指して、経済人が業界を超え、世論形成に大きな役割を果たすために、「東京商法会議所」を設立したエピソードを紹介し、今回の震災復興にあたり、民間の世論を喚起するのに最もふさわしい場として、シンポジウムの開催に至った経緯を説明しました。また国内外の商工会議所ネットワークの活用、現場からのきめ細かいニーズへの対応、グローバルな視点からの復興の3点を提起しました。

最後に、各パネリストからさらに具体的な震災復興への提案が出されました。

シンポジウム会場では、渋沢栄一史料の展示と渋沢栄一関連書籍の販売も行いました。書籍は準備した130冊をほぼ完売し、「おつりは義援金に」といただいた金額も合わせて、総額12万1701円になりました。全額、東京商工会議所を通じて日本商工会議所から被災地商工会議所への支援金の一部とします。

東日本大震災の復興に向けては、公益を追求する強い意志と新しい社会を創造しようという企業家精神を合わせ持った"民"が主役になります。まさしく日本のシビル・ソサエテイーの実力が試される時という認識を持って、研究部の活動を進めていきます。

研究部では、"震災復興への知的貢献"を目標にして、中長期にわたって新たなプロジェクトを立上げ、息長く活動し、日本の復興状況を随時お伝えしたいと考えています。同時に、海外の東日本大震災や日本の対応への識者の見解や世論の動向を学び、今後の当財団の活動を考える際の示唆を得たいと考えています。

※シンポジウムのプログラム、インターネット中継のビデオ映像は、こちらでご覧いただけます。

(研究部・木村昌人)


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