実業史資料FAQ

渋沢栄一記念財団 実業史研究情報センターにようこそ!
当財団が進めている実業史関連プロジェクトに関する疑問・質問にお答えします。

質問と回答

Q1実業史とは何ですか?

A1

読書する渋沢栄一 (渋沢史料館所蔵)
読書する渋沢栄一
(渋沢史料館所蔵)
 読んで字のごとく実業に関する歴史のことです。そこで、まず「実業」の意味をたどってみましょう。

 「実業」という言葉は江戸時代まではジツゴウと読み、「善悪の行為」を意味する仏教語でした。
 明治時代になると政府は殖産興業政策を進め、そのなかで実地実際の仕事を指して「実業(ジツギョウ)」という言葉が用いられるようになりました。1894(明治27)年6月に公布された「実業教育国庫補助法」に関する第6帝国議会衆議院同法案審査委員会の審議の中で、政府は実業学校を「極広イ意味ノ農工商ノ学校」と説明しています。実業とは原則的にあらゆる産業分野を含むものとされました。

 福沢諭吉は「一身独立即一国独立」「実学即実業」を唱えています。彼は実業という言葉に「実学を修得して独立進取の気性を身につけた経済主体の主体的・実践的な営為」という新しい意義を与えたと言われています。

 いっぽう明治期最大の「実業家」と呼ばれる渋沢栄一は、次のように語っています。

 「試みに此竜門社の諸君に向て所謂実業の範囲・定義を・・・・・・申せば、渋沢は斯う考へる、即ち正経なる殖産的な業・・・」(1895(明治28)年10月17日竜門社秋季総会に於て青淵先生演説『渋沢栄一伝記資料』第26巻、198頁。)
 渋沢栄一にとって実業とは、主体的・精神的態度を重視して、真面目、誠実を基礎として行う生産的事業のことであると言えるでしょう。

 実業の文字の普及に関しては、『実業之日本』誌第1000号(1939.07.01)に、同社社長増田義一による次のような記事がみえます。

  「『実業之日本』創刊以前に在つては、実業と云ふ文字は世間に余り多く使はれなかつた。「農商工」とか「産業」とか云ふ文字を使つてゐた。実業はこれ等を包含して、銀行会社の仕事をも総括し、さらに虚業に対して実業と謂つたものである。
『実業之日本』が年と共に発展するに従つて、実業の文字が拡まり、実業を冠する雑誌も続々刊行され、他方には又実業協会とか、何々実業界とか云ふものも設立され、更に実業学校が各地に設けられるに至つた。それと同時に商工業に関係するもの、銀行会社の経営者等を実業家と称するに至つた。爾来実業界と云へば何人にも明確に意識され、今では実業を重んじ実業振興の必要を、全国民が認めてゐると謂つても過言でない。
 斯く実業が重んぜられるに至つたのは、固よりその実質の重要性に基づくに因るけれども、実業の名称が普及せらるゝに対し、『実業之日本』が与って聊か力あると共に、先鞭を着けたものと信じてゐる。」

 栄一の孫である渋沢敬三は祖父栄一の生涯を記念し、文化文政期から明治末期に至る日本経済の発展を展示することを目的として、1937(昭和12)年に「日本実業史博物館」構想を明らかにしました。残念なことに、この構想は戦時下の経済統制の影響から実現にはいたりませんでした。しかし近年、当財団では敬三の「日本実業史博物館」構想の再評価がなされております。このような動きのなかから実業史研究を支える情報を蓄積して、社会に還元しようというわたくしども実業史研究情報センターの事業も生まれてきました。

 最後に簡単にまとめると、実業史とは人々が主体的に関わってきた生産的な事業に関する歴史であるといえましょう。

(参考文献)
  • 惣郷正明・飛田良文編『明治のことば辞典』1986年、東京堂出版。
  • 浅野俊光『日本の近代化と経営理念』1991年、日本経済評論社。
  • 海後宗臣編『井上毅の教育政策』1968年、東京大学出版会。
  • 三好信浩『渋沢栄一と日本商業教育発達史』2001年、風間書房。
  • 「一千号発刊の辞 / 実業之日本社々長 増田義一」『実業之日本』第1000号(1939.07.01)

カーネギー著『実業の帝国』1902年 (渋沢史料館所蔵)
カーネギー著『実業の帝国』1902年 (渋沢史料館所蔵)

Q2史料とは何ですか?

A2

歴史研究に利用可能なすべての記録・モノ情報資源、また歴史研究のための文字記録情報のことです。文書館学では"archives"と英訳します。

(参考文献)

  • 全国歴史資料保存利用機関連絡協議会監修『文書館用語集』1997年、大阪大学出版会。

Q3資料とは何ですか?

A3

情報が記録されたものです。その形状や媒体を問いません。必ずしも歴史研究に利用可能でないものも含みます。文書館学では"document"と英訳します。

(参考文献)

  • 全国歴史資料保存利用機関連絡協議会監修『文書館用語集』1997年、大阪大学出版会。

Q4会社(企業)史料とは何ですか?

A4

会社(企業)組織が作成・収受・蓄積した資料のうち、歴史研究に利用可能な記録・モノ情報資源、文字記録情報のことです。

(参考文献)

  • 小風秀雅「近代の企業記録」国文学研究資料館史料館編『アーカイブズの科学 下巻』2004年、丸善。

Q5会社(企業)資料とは何ですか?

A5

会社(企業)組織が作成・収受・蓄積した資料すべてを指します。

(参考文献)

  • 小風秀雅「近代の企業記録」国文学研究資料館史料館編『アーカイブズの科学 下巻』2004年、丸善。

Q6企業史資料に関する参考文献にはどんなものがありますか?

A6

次のようなものがあります(編著者あいうえお順)。

■大村英正「企業のアーカイブス」

(大西愛編集代表『アーカイブ事典』2003年、大阪大学出版会)

 長年花王の資料室に勤務された著者が、企業の現場での経験を元に、史料の収集、評価・選別、保存・管理、活用、アーキビストの資質について簡潔にまとめておられます。

■小風秀雅「近代の企業記録」

(国文学研究資料館史料館編『アーカイブズの科学 下巻』2004年、丸善)

 企業資料の定義と企業資料が社会に対して持つ意義、企業資料の特徴、企業資料の体系性について論じています。企業記録に関するアプローチは、これまでは企業研究・社史編纂のための企業資料論であることが多かったことに対して、著者はアーカイブズ論の一分野として企業記録論・企業資料論を試みています。企業史資料とは何かを考える手がかりを与えてくれます。著者は日本近史の専門家(お茶の水女子大学教授)。

■企業史料協議会編『企業史料協議会20年史』

(2004年、企業史料協議会)

 1981年に設立された企業史料協議会(BAA:Business Archives Association)が設立20年を記念して出版したものです。設立にいたる経緯から説き起こし、以来20年にわたる同協議会の活動の歩みを記しています。

■武田晴人「経営史料としての個人文書─石川一郎文書の整理に即して─」

(全国歴史資料保存利用機関連絡協議会編 『日本のアーカイブズ論』 2003年、岩田書院)

 このテキストは1983年5月26日の第3回企業史料管理研究会での講演記録です。経団連の初代会長石川一郎の個人文書の発掘ならびに整理の経緯をまとめたものです。石川一郎文書の概要、「原文類」に即した目録作成、整理方針、内容カードの作成と製本、資料の分類整理、詳細目録の作成、課題等が語られています。著者は日本経済史の専門家(東京大学教授)。著者の個人サイトhttp://www.takeda.e.u-tokyo.ac.jp/htakedaindex.htmで本テクスト全文が公開されています。同サイトは企業史料に関する目録へもリンクしています。

■日外アソシエーツ編集部 『新訂企業博物館辞典』

(2003年、日外アソシエーツ)

 全国に散在する各種企業博物館の事業概要等を集めたガイドブックです。企業や業界団体によって設立されて、一般に公開されている博物館、史料館等258館を収録しています。沿革・概要、展示内容、開館時間、入館料、アクセスのための地図といった観覧のための情報のほかに、一部の館に関しては出版物情報も記載されており、調査・研究の手がかりを与えてくれます。

Q7企業史資料に関して活動を行っている機関・団体にはどんなものがありますか?

A7

日本では1981年11月に企業史料協議会が設立されて今日まで活動を続けています。英語圏では1934年に創立され、ロンドンにあっていまなお活発に活動する“Business Archives Council”が著名です。

Q8企業史資料と実業史資料は同じですか?

A8

企業史資料は実業史資料の一部です。実業史資料にはこのほかにも、実業家個人に関する史資料、銀行協会をはじめとする業界団体や各地の商工会議所のような経済団体に関する史資料があります。

図表:実業史資料分類イメージ
実業史資料分類イメージ