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『青淵』No.932 2026年11月号|情報資源センター 専門司書 井上さやか
2026年、渋沢栄一記念財団は前身である竜門社の創立より140年を迎えました。この節目となる本年の11月11日、「デジタル版『渋沢栄一伝記資料』」に第58巻「索引」を搭載します。これによって、著作権など権利上の配慮が必要な一部資料を除き、『渋沢栄一伝記資料』全68巻のインターネット公開を開始いたします。
『伝記資料』は、渋沢栄一に関する資料を実業経済・社会公共事業の事業別に編年体で編纂した本編57巻と、日記・書簡・講演録・写真といった資料の種別毎に編纂した別巻10巻とで構成されています。本編の末尾におかれた第58巻「索引」には、約4万ページにおよぶ本編を使いこなすための索引と総目次が収められています。
デジタル版では、それぞれの項目から本文へ飛べるリンクを設置しますので、本と同じ方法で『伝記資料』を使うことができるようになります。今回はこの「索引」という視点から、情報資源センターで取り組む『伝記資料』デジタル化プロジェクトとデータの新たな活用についてご紹介いたします。
かつて『伝記資料』を使いこなすには、第58巻「索引」の存在が不可欠でした[1]。第58巻は、渋沢青淵記念財団竜門社編『渋沢栄一事業別年譜. 全』(国書刊行会, 1985)として複刻版が刊行されており、索引巻の需要の高さをうかがい知ることができます。デジタル版では、フリーワード検索、各巻リンク(目次を兼ねたデジタル版の内容・構成)などがその役割の一端を担っています。また当センターでは「『渋沢栄一伝記資料』を紙から解き放つ」[2]ことを目標に、『伝記資料』を「くまなく探す」ためのさまざまな索引を新たに作成し、デジタル版に先駆けウェブサイトで公開してきました。
ところで、複刻版第58巻の「刊行にあたって」では、「本書は「点」によって渋沢栄一のすべてを知り得る「事典」である」と述べられています。索引の形で整理されたひとつひとつの情報は確かに点と捉えることができます。異なる切り口の索引、例えば「五十音」の"第一国立銀行・第一銀行(明6~明39)"から入るのか、「詳細年譜」の"明治6年(1873)〔33歳〕"から入るのかによって、同じ渋沢という人物の見え方は変わるかも知れません。索引は、単なる本文を圧縮した巻末付録や検索時間短縮のツールではなく、情報を組み替えることで『伝記資料』の中に潜む様々なコンテクストを可視化してくれるものともいえるでしょう。「索引」も重要な渋沢の情報資源に他なりません。デジタル版でも、さまざまな形で「索引を引く」ことを楽しんでいただければ幸いです。
さて、『伝記資料』デジタル化プロジェクトでは、「点」であるひとつひとつの情報、事業・綱文・資料・人名等々を抜き出し、それぞれにIDを付与しています。「第一国立銀行 株式会社第一銀行」には「事業ID:J-0001」、そこに収載された最初の資料には「資料ID:DK040001k-0001」という具合です。著作権などの情報を整理し円滑に運用するためのものでしたが、これらを再編して索引ツールとして使うことで、『伝記資料』に収められた情報の発見可能性を高めることができます。
デジタル・AI時代の『伝記資料』を考えるとき、あらゆる「点」を連結させ、「くまなく探す」ことから一歩踏み出し、新たに「くまなく見渡す」ことを提案してみたいと思います。『伝記資料』は渋沢栄一に関する資料集でありながら、日本近代史における事業・人物・場所・出来事・年月日などさまざまな情報の、誰もが使えるデータ集積庫でもあります。「渋沢栄一と銀行」という一方向の検索を超え、銀行と渋沢以外の人物、ある地域の銀行の関係など、これまでの索引だけでは見つけにくかった情報を、『伝記資料』以外のリソースとも相互に結びつけて発見することが可能になるはずです。そのためには、インターネット上で公開されたデータを他のデータとつなげて活用するためのLOD(Linked Open Data)といった仕組みが力を発揮することになります。当センターでは、外部有識者の力を借りながら、LODを使った新たな索引ツールの開発に挑戦しています。
『伝記資料』デジタル化プロジェクトは、全68巻の公開から、資料集に潜んでいる様々な情報を再構築して外の世界へとつなげ、渋沢栄一や実業史をめぐる新しい発見や問いを生み出すための「データ基盤」へと歩みを進めようとしています。今後の新しい展開にご期待下さい。
【注】
【参考文献】
*URLは、全て2026年10月28日確認