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『青淵』No.929 2026年8月号|情報資源センター 若狭正俊
渋沢栄一は、生涯に約500の会社の設立や経営に関わり、日本の近代経済社会の発展に大きな足跡を残しました。情報資源センターが進める社史プロジェクトは、日本の近代化や産業化を支えた会社や人びとの歴史に光を当て、特に経済の社会的な影響や役割に関する研究材料を提供することを目的としています。社史と栄一に関わるデジタルリソースとしては、「渋沢社史データベース」「渋沢栄一関連会社名・団体名変遷図」を公開し、栄一と実業史研究の基盤づくりを進めています。
当センターでは2025年12月より、本誌『青淵』において、新企画「社史にみる渋沢栄一」の掲載を開始しました。社史プロジェクトの一環として、栄一が関わった会社が刊行した社史、および社史に書かれた歴史や特色あるエピソード等を通じて、テーマとする会社の歩み、およびその会社と栄一との関わりについてご紹介しています。「企業が自社の歴史を、社内資料に基づいて、会社自身の責任において刊行したもの」(注1)である「社史」は、その会社がどのような歴史を歩んできたかを知ることができるのはもちろんの事、会社側からみた栄一の姿も知ることのできる貴重な資料です。栄一は数多くの会社に関わりましたが、その方法は一様ではありません。創立発起人や取締役会長として深く関与した場合もあれば、相談役や株主として後方から支えたケースもあります。本企画では、社史に記録された会社ごとの具体的な歴史の中に栄一を位置づけ、日本の近代経済社会の発展を支えた企業活動や人的ネットワークの姿に焦点を当てていければと考えています。
これまでの掲載回では、株式会社帝国ホテルと東京瓦斯株式会社の社史を取り上げました(注2)。刊行物としての社史について触れたあと、それぞれの会社が直面した課題や事業の変遷、社会との関わり、そして栄一がそれぞれの場面でどのような役割を果たしたのかを記しています。また、どちらの回でも1923年9月1日の関東大震災での会社の被害について触れており、同じ出来事でも会社によって状況が違うことがわかる等、各記事を比べることで気づくこともありました。
本企画では、社史の記述を丹念にみていくことに加えて『渋沢栄一伝記資料』等を参考資料として参照しています。『伝記資料』は、栄一の伝記を書くための資料集で、栄一の行動や発言を様々な資料から詳細に知ることができます。社史と『伝記資料』を比較することで、一つの出来事を異なる資料、異なる視点から捉えることが可能になります。例えば、『伝記資料』では栄一がある会社の設立に関与した事が記録されていますが、社史では栄一の関与によって会社がどのような影響を受けたのか、会社の視点から知ることができます。また、社史に記された印象的なエピソードを『伝記資料』で確認することで、その背景や時代状況をより深く理解できる場合もあります。両者の視点から一つの出来事を眺めることで、新たな側面を見出せることを期待しています。
記事の作成にあたっては刊行元の会社や企業ミュージアムを訪問し、企画についての説明と社史に関する取材を行っています。直接、社史ご担当の方から社史編纂の経緯や会社の創業の理念についてお話を伺うことは、社史や会社について、紙面だけではわからなかった新しい発見や気づきになります。また、栄一が関わった会社に連なる方々との新しいネットワークづくりの場としても貴重な機会になっています。会社が大切にしていることや会社の中に今も活かされている栄一の思い等、社史の先につながっている現在の声を伺うことで、今後も誠実に記事の作成に向き合っていきたいと考えています。
第3回は次号第930号(2026年9月号)に掲載予定です。読者の皆様の中にはOB・OGの方や現役社員の方もいらっしゃるかもしれません。本企画が、ご自身の会社の歴史を再確認するとともに、会社と栄一との関わりを知っていただくことで、栄一を身近に感じる機会となれば幸いです。『青淵』掲載後はウェブサイト版も公開しています。あわせてぜひご覧ください。
【注】
1.村橋勝子『社史の研究』(ダイヤモンド社、2002年3月)p2-3
2.第1回『帝国ホテル百年史』(第921号/2025年12月号)
https://www.shibusawa.or.jp/center/shashi/eiichi/921.html
第2回『東京ガス百年史』(第924号/2026年3月号)
https://www.shibusawa.or.jp/center/shashi/eiichi/924.html
【参考リンク】
社史にみる渋沢栄一
https://www.shibusawa.or.jp/center/shashi/eiichi/
※本記事は『青淵』2026年8月号に掲載した記事を、ウェブサイト版として加筆・再構築したものです。