情報資源センターだより

42 『渋沢栄一伝記資料』本文公開実験、ウェブ上で開始

『青淵』No.782 2014年5月号|実業史研究情報センター 専門司書 山田仁美

全文公開への第一歩

 2013年12月24日クリスマスイブの午後、財団ウェブサイトに「『渋沢栄一伝記資料』本文公開実験(帝国ホテル) 」ページが加わりました。
 このコンテンツは2014年3月15日(土)から開催の企画展「実業家たちのおもてなし~渋沢栄一と帝国ホテル」関連コンテンツとして、また今後本格的に始動する『伝記資料』全文公開にむけて課題や問題点を確認するための実験サイトとして公開したものです。
 対象は『伝記資料』第14巻、53巻収載の「帝国ホテル」の項目のみ、全51ページです。量からすると『伝記資料』全体の0.1%程度ですが、いつでもどこでもインターネット接続がある限り、世界中から「帝国ホテル」の項目を読むことができるようになった、このことは『伝記資料』デジタル化にとっては大きな一歩でした。

シンプルさを重視

 今回の本文公開の仕組みはいたって単純、既に公開されている『伝記資料』目次詳細ページに追加された「本文」の文字をクリックすると、本文ページが表示される、というものです。あえてシンプルな見せ方を選択した理由は、構造が複雑な『伝記資料』という資料の特徴にあります。公開対象となる本編の見出し項目は7階層、その下に幾つもの綱文と典拠資料群が収録されています。ページ数は約4万。さらに利用者は学生からベテラン研究者まで、幅広い層に活用されています。昨年公開のデジタル版『渋沢敬三著作集』では最先端の技術による効果的な見せ方が実現しましたが、今回の『伝記資料』公開では構造を誤解なく伝えることと同時に、パソコンの機種や環境を問わず一人でも多くの方に確実に情報を届けることを重視しました。また長く使い続けるために、メンテナンスの負担が軽いという運用しやすさも考慮、その結果、到達したのがこのスタイルです。
 実際にご利用いただいた方々からは、『伝記資料』の構造がわかりやすくなったとのお言葉をいただきました。一方で検索機能が不十分である、ブラウザの更新ボタンを押さないとリンク用ボタンが表示されないという報告もあり、それらにどう応えてゆくか、課題の洗い出しも必要です。

山積する課題

 全文公開に向けて着々と準備は進行しています。しかしながら『伝記資料』本文のウェブ公開にはまだまだ難しい課題が山積しています。まず一つには著作権処理の問題。『伝記資料』は渋沢栄一に関する資料の再録集ですが、それぞれの資料には著作者があり、著作者の権利を侵害しないよう配慮が必要です。そのために各資料の著作者とその生没年を調査し、著作権が保護期間中であるかどうか確認します。保護中であれば非公開とするためです。次に公開・非公開の判断を反映させてページを調整します。記事は3万件以上、これは膨大な作業です。
 またヨーロッパで「忘れられる権利」が認められたようにプライバシーに関する問題もあります。これらの問題も踏まえて法律専門家のアドバイスも仰ぎ、法律を順守しながら冊子版の『伝記資料』をウェブ上に忠実に再現すべく試行錯誤を重ねた結果が今回の実験公開ページです。

ウェブ発信の成果

 これまでもウェブサイトで『伝記資料』目次詳細(綱文)事業一覧詳細年譜 などのコンテンツを展開してまいりましたが、渋沢栄一を研究されている方々からは「おかげで研究が進む」とのありがたい言葉を頂いております。さらに昨年のことですが、渋沢栄一研究とは異なる別分野の調査でもウェブ上の『伝記資料』が糸口となり研究がおおいに進展した、といううれしい知らせがイギリスの利用者から届いたことがありました。冊子版『伝記資料』の刊行事歴には「海外の大学にも蔵本されるよう切望した」という一文がありますが、この出来事は『伝記資料』が海外でも役に立っていることを実感させてくれました。同時に『伝記資料』活用においては、ウェブ発信がこのうえなく有効であることも実感いたしました。
 先人が残した記録を集め、渋沢栄一に関する"アーカイブ"としてまとめられた『伝記資料』。その内容が、世界中どこにいてもいつでも誰でも使えるようになる日に向けて、地道な作業は今日も続いています。

『渋沢栄一伝記資料』本文公開実験(帝国ホテル)
http://www.shibusawa.or.jp/SH/denki/trial/
〔財団サイト>渋沢栄一>『渋沢栄一伝記資料』>本文公開実験(帝国ホテル)〕

(実業史研究情報センター 専門司書 山田仁美)


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