ビジネス・アーカイブズ通信(BA通信)

第62号(2016年2月4日発行)

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☆      □■□ ビジネス・アーカイブズ通信 □■□

☆       No.62 (2016年2月4日発行)

☆    発行:公益財団法人 渋沢栄一記念財団 情報資源センター

☆                        〔ISSN:1884-2666〕
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この通信では海外(主として英語圏)のビジネス・アーカイブズ(BA)に関する情報をお届けします。

海外BAに関わる国内関連情報も適宜掲載しております。

今号は企業団体情報1件、行事情報1件です。

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◆ 目次 ◆

[掲載事項の凡例とご注意]

企業団体情報:ベネトン・グループ・アーカイブズ

行事情報:ビジネス・アーカイブズ・カウンシル(BAC)2015年度大会
◎テーマ:「狩猟採集民たち:現代のビジネス・アーカイブズを収集する」
      2015年11月10日
      プルデンシャル保険会社 ロンドン(イギリス)

☆★ 編集部より:次号予告 ★☆

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[掲載事項の凡例]

・欧文の場合、日本語で読みやすいものになるように、タイトルははじめに日本語訳を、続いて原文を記します。
・人名や固有名詞の発音が不明の場合も日本語表記を添えました。便宜的なものですので、検索等を行う場合はかならず原文を用いてください。
・普通名詞として資料室や文書室、記録資料を表現する際は「アーカイブズ」を用います。固有名詞の場合はこの限りではありません。また物理的およびデジタル記録資料の蓄積や組織化に関しては「アーカイブ化」「アーカイブズ化」などの表現を用いることもあります。

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[ご注意]
・受信時にリンク先を示すURLが途中で改行されてしまう場合があります。通常のURLクリックで表示されない場合にはお手数ですがコピー&ペーストで一行にしたものをブラウザのアドレス・バーに挿入し、リンク先をご覧ください。

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■文献情報:ベネトン・アーカイブ

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◎ベネトン・アーカイブ
Archivio Benetton

日本でもよく知られているイタリアのファッション企業ベネトン社のアーカイブズ、ベネトン・アーカイブをご紹介します。

昨年本編集部も参加したミラノにおけるICASBA(国際アーカイブズ評議会ビジネス・アーカイブズ部会)でも同社グループ・アーカイブの発表がありました。まずはこの時の発表スライドから基本的な事項を取り上げたいと思います。

☆★☆ ミラノ会議でのプレゼンテーション ☆★☆
http://www.ica.org/download.php?id=3798

http://www.ica.org/16782/news-and-events/sba-conference-creating-the-best-business-archive-milan-italy-1516-june-2015-the-2015-ica-sba-conference-was-held-in-milan-on-1616-june-2015-papers-of-the-conference-are-now-available.html

タイトル:ベネトン・グループ:ベネトン・アーカイブ:データベースとアーカイブズを統合する問題と解決策
タイトル原文:Benetton Group: The Benetton Archive: Problems and Solutions Integrating Databases and Archives

【ベネトン・グループについて】
(スライド2)
ベネトン・グループの創業は1965年。約5,000店舗のネットワークを持っている。企業アイデンティティは、「色彩」、「本物のファッション」、「家庭的な価格での上質さ」、「仕事への情熱」を統合したもの。これらの価値は「ユナイテッド・カラーズ・オブ・ベネトン」ブランドと「シスレー」ブランドの強力でダイナミックな個性に表れている。

【ベネトン・アーカイブ】
(スライド3)
アーカイブズ構築プロジェクトがスタートしたのは2009年。プロジェクトのゴールは、ベネトン社の歴史遺産を保存し、組織化して活用を図ること。ベネトン財団に対してプロジェクトに関する学術的助言が提供されている。

(スライド4)
かつての毛織物部門の建物をベネトン・スタジオに転換し、ここにベネトン・アーカイブも入居している。

(スライド5)
内部は展示エリアと収蔵エリアからなる。

【ベネトン・アーカイブの特性】
(スライド6)
広範囲に及ぶ構造化された物理的アーカイブズ。広範囲の操作可能な文書保管場所。アーカイブ概念に対する多様な見方を幅広く反映している。アーカイブと文書管理のために幅広い基準とツールを利用している。数量の正確な把握は困難である。

【ベネトン・アーカイブに関する議論の主なポイント】
(スライド7)
収集しているのは、複雑性と多様性を表すもので、歴史上重要な服、織見本、デザイン部門の図書、広告、批評記事など。特に重要視しているのは歴史的な衣服と広告。文書フロー管理の例としては小売りデザイン部門を取り上げる。すでにアーカイブズに登録したものは組織の目録。文書遺産を積極的に利活用している。

【複雑性と多様性を表現しているアーカイブズ資料】
(スライド8、9、10)
歴史的に重要な衣服。

(スライド11)
1966年から2014年までの広告キャンペーンに関する記録資料。

(スライド12)
各種媒体に掲載された広告。

【ベネトン・アーカイブでの文書フロー管理】
(スライド13)
小売りデザイン部門の家具取り付けマニュアルの事例。

【すでにアーカイブズに登録した資料の性格と量】
(スライド14)
会社組織の目録の例。

(スライド15)
文書遺産の積極的利活用の例。展示や講演会に利用。

【ベネトン・アーカイブにおける課題解決策】
(スライド16)
アーカイブズが求めるものと会社の必要性のバランスをとること。実際に円滑に機能するようなアーカイブズと社内の関係を築くこと。アーキビストとその上司の間で、目標とそれに必要な時間に関する情報を共有すること。アーカイブズにあるデータやデジタル文書に対して社内アクセスを提供すること。

【まとめ】
アーカイブズが必要とする能力は、さまざまな部門・人をつなぐ仲介力、多言語に通じること、アーカイブズの価値とその利用について広く知らせること。これまでの成果は、アニュアル・レポートへの貢献、ウェブを通じて在庫目録デジタル版へのアクセスを実現したこと。

◆◇ベネトン・アーカイブ関連ウェブページ◇◆

同社のウェブサイトの中で歴史とアーカイブズに関連するページを簡単にご紹介します。

◆ベネトン・グループの歴史 Group History
http://www.benettongroup.com/the-group/profile/group-history/
1965年の創業の年から2014年までハイライトとなる年をピックアップして、写真と簡単なテキストで会社の歴史を紹介しています。1980年代はニューヨークや東京への出店、フォーミュラ1への参加、ミラノ・フランクフルト・ニューヨークの株式市場での株式公開、1989年以降の旧ソ連・東欧市場への進出など事業が飛躍的に拡大した時期で、取り上げられている年も一番多いですね。

(日本現地法人サイトに日本語版も掲載されています)
http://www.benetton.jp/corporate/history/

◆ベネトン・グループの歴史 コーポレート・ビデオ
http://www.benettongroup.com/the-group/profile/corporate-video/
1965年の創業以来の歴史を1分07秒にまとめたコーポレート・ビデオです。

◆ベネトン・アーカイブ  Archivio Benetton
http://www.benettongroup.com/the-group/profile/archivio-benetton/
アーカイブの目的は「学術的な正確さと常にベネトンの価値を規定してきた革新的なアプローチをもって、調査研究の振興をはかり、会社の歴史へのアクセスを高めるための設備が整ったシステムをつくることである」と述べています。

主たる収蔵品は、第1に製品(ニットウェアと研究用の衣服)があります。これは製品タイプ別に分類されて、約12,000点あるほか、関連するものとして、生地見本、ステッチ(縫い方)に関するアーカイブズ、データシート、色見本、糸のアーカイブズがあります。もう一つは広報関係に分類されるもので、ファッション記事、カタログ、創業以来今日にいたるまでの宣伝キャンペーンに関するコレクション、コマーシャル、ポスター、ショーウィンドー用の広告、雑誌、写真資料です。

その他、会計帳簿類、経営管理に関わるもの、税務関係、本社と店舗に関するプロジェクト書類についてはすべて所蔵するほか、最初の染色用容器や織り機、製靴用機材の機械類、フォーミュラ1に参戦したクルマ、各種の賞品類があります。

管理にあたってはできるかぎり国際的な標準に則った長期保存用資材を利用しています。

まとめとして、「ベネトン・アーカイブは会社の歴史の保存を確実に行うと同時に、将来の事業に対しインスピレーションを提供する経営のツールです。これはビジネス・アーカイブズとファッション・アーカイブズの文化的発展という急激な成長分野のなかで、正当な立場を保持しているからです」と述べられています。

所在地は
Via della Cartiera, 1
31050 Castrette di Villorba
Treviso, Italy

利用にあたっては事前に書面で(eメールでも可)申込む必要があります。
http://www.benettongroup.com/contacts/
その際、必要な個人情報と研究の目的と内容も知らせることが求められます。

◆ベネトン財団 Fondazione Benetton
http://www.benettongroup.com/the-group/profile/fondazione-benetton/
1987年にトレビゾ市に開設された財団で、景観のデザインと管理に関わる研究を支援しています。


◆憎しみを解く財団 Unhate Foundation
http://www.benettongroup.com/the-group/profile/unhate-foundation/
2011年より活動を開始し、世界規模のキャンペーンを行っています。ベネトン社の企業の社会的責任(CSR)に関わる新たな戦略の一部であり、ベネトン・グループが社会的関与を行う上での一つのチャネルです。その目的は憎しみの文化と戦うことであり、これはベネトン・グループに深く根付く価値感に沿った活動です。とりわけ若い世代に「強いインパクト」を与えるような具体的な取り組みを行うことを目指しています。ここでのプロジェクトは、寛容であることと世界中のリスクにさらされる若者とつながることを教育する方法として、アートの社会的役割と自己表現の中にインスピレーションを見出しています。

ベネトン・グループの関連ビデオ(ベネトンらしい刺激的な表現を含みます)
https://www.youtube.com/watch?v=qImJFg5dgTE

◆ベネトン・グループ倫理コード Benetton Group Code of Ethics
http://www.benettongroup.com/wp-content/uploads/download.php?file=2015/08/CODE_OF_ETHICS.pdf (PDF)
ベネトン・グループの倫理コードに関する20ページにわたる詳細な文書です。アーカイブズ、記録管理の点から興味深いのは、10ページにあげられている、会計に関わる書類やデータの不正を強く排除することをうたった部分です。

◆サステナビリティ Sustainability
http://www.benettongroup.com/sustainability/
ベネトン・グループでは環境、バングラデシュ支援、持続可能なサプライチェーン作り、その他さまざまな取り組みに関与しています。最近では、昨年2015年11月25日に「ひとりの女性はすべての人のために、すべての女性は一人のために」というメッセージを掲げた新しいキャンペーンを行っています。
http://assets.benettongroup.com/wp-content/uploads/2015/11/OneWomanForAll-AllWomenForOne_ENG.pdf (PDF)

11月25日は国連が定めた「女性に対する暴力撤廃の国際デー」International Day for the Elimination of Violence against Womenです。
http://www.unic.or.jp/news_press/messages_speeches/sg/2421/

国連ではこの日から16日間を「世界をオレンジ色に(Orange the World)」キャンペーンに設定し、関連する団体は女性と女児に対する暴力根絶の動きを加速するための啓発活動に取り組みました。ベネトン・グループの場合、このキャンペーンに賛同し、キャンペーンで用いられているオレンジ色の洋服を自社通販サイトにて販売、収益金全額を関係する国連機関に寄附するというものでした。上述の「憎しみを解く財団」でも「女性のエンパワーメント・プログラム」を推進しているということです。

ベネトン・グループの関連ビデオ
https://www.youtube.com/watch?v=ijJsxZkv-aU
https://www.youtube.com/watch?v=_lDncgUwor4 (完全版)

◆イメージ・ギャラリー
http://www.benettongroup.com/media-press/image-gallery/
メディア・報道用に低解像度と高解像度の2種類のダウンロード可能な画像が提供されています。

企業情報 Corporate、コレクション Collections、組織キャンペーン Institutional campaigns、ブランド・キャンペーン Brand campaigns、店舗 Stores、ファブリカ Fabrica、カラーズ・マガジン Colors Magazine、サステナビリティ Sustainability、行事 Events、の各分類から下位の分類にリンクが張られています。画像をクリックしてみてください。

商用利用は不可。利用する場合はクレジットを入れる必要があります。

◆ビデオ・ギャラリー
http://www.benettongroup.com/media-press/video-gallery/
イメージ・ギャラリーと同様の分類によるビデオ・クリップのコレクションです。

★☆★...編集部よりひと言...★☆★

ベネトンは1965年が創業の年ですから、昨年2015年はちょうど創業50周年にあたりました。日本の会社の場合、周年記念には社史を刊行したり、記念行事を盛大に行ったり、ということがしばしばありますが、海外企業の場合は会社によりけりです。ミラノでのICASBAの会合では、50周年を記念した会社史編纂の話題は全く聞かれませんでした。

同社は強いメッセージを届けるためのキャンペーンを数多く行ってきました。これらのキャンペーンに関する資料は、アーカイブ化、デジタル化、ウェブサイトへの掲載によって、いまや世界のどこにいても(ネット規制がないかぎり)さまざまなデジタルデバイスで閲覧できるようになっています。つまり、ベネトン・アーカイブは、会社のアイデンティティを表現し、同社の企業文化を強力かつ鮮明に発信するためのツールなのです。企業資料のアーカイブ化とデジタル化のひとつの事例としてたいへん興味深いものです。

なお、同社の場合、ビジュアル資料への注目が常に高いのですが、企業資料のアーカイブ化においては、既に述べたように、会計帳簿類、経営管理に関わるもの、税務関係、本社と店舗に関するプロジェクト書類、といった業務上の文書記録や、機械類、フォーミュラ1に参戦したクルマといったモノ資料、そしてなによりも歴史的に重要な服自体の収集・保存・管理を行い、会社の歴史を全体として記録化し継承していこうとしている点が重要です。

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■行事情報:ビジネス・アーカイブズ・カウンシル(BAC)2015年度大会

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◎テーマ:「狩猟採集民たち:現代のビジネス・アーカイブズを収集する」
Hunter Gatherers: Collecting Today's Business Archives

http://www.businessarchivescouncil.org.uk/activitiesobjectives/conference/

毎年11月に年次総会と大会を開催しているイギリスのビジネス・アーカイブズ・カウンシルの2015年度大会が、2015年11月10日にロンドンのプルデンシャル保険会社を会場に開催されました。大会のテーマは「狩猟採集民たち:現代のビジネス・アーカイブズを収集する」でした。会議資料が同カウンシルのウェブサイトに掲載されています。


[プログラム]
http://www.businessarchivescouncil.org.uk/materials/2015baconfprogfinal.pdf/ (PDF)

【BAC大会 2015】BAC Conference 2015

テーマ:狩猟採集民たち:現代のビジネス・アーカイブズを収集する
Hunter Gatherers: Collecting Today's Business Archives

司会:リチャード・ウィルトシャー
Chair: Richard Wiltshire


■基調プレゼンテーション Keynote presentation

講演者名:イゾべル・ハンター
講演者名原文:Isobel Hunter
講演者所属:(英国)国立公文書館
講演者所属原文:The National Archives
タイトル:変化していく景色:ビジネス・アーカイブズとインディペンデント・アーカイブズが直面する挑戦とビジネス・アーカイブズの売買
タイトル原文:Shifting landscapes: the challenges facing business and independent archives and the buying and selling of business archives

[発表スライド資料]
http://www.businessarchivescouncil.org.uk/materials/01_isobel_hunter.pdf/ (PDF)

[編集部よりひと言]
発表者はイギリスの国立公文書館(イングランドとウェールズが対象)のアーカイブズ・セクター・ディべロップメント部門のトップ。同部門はイギリス国内のアーカイブズ機関の連携やアーカイブズに関する啓発的な活動に取り組んでいます。直近四半期で連携に関わった機関は400機関(スライド7)。内容は「公的部門のアーカイブズ機関は総じて予算削減傾向にある。セクターを超えた(例えば官民)連携が増えつつある一方、近年はデジタル化の進展や利用者からの期待の変化などがみられる。企業アーカイブズの今後の進むべき方向の可能性としては、一般(社外)との関わりの高まり、オンラインによるアクセスの向上、学界との連携、地方自治体との連携などが考えられる。またグローバル企業においてはグローバル化とデジタル化のふたつが課題となるかもしれない」とのことです。


■テーマ1:組織内部からの収集 Collecting from inside the organisation

(講演1)
講演者名1:クレア・タンスドール
講演者名原文1:Claire Tunstall
講演者所属1:ユニリーバ社アーカイブズ&レコード・マネジメント
講演者所属原文1:Unilever Archives and Records Management
講演者名2:ルース・ラーリー
講演者名原文2:Ruth Loughrey
講演者所属2:ユニリーバ社アーカイブズ&レコード・マネジメント
講演者所属原文2:Unilever Archives and Records Management
タイトル:ユニリーバ社アーカイブズ
タイトル原文:The Records journey in Unilever Archives and Records Management

[発表スライド資料]
http://www.businessarchivescouncil.org.uk/materials/02_claire_tunstall_and_ruth_loughrey.pdf/ (PDF)

[編集部よりひと言]
この発表では、スライド12にあるユニリーバ社のレコード・マネジメントからアーカイブズへのライフサイクルの図が重要でしょう。

(講演2)
講演者名1:クレア・トゥイン
講演者名原文1:Claire Twinn
講演者所属1:HSBCアーカイブズ
講演者所属原文1:HSBC Archives
講演者名2:ジェイムズ・モートロック
講演者名原文2:James Mortlock
講演者所属2:HSBCアーカイブズ
講演者所属原文2:HSBC Archives
タイトル:同じだけれど違う:デジタルな世界における収集:私たちが何をしていて、どのようにそれを変えて、今何をしており、次にどこに行くのか
タイトル原文:The same but different: collecting in the digital world: what we did, how we changed it, what we do now, and where we go next

[発表スライド資料]
http://www.businessarchivescouncil.org.uk/materials/03_claire_twinn_and_james_mortlock.pdf/ (PDF)

[編集部よりひと言]
本通信でこれまで何度か取り上げてきたHSBCアーカイブズの発表です。紙の時代もデジタルになってもアーカイブズ業務の本質は同じだが、その方法は異なっている、というのがタイトルの意味です。スライドの3ページ目まで紙のアーカイブズ時代の画像が挿入されています。

スライドの4ページ目「HSBCグローバル・デジタル・アーカイブ・システム(GDA)の仕様」HSBC Global Digital Archive System (GDA) design がHSBCにおけるデジタル・アーカイブの概要を示しています。

HSBCには、CALM(アクシエル社 Axiell Limited が提供するアーカイブズ向けデータベース・アプリケーション)による目録が地域ごと(本店、イギリス国内、アメリカ、香港)に計4つあり、API(アプリケーション・プログラム・インターフェイス)を通じてデジタル・リポジトリと繋がっています。HSBC用にカスタマイズされたプリザービカ社の「プリザービカ・エンタブライズ・エディション」が、現用記録管理システムから、永続的に保存する必要のある記録をCALMのアーカイブズ・システムに取り込んでいきます。このシステムでは、デジタル・リポジトリとそれに関連する目録システムは、可能な限りOAIS(Open Archival Information System)に準拠するように設計されています。ホストとなるシステムはイギリス国内に置かれており、Citrix(Citrix社が提供するサービス)を介してバーチャル化され、各地域のユーザーにアプリケーションが提供されます。バックアップは1時間ごとにスナップショットとして作成され、DR、UAT、DEVの各サーバーが複製を作成します。記録システムへの取り込みは、eメールとウェブサイトを除いて、SIPクリエーター(submission information packageを作成するツール)を介してパッケージ化され、サーバーの監視フォルダ(watch folder)に取り込まれます。

今後の課題としては、スライド8に、デジタル記録へのアクセスを広げる(最初は社内スタッフに、その後は外部の研究者に)、シェアポイントと他のEDRMS技術を統合して記録のハーべスティングの促進をはかる、データベースなどの複雑なデジタル・オブジェクトの取り込みを向上させる、eメールやウェブサイトのコンテンツなどのハーベスティングのための高度なワークフローの開発、が上げられています。

スライド6ぺ-ジは現用側システムのデータベースの管理画面と思われます。赤い矢印で示されている部分、すなわち「Y」の記号が付けられた記録は、保存期間が過ぎると廃棄対象ですが、その前にアーカイブズに相談してくれ、とあります。

(参考)「ビジネス・アーカイブズ通信」56号(2015年1月7日発行)
■文献情報:企業コンテンツのデジタル保存 1
◎「エンタプライズ(企業)・コンテンツのためのデジタル保存:ECMとOAIS間のギャップ分析」ほか
https://www.shibusawa.or.jp/center/ba/bn/20150107.html

編集部が知るかぎり、HSBCアーカイブズは企業アーカイブズにおいて最も先進的なデジタルでのレコードキーピングの仕組みを構築しています。

この発表に関連するICASBAミラノ会議での発表が下記URLからご覧になれます。
http://www.ica.org/download.php?id=3811
http://www.ica.org/16782/news-and-events/sba-conference-creating-the-best-business-archive-milan-italy-1516-june-2015-the-2015-ica-sba-conference-was-held-in-milan-on-1616-june-2015-papers-of-the-conference-are-now-available.html


■主催者プレゼンテーション Host presentation

講演者名:ジョン・ポーター
講演者名原文:John Porter
講演者所属:プルデンシャル・アーカイブ
講演者所属原文:Prudential Archive
タイトル:新しい観客を獲得する:ゲーミフィケーションとビジネス・アーカイブ
タイトル原文:Reaching new audiences: gamification and the business archive

[発表スライド資料]
http://www.businessarchivescouncil.org.uk/materials/04_john_porter.pdf/ (PDF)

[編集部よりひと言]
本大会のホストであるプルデンシャル保険会社のアーカイブズではゲーミフィケーション(ゲーム化)の手法を用いて、アーカイブズの利活用をはかっているとのことです。アプリケーションは同社が重要視するアジア市場を睨んで、英語のほか4つのアジア言語で作成されています。

プルデンシャル・アーカイブズのゲーミフィケーションは下記ULRから体験することができます。
http://www.prudentialhistory.co.uk


■アーカイブ・ツアー Archive tour


■テーマ2:オルタナティブな収集:Alternative collecting

(講演1)
講演者名:ロブ・パークス博士
講演者名原文:Dr Rob Perks
講演者所属:大英図書館、ナショナル・ライフ・ヒストリー ディレクター、オーラル・ヒストリー キュレーター
講演者所属原文:Lead Curator of Oral History and Director of National Life Stories, British Library
タイトル:オーラル・ヒストリーとビジネス・アーカイブズ:概観
タイトル原文:Oral history and business archives: an overview

[発表スライド資料]
http://www.businessarchivescouncil.org.uk/materials/05_rob_perks.pdf/ (PDF)

[編集部よりひと言]
イギリスではアメリカと異なり、銀行業界のアーカイブズを例外として、ビジネス・アーキビストや歴史家はオーラル・ヒストリーを重視してこなかったといいます。現在においても補助的なもの、あるいは代替的なものと見なされて、日常の実務に組み入れられていないようです。その理由をパークス博士は、オーラル・ヒストリーはもともとはラディカルな起源を(イギリスでは)持っており、イデオロギー上ビジネスや企業を嫌う傾向があった、またそれはイギリス社会で疎外された人々、無力な人々あるいは抑圧された人々の方法論であったからではないか、と述べます。しかしパークス博士によると、文書記録では知ることのできない日常的な事務・実務や関係、企業内の序列や階層といったものや、女性やマイノリティ、あるいは職位的には下位の従業員・職員の声、多様な声、作られた伝統、社内の雰囲気、あるいはワーク・ライフ・バランスに関わる情報を提供してくれることによって、ビジネス・企業の歴史に寄与します。会社史のみならず、現在の事業・経営にとっても、組織の記憶、口頭による伝承は新人研修やチェンジ・マネジメント、社員の一体化をはかるのに有用であるといいます。失敗の記録は将来のビジネスの役立てることができるし、歴史と企業が長寿であることを結びつけることによって信頼を生み出し、これをブランディングとすることができます。しかし、一方で企業にとってオーラル・ヒストリーの実施はいろいろな課題を持っています。例えば、職場でのインタビューが業務の妨げになるといった現実的な問題をはじめ、自己検閲やビジネス上機微に関わることもありえますし、インタビューされる人が企業としての考え方にある意味で(言葉は悪いですが)「迎合する」ようなことが上げられています。

(講演2)
講演者名:キャサリン・ヘイドン博士
講演者名原文:Dr Katharine Haydon
講演者所属:ナショナル・ライフ・ストーリーの元プロジェクト・インタビューアー
講演者所属原文:former Project Interviewer, National Life Stories
タイトル:ベアリングス社についての一つのオーラル・ヒストリー
タイトル原文:An oral history of Barings

[発表スライド資料]
http://www.businessarchivescouncil.org.uk/materials/06_katharine_haydon.pdf/ (PDF)

[編集部よりひと言]
この発表は上述の大英図書館のナショナル・ライフ・ストーリー・プロジェクトとして行われ、ベアリングス社アーカイブズが委託したものです。ベアリングズ社に関わった人々を対象にしたオーラル・ヒストリー・プロジェクトで、基幹系業務、非基幹系業務、職位、年齢・性別・バックグラウンド、海外業務、ベアリング家、職員配偶者、フロントオフィス業務、バックオフィス業務、専門職、サポート業務・・といった点を考慮して対象者を選んでいます(スライド4)。インタビュー後は要約と文字起こしした原稿を作成し、非公開期間に関しては選択できるようにしました。オーラル・ヒストリーは大英図書館とベアリングズ・アーカイブズの両方に寄託され、著作権も両機関が保有しています。大英図書館の音声・動画目録を通じてアクセスできます。音声は大英図書館の閲覧室でも視聴可能(スライド3)。

(講演3)
講演者名:マイケル・ブラッグ博士
講演者名原文:Dr Michele Blagg
講演者所属:ロンドン大学 キングス・カレッジ、現代史研究所 訪問研究員
講演者所属原文:Visiting Research Associate, Institute of Contemporary History, King's College London
タイトル:ロンドン金市場の声
タイトル原文:Voices of the London Bullion Market
[発表スライド資料] なし


■テーマ3:ナショナル・ストラテジー National Strategies

(講演1)
講演者名:M・スティーブン・サーモン
講演者名原文:M Stephen Salmon
講演者所属:カナダ経営史協会
講演者所属原文:Canadian Business History Association
タイトル:「600ドルまで...」:カナダ国立図書館文書館における企業資料のおおまかな歴史
タイトル原文:"...to the amount of $600": a brief history of business records at Library and Archives Canada
[発表スライド資料] なし

(講演2)
講演者名:シェリル・ブラウン
講演者名原文:Cheryl Brown
講演者所属:バラスト財団・グラスゴー大学
講演者所属原文:Ballast Trust and University of Glasgow
タイトル:好況から破綻へ:スコットランドの実業の歴史を記録する
タイトル原文:From boom to bust: documenting Scotland's business history

[発表スライド資料]
http://www.businessarchivescouncil.org.uk/materials/08_cheryl_brown.pdf/ (PDF)

[編集部よりひと言]
スコットランド・ビジネス・アーカイブズ・カウンシル(SBAC)の紹介、同カウンシルの調査内容(博物館コレクション調査、データ・マッピング・プロジェクト、マイノリティによるビジネス・コミュニティ、ファミリー・ビジネス、最も古いビジネス)、スコットランドにおけるビジネス・アーカイブズのためのナショナル・ストラテジー紹介、資産としての現在の社業への活用などが紹介されています。

(グループ討議)
司会者名:イゾべル・ハンター
司会者名原文:Isobel Hunter
司会者所属:(英国)国立公文書館
司会者所属原文:The National Archives
タイトル:「ただノーというだけ?」:企業資料収集に関わる挑戦
タイトル原文:"Just say no?": the challenges of collecting business archives

[討議参加者によるメモ]
http://www.businessarchivescouncil.org.uk/materials/bac_2015_group_discussion_notes.pdf/ (PDF)


[関連ページ]
英国国立公文書館
http://www.nationalarchives.gov.uk/

ユニリーバ社アーカイブズ&レコード・マネジメント
https://www.unilever.com/about/who-we-are/our-history/unilever-archives.html

HSBC歴史ウェブページ
http://www.hsbc.com/about-hsbc/company-history

HSBCアーカイブズ
http://www.hsbc.com/about-hsbc/company-history/hsbc-archives

プルデhttp://www.prudential.co.uk/who-we-are/our-history/our-archivesンシャル・アーカイブズ
http://www.prudential.co.uk/who-we-are/our-history/our-archives

大英図書館 ナショナル・ライフ・ストーリー プロジェクト
http://www.bl.uk/projects/national-life-stories

ロンドン大学 キングス・カレッジ、現代史研究所
http://www.kcl.ac.uk/sspp/departments/icbh/index.aspx

カナダ経営史協会
http://cbha-acha.ca/

カナダ国立図書館文書館
http://www.bac-lac.gc.ca/eng/Pages/home.aspx

バラスト財団
http://www.ballasttrust.org.uk/

グラスゴー大学
http://www.gla.ac.uk/


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[略称一覧]
ACA: Association of Canadian Archivists(カナダ・アーキビスト協会)
ARA: Archives and Records Association(アーカイブズとレコード協会)
ARC: ARC magazine: archives - records management - conservation
(SoAが発行する月刊ニュースレター)
ASA: Australian Society of Archivists(オーストラリア・アーキビスト協会)
BAC: Business Archives Council(ビジネス・アーカイブズ・カウンシル)
BACS: Business Archives Council in Scotland
(スコットランド・ビジネス・アーカイブズ・カウンシル)
BAS: Business Archives Section
(ビジネス・アーカイブズ部会:SAA内の部会)
CITRA: International Conference of the Round Table on Archives
(アーカイブズに関する国際円卓会議:ICAの年次会議)
CoSA:Council of State Archivists(米国・州文書館長評議会)
DCC: Digital Curation Center(英国デジタル・キュレーション・センター)
EDRMS:Electronic Document and Record Management System
(電子文書記録管理システム)
ERM:Electronic Record Management(電子記録管理)
ICA: International Council on Archives(国際文書館評議会)
LSE: London School of Economics and Political Science
(ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス)
MLA: Museums, Libraries and Archives Council
(英国 博物館、図書館、アーカイブズ評議会)
NAGARA: National Association of Government Archives and Records
Administrators
(米国・全国政府アーカイブズ記録管理者協会)
NARA: National Archives and Records Administration
(米国 国立公文書館記録管理庁)
RIKAR: Research Institute of Korean Archives and Records
(韓国国家記録研究院)
RMS:Record Management System(記録管理システム)
SAA: Society of American Archivists(米国アーキビスト協会)
SBL: Section for Business and Labour Archives
(企業労働アーカイブズ部会、ICA内の部会)
SoA: Society of Archivists(イギリス・アーキビスト協会)
TNA: The National Archives(英国国立公文書館)

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☆★ 編集部より:あとがき、次号予告 ★☆

いかがでしたでしょうか? 編集部はBAC大会(とICASBAミラノ大会)でのHSBCアーカイブズによるグローバル・デジタル・アーカイブ・システムの紹介に、非常に刺激を受けました。本通信56号(2015年1月7日発行)でご紹介した「ICA会誌 "Comma" ICAブリスベン大会特集 2012/2号 『変化の風(1):デジタル環境における信頼と持続可能性』」の8番目と9番目の記事「デジタル・アーカイブとソース・システムの継ぎ目のない統合に向けて(パート1と2)」は、電子文書管理システムやウェブ・アーカイビング・ソフトウェアといったソースをデジタル・アーカイビング・システムに取り込む(ingestする)時に必要な作業、ソース側のメタデータ・スキーマをアーカイブズのメタデータ・スキーマに翻訳する、ためのアプローチに関するものでした。今回ご紹介しているHSBCの事例も、この部分の自動化を基軸としたデジタル・アーカイブ・システムの構築に関するものです。本通信56号の後半の記事「エンタプライズ(企業)・コンテンツのためのデジタル保存:ECMとOAIS間のギャップ分析」とも密接に関わっています。

「HSBCグローバル・デジタル・アーカイブ・システム(GDA)の仕様」HSBC Global Digital Archive System (GDA) design については、九州大学附属図書館eリソースサービス室の林豊さんにご教示いただきました。記して感謝申し上げます。

電子記録管理(ERM)が導入されている機関が少ない日本では、ERMシステムからDA(デジタル・アーカイビング)システムへの取り込みというものが理解しづらい部分があるように感じます。引き続き本通信では関連する取り組みや文献を紹介していきたいと考えております。


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当財団も会員である企業史料協議会は日本におけるビジネス・アーカイブズに関する唯一の専門団体です。アーカイブズに関する知識と取扱技術、あるいは活用に関する学習の場として、毎年秋10週間ほど(週に1回)開催しているビジネスアーキビスト研修講座が昨年2015年に20回目を迎えました。

これまではすべて東京で開催してきましたが、この度関西で初めて(3月15日大阪企業家ミュージアム)で開講することになりました。東京での講座のエッセンスを1日で学べる絶好の機会です。これまで人気の科目を1日で学ぶことができます。当情報資源センターのセンター長、茂原暢(しげはらとおる)も出講いたします。

内容は「紙資料の保存と対策」(講師:金山正子氏・公益財団法人元興寺文化財研究所文化財調査修復研究GL)、「資料のデジタル化とその活用について」(講師:茂原暢・公益財団法人渋沢栄一記念財団情報資源センター長)、「資料の収集、評価・選別、管理と活用」(講師:佐藤政則先生・麗澤大学経済学研究科教授)です。座学の間には、会場である大阪企業家ミュージアムの見学が解説付きで提供されます。

詳しくは企業史料協議会ホームページでご確認ください。
http://www.baa.gr.jp/syousai.asp?id=382
http://www.baa.gr.jp

同協議会では3月1日に「史資料のデジタル管理と活用:事例にみる現状と課題」と題した資料管理セミナーも開催します。こちらの会場は東京神田駿河台の中央大学駿河台記念館です。

内容は「電子化、デジタル化の落とし穴:情報の管理と活用の力量が試される」(講師:山崎久道先生・中央大学文学部社会情報学専攻教授)、「竹中大工道具館における資料管理のデジタル化」(講師:赤尾建藏氏・公益財団法人竹中大工道具館館長)、「クロネコアーカイブの立ち上げと今後の課題」(講師:白鳥美紀氏・ヤマトホールディングス株式会社100周年記念事業担当シニアマネージャー)、「ライオンに於ける史資料のデジタル化とその活用の取り組み」(講師:松村伸彦氏・ライオン株式会社総務部社史資料室長)。企業アーカイブズの現場の方々の具体的なお話を聞くことができます。詳細は下記URLをご参照ください。

http://www.baa.gr.jp/syousai.asp?id=381
http://www.baa.gr.jp

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次号は2016年3月上旬発行予定です。どうぞお楽しみに。

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★公益財団法人渋沢栄一記念財団 実業史研究情報センターは2015年4月1日より組織改編に伴い、公益財団法人渋沢栄一記念財団 事業部情報資源センターに名称変更いたしました★
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ビジネス・アーカイブズ通信(BA通信) No.62
2016年2月4日発行 (不定期発行)
【創刊日】2008年2月15日
【発行者】公益財団法人渋沢栄一記念財団事業部情報資源センター
【編集者】公益財団法人渋沢栄一記念財団事業部情報資源センター
      「ビジネス・アーカイブズ通信」編集部
【発行地】日本/東京都/北区
【ISSN】1884-2666
【E-Mail】
【サイト】https://www.shibusawa.or.jp/center/ba/index.html

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