研究センターだより

18 寄附講座について

『青淵』No.723 2009(平成21)年6月号

寄附講座について

今回は、研究部活動の柱の一つである当財団寄附講座について、まとめてご紹介します。最初は、2004年度から開始した慶應義塾大学三田キャンパスで「シヴィル・ソサエティ論」に関する連続講義です。これからの世界と日本のあり方を考えるとき、シヴィル・ソサエティが果たす役割はますます大きくなりますが、まだまだシヴィル・ソサエティという言葉やその意味することが一般に理解されているとはいえない状態です。日本でも「シヴィル・ソサエティ論」を体系的に教えている大学はほとんどありませんでした。そこで進取の気性に富む慶應義塾大学で、より多くの学生に聴講してもらいたいという考えから、法学部の正規授業として、連続講義というスタイルをとり開始しました。

初年度から予想をはるかに上回る学生が同講座を履修し、熱心に授業に参加しました。毎回各分野の第一人者による講義のあとに、内容ある質問が次々と出され、充実した内容になりました。5年間のテーマは次の通りです。
 2004年度 「シヴィル・ソサエティ論―新しい国づくりを目指して」
 2005年度 「政治改革とシヴィル・ソサエティ」
 2006年度 「東アジアにおけるシヴィル・ソサエティの役割」
 2007年度 「日本の世界貢献とシヴィル・ソサエティ」
 2008年度 「シヴィル・ソサエティ論総括編―地球的課題と個人の役割」

原則として、連続講義形式で行いましたが、2005年度だけは各週、学部学生も含む講義と大学院生対象の討論を2時限続けて行う形式をとりました。最近同講座を履修した学生が、渋沢栄一に関心を持ち、渋沢史料館を訪れるケースが増えています。

2008年からは東京大学関西大学に寄附講座が設置されました。1918(大正7)年、東京大学法学部に米国東部の銀行家ヘップバーン氏の寄附により米国の憲法・外交・歴史を講義する「ヘボン講座」が開設されました。ヘップバーン氏から寄附講座の申し出を受けた渋沢栄一は、東京帝国大学学長や新渡戸稲造と図り、日本で初めての本格的な米国研究の講座としました。高木八尺(たかぎやさか)が初代担当教授に就任しました。昨年90周年を記念して「ヘボン-渋沢講座」と命名し、毎年7月末から8月にかけて約1週間、米国から一流の研究者を招へいしました。記念シンポジウムと大学院生を対象とした英語による集中授業を行うことになりました。2008年度の講義テーマは「米国選挙における利益団体の果たす役割」で約20名の学生が履修しました。公開シンポジウムのタイトルは「米国大統領選挙と日米関係」で、民主党予備選挙でオバマとクリントンがまれにみる接戦を演じたため、150名近くの参加者があり、熱気に包まれました。

関西大学では、文学部大学院の授業として寄附講座「日中関係と東アジア」が2008年度後期から開始されました。3年間の予定は次の通りです。
 2008年度「東アジアの過去・現在・未来」
 2009年度「東アジアの思想と宗教」
 2010年度「東アジアの文化と芸術(仮題)」

今年は9月24日(木)-1月14日(木)の毎週木曜日3時限(午後1時から2時30分)に、同大学千里山キャンパス第1学舎1号館の千里ホール(800人収容)で行うことに決まりました。対象は大学院文学研究科院生、文学部生、一般市民です。昨年度が大変好評でしたので、今年から学部学生も正規の単位として履修することができるようになりました。受講者数が大幅に増加することが期待できます。

海外では、中国武漢市の華中師範大学で年1回の寄附講座を行っています。過去2回の講師と演題は次の通りです。

 2007年12月 渋沢雅英【当財団理事長】「歴史の中の渋沢栄一」
 2008年12月 エズラ・ヴォーゲル【ハーバード大学名誉教授】「日中国交回復後の日中関係」

華中師範大学だけでなく、武漢市内の他大学からも併せて200名近くの学生が集まり、真剣に聴講し、質問も多数出されました。中国の大学生の貪欲なまでの向学心に圧倒されました。

2009年度秋学期からは、いよいよ一橋大学大学院商学研究科で寄附講座「企業家と社会」が開講されます。渋沢栄一は数多くの教育機関に様々な形でかかわってきました。その中で最も力を入れたのは一橋大学です。商法講習所創立時から東京高等商業、一橋大学昇格に至るまで長期間にわたり深くかかわりました。卒業式には何度も出席し、一度は1時間30分にも及ぶ祝辞を述べたこともありました。栄一は同校でどのような人材を育成しようとしたのでしょうか。また卒業生には何を期待したのでしょうか。

こうした疑問を解明するために、寄附講座ともに一橋大学のCOEプログラムの中に渋沢栄一プロジェクトを立ち上げ、当財団と共同プロジェクトの形をとりながら、3年間かけて、一橋大学卒業生がどのような企業に勤め、経済界を中心にどのような分野で、どのような役割を果たしたかを実証研究することになりました。さっそく4月から明治期の商法講習所時代にさかのぼり、卒業生名簿と竜門社会員名簿とつき合わせ作業を開始しました。4月30日に一橋大学国立キャンパスで、今年秋から当財団寄附講座を担当される鈴木良隆名誉教授(比較経営史)、共同研究プロジェクトリーダーの橘川武郎教授(日本経営史)にお会いし、同大学大学史関連資料を見せていただきました。同大学同窓会組織の如水会(じょすいかい)は商法講習所卒業生名簿が明治20年代からきめ細かく整備保存していますので、実証分析から面白い事実が数多く解明できるのではないかと期待しています。

(研究部・木村昌人)


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