研究センターだより

13 研究部5周年/中国揚子江流域諸都市を訪問/重層的ネットワーク

『青淵』No.708 2008(平成20)年3月号

研究部は今年本格的な活動を始めてから5周年を迎えます。

 研究部が2003年に発足し、同年5月から南麻布で活動を本格的に開始してから5周年を迎えます。研究部の発足につながる渋沢国際セミナー〈1999・2004:国際文化会館との共催〉の論文集を含めて、いままでの研究部活動の成果をまとめる作業に昨年の暮れから没頭しています。(1)2005渋沢北米セミナー〈"Japan as a Normal Country"トロント大学〉、(2)2007渋沢北米セミナー〈"Entrepreneurship in Comparative Perspective"ミズーリ大学セントルイス校〉、(3)日本の政党政治の再編成〈第2回-第5回渋沢国際セミナーの日本政治部会〉、(4)1930年代の日本の対外政策、(5)第3回渋沢国際儒教セミナー〈"Trans-Pacific Relations: East Asia and the United States in the 19th and Early 20th Centuries," 2006、プリンストン大学〉の計5冊の英文論文集を、トロント大学出版会から刊行するため、編者と喧々諤々の議論をしながら、編集作業を進めました。

 全部で50本を越える論文を収録するため、かなりの時間や手間を伴う作業です。しかしお引き受けくださった各編者とも、本務の合間を縫って実に丁寧に作業を行ってくださっています。刊行まではこれからまだ1年以上かかりますが、読み応えのあるシリーズになると期待しています。このほか第1回と第2回国際儒教セミナーに提出された論文も、理論編と実践編の2冊に分けて、日本語で出版します。こちらは来年3月に刊行できる見込みです。

中国揚子江流域諸都市を訪問しました。

 昨年11月末から12月上旬にかけて、揚子江流域の武漢、南通、南京、上海を駆け足で訪問しました。まず武漢では、華中師範大学の第1回渋沢栄一記念財団寄附講座で、渋沢理事長が「歴史的視野の中の渋沢栄一」と題する講演を行いました。同大学では2006年に渋沢栄一研究センターが設立され、栄一に対する関心が高まってきていることもあり、馬敏学長が自ら司会を行い、100名を超える教員と学生が聴講しました。講演後、日本語学科の学生数人から流暢な日本語で核心を突いた質問が出され、会場は盛り上がりました。

 その後、関西大学文学部COEプログラム(リーダー陶徳民同大学教授)「東アジア交渉学」を学ぶ大学院生対象の「渋沢ジュニアフェロー」の面接を行いました。5年間のCOEプログラムの期間中、修士課程で学ぶ華中師範大学の学生に対して、2年間当財団が奨学金を支給するものです。6人が応募しましたが、皆さん成績優秀かつ研究意欲満々で、対象者を1人に絞るのに苦労しています。

 武漢は、1911年に孫文が武昌で清朝打倒のため蜂起し,辛亥革命の震源地としてよく知られています。前回孫文革命記念館を訪問しましたので、今回は、中国近代の製鉄業の先駆者となった実業家・政治家張之洞(ちょう・しどう)の記念館を見学しました。日本の八幡製鉄よりも早い時期に、武漢では近代技術を導入し、製鉄所が建設されていたことがわかりました。19世紀の日中関係史は、技術導入や産業化を中心とする比較実業史という観点から再検討すると、政治、軍事を中心とする従来の二国関係とは一味違う側面が描きだせると確信しました。

 南通では、同行のグラスマン(米国ミズーリ大学セントルイス校国際研究センター長)教授、井上渋沢史料館長、永井学芸員とともに、同市関係者や南通博物苑陳副館長らと面談しました。2009年9月に日中米三国展覧会に、関連シンポジウムを開催する方向で検討を始めました。2008年4月から揚子江を跨ぐ新しい陸橋が通行可能になるため、上海−南通間は、わずか1時間30分で結ばれるようになります。同地には王子製紙を始め、200を超える日本企業が進出し、日本食レストランが人気を呼んでいるそうです。

 南京では、グラスマン教授とともに、南京大学ビジネススクールを訪問、趙曙明校長と面談し、今後の日中米ビジネスセミナーなどの可能性を討議しました。22階建ての新校舎は、学生寮を最上階に設置し、学生が図書館やパソコンを24時間利用できるとともに、教員との緊密な関係を作り、きめ細かい指導を行うように工夫されていました。確かに私たちが40畳近い校長室で話し合っている間に、ひっきりなしに学生が出入りし、アシスタントが対応していました。上海に代表される高層マンションの建設ラッシュだけでなく、今の中国には最近の日本に見られなくなったダイナミズムを感じました。もちろん危うさもありますが、学生の態度は真摯で、心地よい緊張感を感じました。

重層的ネットワークが形成されてきました。

 研究部と関係の深いミズーリ大学セントルイス校・ポートランド州立大学〈以上米国〉、トロント大学〈カナダ〉、復旦大学・華中師範大学〈中国〉、関西大学〈日本〉の間で、2008年度にいくつかの姉妹大学協定が結ばれ、それぞれの学生と教員の交換留学制度を進めることになりそうです。また渋沢史料館もミズーリ大学付属マーカンタイル・ライブラリー、南通博物苑などと共同展示を通して"姉妹博物館"交流を展開しつつあります。研究部の活動が触媒となって、北米・東アジア・日本の三地域を中心とした専門分野・世代を超えた知的人的交流が促進され、重層的なネットワークが築かれていくことは喜ばしいことです。

(研究部長・木村昌人)


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