研究センターだより

8 Society for East Asian Anthropology/最近の研究会/プリンストンとフィラデルフィアでセミナー/華中師範大学渋沢栄一センター開設

『青淵』No.693 2006(平成18)年12月号

Society for East Asian Anthropologyの学会に参加しました(副部長:楠本和佳子)

 6月のAsian Studies Conference Japanの学会に続き、7月13〜15日にSociety for East Asian Anthropology(SEAA-American Anthropological Associationの分科会)の学会に参加しました。SEAAはアメリカが基盤の学会ですが、今回は会場が香港中文大学だったため、香港は言うまでもなく、中国や日本からも多くの学者が参加しました。

 私たちのパネルは6月とほぼ同じ構成でしたが、パネリストとして、新たにアラン・クリスティさん(カリフォルニア大学サンタ・クルズ校、歴史学部)が加わり、アチック・ミューゼアムの映像資料について発表してくださいました。アチックの映像資料は、その存在そのものがあまり知られていないと思いますが、昨今、文化人類学やカルチュラル・スタディーズが問いかけてきたethnographic gaze(民族誌における調査する側の視線)の問題に新たな視点を提供するものだと思います。今後、クリスティさんがこのテーマについて更に書いて下さることでしょう。

 今回のパネルのディスカッサントは、柳田国男や井上円了についての著作があるジェラルド・フィーガルさん(ヴァンダービルト大学、歴史学部)が務めてくださいました。

最近の研究会ふたつ(副部長:楠本和佳子)

 研究部では、渋沢敬三の「実業史」を現在のアカデミズムに生かす方向を探るべく、2〜3ヶ月に一度、関連分野の様々な学者を招き、お話を伺っています。7月31日には上記のアラン・クリスティさん、10月6日には佐藤健二さん(東京大学大学院人文社会系研究科、社会学・文化資源学)に講師をお願いしました。

 クリスティさんのお話は「もうひとつの提案」と題され、渋沢敬三が関与した多彩な資料をいかにデータベース化するか、そのコンセプトと方法論についてご提案をいただきました。フォークソノミー(folksonomy)や、アマゾン・ドット・コムが採用しているメカニカル・ターク(Mechanical Turk)といったアイディアを応用して、「複数の組織が協力体制を作り、多士済々の知見を自在に取り入れるメカニズムが作れないか。それこそが敬三の志を今に生かす方法ではないだろうか」と仰っていました。

 佐藤さんは「柳田国男の読みかた―新しい全集を素材に」というお話をしてくださいました。佐藤さんが「柳田国男全集」(筑摩書房)に編集委員として携わった経験をもとに、一人の人間の業績を集大成する時、どのような問題を考慮しなければならないかを指摘なさいました。「出版・編集側の意図によって全集の様態は変わる。それはすなわち、その全集の学問研究の基礎資料としての意味が変わってしまうということ」と仰っていましたが、これは昨今の人文・社会科学が問うてきた"テキスト"(人々に読まれ、解釈され、意味を付与されるもの。文字で書かれたテキストに限らず、映像や展示といったものも含まれる)の問題と重なるお話で、大変面白かったです。「渋沢敬三だったらどんな全集が良いのだろう?」という佐藤さんの問いかけ、大いに検討すべきでしょう。

米国のプリンストンとフィラデルフィアでセミナーを行いました(部長:木村昌人)

 9月8日(金)・9日(土)に米国プリンストン大学東アジア研究所で、同大学と米日財団からの助成を受け、第3回渋沢国際儒教セミナーを開催しました。

 今回のテーマは、『太平洋を越えて:アメリカと東アジア儒教圏との出会いと交流』で、第1回目、第2回目の議論を発展させ、より広い文脈の中で儒教について考えるセミナーになりました。ハーバード大学入江昭教授の国際交流に関する3つのレベル(ナショナル・インターナショナル・トランスナショナル)という基調報告に則って、19世紀から20世紀初頭にかけてのアメリカと中国・朝鮮・日本間の政治経済・民間外交・思想・宗教など太平洋を結ぶさまざまな交流について報告がありました。

 翌週9月15日(金)・16日(土)には、フィラデルフィアのペンシルバニア大学とヴィラノヴァ大学でそれぞれ1日ずつ国際セミナーを行いました。テーマはRepositioning Japan in the Global Political Economyで、21世紀に入り、小泉内閣5年間に銀行再編成や郵政民営化など構造改革を進めてきた日本が、今後同盟国のアメリカとともに、北朝鮮の核問題やぎくしゃくする日中・日韓関係などで緊張を増すアジア太平洋の安全保障や、成長著しい中国、インド、ロシア、ブラジル(いわゆるBRICs)に対してどのように向かい合っていくべきかについて活発に議論しました。ヒュー・パトリック(コロンビア大学名誉教授)など研究者だけでなく、財務省、経済産業省、自衛隊から中堅幹部や渋沢健理事などビジネスマンも参加したため、地に足が着いた興味深いセミナーとなりました。

 2つのセミナーの間に、ニューヨークで、当財団も助成していた日本国際交流センター主催の山本正・入江昭・五百旗頭真共編Philanthropy and Reconciliation : Rebuilding Postwar U.S.-Japan Relations(Tokyo and New York: JCIE, 2006)の出版記念会が開かれ、元国務長官ヘンリー・キッシンジャー博士、ロックフェラー財団理事長のデイビッド・ロックフェラー氏など長年日米関係に深くかかわってきた人々が集まり、戦後日米関係の再建に果たした財団活動の全貌を初めて明らかにした著作の出版を祝いました。

華中師範大学に渋沢栄一センターが開設されました(部長:木村昌人)

 9月26日に中国湖北省武漢市武昌にある華中師範大学に渋沢栄一センターが開設されました。除幕式では、中国近代史専門で張騫研究の第一人者の章開元教授(元同大学学長)と馬敏教授(現同大学学長)から、渋沢栄一研究の中国にとっての現代的意義や今後のセンターの研究計画などについて希望が語られました。渋沢理事長がウ・シン博士の通訳で、当財団の歴史や現在の活動についてパワーポイントを使って紹介しました。これに先立つ25日には辛亥革命95周年記念国際シンポジウムが、革命が勃発した武昌の東湖飯店会議室で開催され、渋沢栄一と孫文の関係について渋沢理事長が報告を行いました。


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