研究センターだより

5 2006年度の研究部事業/第4回比較思想史研究会/第3回実業史研究会

『青淵』No.684 2006(平成18)年3月号

2006年度の研究部事業の一部をご紹介します(部長・木村昌人)

 2006年度の研究部活動の中から2つの事業を紹介します。まず、2004年度から慶應義塾大学三田キャンパスで行われてきました「渋沢栄一記念財団寄附講座:シヴィル・ソサエティ論-新公益論」では、3回目として「東アジアにおけるシヴィル・ソサエティの役割」というテーマで、(1)東アジアにおける社会構造の変化と価値観の変化、(2)北東アジアにおける日中韓関係、(3)国際社会のガバナンスと東アジア共同体などについて考えていきます。4月から7月までの毎週火曜日(13時から14時30分まで)に12回の講義を行います。本講座は法学部の正規の授業科目に組み込まれますが、他学部の学生や大学院生も履修が可能です。聴講の手続きなど詳細は後日プログラムとともにご案内いたします。なお、2006年度同講座『日本の行政改革-政府とシヴィル・ソサエティの役割分担の調整』の講演集は近々慶應義塾大学出版会から刊行される予定です。

 次に、カナダのトロント大学出版会から「渋沢日本研究シリーズ(仮称)」として、1999年から5回行った渋沢記念国際日本研究セミナーや2回の渋沢国際儒教セミナーなどに提出された論文内容をさらに深めた専門書(英文)を刊行していくことになりました。今までの研究の成果を世界中のより多くの方々に読んでいただくためです。ハーバード大学教授の入江昭先生を委員長とする編集委員会にレフェリーをお願いし内容の充実を図っていきます。またミズーリ州立大学セントルイス校と当財団が出版助成を行います。早ければ2007年から年1、2冊程度のペースで刊行される予定です。すでに昨年6月トロント大学で行われたセミナーを基にした Japan as A Normal Country や1930年代の日本外交に関する論文集の出版企画は順調に進んでいます。続いて1990年代以降の政党政治の変化や郵政民営化など構造改革に関する論文集の企画も今春から開始されます。このシリーズは日本語での翻訳出版も視野に入れています。

第4回比較思想史研究会(研究員・岡本佳子)

 研究部主催第4回比較思想史研究会が、昨年11月21日に広尾の研究部にて行われました。講師として日本政治思想史専攻の神谷昌史さん(大東文化大学法学部政治学科研究補助員)をお招きし、「浮田和民の立憲主義と倫理的帝国主義の変容」と題した報告をしていただきました。

 明治から昭和にかけて日本の言論界で活躍した浮田和民(1860-1946)は、総合雑誌『太陽』の編集主幹をつとめていた時期もあり、大正デモクラシーの思想に大きな影響を与えました。ご報告は、完成されたばかりの博士論文の成果で、日本の帝国主義化に対する浮田なりの思想的営為を辿った内容でした。参加者からも様々な角度からの質問やコメントが寄せられ、浮田の多面的な人物像が浮かび上がる会となりました。

第3回実業史研究会(副部長・楠本和佳子)

 12月2日、第3回実業史研究会が開かれました。講師はソルボンヌ大学・国立科学研究所所属の地理学者、シルヴィ・ギシャル=アンギス(Sylvie Guichard-Anguis)教授です。日本の建築や民芸品、茶の湯など、文化遺産に関わるテーマを研究してきたシルヴィは、フランス語が分からない私たちのために日本語で、最近の彼女の関心対象である日本の竹細工文化について話してくれました。

 留学生として日本に滞在した若かりし日に茶道と出会ったシルヴィは、研究の傍ら、茶道と煎茶道のリーダーとして今もパリで活動しています。茶道の実践者として竹細工に出会ったわけですが、"日本では竹製のカゴが芸術作品として美術館に展示される"という事実に日本独特の美意識を感じ、それを分析するために竹細工の職人さんを尋ねて日本を回っています。(ちなみにヨーロッパの美術館でバスケットが展示品になるということはまずあり得ないそうです。)

 ディスカッションでは日本人とヨーロッパ人の旅への意識の違いなどにも話が及び、楽しい会となりました。


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