研究センターだより

4 ヨーロッパ日本研究学会/欧米出張/第3回比較思想史研究会

『青淵』No.681 2005(平成17)年12月号

前回の当部のご報告から3ヵ月が経ちました。最近の広尾の研究部での活動をお知らせいたします。

ヨーロッパ日本研究学会に参加しました(副部長・楠本和佳子)

 8月31日から9月3日までヨーロッパ日本研究学会がウィーンで開催され、当研究部のメンバーである木村と楠本は、「物に残る記憶:物質文化を通して再解釈する日米の近代化と産業化」("Memories in the Goods: Reinterpreting the Modernization and Industrialization of Japan and the US through Material Culture")というパネルで発表しました。藤田加代子氏(大阪大学COE)が発表者として加わり、第1回実業史研究会でお話し頂いたロンドン大学のジャネット・ハンター教授が、ディスカッサントとして論評して下さいました。

 藤田発表は、昨年の渋沢史料館とマーカンタイル・ライブラリーの共同展覧会が出来上がるまでのプロセス及び観衆の反応を報告したもの、木村発表は、日米の近代化のプロセスがいかに近似していたかを、モノ資料を使って証明する可能性について述べたものでした。

 私の発表は、渋沢敬三の生涯とアカデミックな業績、更に彼の「実業史博物館」の構想を紹介し、敬三が国内外で意外に知られていない事実に言及、今後どのような敬三研究の可能性があるかを、文化人類学やディスコース研究の視点から示唆するものでした。この発表ペーパーは近々財団のウェブサイトにアップする予定ですので、ご関心のある方はそちらでご覧ください。

 今後はこの発表で考察したことを発展させ、渋沢敬三が日本の社会科学の形成に果たした役割なども考えてみたいと思っています。研究とは地道な対話や思考の積み重ねですが、幸い、国内外の研究者たちとのネットワークも広がり、渋沢史料館や実業史研究情報センターの仲間たちとのアイディアのやりとりも活発になってきました。渋沢敬三の「実業史」という概念が様々な分野の研究者にアピールすること、また研究者によっていろいろに解釈されることに面白さを感じています。これも敬三のアイディアが豊かで柔軟性を持っていたためでしょう。実業史や敬三をきっかけに、学際的で堅実な研究者のネットワークが育っていくことを願っています。

欧米出張に行きました(部長・木村昌人)

 ウィーンでヨーロッパ日本研究学会(EAJS)のパネル報告を済ませた後、北米大陸に渡り今後の国際セミナー開催地の下見をしてきました。

 まず関西大学の陶徳民教授とともに、2006年9月に第3回渋沢国際儒教研究セミナーを開催するプリンストン大学を訪れました。同大学東アジア研究センター長のコルカット教授にお会いし、セミナーのスケジュールの細目について検討しました。ちょうど新学期が始まったところで、各寮では新入生歓迎会が行われ、夜遅くまで学生が騒いでいました。

 プリンストンからアムトラックで、ニューヨーク、エール大学のあるニューヘブンなどを経てボストンに到着。今年11月3日から6日までポーツマスで行う予定の国際セミナー(「二つの二国間関係:日米関係と英米関係の比較と展望」主幹:田所昌幸慶応大学教授)の会場となるウェントワース・ホテルを訪問しました。ボストンから北に向かってレンタカーで1時間30分、風光明媚な海岸線で白亜の建物を見つけました。100年前、ポーツマス講和会議の日露両国全権団が宿泊したホテルです。残念ながら火事で全焼したため、現在はまったく新しい建物になりましたが、館内には小村寿太郎・ウィッテはじめ日露両国全権団員の写真が飾られていて、当時の雰囲気を醸し出しています。日露戦争を契機に日米関係はますます深化し、対立と協調の時代に入りましたが、渋沢栄一が本格的に民間外交に関わりだしたのもこの時期でした。セミナーでは100年前の国際情勢に思いをはせながら、今後の日本外交や日米関係のあり方について議論する予定です。

 ところで研究部では海外セミナーの実施やその打ち合わせ・下見のため、1年に数回海外へ出張します。短期間の滞在中に予定をスムーズにこなすには時差ぼけ対策が欠かせません。私の経験では、東から西へのコースのほうが、西から東へ周るよりもはるかに快適といえます。たとえば一度に欧米を訪問するときは、ヨーロッパ―アメリカ東海岸―西海岸の順番で周るのが時差ぼけによる影響が少ないのです。しかしスケジュール次第では逆周りのケースも避けられません。その時は2、3日前から生活パターンを訪問地の時間帯に合わせてゆき、出発前日はあまり睡眠をとらずに飛行機に乗ったらすぐに寝ています。食事はパスしても機内で5、6時間まとめて睡眠をとることができれば到着地での活動がスムーズになります。ただ最近は加齢のためか疲れの出方が1、2日遅くなり、別の調整方法を考えなければならなくなりました。皆様のご参考になれば幸いです。

第3回比較思想史研究会を開催しました(研究員・岡本佳子)

 研究部主催第3回比較思想史研究会が9月21日に行われ、アメリカ研究ご専門の小檜山ルイ先生(東京女子大学教授)を講師としてお招きしました。「女性と政教分離―反逆と支配の間」というテーマでアメリカのキリスト教会史をジェンダーと政治の文脈で読み解くご報告でした。イングランド国教会における反逆者であったピューリタンたちがアメリカ上陸後に支配者に転化して共同体を形成していった過程から、独立革命や社会秩序再編にむけた宗教運動における女性の役割、そして現代アメリカの政治空間で問い直されるべき政教分離の問題まで話は広く及び、終了時刻を一時間延長しての中味の濃い会となりました。

 次回については詳細が決まり次第、研究部ホームページ上(http://www.shibusawa.or.jp/research/index.html)でお知らせ致しますので、『青淵』会員の皆様もお誘い合わせのうえご参加ください。


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