研究センターだより

2 第16回JAWS学会/第1回比較思想史研究会/渋沢国際儒教研究セミナー/

『青淵』No.675 2005(平成17)年6月号

前回の当部のご報告から3ヵ月が経ちました。最近の広尾の研究部での活動をお知らせいたします。

第16回JAWS学会に参加しました(研究部副部長・楠本和佳子)

 JAWS(Japan Anthropology Workshop)とは、主にヨーロッパで活躍していた人類学者たちによって1984年に結成されたグループです。一年半ごとにテーマを設定した大会を開催する他、EAJS(European Association for Japanese Studies)の学会に平行して分科会を開いたり、ニュースレターを発行したりしています。私がJAWSの名を知ったのは、アメリカの大学院にいた1990年前後かと思います。当時の指導教授にもらった薄い学会誌を見たのが最初ですが、アメリカの日本研究とは少し違ったムードを醸し出しているのを面白く思ったものです。以来、JAWSという名が何となく気になっていましたが、3月17日〜21日に学会参加の機会を得ました。

 今年のJAWS学会の会場は香港大学、テーマは"East Meets West"でした。アジアでの大会開催は2度目だそうですが、ヨーロッパ、香港はもとより、日本、中国、オーストラリア、フィリピン、マレーシア、イスラエルなどから参加者が集まりました。そもそも人類学は学際的な学問ですが、今回もメディア学、言語学、歴史学や社会学など、様々な分野の研究者が集まりました。参加人数は150名あまり、主催者の香港大学日本学科のPeter Cave教授によると「これまでで最大の規模」とのことです。数千人の出席者を数えるアメリカの学会に馴れていた私には、小ぢんまりとした雰囲気が珍しく楽しかったのですが、フランスから参加していた地理学者は、「15年前は、30人くらいが同じホテルに泊まって、皆一緒にディスカッションに参加したものだった。楽しかったのに...」と不満そうでした。彼女によると、前述のEAJSも最近はアメリカの学者の参加が増え「全体の雰囲気がアメリカ風になって来た」そうで、アメリカ中心主義の学風に批判的でした。(彼女には11月の「実業史研究会」で発表をしていただくことになっており、今から楽しみです。)

 私は、今回は自分自身の発表はなく、"Making Popular Culture"(大衆文化を創る)というタイトルのパネルの司会を務めるだけという気楽な参加でした。8月末から9月にかけてウィーンで開催されるEAJSの学会で発表をするため、その下見といった気持ちもあったのですが、多くの知り合いを作れたことは有意義でした。私の名札には所属として、"Shibusawa Ei'ichi Memorial Foundation"と書いてあったので、渋沢栄一に関心を持つ経済史の研究者たちにレセプションの席で声をかけられたり(この方たちには、現在、構想がまとまりつつある研究部のプロジェクトにご参加いただくことになりそうです)、大阪の国立民族学博物館の関係者に挨拶されたりということがありました。

 ただ、「それは一体どういう財団なのか」と尋ねられることもしばしばでした。そういう時は、まず渋沢栄一、そして敬三の説明から始めるわけですが、人類学を専門にする研究者と言っても"渋沢敬三"という名前がピンと来る人は少ないようです。そこら辺はアメリカの状況と大して変わらないなと苦笑しました。また敬三を知っていても、渋沢財団の存在や、ましてそこに研究部があるということを知っている人は少なかったため、それなりに関心を引いたようでした。今回の学会は大学院生の参加も多かったのですが、彼らは研究発表やネットワーク作りの場、日本でフィールドワーク中に集う場所等を求めていることもあり、多くの名刺を頂きました。自分が博士論文のフィールドワークをしていた頃のことを思い出し、何か協力出来ればと思ったことでした。

 渋沢財団研究部では、渋沢敬三の考えた「実業史」の概念を発展させていくことを一つのテーマにしていますが、文化人類学はそもそも人間の「実の業」を研究する学問です。今回JAWS学会で聞いた発表の多くが、複雑に絡み合う経済や社会の動きの中で営まれる人々の「実の業」についてであり、それはまさに世界を束ねてうねる歴史の力を示していました。今後もこのような学会参加を通して、敬三の実業史という発想を現代の社会科学に結びつけ、翻って、彼の残した仕事の意味を問い直して行きたいと考えています。

第1回比較思想史研究会を開催しました(研究員・岡本佳子)

 今年度、研究部では比較思想史研究会を開催することとなりました。渋沢栄一が生きた19世紀後半から20世紀前半にかけて、文化的アイデンティティの確立や近代化、ナショナリズムなど当時の不可避的な課題について、日本に限らず様々な地域でどのような模索の事例が展開されていたかを学ぶ会です。

 広尾の研究部を会場に、年度内に6回程度の開催を目指しており、記念すべき第1回を4月7日に開催しました。この日は中国近現代思想史ご専門の藤井昇三先生(電気通信大学名誉教授)に講師としてお越しいただき、「近代中国の革命思想−孫文を中心に−」というテーマのもと、貴重なお話をうかがいました。清末に始まる改革運度から辛亥革命までの流れを先生にわかりやすくご解説いただいたうえで、孫文の革命思想についてお話しいただだき、有意義で楽しい質疑応答が交わされ、あっという間に時間が過ぎてしまいました。

 第2回は6月下旬〜7月上旬頃に開催予定で、日本近代思想史ご専門の見城悌治先生(千葉大学助教授)をお招きします。『青淵』会員の方もご参加いただけます。詳細が決まり次第、研究部ホームページ(http://shibusawa.or.jp/research/index.html)にて参加申込方法と併せてお知らせいたします。

渋沢国際儒教研究セミナーを中国・南通にて開催します(研究員・岡本佳子)

 5月20日〜25日には中国・南通市にて、地元の張謇研究センターと当財団との共催により、渋沢国際儒教研究セミナー「中日近代企業家の文化事業と社会事業―渋沢栄一と張謇の比較研究」を開催します。開催地の関係上、『青淵』会員の皆様にはご参加いただけませんが、ご関心をお持ちの方にはセミナー開催後に報告要旨集を差し上げますので、おはがきかファックスにて研究部までご一報ください。


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