研究センターだより

55 渋沢栄一と「フィランソロピー」第5巻出版シンポジウムの報告

『青淵』No.855 2020(令和2)年6月号

渋沢栄一と「フィランソロピー」シリーズ第5巻 「国際交流に託した渋沢栄一の望み−「民」による平和と共存の模索 」出版記念シンポジウム

 今回は、渋沢栄一と「フィランソロピー」第5巻の集大成として2月に実施いたしました、出版シンポジウムについてご紹介いたします。

 本シンポジウムは、第一次世界大戦を前後する日本社会の状況を再確認しながら、渋沢が関与した国際交流事業と米中日関係について注目し、渋沢の国際社会に対する姿勢や、平和実現に向けた思考を問いながら、その国際交流活動の実践と現代的意義を、メディアの役割を含めて考えることを趣旨とし、「戦間期の米中日関係と渋沢の国際交流」をテーマに3名の執筆者による報告と全体討論を行いました。


開催概要

日時:2020年2月14日(金)14301640

会場:国際文化会館 樺山・松本ルーム

主催:公益財団法人渋沢栄一記念財団


パネリスト報告

1.櫻井 良樹(麗澤大学教授、第1章執筆者)  テーマ「日本の国際化と渋沢栄一の『国際道徳』」

 「国際道徳」をキーワードに、デジタル版『渋沢栄一伝記資料』を参照しながら実業界引退後の渋沢が国際問題に対してどのような眼差しを向けていたかお話いただきました。また、渋沢の時代ごとに変化・進化していく道徳の概念「道徳進化論」と第一次世界大戦前後の激しく移り変わる国際情勢を照らし合わせながら、「道徳」がどのような役割を持つか渋沢の考えについて語られました。


2.高光 佳絵(千葉大学准教授、第5章執筆者) テーマ「民主化潮流と国際通信社設立への思い」

 国際通信社の設立経緯について、その背景にある当時の日本の情報のあり方や、情報管理体制の問題、渡米実業団の広報外交に触れながらお話いただきました。渋沢が情報の発信に「言論の自由」を求める一方、渡米実業団の活動が思ったほどに効果を発揮しなかった点や国際通信社の内部対立による問題など、必ずしも渋沢の望みが達成されなかった側面についても言及されました。


3.于 臣(横浜国立大学准教授、第9章執筆者) テーマ「中国メディアによる報道と渋沢栄一のジレンマ-1914年の中国訪問を手掛かりに」

 渋沢の訪中を利権獲得や日本の政治的目的と批判する中国メディアに対して、渋沢自身が目的とした実業家間の交流といった国民外交がどのように受け止められたか語られました。渋沢が好意的に受け入れられながらも、中国メディアに揶揄された背景には、実際、当時の実業の発展と政治の関係が不可分であることなど渋沢自身の思想的葛藤が見られると指摘されました。


酒井 哲哉(東京大学教授)コメント、全体討論

 パネリストの報告後、酒井先生より全体の総括として渋沢栄一と「フィランソロピー」シリーズの出版について、渋沢の多岐に渡る活動を網羅する共同研究であり画期的な取り組みであるとの言葉をいただきました。また、全体討論では参加者からの質問を受け、会場全体で活発な議論が交わされました。


書籍情報

 書名:渋沢栄一と「フィランソロピー」⑤ 『国際交流に託した渋沢栄一の望み ―「民」による平和と共存の模索』
 編著者:飯森明子(編著)出版社:ミネルヴァ書房 価格:3,800円(税抜)

 本書では今回の報告者に加えて、国際交流に関する渋沢の活動や思想について各分野の研究者によって様々な視点で語られています。渋沢の時代に比べ、グローバルな問題がより身近になった今日において、本書が皆さまにとって考えるヒントとなれば幸いです。また、研究センターでは引き続きシリーズ刊行の準備を進めております。どうぞ楽しみにお待ちください。

(研究センター 加藤愛子)


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