研究センターだより

52 研究センターの活動(2018年11月~2019年1月)

『青淵』No.840 2019(平成31)年3月号

 段々と日が暮れるまでの時間が延びてきて、ようやく待ちわびた春が訪れようとしている今日この頃、皆さまお変わりなくお過ごしのことと存じます。
 今回の「研究センターだより」では、201812月から2019年1月までに研究センターが主催した主な事業についてご紹介いたします。

『渋沢栄一とフィランソロピー』シリーズ研究会の開催

 201812月から2019年1月にかけて、『渋沢栄一と「フィランソロピー」』シリーズ各巻の研究会を開催しました。1215日(土)には第6巻『社会を支える「民」の育成と渋沢栄一』の研究会、1222日(土)には第7巻『渋沢栄一はなぜ「宗教」を支援したのか』を、いずれも渋沢史料館において開催しました。第6巻研究会では、井上真由美氏、何瑋氏、玉井芳郎氏、三村達也氏の4氏から、渋沢栄一の教育支援とその思想的背景に関する研究の成果が報告されました。第7巻研究会では、冒頭に新しく執筆者として加わった九州大学の永島広紀氏と同朋大学の金山泰志氏の自己紹介がありました。そのあと町田祐一氏、馬場裕子氏、原口大輔氏の3氏から、救世軍や血洗島諏訪神社をはじめとする深谷の寺社、寛永寺などと渋沢栄一がどのように関わっていたか、その具体的位相に関する研究の成果が報告されました。
 いずれの研究会も、渋沢栄一研究の最前線をゆく画期的な機会でした。予定では、第6巻は201912月、第7巻は2020年4月に刊行することとなっています。各巻が着実に出版されるよう、事務局としても今後より一層気を引き締めて取り組んで参ります。

倉敷シンポジウムの開催

 2019年1月13日(日)、二松學舍大学との共催でシンポジウム「備中の学問と実業家の営みを考える」を、岡山県倉敷市の倉敷公民館で開催しました。当日は、二松學舍大学文学部教授の町泉寿郎氏が「近代岡山の実業家と漢学」と題して報告を行い、弊財団からは事業部長兼渋沢史料館長の井上潤が「『論語』を規範とする渋沢栄一の経営理念」、研究センターの伴野文亮が「近世・近代転換期における備中の学問と大原孝四郎」という題でそれぞれ報告を行いました。
 町報告では、明治以降に岡山県が輩出した実業家(白岩龍平ら)が「漢学」をどのように捉え、向き合っていたのかという点について解説がなされました。
 井上報告では、一見備中とは縁がなさそうな渋沢が一橋家の家臣時代に同地で政務を執っていたことに触れたあと、自身による『論語』の読み替えと備中出身の漢学者三島中洲との関係に触れ、「論語と算盤」や「道徳経済合一説」に象徴される渋沢栄一の経営理念・哲学の紹介とその現代的意義について解説がなされました。
 伴野報告では、倉敷出身の実業家である大原孝四郎を取り上げ、彼の思想形成に従来指摘されている儒学の基底性に加え、石門心学が影響を及ぼしていた可能性を指摘しました。
 当日は、晴天にも恵まれ、延べ31人の来場者の方々に足を運んでいただくことができました。

「論語とそろばん」セミナー2019の開催

 2019年1月12日(土)と19日(土)、9年目となる「論語とそろばん」セミナーを開催しました。
 12日は、セミナー初参加の方々を対象とした渋沢史料館の見学会を、午前・午後の二部制で実施しました。当日は、途中雪が降り出すほどの寒い日でしたが、午前の部が19名、午後の部が24名、合計43名の参加者に、渋沢史料館の常設展示と青淵文庫・晩香廬をご見学いただきました。
 19日は、東京商工会議所・東商グランドホールにて、セミナーを開催しました。当日はまず、作家でセミナー企画監修者の守屋淳先生が「渋沢栄一の思想を読み解く」というタイトルで講義をされました。守屋先生の講義では、『論語』を規範とした渋沢栄一の思想を研究する現代的意義と、現代社会への活用について解説がなされました。続いて、静岡県立大学大学院経営情報イノベーション研究科准教授の落合康裕先生が「渋沢栄一の企業家育成」というタイトルで講義をされました。落合先生の講義では、経営学の視点からみた渋沢の企業家育成のあり様についての分析を踏まえて、現代における後継者教育・事業承継へのヒントが呈示されました。
 守屋・落合両先生による講義の後、経営者インタビューとして東京商工会議所の三村明夫会頭のご講演と、守屋先生との対談が行われました。三村会頭のご講演では、「意志をつなぐ」というタイトルのもと、渋沢が設立に関わった会社が現在まで複数存続していることを、渋沢の思想が現在まで受け継がれている具体的な実例として認識すべきこと、および様々な「困難」を克服して近代国家を建設した明治の人々の意志をつなぐことの意義と重要性について語っていただきました。
 今回のセミナーによって、『論語と算盤』に象徴される渋沢栄一の思想を多角的に検討し理解を深めていく現代的意義がますます明らかになりました。


(研究センター 伴野文亮)



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