史料館だより

72 2023年度の渋沢史料館事業

『青淵』No.889 2023(令和5)年4月号

 まず述べさせていただくのは、鮫島純子さんのことです。渋沢栄一の孫で、エッセイストとして活躍された純子さんが、2023年1月19日に亡くなりました。100歳でした。純子さんはたびたび渋沢史料館にいらしてくださり、私たちに祖父・栄一の思い出をたくさん語ってくださいました。まるでそこに「おじいさま」がいるかのように、生き生きと楽しそうに、愛情たっぷりに思い出を語ってくださる純子さんのお姿がとても印象的でした。また、かつて飛鳥山の近くにあった純子さんが過ごしたお住まいの跡地を探しに出かけたこともありました。私たちは、純子さんから伺ったたくさんの大切な思い出やご記憶を、当館の展示や教育普及プログラムなどの活動につなげていきたいと思っております。

 さて、今年度も当館ではさまざまな事業を継続、展開させます。新型コロナウイルス感染症に対する諸制限が緩和されていくなかで、つねに社会状況を見ながら、ご来館いただく皆様と職員の安全・安心を第一に、博物館活動に邁進してまいります。

展示事業

 2020年にリニューアルオープンした常設展示の内容をより一層充実させながら、渋沢栄一の事績・思想及び生きた時代等、周辺を伝える展示を行います。常設展示「渋沢栄一を知る」では「第一国立銀行」にスポットをあてるほか、書画や書簡の小展示も随時検討しています。

 企画展示は現在、春季企画展「養育院の「院長さん」渋沢栄一 父となり祖父となり曾祖父となり」を開催中です。会期は5月28日までとなっておりますので、「院長さん」と慕われた栄一の活動と想いを、ぜひ多くの皆様にご紹介できればと考えております。

 今秋は10月7日より企画展「渋沢栄一肖像展 Ⅰ」を開催します。これは2024年度に発行される新一万円券の肖像に、渋沢栄一が採用されることを記念したものです。渋沢栄一は多くのポートレートを撮影しており、渋沢史料館で所蔵する数多くのポートレートとともに撮影の背景をご覧いただきながら、「渋沢栄一」をより身近に感じていただきたいと思っています。

 また現在、当館一階のギャラリーロトンダにおいて「鮫島純子さん作品紹介~おじいさまとの思い出~」を開催しておりますが(会期は2023年3月8日~4月9日)、夏季企画展として「鮫島純子さん おじいさまと過ごした大切な時間(とき)」(仮題)を開催予定です。祖父・栄一との思い出を描いた純子さんの作品や、純子さん旧蔵の栄一や渋沢家にまつわる御品を皆様にご紹介できるよう、現在準備をすすめております。

資料整備

 実物資料を見ることができるのが博物館の大きな特長ですが、資料の公開と保存は相反する行為です。資料の保存と活用という観点から、より一層の資料整備の強化を図ります。館内環境調査を実施し、虫・黴かび対策としての収蔵庫及び書庫の除塵・防黴作業、資料のくん蒸を予定しています。さらに劣化した資料の修復、写真・映像フィルムの整理・保存処置、美術工芸資料の整備、資料活用に向けての一次資料のデジタル画像への代替化、複製資料の作製および製本などを行います。

資料収集

 継続して、栄一及び実業史関係も含む周辺事象に関係する資料(原資料だけでなく、二次的媒体に変換されたものも含む)・情報(関係資料の所蔵先、関係の出版物、研究発表、聞き取り情報等)の集積を行います。

調査・研究事業

 栄一にまつわるさまざまな事象や、所蔵資料、新規収集資料についての基礎研究はもちろん、今後予定している展示事業のための調査研究を展開してまいります。またレファレンス対応の調査に加え、栄一および周辺に関するオーラルヒストリー事業を継続します。さらに博物館、美術館等の視察、各種研究会、学会、研修会へも積極的に参加します。

教育普及事業

 小・中学校からの出張授業のご依頼が少しずつ増えています。ここ数年、新型コロナウイルス感染症の影響によりお受けできませんでしたが、今後は社会状況を考慮しながら、検討をしてまいります。さらに小・中学生の学習支援を深めていけるように、栄一をわかりやすく伝えるイラスト入りの「下敷き」を制作したほか、今後は学習シートなどの教材を作成したいと考えています。

 コロナ禍で休止していた晩香廬と青淵文庫の建築プログラム用に開発した「迷路のワークシート」、「塗り絵」、「装飾タイルのパズル」といった普及キットを運用していきます。また2021年に実施した、晩香廬での「暖炉」の火入れ再現が好評だったことから、再度の実施を検討しています。そのほか、渋沢栄一命日記念の企画「青淵忌」も開催します。

図書等の刊行

 今年度も、当館の事業報告と論文や資料紹介、調査報告等を収録した『渋沢史料館年報』、渋沢研究会の紀要『渋沢研究』第三四号の発行を予定しています。また長らく品切れとなっていた講演集『忘れられた幕末維新 一八六七年パリ万国博覧会と徳川昭武、渋沢栄一』を再販いたしますので、この機会にぜひお求めいただければ幸いです。

その他

 国指定重要文化財である晩香廬・青淵文庫の内部公開を継続するとともに、建築にまつわるミュージアムグッズの製作などを展開し、さらに今まで行ってきたことに新たな取り組みもプラスしながら、今年度も当館は成長をしてまいりたいと思います。また2023年12月から2024年1月までの期間は、館内の工事のため、臨時休館をさせていただく予定です。皆様にはご不便をおかけいたしますが、ご理解とご協力のほど、お願い申し上げます。

 当館は本年、開館から41年を迎えますが、努力を積み重ねていくこと、その先に豊かで明るく温かい未来があることを、渋沢栄一の想いや行動から学び続けていきたいと思っております。今年度も渋沢史料館の活動を暖かく見守り続けていただきますようお願い申し上げる次第です。

(渋沢史料館副館長 川上 恵)


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