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『青淵』No.871 2021(令和3)年10月号
渋沢史料館では現在、企画展「渋沢栄一から妻千代への手紙~あらあら めてたく かしく~」を開催しております。
渋沢栄一は安政5年に、1歳年下の従妹・尾高千代と結婚をしました。幼馴染であった栄一と千代は、強い絆で結ばれ、互いにかけがえのない存在となります。栄一が郷里・血洗島村を旅立ち、一橋家に出仕して国事に奔走したとき、幕臣としてフランスへ渡ったとき、帰国後に明治新政府の官僚として近代化に奔走したとき、そして第一国立銀行の創立後に実業家として活動したときにも、繁忙極める栄一を支えたのは妻の千代でした。
渋沢史料館には、「穂積男爵家旧蔵」の「渋沢栄一書簡 渋沢千代宛」が計27通、伝来しています。栄一と千代の長女・歌子の回想『はヽその落葉』には次のように記されています。
「父上が家を出られて後、京都に居られた間も、また民部大輔に随行してフランス国へ滞在中にも、常にたびたび祖父母上や母上の処へ手紙をよこされた。今でも母上のお手箱の中に、その折の御書簡が沢山残っているが(後略)」
千代は、栄一から送られた手紙を大切に「お手箱」に入れて保管していました。歌子は千代の没後、この「お手箱」に入った栄一の書簡を引き継ぎ、そして現在、渋沢史料館に伝来しているのです。
千代に宛てた書簡において、栄一は結びに「あらあら めてたく かしく」と記しています。一般的に、「めてたく かしく」は女性が手紙の結びに添える表現ですが、栄一は千代に宛てた書簡で、この結びを用いています。栄一が、なぜ「あらあら めてたく かしく」と手紙を結んだのか、その意図は分かりません。この「あらあら めてたく かしく」は、千代に宛てた栄一書簡の象徴的なものとして、本展のサブタイトルに用いました。
渋沢千代(渋沢史料館所蔵) 本展は全5章で構成しています。以下、各章の概要をご紹介します。
第一章 栄一と千代
栄一は天保11年、武蔵国榛沢郡血洗島村(現在の埼玉県深谷市)の農家に生まれました。千代は天保12年、武蔵国榛沢郡下手計村の尾高家に、尾高勝五郎と八重の三女として生まれました。8、9歳のときに親戚の家で手習い、裁縫を学び、その後は家業を助けました。栄一と千代が結婚したのは、安政5年12月7日のことでした。もともと幼馴染であった栄一と千代は、強い絆で結ばれ、互いにかけがえのない存在となるのです。
第二章 栄一の旅立ち、千代のおもい
栄一は従兄や仲間たちと共に計画した高崎城の夜襲・横浜居留地の焼討ちを中止し、従兄の喜作と京都へ向かいます。栄一と千代には、娘・歌子が生まれたばかりでしたが、千代は栄一を気丈に送り出しました。その後、栄一は一橋家に出仕して、活躍の場を与えられ、同家の家臣としてさまざまな活動に従事します。郷里に残された千代は、栄一の身を案じながら夫不在の家を守り、送られてきた手紙から栄一の無事と活躍を知るのでした。
第三章 フランスからの手紙
慶応3年1月9日付で送られた栄一の手紙を読んだ千代は、驚きます。将軍徳川慶喜の弟・昭武に随行して、栄一がフランスへ行くというのです。夢でさえも届かないような外国に行ってしまった栄一と、この世ではもう会えないかもしれないと不安を抱く千代をつないだのは、手紙でした。西洋の近代社会を肌で感じた栄一は、手紙と一緒に洋装した自分の写真を送り、写真を手にした千代は、変貌した栄一の姿に驚くのでした。
第四章 栄一、千代の明治維新
明治という新たな世となり、栄一と千代の生活は大きく変わりました。栄一は静岡で商法会所、東京で民部省、大蔵省へ出仕、さらに第一国立銀行の総監役というように、職務が変わっていき、栄一の家族は住む場所を転々とします。栄一は仕事で出張するたびに、千代に手紙を送りました。栄一の文面からは、時代の変化、生活の変化をうかがうことができます。
第五章 近代日本の実業家として、実業家の妻として
栄一は第一国立銀行など銀行業を中心に実業家としての活動を広げていくほか、養育院や商法講習所などの社会事業にも関与しました。千代は実業家の妻として、栄一の活動を支え、交際のための行事や賓客を饗応する準備は、心をこめて尽くしました。また深川の邸宅や飛鳥山の別邸の建築にあたっては、木材の選定、家具什器、美術品の購入などに千代の考えや趣味が反映されました。
来年は、千代の没後140年という節目の年となります。この企画展では、千代を偲ぶとともに、当館が所蔵する約30通の、栄一から千代に宛てた書簡を一挙公開し、激動の幕末維新期を生き抜いた2人の絆、夫婦愛に注目します。大変な社会状況ではありますが、多くの皆様にご覧いただければ幸いです。
(学芸員 関根 仁)
・企画展は2022年1月30日(日)まで開催予定です。
・企画展の詳細および入館方法は、当館ウェブサイトをご覧ください。
・新型コロナウィルス感染症の影響により、予定が変更となる場合があります。詳細は当館ウェブサイトでご確認ください。