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『青淵』No.802 2016(平成28)年1月号
新年明けましておめでとうございます。
一昨年、当財団が事業を大きく展開させた21世紀初頭の15年に焦点をあてた英文財団史『Rediscovering Shibusawa Eiichi in the 21st century』を刊行させたのに続き、昨年、日本語版財団史を『渋沢栄一記念財団の挑戦』と題して刊行しました。我々が実際に行ってきた事業の経緯・成果が一書にまとまり、世に問えたのですが、その事業に関われたこと、一書にまとめ、世に問えたことを改めて誇らしく思えました。
さて、同書の中で、渋沢史料館が設立に至る経緯を踏まえ、「情報資源化」の実現を柱に進化させてきたことを紹介しています。その大元のねらい・理念は、渋沢敬三の考えにあり、具体的には『渋沢栄一伝記資料』の意義や日本実業史博物館の原点に立つというものです。
そして、それは「文化資源館構想」の名を借りて財団の中・長期計画に組み込まれ、その実現に向けて模索・検討が重ねられてきました。その動向の紹介と展望についてここ数年、繰り返しこの誌面にて紹介してきました。
そして今、2016年度からの中期計画の策定に取りかかっているなかでも引き続き検討しています。あくまでもこれまでの経緯を踏まえての検討であることを再確認する意味でも、以前ご紹介した、当財団の「文化資源館構想」を今一度、紹介させていただきたいと思います。
○目標
これまで見えなかった「渋沢栄一」像や日本の近代化、産業化を見える化することにあり、この目標を達成することにより、渋沢栄一の人間性や思想・事績に関する深い理解を利用者にわかりやすく提供し、暮らしや仕事に活かすことで、各人・企業がよりよい社会づくりに積極的に参加することが出来るものとなり、社会に大きく貢献出来るという意義を持ちます。
○備えるべき機能
(イ)資料・情報の集約と整理
・資料(原資料・二次資料など)
・情報(資料情報・研究情報など)の収集と整理、そして共有化。
・上記の保存管理とデジタル・キューレーション。
(ロ) 資料・情報へのアクセス向上・利用促進
・渋沢関係情報を蓄積したデータベースの充実。
・資料のデジタル化による利用促進。
・展示(館内外、インターネット上)の充実、過去の展示の蓄積を活用。
・情報発信の充実(アナログ・デジタル)。
・レファレンス・問い合わせ対応の充実。
・多言語対応。
・利用促進のための各種イベントの開催。
(ハ)調査・研究の支援
・研究事業の企画、研究支援。
・研究促進のための各種イベントの開催。
・他の研究機関・類縁資料機関との協力促進。
(ニ) 渋沢栄一の思想を現代社会へ応用・啓発させるプログラムの企画・実施
○ 資料の公開・活用について方向性と実施法
・資料活用の方向性
・実物とデジタルの両輪でいく。
・資料のデジタル化はもちろん、デジタル化したデータ類のすべてを管理(運用)する。
・デジタル技術を駆使し、公開可能な当館所蔵資料を「デジタルアーカイブ」として、ウェブ上で公開し、公開可能な所蔵資料は「全て」ウェブを通じて閲覧可能とすることを見据える。
・館蔵資料以外の、外部機関で所蔵する資料の情報、渋沢関連情報など、あらゆる関係情報を収集し、連携・発信するハブ機能を備える。
・資料活用の実施法
・公開できる所蔵資料はすべて、ウェブサイトで公開できるようにする。
・外部資料情報リンク、情報センター・ハブ機能、他機関横断検索なども視野に入れる
・雑誌掲載など、写真資料の利用をすべてデジタル貸出しとする。
・伝記資料を核としたデータベースを構築する。
○ 現在の渋沢史料館がどのように変わるのか...
・これまで以上に資料の公開・活用に力を入れた文化機関となる。
・所蔵資料の内容が広く知られることとなり、資料の利活用増加につながる。
・他機関等との関係強化がはかられ、情報集積量の増加につながる。
・デジタル化、種々のデータベース構築により情報発信量が増加する。
・展示や様々なプログラムを企画する際に表現の幅が増え、よりわかりやすく伝えることができる。
・さらに国際的な視野に立つようになる。
この構想の一環で、展示室の全床改装。受付、会議室、閲覧コーナーの活用法、最新IT技術の導入法についても検討を加えながら、これまでの企画展等の成果を活かし、栄一が築いた人的ネットワーク、栄一の人間性についても焦点を当てる常設展示リニューアルも考えています。
事業面においては、これまで実施してきた各種プロジェクトによって着実に具現化させてきました。また、当財団は、昨年4月より、それまでの3事業部が持っている機能を残しつつ、形の上では、「事業部」として1つになりました。この結集は、他に類を見ないような博物館の進化・発展した姿への第一歩と考えています。あとは、融合させ、本当の意味での一つの組織になることによって、目指すべき姿になりうると考えています。
以上、以前ご紹介した内容の繰り返しとなりましたが、次期中期計画の策定と実施によって、民間の小さな組織が、ネットワークのハブとなり、社会的な大きなパワーの基となるよう、さらなる挑戦が始まります。本年も引き続きご協力の程よろしくお願い申し上げます。
(館長 井上 潤)