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『青淵』No.790 2015(平成27)年1月号
新年明けましておめでとうございます。
2011年からの当財団中期計画の中間評価が、昨年暮れの役員会で検討されました。若干、軌道修正を必要とするところがあるものの、おおむね順調に推移しており、良い結果が得られているとの評価でした。
さて、この中期計画の大きな柱として掲げてきた一つは、「情報資源化」の実現であり、一つは、「合本主義」の共同研究です。
これら財団事業の柱ともいうべき事業を進めるにあたり、具体的なプロジェクトとして考え出したのが、「企業の原点を探る」というテーマを設定してシリーズ化した企画展の試みです。業務内容が大きく変化した企業もありますが、混迷する今日の金融・経済界を再考する上でも原点回帰ということで、栄一が深く関わり、その業界においては源流をなした企業等の成り立ちから目を向けることとし、そこから二一世紀の資本主義ともいうべき「合本主義」、渋沢栄一の思想が現代社会に有効であることの個別検証とその成果の普及につなげたいと考えたものでした。
既に、澁澤倉庫、王子製紙、帝国ホテル、東京商工会議所の原点を探る企画展は開催を終え、多くの方にご覧いただけましたことをうれしく思っております。
ちなみに、今年は、春に東洋紡を、秋には第一銀行をはじめとした銀行業の原点に迫る予定です。ご期待いただき、さらに多くの方にご覧いただければと思っております。
各企画展(関連事業も含めて)を通して各企業・企業人が、それぞれの企業の成り立ちから現代社会における存在意義を再考・再認識する機会の提供、そして当財団の「情報資源化」の推進につなげることを大きな目的としました。 企画を立てるに際しての留意点として、テーマ企業・団体の担当者等にも参加してもらう形でプロジェクトチームの結成を試みました。
また、渋沢史料館所蔵資料以外の各企業等の資料調査、所在確認、活用許諾を将来も視野に入れて行い、資料・情報の資源化をはかることにも取り組みました。
各企画展とも、良き成果をあげることができましたが、それは、想像していた以上のものになりました。2011年度春季企画展「澁澤倉庫株式会社と渋沢栄一~信ヲ万事ノ本ト為ス~」の展示以降、いくつかの波及効果が表れてきたのです。
例えば、企画展で使用した展示パネル等を社屋内に展示し、社員のみならず、来社されたお客さまにも会社の歴史を明らかにするとともに、地元の小学校の授業を社内の会議室で行い、地域の歴史の中に社の位置づけと渋沢栄一の存在を知らしめたりするということが行われるようになりました。その際には、当館学芸員が出講するなどの協力をしたりしています。
また、社員への研修等で見学に来られたり、渋沢栄一と社の関係を伝えるために先の授業同様、学芸員が出講したりする頻度が高くなりました。その他にも、社報で渋沢栄一の考えを伝えたりもされています。これらは、企業の社会へのかかわりを深め、企業自体にとっても大きなプラスになり、さらに、地域社会に対しての貢献にもつながるような結果を生み出しています。
企業は、事業を継続することを通じて社会に貢献していくことが使命といえますが、保管される多くの企業資料及びそれに付随する様々な情報も、説明義務への対応であったり、企業アイデンティティの確認、文化情報発信に欠かせない貴重な情報資産・知的資源だということが認識されるようになりました。そして、それらを活用することが、さらなる地域、社会への貢献につながるという認識にもつながったように思います。
また、さまざまな地域からの講演依頼にも対応させていただいておりますが、昨年くらいから求められるものが違ってきたように思います。以前は、渋沢栄一という人物を紹介してほしいというものがほとんどでしたが、もちろんこれまで同様、渋沢栄一を伝えてもらいたいとする依頼は数多くあるのですが、ここへきて、各地との関わり、各地に残る足跡を示してほしいというものが多くなってきました。正直、無いものねだり的な要望のときもありますが、可能な限り確認して、お伝えすると、それまで地域に眠っていた資料・情報が呼び起こされる結果につながっていきます。これまでにも、各地で講演・シンポジウムを開催した折に同様のことはありましたが、各地における渋沢栄一に対する意識の高まりが一層強く感じられるようになりました。
当財団ウェブサイトにて示されています「渋沢栄一ゆかりの地」でも、全国各地に残る渋沢栄一の足跡を紹介しています。渋沢栄一が、各地で様々な企業、社会公共事業、文化事業・記念事業を立ち上げ、そして、それら事業の推進に尽力した事実をお伝えするものです。その足跡をたどると、どれも、当時、それぞれの地域に力を与え、その地の活性化が図られる大きな要素となっていたことがわかります。また、そういった意味からも、改めてその足跡を再確認することで、再び力を呼び起こすことになればとも思っています。
企業、地域とのつながり、情報交換のネットワークが広がり、まさに、情報資源化の基盤整備にうまくつながったと思います。中期計画は道半ばです。これからは、後半の事業遂行と、次期中期計画の策定に着手していくことになりますが、本誌読者の皆様とのつながりも大切にしつつ、さらに情報資源化の基盤強化をはかっていきたいと思います。本年も引き続きご協力のほどよろしくお願い申し上げます。
(館長 井上 潤)