史料館だより

25 節目の年

『青淵』No.700 2007年(平成19)7月号

 『青淵』700号記念号を発行することが出来た。ついこの間、600号の発行の際に、いつもの絵画と異なり、節目・節目の同誌各号の表紙写真が表紙を飾ったことが思い出される。同誌の前身『竜門雑誌』を越える歴史を刻んだのである。会員との間をつなぐ貴重なツールとして益々内容を充実させることを期したい。

 実は、渋沢史料館も本年11月をもって、開館25周年を迎える。その大半をこの館で過ごしてきた者として、その間の様子を少し振り返り、将来に向けての展望を述べてみたい。
 黎明期と言える開館して4〜5年の間は、一歩でも博物館の形に近づけようと必死だった日々である。館の様々な案内板から展示キャプション類の整備、隙間という隙間に押し込んであった資料を1点1点引っ張り出してきての資料整理からのスタートだった。毎日、何が出てくるか、まるで宝探しのような楽しみもあったが、同時に、保存器材の製作もしながらの毎日であった。材木店、文具店での購入や各種商店で不用になったダンボールを貰い受けるなどして材料を調達するところから始める製作であった。工作技術もずいぶん向上できた。だが、それ以上に、保存の意味を強く感じさせられ、胸に深く刻まれた。毎朝展示ケースを拭き、モップで床を拭くという清掃も自分たちで行っていた。これも今となれば、来館者の無言のメッセージを読み取れる貴重な経験であった。
 次に、対外的な活動も形作っていった。
 資料整備中に出会った資料群を確認する中で、テーマを設定し、年1回の特別展開催を実行するようにした。また、他館との交流の輪は、学芸員個人との関係でスタートしたが、人物記念館、歴史系博物館を軸とした博物館との交流拡大策を図った。手法は、特別展の際に作成した図録にあわせて、活動報告をまとめた年報を交換物として送付したところからであり、その広がりは序々に広まった。
 また、大学からの要望もあり、学芸員資格取得を志す学生の実習生としての受け入れも開館3年後から始めた。現在行われている実習内容とほぼ同じ内容を当初から行っている。
 黎明期から次のステップに移行するターニングポイントとなったのは、渋沢栄一の生誕150周年である。記念の特別展の開催を決定し、準備からであった。会場も史料館の外でということで、会場交渉からはじめ、初めての展示業者を導入しての展覧会であった。それまでは出来なかったポスター、リーフレットを作成し、配布もできた。
 また、事業が拡大するということで、それまで「館則」にうたっていた「学芸員1名」を「数名」に改め、1名の増員もみた。
 さらに、期を同じくして、それまで来館された様々な分野の研究者に呼びかけ、渋沢栄一を総合的に研究しようと集ったグループが「渋沢研究会」として正式発足した。その研究会の編集による研究紀要『渋沢研究』の創刊も見ることができたのである。また、先述の記念特別展に合わせて渋沢栄一の現代的意義を問うシンポジウムを開催したが、ドナルド・キーン氏の基調講演と、この研究会メンバーによるパネルディスカッションという構成で行った。これを機に史料館の知名度が一段とアップしたことが感じられた。
 このターニングポイントと前後して、史料館の拡充計画が計られるようになった。まずは、増築計画案が持ち上がり、数案考えられた。そこに北区への敷地売却案が起こり、合意が得られ、進展し、飛鳥山公園内の新館建築計画へと移行したのである。各地視察、基本構想から設計、建築、展示の各業者との打合せが繰り返されつつ実際の工事となった。展示制作に向けては、先程の「渋沢研究会」からも意見をもらうなどして、コンセプトをまとめ、展示用の資料収集から展示制作にあたった。その過程では、改めて渋沢栄一に向き合うことができたのと、関係資料の残存状況等の一端が確認でき、史料館活動の肉付けがされた。
 そして、1998年3月27日にリニューアル・オープンした新本館にての活動期となる。
 非常勤職員を含めて職員数も増え、機能・設備が整えられ、それまでは考えられなかった恵まれた環境での博物館活動がスタートした。次はソフト面の充実をはかるところであるが、一段と増加した利用者への対応、つまり、施設規模の拡大が、サービス対応自体も大幅に増加させ、その対応に追われ、例えば、資料整備面の着手が、若干、後手に回ってしまった。
 そして、2003年以降の新展開の時期となる。財団の変革に合わせて、史料館のより一層の充実を図った。「打って出る」の姿勢で、まずは、海外への進出をはじめ、リソース部門としての「実業史研究情報センター」の立ち上げにより、史料館と両輪となって資料整備の進展と共に情報発信機能の強化を図った。もちろんそこには、IT化が想像を絶する勢いで進められた成果でもあった。
 さらに、広報活動の充実、飛鳥山3つの博物館を含め関係諸機関とのネットワークの強化を図り、史料館の活動の幅を広げ、今日に至っている。
 最後に、当財団は、更なる変革期を迎えており、組織改革等が着手されている。今、「渋沢栄一」に対する非常に大きな関心・求めがある。その中にあって、「渋沢栄一とその時代」「渋沢栄一の事績と思想」をより一層追求し、吟味し、それぞれの要求に出来るだけ、きめ細やかな対応をして、伝え・繋ぐ作業につとめることを大きな使命として普及に邁進していくつもりである。会員の皆様におかれましては、期待をもって見守り続けていただき、会員としてご支援もよろしくお願い申し上げる次第である。

(館長 井上 潤)


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