史料館だより

23 繋がりの年に

『青淵』No.694 2007年(平成19)1月号

 新年明けましておめでとうございます。
 昨年は、渋沢栄一の事績・思想が注目され、とても強く求められた1年でした。その想いにしっかり応えるため、積極的に渋沢栄一の事績・思想を発信すると共に日本の近代化・産業化をより広く伝え、考える場を提供してまいりました。企画展や様々な教育事業に加え、積極的な広報事業の展開です。そこに重要文化財に指定された晩香廬と青淵文庫の魅力が力を添えて、予想以上の大きな反響の波が押し寄せた1年でした。その積極的な事業展開をはかる中で、「交流」「連携」といったものが芽生えていきました。
 博物館の世界でもそうですが、将来を見据えての発展、活性化を考える際によく持ち出される言葉として「交流」「連携」「ネットワーク化」があります。ただ、これまでは、形の設定が先行して一時的な繋がりは見ることができてもその先の継続にまで至らないケースを多く見てきたような気がします。
 では、私たちはどうなのでしょうか?これまでの繋がりに加えて、昨年実践した中で生れたいくつかの当館の交流・連携事例を紹介しつつ、今後の展望を見ていくことにします。
 まず最初にあげなければならないのは、「飛鳥山3つの博物館」の連携です。もちろんこの関係は、10年近く継続してきたもので、繋がりの深さは改めて述べることはないかと思いますが、昨年は、毎月開催している「3館連絡協議会」での議論等も個々の館情報の共有というところから「飛鳥山3つの博物館」としてどうするかという意識の一致が強く芽生えはじめ、活動の活性化に繋がるようになったと感じられるものとなりました。
 次に、北区産業活性化ビジョンの策定検討会への参加です。
 私は、委員の1人として観光文化部会に参加し、議論を重ねてきました。北区産業振興課の呼びかけで集まった区役所職員、地元商店街の広報担当、民間のシンクタンク、ミニコミ誌の編集人、大学教員そして当館と官民一体となったメンバー構成で、「イメージのわかない町」「若いエネルギーを感じない町」などのマイナスイメージを払拭し、プラスイメージとなる情報を発信し、地域の活性化につながる方策を模索しています。話題の中心は、文化資源の宝庫でありながら、その資源の存在をいかにうまく発信・PRするかでした。そして発信したい内容として最も要望が強かったのが、渋沢栄一の事績と思想だったのです。地域が、渋沢栄一の事績と思想、文化資源としての渋沢史料館を求めているという実態と、当館が、存立する地盤にいかに存立意義を浸透させるかを模索しているかという実態をお互いが認識し合える好機会でした。この中からは、あまり考えられることもないかと思うのですが、博物館と地元商店街という新たな「交流」「連携」が芽生えることとなりました。
 平成18年度異業種交流・産学連携フォーラム東北ブロック大会 in 岩手へ参加する機会も得ました。大学、企業、自治体が連携しながら新事業の創出・展開をはかり、地域産業の活性化へと繋げる方策を討論するフォーラムでしたが、渋沢栄一の現代的意義を学びたいとする要望に応え、基調講演を行いました。討論を拝聴し、私も「交流」「連携」の実態を学ぶと同時に、互いに情報を与えることで「共有経営資源」という価値が生まれ、その上で個々の組織が、成長する機会をひとつでも多く体験することによって「異業種交流」が大きな魅力となるということを感じました。
 最後は、当館の積極的な広報事業の展開です。先に紹介した平成18年度異業種交流・産学連携フォーラムもその一つですが、宇和島商工会議所、小諸の当財団支部、いくつかの企業での出前講演会、さらに自館で開催したサロン・ド・ミュゼがそれにあたります。今年度の入館者増加の要因の1つとしてこの活動の影響を考えています。これまでも広報しなかったわけではなく、館の様々な情報を発信し続けてきましたが、うまく受け手に届いていなかったのではということに気づきました。我々が足を運んで出向く、または館に招きいれるきっかけとなる仕掛けをすることによりお互いがお互いをより以上に知る結果となり、利用しやすくなり、利用者増加に繋がったのだと思います。この関係は継続性が見出せ、個々との繋がりが更なる展開「連鎖」によって、より一層の効果が生じることとなりました。つまり、広報事業とは、「交流」「連携」を生み出す結節行為ということになります。
 このような事業展開から生れた連携関係は、繋がるべき要素、お互いが必要とし、引き合う要素を感じ合えたからこそ生まれてきた関係です。
 当館の場合、渋沢栄一の事績・思想を求める人たちが、それを発信する渋沢史料館との結びつきを求めました。また、地域においては、活性化をはかる上で、必要かつ有効な文化資源として見出してきたからこそ結びつきを求めて来たのです。また、その求めを正確に理解し、しっかり受けとめるという意識を持たない限りこのような関係は生まれてこなかったと思います。まずは日常の中からもお互いを知り合える関係を維持するところを実践させないと本当の意味での「交流」「連携」は生まれないと信じます。
 新しい年を迎え、当館が築いてきた交流・連携関係をさらに充実させ、将来の発展に繋げていきたいと思います。
 最後に、当財団には、全国に支部があり、活動を支えてくださる多くの会員の皆様方がいます。私たちは、財団としての考えを伝えると同時に会員の考えを吸収しながらお互いの信頼関係を強め、財団の会員組織の活性化につとめていかなければならないと改めて感じています。「交流」「連携」の原点ここにアリです。会員の皆様の意識にも期待します。よろしくお願い致します。

(館長 井上 潤)


一覧へ戻る