史料館だより

21 竜門社初期の総会

『青淵』No.688 2006年(平成18)7月号

 「竜門社」という名で創立した当館の運営母体である渋沢栄一記念財団では毎年会員総会を開催しており、本年は7月3日に第205回総会を開催いたしました。
 今年は竜門社が創立して120年を迎えた記念の年です。ひとくちに「205回」と言っても、そこにはこれまで積み重ねられてきた財団の歴史があります。
 今回は、当館所蔵の資料を用いながら、竜門社初期の総会の様子をご紹介いたします。
 当館所蔵資料で判明する最古の総会は、明治22年4月7日に曖依村荘で開催された第2回総集会です。その様子は『竜門雑誌』第12号に記されており、総集会には渋沢栄一夫妻を始め、渋沢篤二社長ほか110数名の会員が参加し、また10数名の来客があり、演説会、園遊会、演劇という内容であったことが分かります。
 演説会では、まず渋沢篤二社長による挨拶、次に社員の尾高次郎、阪谷芳郎ほか17名が熱弁をふるい、最後に渋沢栄一により「商人の本務を示す」と題して演説が行なわれました。演説会の次は、渋沢栄一主催による園遊会です。桜を眺めながら「菓子、蜜柑煮込、甘酒」から、「立食の饗応」に移り、和やかな時間が流れました。午後6時からは演劇が催され、「碁太平記白石噺」、「奥州安達原」、そして幕間には「鶴亀の舞」、「元禄の舞」などの舞曲がありました。
 総集会は「帰るを忘れしむる程」の盛況で、終了したのは午前1時過ぎだったそうです。当時の龍門社員たちの熱気が伝わってきます。
 また『竜門雑誌』第24号には、明治23年4月20日に開催された第四回春季総集会にて、余興として運動会が催された記事が見えます。同誌には、曖依村荘の庭に「球灯及各国の国旗」が装飾されたとの記述があり、渋沢家に仕えた芝崎確次郎の日記には「惣出賑々敷候事」と当日の賑やかな様子が記されています。
 運動会では「旗奪競争、片足競争、幼年徒競争、角力、巾飛、高飛、撃剣、障害物競走、徒競走、来賓競争、拾菓競争」などが行なわれ、入賞者には靴下、手帳、鉛筆、サルマタ、参考書、タオルなどの賞品が授与されました。社員はもちろんのこと、子供や来賓も参加して、「観者をして或ハ笑ひ或ハ怒り或ハ驚き或ハ惜しましむるありていと興多かりき」雰囲気であった様子が『竜門雑誌』の記事から窺い知れます。
 以上『竜門雑誌』などを参考に、過去に開催された総会の様子をご紹介いたしました。現在では開催場所や、プログラム内容は異なりますが、渋沢栄一の考えを受けつぎ、それを広めようとする活動には変わりがありません。総会は、関東大震災や諸事情により中止されたこともありましたが、120年の伝統ある当財団が現在も受けつぎながら継続しているのです。
 なお当館では今秋、竜門社創立120年を記念した企画展を予定しております。ぜひご期待ください。

(学芸員 関根 仁)


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