史料館だより

20 2006年度の渋沢史料館事業

『青淵』No.685 2006年(平成18)4月号

 2006年度は、最初に、本年1月号でご紹介したリニューアル計画の見直しからです。2003年秋の役員会にて承認された5ヶ年の事業計画のまとめとして、常設展示を中心としたリニューアルを設定していましたが、海外での展覧会等その計画を進行させる中で渋沢史料館に対し大きな反響・期待が寄せられるようになり、日常の業務自体がとても大きくふくらんできました。
 このような状況にあって、限られた時間の中で十分な吟味・検討がなされないままリニューアル計画を遂行するより、今一度軌道修正を試み、より多くの成果を取り入れ、十分な吟味を行なった上でのリニューアルこそが適当であると判断するに至りました。史料館のさらなる飛躍に通じるように検討したいと考えます。
 その他(1)資料整備事業の強化(資料の保存対策の本格稼動、資料管理・検索システムの稼動)、(2)教育普及(コミュニケーション)事業のさらなる充実、(3)広報活動の充実という重点目標を掲げ、以下に示すような事業を展開させます。

展示

 今年度の大きな企画展示として次の展示を予定しています。

(1)IPSA関連展覧会"Is Capitalism Working for the People? :The Birth of Modern Industrial Society in Japan"(因みに、IPSA大会テーマは、Is Democracy Working?)〔会期 :2006年7月9日(土)〜7月13日(水)、International Political Science Association(IPSA)第20回福岡大会会期中、会場:福岡サンパレス・ホール、主催 :渋沢史料館(慶應義塾大学福澤研究センター、早稲田大学大学史資料センター協力予定)

(2)竜門社120周年展〔会期:2006年10月1日〜11月26日、会場:渋沢史料館企画展示室〕
上記以外にも渋沢史料館 企画展示室・書画コーナーを会場とした3本のミニ企画展を予定しています。

資料整備

 史料館に対する大きな反響、所蔵資料に対する注目度の高まりは、さらなる資料整備体制に期待が寄せられるところとなり、その期待に応えるためにもより一層の資料整備の強化をはかることとしました。資料の保存という観点からと活用という観点から、具体的に次のような作業を行うことにしています。虫・黴対策としての除塵・防黴作業、代替資料の作製としてマイクロ・CD-ROM化〔今年度は穂積歌子日記等〕、複製資料の作製〔文書、写真等〕、資料の修復〔文書、書跡、図書、写真、建造物、家具等〕、劣化対策〔書跡資料、銅像、文書、図書等〕、写真・映像フィルムの整理・保存などがあげられます。
 収蔵資料の検索・管理システムが導入されましたので、資料の入力データ数を増やすことを心がけ、出来るだけ早く、史料館利用者により多くの情報を提供可能にしていきたいと考えます。この事業の強化がリニューアル後の史料館業務への強化にも繋がるところです。

教育普及(コミュニケーション)事業

 ここ数年特に力をいれている同事業ですが、とりわけ、学校への対応に力点を注ぎます。例年行っている博物館実習生の受入れ(2006年7月20日(水)〜7月30日(日)〔7月24日(月)休館〕)をはじめ、ここ1〜2年増えてきた学校単位での来館への対応や依頼を受けての出張授業などが挙げられます。また、夏休みなどに子供向けプログラム(3本)を実施します。史料館と来館者、また来館者同士のコミュニーケーションの場となることを期待し続けていきます。

図書等の刊行

 今年度は、館報、建物案内パンフレット、昨年開催した「日米実業史競」関連講演会の講演集の刊行を目指します。さらに、刊行が延びている『晩香廬保存修理工事報告書』、『曖依村荘小史』、『渋沢研究』と、これまで『青淵』誌に掲載されてきた「渋沢史料館だより」を編集し直し、1冊にまとめたものを刊行したいと考えています。

資料収集

 例年通り、国内・外における渋沢関係及び実業史関係資料(原資料だけでなく、二次的媒体に変換されたものも含む)・情報(関係資料の所蔵先、関係の出版物、研究発表、聞き取り情報等)の集積を行います。

調査・研究

 史料館(学芸)活動の基底部分をなすものであり、不断の綿密な調査・研究の成果の蓄積が今後の博物館活動の深化へとつながるものです。さらに、調査・研究の一環として、資質の向上を含めた意味で各種研究会、学会、研修会へも従来通り積極的に参加します。
 昨年度より本格的にスタートしたオーラルヒストリーの収集、建築ネットワークの構築などのほかに渋沢研究会支援を行います。

その他

 国指定重要文化財となった青淵文庫・晩香廬内部公開を通年での公開〔2006年3月4日(土)〜2007年5月6日(日)〕に踏み切ったことと、防災対策事業への取り組み、国際化対応へも積極的に取り組んでいきたいと考えています。
 最後に、これまで各事業ごとに単発で広報活動は行なってきましたが、日常においても渋沢栄一の事績と思想に加え、渋沢史料館の存在自体を広く積極的に知らしめていきたいと考え、本年が財団の前身・竜門社の創立120周年にもあたることから、竜門社会員部の協力のもと、地方支部との連携を図り、周辺地域に限ることなく広域の広報活動に取り組んでいきます。

(館長 井上 潤)


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