史料館だより

19 次のステップへ

『青淵』No.682 2006年(平成18)1月号

 新年明けましておめでとうございます。

 昨年は、海外への展開、海外との交流が大いにはかられた1年でした。5月に、研究部主催で中国・南通市にて開催された「渋沢国際儒教研究セミナー」にあわせて渋沢栄一の91年の生涯を紹介する写真パネル展示を行った他、実業史展覧会として1つは、6〜7月にカナダ・トロントにて「ニッポン開化自慢」"The Birth of Modern Industrial Society in Japan"とする展覧会、10〜11月には当館にて「日米実業史競」"Different Lands/Shared Experiences: The Emergence of Modern Industrial Society in Japan and the United States"を開催しました。それぞれが、講演会等の付帯事業とあわせて予想以上の反響・評価を得られる結果となりました。
 昨年末には、飛鳥山の旧渋沢邸跡に残る大正建築・晩香廬と青淵文庫が国の重要文化財に指定され、嬉しいニュースと受けとめるだけでなく、資料として大切に守らねばならないという重要な使命を受けることとなったのです。
 また、海外では韓国・中国、日本では九州、そして当館のある東京都北区のケーブルテレビのテレビ局が取り上げた、日本の近代、渋沢栄一の事績・思想を紹介する番組制作に協力したりしました。
 このように積極的な発信とその浸透による反響の波が大きく押し寄せはじめた1年でした。今後も渋沢栄一の事績・思想と共に日本の近代化・産業化をより広く伝え、考える場を提供し、そこに集まる知見をもとにさらなる展開をはかっていきたいと思います。
 他には、「飛鳥山3つの博物館」として成立して10周年を迎えるにあたり、その周年事業の検討を、学芸員を交えて行いはじめた動きなどもありました。
 このような事業展開を受けて、次のステップへと進みます。年度内で予定している事業を遂行しながら、更なる、大きな流れとして、2008年春に予定している常設展示リニューアルにむけての具体的な活動が大きなウェイトを占めてくることになります。
 さて、このリニューアル計画を実行するに際して、次のような方針を立てることとしました。
 最初に、この事業は、史料館のみならず、財団あげての大事業という位置づけで行うことを掲げます。
 次に、特別に委員会を組織しないことです。会議や委員会の運営に時間が割かれるのを避けるのが一番の目的です。但し、検討を要する時にアドバイスをいただける財団内・外のスタッフ、専門家とのネットワークを形成し、時に応じて連絡の取れる体制を築いておきます。
 基本的には、常設展示のリニューアルですが、展示以外の部分でも、例えば、受付まわりなど利用者にとってより良い環境に整えた方が良いと思われる箇所は、可能な範囲で、手を加えたいと思っています。
 リニューアルに向けての大まかな予定を紹介しましょう。昨年12月中に史料館・学芸員が中心となり、一応の形にまとめた基本構想を柱として、今年3月までに財団他部の意見、外部の専門家・研究者のアドバイスなどを頂戴して、調整をはかり、展示の基本的な考え方として固め、展示テーマと構成、展示空間の考え方、手法、資料調査計画などを決定します。
 次に、新年度となる4月以降翌年3月までの間に、調整期間も加えて、展示設計を行います。設計は二段階に別れ、基本設計として、展示テーマ・内容の検討、展示プランの詳細検討、デザインコンセプトの具体的検討、展示シナリオの検討、展示動線の検討、そして展示制作費概算の算出を行います。それを受けて、実施設計として、展示物の実測調査、展示手法の確定、映像シナリオ等ソフトの検討、法規・諸官庁申請の確認、工程計画の検討を行います。
 そして2007年4月から展示製作にはいります。製作図を作成し、製作準備、工場での製作、仮組み及び中間検査を経て、現場設置を行い、引渡し後、テスト・ラン、調整を行い、リニューアル・オープンへとつながるのです。さらに製作の中には、映像等のソフト製作も含まれていることを付け加えておきます。
 新たに製作する常設展示の現段階での構想について紹介すると、大前提として、渋沢敬三が構想した「日本実業史博物館」でのものを基本とし、それを現代の技術を用いて再現させたいと考えます。言わば、「敬三の夢を今ここに!」といったところです。それは、大きく分けて次の3つの内容から構成されるものです。
 1つは、「渋沢栄一 91年の生涯」です。基本的に現在の常設展示のイメージです。但し、映像資料の活用を心掛けたり、現在の展示では、栄一が関わった事業の紹介が中心となっていますが、栄一の各事業への関わり方を具体的に示したり、人間像をもう少し示すための工夫を凝らしたいと考えています。
 2つ目は、「日本の実業の発展・変容」です。栄一が生れた頃を起点とし、栄一等によって日本の近代経済社会が築かれていく過程、栄一の生きた時代背景を示します。これにより、栄一の事績自体がより立体的に把握できるようになります。
 最後は、「一実業家の人的ネットワーク」です。残された書簡、写真、伝記類を用いて、栄一を中心として形成されていた様々な人的ネットワークを紹介し、同時に、その意味を探る機会を提供します。これもまた、栄一の事績を立体的に把握できるものとなります。
 可能な部分で先端技術を導入し、映像資料の多用を試みると同時に、実業史研究情報センターの各種データベース製作プロジェクトでの成果や研究部での研究成果をとりいれながら、資料保存にも十分に配慮した展示製作を期したいと思っています。
 いよいよ次のステップに向けての本格稼動です。

(館長 井上 潤)


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