史料館だより

18 展覧会「日米実業史競」主催館の両館長よりご挨拶申し上げます。

『青淵』No.679 2005年(平成17)10月号

 昨年、米国・セントルイスにて開催し、大成功を収めました展覧会「日米実業史競」を今年、東京にて開催できることを大変嬉しく思います。ご協力いただきました皆様方にこの場をお借りして厚く御礼申し上げます。
 現代の基盤が築かれた19世紀から20世紀初めは、日本および米国における近代化、産業化の時代でもありました。それを担った人々や産業化による生活の変化などに関する日米それぞれの経験を視覚的に比較してみようというのがこの展覧会のねらいです。
 展示で掲げた6つのテーマは、当財団が事業展開のテーマに掲げる「実業史」の内容として展示するもので、今後「実業史学」というべきものを立ち上げる第一歩なのです。また、渋沢史料館は、2008年春に渋沢栄一の事績を紹介するだけの常設展示から栄一が生きた時代背景を「実業史」という内容で示し、内容を一新させることを予定しています。日本の皆様には、今回の展覧会はもとより、今後の私たちの活動にぜひ注目いただきたいと存じます。必ずや皆様の期待に沿えるような成果をあげることが出来るでしょう。ご期待ください。

(渋沢史料館 館長 井上 潤)

 1世紀半以上の歴史あるセントルイス・マーカンタイル・ライブラリー協会の職員、会員、そして友人を代表し記します。当協会がこれまで協力した展覧会の中で最も意義のある「日米実業史競」展をこの度東京にて開催でき、大変うれしく思います。
 昨秋、渋沢史料館と共同でこの展覧会を当ライブラリーにて開催できたことはとても光栄なことでした。この展覧会は、当館の過去と現在の目標を具象化し、図書館がその国の生活史に対してどう支援してきたか、また目に見えない形であっても、世界規模で広く人の気持ちが通い合う経済社会作りにどう参加してきたかを理解するための重要な転機となったといえます。
 今回ここで展示している資料は、そのような瞬間を象徴しており、印刷物や絵画、広告・カタログや商品、チラシや、機械類など、「富の所産」と呼べると思います。これらの資料から、日米両国について、また両国が、貿易や商業において世界の中に飛び出していったかを、文章よりも的確に理解することができるでしょう。
 渋沢史料館の素晴らしい職員とともに今後も今回同様の世界の中で経済成長と発展を記録する歴史プロジェクトに協力できることを楽しみにしています。

(ミズーリ大学セントルイス校 マーカンタイル・ライブラリー館長 ジョン・フーバー)

◇「日米実業史競」を楽しむために◇

~今回展示を担当した日米両国の学芸員がお勧めの一品を紹介します。~

■通過―文化を描写する小さな芸術作品

「ネブラスカ・フォンテネル・ベルビュー銀行1ドル札紙幣」1856年
「ネブラスカ・フォンテネル・ベルビュー銀行
1ドル札紙幣」1856年

 ネブラスカ銀行発行のこの1ドル紙幣には、牛の捕獲、銃に弾を詰める力強い森の住人、そしてこの森の住人を優しく受けとめるであろう勇敢で穏やかな女性が描かれています。通貨には、流通する土地の人々の文化を適切に描いた図柄が選択されています

(マーカンタイル・ライブラリー キュレーター ダン=モートン)

■鉄道・駅・人びと

「東京名所図会 新橋ステンシヨン蒸気の発車」三代歌川広重
「東京名所図会 新橋ステンシヨン蒸気の発車」
三代歌川広重

 この錦絵は明治5年に開業した新橋駅の様子を描いたものです。
 新たな公共の輸送手段としての鉄道、その施設である駅、そしてそれを利用する人びと。鉄道は文明開化の象徴であり、かつ実用的なものとして急速に浸透したのです。
 この錦絵はまさに「実業」を表現しているのではないでしょうか。

(渋沢史料館 学芸員 関根 仁)

■腕に覚えアリ

「諸工職業競 テヘフル椅子製造」細木年一 1897年
「諸工職業競 テヘフル椅子製造」
細木年一 1897年

 半纏(はんてん)に股引(ももひき)姿の職人が手斧(ておの)で木材を削(はつ)る様子が描かれています。手斧は中世の絵巻物に見ることができる大工道具。外来のものに対しても脈々と続いてきた技術を生かすという、近代日本のものづくりの様相を端的に表している作品です。

(渋沢史料館 学芸員 永井 美穂)


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