史料館だより

16 実業史研究情報センターの事業計画

『青淵』No.674 2005年(平成17)5月号

 発足して1年余りが経過した実業史研究情報センターでは、さまざまなプロジェクトがいよいよ本格的に稼動を始めました。センターのデータベース開発プロジェクトは、社史・実業史錦絵・渋沢情報と、大きく3つの領域に分けられます。

A 社史プロジェクト

●社史索引

 企業を中心とした社会経済史の宝庫である社史を、日本近代産業史の研究資源として使えるように索引化してデータベースを作成し、広く公開する事業です。監修を村橋勝子氏(日本経済団体連合会社会本部)に委嘱し、村橋委員長のもとに武田晴人(東京大学経済学部教授)、横山勝行(雄松堂フィルム出版社長)、石坂正男(日通総合研究所研究開発部)の各氏で構成される委員会が、この大きな仕事への夢を共有しつつ、知恵と力を出し合っています。
 今年度は、昨年度から続いている索引方法の検討を受けて、作業マニュアルを確定し、索引化作業を開始しますが、そのための人材も集まりつつあります。また、データベース完成時の利用・提供方法を検討するために、国内外の社史のコレクションの現状や目録等の整備状況について、社史が研究者にどのように利用されているか利用行動などについても調査研究します。
 一方このプロジェクトには、実際の社史の収集が欠かせません。これについては皆様のご協力をお願いしたいと考えています。社史をご寄贈いただける場合は是非お知らせください

●実業史資料ディレクトリー

 企業の活動は社会に大きな影響を与え、公共性をもつ存在でもあることを考えると、企業の歴史を表す史料は、実は企業と社会の記録でもあるといえましょう。出版物である社史の根拠をなす経営文書や営業文書、生産されてきた製品、広報資料など、さまざまな資料群(ビジネス・アーカイブズ)は、日本の社会経済史の貴重な史料になります。これらの資料群の所在を調査し、研究案内を作成する予定です。今年度はディレクトリー作成の前段階として各種の予備調査をおこないます。

B 実業史錦絵プロジェクト

●実業史錦絵収集

 実業史関連の錦絵など視覚的な資料を収集し、研究資源として使えるようにデータベース化する予定です。

●実業史錦絵絵引

 渋沢敬三による『絵巻物による日本常民生活絵引』に倣い、モノが作り出す文化をビジュアルな資料によって研究する手助けとするため、実業史錦絵の絵引を作成します。アドバイザーに山田哲好(国文学研究資料館アーカイブス研究系助教授)、原島陽一(文化女子大学名誉教授)、田島達也(京都市立芸術大学美術学部講師)の3氏を迎えました。今年度は、作業マニュアルとデータシートを確定し、第一期作業対象錦絵を選定して分析作業を開始します。作業には歴史系、民俗系、美術史系の各方面の力をあわせて取り組む計画です。

●明治大日本物産地図Web版

 明治十年刊の錦絵「大日本物産図会」を地理的に視覚化し、また全国の物産の歴史的変遷と合わせて研究材料としてWeb上で提供する予定です。ゆくゆくは明治の産業振興が現在の地場産業につながっていく様子も資料として組み込んでいきたいと考えています。

●錦絵総合目録

 前年度に引き続き、内外の錦絵所蔵機関の協力を得て所蔵情報およびデジタル画像の収集を行います。

C 渋沢関係データベース

●渋沢書誌データベース

 前年度に引き続き渋沢栄一に関して書かれた文献を調査、収集し、情報整理を行います。渋沢栄一に関する文献目録、渋沢栄一の著作目録を作成し、Web上で公開します。

●『渋沢栄一伝記資料』データベース化

 前年度デジタル画像化した伝記資料について、今年度は内容検索手段を構築します。

●渋沢関係資料および旧渋沢コレクションの追跡調査

 渋沢敬三氏収集のものも含め、旧渋沢コレクションおよび関係資料の追跡調査を行い、現状を把握して情報を集約します。渋沢栄一とその周囲を含めた関連の資料すべてを当館で収蔵することはできませんが、少なくとも資料の所在については所蔵していないものを含めた関係情報を把握し、渋沢情報のクリアリングハウス(情報照会所)の機能を果たすことをめざします。

D その他の事業

●実業史研究基盤整備・・所蔵資料情報システムの導入・整備

 前年度に引き続き、所蔵システムへの遡及入力、新規入力、Web版への対応を行います。また、史料館内で簡単に基礎調査ができるよう、参考資料を収集・整備します。

●実業史研究資源の協力ネットワーク

 内外の実業史研究資源所蔵機関・利用機関や利用者とのネットワークを図り、情報交換を通じて研究資源の充実に向けて協力関係を築いて行きます。
 その他、史料館および研究部の行う事業、とくに内外の展覧会その他の実業史関連の事業を支援し、またとりわけ所蔵資料に関しては情報の整備・管理などについて協力して行きます。
 このように盛りだくさんの計画を立てています。今年度には職員が1人増員され3人になりましたが、アドバイザーや業務委託、アルバイトなどさまざまな形で関わっていただいている館内外の大勢の方々のご協力で、活動が進められています。

(実業史研究情報センター長 小出 いずみ)


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