史料館だより

15 2005年度の渋沢史料館事業

『青淵』No.673 2005年(平成17)4月号

 2005年度は、(1)実業史展覧会の展開、(2)コミュニケーション活動の内容をさらに充実、(3)資料の保存対策の本格稼動、(4)資料管理・検索システムの稼動、(5)リニューアルにむけての本格的な検討という重点目標を掲げ、以下に示すような事業を展開させます。

1.展示

(1)実業史展覧会

 昨年のセントルイスでの展覧会を受けて、日本の近代化・産業化をより広く伝え、考える場を提供し、そこに集まる知見をもとにさらなる展開をはかっていきます。
 1つは、昨年、米国・セントルイスにて開催した「日米実業史競」(Different Lands/Shared Experiences:The Emergence of Modern Industrial Society in Japan and the U.S.)を今年は10月1日(土)から11月27日(日)まで渋沢史料館に会場を移し開催します。
 他の1つは、「日本の近代化・産業化とカナダ(仮)」(The Birth of Modern Industrial Society in Japan)と題した展覧会を国際交流基金トロント日本文化センターを会場として6月〜7月に開催します。実業史錦絵を中心としたパネル展示を予定しています。

(2)企画展示

 渋沢栄一の事績及びその周辺を伝える企画展示を開催します。
 1つは、5月に研究部が主催する渋沢国際儒教セミナーが中国・南通市の張騫研究センターにて開催される際に同会場にて「渋沢栄一の91年の生涯」を内容としたパネル展示を予定しています。
 その他にも、渋沢史料館の企画展示室・書画コーナーを会場としてさまざまなミニ企画展示を予定しています。
 例えば、オーラルヒストリーの成果を主軸に据えた展示(4月1日〜5月5日)や新収資料(穂積歌子日記)の展示(5月10日〜7月29日)等5本です。

2.教育普及(コミュニケーション)事業

 最初に渋沢史料館の有力な資源である歴史的建造物ならびに当時の様子を伝える旧渋沢庭園のロケーションを大いに活用します。当時の飛鳥山の渋沢邸「曖依村荘」の存在意義を確認したり、芸術的観点から新たな可能性を確認したりしながら、当史料館が、史料館と来館者、また来館者同士のコミュニーケーションの場となることを期待しています。
 具体的には、恒例となった青淵文庫公開・晩香廬公開〔3月19日(土)〜5月5日(祝)、10月2日(日)〜11月27日(日)〕、ミュージアム・コンサート〔9月末か 10月初(於青淵文庫)〕、ステンドグラス教室〔11月(於青淵文庫)〕の他に子供を対象にした建築見学会なども予定しています。
 次に、小・中学校の利用が増加傾向にある中で、その対応をより積極的に考えます。学校への対応という観点からは、例年行っている博物館実習生の受入れ[7・20(水)〜7・30(土)〔7・25(月)休館〕]をはじめ、総合学習の時間を利用しての学校単位で来館される場合への対応や出張授業などが挙げられますが、今年こそは、貸出キットの作成を実現させたいと思っています。
 その他にインターネット利用ということで昨年スタートさせたE‐ラーニング・古文書講座「渋沢大学」の内容をより充実させたり、昨年、錦絵絵はがき、一筆箋が好評を博したミュージアム・グッズの開発の継続、国際化対応として 英文解説作成、職員向けミュージアムツアーを予定しています。

3.資料整備

 具体的に次のような作業を行うことにしています。虫・黴対策としての 除塵・防黴作業、代替資料の作成を目的とした マイクロ・CD-ROM化〔文書、写真等〕、複製資料の作製〔文書、写真等〕、資料の修復〔文書、書跡、図書、写真、建造物等〕、酸性劣化対策として 中性紙封筒・保存箱の作製〔文書、図書等〕などがあげられます。
 収蔵資料の管理システムがいよいよ導入されますが、資料のデータ化については、実業史研究情報センターとの連携をはかりつつ、資料を情報化させ、出来るだけ早く史料館利用者により多くの情報を提供可能にしていきたいと考えます。 

4.図書等の刊行

 『曖依村荘小史』、『渋沢研究』の刊行に加え、これまで『青淵』誌に掲載されてきた「渋沢史料館だより」を編集し直し、新たに刊行します。

5.資料収集

 例年通り、国内・外における渋沢関係及び実業史関係資料(原資料だけでなく、二次的媒体に変換されたものも含む)・情報(関係資料の所蔵先、関係の出版物、研究発表、聞き取り情報等)の集積を行います。

6.調査・研究

 史料館(学芸)活動の基底部分をなすものであり、不断の綿密な調査・研究の成果の蓄積が今後の博物館活動の深化へとつながるものです。さらに、調査・研究の一環として、資質の向上を含めた意味で各種研究会、学会、研修会へも積極的に参加します。
 2005年度は、渋沢の事績関連でハワイ大学所蔵移民関係資料調査、実業史関連でカナダ、アメリカ南部地域における実業史関係資料調査等を予定しています。
 その他にもオーラルヒストリーの収集、建築ネットワークの構築なども行います。

7.その他

 2008年に予定している常設展示リニューアルにむけて具体的な検討を行うこととしています。
 以上、2005年度も盛りだくさんな事業を予定しておりますが、着実な遂行をめざす上で、スタッフの充実も合わせてはかっていくことをお知らせいたします。

(館長 井上 潤)


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